説明

神経細胞死促進因子及び該因子を高感度に検出する方法

【課題】神経細胞死促進因子或いはその誘導体、その測定法並びにその使用などの神経細胞死促進因子に関連する技術を提供する。
【解決手段】以下の(a)又は(b)の非切断性proBDNF誘導体:(a)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質(b)特定のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入され、かつ、神経細胞死および/またはコリン作動性ニューロンのファイバー脱落の促進活性を有するタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、proBDNF類及びその測定法並びにその使用に関し、詳しくは、proBDNF又はその誘導体、特に非切断性proBDNF誘導体、これらの神経細胞ないし神経変性疾患モデル作
成のための使用、proBDNF又はその誘導体に対する抗体及び免疫学的測定法、アルツハイ
マー病、パーキンゾン病などの神経変性疾患の診断法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経系には神経細胞の生存を促進する蛋白質「神経栄養因子」と神経細胞の死を促進する「神経細胞死促進因子」が存在している。前者の代表は神経栄養因子BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)であり、1990年代から研究が進んでいる(例えば、特許
文献1参照)。しかしながら、後者についての研究は進んでいない。
【特許文献1】特開平05-328974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、神経細胞死促進因子或いはその誘導体、その測定法並びにその使用などの神経細胞死促進因子に関連する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は神経栄養因子BDNFの一塩基多型SNPの配列に基づいた研究を通して、安定的
に「神経細胞死促進因子」活性を発揮する蛋白質を調整することに成功し、さらに研究を重ねて本発明に到達した。
【0005】
本発明は、以下の発明に関する。
1. 以下の(a)又は(b)の非切断性proBDNF誘導体:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、付加
、欠失又は挿入され、かつ、神経細胞死および/またはコリン作動性ニューロンのファイバー脱落の促進活性を有するタンパク質。
2. 項1に記載の非切断性proBDNF誘導体をコードする遺伝子。
3. proBDNF又はその誘導体の神経変性疾患モデルの作成のための使用。
4. 神経変性疾患がアルツハイマー病である項3に記載の使用。
5. 成熟BDNFの存在下でproBDNFを選択的に測定可能な抗proBDNF抗体。
6. 項5の抗体を使用するproBDNFの免疫学的測定法。
7. 免疫学的測定法がELISA法である、項6に記載の免疫学的測定法。
8. 生体サンプル中のproBDNF量を必要に応じてBDNF量と組み合わせて測定することを
特徴とする神経変性疾患の診断法。
9. in vivoまたはin vitroで神経細胞に切断性又は非切断性proBDNF誘導体を作用させて神経変性疾患モデルを作製し、次いで該モデルに候補化合物を与えることを特徴とする神経変性疾患に対する薬物のスクリーニング方法。
10. in vivoまたはin vitroで神経細胞に切断性又は非切断性proBDNF誘導体と薬物候補化合物を組み合わせて作用させて神経変性の程度を評価ないし検出することを特徴とする神経変性疾患に対する薬物のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0006】
プロセッシングによる活性化を受けない非切断性proBDNF誘導体がアルツハイマー時に
脱落することが知られる前頭前野中核野のコリン作動性神経細胞のファイバーの脱落を促
進すること(図8)、また、低カリウム培地による小脳顆粒神経細胞の細胞死を非切断性proBDNFが促進すること(図7)が明らかになった。これらの実施例からproBDNFによる神経疾患の原因となる神経細胞のダメージを回避するための創薬研究のスクリーニングが可能になる。
【0007】
本発明の抗体を使用した免疫学的測定法によれば、proBDNFを選択的に測定することが
できる。proBDNFは神経細胞死ないし神経変性疾患と密接に関係しているので、その血中
濃度を測定することによって、神経系のダメージの度合い、例えば、アルツハイマー病などの神経変性疾患の兆し、症状の進行度を判定、評価ないし診断することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、天然型のヒトproBDNFは配列番号1に示され、125位のArgをMetに
置換し、かつ、127位のArgをLeuで置換した非切断性proBDNF誘導体(以下、「BDNF-ML
