説明

移動と定位置保持の浮島水車発電システム

【課題】海流の流路は気象や海象により絶えず変化し、深い海の上を流れているために海底ケーブルで送電することも困難である。そのような条件下での海流エネルギーによる発電システムを提供する。
【解決手段】流速のある海域に移動して、定位置で効率のよい水車発電ができる浮島2とし、浮島2で発電する余剰電力の範囲で推進器を駆動させて航行と定位置保持ができる浮島とした。そのための電力と余剰電力を得るために、浮島に海流エネルギーを取り込むに十分な面積の水車を取り付け、浮島と水車の形状は、海流エネルギーの活用を妨げることなく、海流から受ける抵抗力が少なくなるように、浮島の構造を、浮島ブロック体1の集合体として、浮島の下を海水が通過できる空間を設けた。下部構造を強くするために、浮力体3をアルミニウム合金構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
海流エネルギーを利用した海流発電に関する。
【背景技術】
【0002】
タービン翼や発電機器類を海底に固定杭や係留索(錨)で連結して、沿岸の海域の潮力を利用した潮流発電方法が公開されているが、海洋の海流を利用した海流発電方法は見当たらないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
再生可能エネルギーを活用した発電方法として、太陽光発電や風力発電、地熱発電方法などがあるが、原発の縮小や化石燃料削減の気運が高まる今日、大容量の再生可能エネルギーによる安い電力が安定して供給される必要があり、それには、海流エネルギーを利用した海流発電方法が適していることは従来から指摘されてきた公知の知恵である。しかしながら、公開されている海洋情報によると、黒潮の流れの流域で、発電に適した早い流速の海域は限定され、そして、気象・海象の影響により流路と流速は時間単位で変化している。また、海流は深海の上を流れているのが常である。効率のよい海流発電するには、少なくとも、それら二つの条件を解消しなければならない。
【0004】
本発明は、海流の流路と流速の変化、そして海流は海洋の深海上にある。それらの課題を解決して、海流エネルギーから効率のよい発電で電力を得るために、新しい海流発電システムを提供するものである
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明の海流発電システムでは、流速の早い海域への移動と、定位置の保持で、高効率の海流発電ができる浮島とした。浮島の移動と定位置保持をする推進器の燃料は、浮島発電による直接の電力か、その電力で造る水素により推進器を稼動する。そのための電力と余剰電力を得るために、浮島に海流エネルギーを取り込むに十分な面積の水車を取り付け、浮島と水車の形状は、海流エネルギーの活用を妨げることなく、海流から受ける抵抗力である海水の質量が少なくなるように、浮島の構造を、浮島ブロック体の集合体として、浮島の下を海水が通過できる空間を設けた。
【0006】
浮島の構成は、海面上の構造体とそれを海面から支える浮力体からなる浮島ブロック体を複数連結した。その浮島は、予め複数のブロック体を連結した分割構造体としてドッグで建造する。分割構造体にはドックで重量のある推進器などが取り付けられる。それぞれの分割構造体はドックから近海に運ばれて洋上で連結されて浮島が造成される。また、非効率であるが、洋上で一体の浮島ブロック体を複数のブロック体に連結部材で繋ぎながら、アメーバ状にエリアを拡大していく造成方法もある。
【0007】
浮島の基盤となる海面上の構造体は、アルミ船の海上構築物で実績のあるアルミニウム合金6063−T5の押出形材とした。構造体の詳細は特願2010−163323(出願整理番号EU1)に記載されており省略する。
【0008】
アルミ構造体と浮島ブロック体を繋ぐ連結部材は、100mmと99mm角材を、溶接とボルトを使わずに同じ材質の継ぎ手で構築した。それにより連結部材に小梁の取り付けができる。また、浮島ブロック間を連結部材で繋いだ後、連結部を強固にするための固定装置部材をアルミ構造柱の内周面と連結部材に設け、それら部材の開口部に固定部材を嵌めて強固な連結部とした。
【0009】
