説明

神経伝導速度改善のための方法および組成物

本発明は、神経信号伝導障害の有効な治療のための方法および組成物を提供する。活性薬剤として選択的A2受容体アンタゴニストを含む組成物および神経信号伝導の改善または神経信号伝導障害の逆転に関する使用法を記載する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般には、対象の神経信号伝導を改善する、または神経伝導速度障害を逆転させるための選択的2型アンギオテンシンII(AT2)受容体アンタゴニストの使用および神経信号伝導障害に関与する状態の治療または予防に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
神経信号伝導速度または神経伝導速度(NCV)はすべての神経信号伝達の特徴である。NCVは神経インパルス(信号)が神経または神経線維に沿って移動する速度である。これは典型的にはメートル毎秒(m/s)で測定される。
【0003】
NCV障害は神経損傷の一般的な結果である。NCVは多くの場合、例えば、末梢神経障害、手根管症候群、尺骨神経障害、ギラン-バレー症候群、顔面肩甲上腕筋ジストロフィおよび椎間板ヘルニアを含む神経障害に関与している。神経伝導速度障害は、反射反応の減弱ならびに知覚異常およびいくつかの場合には疼痛を含む末梢感覚の変化をきたすこともある。
【0004】
末梢神経における神経伝導速度の測定は、長らく整形外科、神経内科および内科の他の部門における有用な診断ツールであった。速度や振幅の減弱または異常な波形は神経損傷を示唆するものである。そのような検査は、異常な状態の発生または開始を示すために用いられることもある。したがって、そのような検査を用いて、神経に対する永久的損傷が起こる前に予防的矯正活動を試みることが可能となるであろう。
【0005】
神経伝導速度の一時的障害を治療する必要はないが、急性または慢性障害は治療を必要とすることもある。現在のところ、障害の原因を調べるよう試み、可能な治療法があれば、原因を治療することによって、障害の症状を治療する。しかし、いくつかの神経障害などの、いくつかの疾患または障害において、根元疾患または障害を治療するために利用できる治療法がないこともある。
【0006】
NCVを改善するための治療またはその症状の回復が望ましく、さらなる神経変性またはさらなる合併状態を防ぐ助けとなり得る。例えば、糖尿病患者において、足の虚血および感染は重篤で、生命を脅かすことですらある。糖尿病性の足潰瘍形成にいたる最も一般的な原因経路は、神経障害(感覚消失)、変形(例えば、中足骨頭突出)、および外傷(例えば、不適切な履き物による)の組み合わせと特定されている。末梢神経障害と感覚障害の組み合わせは足に外傷、潰瘍、および感染を起こしやすくする。糖尿病性神経障害は、健常C線維の侵害受容器機能に依存する神経軸索反射を障害する。この神経障害状態はさらに、糖尿病性神経障害の足における、傷害または炎症などのストレス状態でみられる血管拡張反応も損なう。この障害は、糖尿病性神経障害の足における潰瘍で、下肢の血管再生が成功したにもかかわらず、治癒が遅いか、またはまったく治癒しないものがある理由を、部分的に説明していると考えられる。明らかに、NCVを改善する治療は、悪性傷害の発生の原因である神経障害状態を回復することができる。それでも、悪性の衰弱させる状態の発生において神経障害が果たすと考えられる中心的役割にもかかわらず、神経障害は治療が最も難しい状態の一つである。
【0007】
1型アンギオテンシンII(AT1)受容体アンタゴニストは、糖尿病ラットにおいて神経伝導速度障害を逆転させることが明らかにされている(国際公開公報第93/20816号)。残念なことに、AT1受容体アンタゴニストは他の生物学的作用、特に血圧降下薬としての作用を有することが知られている。したがって、AT1受容体アンタゴニストによるNCV障害の治療は、望ましくない、または禁止されるような副作用を突然引き起こしうる。神経伝導速度障害に対し、他の生物学的作用を伴わない、他のより選択的な、または代替の治療法が必要とされている。
【0008】
最近、選択的AT2受容体アンタゴニストが、神経障害性疼痛、特に有痛性糖尿病性神経障害(PDN)の治療において鎮痛効果を有することが明らかにされている(国際公開公報第2006/066361号)。しかし、神経伝導速度障害に関連する神経障害状態のすべてが神経障害性疼痛をきたすわけではない。いくつかの症例では、神経障害状態の最初の症状は知覚異常で、これは疼痛を伴うこともあれば、伴わないこともある。さらに、NCV測定の技術は今では、より悪性の症状および状態が生じる前の、障害のある、または最適以下の神経信号伝導速度の早期検出を容易にしている。したがって、対象の中には、NCV障害の早期診断の結果、神経伝導速度を改善または増大する必要がある者もある。
【0009】
驚くことに、本発明者らは、選択的AT2受容体アンタゴニストの投与が神経伝導速度を改善または増大しうることを見いだした。事実、AT2受容体アンタゴニストを用いて、神経伝導速度障害を正常なレベルにまで復旧することができ、これは反射反応の減弱および知覚異常を含む末梢感覚の変化などの症状の軽減、ならびにさらなる神経損傷の防止へと導くことができ、神経伝導速度障害から生じる神経障害性疼痛およびさらなる障害の発生を予防しうる。
【発明の概要】
【0010】
概要
本開示は、対象の神経伝導速度を増大または改善するための選択的AT2受容体アンタゴニストの使用法を含む。特定の方法は、神経伝導速度(NCV)の増大を必要としている対象の治療法であって、対象のNCVを増大させるのに有効な量のAT2受容体アンタゴニストを含む組成物を対象に提供する段階を含む方法である。もう一つの方法はNCV障害を逆転させる方法であって、対象のNCVを逆転させるのに有効な量のAT2受容体アンタゴニストを含む組成物を対象に提供する段階を含む方法である。
【0011】
同様に開示するのは、神経伝導速度(NCV)の増大を必要としている、またはNCV障害の逆転を必要としている対象の治療のための薬剤製造における、AT2受容体アンタゴニストの使用である。特定の態様において、方法はNCV増大またはNCV逆転を達成するための薬学的組成物調製のための、少なくとも1つのAT2受容体アンタゴニストの有効量の使用を含む。
【0012】
開示するAT2受容体アンタゴニストの使用法は、神経伝導速度障害に関与する、またはその治療がNCV増大から利益を受けうる状態または病気の治療法を含む。特定の態様において、開示する方法は、神経障害が後天的であるか先天的であるかに関わらず、その治療のプロトコルの一部である。
【0013】
同様に開示するのは、神経伝導速度(NCV)の増大を必要としている、またはNCV障害の逆転を必要としている対象の治療において用いるための、AT2受容体アンタゴニストである。
【0014】
特定の態様において、対象は神経障害状態、特に糖尿病性神経障害を有する。特定の好ましい態様において、対象は神経障害状態を有するが、有痛性神経障害状態を有していない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
以下の図面は本明細書の一部をなし、本発明の特定の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を本明細書において提示する本発明の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、より良く理解されるであろう。
【図1】図1は、14日間の(A)坐骨運動神経伝導速度(MNCV)および(B)伏在知覚神経伝導速度(SNCV)に対する糖尿病および経口用量レベル1.043mg/kgでの化合物1治療の効果を示すグラフである。データは平均±SEMである。***、非糖尿病対照群に対してP<0.001、<0.01;###、糖尿病対照群に対する治療効果P<0.001。
【図2】図2は、経口用量レベル≦1.043mg/kgでの化合物1治療による、糖尿病ラットにおける運動および知覚神経伝導速度の欠陥矯正の用量反応曲線を示すグラフである。データは平均±SEMであり、曲線は最適S字形曲線である。
【図3】図3は、1、3、7 14および28日間の(A)坐骨運動神経伝導速度(MNCV)および(B)伏在知覚神経伝導速度(SNCV)に対する糖尿病および経口用量レベル1.043mg/kgでの化合物1治療の効果を示すグラフである。データは平均+SEMである。***非糖尿病対照群に対してP<0.001;###、#糖尿病対照群に対する治療効果P<0.001、<0.05。
【図4】図4は、1、3、7 14および28日間の(A)触覚異痛および(B)温熱性痛覚過敏の行動尺度に対する糖尿病および経口用量レベル1.043mg/kgでの化合物1治療の効果を示すグラフである。データは平均+SEMである。***非糖尿病対照群に対してP<0.001;###、糖尿病対照群に対する治療効果P<0.001。
【図5】図5は、(A)触覚異痛および(B)温熱性痛覚過敏の行動尺度に対する糖尿病および経口用量レベル1.043mg/kgでの化合物1治療の効果を示すグラフであり、薬物治療前および治療後の値、ならびに対応のあるt統計値を示す。データは平均+SEMである。###、##治療前に対する治療効果P<0.001、<0.01(対応のあるスチューデントt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
以下の特定の態様および実施例の詳細な説明は、例示のために示すものであって、限定のためではない。
【0017】
禁忌または特に記載がないかぎり、本明細書の全体を通して、「a」および「an」なる用語は1つまたは複数を意味し、「または」なる用語はおよび/またはを意味する。
【0018】
「含む」とは、「含む」なる語に続くものは何でも含まれるが、それに限定されるわけではないことを意味する。したがって、「含む」なる用語の使用は、列挙する要素は必要とされるか、または必須であるが、他の要素は任意であり、存在してもしなくてもよいことを示す。「からなる」とは、「からなる」なる語句に続くものは何でも含まれ、それに限定されることを意味する。したがって、「からなる」なる語句は、列挙する要素は必要とされるか、または必須であり、他の要素は存在しなくてもよいことを示す。「本質的に〜からなる」とは、語句の後に列挙する任意の要素が含まれ、列挙する要素についての開示において明記する活性または作用を妨害しないか、またはそれに寄与しない他の要素に限定されることを意味する。したがって、「本質的に〜からなる」なる語句は、列挙する要素は必要とされるか、または必須であるが、他の要素は任意であり、それらが列挙する要素の活性または作用に影響するかどうかに依存して、存在してもしなくてもよいことを示す。
【0019】
I. NCVおよびNCV障害に関与する状態
神経伝導速度(NCV)を、体の運動および知覚神経の電気伝導を評価することにより評定する。運動神経伝導速度の測定は、電気インパルスで末梢神経を刺激し、試験中の神経により神経支配される筋肉において刺激から活動電位が生じるまでの時間すなわち潜時を測定することにより行ってもよい。測定は、信号を拾う筋肉上に設置した表面電極を用いて行うこともでき、この信号を増幅し、陰極線管またはオシロスコープのスクリーンに表示する。知覚神経伝導は、末梢神経を刺激し、指または足パッドなどの知覚部位で記録することにより、同様の様式で評定する。オシロスコープのスクリーン上でピークとして現れる、刺激と反応との間の距離の測定値を潜時に変換する。かかる時間をミリ秒で測定し、インパルスが移動する距離を考慮して速度(m/s)に変換する。この技術を筋電図検査法(EMG)と呼ぶ。
【0020】
NCV測定のための確立されたプロトコルは、1つまたは複数の神経の適当かつ特異的刺激により生じる振幅、潜時、および波形を評定するための周知の技術を含む。m/sによるNCVに加えて、F波の指数を記録または報告してもよい。NCV障害を評定するためのその他の手段には、H反射試験、まばたき反射、および自動NCV試験機が含まれる。まばたき反射の評定は、脳幹、または第5〜第7脳神経に関与する状態の評定において重要でありうる。まばたき反射反応の異常な潜時は、これらの領域におけるNCV病態の指標でありうる。
【0021】
これらおよび関連する後術は当技術分野において公知である。例えば、米国特許第4,291,705号、第4,807,643号、および第7,628,761号は伝導試験を行うための方法および機器を開示しており、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0022】
「NCV障害」または「神経伝導速度障害」などの語句は、正常な神経信号伝導について評定されるパラメーターの任意の1つにおいて明らかに異常な任意の神経伝導を意味する。NCVの様々なパラメーターが正常かどうかは、典型的には適切な訓練を受けた医師によって行われる評定である。NCVを評価するための当業者には公知の一般的背景、用語および手順は、''Proper performance and interpretation of electrodiagnostic studies'' Muscle Nerve. (2006) 33(3):436-439およびThe American Association of Neuromuscular & Electrodiagnostic Medicine著、American Medical Association発行の''Electrodiagnostic medicine listing of sensory, motor, and mixed nerves.'' Appendix J of Current Procedural Terminology (CPT) 2007に記載されている。
【0023】
神経伝導速度の障害または異常は、神経の機能不全または損傷の症状であり、多数の疾患または障害、特に反射反応の減弱および知覚異常を含む末梢感覚の変化を示す疾患または障害の原因または症状でありうる。本明細書において用いられる「知覚異常」とは、対象の皮膚における刺痛、穿痛、虚弱の感覚または無感覚を意味する。これは「しびれてチクチクする感じ(pins and needles)」または四肢が「眠り込んでいる」としても知られている。知覚異常は一過性、急性または慢性でありえ、単独で起こることもあれば、疼痛などの他の症状を伴うこともある。
【0024】
本明細書において用いられる「疼痛」なる用語は、その一般的な意味を有し、実際の、もしくは可能性のある組織損傷に関連する、またはそのような損傷に関して記載される、不快な感覚および情動経験を含み、特殊な神経末端の刺激から生じる、不快感、苦痛、または苦悩の多かれ少なかれ局在する感覚を含む。
【0025】
本発明の方法は、神経障害状態を含むNCV障害に関連する疾患および障害を治療する、予防する、軽減する、遅延させる、またはその進行を防止する上で有用でありうる。神経障害には多くの可能な原因があり、本発明は、状態の原因に関係なく、開示する化合物および方法による治療の対象となる任意の神経障害状態の治療および予防を企図すると理解されるであろう。いくつかの態様において、神経障害状態は、神経の疾患(一次神経障害)および下記などであるが、それらに限定されるわけではない、全身疾患によって引き起こされる神経障害(二次神経障害)の結果である:糖尿病性神経障害;帯状ヘルペス(帯状疱疹)関連神経障害;尿毒症関連神経障害;アミロイド症神経障害;HIV知覚神経障害;遺伝性運動および知覚神経障害(HMSN);遺伝性知覚神経障害(HSN);遺伝性知覚および自律神経障害;潰瘍-切断を伴う遺伝性神経障害;ニトロフラントイン神経障害;ソーセージ様(tumaculous)神経障害;栄養不足によって引き起こされる神経障害および腎不全によって引き起こされる神経障害。他の原因には、タイピングまたは組立てラインでの労働などの反復活動、いくつかの抗レトロウイルス薬(ddC(ザルシタビン)およびddI(ジダノシン)ならびに選択されたHIVプロテアーゼ阻害剤など)、抗生物質(クローン病に用いる抗生物質のメトロニダゾール、結核に用いるイソニアジドなど)、金化合物(関節リウマチに用いる)、いくつかの化学療法薬(ビンクリスチンなど)、および多くの他の薬物などの、末梢神経障害を引き起こすことが知られている薬剤が含まれる。アルコール、鉛、ヒ素、水銀および有機リン系農薬を含む化学化合物も、末梢神経障害を引き起こすことが知られている。いくつかの末梢神経障害は感染過程に関連している(ギラン-バレー症候群など)。特定の態様において、神経障害状態は糖尿病性神経障害などの末梢神経障害状態である。
【0026】
これらは多くの型の糖尿病性神経障害であり、有痛性糖尿病性神経障害(PDN)などのいくつかの型は疼痛を含むが、疼痛なしで起こるものもある。神経障害状態は症状としての疼痛を含まなくてもよい。
【0027】
本発明は、存在する疼痛の痛覚消失を提供するためではなく、機能が障害されている神経の機能を改善するためのものである。
【0028】
「痛覚消失」なる用語は、本明細書において、疼痛感覚の欠如ならびに侵害刺激に対する感受性低下または欠如の状態を含む、疼痛知覚低下の状態を記載するために用いる。そのような疼痛知覚低下または欠如の状態は、当技術分野において一般に理解されているとおり、1つまたは複数の疼痛制御剤の投与によって誘導され、意識を消失することなく起こる。痛覚消失なる用語は「抗侵害受容」なる用語を含み、これは当技術分野において動物モデルの痛覚消失または疼痛感受性低下の定量的尺度として用いられる。
【0029】
いくつかの態様において、対象は反射反応の減弱および知覚異常を含む末梢感覚の変化の症状を有する。いくつかの態様において、神経伝導速度障害を含む疾患または障害は、末梢神経障害、圧迫神経障害、エントラップメント神経障害、毒素に関連する神経障害、症状として反射反応の減弱および知覚異常を含む末梢感覚の変化を含む疾患もしくは状態、ギラン-バレー症候群、顔面肩甲上腕筋ジストロフィ、または神経損傷によって起こる状態から選択される。特定の態様において、疾患または状態は糖尿病性神経障害である。
【0030】
NCV障害を含み、したがって開示する方法による治療の対象となる、さらなる状態は、手根管症候群(一側性または両側性)、神経根障害、単神経障害、多発神経障害、筋障害、運動神経障害、神経叢障害、神経筋接合部機能不全、足根管症候群(一側性または両側性)、虚弱、疲労、痙攣、または単収縮、無感覚または刺痛(一側性または両側性)の徴候を示す対象によって特定される。
【0031】
II. 2型アンギオテンシンII受容体
本明細書において用いられる「AT2受容体」なる用語は、アンギオテンシン(Ang)IIおよび/または1つもしくは複数の他のリガンドに結合しうる、2型Ang II(AT2)受容体ポリペプチドを意味する。「AT2受容体」なる用語は、哺乳動物、爬虫類および鳥類ホモログを含むが、それらに限定されるわけではない、AT2受容体ファミリーメンバーの脊椎動物ホモログを含む。AT2受容体ファミリーメンバーの代表的な哺乳動物ホモログには、マウスおよびヒトホモログが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0032】
AT2受容体はアンギオテンシンII受容体のサブタイプであり、AT1受容体とは異なる。AT2受容体についての現行の知識とは対照的に、AT1受容体に基づくとされるいくつかの関連する生物活性がある。事実、アンギオテンシンIIの公知の生理作用のほとんどはAT1受容体の刺激を通じて仲介されると考えられ、AT1受容体の拮抗作用は高血圧およびうっ血性心不全の一般的治療である。現在のところ、AT2受容体を特異的に標的とする市販の薬物はなく、哺乳動物でAT2受容体に基づくとされる生理的役割はほとんどない。
【0033】
III. 選択的2型アンギオテンシンIIアンタゴニスト化合物
2型アンギオテンシンII(AT2)アンタゴニストは、アンギオテンシンII受容体の2つの主なサブタイプの1つ、すなわち2型アンギオテンシンII受容体に対するアンタゴニストである(A. T. Chiu et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 165:196-203 (1989))。国際公開公報第2006/066361号は、神経障害性疼痛の軽減のための鎮痛薬としてのAT2受容体アンタゴニストの使用を記載している。米国特許公報第20090177267号は、血管疾患、特に腹部大動脈瘤の治療におけるAT2受容体アンタゴニスト投与のための医療装置を記載している。
【0034】
本明細書において用いられる「AT2アンタゴニスト」なる用語は、AT2受容体ポリペプチドの生物活性を低減、阻害、または調節する、薬剤または1つもしくは複数の化合物、化学組成物を意味する。AT2受容体アンタゴニストは、AT2受容体サブタイプに選択的に結合し、この受容体を通じてシグナル伝達を適切に調節する、任意の分子または活性化合物でありうる。化合物は分子または活性化合物の薬学的に適合性の塩を含む。この範疇は異なる構造的特徴を示す化合物を含む。
【0035】
AT2受容体アンタゴニストは、米国特許第7,828,840号に開示され、記載される化合物から選択してもよく、その内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。好ましい態様は、国際公開公報第2006/066361号に列挙され、記載されるものから化合物を選択してもよく、その内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0036】
本発明の方法において用いる化合物は選択的AT2受容体アンタゴニストである。選択的AT2受容体アンタゴニストは典型的には、本明細書に記載する検定法を用いて、AT2受容体におけるIC50が≦100nMで、AT1受容体におけるIC50が≧100,000nM(10μM)である化合物である。
【0037】
特に好ましい態様において、これらの方法において有用な選択的AT2受容体アンタゴニストは式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩である:

