説明

磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】 高い漏洩磁束密度が得られてスパッタ効率の向上を図ることができる磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、その組織が、少なくともCoとCrとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相1と、少なくともCoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相2との複合組織からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクの高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に垂直磁気記録媒体に適用される磁気記録膜を形成するためのスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置は、一般にコンピューターやデジタル家電等の外部記録装置として用いられており、記録密度の一層の向上が求められている。そのため、近年、高密度の記録を実現できる垂直磁気記録方式が採用されている。この垂直磁気記録方式は、以前の面内記録方式と比べ、原理的に高密度化しても記録磁化が安定すると言われている。
【0003】
この垂直磁気記録方式のハードディスク媒体の記録層に適用する材料の有力な候補として、CoCrPt−SiOグラニュラ磁気記録膜が提案されており、このCoCrPt−SiOグラニュラ磁気記録膜はCrおよびPtを含むCo基焼結合金相と二酸化珪素相との混合相を有するスパッタリングターゲットを用いてマグネトロンスパッタ法により作製することが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
このマグネトロンスパッタリングを行う場合、漏洩磁束密度が低いとスパッタリングが不安定になったりスパッタ効率が低くなるため、従来、漏洩磁束密度を高める方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、熱間押出成形と熱処理とにより低透磁率化する方法が提案されており、特許文献2には、ホットプレス後の冷却速度制御により低透磁率化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−363615号公報
【特許文献2】特開2009−102707号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「富士時報」Vol.75No.3 2002(169〜172ページ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記従来の技術では、漏洩磁束密度の向上効果が十分でないため、特にスパッタ効率の向上、すなわち、ターゲットの厚みを厚くすることによるスパッタ成膜の生産性の向上効果が十分でないという不都合があった。
また、上記従来の技術では、いずれも単体金属の粉末(Co粉,Cr粉,Pt粉)、あるいは合金粉末(CoCr粉、CoPt粉など)と非磁性酸化物の粉末とを所定割合で混合し、混合粉末をホットプレスにより加圧焼結しているが、図5に示すように、前記混合方法では非磁性酸化物3が凝集しやすく、その結果、パーティクルの発生原因になってしまい、製品歩留まりが低下するなどの不都合があった。さらに、全ての原料粉末をまとめて粉砕混合する前記混合方法では、金属相が一様に合金化する結果、ターゲット面内方向に磁束が透過し易くなり、漏洩磁束密度が低くなってしまう問題もあった。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、高い漏洩磁束密度が得られてスパッタ効率の向上を図ることができる磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、CoCrPt−SiOグラニュラ磁気記録膜を成膜する磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットについて研究を進めたところ、予め弱磁性相となる金属原料粉末と硬質強磁性(以下、強磁性と記載する)相となる金属原料粉末とを分けてそれぞれの金属原料粉末に対し、個別に非磁性酸化物を粉砕しながら混合することにより(以下、粉砕混合と呼ぶ)、焼結時に非磁性酸化物を十分に分散させることができると共に、弱磁性相と強磁性相との複合組織を有する漏洩磁束密度が高いターゲットを形成することができることを突き止めた。
【0010】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、その組織が、少なくともCoとCrとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相と、少なくともCoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相との複合組織からなることを特徴とする。
