説明

磁気記録媒体用塗料組成物及びそれを用いてなる磁気記録媒体

【課題】磁気記録媒体の分野において、保存安定性を改善した磁気記録媒体用塗料組成物、および高平滑な磁気記録媒体用塗膜を提供する。
【解決手段】カーボンブラック、結合剤、溶剤および有機色素誘導体もしくは複素芳香族環誘導体を含んでなる磁気記録媒体用塗料組成物において、有機色素誘導体もしくは複素芳香族環誘導体2成分の比率をある範囲で組み合わせる事により保存安定性を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、保存安定性に優れた磁気記録媒体用塗料組成物及びそれを用いてなる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体、特にデータストレージテープ、ビデオテープの高記録容量化、高画質化に伴い、記録波長の短波長化、記録トラック幅の狭トラック化による高密度化が図られている。磁気記録媒体の記録特性向上には、強磁性粉末の磁気特性の改良、表面の平滑化などがあり種々の改良がなされている。また短波長化に伴い磁性層の厚みが厚いと出力が低下する自己減磁損失、厚み損失の問題が大きくなっており、磁性層の薄層化が求められてきている。
【0003】
しかしながら磁性層を薄くすると、支持体の影響を受けやすくなり電磁変換特性の悪化を及ぼす。このため支持体に非磁性下層、磁性層の順に積層するいわゆる重層塗布型磁気記録媒体が使用される事が多くなってきている。これにより支持体の表面状態が磁性層表面に現れにくくなり磁性層薄膜の平滑性を向上させる事ができる。また現在ビデオテープ等の磁気記録媒体の磁気テープ終端検出は光透過率の差を検知する事により行われている。磁気記録媒体の薄層化、磁気記録媒体に分散されている強磁性粉末の微粒子化により磁気記録層の光透過率が大きくなるとテープ終端検出が困難になるため、磁性層または非磁性層にカーボンブラック等を添加して光透過率を小さくする事が行われている。また磁気記録媒体の表面電気抵抗値が高いと帯電により磁気記録媒体製造時や使用時に切断くずや粉塵等が磁気記録媒体表面に付着し、その結果ドロップアウトが増加する。そのため磁気記録媒体の表面電気抵抗値を下げる目的でもカーボンブラックが使用されている。
【0004】
一方、磁気記録媒体にはテープの走行安定性を付与する目的でバック層を設ける事が行われている。バック層においても上述した表面電気抵抗の低下による帯電防止、磁気テープ終端検出のためカーボンブラックが使用されている。
【0005】
上述のように磁気記録媒体においてカーボンブラックが重要な役割を担うが、その機能を発揮するためにはカーボンブラックを微細に分散する必要がある。しかしカーボンブラックは微細なほど分散安定化が難しく、また、カーボンブラックの分散安定化が不十分な場合には例えば、形成された非磁性下層またはバック層の塗膜表面が粗くなり磁性層の平滑性等が低下するため、電磁変換特性等の記録特性の低下等の不具合が生じる。
【0006】
カーボンブラックに限らず、一般的に顔料の分散状態を良好に保つために分散剤が利用されている。特許文献1では顔料を母体骨格として側鎖に塩基性基を置換基として有する顔料分散剤をバック層、磁性層、またはその下塗り層用組成物にカーボンブラックともに含有する事によりカーボンブラックの分散性を改善し、各層で平滑性が向上する事が開示されている。しかし、これらの顔料分散剤を単に使用するだけでは、これら組成物の長期保存安定性が充分でなく、経時で組成物の粘度が上昇し、また組成物を塗布した場合にはバック層、磁性層、またはその下塗り層の平滑性が低下する問題があった。
【特許文献1】特開平1−232524号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高平滑な磁気記録媒体にあって、その磁気記録媒体用塗料組成物の長期での保存安定性の確保である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は少なくともカーボンブラックと、有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)と、結合剤と、溶剤とを含有する磁気記録媒体用塗料組成物であって、有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)が下記一般式(1)で示される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D1)と下記一般式(2)で示される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D2)とを含み、D1:D2の重量比が5:95〜40:60であることを特徴とする磁気記録媒体用塗料組成物に関する。
一般式(1):
【0009】
【化4】