式中
R1およびR2が両方とも水素であることはないとの条件で、R1およびR2は水素、フェニル、ベンジル、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキルおよびヘテロアリールから独立に選択され;
R4はカルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミドおよびアミドから選択され;
XがOまたはSである時、R1およびR2の1つは存在しないとの条件で、XはCH、N、OおよびSから選択され;
YはS、OおよびN-R3から選択され、ここでR3は水素、C1-6アルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、-OHまたは-NH2から選択され;
Gは下記から選択される5または6員芳香族、複素環式またはヘテロアリール環であり:

ここで記号「*」は縮合環AとGとの間で共有される結合を示し;
R5は水素、C1〜C6アルキル、フェニルおよびC1〜C6アルコキシから選択され、
R6およびR8が両方とも水素であることはないとの条件で;R6およびR8は水素、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンジルアミノ、ビフェニル、ビフェニルオキシ、ナフチルおよびナフチルオキシから独立に選択され;かつ
R7はフェニル、ベンジル、ビフェニル、ビフェニルメチル、ナフチルおよびナフチルメチルから選択され;
ここで各アルキル、アルコキシ、アリール、シクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキル、アリールアルキルオキシおよびヘテロアリール基は置換されていてもよい。
【0038】
理論に縛られることはないが、本明細書に開示する方法によって用いる式(I)のAT2受容体アンタゴニストの選択的かつ活性官能基の、AT2受容体に対するそれらの選択性および活性は、式(I)によって示す特定のファルマコフォアによると考えられる。式(I)内の代替置換基の構造と効果との間の関係は公知である。例えば、下記を参照されたい:Klutchko et al. (1994) Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 4(1):57-62;Blankley et al. (1991) J. Med. Chem. 34:3248-3260;およびVanAtten et al. (1993) J. Med. Chem. 36(25):3985-3992。したがって、式(I)の範囲内のすべての化合物は予想どおり、開示する方法内で使用するために必要とされる基本的な選択性および活性を、式(I)に示す共通のファルマコフォアを通じて共有することになる。
【0039】
それにもかかわらず、本明細書において論じる任意の特定の化合物は、特定の態様において、本明細書に記載の化合物または一般式の部類から除外されうることが具体的に企図される。
【0040】
特定の態様において、式(I)の化合物は以下の特徴の1つまたは複数を有する:
R1およびR2が両方とも水素であることはないとの条件で、R1およびR2は水素、置換されていてもよいフェニルおよび置換されていてもよいベンジルから独立に選択され、特にR1およびR2の少なくとも1つは置換されていてもよいフェニルであり、より特別にはR1およびR2はいずれも置換されていてもよいフェニルであり、最も特別にはR1およびR2はいずれも無置換フェニルであり;
R4はカルボン酸、特にS-カルボン酸であり;
XはCHまたはN、特にCHであり;
Yは酸素または硫黄、特に酸素であり、
Gは

特に

であり;
R5は水素またはC1〜C4アルキル、特に水素であり;
R6はC1〜C6アルコキシ、置換されていてもよいフェニルオキシ、置換されていてもよいベンジルオキシ、または置換されていてもよいビフェニルオキシ、特に置換されていてもよいフェノキシまたは置換されていてもよいベンジルオキシ、より特別には無置換ベンジルオキシであり;
R7は置換されていてもよいベンジル、置換されていてもよいビフェニルメチルおよび置換されていてもよいナフチルメチル、特に置換されていてもよいベンジル、より特別には3位および4位にメチル、メトキシ、-NH2、-NHCH3または-N(CH3)2から独立に選択される置換基で置換されているベンジルであり;
R8は水素、置換されていてもよいC1〜C6アルキル、または置換されていてもよいC1〜C6アルコキシ、特にC1〜C6アルコキシ、より特別にはメトキシである。
【0041】
いくつかの態様において、式(I)の化合物は式(II)の化合物である:

式中、R1、R2、R6、R8およびXは式(I)について定義したとおりである。
【0042】
いくつかの態様において、式(I)の化合物は式(IIA)の化合物である:

式中、R1、R2、R6、R8およびXは式(I)について定義したとおりである。
【0043】
特定の態様において、式(II)または(IIA)の化合物は2-(ジフェニルアセチル)-5-ベンジルオキシ-6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸またはその鏡像異性体、特にS-2-(ジフェニルアセチル)-5-ベンジルオキシ-6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸(化合物1)である。例示的化合物1はPD 126055のS-鏡像異性体、(S)-2-(ジフェニルアセチル)-1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メトキシ-5-(フェニルメトキシ)-3-イソキノリンカルボン酸として、および以下の式を基準としても特定される:

【0044】
いくつかの態様において、式(I)の化合物は式(III)の化合物:

式中、R1、R2、R5、R7およびXは式(I)について定義したとおりであり;
特に式(IIIA)の化合物である:

式中、R1、R2、R5、R7およびXは式(III)について定義したとおりである。
【0045】
特定の態様において、式(III)または(IIIA)の化合物は:
1-[[4-(ジメチルアミノ)-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸またはその鏡像異性体、特に以下の式を基準としてのS-1-[[4-(ジメチルアミノ)-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸(化合物2)である:

【0046】
さらなる特定の態様において、式(III)または(IIIA)の化合物は:
1-[[4-メトキシ-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸;またはその鏡像異性体、特に以下の式を基準としてのS-1-[[4-メトキシ-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸(化合物3)である:

【0047】
本明細書において用いられる「アルキル」は、1から10個の炭素原子を含む、分枝および直鎖両方の飽和脂肪族炭化水素基を含むことが意図され、明示された数の炭素原子を含んでいてもよい。例えば、「C1〜C6アルキル」におけるC1〜C6は、直線または分枝配列中に1、2、3、4、5または6個の炭素を有する基を含むと定義される。例えば、「C1〜C6アルキル」には具体的にはメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、i-ブチル、ペンチルまたはヘキシルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0048】
「アルケニル」なる用語は、特に記載がないかぎり、2から10個の炭素原子と少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を含む、直鎖または分枝炭化水素基を意味する。したがって、「C2〜C6アルケニル」とは、2から6個の炭素原子を有するアルケニル基を意味し、二重結合は鎖内のいかなる2つの隣接する炭素原子の間であってもよい。アルケニル基には、エテニル、プロパ-1-エニル、プロパ-2-エニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニルおよび2-メチルブテニルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0049】
「アルキニル」なる用語は、2から10個の炭素原子と少なくとも一つの炭素-炭素三重結合を含む、直鎖または分枝炭化水素基を意味する。したがって、「C2〜C6アルキニル」とは、2から6個の炭素原子を有するアルキニル基を意味し、三重結合は鎖内のいかなる2つの隣接する炭素原子の間であってもよい。アルキニル基には、エチニル、プロピニル、ブチニル、3-メチルブチニルなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0050】
「シクロアルキル」または「脂肪族環」なる用語は、単環式飽和脂肪族炭化水素基を意味し、C3からC7などの、環内に明示された数の炭素原子を有していてもよい。例えば、「シクロアルキル」には、シクロプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0051】
「アルコキシ」とは、酸素橋を通じて連結されている非環式または環式(シクロアルキル)いずれかのアルキル基を意味する。したがって、「アルコキシ」は前述のアルキルおよびシクロアルキルの定義を含む。例えば、アルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、i-プロピルオキシ、シクロペンチルオキシおよびシクロヘキシルオキシが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0052】
本明細書において用いられる「芳香族」または「アリール」は、各環に原子7個までの任意の安定な単環式または二環式炭素環であって、少なくとも1つの環は芳香族である環を意味することが意図される。そのようなアリール基の例には、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、ビフェニル、フェナントリル、アントリルまたはアセナフチルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0053】
「アルキルアリール」は、上で定義したアリール基で置換されている、上で定義したアルキル、例えば、-CH2フェニル(ベンジル)、-(CH2)2フェニル(フェニルエチル)、-(CH2)3フェニル、-CH2CH(CH3)CH2フェニル、-CH2ナフチル(ナフチルメチル)、-CH2CH2ナフチル(ナフチルエチル)、-CH2ビフェニル(ビフェニルメチル)などを意味する。
【0054】
「アリールオキシ」は、特に記載がないかぎり、酸素橋を通じて連結されているアリール基を意味する。アリールオキシ基の例には、-Oフェニル(フェノキシ)、-Oフェニル-フェニル(ビフェニルオキシ)および-Oナフチル(ナフチルオキシ)が含まれる。
【0055】
本明細書において用いられる「複素環」、「ヘテロ脂肪族」または「ヘテロシクリル」なる用語は、O、NおよびSからなる群より選択される1から4個のヘテロ原子を含む、飽和でも不飽和でもよい、5から10員非芳香族複素環を意味することが意図され、二環式基を含む。複素環式なる用語は、任意の窒素含有複素環のN-オキシド誘導体を含む。
【0056】
本明細書において用いられる「ヘテロアリール」または「ヘテロ芳香族」なる用語は、各環に原子7個までの安定な単環式または二環式環であって、少なくとも1つの環は芳香族であり、O、NおよびSからなる群より選択される1から4個のヘテロ原子を含む環を意味する。複素環の定義と同様、「ヘテロアリール」は任意の窒素含有ヘテロアリールのN-オキシド誘導体を含むとも理解される。
【0057】
「ヘテロアリール」および「ヘテロシクリル」の例には、下記が含まれるが、それらに限定されるわけではない:アクリジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾフラザニル、ベンゾピラゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾキサゾリル、カルバゾリル、カルボリニル、シンノリニル、フラニル、イミダゾリル、インドリニル、インドリル、インドラジニル、インダゾリル、イソベンゾフラニル、イソインドリル、イソキノリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、ナフトピリジニル、オキサジアゾリル、オキサゾリル、オキサゾリン、イソキサゾリン、オキセタニル、ピリジニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドピリジニル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリル、キノリニル、キナゾリニル、キノリル、キノキサリニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾリル、テトラゾロピリジル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、トリアゾリル、アゼチジニル、アジリジニル、1,4-ジオキサニル、ヘキサヒドロアゼピニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピロリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ジヒドロベンゾイミダゾリル、ジヒドロベンゾフラニル、ジヒドロベンゾチオフェニル、ジヒドロベンゾキサゾリル、ジヒドロフラニル、ジヒドロイミダゾリル、ジヒドロインドリル、ジヒドロイソオキサゾリル、ジヒドロイソチアゾリル、ジヒドロオキサジアゾリル、ジヒドロオキサゾリル、ジヒドロピラジニル、ジヒドロピラゾリル、ジヒドロピリジニル、ジヒドロピリミジニル、ジヒドロピロリル、ジヒドロキノリニル、ジヒドロテトラゾリル、ジヒドロチアジアゾリル、ジヒドロチアゾリル、ジヒドロチエニル、ジヒドロトリアゾリル、ジヒドロアゼチジニル、メチレンジオキシベンゾイル、テトラヒドロフラニル、およびテトラヒドロチエニル、ならびにそのN-オキシド。ヘテロシクリル置換基の連結は炭素原子またはヘテロ原子を介して起こりうる。
【0058】
本明細書において用いられる「置換されていてもよい」なる用語は、基が無置換であってもよく、または一つもしくは複数の追加の置換基でさらに置換されていてもよいことを意味する。追加の置換基の例には、-C1〜C10アルキル、-C2〜C10アルケニル、-C2〜C10アルキニル、-C3〜C7シクロアルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、-C1〜C4過フルオロアルキル、-OH、-SH、-CN、-NO2、ハロ(F、Cl、Br、I)、C1〜C10アルコキシ-、-C1〜C4アルキルハロ、-C1〜C4アルキルOH、-C1〜C4アルキルSH、-NH2、-NH(C1〜C4アルキル)、-N(C1〜C4アルキル)2、-NHアリール、-N(アリール)2、アリールオキシ-、アリールC1〜C4アルキルオキシ-、ホルミル、C1〜C10アルキルC(O)-、C1〜C10アルコキシC(O)-、-PO3H2、-CO2H、-CONHSO2R10、-CONHSO2NHR10、-NHCONHSO2R10、-NHSO2R10、-NHSO2NHCOR10、-SO2NHR10、-SO2NHCOR10、-SONHCONHR10、-SO2NHCO2R10、-CO2R10、-CONH2、-NHCHO、-COC1〜C4過フルオロアルキル、-SOC1〜C4過フルオロアルキルおよび-SO2C1〜C4過フルオロアルキルが含まれ、ここでR10は水素、C1〜C4アルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリルおよびヘテロアリールから選択される。
【0059】
本明細書において用いられる「過フルオロアルキル]なる用語は、すべての水素原子がフッ素原子で置き換えられているアルキル基を意味する。例には、-CF3、-CF2CF3、-CF2CF2CF3および-CF(CF3)2が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0060】
本明細書に記載の化合物は不斉中心を有することがあり、したがって立体異性体で存在しうることが理解されるであろう。方法は、一つまたは複数の不斉中心で実質的に純粋な、例えば、95%、97%または99%eeなどの約90%eeよりも高純度の立体異性体の化合物の使用も含む。本発明は、ラセミ混合物を含む立体異性体の混合物も含む。
【0061】
「薬学的に適合性の塩」および「薬学的に許容される塩」なる用語は、ヒトおよび動物への投与において毒物学的に安全な塩を意味するために、本明細書において交換可能に用いられる。この塩は塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、酒石酸水素塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、ナプシル酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、テレフタル酸塩、パモ酸塩およびペクチニン酸塩を含む群から選択してもよい。塩基塩には、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよびジアルキルアンモニウムを含む薬学的カチオンと形成されるものが含まれる。薬学的に許容される塩には金属(無機)塩および有機塩の両方が含まれ;その非網羅的リストはRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990に示されている。適当な塩の形は物理的および化学的安定性、流動性、吸湿性および可溶性に基づいて選択されることは、当業者には周知である。
【0062】
IV. NCVを改善するための治療法
本明細書において用いられる「対象」または「個体」または「患者」とは、治療が望まれる任意の対象を意味し、一般には本発明に従って実施される治療の受容者を意味する。対象は任意の脊椎動物でありうるが、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物であれば、対象は好ましくはヒトであるが、家畜、実験対象またはペット動物であってもよい。
【0063】
本明細書において用いられる「治療」または「治療すること」とは、(i)軽減、すなわち対象においてNCVの増大を引き起こすこと;(ii)症状の退行、例えば、NCV障害もしくはNCV障害を含む状態から生じる、もしくはそれに関連する症状の軽減を引き起こすこと;(iii)予防、すなわち症状が発生しないようにすること、例えば、症状もしくはNCV障害を含む他の状態の有害な状態への進行を予防すること;または(iv)阻害、すなわち症状の発生もしくはさらなる発生を止めること、例えば、活動性の(進行中の)悪化を緩和することもしくは完全に阻害することを含む、対象、通常は哺乳動物対象、一般にはヒト対象における任意の治療的介入を意味する。治療は予防および療法を含む。
【0064】
本明細書において用いられる「NCVの改善」または「NCVを改善すること」とは、NCV測定パラメーターまたは関連もしくは表示症状の、治療的に望まれる終末状態への変化を意味する。本明細書において企図され、用いられる、そのような改善は、必ずしも症状の完全な除去または正常な状態への回復を意味する、または必要とするものではなく、治療する対象の治療的に望まれる状態を達成することを意味する、または必要とするものでもない。それよりも、改善は所望の状態への任意の測定可能な変化を含む。同様に、本明細書において用いられる「NCV増大」とは、神経信号が伝導する速度の任意の測定可能な増大または他のパラメーターもしくは症状の任意の測定可能な改善を意味する。
【0065】