【0011】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットでは、組織が、少なくともCoとCrとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相と、少なくともCoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相とを含み、非磁性酸化物が分散したことで低透磁率の第1相と保磁力が大きく、低透磁率の第2相との複合組織によりターゲット面内方向の透磁率を低減することができ、被スパッタ面上における漏洩磁束を増大させることができる。すなわち、ターゲットの組織が、弱磁性相(非磁性相も含む)と硬質強磁性相との2相に分かれると共に両相とも透磁率が低く、全体として低透磁率化されているので、透過する磁束が増え、高い漏洩磁束密度を得ることが可能になる。併せて、それぞれの相中に非磁性酸化物が分散していることにより、非磁性酸化物の凝集を防止し、その結果、パーティクルの発生を抑えることができる。
【0012】
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、非磁性酸化物中の金属を除いた前記第1相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9であり、非磁性酸化物中の金属を除いた前記第2相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55であることを特徴とする。
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットでは、非磁性酸化物中の金属を除いた第1相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9であり、非磁性酸化物中の金属を除いた第2相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55であるので、スパッタ中のパーティクル発生を抑制できると共に、良好な漏れ磁束密度を維持できる。なお、本発明において、上記「金属成分」にはB(ホウ素)などの半金属は含まない。
【0013】
上記第1相におけるCoのモル比を上記範囲に設定した理由は、上記モル比が0.7未満であると、Cr比率が多くなり、Crと酸化物との反応が原因と思われるターゲット組織中での酸化物の凝集が多くなり、スパッタリングターゲットとしてスパッタ中のパーティクルが起こり易くなる問題が発生するためである。また、上記Coのモル比が0.9を超えると、透磁率の増加によりターゲット表面での漏れ磁束密度が低下するためである。また、上記第2相におけるCoのモル比が0.4未満であると、透磁率が増加し、さらに、上記第2相におけるCoのモル比が0.55を超えると、保磁力が低下し、透磁率の上昇が大きいためである。
なお、上記範囲に設定した場合、第1相・第2相がそれぞれ42〜58質量%となる。
【0014】
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、さらにB:0.5〜8モル%を含有し、前記第1相が、CoCrB合金相であることを特徴とする。
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットでは、第1相が、CoCrB合金相であるので、CoCr合金相への添加物とされたBにより、CoCr合金相中の結晶粒径の微細化の効果があり、また垂直磁気記録媒体とした際に、その記録再生特性においてノイズを低減することができる。
なお、Bの含有量(添加量)を上記範囲に設定した理由は、Bが0.5モル%未満であると、上述した効果の発現が十分でないためであり、8モル%を超えると、垂直磁気記録膜の飽和磁化が低下し、再生出力信号が低下するためである。
【0015】
本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、上記本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法であって、単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとCrとを含む第1相用混合粉末を作製する工程と、単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとPtとを含む第2相用混合粉末を作製する工程と、前記第1相用混合粉末と前記第2相用混合粉末とを、それぞれ仮焼し、解砕し、分級により造粒する工程と、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとCrとを含む第1相用混合粉末を作製する工程と、単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとPtとを含む第2相用混合粉末を作製する工程とを有しているので、非磁性酸化物粉末が微細に分散した第1相と非磁性酸化物粉末が微細に分散した第2相との複合組織を有するターゲットを得ることができる。
なお、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法の一例として、単体金属粉を用いる場合のフローを図1に示す。
【0016】
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、前記造粒後の前記第1相用混合粉末において、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9の合金相中に、非磁性酸化物が分散しており、前記造粒後の前記第2相用混合粉末において、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55である金属相中に、非磁性酸化物が分散していることを特徴とする。
