説明

磁石用圧粉成形体の製造方法、磁石用圧粉成形体、及び焼結体

【課題】磁石特性に優れる希土類焼結磁石が得られる圧粉成形体を生産性よく製造できる磁石用圧粉成形体の製造方法、配向性に優れ、希土類焼結磁石の素材に好適な磁石用圧粉成形体、及び焼結体を提供する。
【解決手段】希土類合金からなり、粒径:2μm以下の微細粒子を15質量%以上含む原料粉末Pを成形用金型50に充填して加圧・圧縮すると共に、磁場を印加して、圧粉成形体を形成する。嵩密度の1.05〜1.2の充填密度である粉末成形体に1T〜2Tの弱磁場を印加した成形体10に、0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上の強磁場を高温超電導コイル60により印加する。常電導コイル70による磁場の印加方向と逆方向に高温超電導コイル60による磁場を印加すると共に高速励磁を行うことで、粗大な粒子と共に微細粒子を回転させて、配向性を高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石などに利用される焼結磁石の素材となる圧粉成形体を製造する磁石用圧粉成形体の製造方法、磁石用圧粉成形体、及び焼結体に関する。特に、磁石特性に優れる希土類磁石が得られる圧粉成形体を生産性よく製造することができる磁石用圧粉成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機などに利用される永久磁石には、希土類磁石(代表的には、Nd-Fe-B磁石、Sm-Fe-N磁石)が広く利用されている。希土類磁石には、粉末冶金法を利用して製造する焼結磁石と、原料粉末と結合樹脂との混合物からなるボンド磁石とがある。焼結磁石は、結合樹脂が存在するボンド磁石と比較して、磁性相の比率が高く、磁石特性に優れる。
【0003】
焼結磁石は、代表的には、原料粉末を磁場印加中で成形し、この成形体を焼結することで得られる(特許文献1など)。成形時に磁場を印加することで、結晶の配向性を高めて、磁石特性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-224018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
希土類焼結磁石の磁石特性の更なる向上が望まれる。また、高性能な希土類焼結磁石を生産性よく製造することが望まれる。
【0006】
磁石特性を向上するためには、配向性を高めることが効果的である。しかし、従来の製造方法では、配向性を更に高めることが難しい。
【0007】
例えば、原料に2μm以下といった微細粒子を含む粉末(以下、微細粉末と呼ぶ)、つまり、粒度分布をもつ粉末を用いた場合、外部磁場を印加すると、粗大な粒子は相対的に磁場を受け易いことから、各々が回転可能であり十分に配向することができる。しかし、微細粒子は比表面積が大きく反磁界が大きくなるため相対的に磁場を受け難いことから、外部磁場を印加しても、各々が十分に回転できず、配向が不十分となる。その結果、微細粉末を原料粉末に用いると、結晶配向度がせいぜい80%程度の配向性が低い圧粉成形体が得られる。
【0008】
印加する磁場を大きくすれば、上記微細粒子も回転し易くなる。しかし、上記微細粒子が十分に回転可能な程度の磁場は、汎用の電磁石(例えば、ソレノイド、パルスなど)や永久磁石を用いて外部励磁によって発生させることが困難な大きさ、即ち、大量生産に不向きな大きさであり、磁場の増大による配向性の向上は、工業的な生産性の低下を招く。そのため、従来、このような配向し難い微細粒子を除去して、比較的粗大な粒子からなる粉末を原料粉末に用いていた。粗大な粒子100からなる粉末を利用した場合、図3(A)に示すように磁場印加前の各粒子100の結晶方位がランダムであっても、磁場の印加により、図3(B)に示すように所望の方向に配向させることができる。しかし、微細粒子を除去することで、歩留まりが悪く、この点から生産性の低下を招く。
【0009】
そこで、本発明の目的の一つは、磁石特性に優れる希土類焼結磁石が得られる磁石用圧粉成形体の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、磁石特性に優れる希土類焼結磁石が得られる磁石用圧粉成形体、及び焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
微細粒子は、それ自身では磁場によって回転し難い。しかし、微細粒子の周囲に存在する粒子が同程度の粒子サイズであっても、集まって粒子群として回転すれば、これらの粒子の回転によるモーメントが個々の微細粒子に作用して回転可能となり得る。従って、微細粒子の周囲に存在する粒子を確実に回転させると共に、この周囲の粒子の回転と同時に微細粒子を回転させる必要がある。このような配向制御にあたり、本発明は、磁場の印加を少なくとも2回行うこと、各回の磁場の印加方向を異ならせること、かつ少なくとも1回の磁場は、超電導コイルを用いることを提案する。
【0011】
本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、希土類元素と鉄とを含む希土類合金からなる粉末を用いて、焼結磁石の素材に利用される圧粉成形体を製造する方法であって、以下の準備工程、成形工程を具える。また、成形工程は、以下の低加圧工程、弱磁場印加工程、及び強磁場印加工程を具える。
