説明

磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法

【課題】被加工物から良好な切断面品質を有する磁気転写用マスター担体を切り出すことが可能なレーザ切断加工方法を提供する。
【解決手段】真空チャンバ内に被加工物を配置して、レーザ光源より前記真空チャンバに設けられた窓を通じて前記被加工物の上面にレーザ光を照射し、該被加工物の切断加工を行う際に、前記真空チャンバ内の圧力を前記被加工物を構成する材料の三重点における圧力以下に減圧した状態で切断加工を行う。この場合、前記材料がニッケルである場合には、前記真空チャンバ内の圧力を8.0×10-3[Torr]以下にまで減圧し、前記材料がアルミニウムである場合には、1.2×10-8[Torr]以下にまで減圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより磁気転写用マスター担体を形成するレーザ切断加工方法であって、より詳細には、磁気記録再生装置用の磁気記録媒体への各種信号の磁気転写に好適な磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、デジタル画像情報の利用により、パーソナル・コンピュータ等で取り扱う情報量が飛躍的に増大しており、前記情報の記録及び再生のために大容量、安価且つ短時間でアクセス可能な磁気記録媒体が市場に導入されている。このような磁気記録媒体としては、ハードディスク等の磁気記録媒体やリムーバブル型の高密度磁気記録媒体があり、これらの磁気記録媒体は、フレキシブルディスクと比較して、情報記録領域である各トラックのトラック幅が小さい。従って、前記磁気記録媒体では、情報の記録及び再生を行う際にトラッキングサーボ技術を利用して磁気ヘッドを前記磁気記録媒体の半径方向に沿って所望位置にまで正確に走査できると共に、前記情報の記録及び再生に必要なトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等が、高い位置決め精度で前記磁気記録媒体の円周方向に沿って所定角度間隔で予め記憶(プリフォーマット)されている必要がある。
【0003】
前記プリフォーマットでは、上記した各信号を磁気記録媒体の1トラック毎に記録する方法があるが、この方法では、記録の完了までに長時間を要するので、プリフォーマットすべき前記各信号が予め記憶されたマスター担体よりスレーブ媒体に対して磁気転写を行い、前記磁気転写されたスレーブ媒体を前記磁気記録媒体とする方法が一般的に採られている。この場合、前記マスター担体と前記スレーブ媒体とを密着した状態で転写磁界を印加することにより、該マスター担体における前記各信号の磁気パターンが前記スレーブ媒体に磁気的に転写される。
【0004】
このようなマスター担体は、先ず、鋳型となる原盤に金属(例えば、ニッケル)を電鋳し、前記電鋳された金属板を前記スレーブ媒体のサイズに合わせてレーザ切断加工を施すことにより形成される。この場合、レーザ出力の大きな切断加工装置を用いて一回のレーザ光照射で前記マスター担体の切断加工を行うと、前記レーザ光によって過度のエネルギーが切断部分に供給されて、前記エネルギーによる発熱でソリやバリ等の表面変形が発生する。この結果、前記プリフォーマットにおいて、前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性を確保することができないという問題が露呈する。また、切断加工時に発生する溶融痕が切断面に付着して、該切断面の品質を確保することができないという問題もある。
【0005】
そこで、上記した一回のレーザ光照射による切断加工に起因する問題点を改善するために、特許文献1に記載の技術に基づいて、真空容器内に被加工物を配置し、該真空容器内の圧力を大気圧から1.0×10-1[Torr]に減圧した状態で、前記被加工物の表面にレーザ光を照射して切断加工を行うことが検討されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−297180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の技術は、樹脂材料に対する切断加工であり、1.0×10-1[Torr]の圧力において、表面に金属を有する被加工物からマスター担体を切り出す場合、前記金属の溶融温度領域の存在により、切断加工時における溶融物の発生を抑制することができない。これにより、多量のドロスやバリが切断面近傍に発生して該切断面の品質を確保することが困難となり、この結果、磁気転写工程におけるマスター担体とスレーブ媒体との密着性を確保することができない。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、被加工物から良好な切断面品質を有する磁気転写用マスター担体を切り出すことが可能なレーザ切断加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、前記被加工物は金属を表面に有し、真空容器内に前記被加工物を配置し且つ該真空容器内を前記金属の三重点での圧力以下の圧力とした状態で、前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行うことを特徴とする。
【0010】
上記した構成によれば、前記金属の三重点での圧力以下の圧力において前記被加工物に対する切断加工を行うので、切断加工時に前記レーザ光によって加熱された前記照射部分は、固相から気相へと昇華する。換言すれば、前記照射部分は、液相を介することなく切断される。この結果、切断加工時における溶融物の発生や、切断面近傍におけるドロス及びバリの発生が抑制され、切断面の品質を確保することができる。従って、磁気転写工程における前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性が向上して、該マスター担体に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体に磁気転写することが可能となる。
【0011】
また、前記真空容器内を前記三重点の圧力以下に減圧することにより、前記照射部分の沸点が低下するので、従来技術に係るレーザ切断加工方法と比較して、低出力のレーザ光を利用して前記被加工物の切断加工を効率よく行うことができる。この結果、前記切断加工に係る設備のイニシャルコストやランニングコストを削減することが可能となる。
【0012】
ここで、前記被加工物の切断加工時における前記真空容器内の圧力は、前記金属がニッケルである場合には、8.0×10-3[Torr]以下であり、前記金属がアルミニウムである場合には、1.2×10-8[Torr]であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記真空容器は、光透過性の窓を有し、外部から前記窓を介して前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被加工物から良好な切断面品質を有する磁気転写用マスター担体を切り出すことが可能となり、この結果、磁気転写工程における前記マスター担体とスレーブ媒体との密着性が向上して、該マスター担体に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体に磁気転写することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法について、これを実施するレーザ切断加工システムとの関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係るレーザ切断加工方法により形成された磁気転写用マスター担体(以下、マスター担体ともいう。)10の平面図であり、図2は、該マスター担体10の一面側とスレーブ媒体12とを重畳させた状態を示す一部拡大断面図である。また、図3Aは、前記スレーブ媒体12に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、前記マスター担体10と前記スレーブ媒体12とを重畳させて転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、プリフォーマット後の前記スレーブ媒体12内の前記初期磁界及び前記転写磁界を示す一部拡大断面図である。
【0017】
マスター担体10は、図1及び図2に示すように、ニッケル、アルミニウム、ニッケル合金又はアルミニウム合金から構成される円環状のディスクであり、その一面側に円環状の転写領域14と該転写領域14の外方及び内方の非転写領域16とが各々形成されている。この場合、前記転写領域14には、複数の溝18が同心円状に形成されている。前記各溝18によって形成される転写領域14の凹凸パターンは、スレーブ媒体12に転写すべき信号(トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等)に対応したパターンとされている。
【0018】
