説明

磁気試料検査装置

【課題】磁気試料表面に形成されている磁区形状を、従来にない高分解能かつ高速に観察可能な検査技術を提供する。
【解決手段】スピン偏極電子源と、前記スピン偏極電子源から出射されるスピン偏極電子線を磁区構造を有する磁気試料に照射する照射光学系と、前記磁気試料を載置するステージと、前記磁気試料から反射した電子線を結像し検出する結像光学系とを備えたSPLEEM観察部200と、前記磁気試料表面を清浄化し、前記SPLEEM観察部へ搬送する清浄化手段208、216と、前記結像光学系から得られる画像データを解析する画像処理部とを有し、前記画像データをもとに前記磁気試料面の磁区形状を検査することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その表面に磁性体を有する磁気ディスク等の磁気試料の検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置は、パーソナルコンピュータやビデオデッキ等に組み込まれ、その媒体である磁気ディスクや光ディスクの生産量も増加の傾向にある。また、次世代の半導体デバイスとしてMRAM(Magnetic Random Access Memory)の開発も盛んに行われている。
【0003】
磁気ディスクやMRAM等のような磁気デバイスの高密度化や集積化が進むと、磁気デバイス内での磁区サイズが微小化してゆき、その形状の制御が重要になってくる。例えば、ハードディスクにおいては2005年においてビット長30nmレベルのものが製品化されているが、今後さらにビット長が短くなると10nm以下のレベルでビット形状を制御しないと充分なS/Nが得られなくなる。つまり今までになく微小な範囲での磁区の変形でも記録再生に支障をきたす場合が考えられる。その観点から、今まで以上に高分解能な磁気デバイス上の磁区形状検査技術が必要とされている。
【0004】
従来の記録再生不具合を生じた磁気ディスクの磁区形状検査としては、Kerr顕微鏡やMFM(Magnetic Force Microscopy)が用いられていた。しかし、Kerr顕微鏡は可視光を用いた手段であるためにその分解能が1μmレベルに留まっており現状の磁気デバイス評価には不充分である。MFMも市販のものは分解能が40nm程度であり充分とはいえない。また1枚の画像取得に10分程度かかり、不良個所の特定並びに解析に時間がかかってしまい、今後のデバイスの検査装置としては不充分である。
【0005】
一方、高分解能で高速な磁区観察法としてSPLEEM(Spin Polarized Low Energy Electron Microscopy)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この方式はスピン偏極した電子ビームを低速(数eV)で試料に照射し、弾性散乱する電子を収集して画像を得るもので10nmレベルの分解能が達成されている。また比較的径の大きい(数μm〜数十μm)電子線を一括照射して画像を得ているので、その画像取得時間は走査型の顕微鏡より格段に短い。約1秒程度とかなり高速であることが知られている。
【0006】
【非特許文献1】ジャーナル オブ フィジックス ディー、アプライド フィジックス 第35巻、第2327頁〜第2331頁(2002)(Journal of Physics D: Applied Physics 35、p2327-2331(2002))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したSPLEEMを磁気デバイスの評価に適用した例は無い。それはSPLEEMの信号は試料である磁性体の表面が原子レベルで清浄であり、かつ結晶性がよくないと充分な信号が得られないという原理的な問題のためである。そのため、これまでSPLEEMは真空チャンバ内で作製された試料の観察など、基礎的な研究にのみ使用されている。表面に保護膜を有する試料や、一度大気中に出して酸化層を形成した試料などは観察されておらず、磁気デバイスの評価は困難と思われている。
【0008】
本発明の目的は、磁気試料表面に形成されている磁区形状を、従来にない高分解能かつ高速に観察可能な検査技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、磁気試料(磁気ディスク、MRAM、等)の表面を清浄化する清浄化手段と、磁気試料面に形成された磁区を観察するSPLEEM方式の磁区観察部と、得られた画像データを解析する画像処理部とから成る。
【0010】
