神経インプラント装置
【課題】自然な環境下で脳機能解明のための測定センサを提供する。
【解決手段】脳神経科学用に研究ツールとして、多数の電極を形成したSi製針アレイの中心の一つにLEDを搭載して、その周辺にフォトダイオードを配置する。LEDから発せられた赤外線は脳組織によって吸収を受けながら組織中を進む。その吸収量によって血流量の測定が可能である。またこのようなシステム構成をすることで神経電位と代謝量の同時観察が可能となる。またミクロな血液代謝量の測定が可能となる。また脳表面を赤外光で観察して代謝量を求めることも広く行われている。赤外線LEDを組織内部に持ち込み、透過光で観察、Si製電極アレイと組み合わせる。
【解決手段】脳神経科学用に研究ツールとして、多数の電極を形成したSi製針アレイの中心の一つにLEDを搭載して、その周辺にフォトダイオードを配置する。LEDから発せられた赤外線は脳組織によって吸収を受けながら組織中を進む。その吸収量によって血流量の測定が可能である。またこのようなシステム構成をすることで神経電位と代謝量の同時観察が可能となる。またミクロな血液代謝量の測定が可能となる。また脳表面を赤外光で観察して代謝量を求めることも広く行われている。赤外線LEDを組織内部に持ち込み、透過光で観察、Si製電極アレイと組み合わせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能解明のための測定センサに関する。
【背景技術】
【0002】
各種センサを多元的/立体的に用いた脳神経科学の新たな領域を開拓するために本プロジェクトではチップボンディグ技術にもとづく従来にない新しい多機能集積化神経インプラントの開発を目指している。この集積化神経インプラントでは脳波を皮質の極微小領域を深さ方向にも測定し、3次元的な観察をすることが可能となる。この集積化インプラントには赤外線LEDを用いた血流量センサを搭載して血流量による代謝測定と脳波測定が同時、立体的に可能となる。さらに各種化学センサの搭載や、神経細胞を電気刺激することも可能となる。またこの集積化神経インプラントを移植した動物と体外計測ユニットの間は無線で接続して、自由に活動する動物の脳内を各種センサを用いて多元的に観察することが可能となる。将来的にはこの集積化神経インプラントはパーキンソン病、癲癇や半身不随の患者の脳内へ移植して疾患の治療や患者のQOL(Quality of Life)改善の手段としても利用できる。
【0003】
21世紀は脳の世紀と呼ばれるように脳・神経科学に対する社会的な注目が集まっている。これは高齢化社会の進行に伴う脳疾患の増加とユビキタス社会の到来と供に高まる高度な情報処理に対する要求から脳における情報処理の解明が強く求められていることに起因すると考えられる。近年、PETやfMRIなどの新しい脳機能解明のための測定手法が発明され、脳・神経科学の発展に大きく寄与している。しかしながらより微細かつ詳細な現象解明のためには測定探針を脳内に挿して深部脳波を観察する従来からの手法が用いられている。この測定探針はタングステンなどの棒を研究者自らが手作業で先端を機械、電解研磨して作製しており、実験の効率、再現性を損なう大きな原因となっている。またより詳細な現象を観察するためにひとつの測定探針に所望の位置に複数の測定部を有する測定探針の製作が強く望まれている。さらに従来技術では測定の際には猿などの実験動物は電極を固定するために拘束具によって束縛、苦痛を与えるのみか、自然な環境化における観察をすることが困難であるなどの問題がある。
【0004】
このような背景のもと本研究プロジェクトでは各種センサを多元的/立体的に用いて脳神経科学の新たな領域を開拓するためにマルチチップボンディグ技術を用いた“高機能集積化神経インプラント“を提案する。研究代表者らは東北大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーを中心に活動、半導体、MEMSの極微細加工技術の研究を長年行ってきた。研究代表者らが得意とする極微細加工技術を用いると脳波測定用の測定探針は容易に作製できるのみか、従来にない多くの機能を有する神経探針を作製することが可能となる。特に研究代表者は3次元集積化技術と呼ばれる従来にない新しいLSIの集積化/実装手法とこれを用いて盲目の患者治療のための人工眼の研究を行ってきた。そのため生体に対するLSIなどの集積化デバイスが与える影響などについて既に知見を積んでおり、これらの知見が本プロジェクトの遂行に大いに役立つもとの考えられる。