一方、スレーブ媒体12は、磁性体からなるディスクであり、このようなディスクとしては、例えば、剛性の磁性体からなるハードディスク用の磁気記録媒体や、可撓性の磁性体からなるリムーバブル型の高密度磁気記録媒体や、フレキシブルディスク用の高密度磁気記録媒体がある。
【0019】
マスター担体10よりスレーブ媒体12に前記信号を磁気転写(プリフォーマット)する場合には、先ず、図3Aに示すように、前記スレーブ媒体12の半径方向(トラック方向)に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記マスター担体10の一面側と前記スレーブ媒体12とを密接させた状態で、該スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が各溝18を回避するように通過し、この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密接部分が前記初期磁界で磁化されるので、前記凹凸パターンに対応する前記各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0020】
次に、本実施形態に係るレーザ切断加工方法を実施するレーザ切断加工システム30について、図4〜図6を参照しながら説明する。
【0021】
レーザ切断加工システム30は、マスター担体10(図1〜図3C参照)が切り出されるニッケル、アルミニウム、ニッケル合金又はアルミニウム合金製の板状の被加工物32を配置可能な真空チャンバ(真空容器)34と、排気通路36を介して前記真空チャンバ34に連通し且つ該真空チャンバ34内を大気圧から所定圧力にまで減圧可能な真空ポンプ(真空圧力制御手段)38と、前記被加工物32を前記真空チャンバ34内で回転可能な被加工物回転機構40と、前記真空チャンバ34上部に設けられた光透過性の窓42を通じて前記被加工物32の一面側(図4及び図6に示す上面側であり且つ図5に示す手前側)にレーザ光44を照射することにより、前記被加工物32に対する切断加工を行うレーザ光源(レーザ光照射手段)46とを有する。
【0022】
なお、被加工物32の一面側(上面側)には、前記した凹凸パターン(溝18)が形成され、該被加工物32を前記凹凸パターンを含んで円環状に切り出すことにより、マスター担体10(図1及び図2参照)が得られる。
【0023】
真空チャンバ34は、金属製で且つ略円筒状の容器本体50と、該容器本体50の上部に配置された金属製の蓋体52と、前記容器本体50の下部に配置された金属製のベース54とを有し、前記蓋体52に接触する前記容器本体50の上部には、該容器本体50の外径方向にフランジ56が膨出形成され、一方で、前記ベース54に接触する前記容器本体50の下部には、前記外径方向にフランジ58が膨出形成されている(図4及び図6参照)。
【0024】
容器本体50、蓋体52及びベース54は、略同軸に配置され、前記蓋体52は、複数のボルト60及びナット62により前記容器本体50の上部に固定され、一方で、前記容器本体50は、複数のボルト64によりベース54上面に固定されている。また、前記ベース54は、複数のボルト66によりテーブル68上面に固定されている。さらに、フランジ56の上部には、Oリング70が配置され、一方で、フランジ58の下部には、Oリング72が配置されている。
【0025】
蓋体52の中央部には、略円環状の突出部74が上方に向かって突出形成され、前記突出部74の内方は、容器本体50と外部とを連通可能な開口76とされている。前記突出部74の開口76側に形成された段差78には、約90[%]以上の光透過率を有する材料(例えば、石英ガラス)からなる略円盤状の窓42が前記開口76を覆うように配置され、前記段差78における前記窓42の下面側にはOリング80が配置されている。
【0026】
また、前記突出部74の上面には、略円環状の押さえ部材84が配置され、該押さえ部材84は、ボルト86により前記突出部74に固定されている。この場合、前記窓42側部と前記押さえ部材84との間にはOリング82が介挿されているので、前記窓42は、被加工物32の上方で、Oリング80、82を介して前記突出部74及び前記押さえ部材84により狭持されている(図6参照)。
【0027】
なお、窓42と被加工物32との間には、該被加工物32にレーザ光44を照射した際に照射部分からの飛散物(被加工物32の加工屑等)が前記窓42に付着して該窓42を汚染することを防止するために、図示しない光透過性のガラス板が配置されている。この場合、前記ガラス板には、前記レーザ光44を通過させるための孔又はスロットが形成されている。なお、前記ガラス板に代えて、前記窓42の底面にシリコングリース等を塗布して該窓42への前記飛散物の付着を防止するようにしても構わない。
【0028】
また、容器本体50から蓋体52を容易に取り外しできるように、該蓋体52上面には、2つの把持部88が設けられている(図4参照)。
【0029】
真空チャンバ34内には、略円筒状の支持部材90がボルト92によりベース54上面に固定され、前記支持部材90の上部に形成された段差94に略円環状のクロスローラリング96が支持されている。
【0030】
前記クロスローラリング96は、段差94に配置される外輪部98と、該外輪部98の内方に配置される内輪部100と、前記外輪部98と前記内輪部100との間に配置された複数のローラ102とから構成され、該外輪部98は、押さえ部材104及びボルト106により前記押さえ部材104と前記段差94との間で狭持されている(図6参照)。
【0031】
内輪部100の上面には、略円盤状のテーブル108が固定され、該テーブル108上には、被加工物32を固定する4つのクランパ110が略90[°]毎に配置されている(図5参照)。また、前記テーブル108上には、被加工物32を貫通可能な中心位置決め部材112が該テーブル108と略同軸に設けられている。ここで、前記被加工物32を前記テーブル108に固定する場合には、前記被加工物32に形成された前記凹凸パターンの略中心部に該凹凸パターンと略同心の孔を予め形成し、中心位置決め部材112が前記孔を貫通するように前記被加工物32をテーブル108に載置した状態で、前記各クランパ110により前記載置された被加工物32を固定する。
【0032】
被加工物回転機構40は、被加工物固定手段としてのクロスローラリング96、テーブル108及びクランパ110と、該テーブル108にカップリング120を介して連結され且つベース54の中央部分に形成された孔122を貫通して外部から真空チャンバ34内に臨入するシャフト(回転駆動軸)124と、該シャフト124にカップリング126を介して連結されたモータ(回転駆動手段)128と、前記シャフト124における前記ベース54の貫通部分(孔122)をシールする磁性流体シール手段(真空シール手段)130とを有する。
【0033】
この場合、窓42、クロスローラリング96、テーブル108、中心位置決め部材112、カップリング120、シャフト124、カップリング126、磁性流体シール手段130及び前記シャフト124に前記カップリング126を介して連結されるモータ128の回転軸132は、真空チャンバ34の中心軸134に沿って略同軸に配置されている(図6参照)。
【0034】
ここで、モータ128の駆動作用下に回転軸132が中心軸134を中心として回転すると、カップリング126、シャフト124及びカップリング120を介してテーブル108及び内輪部100がローラ102の案内作用下に回転し、この結果、クランパ110及び中心位置決め部材112により前記テーブル108上に固定された被加工物32は、前記中心軸134を中心として回転する。
【0035】
なお、モータ128は、ボルト140によりテーブル68の内方に突出形成された突出部142に固定され、一方で、磁性流体シール手段130は、ボルト146によりベース54の下面に固定されている。また、磁性流体シール手段130の上部には、Oリング162が配置されている。
【0036】
磁性流体シール手段130は、シャフト124が貫通しているケース本体150と、該ケース本体150内で前記シャフト124を囲繞するように配置された永久磁石152と、前記シャフト124を囲繞し且つ前記永久磁石152のN極側及びS極側にそれぞれ配置された磁極片154、156とを有し、前記各磁極片154、156と前記シャフト124との間には、磁性流体158、160が介在している。
【0037】
この場合、シャフト124及び磁極片154、156は磁性材料を有し、永久磁石152、前記磁極片154、156及び前記シャフト124により形成される図示しない磁路に沿って、前記磁極片154、156と前記シャフト124との間で磁性流体158、160に起因するシールが形成される。換言すれば、磁性流体シール手段130内には、磁性流体158、160によるOリングが形成され、この結果、前記各Oリングは、前記シャフト124が中心軸134を中心として回転している状態であっても、前記シャフト124の貫通部分(孔122)を確実にシールすることが可能である(図6参照)。