浮島の浮力となり、海面上の浮島構造体と共に浮島ブロック体を構成する浮力体は、アルミニウム合金6063−T5の押出材で浮力体の内部構造部分を構築し、海水と常に接するアルミ部材として実績のあるアルミニウム合金5083の板材を外殻としたものである。アルミニウム合金5083とアルミニウム合金6063の材質の違いは、複雑な押出形状はアルミニウム合金6063が適している。しかし、溶接をする場合、アルミニウム合金6063では材料強度が半減するのに対して、アルミ合金5083の材料強度は変わらないとされている。また、海水に対する耐久性はアルミ合金5083が優れているが、アルミニウム合金6063が海水に浸されてすぐに腐食することはない。
【0010】
浮島ブロック体は、船舶のように構造体と浮力体が一体となり船体を構成しているのではなく、構造体と浮力体は別個の建造物としている。多目的浮島として、一旦、海洋に浮かべると、浮力体の取替えは容易でなく、取替えに要する期間と費用を相当費やすことになる。浮力体はバラストタンクに替わることは容易であり、浮島造成時の連結レベルのバランスや解体時に浮力体のみを海中に押し下げて取替えができる。また、アルミニウム合金6063の構造材は100mm角材であり、単重は1mあたり4.77kgであり、重量は比重0.65の赤松で1mあたりの単重が6.5kgであり、連結部を防水すれば浮力の一助になる。
【0011】
海流発電のタービン翼である水車羽根は、軸を中心に2枚が幅100m高さ180mの板状になっている。羽根の両端は相反する方向に曲げてあるか、僅かな凸部を設けてある。羽根の材質はプラスチックであり、ブロー成形で中空とし、5m単位の長さに成形されている。軸も羽根と同じ材質と成形加工であり、長さ5.4m、直径0.96mの中空円筒形であり両端にはボルト穴のある直径1.2mのフランジが軸と一体成形されている。また、軸には羽根を取り付ける凹溝とフランジには羽根を取り付ける凸部が一体成形され、軸と羽根には潅水できる穴も成形されている。潅水穴は、浮島に取り付けるまでは密封されて水車翼は板状で海面に浮かんでいるか、潅水穴の一部が開封されて魚の背びれが水面に出たように海面に一方の羽根を突き出して浮かべ、浮島に水車翼を取り付ける時に潅水穴のほとんどを開封して海水を入れ、水車翼が鉛直に海中に立ち上がることができる。タービン翼のプラスチック素材の比重は1.2程度であり、また、水車羽根と軸の中空部のほとんどは海水で満たされることになり水圧の影響は受けない。タービン翼も多目的浮島と同じような作業工程で作られる。
【0012】
タービン翼である水車の軸を浮島上に突き出して駆動軸受を取り付けた後、多目的浮島に予め設置した公知ガスタービンと推進器で、4ノット程度の流速のある発電海域まで航行させる。発電海域では、浮島の水車の回転で発電した余剰電力で推進器をモーターで稼動させて、浮島を発電効率のよい海域へ航行させ、その海域の定位置に浮島を保持しながら海流発電をする。
【0013】
浮島水車発電の電力は、浮島の推進器の電力を差し引いた余剰電力で、浮島に設けられた公知海水電解プラントで水素に形を変えて内地に搬送され、搬送された水素は、発電所のガスタービンの水素ガス燃料として使われて再び電気となり、電気事業者より消費者に配電される。ガスタービン発電の燃料は化石燃料が使われてきたが、水素は燃焼でCO2を排出しないので、地球環境にも良い。
【0014】
図6に記載の船形浮島は長さ約990m幅127mであり、海流エネルギーを取り込む水車翼の大きさは幅100m高さ180mの平面状の二枚翼である。船形浮島に7基の水車を配置して、ベッシの法則で発電能力を計算すると、4ノット(時速約7.4km)の流速ではタービン翼一基で47000kw(47Mw)の電力が出力され、7基のタービン翼が稼動すると47Mw×7=329Mwが発電される。
【0015】
図6に記載の船形浮島の速度を22ノット(秒速11.264m、時速約40km)とした場合、船首部の浮力体一体の質量は、喫水1mとして海水の比重を1.025とし、面積6.6m2(浮力体の幅6.6m×喫水1m)で計算すると76200kgであり、船首には16体のブロックが配置されており、その合計の質量は1219200kg(1219.2トン、11.96Mw)であるが、浮島プロック体間の空間がない場合の質量は、面積127m2(浮島船首部幅127m×喫水1m)海水比重1.025とすると1466291kg(1466.3トン、14.38Mw)となり、浮島ブロック体による浮島構造は海水の抵抗力である質量が2.42トン軽減する。
【0016】