【発明の開示】
【0005】
本研究プロジェクトで提案するマルチチップボンディング技術を用いた多機能集積化神経インプラントの概念図を図1 に示す。Si製測定探針アレイに増幅器や神経刺激パルス発生回路などを形成したLSI をボンディングした神経インプラント(図2にブロック図)を猿の脳内に移植して信号の授受と電力の供給は無線で行い、脳波は体外ユニットでデータ収集される。このようなインプラントを用いることで実験動物へ与える苦痛を最小限にして自由な環境における動物の脳内を観察することが可能となる。この多機能集積化神経インプラントには制御用のLSIやセンサなどをすべてボンディングによって測定探針に接続する。そのため色々なセンサを容易に搭載することができる。
【0006】
研究代表者らは既にSi製の測定探針の試作を行っており、図13に試作した測定探針の写真を示す。このような測定探針を用いて日本猿の運動野からの脳波測定を行った結果を図15 に示す。測定探針のインピーダンスの改善の余地はあるものの良好に脳波を観察することに成功した。
【0007】
ミシンガン大学のWiseらは測定探針と同一シリコン基板上に回路を形成して処理、無線で送信するシステムの作製を目指している。しかしながら同一のシリコン基板では異なるプロセスで作製するセンサなどを容易に搭載することは不可能である。これに対して研究代表者らは測定探針に対してすべてをボンディングによって搭載するのでWiseらにはできない発光素子を利用した血流量センサなども作製することができる。図3に研究代表者らが開発した生体適合性樹脂を使ったLSIの測定探針への搭載の様子を示す。図からもわかるように良好に接続でき、電気的にも良好に接続されていることが確認されている。
【0008】
図5に本プロジェクトで提案する神経インプラントに搭載する血流量センサの概念図を示す。図が示すように測定探針アレイの中央の針に赤外光LEDを搭載し、その周囲の針には受光素子を形成する。透過する赤外光強度はその透過する組織の酸素濃度に反比例するために中央のLEDの発光強度を周囲の受光素子で観察することによって、組織中の血液量を観察することが可能となる。図6に研究代表者ら開発した生体適合性樹脂で搭載したLEDの写真を示す。図8にこのLEDの発光特性を示す。図から±40度の範囲に均一な光を照射できることがわかる。
【0009】
本プロジェクトで提案の高機能集積化神経インプラントが実用化された暁には従来得ることができなかった脳皮質の深さ方向も含めた3次元的、立体的な脳波分布を得ることができるようになる。さらに、本計画書に記載した血流量センサなども搭載することによって新しい角度からの脳機能解明のためのデータを得ることができるようになり、脳神経科学の研究が加速的に進むものと期待できる。また実験に際しては実験動物から拘束具をはずすことが可能となり、従来はできなかった自由な環境における実験動物の脳機能解明ができるようになる。またこのことは少なからず、動物愛護の精神にもかなうものであると信ずる。
【実施例】
【0010】
マルチチップボンディング技術に基づく血流測定機能を有する高機能集積化神経インプラントについて説明する。
【0011】
新規な情報処理システムの開発や脳疾患を治癒させることを目的とした、脳の神経系を表現すための多くの調査プログラムが、世界中で進行している。現在、大部分の神経生理学者は、神経記録技術に一本の電解エッチングされたタングステン線製の電極を使用している。したがって、脳の神経単位の中で同時の多点記録は、高い測定効率であるために、神経生理学上、相当な興味を引き付けている。神経で細胞機能増加のより完全な調査の機会として、更なる機能的な系(我々は高機能集積化神経インプラントと名づけた)が、必要である。この系を使用して、神経生理学者は、実験動物に痛みを引き起こすことなく、個々の神経単位から、常に正確に、電気応答レスポンスを記録することが可能である。
【0012】
マルチチップボンディング技術で高機能集積化神経インプラントを実現するために、我々は、新規な多点記録Si微小電極と生体適合性を有する樹脂と可撓性ケーブルから成るマルチチップボンディング技術を開発した。さらに、我々は、ミクロの血流の断層写真を得るために、神経インプラント上でのフォトダイオードとLEDの構成を試みた。