【0010】
一般式(2):
【0011】
【化5】

【0012】
式中の記号は以下の意味を示す。
Q;有機色素残基、またはアントラキノン残基、または置換基を有してもよい複素環、または置換基を有してもよい芳香族化合物
X;直接結合、−CONH−Y−、SONH−Y−、または−CHNHCOCHNH−Y
(Y;置換基を有していてもよいアルキレン基またはアリーレン基)

【化6】

(Y;−NH−、または−O−)
(R、R;それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基またはRとRで少なくとも窒素原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。)
m:1〜6の整数
n:1〜4の整数
さらにカーボンブラック100重量部に対し、有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)を0.1から20重量部含有することを特徴とする磁気記録媒体用塗料組成物に関する。
【0013】
さらに非磁性支持体に対し、互いに反対面に磁性層とバック層とを有する磁気記録媒体であって、該バック層がこれらの磁気記録媒体用塗料組成物を含むことを特徴とする磁気記録媒体に関する。
【0014】
さらに非磁性支持体の一方の面に、非磁性下層と磁性層とが重層された構成を有する磁気記録媒体において、非磁性下層が、これらの磁気記録媒体用塗料組成物であることを特徴とする磁気記録媒体に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、高平滑な磁気記録媒体にあって、長期での保存安定性を有する磁気記録媒体用塗料組成物を提供する事ができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどの各種のものを用いる事ができる。また、通常行われている各種前処理(気相プラズマ処理、液相酸化処理等)されたカーボンブラックや中空(高導電性)カーボンブラックも使用できる。また、本発明に使用するカーボンブラックは、粉状品、粒状品いずれの形態であってもよい。また、酸性、中性、塩基性を問わないが、有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体のカーボンブラックに対する吸着性、脱着性を考えた場合、表面官能基の少ない中性カーボンが好ましい。また、カーボンブラックの粒径としては、通常のインキや塗料に用いるカーボンブラックの粒径範囲と同様に5〜1000nmが好ましく、特に、10〜500nmが好ましい。ただし、ここでいう粒径は、電子顕微鏡などで測定された平均一次粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。
【0017】
また、本発明における磁気記録媒体用塗料組成物をバック層として使用した場合、摩擦係数を調整し平滑性と走行性のバランスをとるため、平均一次粒子径が10〜50nmのカーボンブラックまたは非磁性粉末と平均一次粒子径が50〜500nmのカーボンブラックまたは非磁性粉末を2種以上組み合わせてもよい。カーボンブラック以外の非磁性粉末としては金属酸化物、金属炭酸塩、金属窒化物、金属炭化物等の無機化合物がある。具体例としては例えば酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、窒化珪素、炭化珪素等が挙げられる。これらの非磁性粉末の平均一次粒子径は5nm〜500nmであるが特に好ましいのは10〜350nmであり、単独でも良いが2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、バック層には従来公知の潤滑剤、分散剤や各種添加剤を含有させることができる。形成方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることが可能で、例えば、上記材料を含有するバック層形成用塗料組成物を塗布、乾燥すること等が挙げられ、磁性層や非磁性下層に対する形成の順序に関しても特に制限はない。
