説明

移動体の存在判定装置及びこれを用いた安全運転支援システム

【課題】所望の移動体の存在判定を迅速かつ高精度に行うことができる移動体の存在判定装置及びこれを用いた安全運転支援システムを提供する。
【解決手段】移動体の存在を判定するにあたり、当該移動体を検出した路側移動体検出装置2の移動体検出装置情報に示される検出性能に応じて、移動体の存在判定に用いる存在確定閾値を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばセンサ情報や通信情報に基づいて接近車両に対する注意喚起を行う安全運転支援システムに使用される移動体の存在判定装置及びこれを用いた安全運転支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器や車載センサ装置を用いた車載システムに関する技術が各種提案されている。この中に、自車両に搭載されたセンサ装置で取得された自車両センサ情報や、車々間通信又は路車間通信等を用いて提供される通信情報に基づいて、接近車両に対する注意喚起を行う安全運転支援システムがある。
【0003】
例えば、特許文献1は、上述のような安全運転支援システムに使用する障害物認識装置を開示する。この装置では、自車両に搭載された検出手段又は自車両の外部に設けた検出手段で障害物を検出し、この検出回数等に重み付けをした計算式を用いて、障害物の認識精度の相対的な大小を判定することにより、必要となる安全制御を選択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−176372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際の道路に設置された障害物センサ装置(移動体検出装置)の検出可能範囲は限定されており、また、センサ装置の設置条件やその製造メーカーによって障害物の検出率等の検出性能が異なる。
従来では、このような実際のセンサの設置環境やセンサ装置の個体差に伴う検出性能のばらつきを考慮していない。このため、安全制御の開始に必要な障害物の位置や速度等を示す障害物検出情報が提供されず、障害物となる車両(移動体)が、実際には存在する場合であっても、存在しないと判定される可能性がある。
例えば、移動体の検出回数Nに関する閾値Fで安全制御対象の移動体の存在を確定する際、この閾値Fに2を設定すると(誤検出を防ぐために複数回の検出を求めた場合)、特許文献1では、上述の実状が考慮されず、閾値Fがこの値に固定される。
このため、路側移動体検出装置が、その性能や設置環境によって、自身の検出エリアで移動体の存在を1回のみ検出(検出回数N=1)した場合は、常にN<Fとなり、実際は移動体が存在しているにも関わらず移動体の存在が確定されない。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、移動体を検出する移動体検出装置の性能に応じて移動体の存在判定に用いる閾値を変更することにより、所望の移動体の存在判定を迅速かつ高精度に行うことができる移動体の存在判定装置及びこれを用いた安全運転支援システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る移動体の存在判定装置は、検出装置で検出された移動体に関する移動体情報を取得する移動体情報取得部と、検出装置の検出性能を示す検出装置情報を取得する検出装置情報取得部と、移動体情報取得部が移動体情報を取得した頻度である移動体の検出回数を存在確定閾値と比較して、この比較結果に応じて当該移動体情報に関する移動体の存在を判定する判定部と、判定部の判定で移動体の存在が確定されると、当該移動体の存在を示す移動体存在情報(例えば、移動体の車種(2輪又は普通車、大型普通車等)、位置(移動体の緯度・経度又は交差点からの相対距離等)、速度)を出力する情報出力部とを備え、判定部が、移動体の存在を判定するにあたり、当該移動体を検出した検出装置の検出装置情報に示される検出性能に応じて存在確定閾値を更新するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、移動体の存在を判定するにあたり、当該移動体を検出した検出装置の検出装置情報に示される検出性能に応じて、移動体の存在判定に用いる存在確定閾値を更新するので、所望の移動体の存在判定を迅速かつ高精度に行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による安全運転支援システムの概要を示す図である。
【図2】実施の形態1による移動体の存在判定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図2中の判定部による動作の流れを示すフローチャートである。
【図4】移動体存在確定閾値F2の算出事例を説明するための図である。