準備工程:上記希土類合金からなり、粒径が2μm以下の微細粒子を15質量%以上100質量%以下含む原料粉末を準備する工程。
成形工程:上記原料粉末を成形用金型に充填して加圧・圧縮すると共に、磁場を印加して、圧粉成形体を形成する工程。
低加圧工程:上記成形用金型に充填された上記原料粉末を加圧・圧縮して、嵩密度の1.05以上1.2以下の充填密度である粉末成形体を作製する工程。
弱磁場印加工程:上記粉末成形体に、1T以上2T以下の弱磁場を印加する工程。
強磁場印加工程:0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上の強磁場を上記弱磁場印加工程を経た成形体に印加する工程。
上記弱磁場は、上記圧粉成形体を構成する粒子の結晶を配向させたい所望の方向に対して立体角で90°以上180°以下の方向に印加する。また、上記強磁場は、超電導コイルを用いて、上記配向させたい所望の方向に印加する。
【0012】
上記本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法により、配向性が高い本発明の磁石用圧粉成形体が得られる。本発明の磁石用圧粉成形体は、焼結磁石の素材に利用され、希土類元素と鉄とを含む希土類合金からなる粉末により構成された圧粉成形体である。上記粉末は、粒径が2μm以下の微細粒子を15質量%以上100質量%以下含む。そして、上記圧粉成形体の結晶配向度が95%以上である。
【0013】
本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、上述の微細粒子を含有する微細粉末を原料粉末に利用し、かつ上述のように特定の大きさの磁場を特定の方向に複数回印加し、特に強磁場を印加するにあたり、励磁速度を特定の大きさとすることで、結晶配向度が高い圧粉成形体(代表的には本発明の磁石用圧粉成形体)が得られる。また、微細粉末を利用することで、例えば、粉砕したままの粉末、即ち、微粗粒が混在した粒度分布を有する粉末をそのまま原料粉末に利用可能であり、従来のように微細粒子を除去しなくてもよい。上記の点から、本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、配向性に優れる圧粉成形体を生産性よく製造することができる。また、得られた圧粉成形体を素材に利用することで、磁石特性に優れる希土類焼結磁石が得られる。従って、本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、磁石特性に優れる希土類焼結磁石の生産性の向上に寄与することができる。
【0014】
ここで、希土類焼結磁石において最も優れた特性を有するNd-Fe-B磁石では、保磁力の向上効果の大きいDyを通常添加している。しかし、Dyの資源希少性からDyを添加しない、或いは使用量を低減しても保磁力を向上できることが望まれている。本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法では、原料粉末に、粒径が2μmの微細粉末を利用することで、得られた圧粉成形体を焼結する場合に焼結時の結晶粒界のサイズを小さくできることから、Dyの添加に依らず保磁力が増大できると期待される。従って、本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、Dyの資源問題に対応する観点からも、磁石特性に優れる焼結磁石の生産性の向上に寄与することができると期待される。
【0015】
本発明の磁石用圧粉成形体は、配向性に優れることから、焼結磁石の素材に利用することで、磁石特性に優れる希土類焼結磁石が得られる。また、本発明の磁石用圧粉成形体を焼結して得られた本発明の焼結体は、配向性が高い本発明の圧粉成形体を素材に用いたことで、磁石特性に優れる希土類焼結磁石として好適に利用できる。
【0016】
本発明の一形態として、上記強磁場印加工程では、0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上に達した後、3T以上の強磁場を印加した状態で、嵩密度の1.2超の充填密度となるように上記弱磁場印加工程を経た成形体を更に加圧・圧縮する形態が挙げられる。
【0017】
上記形態は、強磁場を印加した状態で更に加圧・圧縮することで成形体を緻密にできることから、強度が高く、ハンドリング性に優れる圧粉成形体が得られる。
【0018】
本発明の一形態として、上記強磁場印加工程では、0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上に達した後、3T以上の強磁場を印加した状態で、嵩密度の1.2超1.45以下の充填密度となるように上記弱磁場印加工程を経た成形体を更に加圧・圧縮し、0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で5T以上に励磁して、5T以上に達した後、5T以上の強磁場を印加した状態で、嵩密度の1.45以上真密度の66%以下となるように上記成形体を加圧・圧縮する形態が挙げられる。
【0019】
上記形態は、強磁場を印加した状態で加圧・圧縮した後、更に大きな磁場を印加した状態で、加圧・圧縮することで、配向性を更に高められる上に、更に緻密化することができ、配向性により優れ、高強度な圧粉成形体が得られる。また、最終的な圧縮度合いを上記特定の範囲とすることで、粒子の割れを防止でき、割れに起因する磁石特性の低下を抑制できる。
【0020】