【0013】
マルチチップボンディング技術に基づく血流測定を有する高機能集積化神経インプラントの概念について説明する。
【0014】
図1は、複数電極、血流検知器、on-electrode回路(刺激回路、MUX、アンプおよびDAコンバータ)、誘導のリンクのための二次コイルを有する可撓性ケーブル、主制御回路および外部ユニットから成る、高機能集積化神経インプラントの構成を示す。図2は、我々の高機能集積化神経インプラントのブロックダイヤグラムを示す。
【0015】
高機能集積化神経インプラントにおいて、神経信号と信号とノイズのS/N比が10マイクロVと非常に低いため、多重送信とDAコンバータは、マルチ電極アレイ上に直接マウントしなければならない。そこで、我々は生体適合性の樹脂を用いてマルチチップボンディング技術を開発した。
【0016】
図3に示したように、LSIチップは、非常に正確な整列技術によって微小電極とバンプ間が接続されている。そして、図4に示したように、良好なI−V特性が得られ、また、1つのバンプの抵抗値は0.6Ωであった。
【0017】
また、このマルチチップボンディング技術を使用することで、マルチ電極で電気的信号を記録すると同時に、マイクロ血流の断層写真を得るために、神経インプラント上に赤外線のLEDのマウントを試みた。組織の赤外光線の吸収は、血液中の酸素量に依存する。したがって、図5に示すように、組織を浸透した光の強度は、フォトダイオードで測定される。
【0018】
図6には、このマルチチップボンディング技術を使用し、神経インプラント上にマウントしたLEDを示す。図7は、神経インプラント上にマウントしたLEDのI−V特性を示す。遠距離場のイメージおよび神経インプラントにマウントしたLEDから発される光の角度分布は、図8に示される。LEDから発される光は、±40度の間で広く広がった。
【0019】
また、高機能集積化神経インプラントは、正負両極性の刺激電流パルスで神経を刺激することができる。図9および10は刺激電流発生器のための回路とテストチップの測定結果をそれぞれ示す。適当な周波数によれば、正負両極性の刺激電流のパルスを発生することができた。
【0020】
マルチ電極アレイの製作について説明する。試験に用いたマイクロ電極の全体的な構造は、図11に示される。図12は、閉ざされた脳膜のなかにマイクロ電極を貫通させるために、ステンレス鋼のパイプでカバーされた、8チャンネルのパターンのマイクロ電極の写真を示す。また、図13に示すように、200の記録サイト(5×5の電極が8チャンネル)を有する、完全に平行したマイクロ電極アレイと電極に接続している生体適合性のある可撓性ケーブルも開発した。
【0021】
結果について説明する。脳膜を通して穴を開けるためのステンレス鋼パイプ、位置をコントロールするためのマニュピレータ、そして、アンプに接続するためのステンレス鋼のリード線から成る、組み立てられた一つのマイクロ電極の試験系の写真を図14に示す。我々はketamineの麻酔下の猿の下肢を制御する脳の運動野からの神経応答を、このマイクロ電極を使ってモニターした。図15に示すように、我々は我々の製造したマイクロ電極系で神経信号をうまく観察し、ノイズの振幅は、ほぼ10マイクロVであった。
【0022】
我々は、マルチマイクロ電極、血流検出器、電気回路およびマルチチップボンディング技術で接続した可撓性ケーブルから成る血流測定を伴う高機能集積化神経インプラントを提案し、これらの部品を開発した。マイクロ電極アレイは、うまく製造されて、明らかに神経応答を検出した。
【0023】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の活用例として高機能集積化神経インプラントはパーキンソン病や癲癇などの脳疾病や半身不随の患者の治療のためにも用いることができる。癲癇などの発作を神経インプラントが検知すると直ちに刺激信号を発して発作を抑える。さらに半身不随の患者のためには神経インプラントで患者の思考を解釈して義手や義足さらにはコンピュータなどの操作を行うこともできる。本発明は脳科学の発展に寄与するのみか、脳疾患の患者のQOL改善にも大いに寄与するものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】多機能集積化神経インプラントの概念図。
【図2】集積化神経インプラントのブロック図。