【図5】移動体存在確定閾値F2の算出事例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による安全運転支援システムの概要を示す図である。図1において、この安全運転支援システムは、車載安全制御装置(安全制御装置)1、路側移動体検出装置(検出装置)2及び路側通信装置(通信装置)3を備える。車載安全制御装置1は、車両4に搭載され、安全制御の対象となる他の車両等の移動体の存在を示す移動体存在情報に基づいて自車両の安全制御(警報を鳴らす等)を行う装置である。実施の形態1による移動体の存在判定装置は、車載安全制御装置1とは別個な装置として適用するか、若しくは、車載安全制御装置1の1つの機能として適用される。
【0011】
路側移動体検出装置2は、道路に設置(路側)され、当該道路を走行する車両等の移動体に関する移動体情報(例えば、移動体の速度、位置等)を検出する装置であり、例えば画像センサや、超音波センサ、光学センサ等をセンサ部とした装置によって実現される。
【0012】
路側通信装置3は、路側移動体検出装置2と有線又は無線による通信が可能であるとともに、車載安全制御装置1との間で無線通信が可能な装置であり、路側移動体検出装置2から移動体情報を受信すると、当該移動体情報とともに当該路側移動体検出装置2の性能を示す移動体検出装置情報(例えば、検出範囲、検出周期、検出率、検出時刻等の路側移動体検出装置2の性能を示す所定の項目の情報)を車載安全制御装置1へ送信する。
また、路側通信装置3は、路側移動体検出装置2から移動体情報を受信していない場合は、一定周期(例えば、100ミリ秒間隔)で移動体検出装置情報を車載安全制御装置1へ送信する。
【0013】
なお、路側通信装置3は、例えば、自身に予め登録されている通信相手の路側移動体検出装置2における検出範囲や検出周期、検出率等の情報、当該路側移動体検出装置2から移動体情報を受信する際に取得した検出時刻等を用いて、当該路側移動体検出装置2の性能を示す所定の項目に該当する情報を設定することにより、当該路側移動体検出装置2の移動体検出装置情報を生成する。
また、路側移動体検出装置2から移動体検出装置情報が路側通信装置3に提供される場合は、路側通信装置3は、移動体検出装置情報を車載安全制御装置1へ送信してもよい。
また、路側移動体検出装置2から提供された移動体検出装置情報の内容を、自身に予め登録されている通信相手の路側移動体検出装置2における検出範囲や検出周期、検出率等の情報、当該路側移動体検出装置2から移動体情報を受信する際に取得した検出時刻等を用いて当該路側移動体検出装置2の性能を示す所定の項目に該当する情報を編集した後、車載安全制御装置1へ送信してもよい。
【0014】
実施の形態1による移動体の存在判定装置は、路側通信装置3から車載安全制御装置1へ送信された移動体検出装置情報及び移動体情報を、車載安全制御装置1に先だって受信し、この移動体検出装置情報及び移動体情報に基づいて安全制御対象となる移動体の存在を判定して、安全制御対象となる移動体の存在を示す移動体存在情報を車載安全制御装置1へ出力する。なお、車両4に搭載される車載移動体検出装置がある場合は、この車載移動体検出装置で検出された移動体情報も考慮して、安全制御対象となる移動体の存在が判定される。
【0015】
図2は、実施の形態1による移動体の存在判定装置の構成を示すブロック図であり、図1中の車載安全制御装置1に対して適用した場合の構成例を示している。図2において、移動体の存在判定装置100は、移動体情報取得部101、判定部102、移動体存在情報出力部(情報出力部)103、移動体検出装置情報取得部(検出装置情報取得部)104及び通信装置120を備える。
【0016】
移動体情報取得部101は、車載移動体検出装置110から移動体情報を取得したり、通信装置120を介して移動体情報を取得する構成部である。判定部102は、移動体情報及び移動体検出装置情報に基づいて安全制御対象となる移動体の存在を判定する構成部である。
【0017】
移動体存在情報出力部103は、判定部102からの出力要求に応じて、この判定部102で存在が確定された安全制御対象の移動体に関する移動体存在情報を安全制御装置130へ出力する構成部である。移動体検出装置情報取得部104は、装置外から移動体検出装置情報を取得する構成部であり、例えば図1中の路側通信装置3を介して路側移動体検出装置2の移動体検出装置情報を取得する。
【0018】
車載移動体検出装置110は、自車に設けられ、自車周辺の移動体を検出する装置であり、前方車間距離検出装置等が挙げられる。通信装置120は、路車間通信又は車々間通信を行う装置であり、例えば、図1中の路側通信装置3との間で路車間通信を行い、当該路側通信装置3を介して取得した移動体情報及び移動体検出装置情報を移動体の存在判定装置100へ送信する。
【0019】
安全制御装置130は、移動体の存在判定装置100から入力した安全制御対象の移動体に関する移動体存在情報に応じて安全制御を行う装置であり、図1中の車載安全制御装置1に相当する。例えば、車載の警報装置や警告情報を表示する表示装置等により実現される。安全制御としては、移動体存在情報に応じて警報を鳴らす等の処理が考えられる。