本発明の一形態として、上記超電導コイルが高温超電導コイルである形態が挙げられる。
【0021】
高温超電導コイルは、(1)大きな励磁速度が可能(0.01T/sec以上、更に0.1T/sec以上)、(2)大きな磁場を印加可能(3T以上、更に5T以上)、(3)磁場の印加可能領域が大きい。そのため、上記形態は、磁場の印加可能領域が小さい常電導パルスコイルと異なり、永久磁石の素材に利用され得る任意の大きさの圧粉成形体に利用可能であったり、微細粒子の含有量が高くても配向性を安定して高めたりすることができ、工業的意義が高い。
【発明の効果】
【0022】
本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、配向性に優れる磁石用圧粉成形体を生産性よく製造することができる。本発明の磁石用圧粉成形体及び本発明の焼結体は、結晶配向度が高く、磁石特性に優れる希土類焼結磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法において、成形用金型及び磁場を印加するコイルの配置状態を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法において、粒子の配向状態を模式的に示す説明図である。
【図3】粒子の配向状態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をより詳細に説明する。
〔製造方法〕
[準備工程]
原料粉末として、希土類合金からなる粉末を用意する。希土類合金は、RE=Y,La,Ce,Pr,Nd,Dy,Tb及びSmから選択される少なくとも1種、X=B,C及びNから選択される1種、ME=Co,Cu,Mn及びNiから選択される少なくとも1種とするとき、RE-Fe-X合金、又はRE-Fe-ME-X合金が挙げられる。より具体的には、Nd-Fe-B合金、Nd-Fe-C合金、Sm-Fe-N合金、Nd-Fe-Co-B合金などが挙げられる。希土類焼結磁石に利用されている公知の希土類合金からなる粉末を原料粉末に利用することができる。
【0025】
原料粉末は、所望の組成の合金からなる溶解鋳造インゴットや急冷凝固法で得られる箔状体をジョークラッシャー、ジェットミルやボールミルなどの粉砕装置により粉砕したり、ガスアトマイズ法といったアトマイズ法を利用して製造することができる。公知の粉末の製造方法により得られた粉末やアトマイズ法により製造した粉末を更に粉砕して利用してもよい。粉砕条件や製造条件を適宜変更することで、原料粉末の粒度分布や粉末を構成する各粒子の形状を調整することができる。粒子の形状は、特に問わないが、真球に近いほど、緻密化し易い上に、磁場の印加によって粒子が回転し易い。アトマイズ法を利用すると、真球度の高い粉末が得られる。
【0026】
原料粉末は、粒径が2μm以下の微細粒子を含有することを特徴の一つとする。原料粉末の粒度は、レーザ回折式粒度分布装置により測定した値とする。原料粉末の実質的に全てが2μm以下の微細粒子(原料粉末中の微細粒子の含有量:100質量%)とすることができる。本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、特定の大きさの磁場を特定の向きに複数回印加すると共に、特定の大きさの高速励磁による磁場の印加を行うことで、従来に無い非常に微細な粒子(例えば、1μm以下)を含む粉末を原料粉末に用いても、粗大な粉末を用いて従来の製造方法により得られた圧粉成形体と同程度以上の配向性を有する圧粉成形体が得られる。この圧粉成形体を素材とすることで、従来の製造方法により得られた圧粉成形体を素材とした焼結磁石と同程度以上の磁石特性を有する希土類焼結磁石が得られる。
【0027】
原料粉末は、微細であるほど充填密度を高め易いことから、最大粒径は、20μm以下、更に15μm以下が好ましい。
【0028】
原料粉末中に2μm超の粒子が多いほど配向させ易く、2μm以下の粒子が多いほど、緻密化し易い上に、粉砕後、分級して除外する量を低減し易い、或いは除外を行わなくてもよく、生産性に優れる。生産性を考慮すると、原料粉末中の2μm以下の粒子の含有量は、25質量%以上、更に35質量%以上、特に50質量%以上が好ましい。
【0029】
原料粉末には、潤滑剤を添加することができる。潤滑剤を含む混合物とすると、磁場の印加時に原料粉末を構成する各粒子が回転し易くなり、配向性を高め易い。潤滑剤は、原料粉末と実質的に反応しない種々の材質、形態(液状、固体状)のものが利用できる。例えば、液状潤滑剤は、エタノール、機械油、シリコーンオイル、ひまし油など、固体状潤滑剤は、ステアリン酸亜鉛などの金属塩、六方晶窒化ホウ素、ワックスなどが挙げられる。潤滑剤の添加量は、液状潤滑剤では、原料粉末100gに対して0.01質量%以上10質量%以下程度、固体状潤滑剤では、原料粉末の質量に対して0.01質量%以上5質量%以下程度が挙げられる。
【0030】
[成形工程]
(低加圧工程)
所望の形状・大きさの圧粉成形体が得られるように、所望の形状・大きさの成形用金型を用意する。成形用金型は、従来、焼結磁石の素材に用いられている圧粉成形体の製造に利用されているもの、代表的には、ダイ、上下パンチを具えるものを利用することができる。その他、静水圧加圧(Cold Isostatic Press)を利用することができる。
【0031】
