説明

磁芯およびそれを用いた線輪部品

【課題】 比抵抗が高く、かつ安定した周波数特性を有する磁芯およびそれを用いた線輪部品を得る。
【解決手段】 磁路の少なくとも1箇所以上にギャップを有する磁芯であって、そのギャップに固有保磁力が1.94MA/m以上、Tcが300℃以上のSmCo17希土類磁石粉末と樹脂からなるボンド磁石が挿入され、前記ボンド磁石における粉末粒子表面を0.1μm以上から20μm以下の範囲の厚みの酸化物磁性体であるフェライト膜にて被覆された磁芯で、前記ボンド磁石は、樹脂量が希土類磁石粉末に対して体積比で20%以上からなり、SmCo17希土類磁石粉末へのフェライト膜被覆および樹脂含浸により、比抵抗が1×10Ωcm以上から1×10Ωcm以下の範囲の磁芯とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源などに使用されるチョークコイル用磁芯、あるいはトランス用磁芯に好適な磁芯および線輪部品に関する。
【背景技術】
【0002】
チョークコイル用磁芯およびトランス用磁芯には、良好な直流重畳特性が求められており、高周波用の磁芯にはフェライトや圧粉磁芯が使用されている。フェライト磁芯は、初透磁率が高く飽和磁束密度が小さい、圧粉磁芯は初透磁率が低く飽和磁束密度が高い、という材料物性に由来した特徴がある。従って、圧粉磁芯は、トロイダル形状で用いられることが多く、フェライトは、例えばE型コアの中足にギャップを挿入してEEコアで用いられることが多い。
【0003】
しかし、近年の電子機器の小型化に伴う電子部品の小型化の要求により、より大きな重畳磁界における、より高い透磁率が強く求められている。一般に、直流重畳特性を向上させるためには、飽和磁化の高い磁芯を選択すること、つまり高磁界で磁気飽和しない磁芯の選択が必須とされている。しかし、飽和磁化は、材料の組成で必然的に決まるものであり、無限に高く出来るものではない。そのため、従来の直流重畳特性を向上させる手段は、わずかな飽和磁化の向上に多大な労力が費やされている割には、直流重畳特性は期待されている程、伸びていないのが現状であった。
【0004】
その解決手段として、磁路の一箇所以上にギャップを挿入し、そのギャップに永久磁石を挿入することが従来から検討されてきた。この方法は、直流重畳特性を向上させるには優れた方法である。
【0005】
しかし、一方で金属焼結磁石を用いると磁芯のコアロスの増大が著しく、またフェライト磁石を用いると重畳特性が安定しないなど、とても実用に耐え得るものではなかった。これらを解決する手段として、例えば特許文献1では、永久磁石として保磁力の高い希土類磁石粉末とバインダーとを混合し圧縮成形したボンド磁石を挿入することで、直流重畳特性とコアの温度上昇が改善されたことが示されている。
【0006】
しかし、近年、電源に対する電力変換効率向上の要求は、ますます厳しくなっており、チョークコイル用およびトランス用のコアについても、単にコア温度を測定するだけでは優劣が判断不能なレベルとなっている。そのため、コアロス測定装置による測定結果の判断が不可欠であり、実際、本発明者等が検討を行った結果、特許文献1に示された抵抗率の値ではコアロス特性が劣化することが明らかになった。そこで、我々は、特許文献2に、ギャップに挿入する永久磁石として0.4MA/m以上の固有保磁力、300℃以上のTc、1.0Ω・cm以上の比抵抗の永久磁石を挿入することでコアロスを低下させることなく、良好な直流重畳特性が得られることを開示した。
【0007】
【特許文献1】特開昭50−133453公報
【特許文献2】特開2003−7519公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ボンド磁石用粉末として金属粉末であるSm2Co17希土類磁石粉末を用いており、粉末自体の電気抵抗が低いことから、ボンド磁石としての比抵抗も高くなく、依然として渦電流損失の増大を招くためにコアとしての効率改善には限界があった。
【0009】