船形浮島が海流の発電域で操業する場合、海流の流速を4ノット(秒速2.048m、時速約7.37km)とすると、側舷の浮力体一体の質量は、喫水1mとして海水の比重を1.025とし、面積5m2(浮力体の幅約5m×喫水1m)で計算すると10496kgであり、片舷には92体のブロックが配置されており、その合計の質量は965632kg(965.6トン、9.47Mw)であるが、浮島プロック体間の空間がない場合の質量は、面積990m2(浮島片舷長さ990m×喫水1m)海水比重1.025とすると2078208kg(2078トン、20.38Mw)となり、浮島ブロック体による浮島構造は海水の抵抗力である質量を比較すると1112.4トンの軽減となり、航行と定位置保持をする推進器の馬力もそれにより軽減される。
【0017】
航行に必要な船形浮島の外側に沿って配置された推進器の馬力は一台2700馬力(2000kw)を想定しており、20台を配置すると、54000馬力(40000kw)であり、航行と定位置保持には40Mwの電力が必要となるが、7基の水車タービンが稼動すると329Mw−40Mwで289Mwの余剰電力が生まれる。流速のない海域での航行は、浮島で生成した水素ガスを燃料としたガスタービンで推進器を動かし航行する。
【0018】
多目的浮島の航行時には、図9に記載の浮島上に突き出した水車翼の軸頭は金属製の駆動回転軸で連結されており、回転制御のストッパー装置を設けることで水車翼の停止角度を制御することにより、航行方向への舵の働きができる構成となっている。また、軸の上部は海流から受ける質量、せん断力に耐えるような補強材が構造設計されている。
【0019】
図6、図10に記載する浮島が、定位置を保持するには、公知の携帯電話の位置情報と同じような機能の衛星通信機器や装置で位置情報が入力され、そのデーターの誘導で複数の推進器の推進力が働き、浮島の位置が保持されることで、効率の良い海流発電ができる構成となっている。
【0020】
南方より東シナ海を経て太平洋を北上して流れる黒潮には、マグロやカツオなどの魚類が回遊している。それら魚類への多目的浮島水車発電の影響ついては、黒潮の流れの幅は100km程度で、海面から200mほどの深さのまでは流れが強いとされている。そのような巨大な流域の中では、魚類への影響は考えにくい。また、タービン翼は低回転であり、板状の水車の回転は、径100m程の観覧車を縦長の円筒形にしたような軌道を海中で描くが、緩やかな回転であり、魚類への影響はないと推察される。また、海中の浮力体や水車翼には塗料が塗られておらず、メンテナンスについても公知推進器や発電機器類以外はメンテナンスの必要はない。
【発明の効果】
【0021】
海流の再生可能エネルギーにより、クリーンな環境が実現できる。そして、多目的浮島としての活用、例えば図6の船形浮島の右舷側に長方形の浮島を直交させて定位置保持させれば、図10に示す海流発電と移動式空港ができる。T字形の浮島集合体にすれば、船形浮島の定位置保持のエネルギー消費が少なくなり、他の長方形浮島も同様に負担が軽くなる効果がある。さらに、図1に示すアルミ浮力体は、外殻にハッチや船窓を設けたり、内部空間を少し大きくして内装すれば人員の住居になり、浮島建造コストの低減となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、浮島を構成する浮島ブロック体を構成するアルミ構造体とアルミ浮力体の主要構造部材の配置を示す斜視図である。
【図2】図2は、アルミ浮島ブロック体の斜視図である。
【図3】図3は、使用されるアルミ建築構造材、継手の一覧図である。
【図4】図4は、複数の浮島ブロック体を連結するための複数の部材の斜視図である。
【図5】図5は、複数の異なる浮力体の浮島ブロック体を複数連結した斜視図である。
【図6】図6は、浮島ブロック体を連結して造成した舟形の多目的浮島に、水車(タービン翼)と推進器を配置した平面図である。
【図7】図7は、水車の構成部材の図である。
【図8】図8は、図6の立面図である。
【図9】図9は、図8の一部の拡大図である。
【図10】図10は、移動と定位置保持ができる複数の多目的浮島を寄せて、移動と定位置保持が可能な空港とした概要の平面図である。
【図11】図11は、浮島ブロック体を構成する浮力体を複数の空洞の柱状とした平面図である。
【図12】図12は、図11の立面図である。
【図13】図13は、図11、図12に記載の角柱の位置を浮力体の正面に向かって菱形となるように配置した平面図である。
