説明

神経障害性知覚喪失処置のための組成物およびその用途

本発明は、神経障害に誘発された陰性知覚症状(NSP)の影響を減ずる方法に関する。NSPは、軽い接触、疼痛、固有感覚、振動、暖かさ/暑さおよび涼しさ/寒さを感知する能力の低下として発現される。NSPは麻酔薬の適用により処置される。麻酔薬は、好ましくは安息香酸ベースの麻酔薬である。具体的には、約5%のリドカインを含むパッチが使用され得る。麻酔薬は、NSPを罹患する患者に、陰性知覚症状の部位またはその近くに経皮投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、疼痛を処置するための組成物および方法に関し、より詳細には、本発明は神経障害に誘発された陰性知覚症状(NSP)の影響を減ずることに関する。
【背景技術】
【0002】
(関連分野の背景)
一般的に「神経障害」として公知な、末梢神経が損傷しているかまたは機能不全である患者は、しばしば知覚障害または知覚喪失(麻痺)の症状(例えば軽い接触、疼痛、固有感覚、振動、暖かさまたは暑さ、および涼しさまたは寒さの状態を神経損傷の領域において感知する能力の低下)を発現する。患者はまた、病気に冒された身体領域に関して「麻痺の感覚」を述べ得る。このような症状は、簡便に「陰性知覚症状」すなわち「NSP」と呼ばれる。NSPは、亢進した感受性、感覚異常(ピンおよび針の刺痛など)、および疼痛により示される陽性知覚症状(Positive Sensory Phenomena)(PSP)と区別される。神経障害患者は、NSPおよびPSPの両方を経験し得るものもいれば、いずれか片方のみを経験し得るものもいる。
【0003】
米国特許第5,976,547号−Archerらは、arnica montanaの抽出物を含む鎮痛性および消炎性の柔軟なラップを開示している。このラップは、末梢性および中枢性の疼痛(糖尿病性の末梢神経障害に関連する下肢の知覚異常、麻痺および知覚過敏を含む)を処置するために使用される。arnica montanaの抽出物に加えて、このラップは、とりわけリドカインを含むいくつかの治療剤または薬剤のうち1つ以上を含み得る。リドカインは、麻痺の処置には使用されない。
【0004】
米国特許第6,377,423号−Axtらは、神経障害性の疼痛処置のための、リドカインを含む局所麻酔薬の使用を開示している。
【0005】
米国特許第6,147,102号−Borgmanは、交感神経依存性末梢神経障害の処置におけるクロニジン含有調製物の使用を開示している。
【0006】
公開された米国特許出願US2002/0037926(2002年5月28日公開)は、慢性疼痛または痙攣を処置するための、ガバペンチンまたはプレガバリンと組み合せたナトリウムチャネルブロッカーの使用を開示している。
【0007】
このように、神経障害性疼痛および関連のPSP(ピンおよび針の刺痛、ならびに疼痛)を処置するための局所麻酔薬は公知であるが、神経障害により誘導されるNSP(麻痺、低下した感覚)に関する局所麻酔薬は公知でない。特に、疼痛に加えて、PSPまたは亢進した感受性の、局所麻酔薬を投与することによる処置は公知である。しかしながら、疼痛を減少する処置がまた、感覚が消失している場所で感覚を亢進するか、または、神経障害の領域において麻痺の感覚を減少することに適用可能であり得ることを示唆する参照文献は無い。したがって、陰性知覚症状(NSP)の処置方法に対する、長い間切実に望まれ、そしてまだ対処されていない必要性が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
従って、神経障害患者におけるNSPは、好ましくは病気に冒された領域に適用される、薬学的化合物の経皮投与により緩和されることが現在明らかにされてきた。
【0009】
ゆえに本発明は、神経障害性NSPを罹患する患者に、知覚喪失部位の近くの位置にNSPを和らげる量の薬学的化合物を適用することにより、神経障害性NSPに起因する知覚喪失を処置するための方法を提供する。好ましくは、この薬学的化合物は、安息香酸ベースの麻酔薬(具体的には、ベンゾカイン、プロカイン、リドカイン、プリロカインまたはそれらの薬学的に受容可能な塩および誘導体)から選択される少なくとも1つの化合物である。リドカインが適用されるこれらの実施形態において、5%のリドカインを含有するキャリアを含むリドカインパッチを利用することは、最も好ましい。