【0018】
さらに本発明における磁気記録媒体用塗料組成物を非磁性下層として使用した場合、カーボンブラック以外の非磁性粉末を1種または2種以上含有していてもよい。
【0019】
非磁性粉末の例としてはグラファイト、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、窒化珪素、炭化珪素等が使用できる。これら非磁性粉末の平均粒子径は5〜1000nmであるが、非磁性下層の場合には10〜500nmが好ましく、更に非磁性粒子が球状の場合には平均粒子径80nm以下が好ましく、針状粒子の場合には平均長軸径が300nm以下のものが好ましい。これらの非磁性粉末には必要に応じて無機化合物、有機化合物で表面処理を施してもよい。特にアルミニウムの水酸化物または酸化物、珪素の水酸化物または酸化物から選ばれた1種または2種以上で被覆処理する事が好ましい。
【0020】
本発明に用いられる結合剤については特に限定されるものではないが、磁気記録媒体に用いられる従来公知の樹脂を結合剤として組み合わせて使用できる。例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルビチラール、ビニルアセタール等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、硝化綿等の繊維素系樹脂が挙げられる。
【0021】
本発明における溶剤としては、特に限定されるものではないが、具体例としては磁気記録媒体用塗料に通常使用されているメチルエチルケトン、トルエン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン等を単独あるいは複数組み合わせて使用する事ができる。これらの有機溶剤は必ずしも100%純粋である必要はなく、主成分以外にも異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純物が微量含まれていてもかまわない。
【0022】
下記一般式(1)で表される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D1)と下記一般式(2)で表される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D2)からなる有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)の有機色素残基としては、例えば、フタロシアニン系色素、アゾ系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、アントラピリミジン系色素、アンサンスロン系色素、インダンスロン系色素、フラバンスロン系色素、ペリレン系色素、ペリノン系色素、チオインジコ系色素、イソインドリノン系色素、トリフェニルメタン系色素等の顔料骨格または染料骨格が挙げられる。
【0023】
また複素環または芳香族環としては例えば、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン等が挙げられる。
【0024】
本発明の磁気記録媒体用塗料組成物において、下記一般式(1)で表される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D1)と下記一般式(2)で表される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D2)の重量比は5:95〜40:60が好ましく、更に好ましくは10:90〜25:75である。D1:D2が0:100〜4:96もしくは41:59〜100:0の場合は目的とする磁気記録媒体用塗料組成物の長期保存安定性が確保できない。
【0025】
一般式(1):
【0026】
【化7】