【0038】
従って、被加工物32がクランパ110及び中心位置決め部材112によりテーブル108上に固定された状態で、真空ポンプ38により真空チャンバ34内部を大気圧から所定圧力にまで減圧すると、前述した磁性流体158、160の各Oリング及び各Oリング70、72、80、82、162によって該真空チャンバ34内の気密性を確保することができる。
【0039】
なお、磁性流体シール手段130において、永久磁石152を電磁石に代えても、前述した貫通部分のシールを行うことが可能であることは勿論である。
【0040】
ここで、前記所定圧力とは、被加工物32を構成する材料の三重点における圧力以下の圧力であることが好ましい。例えば、被加工物32の前記材料がニッケルである場合、図7Aに示すように、該被加工物32の切断加工時における真空チャンバ34内の圧力は、前記ニッケルの三重点における圧力(8.0×10-3[Torr])以下の圧力であることが好ましい。また、被加工物32の前記材料がアルミニウムである場合、図7Bに示すように、該被加工物32の切断加工時における真空チャンバ34内の圧力は、前記アルミニウムの三重点における圧力(1.2×10-8[Torr])以下であることが好ましい。
【0041】
レーザ光源46は、図4に示すように、所定波長を有するレーザ光44を所定時間間隔で生成するレーザ本体170と、該レーザ本体170に連結され且つ前記レーザ光44を被加工物32の一面側に間欠的に照射するレーザヘッド172とから構成されるパルス発振レーザ(パルスレーザ光源)である。前記所定波長としては、被加工物32を構成する材料にとって吸収効率の良い波長を選択することが好ましく、例えば、ニッケル、アルミニウム、ニッケル合金又はアルミニウム合金に対して、1064[nm]、532[nm]、355[nm]、266[nm]の波長とすると好適である。このような波長を有するレーザ光44を生成可能なレーザ光源46としては、例えば、YVO4レーザ、YAGレーザがある。また、上記した波長以外のレーザ光44を生成するCO2レーザ、エキシマレーザを用いることも可能である。
【0042】
なお、図4〜図6に示す被加工物32の表面とレーザ光44の光軸とのなす角度は、前記レーザ光44がP偏光である場合には、ブリュースター角を含めて30[°]〜60[°]とすることが好ましい。また、前記レーザ光44がS偏光、ランダム偏光又は不定波偏光である場合には、被加工物32表面と略直交するように前記レーザ光44を照射することが好ましい。上述した各照射条件であれば、前記被加工物32表面での反射率を小さくして切断加工時のエネルギー効率を向上することができる。
【0043】
レーザコントローラ174は、レーザ光源46を駆動するための図示しないパルス電源を有し、レーザ本体170に所定時間間隔でパルス電圧を供給すると、該レーザ本体170は、前記パルス電圧のパルス幅の時間(以下、照射時間ともいう。)内において所定波長のレーザ光44を生成し、レーザヘッド172は、前記生成されたレーザ光44を窓42を通じて被加工物32の上面に前記照射時間内だけ照射する。従って、前記レーザ光44は、時間的に連続して被加工物32上面に照射される連続光ではなく、前記照射時間内にだけ前記被加工物32上面に照射されるパルスレーザ光である。
【0044】
ここで、被加工物回転機構40により被加工物32が1回転する時間と比較して、前記被加工物32に対するレーザ光44の1照射回あたりの照射時間が極めて短時間であれば、前記レーザ光44は、前記被加工物32上面において、中心軸134を中心として所定角度間隔で照射されるので、この結果、前記被加工物32には、平面視で、複数の局所的な穴176が前記所定角度間隔で略円環状に形成される(図5参照)。前記被加工物32をさらに回転させながらレーザ光44の照射を続けると、前記各穴176が前記被加工物32の上面から底面に貫通する貫通孔となり、これらの貫通孔が連結すると、前記被加工物32は略円形状に切断される。上記したレーザ光44の照射を前記凹凸パターンの内側及び外側で実施して、該凹凸パターンの内側及び外側を略円形状に切断することにより、被加工物32からマスター担体10(図1及び図2参照)が切り出される。
【0045】
なお、図5は、前記凹凸パターンの外側にレーザ光44を照射して、該外側を略円形状に切断する場合を図示している。また、このレーザ切断加工システム30では、被加工物32に形成された前記凹凸パターンの内側を略円形状に切断加工した後に、該凹凸パターンの外側を略円形状に切断加工することにより、前記被加工物32から前記凹凸パターンを含む円環状のマスター担体10(図1及び図2参照)を切り出す。
【0046】
被加工物32に対してレーザ光44を照射した際に、前記被加工物32の切断加工位置は、時間経過と共に被加工物32の上面から底面側に変位する。そこで、レーザ切断加工システム30では、前記レーザ光44の焦点位置が前記切断加工位置と常時一致するように、前記被加工物32に対するレーザヘッド48の位置を焦点位置調整機構180により調整している(図4参照)。
【0047】
前記焦点位置調整機構180は、テーブル68上に配置されたベース182と、中心軸134(図6参照)と略平行に前記ベース182上に立設するガイドレール184、186と、前記ガイドレール184、186に沿って上下方向に摺動可能なスライド部材188、190と、前記ガイドレール184、186と略直交するように前記スライド部材188、190に支持されたテーブル192と、前記ガイドレール184、186の上部及び下部に配置され且つ前記スライド部材188、190の摺動範囲を規制する複数の摺動範囲規制部材194〜200とを有する。
【0048】
この場合、上方の摺動範囲規制部材194、196は、橋架部材202を介して連結され、スライド部材188、190の下部は、橋架部材204を介して連結されている。また、レーザ本体170は、ステージ216を介してテーブル192上方に支持されている。さらに、テーブル68におけるベース182の下方にはモータ206が取り付けられ、該モータ206の回転軸208は、テーブル68及びベース182の中央部を貫通し且つ該回転軸208を回転自在に軸支するカップリング210を介してスクリューロッド212に軸着されている。前記スクリューロッド212は、ガイドレール184、186と並行して上方に延在し、前記橋架部材204の中央部に配設された支持部材214及び前記カップリング210によって、その上下方向の軸線を中心として回転自在に軸支されている。
【0049】
ここで、モータ206の駆動作用下に回転軸208及びカップリング210を介してスクリューロッド212を前記軸線を中心に回転させると、橋架部材204、スライド部材188、190、テーブル192、ステージ216及びレーザ光源46は、ガイドレール184、186の案内作用下に上下方向に変位可能である。
【0050】
また、レーザ光源46は、図示しない駆動機構を用いて、前記ステージ216の案内作用下に中心軸134(図6参照)と略直交する方向(図4に示す左右方向)に摺動可能である。
【0051】
さらに、レーザ切断加工システム30では、パーソナル・コンピュータ(PC)220からプログラマブル・コントローラ(PLC)222を介してレーザ光源46及びモータ128、206を制御することが可能である。すなわち、PLC222内には、真空チャンバ34内に配置された被加工物32からマスター担体10を切り出すために必要な複数の切断加工条件に関する各種データを格納可能な加工条件格納用メモリ224とタイマ230とが設けられている。
【0052】
なお、前記切断加工条件に関する各種データとは、被加工物32の材料(ニッケル、アルミニウム、ニッケル合金又はアルミニウム合金の種別)、切断加工時における真空チャンバ34内の圧力、テーブル108(被加工物32)の回転速度、回転方向及び回転数、前記切断加工時における前記被加工物32に対するレーザ光44の焦点位置、前記被加工物32に前記レーザ光44を1回照射するときの照射時間(前記パルス電圧のパルス幅)を含む。この場合、被加工物32の切断完了までの条件出しを予め行い、その条件に基づく一連のプログラム等を前記切断加工条件に関する各種データとして加工条件格納用メモリ224に格納する。従って、前記各種データに従って被加工物32の切断加工を行えば、切断加工完了時には、被加工物32からマスター担体10を切り出すことが可能である。
【0053】
ここで、被加工物32の切断加工に際して、作業員が図示しない真空圧力計を見ながら真空ポンプ38を操作すると、真空チャンバ34内の圧力は、大気圧から所定圧力にまで減圧する。
【0054】
次いで、作業員がPC220を用いて切断加工の実行を指示する旨の入力操作を行うと、PLC222は、前記PC220からの指示内容に対応した所定の切断加工条件に関するデータを加工条件格納用メモリ224より検索し、前記検索したデータに基づいて、インバータ226に対してモータ128を駆動させるための制御信号を出力する。これにより、インバータ226は、入力された前記制御信号に基づいて、図示しない直流電源からの直流信号を交流信号に変換してモータ128に供給し、前記モータ128は、前記供給された交流信号に基づき駆動して、シャフト124、テーブル108及び被加工物32を回転させる。