本発明の課題は、上記問題点に鑑み、比抵抗が高い永久磁石を用いた、安定した周波数特性を有する磁芯およびそれを用いた線輪部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁芯は、磁路の少なくとも1箇所以上にギャップを有する磁芯であって、そのギャップに固有保磁力が1.19MA/m以上、Tcが300℃以上のSmCo17希土類磁石粉末と樹脂からなるボンド磁石が挿入され、前記ボンド磁石における粉末粒子表面が0.1μm以上から20μm以下の範囲の平均厚みを持つような酸化物磁性体のフェライト膜にて被覆された磁芯とする。
【0011】
また、本発明は、前記ボンド磁石は、樹脂量が希土類磁石粉末に対して体積比で20%以上からなり、粉末へのフェライト膜被覆および樹脂含浸により、比抵抗が1×101Ωcm以上から3×105Ωcm以下の範囲の磁芯である。ここで、比抵抗は、1×104Ωcm以上が、より好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記のボンド磁石においてSm2Co17希土類磁石粉末へのフェライト膜被覆 および樹脂含浸によりSm2Co17希土類磁石粉末による渦電流損失が無く、安定した周波数特性を示す磁芯である。
【0013】
また、本発明は、前記磁芯と、前記磁芯に巻かれた、少なくとも1ターン以上の巻線とで構成された線輪部品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒子表面を高電気低抗酸化物磁性体であるフェライト膜で被覆することで、比抵抗が高いボンド磁石となるので、安定した周波数特性を有する磁芯およびそれを用いた線輪部品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態による磁芯およびそれを用いた線輪部品について、以下に説明する。本発明の磁芯は、磁路のギャップに挿入する永久磁石について検討した結果、比抵抗が1×101以上から3×105Ωcm以下の範囲の永久磁石を使用した時、渦電流による損失を抑え、安定した周波数特性を示すことを発見した。
【0016】
比抵抗が高く、しかも固有保磁力が高い磁石は、一般的には希土類磁石粉末をバインダーとともに混合して成形した希土類ボンド磁石で得られるが、本発明では、Sm2Co17磁石粉末をフェライト膜にて被膜することで、1.19MA/m以上の高保磁力を持つ、1×101以上から3×105Ωcm以下の高電気抵抗を有するボンド磁石用粉末を提供する。
【0017】
なお、希土類磁石粉末の種類はSmCo系、NdFeB系、SmFeN系とあるが、リフロー条件および耐酸化性を考慮するとTcが300℃以上必要であり、且つ微細化しても保磁力が1.19MA/m以上の磁石は現状ではSm2Co17系磁石に限定される。
【0018】
チョークコイル用およびトランス用磁芯としては、軟磁気特性を有する材料であれば如何なる材質でも有効であるが、一般的にはMnZn系又はNiZn系フェライト、純鉄やセンダスト粉、珪素鋼板、アモルファス等が用いられる。また、磁芯の形状についても特に制限があるわけではなく、トロイダルコア、EEコア、EIコア等あらゆる形状の磁芯に本発明の適用が可能である。これらコアの磁路の少なくとも1箇所以上にギャップを設け、そのギャップに永久磁石を挿入する。
【0019】
ギャップ長に特に制限はないが、ギャップ長が狭すぎると直流重畳特性が劣化し、またギャップ長が広すぎると透磁率が低下しすぎるので、要求される特性に応じて挿入するのに最適なギャップ長を決定する。
【0020】
次に、ギャップに挿入される永久磁石に対する要求特性は、固有保磁力についてはヒステリシス損失を抑えるため1.94MA/m以上の保磁力が必要である。粉末の平均粒径が50μm以上になるとコアロス特性が劣化するので、粉末の平均粒径は50μm以下であることが望ましく、平均粒径が2.0μm以下になると粉末熱処理およびリフロー時に粉末の酸化による磁化の減少が著しいため2.0μm以上の粒径が必要である。
【0021】
また、本発明では、ギャップ間に挿入するボンド磁石の主成分は金属材料であるSm2Co17磁石粉末であり、電気抵抗が低いが、比抵抗が高い酸化物磁性材料であるフェライト膜にて粉末表面を被覆することで、ボンド磁石の電気抵抗が大幅に向上し、渦電流損失が抑制されコア損失が改善される。