」と略すことがある)を配列番号2に示す。なお、天然型のヒト成熟BDNFは、図6の下線
を引いた部分である。
【0009】
配列番号2に示される非切断性proBDNF誘導体(BDNF-ML)は、コリン作動性神経細胞のファイバーの脱落の促進、低カリウム培地による小脳顆粒神経細胞の細胞死の促進などの神経細胞に対する有害作用を有することが本発明者により明らかにされた。
【0010】
本発明により提供される非切断性proBDNF誘導体は、
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質の他に、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、付加
、欠失又は挿入され、かつ、神経細胞死および/またはコリン作動性ニューロンのファイバー脱落の促進活性を有するタンパク質を包含する。
【0011】
上記アミノ酸配列の置換、付加、欠失又は挿入は、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシス〔Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382 (1987);同 100, 468 (1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984);続生化学実験講座1「遺伝子研究法II」、日本生化学会編, p105 (1986)〕などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸
アミダイト法などの化学合成手段〔J. Am. Chem. Soc., 89, 4801(1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett.,22, 1859 (1981);同 24, 245 (1983)〕およびそれらの組合せなどにより行うことができる。置換、付加、欠失又は挿入
されるアミノ酸の個数としては、1又は複数個、好ましくは1から十数個、更に好ましくは1から数個程度が、神経細胞死および/または神経細胞のファイバー脱落の促進活性を保持する上で、好ましく例示される。また、配列番号2のタンパク質は、シグナルペプチドを含んでおり、該シグナルペプチドをさらに欠失させることもできる。
【0012】
本発明は、さらに非切断性proBDNF誘導体をコードする遺伝子にも関する。該遺伝子は
、上記非切断性proBDNF誘導体タンパク質((a)および(b))をコードするDNA、及び該D
NAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、かつ、神経細胞死および/またはコリン作動性ニューロンのファイバー脱落の促進活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。ストリンジェントな条件としては、プライマーまたはプローブとして用いられる通常の条件を挙げることができ、特に制限はされないが、例えば、0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃の条件または0.1%SDSを含む1×SSC中60℃の条件を例示することができる。
【0013】
天然型proBDNFの起源は特に限定されず、ヒト、ウシ、ブタ、サル、イヌ、ヒツジ、ヤ
ギ、ウサギ、マウス、ラットなどの哺乳動物、ニワトリ、アヒルなどの鳥類、カエルなどの両生類等の動物が広く例示できる。天然型proBDNFは、非切断性proBDNF誘導体の製造原
料として使用できる。
【0014】
本発明者は、非切断性proBDNF誘導体の組換え蛋白質を大腸菌の発現系を用いて作製し
た。組換え蛋白質を発現する宿主としては大腸菌に限られず、他の微生物、植物細胞、動物細胞などが広く使用できる。非切断性proBDNF誘導体は、proBDNFにおいて切断に関与する部分或いはその周辺(図6において↓の周辺部分、例えば125位、127位はこれに含まれる)に変異を導入することにより得ることができる。
【0015】
この組換え蛋白質の生物活性を脳の神経細胞の培養系を用いて測定した結果、非切断性proBDNF誘導体は運動機能の調節を行う小脳顆粒神経細胞に対して、神経細胞死を誘導す
ること、神経細胞の生存を促進するBDNFとは反対の機能を行うこと、アルツハイマー病脳において脱落することが知られる前脳基底野コリン作動性神経細胞の脱落を加速させる活性があることが見出された。この作用は、proBDNFに本来備わっている機能であり、天然
のproBDNF及び非切断性proBDNF誘導体のいずれも該作用を有する。天然のproBDNFはプロ
ドメインを切断して成熟BDNFになるとproBDNFと反対の神経保護作用を有するが、非切断
性proBDNF誘導体は成熟BDNFにはほとんど或いは全く変換されないため、取り扱いが容易
である。
【0016】