低加圧工程では、次の弱磁場印加工程で、2μm超、特に5μm以上の比較的粗大な粒子が十分に回転できるように、粒子間に隙間が設けられる程度に加圧・圧縮して、ある程度のまとまり:粉末成形体を形成する。具体的は、この加圧・圧縮後に得られる粉末成形体の充填密度が嵩密度の1.05以上1.2以下を満たすように圧縮する。嵩密度とは、原料粉末を加圧・圧縮する直前の見かけ密度(成形用金型に充填した原料粉末の質量/成形用金型における加圧・圧縮前の成形領域の体積)とし、充填密度とは、加圧・圧縮した後の見かけ密度(成形用金型に充填した原料粉末の質量/成形用金型における加圧・圧縮後の成形領域の体積(=粉末成形体の体積))とする。
【0032】
成形時の加圧圧力の大きさは、充填密度などに応じて適宜選択することができ、例えば、0.05ton/cm2〜0.5ton/cm2が挙げられる。後述するように多段階に分けて加圧・圧縮を行う場合も、各成形時の加圧圧力は、充填密度などに応じて選択するとよい。
【0033】
(弱磁場印加工程)
上記粉末成形体に磁場を印加する。この磁場は、比較的小さくする(1T〜2T)。かつ、磁場の印加方向は、最終的に得られる圧粉成形体を構成する粒子の結晶を配向させたい方向ではなく、当該配向させたい方向に対して立体角で90°〜180°の範囲でずれた方向とする。即ち、本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法では、配向させたい方向とは異なる方向に磁場を印加する工程を具えることを特徴の一つとする。粉末成形体を構成する粒子が粒度分布を有する場合や上述の微細粒子である場合、1回の磁場の印加によって全ての粒子を同じ方向に揃えることが難しく、一部の粒子しか十分に回転しない。そこで、磁場の印加を1回とするのではなく、複数回とすることが考えられる。しかし、微細粒子は、上述のように磁場が印加されても粗大な粒子よりも回転し難いことから、複数回の磁場を同じ方向に印加しても、1回目の磁場の印加により回転した粒子は、以降の磁場の印加により実質的に回転せず、当該微細粒子は十分に回転できないままになる。そこで、本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法では、何回も同じ方向に磁場を印加するのではなく、少なくとも2回の磁場を異なる方向に印加する。また、この2回のうちの1回目を配向させたい方向とは異なる方向とする。こうすることで、1回目の磁場の印加により回転した粒子は、本来、配向させたい方向と異なる方向に回転しているため、2回目の磁場の印加でも回転することになる。その結果、2回目の磁場の印加時、回転する粒子数が多くなる、即ち、微細粒子の周囲に存在する粗大な粒子や、粗大な粒子と、1回目に回転しなかった微細な粒子の大きさと同程度の粒子サイズの微細な粒子とが集まって粒子群となって回転できるため、微細粒子を配向させたい方向に回転させ易くすることができる。
【0034】
弱磁場印加工程における磁場の印加は、上述のように、主として2回目の磁場の印加時に回転する粒子数を増やすための操作であり、配向させたい方向に粒子を回転させるための操作ではない。そのため、弱磁場印加工程では、主として2μm超、更に3μm以上、特に5μm以上の粒子が回転できればよいため、1T以上2T以下といった比較的小さな磁場でよい。
【0035】
なお、2μm以下の微細粒子が多い原料粉末、例えば、実質的に微細粒子のみからなる微細粉末を用いた場合でも、1T〜2Tの磁場により回転する粒子が存在するため、2回目の磁場を印加するときに大きな回転角度をもつ粒子が多い状態になり得る。回転角度が大きいほど回転の運動量が大きくなるため、回転を阻害する摩擦などの影響を受け難くなる。従って、微細粒子が多い原料粉末を利用した場合でも、特定の異なる方向に複数回の励磁によって配向させる構成とすることで、1回の励磁によって配向させる場合や同じ方向に複数回の励磁によって配向させる場合よりも配向性が高い圧粉成形体が得られる。
【0036】
弱磁場印加工程における磁場の印加には、1T〜2Tの磁場の印加が可能な磁石、具体的には、銅線コイルといった常電導コイルを具える常電導磁石、超電導コイルを具える超電導磁石のいずれも利用可能である。
【0037】
(強磁場印加工程)
強磁場印加工程は、主として、上記弱磁場印加工程を経た成形体(以下、この成形体をプレ成形体と呼ぶ)の配向性を高めるための工程であり、最終的に得られる圧粉成形体を構成する粒子の結晶を配向させたい方向に磁場を印加する。特に、この工程では、励磁速度が0.01T/sec以上という高速励磁を行うと共に、3T以上という強磁場を印加することを特徴の一つとする。高速励磁を行うことで、微粗混合の場合でも、磁場を受け易い粗大粒子の回転時に、微細粒子も同時に回転することができる。即ち、上記プレ成形体を構成する各粒子の回転を同時に行える。励磁速度が0.01T/sec未満と遅い場合、1T〜2T程度の磁場に到達した段階で粗大な粒子のみが回転し、3Tに到達した時点では、粗大な粒子の回転が終了している恐れがある。3T以上の強磁場を印加していても微細粒子の周囲の粒子がほとんど回転しないことから、これら周囲の粒子のモーメントによる微細粒子の回転援助を行えず、微細粒子の回転が不十分となり、配向性を高められなくなる。励磁速度が大きいほど、上記プレ成形体を構成する粒子において、同時に回転する粒子数を多くし易いことから、0.05T/sec以上、0.1T/sec以上がより好ましい。一方、パルス励磁のように、励磁速度が大き過ぎると、粒子が回転し過ぎるなどして配向性を高められ難い恐れがあることから、励磁速度は、0.15T/sec以下とする。励磁速度を0.15T/sec以下とすることで、安定して粒子を回転でき、配向性が高い圧粉成形体を良好に製造できる。
