説明

磁気記録媒体用基板の製造方法、磁気記録媒体用の製造方法、磁気記録媒体用基板の検査方法、及び磁気記録媒体用基板

【課題】磁気記録媒体用基板のテクスチャの形状を適切に管理する。
【解決手段】磁気記録媒体用基板の製造方法であって、基板を準備する準備工程S102と、テクスチャを基板の主表面に形成するテクスチャ形成工程S104と、テクスチャの形状を検査する検査工程S106とを備え、検査工程S106は、断面形状測定段階S202と、断面形状の波形をフーリエ変換することにより、断面形状の波形を波長と強度との関係に変換するフーリエ変換段階S204と、波長と強度との関係に基づき、全範囲の波長の範囲について強度を積分した全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した設定範囲積分値とを算出する積分段階S206と、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が基準値以上の場合に基板を合格とする判定を行う判定段階S208とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用基板の製造方法、磁気記録媒体用の製造方法、磁気記録媒体用基板の検査方法、及び磁気記録媒体用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録媒体用基板の主表面に、テクスチャと呼ばれる無数の微小な溝を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。このテクスチャは、例えば特許文献1、2に記載されているように、研磨液を含む処理液と処理テープで、円盤状の基板の表面を円周方向へ擦ることによって、円周方向に延びるように加工される。これにより、基板の主表面上に磁気記録層を形成する場合に、磁性粒子がテクスチャの溝に沿って結晶成長し、磁化容易軸を円周方向に配向させやすくなる。
【0003】
ここで、磁気記録層の磁性粒子の配向性の指標としては、円周方向と半径方向との磁化の比であるOR(Orientation Ratio)が用いられる。ORは、高ければ高いほど、再生ヘッドで読み出したときに同一の磁気記録層の膜厚で高い出力が得られる。そのため、同一出力を得るために必要な磁気記録層の膜厚を低減できる。また、磁気記録層の膜厚を低減することにより、高分解能、低ノイズ化が図れるため、良好な電磁変換特性が得られ、より高記録密度での記録が可能となる。
【0004】
ORを向上させるためには、基板の主表面に望ましい形状のテクスチャを形成する必要がある。また、そのためには、適切な指標を用いてテクスチャの形状を管理する必要がある。
【0005】
従来、テクスチャの形状を表す指標としては、特許文献1、2に記載されているような、線密度あるいはラインデンシティと呼ばれる指標(以下、LDという)を用いる方法が知られている。LDは、例えば、AFM(原子間力顕微鏡)で基板主表面を測定することによって得られる基板の半径方向一深さ方向の断面図において、1μmあたりに存在するテクスチャの山の数(あるいは谷の数)、又は基準線と交差する回数の半分等として定義される。近年用いられている基板において、LDは、例えば30〜50/μm程度である。また、LDは、高いほど電磁変換特性がよいと考えられている。
【特許文献1】特開2002−251716号公報
【特許文献2】特開2004−103182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、基板の表面の断面図は単純な山と谷で構成されてはおらず、高さ深さや幅が不揃いである。そのため、どの程度の高さ、深さ、又は幅を有する形状を山又は谷と判断するかによって、LDの値が変化してしまう。従って、LDは、定義自体が曖昧さを含んでいるとも言える。また、定義の取り方によってLDの値自体が変化してしまうとすれば、絶対的な指標としては使いにくい。
【0007】
更に、本願発明者は、同じ定義で算出したLDの値が同じ場合であっても、ORの値に差が生じる場合があることを見いだした。そのため、LDを指標に用いてテクスチャの形状を管理しても、ORを適切に向上させることができない場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題を解決できる磁気記録媒体用基板の製造方法、磁気記録媒体用の製造方法、磁気記録媒体用基板の検査方法、及び磁気記録媒体用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、鋭意研究により、LDの値が同じ場合にORの値に差が生じるのは、テクスチャの形状の分布の違いが原因であることを見いだした。例えば、LDの値が同じあっても、磁気記録層の磁性粒子の配向性を制御するのに有効でない山や谷を多く含むテクスチャの場合、ORを向上させる効果が小さくなることを見いだした。そして、これらの知見に基づき、本発明に至った。本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