【図3】生体適合性樹脂を用いたLSIの測定探針へのボンディングの様子。
【図4】I−V特性を示すグラフ。
【図5】神経インプラントに搭載する血流量センサの概念図。
【図6】測定探針上へ搭載したLED。
【図7】神経インプラント上のLEDのI−V特性を示すグラフ。
【図8】搭載したLEDからの発光の様子。
【図9】双極電流刺激回路。
【図10】試作回路で発生した神経細胞刺激用双電流。
【図11】試験に用いたマイクロ電極の全体的な構造。
【図12】マイクロ電極の写真。
【図13】試作したSi製測定探針
【図14】組み立てられたマイクロ電極の写真。
【図15】試作した測定探針を用いて測定した日本猿の運動野からの脳波。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能解明のための測定センサに関する。
【背景技術】
【0002】
各種センサを多元的/立体的に用いた脳神経科学の新たな領域を開拓するために本プロジェクトではチップボンディグ技術にもとづく従来にない新しい多機能集積化神経インプラントの開発を目指している。この集積化神経インプラントでは脳波を皮質の極微小領域を深さ方向にも測定し、3次元的な観察をすることが可能となる。この集積化インプラントには赤外線LEDを用いた血流量センサを搭載して血流量による代謝測定と脳波測定が同時、立体的に可能となる。さらに各種化学センサの搭載や、神経細胞を電気刺激することも可能となる。またこの集積化神経インプラントを移植した動物と体外計測ユニットの間は無線で接続して、自由に活動する動物の脳内を各種センサを用いて多元的に観察することが可能となる。将来的にはこの集積化神経インプラントはパーキンソン病、癲癇や半身不随の患者の脳内へ移植して疾患の治療や患者のQOL(Quality of Life)改善の手段としても利用できる。
【0003】
21世紀は脳の世紀と呼ばれるように脳・神経科学に対する社会的な注目が集まっている。これは高齢化社会の進行に伴う脳疾患の増加とユビキタス社会の到来と供に高まる高度な情報処理に対する要求から脳における情報処理の解明が強く求められていることに起因すると考えられる。近年、PETやfMRIなどの新しい脳機能解明のための測定手法が発明され、脳・神経科学の発展に大きく寄与している。しかしながらより微細かつ詳細な現象解明のためには測定探針を脳内に挿して深部脳波を観察する従来からの手法が用いられている。この測定探針はタングステンなどの棒を研究者自らが手作業で先端を機械、電解研磨して作製しており、実験の効率、再現性を損なう大きな原因となっている。またより詳細な現象を観察するためにひとつの測定探針に所望の位置に複数の測定部を有する測定探針の製作が強く望まれている。さらに従来技術では測定の際には猿などの実験動物は電極を固定するために拘束具によって束縛、苦痛を与えるのみか、自然な環境化における観察をすることが困難であるなどの問題がある。
【0004】
このような背景のもと本研究プロジェクトでは各種センサを多元的/立体的に用いて脳神経科学の新たな領域を開拓するためにマルチチップボンディグ技術を用いた“高機能集積化神経インプラント“を提案する。研究代表者らは東北大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーを中心に活動、半導体、MEMSの極微細加工技術の研究を長年行ってきた。研究代表者らが得意とする極微細加工技術を用いると脳波測定用の測定探針は容易に作製できるのみか、従来にない多くの機能を有する神経探針を作製することが可能となる。特に研究代表者は3次元集積化技術と呼ばれる従来にない新しいLSIの集積化/実装手法とこれを用いて盲目の患者治療のための人工眼の研究を行ってきた。そのため生体に対するLSIなどの集積化デバイスが与える影響などについて既に知見を積んでおり、これらの知見が本プロジェクトの遂行に大いに役立つもとの考えられる。
【発明の開示】
【0005】
本研究プロジェクトで提案するマルチチップボンディング技術を用いた多機能集積化神経インプラントの概念図を図1 に示す。Si製測定探針アレイに増幅器や神経刺激パルス発生回路などを形成したLSI をボンディングした神経インプラント(図2にブロック図)を猿の脳内に移植して信号の授受と電力の供給は無線で行い、脳波は体外ユニットでデータ収集される。このようなインプラントを用いることで実験動物へ与える苦痛を最小限にして自由な環境における動物の脳内を観察することが可能となる。この多機能集積化神経インプラントには制御用のLSIやセンサなどをすべてボンディングによって測定探針に接続する。そのため色々なセンサを容易に搭載することができる。
