説明

神経再生材料

【課題】本発明は、生体内で長い距離にわたり神経を再生することができ、伸縮性があり力学的負荷に対応することができる神経再生材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体、並びに(ii)円筒体の内部に埋入された骨髄細胞からなる神経再生材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は神経再生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷が大きい生体組織や臓器の治療法として、細胞の分化、増殖能を利用し、元の生体組織および臓器に再構築する再生医療の研究が活発になってきている。神経再生もその1つである。
末梢神経が損傷した場合、損傷後、早期で、断端同士を引き寄せることが可能であれば、まずは切断された神経の断端を直接縫合することが行われる。しかし損傷後、時間が経過すると、断端同士を引き寄せることが不可能となる場合がある。また、当初から神経が長い距離にわたり、牽引、圧挫などの損傷を受けていたり、あるいは断端同士の間に欠損を伴う場合、直接縫合することは不可能である。
その場合の治療法として自家神経移植が行われるが、自家神経移植では健常な神経を採取する必要がある。通常、自家神経移植では、障害の少ない知覚神経が採取されるが、健常な神経を採取すれば、神経の断端部痛を後遺することがある、また採取した神経の支配領域に知覚障害が生じるなどの問題がある。
【0003】
そこで人工神経管を用いる研究が行われてきた。その中の1つに、Lundborgら(1982年)によるシリコンチューブを用いた実験があるが、10mm以上の断端間では神経再生は困難であった(非特許文献1)。この原因として、シリコンチューブは人工素材であり、血流がなく、内部は中空で無細胞であること、また非透過性であるため周囲から液性因子も供給されないことなどが挙げられる。
さらに最近では、コラーゲンや合成高分子などを用いた生体吸収性材料による人工神経管の研究も行われている。中でも、ポリグリコール酸のメッシュ内にコラーゲンゲルを充填したものを利用した研究では、イヌの坐骨神経で80mmの断端間の神経再生が確認されている(特許文献1)。しかし、コラーゲンを他動物から採取する点は問題である。
【0004】
また、再生神経の伸長に重要といわれるシュワン細胞を培養した生体吸収性材料のチューブでの検討などが行なわれている(非特許文献1)。シュワン細胞を使用する場合、細胞を使用しない場合と比べ神経再生の速度は速いが、シュワン細胞を正常神経組織から採取する必要があり、神経移植術と同様の問題点が生じる。
【特許文献1】WO 01/03609号 公報
【非特許文献1】Arch. Otolaryngol. Head Neck Surg. 124, 1081 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生体内で神経を再生することができる神経再生材料を提供することを目的とする。また本発明は、基材が生体へ吸収される神経再生材料を提供することを目的とする。さらに本発明は、伸縮性があり力学的負荷に対応することができる神経再生材料を提供することを目的とする。また本発明は、該神経再生材料の製造方法、該神経再生材料を製造することのできるキットおよび損傷した神経の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の平均繊維径の脂肪族ポリエステル繊維からなり蛇腹状の円筒体の内部に骨髄細胞を埋入した神経再生材料を、神経の損傷部位に移植すると、良好に神経を再生することができることを見出し本発明を完成した。また、該神経再生材料は、蛇腹状であるため、力学的負荷に対応することができることを見出し本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体、並びに(ii)円筒体の内部に埋入された骨髄細胞、からなる神経再生材料である。
【0008】
また本発明は、(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体、並びに(ii)骨髄細胞溶液、からなる神経再生材料の製造用キットである。
【0009】
さらに本発明は、(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体を準備する工程、並びに(ii)円筒体の内部に骨髄細胞溶液を注入する工程、からなる神経再生材料の製造方法を包含する。
【0010】