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、造粒後の第1相用混合粉末において、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9の合金相中に、非磁性酸化物が分散しており、造粒後の第2相用混合粉末において、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55である金属相中に、非磁性酸化物が分散しているので、スパッタ中のパーティクル発生が抑制され、良好な漏れ磁束密度を有するターゲットを作製することができる。
【0017】
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、前記仮焼し、解砕し、分級により造粒する工程で、前記第1相用混合粉末および前記第2相用混合粉末の平均粒径を20〜100μmとすることを特徴とする。
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、第1相用混合粉末および第2相用混合粉末の平均粒径が、20〜100μmであるので、ホットプレスによる焼結時に金属原子の拡散により生成するCoCrPt磁性相またはCoCrPtB磁性相の割合を低く保ち、その結果、漏洩磁束密度を高く保つことができる。
なお、第1相用混合粉末および第2相用混合粉末の平均粒径が、20μm未満であると、ホットプレス時に拡散によって生成する強磁性相の割合が大きくなるため漏洩磁束密度が低下し、100μmを超えると、スパッタリング時において、被スパッタ部の表面にて凹凸が激しくなり、異常放電が生じやすくなる。
【0018】
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、前記第1相用混合粉末を作製する工程で、Bの単体金属粉および/またはBを含む合金粉を添加して、前記粉砕混合を行うことを特徴とする。
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、Bの単体金属粉および/またはBを含む合金粉を添加して粉砕混合を行うので、Bが添加されたCoCrB相の第1相を得ることができる。
なお、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法の一例として、単体金属粉を用いる場合のフローを図2に示す。
【0019】
また、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、第1相用混合粉末を仮焼し、解砕後、分級して造粒する工程と、第2相用混合粉末を仮焼し、解砕後、分級して造粒する工程とを有しているので、仮焼により第1相用混合粉末中および第2相用混合粉末中に非磁性酸化物粉末を微細に分散させることができると共に、造粒により各相が形成する領域の粒径を揃えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットによれば、組織が、少なくともCoとCrとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相と、少なくともCoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相との複合組織からなるので、漏洩磁束密度が増大し、安定なスパッタリングが可能になると共にスパッタ効率を高めることができ、生産性を向上させ、厚いターゲットの採用によりターゲット交換頻度も低減することができる。また、それぞれの相中に非磁性酸化物が粗大な凝集を生ずることなく分散していることにより、パーティクルの発生を抑えることができる。
したがって、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングにより磁気記録媒体膜を成膜することで、高い生産性をもってHDD用の高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に垂直磁気記録媒体に適用される良好な磁気記録膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の一実施形態において、製造方法の工程を示すフロー図である。
【図2】Bを添加する本発明に係る一実施形態において、製造方法の工程を示すフロー図である。
【図3】本発明に係る一実施形態において、スパッタリングターゲットの組織を示す拡大写真である。
【図4】本発明に係る一実施形態において、スパッタリングターゲットの組織を示す拡大写真である。
【図5】本発明に係る従来のスパッタリングターゲットの組織を模式的に示した図である。
【図6】本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の実施例において、電子顕微鏡(SEM)による第1相を示す画像である。
【図7】本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の実施例において、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による第1相のSi分布を示す画像である。
【図8】本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の実施例において、電子顕微鏡による第2相を示す画像である。