【0055】
さらに、PLC222は、前記検索したデータに基づいて、レーザコントローラ174に対してレーザ光源46を駆動させるための制御信号を出力する。前記レーザコントローラ174は、入力された前記制御信号に基づいて、所定のパルス幅を有するパルス電圧を生成してレーザ光源46に出力し、前記レーザ光源46は、入力された前記パルス電圧に基づくレーザ光44を生成して被加工物32に照射する。
【0056】
さらにまた、PLC222は、前記検索したデータに基づいて、サーボアンプ228に対してモータ206を駆動させるための制御信号を出力する。前記サーボアンプ228は、入力された前記制御信号に基づいて、図示しない交流電源からの交流信号を増幅してモータ206に供給し、前記モータ206は、前記供給された交流信号に基づき駆動し、スクリューロッド212を回転させる。この結果、ガイドレール184、186の案内作用下に橋架部材204、スライド部材188、190、テーブル192、ステージ216及びレーザ光源46が上下方向に変位し、被加工物32に対するレーザ光44の焦点位置が調整される。
【0057】
さらにまた、PLC222は、前記検索したデータに基づいて、前記駆動機構にレーザ光源46を図4の左右方向に摺動させるための制御信号を出力し、前記駆動機構は、入力された前記制御信号に基づいて、ステージ216の案内作用下に前記レーザ光源46を前記左右方向に摺動させる。
【0058】
前述したように、被加工物32の切断加工時には、該被加工物32に対するレーザ光44の焦点位置が該被加工物32の上面側から底面側に変位する。そこで、PLC222では、真空チャンバ34内が前記所定圧力に減圧している状態で、焦点位置毎に前記被加工物32に対するレーザ光44の照射が行えるように、レーザコントローラ174、インバータ226及びサーボアンプ228を制御する。
【0059】
すなわち、PLC222は、前記真空チャンバ34内が前記所定圧力に減圧している状態で、先ず、前記焦点位置が被加工物32の上面となるように、焦点位置調整機構180によりレーザヘッド172の高さを調整させた後に、被加工物回転機構40によりテーブル108を回転させると共に、レーザコントローラ174及びレーザ光源46により前記被加工物32の上面に対するレーザ光44の照射を行わせる。次いで、前記被加工物32の上面に対する前記レーザ光44の照射が完了したときに、前記焦点位置が前記被加工物32の上面よりも底面側となるように、前記焦点位置調整機構180により前記レーザヘッド172の高さを調整させた後に、前記テーブル108を回転させて前記被加工物32に対するレーザ光44の照射を再度行わせる。
【0060】
また、真空チャンバ34には、図示しないタコメータが配置され、該タコメータは、テーブル108の回転速度や回転数を連続的に計測してPLC222に逐次出力する。
【0061】
この結果、前記切断加工条件のデータに基づく各焦点位置でのレーザ光44の照射が完了すると、前述したように、被加工物32の切断加工が完了してマスター担体10が切り出される。
【0062】
本実施形態に係るレーザ切断加工方法を実施するレーザ切断加工システム30は、以上のように構成されるものであり、次に、レーザ切断加工システム30及びレーザ切断加工方法の作用効果について、図1〜図12を参照しながら説明する。
【0063】
図8は、被加工物32からマスター担体10を切り出し、前記切り出したマスター担体10からスレーブ媒体12に磁気転写を行う一連の工程を示すフローチャートであり、図9は、図8のステップS2の詳細な工程を示すフローチャートであり、図10は、図9のフローチャートに関し、PLC222(図4参照)からモータ128、206及びレーザコントローラ174への制御を示すタイムチャートである。
【0064】
ここでは、図8のステップS2(図9のステップS201〜S213)において、一例として、被加工物32(図4〜図6参照)に対するレーザ光44の焦点位置を前記被加工物32の上面(第1切断加工条件)、前記上面と底面との間(第2切断加工条件)及び前記底面側(第3切断加工条件)とし、これら3つの焦点位置における前記レーザ光44の照射をそれぞれ実施して前記被加工物32からマスター担体10(図1及び図2参照)を切り出す場合について説明する。
【0065】
なお、前記ステップS2では、被加工物32に形成された前記凹凸パターンの内側に対する切断加工を行った後に、該凹凸パターンの外側に対する切断加工を行う場合について説明する。
【0066】
先ず、図8のステップS1において、複数の溝が同心円状に形成された凹凸パターンを有する図示しない原盤より被加工物32を形成する。この場合、前記原盤の凹凸パターンに対してニッケル、アルミニウム、ニッケル合金又はアルミニウム合金を電鋳した後に、該電鋳部分を剥離することにより前記凹凸パターン(溝18)を有する被加工物32が形成される。さらに、前記被加工物32における前記凹凸パターンの中心部に該凹凸パターンと略同心の孔を形成する。
【0067】
次いで、スレーブ媒体12の寸法に合わせて、レーザ切断加工システム30(図4〜図6参照)により被加工物32から円環状のマスター担体10を切り出す(ステップS2)。
【0068】
ステップS2では、先ず、容器本体50から蓋体52が離間している状態で、前記凹凸パターンがレーザ光源46側となるように被加工物32をテーブル108に載置し、前記載置された被加工物をクランパ110で前記テーブル108に固定する(図9のステップS201)。この場合、前記孔に中心位置決め部材112を貫通させて各溝18と前記テーブル108とが略同心となるように前記被加工物32を前記テーブル108上面に載置した後に、前記クランパ110により前記被加工物32を固定する。その後、前記容器本体50の上部の開口を蓋体52で閉塞し、ボルト60及びナット62により該蓋体52を前記容器本体50に固定する。
【0069】
次いで、作業員が図示しない真空圧力計を見ながら真空ポンプ38を操作すると、前記真空ポンプ38は、排気通路36を介して真空チャンバ34内を大気圧から所定圧力にまで減圧する。前記真空チャンバ34内の圧力が被加工物32の材料の三重点(図7A及び図7B参照)における圧力以下にまで減圧したときに、前記作業員は、PC220(図4参照)を用いて真空チャンバ34内に配置された被加工物32に対する切断加工の実行を指示する旨の入力操作を行う。この場合、前記作業員は、前記入力操作において、被加工物32の材料(ニッケル、アルミニウム、ニッケル合金又はアルミニウム合金)を含む指示内容をPC220に入力する。
【0070】
PLC222は、PC220から入力された前記指示内容に基づいて、加工条件格納用メモリ224から前記指示内容に対応するデータを検索し、前記検索したデータを前記被加工物32の第1切断加工条件として設定する(図9のステップS202)。すなわち、前記PLC222は、加工条件格納用メモリ224から(1)前記被加工物32(テーブル108)の回転速度V1、回転方向及び回転数と、(2)前記被加工物32に対するレーザ光44の焦点位置と、(3)中心軸134に対する前記被加工物32の照射部分の位置と、(4)前記被加工物32にレーザ光44を1回照射する際の照射時間とを含む各種データを検索し、前記検索した各データを第1切断加工条件とする。なお、前記第1切断加工条件とは、前述したように、被加工物32の上面をレーザ光44の焦点位置としたときの切断加工条件をいう。
【0071】
次いで、PLC222は、図10に示す時刻t0で、サーボアンプ228にモータ206を駆動させるための制御信号を出力する(図10の「移動指令」)と共に、前記駆動機構にレーザ光源46を図4の左右方向に摺動させるための制御信号を出力する。
【0072】
サーボアンプ228は、入力された前記制御信号に基づいて、図示しない交流電源からの交流信号を増幅してモータ206に供給し、該モータ206は、供給された前記交流信号に基づいて駆動する。前記モータ206の駆動作用下に、スクリューロッド212は、その軸線方向を中心として回転し、この結果、橋架部材204、スライド部材188、190、テーブル192、ステージ216及びレーザ光源46は、ガイドレール184、186の案内作用下に、レーザ光44の焦点位置が被加工物32の上面となる位置にまで変位する。
【0073】
一方、前記駆動機構は、入力された前記制御信号に基づいて、レーザヘッド172におけるレーザ光44の放射部分が、平面視で、被加工物32の凹凸パターンの内側となる位置にまで、ステージ216の案内作用下にレーザ光源46を変位させる(ステップS203)。
【0074】
次いで、レーザ光44(図4〜図6参照)の焦点位置が被加工物32の上面にまで変位し、且つレーザヘッド172が平面視で前記凹凸パターンの内側にまで変位した時刻t1(図10参照)において、PLC222は、サーボアンプ228及び前記駆動機構への各制御信号の出力を停止し、一方で、インバータ226にモータ128を駆動させるための制御信号を出力する。インバータ226は、入力された前記制御信号に基づいて、図示しない直流電源からの直流信号を交流信号に変換してモータ128に供給し、該モータ128は、入力された前記交流信号に基づいて駆動する。