磁気試料表面の清浄化手段は、更に2つに分かれる。一つは、酸素プラズマアッシングによる表面保護膜等の剥離を目的とする部分、もう一つは、表面の酸化層等の汚れによる層を剥離するイオンミリングを行う部分である。これら2つの部分は個別の真空チャンバに搭載され、ゲートバルブによって通常は仕切られているが、バルブを開くことにより大気中を介さずに試料の受け渡しができるようにする。酸素プラズマアッシング部分が搭載されている真空チャンバには試料導入用の低真空のチャンバを備えている。
【0011】
この試料導入用のチャンバから試料を挿入し、まず酸素プラズマアッシングを施す真空チャンバにセットする。例えばハードディスクの場合、ディスクの最表面層はカーボン保護膜であったり、潤滑膜などの有機物であったりする。これらの膜は適当な条件の酸素プラズマアッシングを施すことによって除去できる。
【0012】
その後、試料はイオンミリングを行う真空チャンバへ搬送される。ここではアルゴンなどのイオンによるミリングを行い、試料表面酸化層などを除去する。この際、イオンの加速度が大きすぎると、アルゴンイオンが試料内部に侵入し、試料の結晶状態を変化させる恐れがあるので、200〜500V程度の低加速度で行う必要がある。充分に試料表面がクリーニングされていることは、最終的にSPLEEM観察により確認してもいいが、この真空チャンバにオージェ分析装置をとりつけ、試料最表面層の原子を調べることにより確認してもよい。
【0013】
その後、試料はSPLEEM観察を行う真空チャンバへ送られる。SPLEEM測定では、前述のように表面が清浄であり結晶性のよい試料でないと充分なS/Nが得られない。磁気試料として、例えばハードディスクの記録層は、例えば現在市販されているものは多結晶構造をとっているが、磁気異方性を確保するため、各結晶粒の結晶軸は一方向に揃えられており、全体としてある程度の結晶性は保たれている。また、前述の酸素プラズマアッシングやイオンミリングなどを行うことにより表面の清浄化が可能である。
【0014】
この状態でハードディスクを回転ステージに取り付け、試料を回転しながら、また半径方向にも移動させながら順次SPLEEM観察を行い、ハードディスク上の記録パターンを検査していく。回転運動は、検出器が例えばCCD(Charge Coupled Device)のような静的観察に適するものである場合は、静止と運動を小刻みに繰り返す方式が望ましい。逆にTDI(time delay and integration)方式のような動的観察にも対応できる場合は、回転を止めずに動かす方が望ましい。1周回転する毎に半径方向に視野分だけずらす多重円を描くような動かし方の方式と、回転運動と同時に半径方向にも少しずつずらしていく渦巻きを描くような動かし方の方式が考えられるがどちらでもよい。
【0015】
以上の各真空チャンバの構成は、本発明で提案するものの一例である。別の例としては、イオンミリングを行う真空チャンバを省略し、SPLEEM観察をする真空チャンバにイオン銃を取り付けるものがある。回転ステージに取り付けた試料を回転させながら、イオン銃の光軸を調整し、試料表面上のSPLEEM観察をする直前の個所をイオンミリングするようにする。この方式であると、ハードディスクを半径方向には固定して早く回転させながら、短い時間でイオンミリングとSPLEEM観察を何周かにわたって行い、何周目でSPLEEM像に充分なコントラストが付くかを観察することにより、最適なイオンミリングの量をSPLEEM観察しながら確認できる。一度その量を確認すれば、その後は回転速度を落として適量のミリングしながら、回転と半径方向の移動をすることでハードディスクメディア全面の検査ができる。この方式では、真空チャンバの数を減らすだけでなくミリング条件確認の手間が省ける。
【0016】
次に、画像処理系に関して述べる。SPLEEMでは、入射させている電子のスピン偏極度の向きと入射電子が照射される箇所の磁化ベクトルの向きの関係で反射率が変化することを利用している。つまり、反射した電子の数を信号とする。2次元的に電子数をマッピングする方法として、前述のように、CCDやTDIのような検出系が考えられるが、それはハードディスクを搭載する回転ステージの動作方式に関係してくる。得られたデータは画像として観察できる一方、数値データとしても処理ができるようにする。そして、回転ステージの円周方向や半径方向にフーリエ変換できる機能を有する。これにより、記録ビット長が所定の長さかどうか、またトラック幅が所定の幅かどうかを判定することができ、それらが所定の値からずれている場合はエラー個所として登録しておく。このような解析手法によって、ディスク全体の磁化状態を高速でかつ正確に検査することができる。
【0017】