【図9】本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の実施例において、EPMAによる第2相のSi分布を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の一実施形態を、説明する。
【0023】
本実施形態の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するターゲットであって、図3および図4に示すように、その組織が、少なくともCoとCrとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相1と、少なくともCoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相2とを含んでいる。
【0024】
なお、図3は、CoとCrとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相1と、CoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相2とを含んでいるターゲットの組織写真である。
また、図4は、CoとCrとPtとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相1と、CoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相2とを含んでいるターゲットの組織写真である。なお、これらの組織写真中の微細な黒点が非磁性酸化物である。
【0025】
また、非磁性酸化物中の金属を除いた第1相1に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9であり、非磁性酸化物中の金属を除いた第2相2に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55であることが好ましい。
【0026】
また、第1相1は、非磁性酸化物が相中に微細に分散したCoCr合金相であるが、ターゲット全体としてさらにB:0.5〜8モル%を含有し、第1相1が、CoCrB合金相とされていることが好ましい。
【0027】
上記非磁性酸化物としては、具体的には、SiO、SiO、TiO、Ta、Al、MgO、CaO、Cr、ZrO、B、Sm、HfO、Gdが挙げられ、なかでもSi、Cr、Ti、Taより選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であるのが好ましい。
【0028】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとCrとを含む第1相用混合粉末を作製する工程と、単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとPtとを含む第2相用混合粉末を作製する工程と、第1相用混合粉末と第2相用混合粉末とを、それぞれ仮焼し、解砕し、分級により造粒する工程と、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程とを有している。
【0029】
また、造粒後の第1相用混合粉末は、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9の合金相中に、非磁性酸化物が分散しており、造粒後の第2相用混合粉末は、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55である金属相中に、非磁性酸化物が分散していることが好ましい。
【0030】
例えば、図1に示すように、CoおよびCrの各単体金属粉である第1原料粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合して第1相用混合粉末を作製する工程と、CoおよびPtの各単体金属粉である第2原料粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合して第2相用混合粉末を作製する工程と、第1相用混合粉末を仮焼し、分級によって造粒する工程と、第2相用混合粉末を仮焼し、分級によって造粒する工程と、仮焼し造粒した第1相用混合粉末と第2相用混合粉末とを42〜58%で混合し、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程とを有している。
【0031】
なお、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、図1に限定されず、第1相用混合粉末および/または第2相用混合粉末を、合金粉末のみを原料として作製してもよいし、また、1種または2種の単体金属粉と合金粉とを原料として作製してもよい。
【0032】
また、仮焼し、解砕し、分級により造粒する工程で、第1相用混合粉末および第2相用混合粉末の平均粒径を20〜100μmとすることが好ましい。
さらに、第1相用混合粉末を作製する工程で、第1原料粉にBの単体金属粉、CoとBとの合金粉、CrとBとの合金粉、CoとCrとBとの合金粉の一種以上をさらに混合して、粉砕混合を行うことが好ましい。
【0033】