【0006】
研究代表者らは既にSi製の測定探針の試作を行っており、図13に試作した測定探針の写真を示す。このような測定探針を用いて日本猿の運動野からの脳波測定を行った結果を図15 に示す。測定探針のインピーダンスの改善の余地はあるものの良好に脳波を観察することに成功した。
【0007】
ミシンガン大学のWiseらは測定探針と同一シリコン基板上に回路を形成して処理、無線で送信するシステムの作製を目指している。しかしながら同一のシリコン基板では異なるプロセスで作製するセンサなどを容易に搭載することは不可能である。これに対して研究代表者らは測定探針に対してすべてをボンディングによって搭載するのでWiseらにはできない発光素子を利用した血流量センサなども作製することができる。図3に研究代表者らが開発した生体適合性樹脂を使ったLSIの測定探針への搭載の様子を示す。図からもわかるように良好に接続でき、電気的にも良好に接続されていることが確認されている。
【0008】
図5に本プロジェクトで提案する神経インプラントに搭載する血流量センサの概念図を示す。図が示すように測定探針アレイの中央の針に赤外光LEDを搭載し、その周囲の針には受光素子を形成する。透過する赤外光強度はその透過する組織の酸素濃度に反比例するために中央のLEDの発光強度を周囲の受光素子で観察することによって、組織中の血液量を観察することが可能となる。図6に研究代表者ら開発した生体適合性樹脂で搭載したLEDの写真を示す。図8にこのLEDの発光特性を示す。図から±40度の範囲に均一な光を照射できることがわかる。
【0009】
本プロジェクトで提案の高機能集積化神経インプラントが実用化された暁には従来得ることができなかった脳皮質の深さ方向も含めた3次元的、立体的な脳波分布を得ることができるようになる。さらに、本計画書に記載した血流量センサなども搭載することによって新しい角度からの脳機能解明のためのデータを得ることができるようになり、脳神経科学の研究が加速的に進むものと期待できる。また実験に際しては実験動物から拘束具をはずすことが可能となり、従来はできなかった自由な環境における実験動物の脳機能解明ができるようになる。またこのことは少なからず、動物愛護の精神にもかなうものであると信ずる。
【実施例】
【0010】
マルチチップボンディング技術に基づく血流測定機能を有する高機能集積化神経インプラントについて説明する。
【0011】
新規な情報処理システムの開発や脳疾患を治癒させることを目的とした、脳の神経系を表現すための多くの調査プログラムが、世界中で進行している。現在、大部分の神経生理学者は、神経記録技術に一本の電解エッチングされたタングステン線製の電極を使用している。したがって、脳の神経単位の中で同時の多点記録は、高い測定効率であるために、神経生理学上、相当な興味を引き付けている。神経で細胞機能増加のより完全な調査の機会として、更なる機能的な系(我々は高機能集積化神経インプラントと名づけた)が、必要である。この系を使用して、神経生理学者は、実験動物に痛みを引き起こすことなく、個々の神経単位から、常に正確に、電気応答レスポンスを記録することが可能である。
【0012】
マルチチップボンディング技術で高機能集積化神経インプラントを実現するために、我々は、新規な多点記録Si微小電極と生体適合性を有する樹脂と可撓性ケーブルから成るマルチチップボンディング技術を開発した。さらに、我々は、ミクロの血流の断層写真を得るために、神経インプラント上でのフォトダイオードとLEDの構成を試みた。
【0013】
マルチチップボンディング技術に基づく血流測定を有する高機能集積化神経インプラントの概念について説明する。
【0014】
図1は、複数電極、血流検知器、on-electrode回路(刺激回路、MUX、アンプおよびDAコンバータ)、誘導のリンクのための二次コイルを有する可撓性ケーブル、主制御回路および外部ユニットから成る、高機能集積化神経インプラントの構成を示す。図2は、我々の高機能集積化神経インプラントのブロックダイヤグラムを示す。
【0015】