しかし、この際、充分なS/Nが得られないと、上記のような数値解析は困難である。このため、これらの解析が充分に可能なだけのS/Nが確保できる検査時間が必要となるので、スループットの一つの限界はこのS/Nできまることになる。上記の数値解析によって特定された不良個所は、回転座標系(r、θ)によって記録し、その後の透過型電子顕微鏡(TEM)やX線分析装置(EDX)などの分析手法に引き継げるようにしておく。
【0018】
以上のように、本発明によって得られたSPLEEMシステムを用いることにより、磁気ディスク上に記録されたデータやサーボ信号の検査を高速かつ高分解能で実施することができる。
【0019】
しかし、本発明の適用範囲は、磁気ディスクに留まらない。回転ステージの代わりに縦横方向に動作するXYステージを用いて、ウエハー上に作りこまれたMRAMの検査をする等、磁気デバイス一般にその用途を拡張することができる。この場合も得られたデータに対して、X方向或はY方向にフーリエ変換を行い、不良個所を解析することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、様々な磁気試料の磁化状態を高速・高分解能で検査できる検査技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
【0022】
(実施例1)
図1に、本発明で用いるSPLEEMの概略構造を示す。本例では、磁気試料として磁気ディスクを例にとって説明する。
【0023】
SPLEEM測定は、表面清浄な試料でなければ充分な信号が取れないため、試料表面が汚染されないようにSPLEEM観察チャンバ100は超高真空状態を保つようにしており、例えばイオンポンプ101で排気している。真空度は1×10-9乗Torr程度必要である。スピン偏極電子源102は、例えばGaAs等、適当なバンドギャップを持つ半導体に円偏向した光を照射することによって生成するような方式が考えられる(参照文献:物性研短期研究会「スピン偏極電子によって展開する物性物理学」1993年9月 物性研「物性研だより」第33巻 第3号 13-15頁)。スピン偏極電子源102より放出されたスピン偏極電子線103は、電子光学系104を通過して試料105へと照射される。この電子光学系104は、静電的あるいは磁気的にスピン偏極電子線103を収束させながら試料へと搬送するが、電場や磁場を供給する電源である電子光学系制御装置106と、高圧ケーブル107によって結ばれている。この電子光学系104は、電場や磁場によりスピン偏極電子線103の軌道だけではなくスピン偏極ベクトルの向きも制御出来るようにする。また、この電子光学系104はスピン偏極電子線103を数十kVに加速することもできるが、試料105に照射される直前ではおよそ10V以下まで減速するものとする。これは、SPLEEMの原理より、表面の磁化状態を反映した反射率を確保するには、入射するスピン偏極電子線103は試料105の奥深くまで進入してはいけないからである。
【0024】
試料105は、回転ステージ108にセットされており、検査を進めるに従い回転運動と半径方向の直線運動を行い、全ての領域にスピン偏極電子線103が照射されて検査ができるようにする。試料表面で反射されたスピン偏極電子線103は、再び電子光学系104により搬送され、スクリーン109に結像する。スクリーン109は、例えばCCD方式などが考えられる。また常に動いている試料からのデータをS/Nを上げる為に積分する方式としてTDI方式などが有効と思われる。
【0025】
結像系から得られたデータは、信号搬送ケーブル110を通って画像処理システム111に搬送される。この画像処理システム111では、送られてきたデータを例えば回転座標系に配列し数値解析することにより、磁化に基づくコントラストが得られているか否かの判断や、フーリエ変換等により記録ビット形状の検査などを行うと共に、不良個所が見つかればその個所にマーカーをつけて保存しておく。これらの座標管理をする上で、画像処理システム111は回転ステージ108と伝達ケーブル112を通じて情報のやり取りをする必要がある。このようなSPLEEM測定をする部分は、本発明のシステムでも中心的な部分である。
【0026】
図2に、本発明で得られるSPLEEMシステムの一実施例を示す。本図では、図1で示したSPLEEM測定をする部分全体をSPLEEM観察チャンバ200として簡略表示している。装置全体は4つの真空チャンバを中心に構成される。試料201は、まずロードロック202に扉203を介して挿入し、ロードロックステージ204にセットされる。試料を挿入した後、ロードロック202は、例えばロータリーポンプ205やターボ分子ポンプ206で高速に排気されるが、真空度は1×10-7乗Torr程度でよい。
【0027】