【0075】
前記モータ128の駆動作用下に、回転軸132、カップリング126、シャフト124及びカップリング120は、中心軸134を中心として回転し、この結果、前記シャフト124に前記カップリング120を介して連結されたテーブル108、内輪部100及び前記テーブル108に固定された被加工物32は、ローラ102の案内作用下に前記中心軸134を中心として回転する(ステップS204)。
【0076】
なお、被加工物32、テーブル108及びシャフト124の回転速度や回転数は、前記タコメータにより計測されてPLC222に逐次出力される。この場合、前記タコメータは、前記テーブル108の回転速度を連続的に計測して前記PLC222に出力し、一方で、前記テーブル108が1回転する毎にパルス信号をPLC222に出力する。
【0077】
次いで、時刻t2(図10参照)において、テーブル108の回転速度が前記第1切断加工条件にて設定されている回転速度V1になったときに、PLC222内のタイマ230が動作し、前記テーブル108が回転速度V1で安定して回転するまで所定時間(時刻t2から時刻t3までの時間)の計時を行う(ステップS205)。
【0078】
時刻t3において、タイマ230がその動作を停止することにより、PLC222は、テーブル108が回転速度V1で安定に回転しているものと判断し、前記第1切断加工条件に基づいて、レーザコントローラ174にレーザ光源46を駆動させるための制御信号を出力し、一方で、前記タコメータから入力される前記パルス信号の個数のカウントを開始する。なお、時刻t2から所定時刻までカウントされる前記パルス信号の個数は、時刻t2から前記所定時刻までの前記テーブル108の回転数である。
【0079】
レーザコントローラ174は、入力された前記制御信号に基づいて、テーブル108が1回転する時間よりも短時間のパルス幅を有するパルス電圧をレーザ光源46に繰り返し出力する。レーザ光源46のレーザ本体170は、入力された前記パルス電圧に基づいて、前記パルス幅の時間だけレーザ光44を生成し、レーザヘッド172は、窓42を通じて被加工物32の上面への前記レーザ光44の照射を開始する(ステップS206)。
【0080】
この場合、被加工物32が1回転する時間と比較して、1回あたりのレーザ光44の照射時間が短時間であるので、前記被加工物32の上面における前記凹凸パターンの内側には、前記レーザ光44の照射に起因する複数の穴176が所定角度間隔で略円環状に形成される。
【0081】
PLC222は、前記タコメータから入力される前記パルス信号をカウントする毎に、時刻t3からカウントしている前記パルス信号の個数(テーブル108の実際の回転数)が前記第1切断加工条件で設定されているテーブル108の回転数に到達したか否かを判定し(ステップS207)、前記カウントした回転数が前記設定されている回転数に到達していない場合には、前記テーブル108の回転数のカウントと、被加工物32の上面に対するレーザ光44の照射とを引き続き実施する。
【0082】
一方、時刻t4において、前記カウントした回転数が前記第1切断加工条件で設定されている回転数に到達した場合、PLC222は、被加工物32の上面におけるレーザ光44の照射が完了して前記被加工物32に対する該レーザ光44の焦点位置が前記被加工物32の上面から底面側に変位したものと判断し、レーザコントローラ174に対する制御信号の出力を停止すると共に、テーブル108の回転数のカウントを停止させる(ステップS208)。
【0083】
これにより、レーザコントローラ174は、レーザ光源46へのパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源46でのレーザ光44の生成が停止され、被加工物32への前記レーザ光44の照射が停止するに至る。
【0084】
次いで、PLC222は、被加工物32における前記凹凸パターンの内側での切断加工が完了したか否かを判定する(ステップS209)。この場合、PLC222は、ステップS206の期間(図10の時刻t3から時刻t4までの時間)内で、前記第1〜第3切断加工条件に基づく切断加工が全て実施されたか否かを判定することにより切断加工が完了したか否かを判定する。
【0085】
この場合、前記第1切断加工条件に基づく被加工物32の上面に対するレーザ光44の照射により切断加工位置が前記被加工物32の上面から底面側に変位しているので、前記PLC222は、前記被加工物32の切断加工が完了していないものと判断して図9のステップS202の処理に戻り、第2切断加工条件の設定を行う。
【0086】
すなわち、PLC222(図4参照)は、加工条件格納用メモリ224から新たにデータを検索して、前記検索したデータを前記被加工物32の第2切断加工条件として設定する(ステップS202)。その際、前記PLC222は、加工条件格納用メモリ224から(1)被加工物32(テーブル108)の回転速度V2、回転方向及び回転数と、(2)前記被加工物32に対するレーザ光44の焦点位置と、(3)前記被加工物32に対する前記レーザ光44の1回の照射における照射時間とを含む各データを検索し、前記検索した各データを第2切断加工条件とする。なお、前記第2切断加工条件とは、被加工物32の上面と底面との間をレーザ光44の焦点位置としたときの切断加工条件をいう。
【0087】
次いで、PLC222は、前記設定した第2切断加工条件に基づいて、サーボアンプ228にモータ206を駆動させるための新たな制御信号を出力する。サーボアンプ228は、入力された前記制御信号に基づいて、前記交流電源からの交流信号を増幅してモータ206に供給し、該モータ206は、供給された前記交流信号に基づいて駆動する。
【0088】
前記モータ206の駆動作用下に、スクリューロッド212は、その軸線方向を中心として回転し、この結果、橋架部材204、スライド部材188、190、テーブル192、ステージ216及びレーザ光源46は、ガイドレール184、186の案内作用下に、レーザ光44の焦点位置が被加工物32の上面と底面との間の位置にまで変位する(ステップS203)。
【0089】
次いで、レーザ光44(図4〜図6参照)の焦点位置が被加工物32の上面と底面との間の位置にまで変位した時刻t5(図10参照)において、PLC222は、サーボアンプ228への制御信号の出力を停止し、一方で、前記第2切断加工条件に基づいて、テーブル108の回転速度をV1からV2(V1>V2)に変化させるための制御信号をインバータ226に出力する。前記インバータ226は、入力された前記制御信号に基づいて、モータ128に供給する前記交流信号のレベルを低減させ、該モータ128は、入力された前記交流信号に基づいて駆動力を低下する。この結果、テーブル108の回転速度は、時間経過と共にV1からV2に減少する(ステップS204)。
【0090】
次いで、時刻t6(図10参照)において、テーブル108の回転速度が前記第2切断加工条件にて設定されている回転速度V2になったときに、PLC222内のタイマ230が動作し、前記テーブル108が回転速度V2で安定して回転するまで所定時間(時刻t6から時刻t7までの時間)の計時を行う(ステップS205)。
【0091】
時刻t7において、タイマ230がその動作を停止すると、PLC222は、テーブル108が回転速度V2で安定に回転しているものと判断し、前記第2切断加工条件に基づいて、レーザコントローラ174にレーザ光源46を駆動させるための制御信号を出力し、一方で、前記タコメータから入力された前記パルス信号の個数のカウントを開始する。
【0092】
レーザコントローラ174は、入力された前記制御信号に基づいて、テーブル108が1回転する時間よりも短時間のパルス幅を有するパルス電圧をレーザ光源46に順次出力する。レーザ光源46のレーザ本体170は、入力された前記パルス電圧に基づいて、前記パルス幅の時間だけレーザ光44を生成し、レーザヘッド172は、窓42を通じて被加工物32の上面と底面との間の焦点位置への前記レーザ光44の照射を開始する(ステップS206)。これにより、前記被加工物32に形成された各穴176(図5参照)の最深部は、前記レーザ光44の照射に起因して前記被加工物32の底面側に変位する。
【0093】
PLC222は、前記タコメータから入力される前記パルス信号をカウントする毎に、時刻t7からカウントしている前記パルス信号の個数(テーブル108の実際の回転数)が前記第2切断加工条件で設定されているテーブル108の回転数に到達したか否かを判定し(ステップS207)、前記カウントした回転数が前記設定されている回転数に到達していない場合には、前記テーブル108の回転数のカウントと、被加工物32の前記焦点位置に対するレーザ光44の照射とを引き続き実施する。
【0094】