また本発明は、(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体を準備する工程、(ii)円筒体の内部に骨髄細胞溶液を注入し神経再生材料を得る工程、並びに(iii)得られた神経再生材料を神経損傷部位に移植する工程、からなる損傷した神経の再生方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の神経再生材料は、生体内で良好に神経を再生することができる。本発明の神経再生材料は、損傷部位の大きい神経の再生に有効である。また本発明の神経再生材料は、基材が生体吸収性材料により構成されているので生体に吸収されるという利点がある。また本発明の神経再生材料は、伸縮性があり力学的負荷に対応することができる。
本発明の神経再生材料の製造方法によれば、該神経再生材料を容易に製造することができる。本発明のキットによれば、手術時に神経再生材料を容易に製造することができる。本発明の再生方法によれば、損傷した長い神経を再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
<神経再生材料>
(円筒体)
本発明の神経再生材料を構成する円筒体は、脂肪族ポリエステル繊維からなる。円筒体は、単数または複数の脂肪族ポリエステル繊維が積層され、集積されて形成された3次元の構造体である。脂肪族ポリエステル繊維の平均繊維径は0.05〜50μm、好ましくは0.2〜20μmである。平均繊維径が0.05μmよりも小さいと円筒体の強度が保てないため好ましくない。また平均繊維径が50μmよりも高いと円筒体の比表面積が小さく生着する細胞数が少なくなるため好ましくない。平均繊維径は、光学顕微鏡による画像から20箇所における繊維径を測定した平均値である。
脂肪族ポリエステル繊維としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、トリメチレンカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートまたはこれらの共重合体からなる繊維が好ましく挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンまたはこれらの共重合体からなる繊維が好ましい。
【0013】
脂肪族ポリエステル繊維は、他の成分を含有しても良い。他の成分としては、リン脂質類、糖質類、糖脂質類、ステロイド類、ポリアミノ酸類、タンパク質類およびポリオキシアルキレン類からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。具体的な成分としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどのリン脂質類および/またはポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナンなどの糖質類、ガラクトセレブロシド、グルコセレブロシド、グロボシド、ラクトシルセラミド、トリヘキソシルセラミド、パラグロボシド、ガラクトシルジアシルグリセロール、スルホキノボシルジアシルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、グリコシルポリプレノールリン酸などの糖脂質類、コレステロール、コール酸、サポゲニン、ジギトキシンなどのステロイド類、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどのポリアミノ酸類、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンなどのタンパク質類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンエーテルなどのポリオキシアルキレン類、FGF(繊維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、TGF−β(β型形質転換増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、BMP(骨形成因子)などの細胞増殖因子などが挙げられる。
【0014】
円筒体の軸方向に平行な面の中心の断面図の一例を図4に示す。円筒体は図4に示すように、蛇腹状であり、軸方向に連続する山部(11)および谷部(12)を有する。図4は円筒体の蛇腹構造を示す略図であり、山部(11)および谷部(12)の形状、大きさは不規則である。
円筒体の外径(7)は、好ましくは0.5〜50mm、より好ましくは1〜20mmである。外径は、マイクロメーターにより10箇所測定を行い、測定値の最小値と最大値の範囲で表す。円筒体は、谷部の深さ(8)が好ましくは0.1〜10mmである。谷部の間隔は、例えば光学顕微鏡により10箇所測定を行い、測定値の範囲より求めることができる。