高機能集積化神経インプラントにおいて、神経信号と信号とノイズのS/N比が10マイクロVと非常に低いため、多重送信とDAコンバータは、マルチ電極アレイ上に直接マウントしなければならない。そこで、我々は生体適合性の樹脂を用いてマルチチップボンディング技術を開発した。
【0016】
図3に示したように、LSIチップは、非常に正確な整列技術によって微小電極とバンプ間が接続されている。そして、図4に示したように、良好なI−V特性が得られ、また、1つのバンプの抵抗値は0.6Ωであった。
【0017】
また、このマルチチップボンディング技術を使用することで、マルチ電極で電気的信号を記録すると同時に、マイクロ血流の断層写真を得るために、神経インプラント上に赤外線のLEDのマウントを試みた。組織の赤外光線の吸収は、血液中の酸素量に依存する。したがって、図5に示すように、組織を浸透した光の強度は、フォトダイオードで測定される。
【0018】
図6には、このマルチチップボンディング技術を使用し、神経インプラント上にマウントしたLEDを示す。図7は、神経インプラント上にマウントしたLEDのI−V特性を示す。遠距離場のイメージおよび神経インプラントにマウントしたLEDから発される光の角度分布は、図8に示される。LEDから発される光は、±40度の間で広く広がった。
【0019】
また、高機能集積化神経インプラントは、正負両極性の刺激電流パルスで神経を刺激することができる。図9および10は刺激電流発生器のための回路とテストチップの測定結果をそれぞれ示す。適当な周波数によれば、正負両極性の刺激電流のパルスを発生することができた。
【0020】
マルチ電極アレイの製作について説明する。試験に用いたマイクロ電極の全体的な構造は、図11に示される。図12は、閉ざされた脳膜のなかにマイクロ電極を貫通させるために、ステンレス鋼のパイプでカバーされた、8チャンネルのパターンのマイクロ電極の写真を示す。また、図13に示すように、200の記録サイト(5×5の電極が8チャンネル)を有する、完全に平行したマイクロ電極アレイと電極に接続している生体適合性のある可撓性ケーブルも開発した。
【0021】
結果について説明する。脳膜を通して穴を開けるためのステンレス鋼パイプ、位置をコントロールするためのマニュピレータ、そして、アンプに接続するためのステンレス鋼のリード線から成る、組み立てられた一つのマイクロ電極の試験系の写真を図14に示す。我々はketamineの麻酔下の猿の下肢を制御する脳の運動野からの神経応答を、このマイクロ電極を使ってモニターした。図15に示すように、我々は我々の製造したマイクロ電極系で神経信号をうまく観察し、ノイズの振幅は、ほぼ10マイクロVであった。
【0022】
我々は、マルチマイクロ電極、血流検出器、電気回路およびマルチチップボンディング技術で接続した可撓性ケーブルから成る血流測定を伴う高機能集積化神経インプラントを提案し、これらの部品を開発した。マイクロ電極アレイは、うまく製造されて、明らかに神経応答を検出した。
【0023】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の活用例として高機能集積化神経インプラントはパーキンソン病や癲癇などの脳疾病や半身不随の患者の治療のためにも用いることができる。癲癇などの発作を神経インプラントが検知すると直ちに刺激信号を発して発作を抑える。さらに半身不随の患者のためには神経インプラントで患者の思考を解釈して義手や義足さらにはコンピュータなどの操作を行うこともできる。本発明は脳科学の発展に寄与するのみか、脳疾患の患者のQOL改善にも大いに寄与するものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】多機能集積化神経インプラントの概念図。
【図2】集積化神経インプラントのブロック図。
【図3】生体適合性樹脂を用いたLSIの測定探針へのボンディングの様子。
【図4】I−V特性を示すグラフ。
【図5】神経インプラントに搭載する血流量センサの概念図。
【図6】測定探針上へ搭載したLED。
【図7】神経インプラント上のLEDのI−V特性を示すグラフ。
【図8】搭載したLEDからの発光の様子。
【図9】双極電流刺激回路。
【図10】試作回路で発生した神経細胞刺激用双電流。
【図11】試験に用いたマイクロ電極の全体的な構造。
【図12】マイクロ電極の写真。
【図13】試作したSi製測定探針
【図14】組み立てられたマイクロ電極の写真。