【0038】
また、強磁場印加工程における磁場が大きいほど配向性を高められるため、印加する磁場の大きさは、5T以上がより好ましい。
【0039】
このような高速励磁及び強磁場の印加を行うにあたり、常電導磁石を利用してもよいが、超電導磁石、特に高温超電導磁石を好適に利用することができる。ここで、低温超電導磁石は、一般に、1Tの変動に当たり5分〜10分程度必要であり、励磁速度が0.01T/sec未満である。高温超電導磁石は、例えば、1Tの変動が10秒以内で行える、つまり、0.1T/sec以上の励磁速度が可能である上に、3T以上、更に5T以上という強磁場を容易に形成できる。なお、高温超電導磁石は、0.1T/sec以下、例えば、0.01T/sec以上の励磁速度も可能であり、低速から高速まで対応可能である。また、高温超電導磁石は、印加可能範囲が常電導磁石よりも大きく、広い空間に対して大きな磁場の印加を行える。そのため、高温超電導磁石は、小さい圧粉成形体及び大きな圧粉成形体の製造に利用可能であり、磁場の印加対象における大きさの自由度が高い。更に、磁場変動を高速で行えるため、磁場の印加の制御も速やかに行える。加えて、高温超電導磁石は、常電導のパルスコイルよりも強磁場を長時間発生でき、比較的低い磁場でも原料粉末を回転可能である、磁場の印加と共に加圧や減圧脱ロウ(加熱によって液化もしくは気化した潤滑材を減圧吸引して除去する処理)などの処理が可能である、といった利点も有する。また、高温超電導磁石を用いることで、潤滑剤の使用量低減、又は潤滑剤の省略が可能な場合がある。高温超電導磁石は、代表的には、酸化物超電導体により構成された超電導コイルを例えば冷凍機による伝導冷却で冷却して使用される(動作温度はおよそ-260℃以上)。
【0040】
強磁場印加工程における磁場の印加方向は、最終的に得られる圧粉成形体を構成する粒子の結晶を配向させたい方向とする。つまり、本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、上記弱磁場印加工程と異なる方向に磁場を印加して、配向性を高める工程を具えることを特徴の一つとする。上述のように弱磁場印加工程で、配向させたい方向とは異なる方向(代表的には逆方向)に磁場を印加した後、配向させたい方向に再度磁場を印加する、特に、上述のように高速励磁で強磁場を印加することで、微細粒子を含有する場合でも、上記粒子を十分に、かつ安定して回転させることができ、配向性に優れる圧粉成形体が得られる。
【0041】
弱磁場印加工程を経たプレ成形体に上記特定の条件(励磁速度・磁場の大きさ・磁場の向き)で磁場を印加することで、嵩密度の1.2以下の充填密度を有する圧粉成形体(本発明の圧粉成形体の一形態)が得られる。
【0042】
特に、強磁場印加工程において、0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上に達した後、3T以上の強磁場を印加した状態で、プレ成形体を更に加圧・圧縮することで(以下、この加圧を第一緻密化加圧と呼ぶ)、緻密な圧粉成形体が得られる。具体的には、嵩密度の1.2超の充填密度となるようにプレ成形体を加圧・圧縮すると、緻密化により強度が高められた圧粉成形体(嵩密度の1.2超の充填密度を有する圧粉成形体(本発明の圧粉成形体の一形態))が得られる。この形態では、3T以上に達してからプレ成形体を加圧・圧縮するため、励磁中に上述した配向性を高めるための粒子の回転を十分に行える。また、この形態では、3T以上の磁場を印加した状態で加圧・圧縮するため、加圧時に配向性を低下させ難い上に、強磁場の印加により微細粒子を十分に、かつ安定して回転させて、配向性をより高められる。その結果、この形態は、結晶配向度がより高く緻密な圧粉成形体が得られる。この形態において、プレ成形体に加圧・圧縮を開始するときの磁場が大きいほど、配向性を高められる傾向にあり、当該磁場は5T以上がより好ましい。
【0043】
更に、緻密な成形体とするために、第一緻密化加圧を、嵩密度の1.2超1.45以下の充填密度となるように行った後、0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で5T以上に励磁して、5T以上に達した後、5T以上の強磁場を印加した状態で、嵩密度の1.45以上真密度の66%以下となるように、上記第一緻密化加圧が施された成形体(以下、この成形体を緻密化成形体と呼ぶ)を加圧することができる(以下、この加圧を第二緻密化加圧と呼ぶ)。第二緻密化加圧も特定の大きさの高速励磁とすることで、励磁時における配向性の低下を抑制しつつ、緻密化成形体中の微細粒子の配向性を更に高められる上に、更なる緻密化を図ることができる。この形態では、嵩密度の1.45以上真密度の66%以下の充填密度を有する圧粉成形体(本発明の圧粉成形体の一形態)が得られる。第二緻密化加圧を真密度の66%以下の充填密度とすることで、当該加圧時に粒子の割れを抑制でき、この圧粉成形体を素材にすることで、割れに起因する磁石特性の低下を防止して、磁石特性に優れる希土類焼結磁石を得ることができる。この形態において、緻密化成形体に加圧・圧縮を開始するときの磁場が大きいほど、配向性を高められる傾向にあり、当該磁場は5.5T以上がより好ましい。但し、上記磁場が大き過ぎると、励磁時間が長くなるため、当該磁場は、10T以下、更に8T以下が好ましい。第一緻密化加圧及び第二緻密化加圧のいずれも励磁速度は、0.1T/sec以上がより好ましい。