【0015】
円筒体は、山部の間隔(9)が好ましくは2mm以下である。山部の間隔(9)が2mmよりも大きいと伸縮性が低減し弾性率を損なう場合がある。山部の間隔は、例えば光学顕微鏡により10箇所測定を行い、測定値の最小値と最大値の範囲で表す。
円筒体の厚さ(10)は、好ましくは0.05〜1mm、より好ましくは0.1〜0.5mmである。厚みは、円筒体を切り開き、長さ5cm、幅1cmの試料を調製し、マイクロメーターにより10箇所測定を行った際の、測定値の最小値と最大値の範囲で表す。
円筒体は、目付け量が好ましくは1〜200g/m、より好ましくは50〜50g/mである。1g/m未満であると円筒体を形成できないことがある。また、200g/mを超えると伸縮性を損なうことがある。目付け量は、円筒体を切り開き、長さ5cm、幅1cmの試料を調製し、重量を測り、(試料の重量)÷(試料の面積)より算出できる。よって、円筒体は、脂肪族ポリエステル繊維の目付け量が1〜200g/mであり、厚さが0.05〜1mmであり、かつ外径が0.5〜50mmであることが好ましい。また円筒体は、山部の間隔が2mm以下であり、かつ谷部の深さが0.1〜10mmであることが好ましい。また円筒体は、脂肪族ポリエステル繊維が円筒体の軸を中心として、渦巻き状に巻き付けられたものであることが好ましい。
【0016】
(円筒体の製造)
円筒体は、静電紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等により製造することができる。その中でも、静電紡糸法が好ましい。静電紡糸法は、脂肪族ポリエステルを揮発性溶媒に溶解したドープを電極間で形成された静電場中に吐出し、ドープを電極に向けて曵糸し、形成される繊維状物質を捕集する方法である。繊維状物質とはドープ中の溶媒が留去され、繊維状になっている状態のみならず、溶媒を含んでいる状態も包含する。
ドープ中の脂肪族ポリエステルの濃度は、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%である。脂肪族ポリエステルの濃度が1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため円筒体を形成することが困難となることがある。また、30重量%より大きいと得られる繊維の平均繊維径が大きくなりすぎる場合がある。
揮発性溶媒とは、常圧での沸点が200℃以下であり、27℃で液体である物質であることが好ましい。揮発性溶媒は脂肪族ポリエステルを溶解すれば特に限定されることはない。揮発性溶媒として、例えば塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、水、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどが挙げられる。これらのうち、脂肪族ポリエステルの溶解性等から、塩化メチレン、クロロホルム、アセトンが特に好ましい。これらの溶媒は単独で用いても良く、複数の溶媒を組み合わせても良い。また、本発明においては、本目的を損なわない範囲で、他の溶媒を併用しても良い。
【0017】
静電紡糸法は、例えば図1に示す装置を用いて行うことができる。図1は、吐出側電極(4)を取り付けたノズル(1)および保持槽(3)を有する注射器、捕集側電極(5)、並びに高電圧発生器(6)により構成される静電紡糸装置を示す。吐出側電極(4)と捕集側電極(5)との間には、高電圧発生器(6)により所定の電圧が付与される。
図1に示される装置において、ドープ(2)を保持槽(3)に充填し、ノズル(1)を通じて静電場中に吐出させ、電界によって曳糸して繊維化させ、捕集側電極(5)に集めることにより円筒体を得ることができる。
【0018】
電極は吐出側電極(4)と捕集側電極(5)からなる。これらの電極は、金属、無機物または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすれば良い。また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物または有機物の薄膜を持つものであっても良い。静電場は一対又は複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3本を超える数の電極を使う場合も含む。
ドープを捕集側電極(5)に向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であれば捕集側電極(5)に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、もし溶媒蒸発が不十分な場合は減圧条件下で曳糸しても良い。