(構成1)磁気記録媒体用基板の製造方法であって、主表面が研磨された円盤状の基板を準備する準備工程と、基板の円周方向へ延びる複数の尾根状のテクスチャを、基板の主表面に形成するテクスチャ形成工程と、テクスチャの形状を検査する検査工程とを備え、検査工程は、基板の半径方向に沿った基板の断面形状を測定する断面形状測定段階と、断面形状測定段階で測定された断面形状の波形をフーリエ変換することにより、断面形状の波形を波長と強度との関係に変換するフーリエ変換段階と、フーリエ変換段階で得られた波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出する積分段階と、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が基準値以上の場合に基板を合格とする判定を行う判定段階とを有する。
【0011】
このようにした場合、フーリエ変換によって得られた波長と強度との関係において、波長は、例えば、半径方向におけるテクスチャを構成する山や谷の幅を反映する。また、強度は、それぞれの波長に対応する幅の山や谷の数を反映する。そのため、例えば、幅が小さな山や谷が多い場合、小さな波長領域の強度が大きくなる。また、幅が大きな山や谷が多い場合、大きな波長領域の強度が大きくなる。
【0012】
そのため、構成1のようにした場合、設定範囲積分値は、例えば、特定の範囲の幅の山や谷の数を反映した値となる。また、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比は、例えば、テクスチャ全体に対する特定の範囲の幅の山や谷の数の割合を反映した値となる。
【0013】
従って、このようにすれば、例えば、この磁気記録媒体用基板を用いて製造される磁気記録媒体における、磁気記録層の磁性粒子の配向性を制御するのに有効な山や谷の割合を適切に算出できる。また、例えば、この比を指標としてテクスチャの形状を管理することにより、磁気記録媒体のORを適切に向上させることができる。
【0014】
尚、検査工程は、必ずしも全数の磁気記録媒体用基板に対して検査を行う工程でなくてもよい。例えば、検査工程は、一定数の磁気記録媒体用基板毎に一部の磁気記録媒体用基板を検査する抜き取り検査や、品質を保持するために一定期間毎に行う検査の工程であってもよい。
【0015】
断面形状測定段階は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)により断面形状を測定する。この測定は、1μmあたり256点以上のサンプリング点を含む測定精度で行うことが好ましい。測定に必要な必要な解像度は、磁気記録層の磁性粒子の結晶粒径によるが、このような精度で測定すれば、測定に必要なコストを上げることなく、十分な精度で測定を行うことができる。
【0016】
測定された全範囲の波長とは、例えば、測定可能範囲の下限値以上、測定上意味がある上限値以下の範囲である。断面形状測定段階においてAFMを用いて測定を行う場合、測定上意味がある上限値とは、例えば、断面形状測定段階における測定の長さの1/4の波長である。これは、AFMによる測定において、測定の長さの1/4以上の波長成分は、平坦度補正等の要素によって変化し、真の表面形状を反映しないためである。測定された全範囲の波長は、例えば、磁気記録層に含まれる磁性粒子の平均粒径の0.6〜120倍程度であってもよい。このようにした場合も、テクスチャの形状を適切に管理できる。
【0017】
(構成2)積分段階は、予め設定された波長の範囲として、基板上に形成される磁気記録層に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜5倍の波長の範囲を用いる。当該予め設定された波長の範囲は、望ましくは、磁気記録層に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜3倍の波長の範囲である。この磁性粒子は、例えば粒子全体が単結晶になっている磁性結晶粒子である。
【0018】
本願発明者は、上記のフーリエ変換行った場合、磁気記録層に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜5倍、特に1〜3倍の波長に対応する山や谷が、ORを向上させるために特に重要であることを見いだした。そのため、設定範囲積分値を求めるための波長として、このような範囲を用いることにより、磁性粒子の結晶粒径から決まる、ORを向上させるために特に重要な波長範囲の凹凸密度に応じた設定積分値を得ることができる。また、これにより、ORをより適切に向上させることができる。
【0019】
ここで、この範囲より小さな波長に対応する山や谷は、例えば、その上で成長する磁性粒子の数が少な過ぎるため、磁性粒子の配向性の制御に対する寄与が小さくなると考えられる。また、この範囲より大きな波長に対応する山や谷は、例えば、磁性粒子にとって平坦な領域に近くなり、磁性粒子の配向性を制御する機能を発揮しにくくなると考えられる。
【0020】
尚、磁気記録層に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜5倍等とは、必ずしも厳密に平均粒径の1〜5倍等である必要はない。例えば、上記の観点を考慮した上で、平均粒径と考えられる妥当な値の1〜5倍等であればよい。
【0021】
(構成3)判定段階は、全範囲積分値に対する前記設定範囲積分値の比の基準値として、0.2以上の値を用いる。この基準値は、望ましくは3以上である。
【0022】
このようにすれば、テクスチャにおいて、磁気記録層の磁性粒子の配向性を制御するのに有効な山や谷が十分な割合で含まれていることを確認できる。また、これにより、ORを適切に向上させることができる。