【0044】
高温超電導磁石といった超電導磁石を用いた場合、上述の弱磁場も強磁場も形成することができる。従って、弱磁場の印加と強磁場の印加とを一つの超電導磁石を用いて行うことができる。しかし、一つの超電導磁石を用いる場合、強磁場印加工程は、高速励磁が必要であるため、弱磁場印加工程の磁場を一旦減磁した後、再度、励磁する必要があり、減磁のための時間が必要になる。一方、弱磁場印加工程に用いる磁石と、強磁場印加工程に用いる超電導磁石とを別の磁石とすることで、弱磁場印加工程に用いている磁石による磁場の発生の有無に係わらず、超電導磁石による高速励磁を行えるため、製造時間の短縮を図ることができる。超電導磁石による励磁の開始にあたり、弱磁場を発生させている場合、当該弱磁場を相殺するように超電導磁石による磁場の大きさを調整することができる。しかし、この場合、相殺分のエネルギーが必要となるため、強磁場を発生するための超電導磁石の励磁を開始したら、弱磁場の発生を速やかに停止することが好ましい。
【0045】
〔圧粉成形体〕
本発明の磁石用圧粉成形体は、粒径が2μm以下といった微細粒子を含有する。原料粉末によって、微細粒子の含有量を変化させられる。例えば、微細粒子の含有量が25質量%以上、特に35質量%以上である形態、更に50質量%以上である形態とすることができる。
【0046】
本発明の磁石用圧粉成形体は、結晶配向度が非常に高く95%以上、更には97%以上を満たす形態とすることができる。結晶配向度の測定方法は、後述する。
【0047】
なお、本発明の磁石用圧粉成形体を構成する粒子の大きさ・材質は、原料粉末の大きさ・材質を実質的に維持する。圧粉成形体を構成する粒子の大きさは、例えば、圧粉成形体の表面又は断面を顕微鏡観察し、この観察像から粒子の輪郭を抽出し、抽出した輪郭の面積を算出し、この面積と等価面積を有する円の直径を当該粒子の粒径とすることができる。この粒径の算出は、市販の画像処理装置を利用すると容易に行える。圧粉成形体を構成する粒子の組成は、例えば、X線回折などにより確認することができる。
【0048】
〔焼結体〕
本発明の磁石用圧粉成形体を焼結することで本発明の焼結体が得られる。焼結条件は、例えば、温度:1000℃〜1200℃、保持時間:0.5時間〜3時間、雰囲気:真空、アルゴンなどが挙げられる。焼結後、磁石特性を調整するための熱処理(例えば、時効処理)を適宜施すことができる。この熱処理条件は、温度:500℃〜800℃、保持時間:1時間〜10時間、雰囲気:真空、アルゴンなどが挙げられる。得られた焼結体は、希土類焼結磁石、代表的には永久磁石に好適に利用できる。
【0049】
〔試験例〕
以下、試験例を挙げて、本発明のより具体的な実施形態を説明する。
この試験では、希土類-鉄-ホウ素系合金からなり、種々の粒度分布を有する原料粉末を用意し、低加圧成形→弱磁場印加→強磁場印加という成形工程を経て圧粉成形体を作製し、得られた圧粉成形体の配向性を調べた。また、得られた圧粉成形体を焼結し、得られた焼結体の配向性及び磁気特性を調べた。
【0050】
[原料粉末]
Nd2.2FeB合金からなる溶解鋳造インゴットを用意し、1100℃×10時間の溶体化処理を施した後、ボールミルで粉砕して原料粉末を作製した。粉砕時間を異ならせることで、粒度分布が異なる複数の粉末を作製した。粒度分布は、市販のレーザ回折式粒度分布測定装置で測定した。表1に、用意した原料粉末の粒度分布、2μm以下の粒子の含有量(質量%)を示す。なお、いずれの原料粉末も15μm超の粒子は実質的に存在していない。各原料粉末には、0.8質量%のステアリン酸亜鉛(潤滑剤)を混練した。
【0051】
【表1】

【0052】
[成形用金型・磁場印加用磁石]
次に、上記原料粉末を加圧・圧縮する成形用金型、及び成形体に磁場を印加する磁石を説明する。この試験では、弱磁場の印加に常電導コイル(ここでは銅線コイル)を具える常電導磁石を用い、強磁場の印加に高温超電導コイルを具える高温超電導磁石を用いた。ここでは、図1に示すように、高温超電導コイル60と常電導コイル70とを同軸に配置し、これらコイル60,70の内周に成形用金型50を配置した。成形用金型50は、貫通孔を有するダイ51と、ダイ51に挿通配置される柱状の下パンチ53と、下パンチ53に対向配置され、下パンチ53と共に原料粉末Pを加圧・圧縮する上パンチ52を具える。ダイ51と下パンチ53とで成形空間を形成し、成形空間に原料粉末Pを充填し、上パンチ52と下パンチ53とで加圧・圧縮する。このとき、各コイル60,70に適宜通電することで、磁場を形成することができ、成形空間内の成形体10に磁場を印加することができる。
【0053】
最終的に得られる圧粉成形体を構成する粒子を配向させたい方向を予め設定し、当該配向させたい方向に対して、両コイル60,70の磁場の印加方向がなす立体角が所望の範囲となるように両コイル60,70を配置する。例えば、図1に示すように、両コイル60,70を同軸に配置した場合、各コイル60,70の通電電流の向きを逆向きにすることで、磁場の印加方向を逆向きにすることができる(図において破線矢印及び二点鎖線矢印は磁場の印加方向を例示している)。つまり、この場合、常電導コイル70の磁場の印加方向に対して、超電導コイル60の磁場の印加方向を立体角で180°の方向にすることができる。
【0054】