一方、時刻t8において、前記カウントした回転数が前記設定されている回転数に到達した場合、PLC222は、被加工物32の上面と底面側との間でのレーザ光44の照射が完了して前記被加工物32に対する前記レーザ光44の焦点位置が該被加工物32の底面側に変位したものと判断し、レーザコントローラ174に対する制御信号の出力を停止すると共に、テーブル108の回転数のカウントを停止させる(ステップS208)。
【0095】
これにより、レーザコントローラ174は、レーザ光源46へのパルス電圧の供給を停止して、前記レーザ光源46におけるレーザ光44の生成が停止され、被加工物32へのレーザ光44の照射が停止するに至る。
【0096】
次いで、PLC222は、被加工物32の切断加工が完了したか否かを再度判定する(ステップS209)。この場合、PLC222は、ステップS206の期間(図10の時刻t7から時刻t8までの期間)内で実施された切断加工が前記第2切断加工条件に基づく切断加工であるので、被加工物32の切断加工が完了していないものと判断してステップS202(図9参照)の処理に再度戻り、第3切断加工条件の設定を行う。
【0097】
すなわち、PLC222(図4参照)は、加工条件格納用メモリ224から新たにデータを検索して、前記検索したデータを前記被加工物32の第3切断加工条件として設定する(ステップS202)。この場合、前記PLC222は、加工条件格納用メモリ224から(1)被加工物32(テーブル108)の回転速度V3、回転方向及び回転数と、(2)前記被加工物32に対するレーザ光44の焦点位置と、(3)前記被加工物32に対する前記レーザ光44の1回の照射における照射時間とを含む各データを検索し、前記検索した各データを第3切断加工条件とする。なお、前記第3切断加工条件とは、被加工物32の底面側をレーザ光44の焦点位置としたときの切断加工条件をいう。
【0098】
次いで、PLC222は、前記設定した第3切断加工条件に基づいて、サーボアンプ228にモータ206を駆動させるための新たな制御信号を出力する。サーボアンプ228は、入力された前記制御信号に基づいて、前記交流電源からの交流信号を増幅してモータ206に供給し、該モータ206は、供給された前記交流信号に基づいて駆動する。
【0099】
前記モータ206の駆動作用下に、スクリューロッド212は、その軸線方向を中心として回転し、この結果、橋架部材204、スライド部材188、190、テーブル192、ステージ216及びレーザ光源46は、ガイドレール184、186の案内作用下に、レーザ光44の焦点位置が被加工物32の底面側の位置にまで変位する(ステップS203)。
【0100】
次いで、レーザ光44(図4〜図6参照)の焦点位置が被加工物32の底面側の位置にまで変位した時刻t9(図10参照)において、PLC222は、サーボアンプ228への制御信号の出力を停止し、一方で、前記第3切断加工条件に基づいて、テーブル108の回転速度をV2からV3(V2<V3)に変化させるための制御信号をインバータ226に出力する。前記インバータ226は、入力された前記制御信号に基づいて、モータ128に供給する前記交流信号のレベルを増加させ、該モータ128は、入力された前記交流信号に基づいて駆動力を増加する。この結果、テーブル108の回転速度は、時間経過と共にV2からV3に上昇する(ステップS204)。
【0101】
次いで、時刻t10(図10参照)において、テーブル108の回転速度が前記第3切断加工条件にて設定されている回転速度V3になったときに、PLC222内のタイマ230が動作し、前記テーブル108が回転速度V3で安定して回転するまで所定時間(時刻t10から時刻t11までの時間)の計時を行う(図9のステップS205)。
【0102】
時刻t11において、タイマ230がその動作を停止すると、PLC222は、テーブル108が回転速度V3で安定に回転しているものと判断し、前記第3切断加工条件に基づいて、レーザコントローラ174にレーザ光源46を駆動させるための制御信号を出力し、一方で、前記タコメータから入力された前記パルス信号の個数のカウントを開始する。
【0103】
レーザコントローラ174は、入力された前記制御信号に基づいて、テーブル108が1回転する時間よりも短時間のパルス幅を有するパルス電圧をレーザ光源46に順次出力する。レーザ光源46のレーザ本体170は、入力された前記パルス電圧に基づいて、前記パルス幅の時間だけレーザ光44を生成し、レーザヘッド172は、窓42を通じて被加工物32の底面側への前記レーザ光44の照射を開始する(ステップS206)。これにより、前記被加工物32に形成された各穴176の最深部は、前記レーザ光44の照射に起因して前記被加工物32の底面にまで到達し、この結果、前記各穴176は貫通孔に変化する。
【0104】
PLC222は、前記タコメータから入力される前記パルス信号をカウントする毎に、時刻t11からカウントしている前記パルス信号の個数(テーブル108の実際の回転数)が前記第3切断加工条件で設定されているテーブル108の回転数に到達したか否かを判定し(ステップS207)、前記カウントした回転数が前記設定されている回転数に到達していない場合には、前記テーブル108の回転数のカウントと、被加工物32の上面に対するレーザ光44の照射とを引き続き実施する。
【0105】
一方、時刻t12において、前記カウントした回転数が前記設定されている回転数に到達した場合、PLC222は、被加工物32の底面側でのレーザ光44の照射が完了したものと判断し、レーザコントローラ174に対する制御信号の出力を停止すると共に、テーブル108の回転数のカウントを停止させる(ステップS208)。
【0106】
これにより、レーザコントローラ174は、レーザ光源46へのパルス電圧の供給を停止して、前記レーザ光源46におけるレーザ光44の生成が停止され、被加工物32へのレーザ光44の照射が停止するに至る。
【0107】
次いで、PLC222は、被加工物32の切断加工が完了したか否かを再度判定する(ステップS209)。この場合、ステップS206の期間(時刻t11から時刻t12までの時間)内で前記第3切断加工条件に基づく切断加工が実施されたので、PLC222は、被加工物32の前記凹凸パターンの内側における切断加工が完了したものと判断する。
【0108】
次いで、PLC222は、レーザ光源46の位置がステップS201の切断加工前における位置にまで戻るように、サーボアンプ228にモータ206を駆動させるための新たな制御信号を出力する。サーボアンプ228は、入力された前記制御信号に基づいて、前記交流電源からの交流信号を増幅してモータ206に供給し、該モータ206は、供給された前記交流信号に基づいて駆動する。
【0109】
前記モータ206の駆動作用下に、スクリューロッド212は、その軸線方向を中心として回転し、この結果、橋架部材204、スライド部材188、190、テーブル192、ステージ216及びレーザ光源46は、ガイドレール184、186の案内作用下に、ステップS201における位置にまで変位する(ステップS210)。
【0110】
次いで、レーザ光源46(図4〜図6参照)が図9のステップS201における位置にまで変位した時刻t13(図10参照)において、PLC222は、サーボアンプ228への制御信号の出力を停止し、一方で、インバータ226への制御信号の出力を停止する。これにより、インバータ226からモータ128への交流信号の供給が停止し、この結果、時刻t14において、テーブル108の回転が停止するに至る(ステップS211)。
【0111】
次いで、PLC222は、被加工物32の前記凹凸パターンの内側及び外側における切断加工が完了したか否かを判定する(図9のステップS212)。この場合、前記PLC222は、前記第1〜第3切断加工条件に基づく切断加工が2度実施されたか否かを判定することにより、前記凹凸パターンの外側及び内側における切断加工が完了したか否かを判定する。
【0112】
すなわち、前記PLC222は、前記第3切断加工条件までの切断加工が1度も完了していない場合には、前記凹凸パターンの内側及び外側における切断加工が完了していないものと判定し、前記第3切断加工条件までの切断加工が1度実施された場合には、前記凹凸パターンの内側における切断加工が完了しているが前記外側における切断加工が完了していないものと判定し、前記第3切断加工条件までの切断加工が2度実施された場合には、前記凹凸パターンの内側及び外側における切断加工が完了しているものと判定する。
【0113】
この場合、前記凹凸パターンの内側における切断加工のプログラム(前記内側での切断加工について第1〜第3切断加工条件まで実施するプログラム)が実施されて前記内側での切断加工のみが完了しているので、PLC222は、前記凹凸パターンの外側における切断加工のプログラム(前記外側での切断加工について第1〜第3切断加工条件まで実施するプログラム)が実施されていないものと判断して、前記凹凸パターンの外側における切断加工のプログラムを前述したステップS202〜S211に従って実行する。すなわち、PLC222は、前記凹凸パターンの内側における切断加工のプログラムを実施した後に、前記凹凸パターンの外側における切断加工のプログラムを実施する。