【0010】
特定の実施形態において、本発明の方法は、神経障害性NSPに起因する知覚喪失を、局所麻酔薬の経皮投与により処置する工程を包含する。このことは、約2〜約10重量%の麻酔薬(例えば、リドカイン)を含む組成物を、経皮輸送可能な形態において適用することを含む。リドカインは経皮的に吸収され、神経障害の部位に軽減を提供する。パッチが使用される場合、活性成分は、好ましくはポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、合成ゴム、ポリエステル織布およびポリエステル不織布からなる群より選択されるカバーで覆われる。別の好ましい実施形態において、神経障害性NSPに起因する知覚喪失は、経皮投与により、より具体的には、リドカインの経皮輸送を提供する処方物中に、約2重量%〜10重量%のリドカイン、より好ましくは約5重量%のリドカインを含み、ポリエステル不織布が覆っている生理学的に受容可能な接着剤を含むパッチを適用することにより処置される。この薬物を添加されたパッチは、患者がNSPを述べる皮膚に直接適用される。この薬物を添加されたパッチは、活性成分の臨床的に意味を持つ血漿レベルを産生しない。
(好ましい実施形態の説明)
本発明は、麻痺および低下した感覚のような、神経障害に誘発された陰性知覚症状(NSP)の影響を減ずる方法に関する。上に記載されるように、NSPは軽い接触、疼痛、固有感覚、振動、暖かさ/暑さ、および涼しさ/寒さを感知する能力の低下として発現される。上に記載されるように、NSPは、筋電図記録、神経伝達速度または定量的な感覚試験の研究評価により、神経における異常を証明する能力のない患者の、病気に冒された領域における「麻痺」の病訴または説明により単独で発現され得る。ゆえに本明細書中に使用される用語「NSP」または「神経障害性NSP」は、現在公知である、または後に発見されるであろう全てのこのような神経障害性の状態および適応症を含むよう広く解釈されるべきである。このようなNSPは、定義によると、一時の外用薬剤が作用していない限り(例えば、一時麻酔の注射)は、神経障害により起こったとみなされる機能的障害である。
【0011】
本発明において、局所麻酔は神経障害性知覚喪失を緩和するために適用される。麻酔薬は、その適用部位で感覚を向上させる。麻酔薬は、患者により麻痺として述べられるNSPの病訴を緩和する。この麻酔薬は安息香酸誘導体であり、通常、一般的な麻酔薬と区別される局所麻酔薬として使用される。具体的には、ベンゾカインおよびコカインのような安息香酸、プロパラカインのようなメタアミノ安息香酸、プロカイン、クロロプロカインおよびテトラカインのようなパラアミノ安息香酸、ならびにリドカイン、メピバカイン、ブピバカインおよびエチドカインのようなアミド誘導体は本発明において有用である。これらのパラアミノ安息香酸および他のアミド誘導体が、好ましい。より好ましいのは、アミド誘導体である。具体的には、局所麻酔薬がリドカインであり、そして具体的にはパッチが約5%のリドカインを含んでいる場合が最も好ましい。リドカインは、合成アミドである2−(ジメチルアミノ)−N−(2,6−ジメチルフェニル)−アセトアミド(C1422O)であり、主にその塩酸塩の形態において、局所麻酔薬および抗不整脈剤として使用される。麻酔薬は、好ましくはNSPを罹患する患者に、感覚が減少した位置またはその近くに適用される。感覚が減少した位置は、患者の皮膚上の感覚減少が最も顕著であるか、最も不快であるか、または神経障害の存在が同定された箇所である。これらの場所は通常同時に存在するが、そうで無い場合は麻酔薬は1つ以上のこれらの位置に、症状の軽減が認められるまで適用されるべきである。麻酔薬は、実際にNSP患者において感覚を亢進し、快適さを向上する。
【0012】