上記製法について詳述すれば、例えば、まず原料粉末として、Co粉末(第1原料粉)、Cr粉末(第1原料粉)、B粉末(第1原料粉)およびSiO粉末(非磁性酸化物粉末)を、モル%でCo:59.9%、Cr:31.5%、B:1.6%、SiO:7.0%となるように配合し、Ar雰囲気に保持したボールミル、遊星ボールミル、またはアトライタにより20時間混合粉砕する。次に、この混合粉砕した粉末をAr雰囲気中または真空中において500℃、1時間の熱処理を施すことにより、仮焼体(弱く焼結した塊)を作製する。さらに、この仮焼体をメノウ乳鉢にて解砕し、目開き100μmのふるいの上で振動させることにより分級して、直径100μm以下の第1仮焼造粒粉を作製する。
【0034】
これとは別に、原料粉末として、Co粉末(第2原料粉)、Pt粉末(第2原料粉)およびSiO粉末(非磁性酸化物粉末)を、モル%でCo:46.5%、Pt:46.5%、SiO:7.0%となるように配合し、Ar雰囲気に保持したボールミル、遊星ボールミル、またはアトライタにより20時間混合粉砕する。次に、この混合粉砕した粉末をAr雰囲気中または真空中において500℃、1時間の熱処理を施すことにより、仮焼体(弱く焼結した塊)を作製する。さらに、この仮焼体をメノウ乳鉢にて解砕し、目開き100μmのふるいの上で振動させることにより分級して、直径100μm以下の第2仮焼造粒粉を作製する。
【0035】
次に、これら第1仮焼造粒粉の第1相用混合粉末と第2仮焼造粒粉の第2相用混合粉末とを、質量%で第1仮焼造粒粉:44.3%、第2仮焼造粒粉:55.7%(モル%では第1仮焼造粒粉:63.4%、第2仮焼造粒粉:36.6%)となるように配合し、これら仮焼造粒粉が粉砕されないようにロッキングミキサーにより30分間混合することにより、ホットプレス原料粉末を作製する。このホットプレス原料粉末の組成は、モル%で、Co:55.0%、Cr:20.0%、Pt:17.0%、B:1.0%、SiO:7.0%となる。このホットプレス原料粉末を、真空ホットプレスの黒鉛型に充填し、真空雰囲気中で温度950℃、圧力35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより、本実施例の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットが作製される。
【0036】
なお、原料粉末としては、Co粉末、Pt粉末の代わりに、Co粉末、Pt粉末の全部または一部をCoPt合金粉末として加え、第2原料粉末とすることができる。また、Co粉末、Cr粉末、B粉末の代わりに、Co粉末、Cr粉末、B粉末の全部または一部をCoCrB合金粉末、CoCr合金粉末、CrB合金粉末および/またはCoB合金粉末として加え、第1原料粉末とすることができる。
【0037】
このように本実施形態の組織が、非磁性酸化物が第1相中に分散し少なくともCoとCrとを含む第1相1と、非磁性酸化物が第2相中に分散したCoPt相である第2相2とを含み、非磁性酸化物が分散したことで低透磁率の第1相1と保磁力が大きく、低透磁率の第2相2との複合組織によりターゲット面内方向の透磁率を低減することができ、被スパッタ面上における漏洩磁束を増大させることができる。併せて、それぞれの相中に非磁性酸化物が分散していることにより、非磁性酸化物の凝集を防止し、その結果、パーティクルの発生を抑えることができる。
【0038】
また、第1相1が、CoCrB合金相であるので、CoCr合金相への添加物とされたBにより、CoCr合金相中の結晶粒径の微細化の効果があり、垂直磁気記録媒体とした際に、その記録再生特性においてノイズを低減することができる。
さらに、第1相用混合粉末および第2相用混合粉末の平均粒径が、20〜100μmであるので、ホットプレス時に金属原子の拡散により生成するCoCrPt合金相またはCoCrPtB合金相の割合を低く保ち、かつスパッタリングにより製造される磁気記録膜の均一性を高く保つことができる。
【0039】
(他の製法例)
あるいは他の製法の例としては、まず原料粉末として、Co、CrおよびBを、モル%でCo:64.4%、Cr:33.9%、B:1.7%含むCo−Cr−B合金粉末(第1原料粉)とSiO粉末(非磁性酸化物粉末)とを準備し、このCo−Cr−B合金粉末とSiO粉末とを、質量%でCo−Cr−B合金粉末:92.5%、SiO粉末SiO:7.5%(モル%ではCo−Cr−B合金粉末:93.0%、SiO粉末SiO:7.0%)となるように配合し、Ar雰囲気に保持したボールミル、遊星ボールミル、またはアトライタにより20時間混合粉砕する。次に、この混合粉砕した粉末をAr雰囲気中または真空中において800℃、1時間の熱処理を施すことにより、仮焼体(弱く焼結した塊)を作製する。さらにこの仮焼体をメノウ乳鉢にて解砕後、目開き100μmのふるいの上で振動させることにより分級し、直径100μm以下の第1仮焼造粒粉として第1相用混合粉末を作製する。
【0040】
これとは別に、原料粉末として、CoおよびPtを、モル%でCo:50.0%、Pt:50.0%含むCo−Pt粉末(第2原料粉)とSiO粉末(非磁性酸化物粉末)とを準備し、このCo−Pt粉末(第2原料粉)とSiO粉末(非磁性酸化物粉末)とを、質量%でCo−Pt粉末:96.6%、SiO粉末:3.4%(モル%ではCo−Pt粉末:93.0%、SiO粉末:7.0%)となるように配合し、Ar雰囲気に保持したボールミル、遊星ボールミル、またはアトライタにより20時間混合粉砕する。次に、この混合粉砕した粉末をAr雰囲気中または真空中において800℃、1時間の熱処理を施すことにより、仮焼体(弱く焼結した塊)を作製する。さらにこの仮焼体をメノウ乳鉢にて解砕後、目開き100μmのふるいの上で振動させることにより分級し、直径100μm以下の第2仮焼造粒粉として第2相用混合粉末を作製する。