【0022】
本発明のフェライト膜は、平均厚み0.1〜20μmとなるように公知の方法により形成すれば良い。しかし、以下の方法を採用することにより、より好適なフェライト膜を形成することができる。即ち、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程、反応液を基体から除去する工程、少なくとも酸化剤を含む酸化液を基体に接触させる工程、酸化液を基体から除去する工程を繰り返してフェライトメッキ膜を生成する際、工程の繰り返し回数を制御することでフェライトメッキ膜柱状結晶の長軸a、短軸bの比a/bを30/1〜1/1に制御することが可能であり、また生成速度が向上し、工業的な生産性が良好であり、均質な柱状結晶の集合体であるフェライト膜が得られる。
【0023】
本発明の磁芯に用いるボンド磁石用の粉末のフェライト被覆方法について説明する。図1は、本発明の磁芯に用いるボンド磁石用の粉末のフェライト被覆装置の概略図である。図1に示すように、2はフェライト膜を形成する粉末であり、3,4はメッキに必要な液を貯蔵するためのタンクであり、5は粉末を気流により流動させ、効率良く粉末1個1個に成膜するに必要な流動気体を挿入するためのガスの導入口であり、6はフェライト膜の成膜温度までの加熱に用いるヒーターである。
【0024】
この時、ヒーター6により基体9内の温度が90℃に保たれていることで、粉末表面にフェライト膜が成膜される。また、ガス導入口5から供給されたガスは、ガス排出口8より基体外部へと放出されるが、粉末はフィルター7により基体内に保持され、一定の膜厚となるまで成膜処理が可能となる。フェライト膜成膜工程における反応液、酸化液の除去を効率よく行うために必要な液は幾つかに分けて準備する方が良い。図1の例は、メッキに必要な液を二つに分けた場合である。
【実施例1】
【0025】
純水1リットルに対してFeCl2・4H2Oを3.3g、NiCl2・6H2Oを1.25g、ZnCl2を0.025gそれぞれ溶解した反応液を作製した。別の溶液として、純水1リットルに対してNaNO2を0.3g、CH3COONH4を5g溶解した酸化液を作製した。
【0026】
これらの溶液を用いて、図1に示した装置を用いてフェライト被膜を作製した。フェライト皮膜の作製は、以下の条件で行った。まず、反応液および酸化液の流量を30ml/minに調整した。さらに、メッキ膜を形成する基体内の温度を、ヒーターを用いて90℃に調節した。また、基体内には18m3/hでN2ガスを供給し、非酸化性雰囲気中で粉末を流動させた。なお、この時使用したSm2Co17磁石粉末は、保磁力が1.6MA/m以上の焼結磁石を粗粉砕後、ボールミルで微粉砕を行い、平均粒子径を15.0μmとした粉末を用いた。
【0027】
図2に、フェライト被膜の成膜におけるフェライト液噴霧時間と形成膜厚との関係を示す。図2に示すように、形成膜厚は噴霧時間に依存し、噴霧時間が長時間になるに伴い、膜厚も増加し、900分の噴霧時間で20μmのフェライト皮膜が粉末表面に形成される。なお、皮膜厚みは700分程度から飽和する傾向にあり、本試験条件下におけるフェライト膜厚の最大値は20μmと考えられる。
【0028】
上記の方法でフェライト膜を被覆したSm2Co17型磁石粉末に10wt%に当たる量のバインダー(エポキシ系樹脂)と0.1wt%に当たる硬化剤を混合した後、無磁場中で5ton/cm2金型成形を行い、その後、大気中室温で12時間の乾燥を行った。その時のボンド磁石形状は10.9×7.5×1.5mmの薄板状で、このボンド磁石を4Tの磁場にて着磁後、2端子法にて電気抵抗を測定した。
【0029】
上記の方法で形成したフェライト膜における膜厚と比抵抗の関係を図3に示す。図3に示すように、フェライト膜厚の増加に伴い電気抵抗も著しく増加することが認められ、0.1μmのフェライト膜厚でも1×102Ωcmと高い比抵抗が得られている。比抵抗は4μm程度のフェライト膜厚までは急激に上昇した後、8μm〜20μmでは、ほぼ安定化傾向を示し、20μmで3×105Ωcmの優れた比抵抗が得られている。なお、生産性を考慮すると、その噴霧時間の観点からフェライト皮膜の厚みは20μm程度が限界であるため、本発明における比抵抗改善効果は1×102〜3×105Ωcm程度と考えられる。