NCV増大または改善をきたすためのNCV障害の治療はそれ自体、NCV障害の存在によって生じるより悪性の状態の予防でありうる。例えば、糖尿病対象の四肢における知覚認知の障害は、中には衰弱させるものもある傷害を引き起こすこともあり、これは知覚認知の障害に対抗するために対象のNCVを改善することにより防止しうる。
【0066】
予防または治療は単一の時点または複数の時点で1回直接投与することにより達成されることもある。投与は単一または複数の部位に送達することもできる。特定の態様において、AT2受容体アンタゴニストを、通常の療法の投与に反応しなかった、または負に反応した対象に投与してもよい。同様に、特定の態様において、AT2受容体アンタゴニストを、NCV障害の他の治療の望まれない、または規定の副作用に感受性であると特定された対象に投与してもよい。
【0067】
状態を治療または予防する文脈において、「有効量」、「治療量」、または「治療的有効量」とは、その状態の症状を招くことを予防する、そのような症状を抑える、および/または既存の症状を治療するために有効な活性化合物の量を、そのような治療または予防を必要としている個体に、1回用量または一連の用量の一部のいずれかで送達することを意味する。特に、本発明の方法の文脈において、有効量は、NCV測定値の増大を引き起こすのに有効なAT2受容体アンタゴニストの量の送達を意味する。この文脈において、NCV測定値の増大はNCVの直接もしくは比較測定によって、またはNCV改善もしくは増大に相関する、もしくはこれを示す症状もしくは状態の評定を通じて認識してもよい。
【0068】
有効量は、治療する個体の健康および身体状態、治療する個体の分類群、組成物の製剤、医学的状況の評定、ならびに他の関連因子に依存して変動することになる。この量は、日常的試験を通して決定しうる、比較的広い範囲に入ることになるが、望ましくない、または耐容できない副作用を引き起こさないと予想される。一般に、AT2受容体アンタゴニスト(またはその薬学的に許容される塩)を、例えば、50mg/kg体重まで、特に10mg/kgまでの1日経口用量、または5mg/kg体重まで、特に1mg/kgまでの1日非経口用量を、必要があれば分割用量で与えるように、ヒトに投与することになる。
【0069】
他の非限定例において、用量は1回の投与につき約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg体重、約50マイクログラム/kg体重、約100マイクログラム/kg体重、約200マイクログラム/kg体重、約350マイクログラム/kg体重、約500マイクログラム/kg体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム kg体重、約10ミリグラム/kg/体重、約20ミリグラム/kg体重、約50ミリグラム/kg体重、およびその中の誘導可能な任意の範囲を含んでいてもよい。本明細書に挙げる数字から誘導可能な範囲の非限定例において、約5mg/kg体重から約50mg/kg体重、約5マイクログラム/kg/体重から約500ミリグラム/kg体重などの範囲を投与することができる。
【0070】
任意の特定の対象もしくは対象クラスまたは分類群に対する有効量は、治療前にNCVを測定するか、または相関する症状を評定し、50mg/kg体重まで、特に10mg/kgまでの初期用量または5mg/kg体重まで、特に1mg/kgまでの1日非経口用量を投与し、続いてNCVの後続測定または相関する症状もしくは状態の評定を行う、日常的試験を通して都合よく決定してもよい。1回もしくは複数回の用量または投与法の調節を、初期用量で達成された改善または成功結果の程度に基づいて行ってもよい。症状の改善またはNCV増大のさらなるモニタリングが進行中で、それに応じて用量を調節してもよい。AT2受容体アンタゴニストを含む組成物を低用量で投与し、次いで所望の治療目標を達成するための必要に応じて用量を増やすことが賢明であろう。AT2受容体アンタゴニストの漸増量を、NCVの増大が検出されるまで、または関連症状の低減もしくは緩和が得られるまで投与することができる。
【0071】
当業者が判定して、必要に応じて投与を繰り返すことができる。したがって、本明細書に示す方法のいくつかの態様において、単一用量が企図される。他の態様において、2用量以上が企図される。複数用量を対象に投与する場合、投与の間隔は当業者が判定して任意の間隔でありうる。例えば、投与の間隔は約1時間から約2時間、約2時間から約6時間、約6時間から約10時間、約10時間から約24時間、約1日から約2日、約1週間から約2週間、もしくはそれ以上、または任意のこれらの列挙された範囲内で誘導可能な任意の間隔であってもよい。
【0072】
同様に、特定の対象または治療法のためのAT2受容体アンタゴニストの選択は、治療する個体の健康および身体状態、治療する個体の分類群、組成物の製剤、医学的状況の評定、ならびに他の関連因子に依存してもよい。そのような選択を行う上で、任意の特定の治療状況または製剤における所望の結果を達成するために、式(I)の化合物の構造および置換基の変動間の公知の関係を参照してもよい。特定の対象または治療法のための任意の特定のAT2受容体アンタゴニストに対する関連因子の評定は、当技術分野における日常的実験の範囲内である。
【0073】
V. 薬学的製剤
本明細書に示す方法のいくつかは、NCVを増大させるためのAT2受容体アンタゴニストの薬学的および/または治療的有効量の投与を含む方法に関する。AT2受容体アンタゴニストは、個々の治療的活性成分として、または治療的活性成分の組み合わせのいずれかで、薬剤と共に用いるために利用可能な任意の通常の方法により投与してもよい。AT2受容体アンタゴニストは単独で投与してもよいが、一般には選択した投与経路および標準の薬学的習慣に基づいて選択した薬学的に許容される担体と共に投与することになる。
【0074】
AT2受容体アンタゴニストは大々的に精製および/もしくは透析して、望まれない低分子を除去してもよく、ならびに/または適当な場合には所望の媒体中により容易に製剤するために凍結乾燥してもよい。そのような方法は当技術分野において周知である。次いで、活性化合物を一般には、経口または非経口投与などの任意の公知の経路によって投与するために製剤することになる。投与の方法を以下により詳細に論じる。
【0075】
本明細書において論じる任意の化合物は、薬学的組成物に含まれるとして企図される。本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体中に溶解または分散した1つまたは複数の活性化合物(例えば、AT2受容体アンタゴニスト)または追加の薬剤の有効量を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」なる語句は、適宜、例えば、ヒトなどの動物に投与した場合に、有害、アレルギー性または他の不都合な反応を生じることのない分子実体および組成物を意味する。少なくとも1つの活性化合物または追加の活性成分を含む薬学的組成物の調製は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990によって例示されるとおり、本開示に照らせば当業者には公知となり、前記内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0076】
さらに、動物(例えば、ヒト)への投与のために、製剤はU.S. FDA's Center of Drug Evaluation and Researchによって求められる無菌性、発熱原性、全般的安全性および純度標準に適合すべきであることが理解されるであろう。
【0077】
本明細書において用いられる「薬学的に許容される担体」には、当業者には公知であろう、任意のおよびすべての溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、着香剤、色素、そのような同様の材料およびその組み合わせが含まれる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, pp 1289-1329, 1990参照)。任意の通常の担体が活性成分と不適合である場合を除き、治療的または薬学的組成物におけるその使用が企図される。
【0078】
組成物は、それが固体、液体またはエアロゾルの形で投与されるかどうか、およびそれが注射などの投与経路のために無菌である必要があるかどうかに応じて、異なる型の担体を含んでいてもよい。本発明は、当業者には公知のとおり、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病巣内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜内、気管内、鼻内、硝子体内、腟内、直腸内、表面(topical)、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、口腔、経皮、心膜内、臍帯内、眼内、経口、局所、吸入により(例えば、エアロゾル吸入)、注射により、注入により、持続注入により、局所灌流標的細胞を直接浸すことにより、カテーテルにより、点眼もしくは点耳により、洗浄により、クリームで、脂質組成物(例えば、リポソーム)で、または他の方法もしくは前述の任意の組み合わせにより投与することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1990参照)。
【0079】
特定の態様において、薬学的組成物は、例えば、少なくとも約0.1%の本発明の化合物を含んでいてもよい。他の態様において、AT2受容体アンタゴニストは単位の重量の約2%から約75%の間、または例えば約25%から約60%の間、およびその中の誘導可能な任意の範囲を含んでいてもよい。
【0080】
組成物が液体の形である態様において、担体は水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)およびその組み合わせを含むが、それらに限定されるわけではない、溶媒または分散媒でありうる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により;例えば、液体ポリオールもしくは脂質などの担体中への分散による、求められる粒径の維持により;例えば、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用により;またはそのような方法の組み合わせにより維持することができる。例えば、糖類、塩化ナトリウム、またはその組み合わせなどの、等張化剤を含むことが好ましいこともある。
【0081】
特定の態様において、活性化合物を経口摂取などの経路による投与のために調製する。これらの態様において、固体組成物は、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(例えば、ゼラチン硬または軟カプセル)、徐放性製剤、口腔組成物、トローチ、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤、またはその組み合わせを含んでいてもよい。経口組成物を食物と共に直接取り込んでもよい。特定の態様において、経口投与用の担体は不活性希釈剤、同化できる食用担体またはその組み合わせを含む。本発明の他の局面において、経口組成物はシロップ剤またはエリキシル剤として調製してもよい。シロップ剤またはエリキシル剤は、例えば、少なくとも1つの活性物質、甘味剤、保存剤、着香剤、色素、保存剤、またはその組み合わせを含んでいてもよい。
【0082】
本発明の薬学的組成物の製剤は、それらを放出遅延剤などの薬学的に許容される担体と混合することにより調製して、当技術分野において周知の即時放出または徐放性いずれかの製剤を作成することができる。そのような薬学的に許容される担体は、例えば、トウモロコシデンプン、乳糖、ショ糖、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、プロピレングリコールおよび水などの固体または液体いずれかの形であってもよい。固体担体を用いる場合、本発明の薬学的組成物の製剤は、例えば、散剤、トローチ、またはロゼンジの形であってもよい。液体担体を用いる場合、本発明の薬学的組成物の製剤は、例えば、ゼラチン軟カプセル、シロップ剤液体懸濁剤、乳剤、または液剤の形であってもよい。製剤は、保存剤、安定剤、湿潤剤もしくは乳化剤、または溶解促進剤などの補助剤を含んでいてもよい。即時放出および徐放性製剤は当技術分野において周知である。
【0083】