非切断性proBDNF誘導体あるいは天然proBDNFは、神経細胞死或いは神経変性ないし神経細胞の機能低下を引き起こすため、神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病など)の病態モデルの作成に有効である。例えば、培養神経細胞或いはヒトを除くモデル動物(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、サルなど)に非切断性proBDNF誘導体、或いは天然proBDNFを非切断/非成熟条件下(例えば酵素阻害剤を併用する等)で与えることにより、神経変性疾患のモデル系を作製可能である。
【0017】
例えば、非切断性proBDNF誘導体をアルツハイマー時に脱落することが知られる前頭前
野中核野のコリン作動性神経細胞に作用させて、そのファイバーの脱落を促進することにより、アルツハイマー病の疾患モデルを作製できる。
【0018】
これらの神経変性疾患の疾患モデルに候補化合物を作用させるか、或いはproBDNF又は
その非切断性誘導体と候補化合物を組み合わせて作用させてその効果を検証することにより、神経変性疾患に対する治療薬のスクリーニングを行うことができる。
【0019】
上記のように、成熟BDNFとproBDNFは、神経細胞に対して正反対の作用を有するため、
これらの存在比率は重要である。神経栄養因子BDNFの減少あるいは神経栄養因子BDNFの前駆体蛋白質proBDNFの増加は、痴呆や脳疾患の原因になりうるからである。したがって、
脳疾患診断法の一つとして、神経栄養因子BDNFと神経栄養因子BDNFの前駆体蛋白質proBDNFの量比を正確に測定する技術は重要である。
【0020】
神経栄養因子BDNFの高感度な測定技術はすでに1990年代から確立されて製品化されており(例:プロメガ社)、それが神経栄養因子BDNFの酵素免疫測定法(ELISA)である
。図2はその原理であり直接競合ELISAの例を示している。
【0021】
しかし、神経細胞死促進因子proBDNFを高感度かつ特異的に検出する酵素免疫測定法(ELISA)は開発されていなかったために、神経栄養因子BDNFと神経栄養因子BDNFの前駆体蛋白質proBDNFの量比を知ることはできなかった。
【0022】
本発明者らは、神経栄養因子BDNFの前駆体蛋白質proBDNFを高感度にかつ特異的に測定
する酵素免疫測定法(ELISAを含む)を開発した。ELISAの原理は図2の直接競合ELISAで
あり、ELISAに使用する抗体として、proBDNFのpro-domain(図1)の領域を特異的に認識
する抗体2種類を作製した(図5,RabbitとChicken)。これらの抗体を用いて測定した
結果、前駆体蛋白質proBDNFをpg/mlの濃度まで高感度に測定でき、かつ、神経栄養因子BDNFはここで開発されたELISAでは検出されないことが明らかになった(図3)。このELISA法を実際に用いてラット脳スライス標本から放出された前駆体蛋白質proBDNFと神経栄養
因子BDNFの量比を決定した(図4)。脳スライス標本から前駆体蛋白質proBDNFが約30 pg/mlの濃度で放出されていることがわかる。
【0023】
神経栄養因子BDNF及びその前駆体蛋白質proBDNFは、リンパ液、血液ないし脳脊髄液な
どの生体サンプル中に存在することが知られている。上記のようにproBDNFは神経細胞死
もしくは機能低下(神経細胞変性ないし神経突起の伸長抑制・脱落を含む)に関与しており、血液(血清、血漿、血球(赤血球、白血球)や脳脊髄液などの中のproBDNF或いはBDNFとproBDNFの比(BDNF/proBDNF)を必要に応じて繰り返し測定することで、アルツハイ
マー病、パーキンソン病などの神経変性疾患の罹患の可能性或いは進行の程度を予測、判定ないし診断することが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
実施例1:非切断性proBDNF
NCBIのSNPデータベースに基づいて、proBDNFのプロドメインの切断部分(矢印↓)の近傍に存在する2個のR(Lys、太文字、125位と127位)をM(Met,125位)とL(Leu 127位)に変
異を導入するための遺伝子組換え実験を行った。
【0025】
ヒトの血液から調整したDNAを用いて図6のアミノ酸配列部分(配列番号1)に相当す
るDNA断片をPCR反応で増幅しTAベクター(インビトロジェン)にクローニングした。 2個のR(Lys、太文字、125位と127位)をMとLに変異させた遺伝子を得るために、GCAAACATGTCCATGATGGTCCTGCGCCACTCTGACCC(プライマー1,配列番号3)とGGGTCAGAGTGGCGCAGGACCATCATGGACATGTTTGC(プライマー2,配列番号4)の配列のプライマーと、Quick-change XL site-directed mutagenesis kit (Strategene)を用いて目的とする非切断性proBDNF(BDNF-ML)遺伝子を得た。
【0026】
大腸菌によって発現精製したproBDNFの銀染色(左)とウエスタンブロット解析(図5