【図14】図14は、図13の立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
多数の浮島ブロック体を、間隔をおいて連結して大面積の多目的浮島を造成する場合には、海流の質量に耐える浮島構造が必要であり、また、流速の強い海域での発電システムでは特に、構造耐力が求められる。浮島構造と、それを支える浮力体構造を、アルミ船などで実績のあるアルミニウム合金にすることで、構造耐力計算できる浮島構造となった。それにより、多目的浮島は航行と定位置保持を可能とするための自力発電による推進器の配置も可能となった。
【実施例1】
【0024】
図1は、多目的浮島を構成する浮島ブロック体の海面上に位置する構造体と、その構造体を海中から支える浮力体の内部構造を、図3に記載のアルミニウム合金6063の押出形材で構築したものである。浮力体の外殻はアルミニウム合金5083の板材とした。
【実施例2】
【0025】
図3は、複数の浮島ブロックを連結していく複数の連結部材を示すものであるが、海洋での作業は部材が軽く、強度も必要であり、これも、図3に示すアルミ建築構造部材で製作した。また、図1に記載のアルミ構造柱の内周に設けた12と、図5に記載の12d、および図4の梁受け部材が設けられた12bの両端にあり、25の鎹のような働きをする連結部材は、それぞれの機能が集合した連結装置である。それにより、ブロック間の連結基盤は強固になった。
【実施例3】
【0026】
浮島水車発電システムの構築は、前記実施例2による浮島の造成後、図7、図8、図9に示す水車翼を浮島に取り付け、公知の発電機と推進器で移動と定位置保持が可能な浮島による水車発電システムとなる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
浮島水車発電による電力は、海底ケーブルでの配電が困難であり、水素に形を変えて消費されるが、水素ガス燃料でガスタービンで発電もされている現状では、利用される可能性はある。
【符号の説明】
【0028】
1…浮島ブロック体
2…浮島構造体
3…浮島浮力体
4…アルミ構造柱
5…アルミ構造支持部材
6…浮力体突き出し柱
7…浮力体外殻
8…浮力体内部構造部
9…外殻当て板
10…溶接部
11…浮力体突き出し柱脚部
12…ブロック梁
17…梁受け部材
18…発泡スチロール浮力体
19…アルミハニカム板浮力体
20…アルミ梁受け付き梁
21…梁付け梁受け部材
22…アルミ建築構造材。継ぎ手
23…連結固定部材の被連結部材
24…ブロック間位置部材
25…連結鎹形部材
26…梁受け部材連結継ぎ手装着部
27…船形浮島
28…船首
29…船尾
30…右舷
31…左舷
32…水車(タービン翼)
33…推進器
34…喫水線
35…タービン金属翼
36…水車翼
37…水車軸
38…長方形浮島
39…多目的浮島
40…浮島押し出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上の構造部とそれを支える浮力体からなる浮島ブロック体の複数体の連結により造成される浮島上に、海中から水車翼のタービン軸を突き出して発電する浮島水車発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の浮島ブロックを構成する海上構造部とそれを支える浮力体および連結部材。
【請求項3】
請求項1に記載の浮島ブロックの海上構造部と浮力体と連結部材の主要構造部がアルミニウム合金押出形材で構築された浮島。
【請求項4】
請求項1に記載の浮島ブロック体を相対する浮島ブロック体と仮連結した後に、その連結部に固定部材を嵌めこむための開口部材が設けられた浮島ブロック体の構造部と、複数の浮島ブロック体を連結するための連結部材、およびその固定部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−67269(P2013−67269A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207398(P2011−207398)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(593184400)エバリス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】