特定の態様において、経口組成物は1つまたは複数の結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、またはその組み合わせを含んでいてもよい。特定の態様において、組成物は下記の1つまたは複数を含んでいてもよい:例えば、トラガカントゴム、アカシア、トウモロコシデンプン、ゼラチンもしくはその組み合わせなどの結合剤;例えば、リン酸2カルシウム、マンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムもしくはその組み合わせなどの賦形剤;例えば、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸もしくはその組み合わせなどの崩壊剤;例えば、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;例えば、ショ糖、乳糖、サッカリンもしくはその組み合わせなどの甘味剤;例えば、ペパーミント、冬緑油、サクランボ香料、オレンジ香料などの着香剤;または前述の組み合わせ。単位剤形がカプセル剤である場合、前述の型の材料に加えて、液体担体などの担体を含んでいてもよい。様々な他の材料が、コーティングとして、またはそれ以外に投与単位の物理的形状を改変するために存在してもよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤をセラック、糖、または両方でコーティングしてもよい。
【0084】
特定のコーティング材料は、約6.5またはそれ以上のpHなどの、約pH5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0またはそれ以上などの、約5もしくはそれ以上のpHで、または少なくとも約5もしくはそれ以上のpHで溶解するものである。したがって、そのようなコーティングは、それらが胃を通過し、小腸に入る時にのみ溶解し始める。したがって、これらのコーティングは腸溶コーティングであると考えてもよい。数分から数時間で溶解し、それによりその下のカプセルを、それが末端の回腸または結腸に到達した時にのみ分解させる、厚いコーティング層が提供される。そのようなコーティングは、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、酢酸フタル酸ポリビニル(PVAP)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)およびセラックなどの、様々なポリマーから作成することができる。セルロースエステルのコーティングのために、200〜250マイクロメートルの厚さが適切であろう。
【0085】
非限定的例示的コーティング材料はメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸およびメタクリル酸メチルのコポリマーである。そのような材料はポリマーとして入手可能である(Rohm Pharma, Darmstadt, Germany)。オイドラギットはメタクリル酸およびメタクリル酸メチルのコポリマーである(Rohm Pharma, Darmstadt, Germany)。本発明の化合物を非吸収性の担体として作用するポリマーに組み込みうることが具体的に企図される。本発明の化合物は、例えば、そのようなポリマーに共有結合してもよい。そのようなポリマーは、例えば、前述のポリマーならびに/または本明細書で論じるポリマー末端およびポリマー骨格であってもよい。
【0086】
無菌注射液剤は、適当な溶媒中の必要な量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙した様々な他の成分と共に組み込み、続いて滅菌ろ過することにより調製する。一般に、分散剤は、様々な滅菌活性成分を、基礎の分散媒および/または他の成分を含む無菌媒体中に組み込むことにより調製する。無菌注射液剤、懸濁剤または乳剤を調製するための無菌粉末の場合、特定の調製法は、活性成分および任意のさらなる所望の成分の粉末を、そのあらかじめ滅菌ろ過した液体媒質から得る、真空乾燥または凍結乾燥技術を含んでいてもよい。液体媒質は、必要な場合には、適切に緩衝化し、液体希釈剤を注射前にまず十分な食塩水またはグルコースで等張にすべきである。非常に迅速な浸透をもたらすために溶媒としてのDMSOの使用が構想される場合、直接注射するための高度に濃縮された組成物の調製も企図され、高濃度の活性物質を狭い領域に送達する。
【0087】
組成物は製造および保存の条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対して保護されていなければならない。エンドトキシン混入は安全なレベル、例えば、0.5ng/mgタンパク質未満で最小限に保つべきであることは理解されるであろう。
【0088】
特定の態様において、注射組成物の持続性吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはその組み合わせなどの、吸収を遅延させる物質の組成物中での使用によってもたらすことができる。
【0089】
AT2受容体アンタゴニストを含む組成物は、例えば、前述のクリーム、または軟膏、膏薬、噴霧剤、ゲル、ローション、もしくは乳剤で、表面投与用に製剤してもよい。組成物は、経粘膜、経上皮、経内皮、または経皮投与用に製剤してもよい。経皮製剤の一例はパッチである。組成物は、当業者には公知の用語である、化学浸透増強剤、膜透過剤、膜輸送剤、保存剤、界面活性剤、または安定剤をさらに含んでいてもよい。
【0090】
一つの表面的態様において、本発明はパッチを用いることができる。経皮または「皮膚」パッチは、皮膚を通して血流内への薬剤の持効性用量を送達するために皮膚上に設置される、薬用粘着パッチである。多様な薬剤を経皮パッチにより送達することができる。最初に市販された処方パッチは米国食品医薬品局により1979年12月に認可され、運動病のためにスコポラミンを投与するものであった。
【0091】
経皮パッチへの主な構成要素は(a)保存中にパッチを保護するための裏当て(使用前に取り除く);(b)活性薬剤;(c)パッチの構成要素を一緒に接着させ、同時にパッチを皮膚に接着させるのに役立つ接着剤;(d)貯蔵所および多層パッチからの薬物の放出を制御する膜;ならびに(e)パッチを外部環境から保護する支持層である。
【0092】
経皮パッチには4つの主要な型がある。単層薬物入り接着剤パッチは、薬剤も含む接着剤層を有する。この型のパッチでは、接着剤層は様々な層を一緒に接着させ、同時に系全体を皮膚に接着させるのに役立つだけでなく、薬物の放出も担っている。接着剤層は一時的裏当ておよび支持層に囲まれている。多層薬物入り接着剤パッチは、両方の接着剤層が薬物の放出も担っている点で、単層系と同様である。しかし、多層系は、通常は膜で分離された(すべての場合ではない)、薬物入り接着剤のもう一つの層を加える点で異なる。このパッチは一時的裏当て層および永久的支持層も有する。貯蔵所経皮系は分離した薬物層を有する点で、貯蔵所パッチは単層および多層薬物入り接着剤系とは異なる。薬物層は、接着剤層で分離された、薬物溶液または懸濁液を含む液体区画である。このパッチも支持層によって支持されている。この型の系では、放出速度はゼロ次である。マトリックスパッチは、薬物溶液または懸濁液を含む半固体マトリックスの薬物層を有する。このパッチの接着剤層は部分的に薬物層に重なって薬物層を囲んでいる。
【0093】
治療のもう一つの形において、AT2受容体アンタゴニストの表面適用は、口、咽頭、食道、喉頭、気管、胸腔、腹腔、または膀胱、結腸もしくは他の内臓を含む中空臓器腔などの自然の体腔を標的としている。これらの内臓または体腔表面への表面適用に影響をおよぼすために、様々な方法を用いてもよい。例えば、咽頭は、AT2受容体アンタゴニストを含む溶液で単純にうがいし、含嗽することにより影響を受けうる。
【0094】
特定の態様において、組成物を対象に、薬物送達装置を用いて投与する。AT2受容体アンタゴニストの薬学的有効量を送達する際に用いるために、任意の薬物送達装置が企図される。
【0095】
特定の態様において、薬学的組成物の患者への持続的供給を提供することが望ましいこともある。これはカテーテル挿入と、続く治療薬の持続的投与によって達成しうる。投与は術中または術後でありうる。
【0096】
他の態様において、本発明において点眼剤もしくは点耳剤、鼻液剤もしくは噴霧剤、エアロゾルまたは吸入剤を用いてもよい。そのような組成物は一般には標的組織の型と適合性であるように設計する。非限定例において、鼻液剤は通常は点鼻剤または噴霧剤で鼻道に投与するように設計した水性液剤である。鼻液剤は、正常な繊毛作用が維持されるよう、それらが多くの点で鼻分泌物に類似であるように調製する。したがって、特定の態様において、水性鼻液剤は通常は約5.5から約6.5のpHを維持するために、等張であるか、またはわずかに緩衝化する。加えて、必要とされる場合には、眼製剤で用いるものと類似の抗菌保存剤、薬物、または適当な薬物安定剤が製剤中に含まれていてもよい。例えば、様々な市販の鼻製剤が公知で、抗生物質または抗ヒスタミン剤などの薬物を含む。
【0097】
他の投与様式に適したさらなる製剤には坐剤が含まれる。坐剤は、通常は薬用の、直腸、膣、または尿道に挿入するための、様々な重量および形状の固体剤形である。挿入後、坐剤は軟化、融解または体腔液に溶解する。一般に、坐剤のための伝統的担体には、例えば、ポリアルキレングリコール、トリグリセリド、またはその組み合わせが含まれうる。特定の態様において、坐剤は、例えば、約0.5%から約10%、好ましくは約1%から約2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成してもよい。
【0098】
さらなる記載なしに、当業者であれば、前述の記載および以下の実施例を用いて、本発明の化合物を作成および使用し、特許請求する方法を実施することができる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい態様を具体的に示しており、開示の残部をいかなる様式でも制限すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0099】
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。当業者であれば、以下の実施例において開示する技術は本発明の実施においてうまく機能するように本発明者らが見いだした技術であり、したがってその実施のために好ましい様式を構成すると考えうることを理解すべきである。しかし、当業者であれば、本開示に照らして、開示される具体的態様において多くの変更を行うことができ、それでもなお本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0100】
実施例1:糖尿病ラットにおける知覚および運動神経伝導の復旧
方法:
成熟(19週齢)雄Sprague-Dawleyで1回のSTZ注射(40〜45mg/kg i.p.)により糖尿病を誘発した。糖尿病状態を市販の血液用試験片(尾静脈)および尿糖値を用いて毎週モニターした。体重も毎日モニターした。糖尿病状態の基準は次のとおりであった:血糖>19.9mM、糖尿、および体重増加の証拠なし。糖尿病の持続期間は8週間で、治療を最後の2週間、化合物1のナトリウム塩(1.048mg/kgを水に溶解し、胃管栄養法により毎日)により行った。
【0101】
最後の実験において、ラットをチオブタバルビタール(50〜100mg/kg i.p.)で麻酔した。気管に人工呼吸のためにカニューレ挿入した。麻酔のレベルを、操作に対する血圧の任意の反応を観察することによりモニターし、必要に応じて補足のチオブタバルビタール麻酔を行った。Cameronら(Q. J. Expt Physiol, 74;917-926, 1989およびDiabetes, 40:532-539, 1991)によって詳細に記載されているとおり、坐骨神経を坐骨切痕と膝との間で露出した。双極刺激電極を切痕および膝の神経の近くに設置した。同心双極電極を前脛骨筋に挿入して、誘発された筋電図(EMG)活動をモニターした。各刺激部位から誘発された電位は平均8回であった。運動神経伝導速度(NCV)を、刺激電極間の距離を2部位から誘発されたEMG電位発生の潜時の差の平均で割ることにより計算した。神経温度を熱電対プローブを用いてモニターし、放射熱により36〜38℃の範囲に維持した。体温も加温ブランケットを用いて37℃前後に維持した。
【0102】
知覚NCVを、鼠径部と腓腹中央部との間の知覚伏在神経について、直接神経誘発電位を単極白金フック電極を用いて足首で記録した以外は同様の様式で測定した。
【0103】
化合物1のナトリウム塩による治療後のNCVデータ比較用の基準値を、これらの試験経過中に非糖尿病対照および8週間糖尿病対照ラットから得た。
【0104】
結果:
化合物1のナトリウム塩で経口治療した個々の糖尿病ラットのデータを表1に示す。すべての動物は、糖尿病モデルの特徴と完全に一致して、8週間の間にわずかな体重減少を示した。実験期間終了時に、動物は良好な状態と行動上の機敏性を維持し、悪液質ではなく、最終の体重は良好であった。非空腹時血漿グルコース測定値により糖尿病状態が確認された。
【0105】
群の平均NCVデータも図1に示す。坐骨運動NCVについて、基準群が示した糖尿病による約20%の低下は化合物1治療により大幅に矯正され;これは糖尿病性欠陥の92.6±5.4%の逆転を表す。統計的に(一元配置ANOVAと、続くボンフェローニ検定)、化合物1で治療した群のデータは非糖尿病対照群のものと有意差がなく、非治療糖尿病群に比べて顕著に改善された(p<0.001)。同様の傾向が伏在知覚NCVでも見られた(図1)。基準群の17%の糖尿病性欠陥は、化合物1のナトリウム塩での経口治療により99.2±5.0%矯正された(p<0.001)。
【0106】
(表1)1.048mg/kgの化合物1ナトリウム塩で治療した個々の糖尿病ラットのデータ