の左と同じ)とCDスペクトル実験方法
His-tag付き非切断性ヒトproBDNF遺伝子(R125M、R127L)をpET19ベクターに導入し、
大腸菌株BL21にトランスフォーメーションした。集菌した大腸菌ペレット(約4g)をBugBuster (Novagen)に溶かし17,000rpm、20分、4℃の遠心によってHis-tag付きヒトproBDNFを含むInclusion Bodyを回収し8M Urea 1mM EDTA 40mMDTT / 0.5M Tris-HCl(pH8.5) に一晩可溶化し、この溶液5mlに190mg TAPSを添加しさらに一晩4℃に置いた。 His-tagカ
ラム(Invitrogen)によってHis-tagつきヒトproBDNFを精製した。精製度が銀染色からわかる(図9右)。この組み換え蛋白質を2M Urea 0.1-0.2mM cysteamine 5% グロセロール/ 50mM Tris-HCl(pH 7.4)中で巻き戻した(4℃一晩)。最後に0.1% BSA/0.15M NaClで透析して精製品とした。CDスペクトルから巻き戻し反応後の蛋白質の高次構造化が確認された(図9左)。
【0027】
実施例2:抗体によるproBDNFおよびBDNFの検出
図2の原理に基づいてproBDNFを高感度に検出するELISA法を確立した。
【0028】
抗体は図1のpro-domainを認識するchickenとrabbitの抗体(図5)をアフィニティ精
製したものを使用した。検量線作成に使うproBDNFは、図9のように精製したものである

【0029】
図3(B)のプロメガ社のELISAを用いたBDNFの測定は、プロメガBDNFmaxのプロトコー
ルに従って行った。
【0030】
図3(A)のproBDNF測定の実験方法:
(i) proBDNF(chicken Ab、アフィニティカラム精製)抗体をカーボネートコートbufferで250倍希釈しこれを100μlずつELISAプレートに一晩置く。
(ii)抗体液を捨てwashing buffer(20mM Tris-HCl(pH7.6) 150mM NaCl 0.05% Tween 20
) 280μl で5分間揺らし2回洗浄する。
(iii)X4 Block Ace(大日本製薬)280μl をapplyし1時間以上静置。
(iv)液を捨ててwashing buffer 280μl で1回洗い、proBDNFあるいはBDNF(プロメガBDNFmaxに添付のもの)をグラフの濃度になるように添加し、室温で2時間振とう。
(v)液を捨ててwashing buffer 280μl で5分間揺らし3回洗う。proBDNF(rabbit Ab-IgG精製)抗体をX10 Block Aceで500倍希釈して100μlずつ添加。室温で2時間振とう。
(vi)液を捨ててwashing buffer 280μl で5分間揺らし3回洗うanti-Rabbit (HRP-conjugated) 抗体をX10 Block Aceで1000倍希釈し100μlずつ添加。室温で1時間振とう。
(vii)液を捨ててwashing buffer 280μl で5分間揺らし3回洗うTMB One Solution(プロ
メガG7431)を 100μlずつ添加。発色をみながら1M-HClを 100μlずつ添加し450nmで発色を測定する。
【0031】
図4は、脳の海馬スライス培養系を用いて図3のproBDNF ELISAが正しく実験的に働く
ことを確認し、実際にproBDNF及び成熟BDNFを定量した結果である。ELISAが働くことは、通常のマウスからのスライスでは測定できたが(+/+)、BDNFのノックアウトマウスから
のスライスでは(-/-)測定できなかったこと(ND)からわかる。このスライスの場合、
実際のスライスから放出されたproBDNFおよび成熟BDNFはそれぞれ約30pg/mlと10pg/mlであった。
【0032】
実験方法:生後7日のマウス脳から切り出した200ミクロンの海馬切片を生理的バッフ
ァーにおいて1週間培養した。その培養上清を回収し図3のELISA法によって各BDNFの濃
度を決定した。
【0033】
ELISAを使用した抗体の特異性
図9で精製したproBDNFをproBDNF(chicken Ab、アフィニティカラム精製)抗体、proBDNF(rabbit Ab-IgG精製)抗体でウエスタンブロットを行った。ウエスタンブロットに使用した抗体濃度は、chickenが1.6 μg/ml、rabbitが2.8 μg/mlである。抗体作製に用いた抗
原はchicken抗体がNNK DAD LYT SRV MLS SQの配列、rabbit抗体はプロドメイン全体であ
る。結果を図5に示す。
【0034】
実施例3:proBDNFの神経細胞に対する影響
(1)小脳顆粒神経細胞
BDNFのレセプターを発現している生後6日齢ラット小脳顆粒神経細胞を培養し、高濃度(26mM)カリウム含有MEM培地にて4日間成熟の後、100ng/mL成熟型BDNFまたは50ng/mL proBDNFを含む低濃度(5mM)カリウム含有MEM培地に置換、神経細胞死を誘導した。1日後、細胞の生存活性をdapiによる核染色(図7左)または乳酸脱水素酵素(LDH)活性測定(