真空が充分ひけた後、ゲートバルブ207を開けて試料を酸素アッシングチャンバ208に搬送し、アッシングステージ209に固定する。酸素アッシングとは、酸素雰囲気中で電極210にRF電源211を繋ぎ、酸素をプラズマ化させて、試料212の表面上の有機物を化学的に取り除く手法である。この過程で例えば磁気ディスクにおける保護膜などを取り除くことができる。従って、チャンバにはアッシング中に酸素ガスを導入する必要があり酸素ボンベ213も必要である。このようなRF電源の出力や酸素ガスの圧力など、アッシング過程全体の制御をアッシング制御装置214で行う。真空度は、例えば1×10-7乗Torr程度でよく、酸素を導入してアッシングをする際は更に悪くなる。本図ではロードロック202と排気ポンプは共通にしているが分けてもよい。
【0028】
酸素アッシング終了後、酸素ガス導入を止めて再び真空を良くし、ゲートバルブ215を開けて、試料212をミリングチャンバ216に搬送し、ミリングステージ217に固定する。このチャンバでは、イオン銃218より照射される加速されたアルゴンイオンによって、試料219の表面を物理的に削ることによりクリーニングする。クリーニングの条件として、高い電圧でイオンを加速すると、イオンが磁性膜中に入り込むなど、結晶性が破壊される恐れがあるので低加速で行う必要がある。しかし低すぎてもミリングに時間がかかってしまうので、例えば200〜500V程度が考えられる。ディスク1枚をミリングする必要があるので、ミリングステージ217は回転・並進運動が可能なものとする。
【0029】
ミリングがどの程度で完了したかを判断する方法として、オージェ分析装置220で最表面元素の種類をモニターする方法がある。このオージェ分析法により、ミリング開始からの酸素ピーク或はコバルト等磁性元素のピークをモニターしておき、酸素ピークの減少量あるいは磁性元素ピークの増加量が所定の値に達した場合に、その信号を伝達ケーブル221を通じて制御装置222に送り、制御装置は伝達ケーブル223を通じでイオン銃218に信号を送り、ミリングをストップさせる。真空排気系は、ミリング機構を使用していない場合は例えば1×10-9乗Torr程度の超高真空状態に保つためイオンポンプ224で排気しておく。またミリングする際はアルゴンガスを排気するため、例えば1×10-7乗Torr程度まで真空度は悪くなるので、ターボ分子ポンプ225とロータリーポンプ226を使用する。
【0030】
ミリングが完了し、ミリングチャンバ216の真空が回復すれば、ゲートバルブ227を開けて、図1で示したSPLEEM観察チャンバ200に試料を搬送する。そしてSPLEEM測定により試料の磁区形状を検査していく。
【0031】
(実施例2)
図3に、本発明の別の実施例を示す。本実施例は、図2におけるミリングチャンバ216とSPLEEM観察チャンバ200を合体させるものであり、図2におけるそれ以外のアッシング工程、試料導入工程にかかる部分は割愛している。また、図3におけるSPLEEM観察部の構造は基本的には図1と同じになっており、図中の300〜311に相当部分のものは、図1中の100〜111のものと同じ機能を有する。ただし、図中、結像系の電子光学系制御装置と高圧ケーブル、画像処理装置311と回転ステージ308を結ぶ伝達ケーブルを省略してある。
【0032】
すなわち、本実施例では、同一の真空室内に、SPLEEM観察チャンバ300にイオン銃312を搭載した構成とした。このイオン銃312は、試料305の所定範囲をミリングするように光軸を調整しているが、その箇所はその後すぐに試料が回転することによりSPLEEM観察される部分となるように調整する。このため、ミリングしたあと瞬時にSPLEEM観察されるため、チャンバ内の残留ガスによる試料表面の汚れが殆どつかない状態で観察することができる。また、試料を順次回転させておき、ある半径の円周上を連続的にミリングとSPLEEM観察を続けていくと、最初は試料表面が汚れているためにSPLEEM像が得られなかった状態が、ある時間が経ちミリングが進み表面が清浄化されると像が得られるようになる。像が十分なS/Nで得られるようになった場合、画像処理装置311から伝達ケーブル313を通じてイオン銃制御装置314に情報を伝達し、ミリングをストップさせるようにする。イオン銃制御装置314からイオン銃312へは伝達ケーブル315を介して情報を伝達する。
【0033】
この方式では、SPLEEM観察に適度なミリング量を直接測定できるほか、オージェ分析装置を必要としないといった利点がある。その反面、SPLEEM観察をするチャンバに、ミリング用のターボ分子ポンプ316やロータリーポンプ317が必要となる。
【0034】
(実施例3)