本明細書中に開示されるように、神経障害誘発NSPを罹患する患者に、知覚喪失部位の近くに麻酔薬を適用することによる、神経障害性NSPに起因する知覚喪失を処置するための方法は、ベンゾカイン、プロカイン、テトラカイン、クロロプロカイン、プロポキシカイン、コカイン、プロパラカイン、メピバカイン、ブピバカイン、フェノカイン、ジブカイン、エチドカイン、リドカイン、プリロカインもしくはそれらの薬学的に受容可能な塩、あるいは、これらの活性成分の1つの誘導体(例えば、プロカイン酪酸塩、プロカインホウ酸塩など)からなる群より選択される活性成分を利用し得る。この麻酔薬と誘導体は両方とも、単独または組み合せて使用され得る。当業者は、安全で、かつ効果的な様式により経皮投与され得る投薬量を生み出すために、これらの活性成分の量および濃度を過度の実験無しで決定し得る。例えば、リドカインが適用されるこれらの実施形態において、約5%のリドカインを含むキャリアを、好ましくはパッチにおいて、利用することが最も好ましい。
【0013】
特定の実施形態において、本発明の方法は神経障害性NSPに起因する知覚喪失を、約2重量%〜約10重量%、好ましくは約3重量%〜約7重量%のリドカインを、経皮輸送可能な形態で含む組成物を経皮投与により処置する工程を包含し、その結果、このリドカインは経皮輸送されてNSPの部位に軽減を提供する。好ましくは、この活性成分は、この領域を覆いそして保護するためにポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、合成ゴム、ポリエステル織布およびポリエステル不織布からなる群より選択される材料で覆われる。
【0014】
従って、本発明が、当業者によく知られている薬物送達メカニズムである、経皮パッチを包含することが理解される。1つの例として、パッチを使用する神経障害性NSPに起因する感覚喪失の処置は、約2重量%〜10重量%のリドカイン、より好ましくは約5重量%のリドカインを含む、生理学的に受容可能な接着剤を適用することによる投与を含む。このリドカインは、処方物中に含まれ、接着剤からのリドカインの経皮輸送を提供する。パッチは、ポリエステル不織布のカバーを含む。
【0015】
本発明はまた、神経障害性NSPに起因する感覚喪失を、約2重量%〜10重量%のリドカインを含有する硬膏またはゲルを含む、NSPを緩和する量の組成物の経皮投与により処置するための組成物に関連する。好ましくは、この組成物は約5重量%のリドカインを含み、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、合成ゴム、ポリエステル織布およびポリエステル不織布からなる群より選択されるカバーと併用される。好ましい実施形態において、この処方物は、少なくとも8時間のNSPからの軽減を提供する。
【0016】
本発明が感覚喪失を処置するための硬膏を含む場合、この硬膏は約2重量%〜10重量%のリドカイン、最も好ましくは約5重量%のリドカインを含む生理学的に受容可能な接着剤、およびポリエステル不織布のカバーを含む。特定の好ましい実施形態はまた、約2重量%〜10重量%のリドカイン、最も好ましくは約5重量%のリドカインを含むゲルを提供し、この処方物は約70重量%〜90重量%の無水ビヒクル(例えば、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、またはグリセリン)を、約0.1重量%〜約5重量%の生理学的に受容可能なゲル化剤、約2重量%〜約20重量%の非イオン性界面活性剤、および約10重量%までの生理学的に受容可能な賦形剤と共に含む。
【0017】
陽性知覚症状(「PSP」)は、損傷している、ならびに機能不全である末梢神経からの、自発的な神経放電の増加により誘発されると以前はみなされていた。ゆえに、例えばリドカインのような局所麻酔薬を含む、経皮投与されたナトリウムチャネルブロッカーは、PSPの原因となる亢進した自発的な放電を減少し、ゆえに疼痛および知覚不全の軽減を生じ得ると期待されていた。NSPの病因論の基礎をなす現行の理解に基づき、麻酔薬が効果的にNSPの陰性効果を緩和することは期待されていなかった。しかしながら現在では、リドカインのような局所麻酔薬の適用が、NSPを効果的に処置し得るということが明らかになってきた。例えば、何人かの糖尿病性の神経障害患者は、疼痛の緩和とNSPの改善の両方を報告した。つまり、これらの患者は疼痛の緩和、感覚喪失の改善(麻痺の減少)、および触覚反応の改善(彼らは、彼らの肌に触れている物体をより感じることができた)を経験した。このように、この実施形態において適用される麻酔薬は、麻痺を減少させた。このことは麻酔薬についての全ての先行技術に相反する。
【0018】