【0041】
次に、これら第1仮焼造粒粉の第1相用混合粉末と第2仮焼造粒粉の第2相用混合粉末とを、質量%で第1仮焼造粒粉:44.3%、第2仮焼造粒粉:55.7%(モル%では第1仮焼造粒粉:63.4%、第2仮焼造粒粉:36.6%)となるように配合し、これら仮焼造粒粉が粉砕されないようにロッキングミキサーにより30分間混合することにより、ホットプレス原料粉末を作製する。このホットプレス原料粉末の組成は、モル%で、Co:55.0%、Cr:20.0%、Pt:17.0%、B:1.0%、SiO:7.0%となる。このホットプレス原料粉末を、真空ホットプレスの黒鉛型に充填し、真空雰囲気中で温度950℃、圧力35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより、本実施例の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットが作製される。
【実施例】
【0042】
上記実施形態に基づいて実際に作製した磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの実施例について、評価を行った結果を説明する。
<実施例1>
本発明の実施例1として、まず原料粉末としてモル%でCo粉末:77.7%、Cr粉末:13.7%、SiO粉末:8.6%になるように配合し、Ar雰囲気中にてアトライタで回転数350rpmにより10時間混合粉砕を行った。
次に、この混合粉砕した粉末を1000℃で1時間、真空中の仮焼を行った後、メノウ乳鉢にて解砕し、目開き100μmの篩で分級した第1粉末を作製した。
【0043】
これとは別に、原料粉末としてモル%でCo粉末:45%、Pt粉末:45%、SiO粉末:10%になるように配合し、Ar雰囲気中にてボールミルで回転数100rpmにより20時間混合粉砕を行った。次に、この混合粉砕した粉末を1000℃で1時間、真空中の仮焼を行った後、メノウ乳鉢にて解砕し、目開き100μmの篩で分級した第2粉末を作製した。
【0044】
次に、これら第1粉末と第2粉末とをそれぞれ重量%で51%と49%に配合し、粉末が粉砕されないようにロッキングミキサ−で30分間混合し、ホットプレス原料を作製した。
この原料粉末を真空ホットプレスの黒鉛型に充填し、真空雰囲気で温度1100℃、圧力35MPa、3時間の条件にて、実施例1の磁気記録媒体成膜用スパッタリングタ−ゲットを作製した。
【0045】
<実施例2〜7>
まず、原料粉末として表1に示す第1粉末になるように配合し、Ar雰囲気中にてアトライタで回転数350rpmにより10時間混合粉砕を行った。なお、表1において括弧内は、非磁性酸化物中の金属を除いた相中に含有される金属成分の合計に対するモル比を示している。
次に、この混合粉砕した粉末を950〜1100℃で1時間、真空中の仮焼を行った後メノウ乳鉢にて解砕し目開き100μmの篩で分級した第1粉末を作製した。
これとは別に、原料粉末として表1に示すモル%で第2粉末になるように配合し、Ar雰囲気中にてボールミルで回転数100rpmにより20時間混合粉砕を行った。次に、この混合粉砕した粉末を950〜1100℃で1時間、真空中の仮焼を行った後、メノウ乳鉢にて解砕し、目開き100μmの篩で分級した第2粉末を作製した。
【0046】
次に、これら第1粉末と第2粉末とをそれぞれ混合し、粉末が粉砕されないようにロッキングミキサ−で30分間混合し、ホットプレス原料を作製した。
この原料粉末を真空ホットプレスの黒鉛型に充填し、真空雰囲気で温度1100℃、圧力35MPa、3時間の条件にて、実施例2〜7の磁気記録媒体成膜用スパッタリングタ−ゲットを作製した。
【0047】
<実施例8〜11>
実施例8〜11として、まず原料粉末として表1に示す第1粉末になるように配合し、Ar雰囲気中にてアトライタで回転数350rpmにより10時間混合粉砕を行った。
次に、この混合粉砕した粉末を950〜1100℃で1時間、真空中の仮焼を行った後、メノウ乳鉢にて解砕し、目開き100μmの篩で分級した第1粉末を作製した。
これとは別に、原料粉末として表1に示すモル%で第2粉末になるように配合し、Ar雰囲気中にてボールミルで回転数100rpmにより20時間混合粉砕を行った。次に、この混合粉砕した粉末を950〜1100℃で1時間、真空中の仮焼を行った後、メノウ乳鉢にて解砕し、目開き100μmの篩で分級した第2粉末を作製した。
【0048】
次に、これら第1粉末と第2粉末とをそれぞれ配合し、粉末が粉砕されないようにロッキングミキサ−で30分間混合し、ホットプレス原料を作製した。
この原料粉末を真空ホットプレスの黒鉛型に充填し、真空雰囲気で温度1100℃、圧力35MPa、3時間の条件にて、実施例8〜11の磁気記録媒体成膜用スパッタリングタ−ゲットを作製した。
【0049】
<従来例1>
従来例1として、まず実施例1の第1粉末と第2粉末とをそれぞれ重量%で51%と49%とに配合した組成と同じモル%で、Co粉末:61.7%、Cr粉末:7%、Pt粉末:22%、SiO粉末:9.3%になるように配合し、Ar雰囲気中にてボールミルで回転数100rpmにより20時間混合粉砕を行い、混合粉末を作製した。
この原料粉末を真空ホットプレスの黒鉛型に充填し、真空雰囲気で温度1100℃、圧力35MPa、3時間の条件にて、従来例1の磁気記録媒体成膜用スパッタリングタ−ゲットを作製した。