図4に、本発明のさらに別の実施例を示す。この実施例でもSPLEEM観察チャンバ400にミリング用イオン銃412が搭載されており、ミリングと平衡してSPLEEM観察が可能である。本図では、SPLEEM観察部の構造は基本的には図3と同じになっており、図4中の400〜417に相当部分のものは、図3中の300〜317のものと同じ機能を有する。ただし、SPLEEM機構における結像系の電子光学系制御装置と高圧ケーブル、画像処理装置411と回転ステージ408を結ぶ伝達ケーブルを省略してある。
【0035】
図3の実施例はその前段階に図2で示すアッシング工程を想定しているが、本実施例では大気中から持ち込んだ試料405をそのままミリングする構成としている。そのため、ゲートバルブ418を介して試料導入室419が取り付けられている。また、その排気のためにターボ分子ポンプ420とロータリーポンプ421が取り付けられている。
【0036】
本実施例は、保護膜などを有さないデバイス等、有機物の除去を必要としない試料の観察に適しており、アッシング機構が必要ない分簡単な装置構成が取れる。
【0037】
(実施例4)
図5に、本発明のさらに別の実施例を示す。本実施例でも、図4に示した実施例と同様に、アッシング機構はない。図中の左端500は、簡略化されているがSPLEEM観察チャンバで、図1と同じ機能のものとする。図4での実施例との違いは、イオンミリングとSPLEEM観察を別のチャンバに分けている、図2の方式に近いという点である。図5中の500〜507、516〜527に相当部分のものは、図3中の200〜207、216〜227のものと同じ機能を有する。
【0038】
本実施例でも、保護膜などを有さないデバイス等、有機物の除去を必要としない試料の観察に適しており、アッシング機構が必要ない分簡単な装置構成が実現できる。
【0039】
次に、上述した実施例1〜4における画像処理システムの一構成例を、図6に示す。スクリーン601から得られた電子個数のデータが伝達ケーブル602を通じて画像処理部600に送られる。また、回転ステージからの情報は伝達ケーブル603を伝わって送られてくる。データはまずデータ変換部604で数値データに変換され、そのデータは表示部605と解析部606に送られる。解析部606では送られてきたデータを回転座標に並べてフーリエ変換などを行い、不良箇所をチェックする。得られた不良箇所のデータは保存部607に蓄積されていく。
【0040】
図7に、本発明におけるSPLEEM検査方式における、試料セットから画像取得までのフローチャートの一例を示す。ここでは、図1に示しているSPLEEM観察部の構成を持つ、例えば先述した実施例1の場合について説明する。まず、前処理が終わった試料105を回転ステージ108にセットする。次に、スピン偏極電子源102より電子線103を試料に照射する。そして試料105から反射された電子線103をスクリーン109に搬送する。この際、スピン偏極電子源102と試料105間、並びに試料105とスクリーン109間の電子光学系104は、電子線103を損失無く搬送する役目を負う。これはいくつかの電子レンズより構成されており、各レンズに印加される電圧によって電子線に収束作用を持たせながら搬送する。従って、スクリーン109の輝度を充分得るためには、電子光学系制御装置106の調整が必要となる。それらの調整によって、スクリーン109上で充分な輝度が得られたら回転ステージ108を動作させ、順次磁区像を取得し、データを画像処理システム111に送る。
【0041】
同様に、図8には、図3で示すSPLEEM観察部の構成を持つ、例えば先述した実施例2の場合を示している。この場合は、電子光学系304の調整が終わった後、回転ステージ308を回転させ、イオン銃312を用いて電子線303が照射され、SPLEEM観察をする直前の個所をイオンミリングする。最初はイオンミリングが充分ではないため、磁区コントラストが得られない。しかし、時間をかけて何周か試料を回転させているうちに、充分なミリングが施され、磁区コントラストが得られるようになる。その段階で画像取得をする。1周分の画像を取得できれば、回転ステージを半径方向に動かし、観察とミリングの場所を移動し、同様の操作をしていく。
【0042】
図9に、データ解析や保存の際に用いられる回転座標フォーマットの一例を示す。図9の(A)にはディスク試料上における各パラメータの関係を示す。ディスクの内周、外周の半径をそれぞれriとroとし、半径方向と円周角のデータの刻み幅をそれぞれΔrとΔθとする。このΔrとrΔθで囲まれた範囲はSPLEEM像の分解能に関わるパラメータで、いわば一つの写真における1画素に対応する。つまり電子線で一度に画像化される領域より小さくなくてはいけない。図9の(B)には回転座標(r、θ)を用いて各データをマッピングしている例を示している。回転ステージを用いてデータを取得するので、たとえば、まずrを固定してディスクを回転させながら順次画像をとっていく。