基準値:
非糖尿病対照(n=10);運動NCV 64.7±0.7m/s、知覚NCV 61.0±0.6m/s。
糖尿病対照(n=10);運動NCV 50.2±0.5m/s、知覚NCV 51.8±0.7m/s。
【0107】
実施例2:糖尿病ラットの知覚および運動神経伝導の復旧における化合物1ナトリウム塩の用量反応
方法:
成熟(19週齢)雄Sprague-Dawleyで1回のSTZ注射(40〜45mg/kg i.p.)により糖尿病を誘発した。糖尿病状態を市販の血液用試験片(尾静脈)および尿糖値を用いて毎週モニターした。体重も毎日モニターした。糖尿病状態の基準は次のとおりであった:血糖>19.9mM、糖尿、および体重増加の証拠なし。糖尿病の持続期間は8週間で、治療を最後の2週間、化合物1(糖尿病ラット10匹の群に化合物1のナトリウム塩の水溶液を0.1048、0.0349または0.01048mg/kgの用量で、胃管栄養法により毎日投与)により行った。
【0108】
最後の実験において、ラットをチオブタバルビタール(50〜100mg/kg i.p.)で麻酔した。気管に人工呼吸のためにカニューレ挿入した。麻酔のレベルを、操作に対する血圧の任意の反応を観察することによりモニターし、必要に応じて補足のチオブタバルビタール麻酔を行った。坐骨神経を坐骨切痕と膝との間で露出した。双極刺激電極を切痕および膝の神経の近くに設置した。同心双極電極を前脛骨筋に挿入して、誘発された筋電図(EMG)活動をモニターした。各刺激部位から誘発された電位は平均8回であった。運動NCVを、刺激電極間の距離を2部位から誘発されたEMG電位発生の潜時の差の平均で割ることにより計算した。神経温度を熱電対プローブを用いてモニターし、放射熱により36〜38℃の範囲に維持した。体温も加温ブランケットを用いて37℃前後に維持した。知覚NCVを、鼠径部と腓腹中央部との間の知覚伏在神経について、直接神経誘発電位を単極白金フック電極を用いて足首で記録した以外は同様の様式で測定した。NCVデータ比較用の基準値を、非糖尿病対照および8週間糖尿病対照ラットから得た。
【0109】
結果:
異なる用量の化合物1のナトリウム塩で経口治療した個々の糖尿病ラットのデータを表2から4に示し、1.048mg/kgについて前に得たデータを表1に示す。すべての動物は、糖尿病モデルの特徴と完全に一致して、8週間の間にわずかな体重減少を示した。実験期間終了時に、動物は良好な状態と行動上の機敏性を維持し、悪液質ではなく、最終の体重は良好であった。非空腹時血漿グルコース測定値により糖尿病状態が確認された。
【0110】
運動および知覚NCVの用量反応曲線を、ED50値推定のための最適S字形曲線と共に、図2にプロットしている。坐骨運動NCVについて、基準群が示した糖尿病による約20%の低下は化合物1のナトリウム塩での経口治療により用量依存的に矯正され、ED50は0.044mg/kgであった。同様の傾向が伏在知覚NCVでも見られ、ED50は0.02mg/kgであった。
【0111】
(表2)0.1048mg/kgの化合物1ナトリウム塩で治療した個々の糖尿病ラットのデータ