本発明の作用のメカニズムは、少なくとも何人かの患者において、NSPが、「麻痺」および他のNSPの知覚情報を中継するという機能をもつ、末梢神経の特定の集団における、亢進された自発的な放電によって引き起こされ得るものであると考えられている。従って、PSPを処置することと類似の様式において、適切な濃度で経皮投与される麻酔薬は、これらのNSPによる機能不全の末梢神経における正常でない放電を減少させる。もちろん、本発明はこの理論により制限されることを意図しない。
【0019】
本発明の特定の実施形態は、本明細書中に詳細に記載されてきたが、これらの実施形態およびそれらの説明は、本発明を説明する目的のために提供され、限定的でない。前述のものを概観すると、本発明を利用する、本明細書中に開示される組成物および処置方法の多数の適合、改変およびバリエーションが存在することは、当業者に容易に理解される。例えば、特定の好ましい実施形態の大半は、リドカインの使用に関するが、上に説明されているように、多数の他の麻酔薬が経皮投与され、同一の結果を達成し得る。従って、本発明の真の目的を確かめるためには、添付の特許請求の範囲が参照されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経障害性陰性知覚症状を処置する方法であって、神経障害性陰性知覚症状を罹患する患者に、該陰性知覚症状の部位またはその近くに麻酔薬を適用する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記麻酔薬は、安息香酸誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記安息香酸誘導体は、ベンゾカイン、プロカイン、テトラカイン、クロロプロカイン、プロポキシカイン、コカイン、プロパラカイン、メピバカイン、ブピバカイン、フェノカイン、ジブカイン、エチドカイン、リドカイン、プリロカインおよびそれらの薬学的に受容可能な塩からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記安息香酸誘導体は、リドカインである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記リドカインは、パッチ中に含まれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パッチは、約2%と約10%との間のリドカインを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パッチは、約5%のリドカインを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、合成ゴム、ポリエステル織布およびポリエステル不織布からなる群より選択される材料から形成されるカバーを、前記麻酔薬の上に適用する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
麻酔薬の経皮投与により神経障害性陰性知覚症状を処置する方法であって、該方法は以下:
生理学的に受容可能な接着剤を含み、約2重量%〜10重量%のリドカインを含むポリエステル不織布を、該陰性知覚症状の部位またはその近くに適用する工程、
を包含する、方法。
【請求項10】
前記リドカインは、約5重量%で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
患者の皮膚の麻痺を減少させるための方法であって、該皮膚に、該麻痺の部位またはその近くに局所麻酔を適用する工程を包含する、方法。

【公表番号】特表2006−509766(P2006−509766A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555767(P2004−555767)
【出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【国際出願番号】PCT/US2003/037815
【国際公開番号】WO2004/047819
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(503407443)エンドー ファーマシューティカルズ, インコーポレイティド (9)
【Fターム(参考)】