スクリーンがCCD方式の場合はステージを静止させデータを取得し、画像データを数値に変換して、そのデータで(B)に示す欄をいくつか埋め、またステージを回転させて次のデータを取得するといった方式が考えられる。ステージを移動させる量は一度に画像化される領域とほぼ同じ程度がよく、もちろんrΔθよりも大きい。また、TDI方式の場合は、ディスクは常に回転させておき、電子線照射領域よりも細かい(ただし、rΔθと同じかそれより大きい)移動単位毎に画像を撮影、数値に変換して前後のデータと重ね合わせてS/Nを向上させ、得られたデータでますを埋めていく。1回転(Δθから2πまで)とり終えたら、回転ステージを半径方向にずらして再び順次データをθ方向に回転させながらとっていく。r方向への移動幅も当然Δrよりも大きく、SPLEEMで一度に取得できるデータ領域の大きさに依存する。
【0043】
このように、ステージが回転運動と半径方向への並進運動を繰り返すことにより、図9(B)において、まず横方向にデータを取得していき、ディスクが1回転し終えたら縦方向に一つ動いて次の欄を埋めていくようにデータを取得する。これによりデータの収集が簡便になり、差分をとったり平均量を見たりする解析もやりやすくなる。また、サーボ情報部などのためにあるθの範囲において磁気情報のフォーマットを変化させている場合においても、このような円周座標表示であると分別しやすい。また、内周と外周でΔθが同じであると、ディスクの円周方向の距離でみた刻み幅が外周側の方が大きくなる。それは検査の分解能が内周と外周で異なる可能性を作るので、内周と外周でΔθを変える方式もある。
【0044】
図10に、本発明で行うデータ解析方法の一例を示す。SPLEEM像801として記録した情報に対応した磁区像が得られる。ここでは円周方向(あるいは、トラック方向)802に単一波長の記録単位が並んでいる領域(例えば、サーボ領域など)を例に取っている。下部にはこのデータより得られたフーリエ変換の一例804を示す。検査領域のデータをトラック方向にフーリエ変換し、記録単位の周波数成分の振幅の大きさ805を半径方向(あるいは、トラック幅方向)803にプロットする。これにより、各周波数成分振幅の大きさや幅を解析し、異常な状態か否かを判定していく。
【0045】
図11に、本発明で行うデータ解析方法の別の例を示す。SPLEEM像901として記録した情報に対応した磁区像が得られる。本実施例では、一つのトラック上に異なる波長の記録単位が並んでいる領域を例に取っている。この領域に関して、トラック方向902にフーリエ変換を行い、各周波数成分の波長の大きさをプロットしたものが下部の図903である。ここでは、縦軸904が各周波数成分の振幅の大きさ、横軸905が周波数である。記録した周波数成分の振幅が小さかったり、また記録していない周波数成分が出ていたりすれば、異常と判断する。また、最大記録周波数よりも大きな周波数が得られた場合は、磁区形状の異常の可能性のほかに、微小な異物が試料上に付着している可能性も考えられる。このような結果をまとめてデータ保存部に保管する。
【0046】
図12に、本発明による画像取得から評価・解析までのフローチャートの一例を示す。或るrとθにおいてSPLEEM画像を取得した場合を考える。得られた画像を数値化し、スクリーンがTDI方式の場合は前後に取得したデータと重ね合わせてS/Nを向上させ、得られたデータを図9(B)に示すような円周座標系にマッピングする。その後、フーリエ変換を施し、図10や図11で示したデータ解析を行い、異常が見られた場合はその座標を保存しておき、その箇所のr、θを別途保存し、その後の詳細な解析にまわせるようにする。
【0047】
以上詳述したように、本発明によれば、SPLEEMの手法を磁気デバイス等の磁気試料の検査手法に用いることができる。これにより、従来では得られなかった高分解能かつ高速な磁区観察技術を提供することができ、得られたデータを解析する手法も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明で磁区観察を行うSPLEEMの概略構造を説明する図。
【図2】本発明の一実施例の構成を説明する図。
【図3】本発明の別の実施例の構成を説明する図。
【図4】本発明のさらに別の実施例の構成を説明する図。
【図5】本発明のさらに別の実施例の構成を説明する図。
【図6】本発明における画像処理システムの一実施例を説明する図。
【図7】本発明におけるSPLEEM検査方式における、試料セットから画像取得までのフローチャートの一例を説明する図。
【図8】本発明におけるSPLEEM検査方式における、試料セットから画像取得までのフローチャートの別の例を示す図。