【0030】
図4に、本発明の磁芯におけるフェライト膜厚と周波数特性の関係を示す。図4に示すように、フェライト膜の皮膜により比抵抗が向上し渦電流損失が大幅に低減されたことで、周波数特性が大幅に改善される。0.1μm程度の膜厚でもフェライト皮膜無しに比べ周波数特性は向上し、フェライト膜厚が2.0μm以上でシート磁石を挿入しない状態における周波数特性と同等の周波数特性まで渦電流損失が低減され、非常に低損失なシート磁石となっていることが確認できる。また、周波数特性の変化挙動よりフェライト被膜による渦電流損失の低減効果は既に0.1μm程度のフェライト膜厚から認められ、フェライト膜厚の増加に伴い低損失効果も大きくなる。
【0031】
実際、フェライト膜の形成膜厚を2.0μm以上とすることで、磁芯であるフェライトコアのみの時と同等の周波数特性を示している。但し、2.0μmと20μmでは20μmの方が優れた低損失効果を得ることができるが、2μmと20μmの間に著しい改善効果は確認されず、周波数特性は安定傾向にある。本発明におけるフェライト被膜による渦電流損失改善効果は0.1μm〜20μm、望ましくは2〜20μmの範囲が適当と言える。また、比抵抗からは、1×104Ωcm以上が適当と言える。
【0032】
図5は、本発明の線輪部品の一例の説明図である。図5に示す線輪部品は、E型フェライトコア20の中足部に形成されたギャップ部分に永久磁石10が挿入された磁芯に、巻線40が巻かれて構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の磁芯に用いるボンド磁石用の粉末のフェライト被覆装置の概略図。
【図2】本発明のフェライト被膜の成膜におけるフェライト液噴霧時間と形成膜厚との関係を示す図。
【図3】本発明に用いるボンド磁石用の粉末のフェライト被覆におけるフェライト膜厚と比抵抗の関係を示すグラフ。
【図4】本発明に用いるボンド磁石用の粉末のフェライト被覆におけるフェライト膜厚と周波数特性の関係の説明図。
【図5】本発明の線輪部品の一例の説明図。
【符号の説明】
【0034】
1 ノズル
2 粉末
3,4 タンク
5 ガス導入口
6 ヒーター
7 フィルター
8 ガス排出口
9 基体
10 永久磁石
20 E型フェライトコア
30 中空部
40 巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁路の少なくとも1箇所以上にギャップを有する磁芯において、前記ギャップに比抵抗が10Ωcm以上で、固有保磁力が1.19MA/m以上、Tcが300℃以上のSm2Co17希土類磁石粉末と樹脂からなるボンド磁石が挿入され、前記ボンド磁石におけるSm2Co17希土類磁石粉末粒子の表面がフェライト膜にて被覆されたことを特徴とする磁芯。
【請求項2】
前記ボンド磁石は、樹脂量が希土類磁石粉末に対して体積比で20%以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁芯。
【請求項3】
前記フェライト膜の平均厚みが0.1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁芯。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の磁芯と、前記磁芯に巻かれた、少なくとも1ターン以上の巻線とで構成されたことを特徴とする線輪部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−32466(P2006−32466A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205883(P2004−205883)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】