【0027】
一般式(2):
【0028】
【化8】

【0029】
式中の記号は以下の意味を示す。
Q;有機色素残基、またはアントラキノン残基、または置換基を有してもよい複素環、または置換基を有してもよい芳香族化合物
X;直接結合、−CONH−Y−、SONH−Y−、または−CHNHCOCHNH−Y
(Y;置換基を有していてもよいアルキレン基またはアリーレン基)

【0030】
【化9】

(Y;−NH−、または−O−)
(R、R;それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基またはRとRで少なくとも窒素原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。)
m:1〜6の整数
n:1〜4の整数
【0031】
また有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D1)と有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D2)で構成される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)の添加量はカーボンブラック100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、更に好ましくは0.5〜10重量部、最も好ましくは1〜7重量部である。カーボンブラック100重量部に対し有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)が0.1重量部未満、あるいは20重量部を超えると分散性が悪くなる場合がある。
【0032】
本発明においる磁気記録媒体用塗料組成物は必要に応じて分散剤、表面調整剤及び消泡剤などを添加する事ができる。分散剤の例としてはSOLSPERSE3000、SOLSPERSE5000、SOLSPERSE11200、SOLSPERSE12000、SOLSPERSE13240、SOLSPERSE13650、SOLSPERSE13940、SOLSPERSE16000、SOLSPERSE17000、SOLSPERSE18000、SOLSPERSE20000、SOLSPERSE21000、SOLSPERSE24000SC、SOLSPERSE24000GR、SOLSPERSE26000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE28000、SOLSPERSE31845、SOLSPERSE32000、SOLSPERSE32500、SOLSPERSE32550、SOLSPERSE32600、SOLSPERSE33000、SOLSPERSE34750、SOLSPERSE35100、SOLSPERSE35200、SOLSPERSE36000、SOLSPERSE36600、SOLSPERSE37500、SOLSPERSE38500、SOLSPERSE39000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、SOLSPERSE46000、SOLSPERSE53095、SOLSPERSE54000、SOLSPERSE55000、SOLSPERSE56000、SOLSPERSE71000(以上日本ルーブリゾール株式会社製)、Anti−Terra−U/U100、Anti−Terra−204/205、Disperbyk−101、Disperbyk−102、Disperbyk−103、Disperbyk−106、Disperbyk−108、Disperbyk−109、Disperbyk−110/111、Disperbyk−112、Disperbyk−116、Disperbyk−130、Disperbyk−140、Disperbyk−142、Disperbyk−145、Disperbyk−161、Disperbyk−162/163、Disperbyk−164、Disperbyk−166、Disperbyk−167、Disperbyk−168、Disperbyk−170/171、Disperbyk−174、Disperbyk−180、Disperbyk−182、Disperbyk−183/185、Disperbyk−184、Disperbyk−2000、Disperbyk−2001、Disperbyk−2020、Disperbyk−2025、Disperbyk−2050、Disperbyk−2070、Disperbyk−2096、Disperbyk−2150、BYK−P104/P104S、BYK−P105、BYK−9076、BYK−9077、BYK−220Sなどが挙がられる(以上BYK Chemie製)。表面調整剤の例としてはBYK−300、BYK−302、BYK−306、BYK−307、BYK−310、BYK−315、BYK−320、BYK−322、BYK−323、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−340、BYK−344、BYK−370、BYK−375、BYK−377、BYK−350、BYK−352、BYK−354、BYK−355、BYK−358N、BYK−361N、BYK−392などが挙がられる(以上BYK Chemie製)。消泡剤としてはBYK−051、BYK−052、BYK−053、BYK−054、BYK−055、BYK−057、BYK−1752、BYK−1790、BYK−060N、BYK−063、BYK−065、BYK−066N、BYK−067A、BYK−070、BYK−077、BYK−080A、BYK−088、BYK−141、BYK−354、BYK−392などが挙げられる(以上BYK Chemie製)。