【0050】
【表1】

【0051】
上記実施例および従来例の各ターゲットについて、ASTM F2086−1の規格に基づきPTF測定を行った。
この測定では、作製した各タ−ゲットの一方の面側に測定専用冶具にてDexer製アルニコ磁石5K215をセットし、ターゲットの反対面でガウスメ−タで計測した最大磁束平均値をタ−ゲットを介さない場合の前記アルニコ磁石の磁束値で割ることにより算出した。この測定結果を表1に示す。
【0052】
この結果から判るように、従来例では、PTFが40%と低いのに対し、本発明の実施例では、いずれもPTFが58%以上であり、特にBが第1相に添加された実施例4,5ではPTFが62%以上となり、高い漏洩磁束密度が得られている。
また、上記実施例8〜11は、非磁性酸化物中の金属を除いた第1相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9の範囲外、または非磁性酸化物中の金属を除いた第2相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55の範囲外である。このため、実施例8〜11は、上記範囲内の実施例1〜7よりもPTFが低下するが、従来例に比べてPTFは良好である。
【0053】
また、本発明の実施例1について、電子顕微鏡による第1相の画像とEPMAによる第1相のSi分布を示す画像とを、図6および図7に示す。また、電子顕微鏡による第2相の画像とEPMAによる第2相のSi分布を示す画像とを、図8および図9に示す。なお、Si分布は、SiOの分布に相当するものである。また、EPMAの測定は、日本電子製JXA−8530Fを用いて行った。
これらの画像から判るように、本実施例では、CoCr酸化物部である第1相およびPtCo酸化物部である第2相のいずれも、非磁性酸化物であるSi(SiO)が相中に均一に分散している。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…第1相、2…第2相、3…非磁性酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、
その組織が、少なくともCoとCrとを含む合金相中に非磁性酸化物が分散した第1相と、
少なくともCoとPtとを含む強磁性合金相中に非磁性酸化物が分散した第2相との複合組織からなることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
非磁性酸化物中の金属を除いた前記第1相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9であり、
非磁性酸化物中の金属を除いた前記第2相に含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55であることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
さらにB:0.5〜8モル%を含有し、
前記第1相が、CoCrB合金相であることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとCrとを含む第1相用混合粉末を作製する工程と、
単体金属粉および/または合金粉と、非磁性酸化物粉末とを予め粉砕混合してCoとPtとを含む第2相用混合粉末を作製する工程と、
前記第1相用混合粉末と前記第2相用混合粉末とを、それぞれ仮焼し、解砕し、分級により造粒する工程と、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程とを有していることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記造粒後の前記第1相用混合粉末は、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.7〜0.9の合金相中に、非磁性酸化物が分散しており、
前記造粒後の前記第2相用混合粉末は、含有される金属成分の合計に対するCoのモル比が0.4〜0.55である金属相中に、非磁性酸化物が分散していることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングタ−ゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記仮焼し、解砕し、分級により造粒する工程で、前記第1相用混合粉末および前記第2相用混合粉末の平均粒径を20〜100μmとすることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングタ−ゲットの製造方法。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記第1相用混合粉末を作製する工程で、Bの単体金属粉および/またはBを含む合金粉を添加して、前記粉砕混合を行うことを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−174174(P2011−174174A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13510(P2011−13510)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】