【0114】
なお、前記凹凸パターンの外側における切断加工のプログラムは、前記第1切断加工条件に基づいて実施されるステップS203で、レーザヘッド172におけるレーザ光44の放射箇所が、平面視で、前記凹凸パターンの外側となるようにレーザ光源46を変位させる点や、ステップS204で、切断部分の円の大きさを考慮してテーブル108の回転速度が変更されている点以外は、前述した被加工物32の凹凸パターンの内側における切断加工のプログラムと略同様である。従って、前記凹凸パターンの外側における切断加工の内容については、その詳細な説明を省略する。
【0115】
次いで、ステップS212において、PLC222は、被加工物32の前記凹凸パターンの内側及び外側における切断加工が完了したか否かを再度判定し、前記第3切断加工条件までの切断加工のプログラムが2度実施されたことから、前記凹凸パターンの内側及び外側における切断加工が完了したものと判断する。
【0116】
次いで、前記作業員が被加工物32の切断加工の完了を確認(例えば、PC220の図示しないディスプレイに切断完了を示す画像が表示され、その表示を前記作業員が確認する)した後に真空ポンプ38を操作すると、真空チャンバ34内の排気処理が停止し、前記真空チャンバ34内の圧力は、前記所定圧力から大気圧に変化する。前記真空チャンバ34内の圧力が大気圧になったときに、真空チャンバ34からボルト60及びナット62を取り外して蓋体52を容器本体50から離間させ、該容器本体50から被加工物32及び切り出されたマスター担体10を取り出す(ステップS213)。
【0117】
なお、上述したステップS2の切断加工では、前記凹凸パターンの内側における切断加工のプログラムを実施した後に、前記凹凸パターンの外側における切断加工のプログラムを実施しているが、これに代えて、前記凹凸パターンの外側における切断加工のプログラムを実施した後に、前記凹凸パターンの内側における切断加工のプログラムを実施することも可能であることは勿論である。
【0118】
次いで、図8のステップS3では、ステップS2(ステップS201〜S213)で被加工物32(図4〜図6参照)より切り出されたマスター担体10からスレーブ媒体12への磁気転写を行う(図1〜図3C参照)。
【0119】
この場合、先ず、図3Aに示すように、スレーブ媒体12の半径方向に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記スレーブ媒体12と、凹凸パターン(転写領域14)が形成されたマスター担体10の一面側とを密接させた状態で、前記スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を、該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が溝18を回避するように通過する。この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化される。この結果、前記凹凸パターンに対応する各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0120】
次いで、マスター担体10(図1及び図2参照)に記録されたトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等の各信号が、マスター担体10よりスレーブ媒体12に確実に磁気転写されたか否かを検査する(ステップS4)。
【0121】
この検査では、前記スレーブ媒体12の半径方向に沿って外方より内方に向かって、あるいは内方より外方に向かって検査用磁気ヘッドを該スレーブ媒体12上方で走査し、前記検査用磁気ヘッドから出力された走査結果を示す信号をA/D変換してパーソナル・コンピュータに取り込む。
【0122】
この場合、前記走査は、スレーブ媒体12の全面にわたって行われ、前記パーソナル・コンピュータは、前記スレーブ媒体12全面における走査結果を再生出力信号としてマッピングし、前記再生出力信号のレベルの全体平均値に対して70[%]以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5[%]以下であれば、マスター担体10からスレーブ媒体12に前記各信号(転写信号)が確実に転写されたものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が良好であるものと判定する。
【0123】
一方、前記70[%]以下の箇所が、スレーブ媒体12全体の0.5[%]を越えると、マスター担体10から前記スレーブ媒体12に前記転写信号が良好に転写されていないものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が不良であると判定する。
【0124】
図11は、磁気転写の評価結果を示す表であり、実施例1〜実施例3は、真空チャンバ34内の圧力を被加工物32を構成する材料の三重点における圧力以下に減圧した状態で該被加工物32から切り出されたマスター担体10(図1及び図2参照)を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果であり、比較例1〜比較例4は、前記真空チャンバ34の圧力が前記三重点における圧力を越えた状態で、被加工物32から切り出されたマスター担体10を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果である。なお、図11では、被加工物32(マスター担体10)の材料はニッケルであり、その厚みは0.3[mm]である。
【0125】
実施例1〜実施例4では、前記70[%]以下の箇所の割合がいずれも0.5[%]以下であり、前記転写信号の品位が良好である。これは、真空チャンバ34内の圧力を前記三重点における圧力(図7Aに示す8.0×10-3[Torr])以下とした状態で被加工物32に対する切断加工を行ったことによるものである。
【0126】
すなわち、前記真空チャンバ34内の圧力がニッケルの三重点における圧力以下であると、切断加工時にレーザ光44によって加熱された被加工物32の照射部分は、固相から気相へと昇華する。換言すれば、前記照射部分は、液相を介することなく切断される。従って、切断加工時における溶融物の発生や、切断面近傍におけるドロス及びバリの発生が抑制され、ステップS3(図8参照)において、マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が向上して、確実に磁気転写が行われるためである。
【0127】
これに対して、比較例1〜比較例4では、前記70[%]以下の箇所の割合がいずれも0.5[%]を越え、前記転写信号の品位が不良である。これは、前記三重点を越える圧力においてレーザ光44を被加工物32に照射するので、照射部分に溶融物が発生して切断面にドロスやバリが発生し、この結果、ステップS3において、マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が低下するためである。
【0128】
図12は、マスター担体10の厚みを変えたときの磁気転写の評価結果を示す表であり、実施例4及び実施例5は、真空チャンバ34内の圧力を被加工物32を構成する材料の三重点における圧力以下に減圧した状態で該被加工物32から切り出されたマスター担体10(図1及び図2参照)を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果であり、比較例5及び比較例6は、前記真空チャンバ34内の圧力が大気圧である場合において、被加工物32から切り出されたマスター担体10を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果である。
【0129】
なお、図12では、被加工物32(マスター担体10)の材料はニッケルであり、その厚みは実施例4及び比較例5において0.3[mm]であり、実施例5及び比較例6において0.15[mm]である。
【0130】
この場合も、実施例4及び実施例5では、マスター担体10の厚みを変えても、前記70[%]以下の箇所の割合がいずれも0.5[%]以下であり、前記転写信号の品位が良好である。これは、前述した図11の結果と同様に、真空チャンバ34内の圧力を前記三重点における圧力(図7Aに示す8.0×10-3[Torr])以下とした状態で被加工物32に対する切断加工を行ったことによるものである。
【0131】
これに対して、比較例5及び比較例6では、前記70[%]以下の箇所の割合がいずれも0.5[%]を越え、前記転写信号の品位が不良である。これは、前記三重点での圧力を越える大気圧においてレーザ光44を被加工物32に照射するので、照射部分に溶融物が発生して切断面にドロスやバリが発生し、この結果、ステップS3において、マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が低下するためである。
【0132】