【0033】
本発明における磁気記録媒体用塗料組成物の製造方法としては、従来公知の混練り機、分散機を使用した製造工程を用いる事ができる。使用する分散機の例としては、2本ロールミル、3本ロールミル、ニーダー、加圧ニーダー、連続ニーダー、エクストルーダー、連続エクストルーダー、ボールミル、アトライター、サンドミル、コボールミル、アジテーターミル、スーパーミル、ショットミル、ピンミル、ジェットミル、ディスクミル、ホモジナイザー、バスケットミル、ペブルミル、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー、ディゾルバー、超音波分散機などを単独あるいは2種以上組み合わせて用いる事ができる。
【0034】
本発明の磁気記録媒体用塗料組成物は、非磁性下層用塗料組成物となる。また、非磁性支持体の一方の面に、非磁性粉末分散が上記の磁気記録媒体用塗料組成物に分散されてなる厚さ2.5μm以下の非磁性下層と強磁性粉末が結合剤に分散されてなる厚さ0.3μm以下の磁性層とが重層された構成を少なくとも有する磁気記録媒体も本発明の態様である。
【0035】
また、本発明における磁気記録媒体用塗料組成物は、バック層用塗料組成物となる。また、非磁性支持体に対し互いに反対面に磁性層と上記の磁気記録媒体用塗料組成物を用いてなるバック層とを有する磁気記録媒体も本発明の態様である。
【0036】
本発明における磁気記録媒体の磁性層は、強磁性粉末をバインダーに分散させた磁性塗料を塗布、乾燥するか、蒸着やスパッタリングにより金属薄膜を形成する方法により得られる。強磁性粉末としては、金属磁性粉末、酸化鉄、炭化鉄、バリウムフェライトなどの磁性をもつものであれば特に制限はなく、形状も球状、針状、板状等任意に選択して使用できる。これらの強磁性粉末には必要に応じて無機化合物、有機化合物で表面処理してもよい。また磁性層にはカーボンブラックや従来公知の潤滑剤、研磨剤、分散剤等の添加剤を含有させる事ができる。また蒸着またはスパッタリングにより形成される金属薄膜としてはFe、Co、及びNi等の強磁性金属ならびにこれらの合金からなるものがあり、単層であっても多層であってもよい。また蒸着層の上層にスパッタリング,CVD法等による保護膜を形成してもよく、従来公知の潤滑層を形成してもよい。
【0037】
本発明における非磁性支持体は、現在磁気記録媒体に汎用されているポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリカーボネート等の合成樹脂フィルム、アルミニウム、ステンレス等の金属フィルム、各種紙が使用でき、厚みは1.0〜200μm、好ましくは1.0〜20μであり、さらに好ましくは1.0〜5.0μmである。非磁性支持体に非磁性下層および磁性層を積層する方法としては、非磁性下層および磁性層を湿潤状態のうちに同時または非磁性下層を塗布後、非磁性下層が湿潤状態のうちに磁性層を設ける逐次湿潤塗布であるいわゆるウェット・オン・ウェット方式、非磁性下層が乾燥した後に磁性層を設けるウェット・オン・ドライ方式がある。
【0038】
また、媒体形成時に樹脂架橋剤として、ポリイソシアネートを組み合わせてもよい。ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、オルトトルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、またいわゆるブロック剤でブロックされたイソシアネート類またこれらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、またイソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用できる。これらのイソシアネート類は結合剤中の極性基と反応する事によって3次元的に架橋し、塗膜の強度、耐久性を高める効果がある。
【0039】
次に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。各例において、特に指定しない限り「部」とは重量部を、「%」とは重量%をそれぞれ表す。
【0040】
また、実施例においては得られる塗膜の光沢、表面平滑性(平均粗さ)を評価するために、磁性層の形成を行わなかった。なお、比較例についても同様である。
【0041】
[実施例1]
カーボンブラック(平均一次粒子径17nm) 100部
カーボンブラック(平均一次粒子径270nm) 3部
70%湿潤硝化綿(HIG1 SNPE JAPAN株式会社製) 74部
ポリウレタン溶液(バイロンUR8300 東洋紡績株式会社製) 170部
表1の有機色素誘導体D5 5部
メチルエチルケトン 374部
トルエン 374部
シクロヘキサノン 200部
【0042】
上記組成物をジルコニアビーズを充填したアニュラー構造を有するメディア攪拌型分散機を用いて分散し、10μmのフィルターで濾過して磁気記録媒体用塗料組成物を得た後、ポリイソシアネート(コロネートL、日本ポリウレタン株式会社製)を20部加え、デスパーにて攪拌を行った。この混合物を塗布厚1ミル(=25.4μm)ドクターブレードを用いて1mm厚の平滑なガラス板に塗布し、常温で乾燥して得た塗工物を塗膜評価に用いた。
【0043】
【表1】