【0023】
(構成4)検査工程は、断面形状測定段階で測定された断面形状に基づき、単位長さあたりに含まれるテクスチャの数であるテクスチャ密度を算出するテクスチャ密度算出段階を更に有し、判定段階は、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が当該比の基準値以上であり、かつ、テクスチャ密度算出段階で算出されたテクスチャ密度がテクスチャ密度の基準値以上の場合に、基板を合格とする。
【0024】
このようにすれば、磁気記録層の磁性粒子の配向性を制御するのに有効な山や谷の割合に加え、このような山や谷の絶対数を適切に管理できる。そのため、テクスチャの形状をより適切に管理できる。また、これにより、ORをより適切に向上させることができる。テクスチャ密度の基準値は、例えば30/μm、望ましくは40/μmである。
【0025】
尚、このテクスチャ密度は、基板の半径方向の単位長さあたりに含まれるテクスチャの数であり、例えば、従来のラインデンシティ(LD)と同一又は同様に定義される。例えば、このテクスチャ密度は、断面形状測定段階で測定を行った測定領域における平均高さにある線を基準線として、測定した断面形状の波形が基準点と交差する単位長さあたりの回数の半分として定義される。単位長さは、例えば1μmである。
【0026】
(構成5)磁気記録媒体の製造方法であって、構成1から4のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板を準備する準備工程と、磁気記録媒体用基板上に磁気記録層を形成する記録層形成工程とを備える。
【0027】
このようにすれば、磁気記録層の磁性粒子の配向性を適切に制御できる。また、これにより、磁気記録媒体のORを適切に向上させることができる。
【0028】
(構成6)磁気記録媒体用基板の検査方法であって、円周方向へ延びる複数の尾根状のテクスチャが主表面に形成された円盤状の基板に対し、基板の半径方向に沿った基板の断面形状を測定する断面形状測定段階と、断面形状測定段階で測定された断面形状の波形をフーリエ変換することにより、断面形状の波形を波長と強度との関係に変換するフーリエ変換段階と、フーリエ変換段階で得られた波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出する積分段階と、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が基準値以上の場合に基板を合格とする判定を行う判定段階とを備える。このようにすれば、構成1と同様の効果を得ることができる。
【0029】
(構成7)磁気記録媒体用基板であって、円盤状の形状を有し、基板の円周方向へ延びる複数の尾根状のテクスチャが主表面に形成されており、複数の尾根状のテクスチャは、基板の半径方向に沿って測定した基板の断面形状の波形をフーリエ変換することにより、断面形状の波形を波長と強度との関係に変換して、当該フーリエ変換で得られた波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出した場合に、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が0.2以上になるように形成されている。このように構成すれば、構成1と同様な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、例えば、磁気記録媒体用基板を製造する場合に、主表面に形成されたテクスチャの形状を適切に管理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体10の構成の一例を示す。図1(a)は、磁気記録媒体10の断面図である。図1(b)は、磁気記録媒体10の基板12の一例を示す上面図である。本例において、磁気記録媒体10は、長手記録方式用の磁気ディスクであり、基板12と、磁気記録層14とを備える。長手記録方式とは、基板12の主表面と平行な方向に磁気記録層14中の磁性粒子の磁化容易軸を配向させて信号を記録する方式である。
【0032】
基板12は、中心に円孔102を有する円盤状のガラス基板である。このガラス基板は、例えばアルミノシリケートのアモルファスガラス基板である。基板12の主表面104には、基板12の円周方向へ延びる複数の尾根状のテクスチャ106が形成されている。テクスチャ106は、円孔102を囲む同心円、又は同心円の一部に沿って延びるように形成されている。このような方向に延びるテクスチャ106は、磁気記録層14中の磁性粒子の磁化容易軸の方向を制御して、基板12の円周方向を向きやすくする。そのため、このようなテクスチャ106を適切に形成すれば、磁気記録層14における円周方向と半径方向との磁化の比であるORを向上させることができる。
【0033】
磁気記録層14は、例えばCoCr系合金の磁性層であり、基板12上に形成される。また、磁気記録層14は、例えば平均粒径が6nm程度(例えば5.5〜6.5nm)の磁性粒子を含む。
【0034】
尚、上記では説明を簡単にするために省略したが、磁気記録媒体10は、基板12と磁気記録層14との間や、磁気記録層14上に更に他の層を備えてもよい。例えば、磁気記録媒体10は、基板12と磁気記録層14との間に、磁気記録層14の結晶配向を制御するための下地層等を更に備えてもよい。また、磁気記録層14上に、例えば保護層や潤滑層等を更に備えてもよい。