【0112】
(表3)0.0349mg/kgの化合物1ナトリウム塩で治療した個々の糖尿病ラットのデータ

【0113】
(表4)0.01048mg/kgの化合物1ナトリウム塩で治療した個々の糖尿病ラットのデータ

【0114】
実施例:3 AT2受容体に対する化合物1の選択性
AT2受容体に対する化合物1の選択性をインビトロでのヒトAT1およびAT2受容体結合検定で判定した。
【0115】
方法:
一般手順

【0116】
実験条件

【0117】
結果の解析と表示
受容体への特異的リガンド結合を、全結合と過剰の非標識リガンド存在下で判定した非特異的結合との差と規定する。
【0118】
結果を化合物1存在下で得た対照特異的結合のパーセントとして表す。IC50値(対照特異的結合の最大半減阻害を引き起こす濃度)およびヒル係数(nH)を、ヒルの式の曲線あてはめを用いて、競合曲線の非線形回帰分析により求めた。阻害定数(Ki)をチェン-プルソフ式(Ki=IC50/(1+(L/KD))、式中L=検定中の放射性リガンドの濃度、およびKD=受容体に対する放射性リガンドの親和性)から算出した。
【0119】
結果:
化合物1について求めたIC50およびKi値を表5に示す。
【0120】
(表5)IC50判定:結果の概要

N.C.:計算不可能。試験した最高濃度での阻害が25%未満であるため、IC50値が計算不可能である。
【0121】
実施例4:NCVを増大させるための対象の治療
NCV障害を患っている対象を、総体的症状および/または標準的かつ認められたプロトコルによるNCVの測定により特定する。本実施例において、対象は四肢の1つまたは複数で無感覚または刺痛による苦痛を示す。運動および知覚NCV試験を、F波およびH反射試験と共に実施した。NCV測定または他の診断はNCVが障害されていることを示す。
【0122】
対象に、S-2-(ジフェニルアセチル)-5-ベンジルオキシ-6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸またはその塩0.1mg/kgの1日用量に等しい初期用量を投与し、1から14日までの初期療法のために等しい用量を提供する。初期療法終了時に、NCVまたは症状の評定を繰り返す。測定可能なNCVの改善または症状の改善は、治療が有効であることを示す。NCVまたは症状に改善が検出されなければ、1日用量を、例えば、0.2mg/kgに増やす。その後の適切な治療期間の後、NCVまたは症状の測定を繰り返す。測定可能なNCVの改善または症状の改善は、治療が有効であることを示す。
【0123】
NCVまたは症状に改善が検出されなければ、用量調節の段階的工程と、その後の症状のNCVの測定を、改善が十分となるまで繰り返す。所望の改善を行うために最低限十分な量への1日用量のさらなる滴定は、1日用量を対象における有効な治療に必要とされる最小1日用量へと段階的に減らすことにより達成される。
【0124】
実施例5:ラットの知覚および運動神経伝導の復旧における治療の時間経過
成熟(19週齢)雄Sprague-Dawleyで1回のSTZ注射(40〜45mg/kg i.p.)により糖尿病を誘発した。糖尿病状態を市販の血液用試験片(尾静脈)および尿糖値を用いて毎週モニターした。体重も毎日モニターした。糖尿病状態の基準は次のとおりであった:血糖>19.9mM、糖尿、および体重増加の証拠なし。糖尿病の持続期間は8週間で、治療を1、3、7または28日のいずれかの間、化合物1のナトリウム塩により行った。各治療期間のために、糖尿病ラット10匹の別々の群に化合物1のナトリウム塩の水溶液を1.048mg/kgの用量で、胃管栄養法により毎日投与した。
【0125】
足の触角異痛閾値を、電子フォンフライ毛機器により測定した。有害熱刺激に対する足引っ込め反射の潜時を、ハーグリーブス足底試験により推定した(Hargreaves K, Dubner R, Brown F, Flores C, Joris J. A new and sensitive method for measuring thermal nociception in cutaneous hyperalgesia. Pain 1988; 32: 77-88)。すべての試験を市販の器具を用いて行った(Ugo-Basile, Comerio, Italy)。測定を一定温度の部屋で、各日同じ時間に行い、ラットに取り扱い、環境、器具、および実験手順に馴らせるため3日間与えた。
【0126】
触角異痛を2つの別々の場合、すなわち、治療開始の1日前に一回と、次いで治療期間最終日の翌日に評価した。刺激強度は2gから出発し、8秒以内に刺激に対する引っ込め反射が起こらなければ、刺激を0.2 log unitずつ高めて再度適用した。陽性引っ込め反射が得られれば、刺激強度を0.2 log unitずつ下げた。したがって、刺激強度により閾値を追跡し、一連の6つの閾値付近の反応を用いて、参照表から50%閾値を推定した(Chaplan SR, Bach FW, Pogrel JW, Chung JM, Yaksh TL. Quantitative assessment of tactile allodynia in the rat paw. J Neurosci Meth 1994; 53: 55-63)。測定は両方の足で行い、平均を取って、個々のラットの50%閾値とした。
【0127】
触角異痛の評定と同様の様式で、熱感受性も2つの別々の場合、すなわち、治療の前後に測定した。ラットを熱試験装置内に置いた。30分の馴化後、一定の出力の赤外刺激を足裏に集束させ、足引っ込め反射の潜時を光電モニターにより記録した。各セッションで、8回の測定(両足それぞれ4回)を行い、平均を取って、熱刺激に対する足引っ込め潜時とした。
【0128】
最後の実験において、ラットをチオブタバルビタール(50〜100mg/kg i.p.)で麻酔した。気管に人工呼吸のためにカニューレ挿入した。麻酔のレベルを、操作に対する血圧の任意の反応を観察することによりモニターし、必要に応じて補足のチオブタバルビタール麻酔を行った。坐骨神経を坐骨切痕と膝との間で露出した。双極刺激電極を切痕および膝の神経の近くに設置した。同心双極電極を前脛骨筋に挿入して、誘発された筋電図(EMG)活動をモニターした。各刺激部位から誘発された電位は平均8回であった。運動NCVを、刺激電極間の距離を2部位から誘発されたEMG電位発生の潜時の差の平均で割ることにより計算した。神経温度を熱電対プローブを用いてモニターし、放射熱により36〜38℃の範囲に維持した。体温も加温ブランケットを用いて37℃前後に維持した。知覚NCVを、鼠径部と腓腹中央部との間の知覚伏在神経について、直接神経誘発電位を単極白金フック電極を用いて足首で記録した以外は同様の様式で測定した。
【0129】
短期間(1、3および7日間)治療群について、動物をグループの数(n=10)が得られるまで時間をずらした3または4バッチで試験した。これは、各ラットにおける一連の測定がかなりの時間を取りうることを考慮して、測定のタイミングを薬物投与とうまく同期させ続けるために行った。これらのラット群について、すべての測定を最後の薬物胃管栄養法の22から26時間以内に完了した。
【0130】
データをGraphPad Prism 5ソフトウェアを用いて解析した。データを一元配置ANOVAと、続くボンフェローニ事後多重比較検定にかけて、群間の差を確立した。加えて、薬物投与前後の測定を行った場合の行動評価のために、結果を対応のあるスチューデントt検定を用いて解析した。
【0131】
結果:
時間経過データを、前の試験(実施例1)で得た非糖尿病および8週間糖尿病対照データと比較する。実施例1の14日間治療群からのデータも、いくつかのグラフに含まれる。
【0132】
運動および知覚NCV時間経過:運動および知覚NCVの両方について、化合物1のナトリウム塩によるわずか1日の治療で統計学的に有意な効果が見られた(図3)。NCV欠陥の矯正は、知覚神経の方がいくらか速いようであった。統計学的に、運動NCVは7日間の治療後に非糖尿病の範囲内で、知覚NCVは3日後であった。28日間治療群のデータは、前に得た14日間のデータと完全に匹敵するものであった。したがって、この期間中、薬物効果の漸減の証拠はなかった。
【0133】
触覚異痛および温熱性痛覚過敏の両方で、時間経過は知覚NCVと同様で、完全矯正は化合物1のナトリウム塩による3日間の治療後に達成された(図4)。データを、薬物治療前および薬物治療後の値、ならびに対応のあるt統計値を示す、柱状図(14日群以外)としてもプロットする(図5)。このデータは、治療前の結果は異なる群で同様であることを示し、糖尿病効果は経時的に安定であることを示している(以前の研究も、これは糖尿病の少なくとも6か月間維持されることを示した)。対応のあるスチューデントt統計学的解析の使用も、1日だけの治療の有意ではあるが、部分的効果を強調している。薬物治療前後の、個々の動物のデータを図4にプロットしている。個々のラットすべて(1日治療の熱測定について1匹を除く)において、反応の改善が見られた。
【0134】
全般的に、化合物1のナトリウム塩による治療は実験的糖尿病における大きい有鞘線維運動および知覚NCV欠陥を矯正した。薬物1回投与の1日後に、有意であるが部分的効果が見られた。3〜7日間の治療後には正常化が達成された。知覚NCVは、反応が運動NCVよりも早く正常化されたことから、運動NCVよりも治療に対していくらか影響を受けやすいようであった。触覚異痛および温熱性痛覚過敏も急速に矯正され、時間経過は知覚NCVと同様であった。化合物1への反応は28日間治療の間維持された。
【0135】
本明細書において開示し、特許請求する組成物または方法のすべては、本開示に照らせば、過度の実験をすることなく作成し、実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記載してきたが、当業者であれば、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、変動を本明細書に記載の組成物または方法および方法の段階または一連の段階に適用しうることが明白であろう。より具体的には、化学的および生理的の両方で関連する特定の薬剤を本明細書に記載の薬剤の代わりに用いてもよく、その一方で同じまたは類似の結果が得られると考えられることは明白であろう。当業者には明白なすべてのそのような類似の代用物および改変は、添付の特許請求の範囲によって規定する、本発明の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【0136】
本明細書において引用するすべての出版物および特許出願は、各個別の出版物または特許出願が具体的かつ個別に参照により本明細書に組み入れられると示されるかのごとく、参照により本明細書に組み入れられる。
【0137】
参照文献
以下の参照文献、および本明細書において上に引用する参照文献は、それらが本明細書に示されるものの補足となる例示的な手順上の、または他の詳細を提供する程度に、具体的に参照により本明細書に組み入れられる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経伝導速度(NCV)の改善を必要としている対象の治療法であって、対象のNCVを改善するのに有効な量の式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む組成物を対象に提供する段階を含む方法:

(式中:
R1およびR2が両方とも水素であることはないとの条件で、R1およびR2は水素、フェニル、ベンジル、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキルおよびヘテロアリールから独立に選択され;
R4はカルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミドおよびアミドから選択され;
XがOまたはSである時、R1およびR2の1つは存在しないとの条件で、XはCH、N、OおよびSから選択され;
YはS、OおよびN-R3から選択され、ここでR3は水素、C1-6アルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、-OHまたは-NH2から選択され;
Gは下記から選択される5または6員芳香族、複素環式またはヘテロアリール環であり:

ここで記号「*」は縮合環AとGとの間で共有される結合を示し;
R5は水素、C1〜C6アルキル、フェニルおよびC1〜C6アルコキシから選択され、
R6およびR8が両方とも水素であることはないとの条件で;R6およびR8は水素、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンジルアミノ、ビフェニル、ビフェニルオキシ、ナフチルおよびナフチルオキシから独立に選択され;かつ
R7はフェニル、ベンジル、ビフェニル、ビフェニルメチル、ナフチルおよびナフチルメチルから選択され;
ここで各アルキル、アルコキシ、アリール、シクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキル、アリールアルキルオキシおよびヘテロアリール基は置換されていてもよい)。
【請求項2】
R1およびR2がいずれもフェニルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
R4がカルボン酸である、請求項1または2のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
XがCHである、請求項1から3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
Yが酸素である、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
Gが

である、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
R6が置換されていてもよいフェノキシまたは置換されていてもよいベンジルオキシである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
R6がベンジルオキシである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
R8が水素、置換されていてもよいC1〜C6アルキル、または置換されていてもよいC1〜C6アルコキシである、請求項6から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
R8がメトキシである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
R5が水素である、請求項6記載の方法。
【請求項12】
R7が置換されていてもよいベンジル、置換されていてもよいビフェニルメチルおよび置換されていてもよいナフチルメチルである、請求項6または請求項11記載の方法。
【請求項13】
R7が置換されていてもよいベンジルである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
式(I)の化合物が式(II)の化合物である、請求項1記載の方法:

(式中、R1、R2、R6、R8およびXは式(I)について定義したとおりである)。
【請求項15】
式(I)の化合物が式(IIA)の化合物である、請求項14記載の方法:

(式中、R1、R2、R6、R8およびXは式(I)について定義したとおりである)。
【請求項16】
式(I)の化合物が2-(ジフェニルアセチル)-5-ベンジルオキシ-6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
式(I)の化合物がS-2-(ジフェニルアセチル)-5-ベンジルオキシ-6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸(化合物1)である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
式(I)の化合物が式(III)の化合物である、請求項1記載の方法:

(式中、R1、R2、R5、R7およびXは式(I)について定義したとおりである)。
【請求項19】
式(I)の化合物が式(IIIA)の化合物:特に式(IIIA)の化合物である、請求項18記載の方法:

(式中、R1、R2、R5、R7およびXは式(III)について定義したとおりである)。
【請求項20】
式(I)の化合物が1-[[4-(ジメチルアミノ)-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸または1-[[4-メトキシ-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
式(I)の化合物がS-1-[[4-(ジメチルアミノ)-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸またはS-1-[[4-メトキシ-3-メチルフェニル]メチル]-5-ジフェニルアセチル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-イミダゾ-[4,5c]ピリジン-6-カルボン酸である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
対象が反射反応の減弱および知覚異常を含む末梢感覚の変化を患っている、請求項1から21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
対象が神経障害と診断されている、請求項1から22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
神経障害が糖尿病性神経障害である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
後天性神経障害の治療用プロトコルの一部である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
神経伝導速度の改善が神経伝導速度障害を逆転させることである、請求項1から25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
対象の神経伝導速度障害を逆転させる方法であって、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩の有効量を対象に投与する段階を含む方法:

(式中:
R1およびR2が両方とも水素であることはないとの条件で、R1およびR2は水素、フェニル、ベンジル、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキルおよびヘテロアリールから独立に選択され;
R4はカルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミドおよびアミドから選択され;
XがOまたはSである時、R1およびR2の1つは存在しないとの条件で、XはCH、N、OおよびSから選択され;
YはS、OおよびN-R3から選択され、ここでR3は水素、C1-6アルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、-OHまたは-NH2から選択され;
Gは下記から選択される5または6員芳香族、複素環式またはヘテロアリール環であり:

ここで記号「*」は縮合環AとGとの間で共有される結合を示し;
R5は水素、C1〜C6アルキル、フェニルおよびC1〜C6アルコキシから選択され、
R6およびR8が両方とも水素であることはないとの条件で;R6およびR8は水素、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンジルアミノ、ビフェニル、ビフェニルオキシ、ナフチルおよびナフチルオキシから独立に選択され;かつ
R7はフェニル、ベンジル、ビフェニル、ビフェニルメチル、ナフチルおよびナフチルメチルから選択され;
ここで各アルキル、アルコキシ、アリール、シクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキル、アリールアルキルオキシおよびヘテロアリール基は置換されていてもよい)。
【請求項28】
対象の神経伝導速度障害に関連する疾患または障害を治療または予防する方法であって、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩の有効量を対象に投与する段階を含む方法:

(式中:
R1およびR2が両方とも水素であることはないとの条件で、R1およびR2は水素、フェニル、ベンジル、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキルおよびヘテロアリールから独立に選択され;
R4はカルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミドおよびアミドから選択され;
XがOまたはSである時、R1およびR2の1つは存在しないとの条件で、XはCH、N、OおよびSから選択され;
YはS、OおよびN-R3から選択され、ここでR3は水素、C1〜C6アルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、-OHまたは-NH2から選択され;
Gは下記から選択される5または6員芳香族、複素環式またはヘテロアリール環であり:

ここで記号「*」は縮合環AとGとの間で共有される結合を示し;
R5は水素、C1〜C6アルキル、フェニルおよびC1〜C6アルコキシから選択され、
R6およびR8が両方とも水素であることはないとの条件で;R6およびR8は水素、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンジルアミノ、ビフェニル、ビフェニルオキシ、ナフチルおよびナフチルオキシから独立に選択され;かつ
R7はフェニル、ベンジル、ビフェニル、ビフェニルメチル、ナフチルおよびナフチルメチルから選択され;
ここで各アルキル、アルコキシ、アリール、シクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキル、アリールアルキルオキシおよびヘテロアリール基は置換されていてもよい)。
【請求項29】
神経伝導速度障害に関連する疾患または障害が神経障害状態である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
NCV障害の治療、NCV障害の逆転またはNCV障害に関連する疾患もしくは状態の治療もしくは予防のための薬剤製造における、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩の使用:

(式中:
R1およびR2が両方とも水素であることはないとの条件で、R1およびR2は水素、フェニル、ベンジル、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキルおよびヘテロアリールから独立に選択され;
R4はカルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミドおよびアミドから選択され;
XがOまたはSである時、R1およびR2の1つは存在しないとの条件で、XはCH、N、OおよびSから選択され;
YはS、OおよびN-R3から選択され、ここでR3は水素、C1-6アルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、-OHまたは-NH2から選択され;
Gは下記から選択される5または6員芳香族、複素環式またはヘテロアリール環であり:

ここで記号「*」は縮合環AとGとの間で共有される結合を示し;
R5は水素、C1〜C6アルキル、フェニルおよびC1〜C6アルコキシから選択され、
R6およびR8が両方とも水素であることはないとの条件で;R6およびR8は水素、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンジルアミノ、ビフェニル、ビフェニルオキシ、ナフチルおよびナフチルオキシから独立に選択され;かつ
R7はフェニル、ベンジル、ビフェニル、ビフェニルメチル、ナフチルおよびナフチルメチルから選択され;
ここで各アルキル、アルコキシ、アリール、シクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキル、アリールアルキルオキシおよびヘテロアリール基は置換されていてもよい)。
【請求項31】
NCV障害の治療、NCV障害の逆転またはNCV障害に関連する疾患もしくは状態の治療もしくは予防において用いるための、式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩:

(式中:
R1およびR2が両方とも水素であることはないとの条件で、R1およびR2は水素、フェニル、ベンジル、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキルおよびヘテロアリールから独立に選択され;
R4はカルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、ホスホンアミドおよびアミドから選択され;
XがOまたはSである時、R1およびR2の1つは存在しないとの条件で、XはCH、N、OおよびSから選択され;
YはS、OおよびN-R3から選択され、ここでR3は水素、C1-6アルキル、アリール、-C1〜C4アルキルアリール、-OHまたは-NH2から選択され;
Gは下記から選択される5または6員芳香族、複素環式またはヘテロアリール環であり:

ここで記号「*」は縮合環AとGとの間で共有される結合を示し;
R5は水素、C1〜C6アルキル、フェニルおよびC1〜C6アルコキシから選択され、
R6およびR8が両方とも水素であることはないとの条件で;R6およびR8は水素、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ベンジルアミノ、ビフェニル、ビフェニルオキシ、ナフチルおよびナフチルオキシから独立に選択され;かつ
R7はフェニル、ベンジル、ビフェニル、ビフェニルメチル、ナフチルおよびナフチルメチルから選択され;
ここで各アルキル、アルコキシ、アリール、シクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキル、アリールアルキルオキシおよびヘテロアリール基は置換されていてもよい)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−517300(P2013−517300A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549209(P2012−549209)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【国際出願番号】PCT/AU2011/000051
【国際公開番号】WO2011/088504
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(510130653)スピニフェクス ファーマシューティカルズ ピーティーワイ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】