【0019】
捕集側電極(5)として鏡面仕上げされていない心棒を用いると、円筒体を簡便に製造することが出来る。すなわち、静電紡糸法により心棒上に所定の目付け量となるまで繊維を捕集し、適度な摩擦を維持しながら心棒から円筒体を取り外すことにより、蛇腹状の円筒体を簡便に得ることが出来る。心棒の表面粗さは好ましくは0.2−S以上であり、より好ましくは1.5〜400−Sである。このように適度な表面粗さを有する心棒から円筒体を取り外すとき、円筒体の一端のみに応力をかけることが好ましい。円筒体の一端を固定しておき、心棒をその固定端の方向に引き抜くことで一端のみに応力をかけることが出来る。
【0020】
静電紡糸法により心棒上に円筒体を形成する際、心棒を円周方向に回転させることが好ましい。回転させることにより、均質な厚さの円筒体を形成することができる。
電極間の距離は、帯電量、ノズル寸法、ドープ吐出量、ドープ濃度等に依存するが、10kV程度のときには5〜20cmの距離が適当である。また、印加される静電気電位は、好ましくは3〜100kV、より好ましくは5〜50kV、さらに好ましくは5〜30kVである。ドープをノズルから静電場中に供給する場合、数個のノズルを用いて繊維状物質の生産速度を上げることもできる。ノズルの内径は好ましくは0.1〜5mm、より好ましくは0.1〜2mmである。
【0021】
吐出側電極(4)と捕集側電極(5)との間に、別途、コレクタを設置して、繊維状物質を捕集してもよい。コレクタは、上述した捕集側電極(5)に用いる心棒と同程度の表面粗さを有するものが好ましい。曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は、0〜50℃である。
図2は、注射器の代わりに、ノズル1を有する保持槽3中に吐出側電極4を挿入した装置である。この装置では、ドープを注射器で吐出する代わりに、ノズル1と捕集側電極5との距離を調整して、ドープをノズル1から捕集側電極5に飛散させるものである。図3は図2の斜視図である。
【0022】
(骨髄細胞)
本発明の神経再生材料は、円筒体の内部に骨髄細胞が埋入されている。神経再生を促がす細胞としては、シュワン細胞が挙げられるが、シュワン細胞は、正常の神経組織からのみ採取することから、正常組織を傷付けるという点で問題がある。そこで、比較的採取が容易であり、細胞の分化能力の高い骨髄細胞を利用することは正常の神経組織を傷付けないという点から好ましい。さらに骨髄細胞の中でも骨髄単核球細胞は分化能力が高いため、培養を行わなくても使用することが可能であり、さらには培養のための時間を必要としないことから感染の危険も少ないので好ましい。
骨髄細胞は骨髄細胞溶液として円筒体内部に注入することが好ましい。骨髄細胞溶液は、骨髄細胞およびリン酸バッファー(PBS)または生食水を含有する。骨髄細胞溶液中の細胞数は、好ましくは5×10〜5×10個/ml、さらに好ましくは1×10〜1×10個/mlである。
【0023】
<キット>
本発明のキットは、(i)円筒体および(ii)骨髄細胞溶液からなる神経再生材料の製造用キットである。円筒体および骨髄細胞溶液は、神経再生材料の項で説明したとおりである。キットは使用時に、円筒体内部に骨髄細胞溶液を注入し、神経再生材料とすることができる。
<製造方法>
本発明の神経再生材料の調製方法は、(i)円筒体を準備する工程および(ii)円筒体の内部に骨髄細胞溶液を注入する工程からなる。円筒体および骨髄細胞溶液は、神経再生材料の項で説明したとおりである。
<再生方法>
本発明の損傷した神経の再生方法は、(i)円筒体を準備する工程、(ii)円筒体に骨髄細胞溶液を注入し神経再生材料を得る工程、および(iii)得られた神経再生材料を神経損傷部位に移植する工程からなる。円筒体および骨髄細胞溶液は、神経再生材料の項で説明したとおりである。移植後は、所定の期間、安静を保ち、神経の再生を促すことが好ましい。骨髄細胞は、骨髄単核球細胞であることが好ましい。本再生方法によれば、マウス、ブタ、ウマ、ヒトなどの哺乳類の損傷した神経を再生することが出来る。
【実施例】
【0024】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
I.本実施例に使用した材料は以下の通りである。
(1)ポリ乳酸(LACTY9031):島津製作所(株)、
(2)乳酸−グリコール酸共重合体:Absorbable Polymers International社製の50/50 Poly(DL-lactide-co-glycolide)、固有粘度=1.08dL/g in HFIP、30℃)、
(3)塩化メチレン、エタノール:和光純薬工業(株)製、
(4)Lewisラット:チャールスリバー(株)製、
(5)ソムノペンチル:共立製薬(株)製