【0035】
図2は、基板12の製造方法の一例を示すフローチャートである。本例において、この製造方法は、最初に、主表面が研磨された円盤状の基板を準備する(準備工程S102)。準備工程S102は、例えば、中心に円孔が形成されており、かつ主表面及び内外周の端面が所定の表面粗さに研磨された基板を準備する。
【0036】
そして、この基板の主表面に、テクスチャ106を形成する(テクスチャ形成工程S104)。テクスチャ形成工程S104は、例えば、公知の機械的又は化学的な方法等と同一又は同様の方法によりテクスチャ106を形成する。例えば、テクスチャ形成工程S104は、研磨液を含む処理液と処理テープで、基板の表面を円周方向へ擦ることによって、円周方向に延びるテクスチャ106を形成する。この研磨液としては、例えば、酸化セリウム及びダイアモンドスラリーを含む研磨液を用いることができる。
【0037】
尚、テクスチャ形成工程S104で用いられる研磨液や処理テープ等の各種条件は、その後に行われる検査工程の結果をフィードバックすることにより最適化されることが好ましい。このようにすれば、製造される基板12の歩留まりを適切に高めることができる。
【0038】
続いて、テクスチャ106が形成された基板12に対し、テクスチャ106の形状の検査を行う(検査工程S106)。本例において、検査工程S106は、最初に、例えば原子間力顕微鏡(AFM)により、半径方向に沿った基板12の断面形状を測定する(断面形状測定段階S202)。これにより、断面形状測定段階S202は、テクスチャ106が延びる方向と直交する方向における断面形状(断面像)を取得する。
【0039】
尚、AFMを用いた場合、例えばJIS B0601の規定に従って、各走査線毎の粗さ曲線を求めることができる。そのため、AFMを用いれば、基板12の断面形状を適切かつ高い精度で測定できる。この測定は、1μmあたり256点以上のサンプリング点を含む測定精度で行うことが好ましい。このような精度で測定すれば、測定に必要なコストを上げることなく、十分な精度で測定を行うことができる。
【0040】
断面形状の測定は、基板12の主表面104の一部の領域について行う測定であってよい。断面形状測定段階S202は、例えば、基板12の半径方向に延びる500nm程度の測定領域に対して、断面形状の測定を行う。
【0041】
次に、測定された断面形状の波形をフーリエ変換することにより、断面形状の波形を波長と強度との関係に変換する(フーリエ変換段階S204)。フーリエ変換段階S204は、例えば高速フーリエ変換(FFT)により、フーリエ変換を行う。高速フーリエ変換とは、離散フーリエ変換(DFT)を計算機上で高速に計算するアルゴリズムである。
【0042】
次に、得られた波長と強度との関係について、強度を波長で積分する演算を行う(積分段階S206)。本例において、積分段階S206は、測定された全範囲の波長の範囲について強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出する。また、本例において、積分段階S206は、設定範囲積分値を求めるための波長の範囲として、形成されるべき磁気記録層14に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜5倍、望ましくは1〜3倍の波長の範囲を用いる。
【0043】
次に、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比を算出することにより設定範囲積分値を規格化して、この比が基準値以上の場合に基板を合格とする判定を行う(判定段階S208)。この基準値は、例えば0.2以上、望ましくは0.3以上である。このようにすれば、テクスチャ106において、磁気記録層14の磁性粒子の配向性を制御するのに有効な山や谷が十分な割合で含まれていることを確認できる。
【0044】
そのため、本例によれば、この割合を示す上記の比を指標として、テクスチャ106の形状を適切に管理できる。また、これにより、磁気記録媒体10のORを適切に向上させることができる。
【0045】
ここで、検査工程は、基板12の半径方向におけるテクスチャ密度を算出するテクスチャ密度算出段階を更に有してもよい。テクスチャ密度算出段階は、例えば、断面形状測定段階S202で測定された断面形状に基づき、テクスチャ密度を算出する。
【0046】
この場合、判定段階S208は、例えば、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が当該比の基準値以上であり、かつ、算出されたテクスチャ密度がテクスチャ密度の基準値以上の場合に、基板12を合格とする。このようにすれば、磁気記録層14の磁性粒子の配向性を制御するのに有効な山や谷の割合に加え、このような山や谷の絶対数を適切に管理できる。そのため、テクスチャ106の形状をより適切に管理できる。また、これにより、ORをより適切に向上させることができる。テクスチャ密度の基準値は、例えば30/μm以上、望ましくは40/μm以上である。
【0047】
(実施例)