このように、本実施形態によれば、被加工物32を構成する材料の三重点での圧力以下で該被加工物32に対する切断加工を行うので、切断加工時にレーザ光44によって加熱された照射部分は、固相から気相へと昇華する。換言すれば、前記照射部分は、液相を介することなく切断される。この結果、切断加工時における溶融物の発生や、切断面近傍におけるドロス及びバリの発生が抑制され、切断面の品質を確保することができる。従って、磁気転写工程におけるマスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が向上して、該マスター担体10に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体12に磁気転写することができる。
【0133】
また、前記三重点の圧力以下に減圧することにより、前記照射部分の沸点が低下するので、従来技術と比較して、低出力のレーザ光44を利用して被加工物32の切断加工を効率よく行うことができる。この結果、前記切断加工に係る設備のイニシャルコストやランニングコストを削減することが可能となる。
【0134】
また、本実施形態によれば、真空チャンバ34内を大気圧から所定圧力に減圧することにより、被加工物32の沸点を低下させることができる。この結果、従来技術と比較して、切断加工時にレーザ光44による前記被加工物32の照射部分が固相から液相(溶融状態)を経由して気相に変化するまでの時間が短縮され、溶融物の発生を抑制することが可能となる。従って、切断面近傍におけるドロスやバリの発生が抑制されて該切断面の品質を確保することができ、磁気転写工程におけるマスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が向上して、該マスター担体10に記録された各信号を確実に前記スレーブ媒体12に磁気転写することができる。
【0135】
また、前記沸点の低下により、従来技術と比較して、低出力のレーザ光44を利用して被加工物32の切断加工を短時間で効率よく行うことができるので、前記切断加工に係る生産性が向上して、設備のイニシャルコストやランニングコストを削減することが可能となる。さらに、真空チャンバ34内を前記所定圧力に減圧し且つ被加工物32を回転させた状態で切断加工を行うので、切断加工に係る作業効率が向上する。
【0136】
この場合、真空チャンバ34内でテーブル108及びクランパ110により被加工物32を固定保持し、モータ128及びシャフト124により前記真空チャンバ34の外部から前記テーブル108を中心軸134を中心に回転させるので、切断加工に係る作業効率をさらに向上させることができる。
【0137】
また、ローラ102の案内作用下に前記内輪部100及び前記テーブル108を回転させるので、回転ぶれが抑制された状態で前記被加工物32を前記中心軸134を中心に回転させることができ、この結果、前記被加工物32の切断加工を精度よく行うことが可能となる。
【0138】
さらに、磁性流体158、160によってベース54におけるシャフト124の貫通部分をシールするので、前記貫通部分が確実にシールされて真空チャンバ34内の気密性が向上し、被加工物32から切断面品質がより良好なマスター担体10を切り出すことが可能となる。
【0139】
さらにまた、レーザ光源46を被加工物32に対してレーザ光44を繰り返し照射するパルスレーザ光源とすることにより、照射部分への前記レーザ光44の照射に起因する過度のエネルギー供給が抑制され、マスター担体10の切断面の品質をより一層高めることができる。
【0140】
さらにまた、焦点位置調整機構180により被加工物32に対するレーザ光源46の距離を変化させて、前記照射部分に対するレーザ光44の焦点位置を調整すれば、前記照射部分を効率よく切断することができる。
【0141】
上述した実施形態では、被加工物32に対するレーザ光44の焦点位置を焦点位置調整機構180により調整しているが、この構成に代えて、レーザヘッド48内に被加工物32表面に対して進退自在な図示しない位置合わせ機構を備えさせることも可能である。このような位置合わせ機構としては、例えば、前記レーザ光44が通過する図示しない集光レンズの位置を前記被加工物32表面に対して進退させる機構のほか、前記レーザヘッド48自体が前記被加工物32表面に対して進退する機構であることが好ましい。
【0142】
また、上述した実施形態では、モータ128を中心軸134と略同軸に配置しているが、この構成に代えて、図13に示すように、前記モータ128をテーブル68におけるフランジ58下方に固定し、回転軸132に軸着されたプーリ240と、カップリング126と略同軸に連結されたプーリ242とをベルト244で懸架して、前記モータ128を駆動した際に、前記ベルト244を介してプーリ242及びシャフト124を中心軸134を中心に所定方向に回転させるようにすることも可能である。
【0143】
さらに、本実施形態では、磁性流体シール手段130を用いてシャフト124におけるベース54の貫通部分(孔122)をシールしているが、この構成に代えて、一般的な真空シール手段を用いて前記貫通部分のシールを行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】マスター担体の平面図である。
【図2】マスター担体とスレーブ媒体とを重畳した状態における図1のII−II線に沿った一部拡大断面図である。
【図3】図3Aは、スレーブ媒体に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、マスター担体及び前記スレーブ媒体に転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、スレーブ媒体に対する磁気転写が完了した状態を示す一部拡大断面図である。
【図4】本実施形態に係るレーザ切断加工システムの概略ブロック構成図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図7Aは、被加工物の材料がニッケルである場合の相変化を示すグラフであり、図7Bは、被加工物の材料がアルミニウムである場合の相変化を示すグラフである。
【図8】被加工物よりマスター担体を形成し、前記形成されたマスター担体からスレーブ媒体に磁気転写を行う一連の処理を示すフローチャートである。
【図9】図8のステップS2を詳細に記載したフローチャートである。
【図10】PLCから各モータ及びレーザコントローラへの制御を示すタイムチャートである。
【図11】マスター担体よりスレーブ媒体に対する磁気転写の評価結果を示す表である。
【図12】マスター担体よりスレーブ媒体に対する磁気転写の評価結果を示す表である。
【図13】モータからベルトを介してシャフトを回転させる構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0145】
10…マスター担体 12…スレーブ媒体
30…レーザ切断加工システム 32…被加工物
34…真空チャンバ 38…真空ポンプ
40…被加工物回転機構 42…窓
44…レーザ光 46…レーザ光源
50…容器本体 52…蓋体
54…ベース 68、108、192…テーブル
96…クロスローラリング 110…クランパ
112…中心位置決め部材 124…シャフト
128、206…モータ 130…磁性流体シール手段
134…中心軸 158、160…磁性流体
174…レーザコントローラ 180…焦点位置調整機構
184、186…ガイドレール 188、190…スライド部材
194〜200…摺動範囲規制部材 212…スクリューロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、
前記被加工物は、金属を表面に有し、
真空容器内に前記被加工物を配置し且つ該真空容器内を前記金属の三重点での圧力以下の圧力とした状態で、前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行う
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ切断加工方法において、
前記被加工物の切断加工時における前記真空容器内の圧力は、前記金属がニッケルである場合には、8.0×10-3[Torr]以下であり、前記金属がアルミニウムである場合には、1.2×10-8[Torr]である
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のレーザ切断加工方法において、
前記真空容器は、光透過性の窓を有し、外部から前記窓を介して前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2007−220165(P2007−220165A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36989(P2006−36989)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】