用意した各原料粉末を成形用金型に充填し(成形空間:直径φ10mm)、嵩密度の1.05以上1.2以下の充填密度となるように圧力を調整して加圧・圧縮した後、常電導コイルにより、1.5Tの磁場(弱磁場)を印加した。ここでは、10秒で1.5Tまで励磁した(励磁速度:0.15T/sec)。この磁場の印加方向は、最終的に得られる圧粉成形体を配向させたい方向に対して、立体角で180°の方向とした。
【0055】
表2に示す励磁速度で、表2に示す「超電導コイルI」の磁場まで励磁し、高温超電導コイルによって当該磁場を印加した状態で、嵩密度の1.2超1.45以下の充填密度となるように圧力を調整して、上記弱磁場を印加した成形体を加圧・圧縮した。試料No.35は、超電導コイルによって励磁することが困難であった。
【0056】
この高温超電導コイルによる磁場の印加方向は、上記常電導コイルの磁場の印加方向に対して、立体角で表2に示す角度の方向となるようにした。立体角が180°である試料は、高温超電導コイルによる磁場の印加方向が常電導コイルによる磁場の印加方向と逆方向であること、つまり、最終的に得られる圧粉成形体を配向させたい方向に高温超電導コイルによって磁場を印加したことを意味する。立体角が0°である試料は、常電導コイルによる磁場の印加方向と同じ方向に高温超電導コイルによる磁場を印加したことを意味する。この試料は、常電導コイル及び高温超電導コイルによる磁場の印加方向をいずれも、上記配向させたい方向とした。立体角が0°超180°未満の試料は、常電導コイルの位置を図1に示す位置から変更して、当該立体角を満たすようにした。なお、高温超電導コイルの励磁を始めてから、上記常電導コイルの通電をOFFにして上述の弱磁場を減磁した。
【0057】
更に、この試験では、「超電導コイルI」の磁場から、表2に示す励磁速度で、表2に示す「超電導コイルII」の磁場まで励磁し、高温超電導コイルによって当該磁場を印加した状態で、嵩密度の1.45超真密度の66%以下の充填密度となるように圧力を調整して、上記「超電導コイルI」の磁場を印加した成形体を加圧・圧縮した。磁場の印加方向は、超電導コイルIのときと同じとした。この工程により、圧粉成形体1(図2(C))が得られる。なお、圧粉成形体を構成する粒子の大きさは、原料粉末の粒度分布を実質的に満たすことを確認した。
【0058】
得られた各圧粉成形体について、結晶配向度を調べた。その結果を表2に示す。結晶配向度は、以下のように測定した。圧粉成形体において超電導コイルによる磁場の印加方向に直交する方向の平面(ここでは加圧方向に直交する平面であり、上パンチ又は下パンチが接していた面)を測定面とし、この測定面についてX線回折の極点図分析を行った。そして、超電導コイルの磁場の印加方向との立体角が3°以内となる(006)面の回折スポットを測定し、測定面全体の回折スポットに対する当該(006)面の回折スポットの割合を結晶配向度とした。励磁ができなかった試料No.35については結晶配向度を調べていない。
【0059】
【表2】

【0060】
得られた各圧粉成形体に1050℃×3時間の真空焼結、及び650℃×5時間の時効処理を施し、焼結体を得た。得られた各焼結体について、結晶配向度、残留磁束Br(T)、保磁力Hc(MA/m)を求めた。その結果を表3に示す。焼結体の結晶配向度は、圧粉成形体と同様にして測定した。
【0061】
残留磁束Br及び保磁力Hcは、各焼結体に、高温超電導コイルによる磁場の印加方向と同じ方向に着磁を行い、この着磁後の減磁曲線を利用して求めた。
【0062】
【表3】

【0063】
表2に示すように、粒径が2μm以下の微細粒子を15質量%以上含む粉末を原料粉末に用いた場合でも、所望の配向させたい方向に対して立体角で90°〜180°の方向に1T〜2Tといった弱磁場を印加した後、超電導コイル、特に高温超電導コイルを用いて、3T以上といった強磁場を0.01T/sec以上0.15T/sec以下で高速励磁して上記配向させたい方向に印加するという特定の製造方法を用いることで、配向性に優れる圧粉成形体が得られることが分かる。この理由は、以下のように考えられる。図2(A)に示すように磁場印加前の原料粉末Pなどでは、粒子の結晶方位がランダムである。図2において粒子中の矢印は、磁化容易軸方向を示す。所定の加圧・圧縮を行った成形体10に弱磁場を印加すると、図2(B)に示すように粗大な粒子100が回転し、この磁場の印加方向に基づく方向に配向する。しかし、この磁場の印加では微細粒子150は、十分に回転しない。更にこの成形体10に、高速励磁して強磁場を、上記弱磁場と異なる特定の方向(図2では逆方向)に印加することで、図2(C)に示すように微細粒子150は粗大な粒子100と共に回転して、この磁場の印加方向に基づく方向に配向したため、と考えられる。特に、超電導コイルによって印加する磁場が大きいほど、圧粉成形体の配向性を高められることが分かる。また、このような配向性に優れる圧粉成形体を製造するにあたり、高速励磁及び強磁場が可能な高温超電導コイルが好適に利用できることが分かる。
【0064】
表3に示すように、上述の特定の製造方法によって得られ、上記微細粒子を含み、配向性に優れる圧粉成形体は、焼結後も、配向性を実質的に維持していることが分かる。そして、この圧粉成形体を焼結した焼結体は、2μm超の比較的粗大な粉末を多く含む原料粉末を用いた焼結体(試料No.6,No.7)と同程度の磁石特性を有し、磁石特性に優れることが分かる。
【0065】