(6)PBS:Biomedi-cal社製、
(7)Histopaque-1077:SIGMA 社製、
(8)縫合糸:ベアーメデイック社製の9−0ナイロン糸、
(9)Paraformaldehyde:メルク株式会社製、
(10)Sucrose:和光純薬工業(株)製、
(11)抗Neurofilament抗体:Dako社(株)、
(12)Biotinylated IgG:VECTOR社製のbiotinylated horse anti-mouse IgG
(13)Horse serum:Invitrogen 社製
(14)DAB:PIERCE 社製
(15)EUKITT:O.Kinder社製、
(16)Tissue Tec:Miles社製、
(17)TPBS(Tween20含有PBS):Biomedi-cal社製、
【0025】
II.円筒体の各部の大きさは以下の方法で測定した。
平均繊維径: デジタルマイクロスコープ(株式会社KEYENCE、VHX DIGITAL MICROSCOPE)により20箇所測定を行い、その平均値を平均繊維径とした。
外径: マイクロメーター(株式会社ミツトヨ)により10箇所測定を行い、測定値の最小値と最大値の範囲を外径とした。
山部の間隔: デジタルマイクロスコープ(株式会社KEYENCE、VHX DIGITAL MICROSCOPE)により、10箇所測定し、測定値の最小値と最大値の範囲を山部の間隔範囲とした。
谷部の深さ: デジタルマイクロスコープ(株式会社KEYENCE、VHX DIGITAL MICROSCOPE)により、10箇所測定し、測定値の最小値と最大値の範囲を谷部の深さとした。
厚み: 円筒体を切り開き、長さ5cm、幅1cmの試料を調製し、マイクロメーターにより10箇所測定を行い、測定値の最小値と最大値の範囲を厚みとした。
目付け量: 円筒体を切り開き、長さ5cm、幅1cmの試料を調製し、重量を測り、(試料の重量)÷(試料の面積)より算出した。
【0026】
<実施例1>
(円筒体の製造)
図2および図3に示す静電紡糸装置を準備した。ノズル(1)の内径は0.8mmとした。ノズル(1)から捕集側電極(5)までの距離は10cmに設定した。乳酸−グリコール酸共重合体1g、塩化メチレン/エタノール=8/1(重量部/重量部)9gを室温(25℃)で混合し、濃度10重量%のドープAを調製した。また、ポリ乳酸1gおよび塩化メチレン9gを室温(25℃)で混合し濃度10重量%のドープBを調製した。
まず、ドープAを保持槽(3)に入れ、吐出側電極4と捕集側電極5の間の電圧を14kVにして、ノズル1より繊維状物質を吐出した。吐出の間、捕集側電極5は、100rpmの速度で回転させた。吐出は1分間行った。次に、ドープAの代わりにドープBを保持槽3に入れ、ドープAと同じ条件で1分間吐出した。その後、ドープBの代わりにドープAを保持槽3に入れ、同じ条件で1分間吐出した。吐出後70℃で10分間熱処理を行い、捕集側電極5上に捕集した繊維の一端を指で抑えて固定し、捕集側電極5を指で抑えて固定した側に引き抜くことで軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体を得た。
得られた円筒体Xは、平均繊維径2〜8μmで、概ね図4に示す断面形状を有していた。図4は説明のための図であり、実際の蛇腹構造は規則的ではない。外径(7)は1.3〜1.4mm、長さは100mm、目付け量は20g/m、山部の間隔(9)は0.3〜0.5mm、谷部の深さ(8)は0.1〜0.3mm、厚さ(10)は0.15〜0.2mmであった。円筒体の伸縮性については、テンシロン(EZ TEST:島津製作所)により測定を行い、降伏伸度が50%であった。
【0027】
(骨髄単核球細胞溶液の調製)
Lewisラットを腹腔内麻酔(ソムノペンチル)で屠殺した後、両大腿骨を摘出した。大腿骨の骨端部を切除し、骨髄腔内にPBS 5mlで圧をかけて骨髄細胞の浮遊液を採取した。骨髄細胞-PBS浮遊液をHistopaque-1077液5mlを加えて遠心した後、中間層を採取した。中間層浮遊液を再度遠心した後、試験管底部の細胞塊をPBS 1mlにて懸濁し、骨髄単核球細胞液(5×10個/ml)を調製した。
(移植)
別のラットを腹腔内麻酔し大腿部で坐骨神経を展開した。大腿中央で神経を10mm切除し神経欠損を作成した。12mmの長さの円筒体Xの一方の端部をその内部が一方の神経断端に接した状態で神経断端と3針縫合した。円筒体Xの他方の端部から先に作成した骨髄単核球細胞液を注入し、次に円筒体Xの他方の端部と他方の神経断端とを同様に縫合した。筋膜、皮膚を縫合し、手術を終了した。
【0028】
(評価)