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳しく説明する。アルミノシリケートのアモルファスガラス基板を準備して、公知の方法でテクスチャ106を形成することにより、実施例1〜3、参考例1、2、及び比較例1、2に係る基板を作製した。これら基板は、2.5インチ型磁気ディスク用基板であり、直径は65mm、内径は20mm、ディスク厚は0.635mmである。尚、上記のテクスチャ密度LD、及び全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比(以下、規格化強度という)とORとの関係を確認するため、各実施例、参考例、及び比較例では、テクスチャ形成工程で用いる研磨液や処理テープ等の各種条件を異ならせ、テクスチャのLD及び規格化強度がそれぞれ異なるようにした。
【0048】
図3は、実施例1に係る基板の断面形状及びフーリエ変換の結果を示す。図3(a)は、半径方向に沿った基板の断面形状の測定結果である。この測定は、AFMにより、基板の半径方向に延びる500nm程度の測定領域に対して、256点/1μmの測定精度で行った。また、測定された断面形状に基づき、テクスチャ密度LDを算出した。実施例1において、テクスチャ密度LDは、40/μmであった。
【0049】
図3(b)は、実施例1について、測定された断面形状の波形をフーリエ変換した結果を示す。実施例1において、測定された全範囲の波長範囲202について、下限の波長λ1は、256点/1μmの測定精度におけるサンプリング点間の距離(3.9nm)に合わせて4nmとした。また、上限の波長λ4は、測定領域の長さ500nmの1/4である125nm(125nmは除外)とした。これは、AFMの測定において、測定の長さの1/4以上の波長成分は、測定時の平坦度補正等の要素によって変化し、真の表面形状を反映しないためである。そのため、全範囲積分値の算出は、4nm以上128nm未満の波長範囲202に対して行った。その結果、実施例1において、全範囲積分値Aは、22.95であった。
【0050】
また、設定範囲積分値を算出するための波長範囲204について、下限の波長λ2を6nm、上限の波長λ3を18nmとした。これは、基板上に形成される磁気記録層に含まれる磁性粒子の平均粒径が6nm程度であることを考慮し、波長範囲204として、平均粒径の1〜3倍の波長の範囲を用いるためである。そのため、設定範囲積分値の算出は、6nm以上18nm未満の波長範囲204に対して行った。その結果、実施例1において、設定範囲積分値Bは、8.876であった。そのため、実施例1において、規格化強度B/Aは、0.387(約0.39)となった。
【0051】
また、実施例1と同様にして、実施例2、参考例1、2、及び比較例1、2について、テクスチャ密度LD、及び規格化強度を算出した。図4は、比較例1について、測定された断面形状の波形をフーリエ変換した結果を示す。比較例1において、実施例1と同じ波長範囲202、204を用いて算出した規格化強度B/Aは、0.168(約0.17)であった。
【0052】
(評価)
実施例1、2、参考例1、2、及び比較例1、2に係る基板上にそれぞれ磁気記録層を形成し、公知の方法によりORを測定した。表1は、実施例1、2、参考例1、2、及び比較例1、2におけるテクスチャ密度LD及び規格化強度と、ORとの関係を示す。
【0053】
【表1】


【0054】
テクスチャ密度LDの値が標準的な値(例えば40/μm程度)であれば、実施例1〜3のように、規格化強度を0.3以上とすることにより、特に良好なOR(例えばOR=2.1)を実現できることがわかる。
【0055】
また、例えば参考例1のように、テクスチャ密度LDの値が低めの場合であっても、規格化強度を0.3以上とすれば、良好なOR(例えばOR=2.0)を実現できることがわかる。また、テクスチャ密度LDの値が標準的な値であれば、例えば参考例2のように、規格化強度を0.2以上とすれば、良好なORを実現できることがわかる。
【0056】
一方、規格化強度が不十分である場合、例えば比較例1のようにテクスチャ密度LDの値が標準的な値であっても、ORは2.0未満(例えば1.6〜1.9程度)となり、ORを十分に向上させることはできない。また、例えば比較例2のように、テクスチャ密度LDの値が低めの場合には、ORは更に低くなってしまう。
【0057】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えば磁気記録媒体用基板に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体10の構成の一例を示す図である。 図1(a)は、磁気記録媒体10の断面図である。 図1(b)は、基板12の一例を示す上面図である。
【図2】基板12の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例1に係る基板の断面形状及びフーリエ変換の結果を示す。 図3(a)は、半径方向に沿った基板の断面形状の測定結果である。 図3(b)は、実施例1について、測定された断面形状の波形をフーリエ変換した結果を示す。
【図4】比較例1について、測定された断面形状の波形をフーリエ変換した結果を示す。
【符号の説明】
【0060】
10・・・磁気記録媒体、12・・・基板、14・・・磁気記録層、102・・・円孔、104・・・主表面、106・・・テクスチャ、202・・・波長範囲、204・・・波長範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体用基板の製造方法であって、
主表面が研磨された円盤状の基板を準備する準備工程と、