図右)により定量化した。
【0035】
dapi染色:4%パラホルムアルデヒド水溶液で固定後、dapiを含むPBSに15分間曝露
し、PBSに溶液を交換した。蛍光顕微鏡下、紫外光を照射し、核に取り込まれたdapiの蛍
光を観察した。アポトーシスを起こし凝縮した核(図中・矢頭)と、生存している核(図中・矢印)をカウントし、すべての核数に占める、アポトーシスを起こした核数を百分率で定量化した。
【0036】
LDHアッセイ:和光純薬工業(株)の「LDH−細胞毒性テストワコー」を用い、固定直前の低カリウム培地を10μL分取し、50μLのLDH発色試薬中に混合、室温下約15分の後560nmの吸光度を測定した。proBDNF添加群では、他群に比して優位に細胞死が促進されてい
ることが明らかとなった。
(2)コリン作動性ニューロン
BDNFのレセプターを発現している胎生20日齢ラット中隔野を培養し、2週間のマチュレーションの後、100ng/mL 成熟型BDNFまたは20ng/mL proBDNFをそれぞれ添加した。4日後アセチルコリンエステラーゼ活性染色を行い、コリン作動性ニューロンを特異的に染色し、その形態を顕微鏡下観察し(図8上)、細胞体から50μm離れたアセチルコリンエ
ステラーゼ活性染色陽性神経突起の数を定量化した(図下)。proBDNF添加群では、有意
にアセチルコリンエステラーゼ活性染色陽性神経突起の低下が顕微鏡下で観察された(図8上)。またproBDNF添加群では、細胞体から50μm離れたアセチルコリンエステラーゼ活性染色陽性神経突起の数は、他の群に比して約半分に減少していた(図8下)。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】神経細胞とproBDNF,成熟(mature)BDNFを示す。
【図2】直接競合ELISAの模式図を示す。
【図3】図2の原理に基づいたproBDNFを高感度に検出する本発明のELISA法とBDNFを高感度に検出する従来のELISA法の結果を示す。
【図4】脳の海馬スライス培養系を用いて図3のproBDNF ELISAが正しく実験的に働くことを確認した。
【図5】図9で精製したproBDNFをproBDNF(chicken Ab、アフィニティカラム精製)抗体、proBDNF(rabbit Ab-IgG精製)抗体でウエスタンブロットを行った結果を示す。
【図6】proBDNF(全配列)とmatureBDNF(下線部分)のアミノ酸配列を示す。↓は切断部位を示す。
【図7】ラット小脳顆粒神経細胞に対するproBDNFの効果を示す。
【図8】コリン作動性ニューロンに対するproBDNFの効果を示す。
【図9】大腸菌によって発現精製した非切断性proBDNFの銀染色(左)とウエスタンブロット解析(図5の左と同じ)とCDスペクトル実験の結果(右)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)の非切断性proBDNF誘導体:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、付加
、欠失又は挿入され、かつ、神経細胞死および/またはコリン作動性ニューロンのファイバー脱落の促進活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項3に記載の非切断性proBDNF誘導体をコードする遺伝子。
【請求項3】
proBDNF又はその誘導体の神経変性疾患モデルの作成のための使用。
【請求項4】
神経変性疾患がアルツハイマー病である請求項3に記載の使用。
【請求項5】
成熟BDNFの存在下でproBDNFを選択的に測定可能な抗proBDNF抗体。
【請求項6】
請求項5の抗体を使用するproBDNFの免疫学的測定法。
【請求項7】
免疫学的測定法がELISA法である、請求項6に記載の免疫学的測定法。
【請求項8】
生体サンプル中のproBDNF量を必要に応じてBDNF量と組み合わせて測定することを特徴と
する神経変性疾患の診断法。
【請求項9】
in vivoまたはin vitroで神経細胞に切断性又は非切断性proBDNF誘導体を作用させて神経変性疾患モデルを作製し、次いで該モデルに候補化合物を与えることを特徴とする神経変性疾患に対する薬物のスクリーニング方法。
【請求項10】
in vivoまたはin vitroで神経細胞に切断性又は非切断性proBDNF誘導体と薬物候補化合物を組み合わせて作用させて神経変性の程度を評価ないし検出することを特徴とする神経変性疾患に対する薬物のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−345787(P2006−345787A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177093(P2005−177093)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】