常電導磁石による磁場の印加方向と超電導磁石による磁場の印加方向の立体角が0°である場合(試料No.21)、つまり、同じ方向に複数回の磁場を印加した場合、配向させたい方向に磁場を印加しても配向性に劣ることが分かる。この理由は、2μm以下の微細粒子が十分に配向できなかったため、と考えられる。また、常電導パルスコイルを用いた場合(試料No.36)には、超電導コイル、特に高温超電導コイルを用いた場合よりも配向性に劣ることが分かる。この理由は、励磁速度が大き過ぎて、有効な加圧下での磁場印加が実現できず、粒子の回転が過剰に起こってランダムになり、良好な配向が行えなかったため、と考えられる。
【0066】
なお、本発明は、上述した実施形態の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。例えば、原料粉末の組成、成形体の形状・大きさ、励磁速度、焼結条件などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の焼結体は、永久磁石、例えば、各種のモータ、特に、ハイブリッド自動車(HEV)やハードディスクドライブ(HDD)などに具備される高速モータに用いられる永久磁石に好適に利用することができる。本発明の磁石用圧粉成形体は、上記本発明の焼結体の素材に好適に利用することができる。本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、結晶配向度が高く、磁石特性に優れる希土類焼結磁石の素材となる圧粉成形体の製造に好適に利用することができる。また、本発明の磁石用圧粉成形体の製造方法は、Sr-Fe-O、Ba-Fe-O、La-Sr-Fe-Co-O、La-Ca-Fe-Co-Oなどの(ハード)フェライト磁石の製造にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 圧粉成形体 10 成形体
50 成形用金型 51 ダイ 52 上パンチ 53 下パンチ
60 高温超電導コイル 70 常電導コイル
P 原料粉末 100 粗大な粒子 150 微細粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結磁石の素材に利用され、希土類元素と鉄とを含む希土類合金からなる粉末により構成された磁石用圧粉成形体であって、
前記粉末は、粒径が2μm以下の微細粒子を15質量%以上100質量%以下含み、
前記圧粉成形体の結晶配向度が95%以上である磁石用圧粉成形体。
【請求項2】
希土類元素と鉄とを含む希土類合金からなる粉末を用いて、焼結磁石の素材に利用される圧粉成形体を製造する磁石用圧粉成形体の製造方法であって、
前記希土類合金からなり、粒径が2μm以下の微細粒子を15質量%以上100質量%以下含む原料粉末を準備する準備工程と、
前記原料粉末を成形用金型に充填して加圧・圧縮すると共に、磁場を印加して、圧粉成形体を形成する成形工程とを具え、
前記成形工程は、
前記成形用金型に充填された前記原料粉末を加圧・圧縮して、嵩密度の1.05以上1.2以下の充填密度である粉末成形体を作製する低加圧工程と、
前記粉末成形体に、1T以上2T以下の弱磁場を印加する弱磁場印加工程と、
0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上の強磁場を前記弱磁場印加工程を経た成形体に印加する強磁場印加工程とを具え、
前記弱磁場は、前記圧粉成形体を構成する粒子の結晶を配向させたい所望の方向に対して立体角で90°以上180°以下の方向に印加し、
前記強磁場は、超電導コイルを用いて、前記配向させたい所望の方向に印加する磁石用圧粉成形体の製造方法。
【請求項3】
前記強磁場印加工程では、
0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上に達した後、3T以上の強磁場を印加した状態で、嵩密度の1.2超の充填密度となるように前記弱磁場印加工程を経た成形体を更に加圧・圧縮する請求項2に記載の磁石用圧粉成形体の製造方法。
【請求項4】
前記強磁場印加工程では、
0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で3T以上に励磁して、3T以上に達した後、3T以上の強磁場を印加した状態で、嵩密度の1.2超1.45以下の充填密度となるように前記弱磁場印加工程を経た成形体を更に加圧・圧縮し、
0.01T/sec以上0.15T/sec以下の励磁速度で5T以上に励磁して、5T以上に達した後、5T以上の強磁場を印加した状態で、嵩密度の1.45以上真密度の66%以下となるように前記成形体を加圧・圧縮する請求項3に記載の磁石用圧粉成形体の製造方法。
【請求項5】
前記超電導コイルは、高温超電導コイルである請求項2〜4のいずれか1項に記載の磁石用圧粉成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた磁石用圧粉成形体。
【請求項7】
請求項1又は6に記載の磁石用圧粉成形体を焼結して得られた焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−62482(P2013−62482A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126437(P2012−126437)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】