【図15】試作した測定探針を用いて測定した日本猿の運動野からの脳波。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳機能の解明を行うために微小な探針を脳神経に埋め込む神経インプラント装置において、制御用のLSIやセンサ類等をボンディングによって前記探針に搭載することを特徴とする神経インプラント装置。
【請求項2】
前記ボンディングが、生体適合性樹脂を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の神経インプラント装置。
【請求項3】
前記ボンディングによって前記探針にLEDとフォトダイオードを搭載し、前記LEDから発せられた光を前記フォトダイオードが検出することで、組織内の血流量の測定を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の神経インプラント装置。
【請求項4】
前記神経インプラント装置が、前記探針から延びる可撓性ケーブルを有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の神経インプラント装置。
【請求項5】
前記神経インプラント装置が、前記探針を備えた体内に移植される体内ユニットと、該体内ユニットからデータの収集を行う体外ユニットとで構成され、前記体内ユニットと前記体外ユニットとの信号の授受や、前記体内ユニットへの電力の供給を無線で行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の神経インプラント装置。
【請求項1】
脳機能の解明を行うために微小な探針を脳神経に埋め込む神経インプラント装置において、制御用のLSIやセンサ類等をボンディングによって前記探針に搭載することを特徴とする神経インプラント装置。
【請求項2】
前記ボンディングが、生体適合性樹脂を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の神経インプラント装置。
【請求項3】
前記ボンディングによって前記探針にLEDとフォトダイオードを搭載し、前記LEDから発せられた光を前記フォトダイオードが検出することで、組織内の血流量の測定を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の神経インプラント装置。
【請求項4】
前記神経インプラント装置が、前記探針から延びる可撓性ケーブルを有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の神経インプラント装置。
【請求項5】
前記神経インプラント装置が、前記探針を備えた体内に移植される体内ユニットと、該体内ユニットからデータの収集を行う体外ユニットとで構成され、前記体内ユニットと前記体外ユニットとの信号の授受や、前記体内ユニットへの電力の供給を無線で行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の神経インプラント装置。
【図2】
【図7】
【図9】
【図15】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図7】
【図9】
【図15】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−230955(P2006−230955A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53983(P2005−53983)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月1日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)秋季 第65回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月1日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)秋季 第65回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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