【図9】本発明におけるSPLEEM検査方式における、データ取得フォーマットにおけるパラメータの定義の一例(A)と、データ取得フォーマットの一例(B)を説明する図。
【図10】本発明におけるデータ解析方法の一例を示す図。
【図11】本発明におけるデータ解析方法の別の例を示す図。
【図12】本発明における画像取得から評価・解析までのフローチャートの一例を説明する図。
【符号の説明】
【0049】
100…SPLEEM観察チャンバ、101…イオンポンプ、102…スピン偏極電子源、103…スピン偏極電子線、104…電子光学系、105…試料、106…電子光学系制御装置、107…高圧ケーブル、108…回転ステージ、109…スクリーン、110…信号搬送ケーブル、111…画像処理システム、112…伝達ケーブル、200…SPLEEM観察チャンバ、201…試料、202…ロードロック、203…扉、204…ロードロックステージ、205…ロータリーポンプ、206…ターボ分子ポンプ、207…ゲートバルブ、208…酸素アッシングチャンバ、209…アッシングステージ、210…電極、211…RF電源、212…試料、213…酸素ボンベ、214…アッシング制御装置、215…ゲートバルブ、216…ミリングチャンバ、217…ミリングステージ、218…イオン銃、219…試料、220…オージェ分析装置、221…伝達ケーブル、222…制御装置、223…伝達ケーブル、224…イオンポンプ、225…ターボ分子ポンプ、226…ロータリーポンプ、227…ゲートバルブ、300…SPLEEM観察チャンバ、301…イオンポンプ、302…スピン偏極電子源、303…スピン偏極電子線、304…電子光学系、305…試料、306…電子光学系制御装置、307…高圧ケーブル、308…回転ステージ、309…スクリーン、310…信号搬送ケーブル、311…画像処理システム、312…イオン銃、313…伝達ケーブル、314…イオン銃制御装置、315…伝達ケーブル、316…ターボ分子ポンプ、317…ロータリーポンプ、400…SPLEEM観察チャンバ、401…イオンポンプ、402…スピン偏極電子源、403…スピン偏極電子線、404…電子光学系、405…試料、406…電子光学系制御装置、407…高圧ケーブル、408…回転ステージ、409…スクリーン、410…信号搬送ケーブル、411…画像処理システム、412…イオン銃、413…伝達ケーブル、414…イオン銃制御装置、415…伝達ケーブル、416…ターボ分子ポンプ、417…ロータリーポンプ、418…ゲートバルブ、419…試料導入室、420…ターボ分子ポンプ、421…ロータリーポンプ、500…SPLEEM観察チャンバ、501…試料、502…ロードロック、503…扉、504…ロードロックステージ、505…ロータリーポンプ、506…ターボ分子ポンプ、507…ゲートバルブ、516…ミリングチャンバ、517…ミリングステージ、518…イオン銃、519…試料、520…オージェ分析装置、521…伝達ケーブル、522…制御装置、523…伝達ケーブル、524…イオンポンプ、525…ターボ分子ポンプ、526…ロータリーポンプ、527…ゲートバルブ、600…画像処理システム、601…スクリーン、602…伝達ケーブル、603…伝達ケーブル、604…データ変換部、605…表示部、606…解析部、607…保存部、801…SPLEEM像、802…円周方向(トラック方向)、803…半径方向(トラック幅方向)、804…フーリエ変換の一例、805…記録単位の周波数成分の振幅の大きさ、901…SPLEEM像、902…円周方向(トラック方向)、903…各周波数成分の波長の大きさをプロットした図、904…縦軸、905…横軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピン偏極電子源と、前記スピン偏極電子源から出射されるスピン偏極電子線を磁区構造を有する磁気試料に照射する照射光学系と、前記磁気試料を載置するステージと、前記磁気試料から反射した電子線を結像し検出する結像光学系とを備えたSPLEEM観察部と、前記磁気試料表面を清浄化し、前記SPLEEM観察部へ搬送する清浄化手段とを有し、前記反射した電子線をもとに前記磁気試料面の磁区形状を検査することを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項2】