【0044】
有機色素誘導体(D3)
【0045】
【化10】


有機色素誘導体(D4)
【0046】
【化11】

【0047】
[比較例1、2]
実施例1において表1の有機色素誘導体D5を表1の有機色素誘導体D6、D7に変更し、実施例1と同様の方法で比較例1、2を作成した。
[比較例3]
実施例1において表1の有機色素誘導体D5の添加量5部を0.05部に変更し、実施例1と同様の方法で比較例3を作成した。
[比較例4]
実施例1において表1の有機色素誘導体D5の添加量5部を25部に変更し、実施例1と同様の方法で比較例3を作成した。
【0048】
[実施例2]
カーボンブラック(平均一次粒子径17nm) 100部 ポリウレタン溶液(バイロンUR8300 東洋紡績株式会社製) 150部
表1の有機色素誘導体D5 7部
メチルエチルケトン 190部
トルエン 190部
シクロヘキサノン 120部
【0049】
上記組成物をジルコニアビーズを充填したアニュラー構造を有するメディア攪拌型分散機を用いて分散し、10μmのフィルターで濾過して磁気記録媒体用塗料組成物を得た後、ポリイソシアネート(コロネートL、日本ポリウレタン株式会社製)を20部加え、デスパーにて攪拌を行った。この混合物を塗布厚1ミル(=25.4μm)ドクターブレードを用いて1mm厚の平滑なガラス板に塗布し、常温で乾燥して得た塗工物を塗膜評価に用いた。
【0050】
[比較例5、6]
実施例2において表1の有機色素誘導体D5を表1の有機色素誘導体D6、D7に変更し、実施例1と同様の方法で比較例5、6を作成した。
【0051】
以上の実施例1、2、比較例1〜6で作成した磁気記録媒体用塗料組成物及びその塗工物について下記に示す方法で評価を行った。
【0052】
[塗料粘度]
磁気記録媒体用組成物の粘度を液温25℃に調整した後、BL型粘度計において60rpm1分後の値を測定した。
[中心線平均粗さ]
塗工物の表面を触針式表面粗さ計(触針径1ミクロン)によりJIS−B−0601−1982に基づきカットオフ値0.08で測定し、表面粗さの評価指標である中心線平均粗さRaを求めた。Raは小さいほど平滑であり、分散状態が良好でする事を示す。
[塗膜光沢]
塗工物の表面の60゜における光沢度を、光沢計(日本電色製VG−2000)を用いて測定した。分散が良好な状態であるほど高い光沢度を示す。
【0053】
[塗料安定性]
磁気記録媒体用組成物を40℃で1ケ月保存した後、再び塗料粘度測定、塗工、塗膜評価を行い初期品位と比較した。初期品位との乖離が少ないほど、塗料安定性が良好である事を示す。
【0054】
以上の評価結果を表2にまとめた。表2からも明らかなように、本発明によって、長期保存安定性に優れる磁気記録媒体用塗料組成物を得る事ができた。
【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
高密度記録が要求されるデータストレージテープやデジタル放送用VTRテープ等の磁気記録媒体に限らずカーボンブラックを含有する他の記録メディア、表示材料、機能性材料等あらゆる分野に利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカーボンブラックと、有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)と、結合剤と、溶剤とを含有する磁気記録媒体用塗料組成物であって、有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)が下記一般式(1)で示される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D1)と下記一般式(2)で示される有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D2)とを含み、D1:D2の重量比が5:95〜40:60であることを特徴とする磁気記録媒体用塗料組成物。
一般式(1):
【化1】

一般式(2):
【化2】

式中の記号は以下の意味を示す。
Q;有機色素残基、またはアントラキノン残基、または置換基を有してもよい複素環、または置換基を有してもよい芳香族化合物
X;直接結合、−CONH−Y−、SONH−Y−、または−CHNHCOCHNH−Y
(Y;置換基を有していてもよいアルキレン基またはアリーレン基)

【化3】

(Y;−NH−、または−O−)
(R、R;それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基またはRとRで少なくとも窒素原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。)
m:1〜6の整数
n:1〜4の整数
【請求項2】
カーボンブラック100重量部に対し、有機色素誘導体または複素芳香族環誘導体(D)を0.1から20重量部含有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体用塗料組成物。
【請求項3】
非磁性支持体に対し、互いに反対面に磁性層とバック層とを有する磁気記録媒体であって、該バック層が請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用塗料組成物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
非磁性支持体の一方の面に、非磁性下層と磁性層とが重層された構成を有する磁気記録媒体において、非磁性下層が、請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用塗料組成物であることを特徴とする磁気記録媒体。






【公開番号】特開2009−224009(P2009−224009A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70522(P2008−70522)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】