前記基板の円周方向へ延びる複数の尾根状のテクスチャを、前記基板の主表面に形成するテクスチャ形成工程と、
前記テクスチャの形状を検査する検査工程と
を備え、
前記検査工程は、
前記基板の半径方向に沿った前記基板の断面形状を測定する断面形状測定段階と、
前記断面形状測定段階で測定された前記断面形状の波形をフーリエ変換することにより、前記断面形状の波形を波長と強度との関係に変換するフーリエ変換段階と、
前記フーリエ変換段階で得られた前記波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について前記強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について前記強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出する積分段階と、
前記全範囲積分値に対する前記設定範囲積分値の比が基準値以上の場合に前記基板を合格とする判定を行う判定段階と
を有することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項2】
前記積分段階は、前記予め設定された波長の範囲として、前記基板上に形成される磁気記録層に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜5倍の波長の範囲を用いることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項3】
前記判定段階は、前記全範囲積分値に対する前記設定範囲積分値の比の基準値として、0.2以上の値を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項4】
前記検査工程は、前記断面形状測定段階で測定された前記断面形状に基づき、単位長さあたりに含まれる前記テクスチャの数であるテクスチャ密度を算出するテクスチャ密度算出段階を更に有し、
前記判定段階は、前記全範囲積分値に対する前記設定範囲積分値の比が当該比の基準値以上であり、かつ、前記テクスチャ密度算出段階で算出された前記テクスチャ密度が前記テクスチャ密度の基準値以上の場合に、前記基板を合格とすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項5】
磁気記録媒体の製造方法であって、
請求項1から4のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板を準備する準備工程と、
前記磁気記録媒体用基板上に磁気記録層を形成する記録層形成工程と
を備えることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
磁気記録媒体用基板の検査方法であって、
円周方向へ延びる複数の尾根状のテクスチャが主表面に形成された円盤状の基板に対し、前記基板の半径方向に沿った前記基板の断面形状を測定する断面形状測定段階と、
前記断面形状測定段階で測定された前記断面形状の波形をフーリエ変換することにより、前記断面形状の波形を波長と強度との関係に変換するフーリエ変換段階と、
前記フーリエ変換段階で得られた前記波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について前記強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について前記強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出する積分段階と、
前記全範囲積分値に対する前記設定範囲積分値の比が基準値以上の場合に前記基板を合格とする判定を行う判定段階と
を備えることを特徴とする磁気記録媒体用基板の検査方法。
【請求項7】
磁気記録媒体用基板であって、
円盤状の形状を有し、
前記基板の円周方向へ延びる複数の尾根状のテクスチャが主表面に形成されており、
前記複数の尾根状のテクスチャは、
前記基板の半径方向に沿って測定した前記基板の断面形状の波形をフーリエ変換することにより、前記断面形状の波形を波長と強度との関係に変換して、
当該フーリエ変換で得られた前記波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について前記強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について前記強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出した場合に、
前記全範囲積分値に対する前記設定範囲積分値の比が0.2以上になるように形成されていることを特徴とする磁気記録媒体用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−90916(P2008−90916A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269925(P2006−269925)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(501259732)ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド (124)
【Fターム(参考)】