スピン偏極電子源と、前記スピン偏極電子源から出射されるスピン偏極電子線を磁区構造を有する磁気試料に照射する照射光学系と、前記磁気試料を載置するステージと、前記磁気試料から反射した電子線を結像し検出する結像光学系とを備えたSPLEEM観察部と、前記磁気試料表面を清浄化し、前記SPLEEM観察部へ搬送する清浄化手段と、前記結像光学系から得られる画像データを解析する画像処理部とを有し、前記画像データをもとに前記磁気試料面の磁区形状を検査することを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気試料検査装置において、前記清浄化手段は、前記磁気試料表面を清浄化するイオンミリング機構と、前記磁気試料表面の有機物を取り除くプラズマアッシング機構とを有することを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気試料検査装置において、前記SPLEEM観察部を収納する第1の真空室と、前記イオンミリング機構を収納する第2の真空室と、前記プラズマアッシング機構を収納する第3の真空室とが、ゲートバルブを介して接続されていることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気試料検査装置において、前記磁気試料の導入用の第4の真空室を設け、前記第3の真空室にゲートバルブを介して接続してなることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気試料検査装置において、前記ステージ手段は、回転運動および半径方向の直線運動、または縦横方向に稼動し得るよう構成されていることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の磁気試料検査装置において、前記清浄化手段は、前記磁気試料表面を清浄化するイオンミリング機構を有することを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気試料検査装置において、前記SPLEEM観察部を収納する第1の真空室と、前記イオンミリング機構を収納する第2の真空室とが、ゲートバルブを介して接続されていることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気試料検査装置において、前記磁気試料の導入用の第4の真空室を設け、前記第2の真空室にゲートバルブを介して接続してなることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の磁気試料検査装置において、前記ステージ手段は、回転運動および半径方向の直線運動、または縦横方向に稼動し得るよう構成されていることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の磁気試料検査装置において、前記清浄化手段は、前記磁気試料表面を清浄化するイオンミリング機構を有し、前記SPLEEM観察部を収納する第1の真空室内に設置されていることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気試料検査装置において、前記磁気試料の導入用の第4の真空室を設け、前記第1の真空室にゲートバルブを介して接続してなることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の磁気試料検査装置において、前記ステージ手段は、回転運動および半径方向の直線運動、または縦横方向に稼動し得るよう構成されていることを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項14】
請求項2に記載の磁気試料検査装置において、前記画像処理部は、磁気ディスクを前記磁気試料として、前記SPLEEM観察部で得られた磁区画像をトラック方向にフーリエ変換処理を施すことにより磁区形状を検査することを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項15】
請求項14に記載の磁気試料検査装置において、前記画像処理部は、得られた磁区構造をトラック方向にフーリエ変換した後、磁気ディスク面に形成された該当記録ビットの周波数成分の振幅を解析し、該振幅の大きさやトラック幅方向の広がりより、磁区形状を検査することを特徴とする磁気試料検査装置。
【請求項16】
請求項14に記載の磁気試料検査装置において、前記画像処理部は、得られた磁区構造を円周方向にフーリエ変換した後、磁気ディスク面に形成された記録ビットの周波数成分の振幅を解析し、各周波数成分の振幅の大きさを検査することにより、磁区形状を検査することを特徴とする磁気試料検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−225363(P2007−225363A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44875(P2006−44875)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】