4週後に再び坐骨神経を展開し、神経を摘出した。円筒体Xは目視で残存が確認された。凍結縦切片を作成し、抗Neurofilament抗体を用いて免疫染色を行った。免疫染色は以下の方法で行った。
縦切片の固定:ラットを4%Paraformaldehyde で還流固定した後、神経を摘出する。摘出した神経は4%Paraformaldehyde 液で一晩固定した後、10%、20%、30%のSucrose液で脱水し、Tissue Tecで包埋し凍結する。これを薄切し、8μm厚さの縦断切片を作成した。
染色:標本をPBSで洗浄し、4℃アセトンで10分間後固定を行った後、0.3%H液の中に30分間浸した。
抗Neurofilament抗体染色:標本は、非特異的反応を抑えるため、Horse serumに20分間浸した後、一次抗体の抗Neurofilament抗体に2時間浸す。TPBSで洗浄後、二次抗体のBiotinylated IgGに30分浸す。TPBS で洗浄後、Elite ABCに30分浸し、再びTPBSで洗浄後、DABで染色後、Mayerのヘマトキシリン染色法でコントラスト染色を行う。エタノールで脱水後、EUKITT封入した。その結果、再生された坐骨神経の長さは、平均12mm(n=6)であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の神経再生材料は、再生医療分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】静電紡糸法に用いる装置の一例である。
【図2】静電紡糸法で用いる装置の一例である。
【図3】図2の装置の斜視図である。
【図4】実施例で得られた円筒体の断面形状を示す略図である。
【符号の説明】
【0031】
1.ノズル
2.ドープ
3.保持槽
4.吐出側電極
5.捕集側電極
6.高電圧発生器
7.外径
8.谷部の深さ
9.山部の間隔
10.厚さ
11.山部
12.谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体、並びに
(ii)円筒体の内部に埋入された骨髄細胞、
からなる神経再生材料。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル繊維が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンまたはこれらの共重合体からなる繊維である請求項1に記載の材料。
【請求項3】
円筒体は、脂肪族ポリエステル繊維の目付け量が1〜200g/mであり、厚さが0.05〜1mmであり、かつ外径が0.5〜50mmである請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
円筒体は、山部の間隔が2mm以下であり、かつ谷部の深さが0.1〜10mmである請求項1〜3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
円筒体は、脂肪族ポリエステル繊維が円筒体の軸を中心として、渦巻き状に巻き付けられたものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
骨髄細胞は、骨髄単核球細胞である請求項1〜5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
円筒体の内部に、5×10〜5×10個/mlの濃度の骨髄細胞溶液を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体、並びに
(ii)骨髄細胞溶液、
からなる神経再生材料の製造用キット。
【請求項9】
(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体を準備する工程、並びに
(ii)円筒体の内部に骨髄細胞溶液を注入する工程、
からなる神経再生材料の製造方法。
【請求項10】
(i)平均繊維径が0.05〜50μmの脂肪族ポリエステル繊維からなり、軸方向に連続する山部および谷部を有する蛇腹状の円筒体を準備する工程、
(ii)円筒体の内部に骨髄細胞溶液を注入し神経再生材料を得る工程、並びに
(iii)得られた神経再生材料を神経損傷部位に移植する工程、
からなる損傷した神経の再生方法。
【請求項11】
骨髄細胞が骨髄単核球細胞である請求項10記載の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−167366(P2007−167366A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369355(P2005−369355)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】