【0020】
次に動作について説明する。
図3は、図2中の判定部102による動作の流れを示すフローチャートである。この図3に沿って、この発明の特徴的な構成である判定部102による判定処理の詳細を説明する。
先ず、判定部102は、移動体情報取得部101が移動体情報を取得しているか否かを判定する(ステップST1)。ここで、移動体情報を取得していなければ(ステップST1;NO)、移動体情報取得部101が移動体情報を取得するまで上記判定を繰り返す。
【0021】
また、移動体情報を取得している場合(ステップST1;YES)、判定部102は、移動体情報取得部101から直ちに当該移動体情報を入力するとともに、安全制御の対象となる移動体の存在を判定する際に用いる、移動体存在確定閾値Fに所定の初期値F1を代入する(ステップST2)。なお、移動体存在確定閾値Fは、移動体が検出された回数(移動体情報取得部101で移動体情報が取得された頻度)に関する閾値であり、この実施の形態1では、安全制御対象の移動体の存在がその検出回数に基づいて判定される。
【0022】
次に、判定部102は、取得した移動体情報に対応する移動体検出装置情報(取得した移動体情報を検出した路側移動体検出装置2の性能を示す移動体検出装置情報)を、移動体検出装置情報取得部104から取得したか否かを判定する(ステップST3)。なお、移動体検出装置情報としては、移動体の検出範囲Lw、移動体の検出周期T、検出率Pfが挙げられる。
【0023】
移動体検出装置情報を取得していない場合(ステップST3;NO)、判定部102は、ステップST4の処理を飛ばして、ステップST5の処理へ移行する。一方、移動体検出装置情報を取得している場合(ステップST3;YES)、判定部102は、算出事例1〜3として後述する方法を用いて、取得した移動体検出装置情報から新たな閾値F2を算出し、移動体存在確定閾値Fに代入する(ステップST4)。
【0024】
ステップST5において、判定部102は、移動体の検出回数N(移動体情報取得部101から当該移動体の移動体情報を取得した回数)を示すカウンタ(図2において不図示)のカウント値(検出回数N)に「1」を加算する。この後、判定部102は、上記カウンタでカウントされた検出回数Nと移動体存在確定閾値Fとを比較して、N≧Fであるか否かを判定する(ステップST6)。
【0025】
N≧Fである場合(ステップST6;YES)、判定部102は、安全制御対象の移動体であると判断し、この移動体の存在を示す移動体存在情報の出力を、移動体存在情報出力部103に要求する(ステップST7)。また、N<Fである場合(ステップST6;NO)、安全制御対象の移動体の存在が確定されず、判定部102は、ステップST1の処理に戻る。
【0026】
なお、上述した一連の処理は、典型的には比較的短い時間(例えば100msec以下の時間)のサイクルで繰り返し行われる。
【0027】
特許文献1に開示される従来の技術では、例えば誤検出を防ぐために移動体の検出回数Nに関する閾値FをF=2とした場合、閾値Fがこの値に固定される。このため、路側移動体検出装置2が、その性能や設置環境によって自身の検出エリアで移動体の存在を1回のみ検出(検出回数N=1)した場合では、常にN<Fとなり、実際は移動体が存在しているにも関わらず移動体の存在が確定されない。
【0028】
これに対し、この実施の形態1では、移動体存在確定閾値Fの値が移動体検出装置情報に応じて変更され(ステップST4)、変更後の移動体存在確定閾値Fと移動体検出回数との比較結果から安全制御対象の移動体の存在が判定され、移動体存在情報の出力要求が行われる(ステップST7)。つまり、ステップST2で閾値FをF1=2に設定したとしても、ステップST4で閾値FがF2=0に変更されて、N≧Fになることから、路側移動体検出装置2が、移動体を1回のみ検出した場合であっても移動体の存在を確定することができる。
【0029】
このように、移動体検出装置の性能に応じた移動体の存在判定を行うことで、より迅速かつ安定した安全制御を行うことが可能である(例えば、従来の技術のように、移動体が存在するのに存在しないと判定されることはない)。
【0030】
次に、図3で示したステップST4における移動体存在確定閾値F2の算出事例を説明する。
(1)算出事例1
算出事例1では、路側移動体検出装置2の検出範囲(検出エリア)に移動体が存在するか否かを判定する際、移動体が当該検出範囲を所定の速度で通過する間に期待される検出回数に対して、存在を判定するに足ると推定される所定の検出回数の割合(存在確定係数α)を積算することで、移動体存在確定閾値F2を求める。
【0031】
具体的には、検出範囲内の区間における所定の移動体の想定移動速度の上限値Vmax、検出範囲内の区間Lw、路側移動体検出装置2の検出周期T、検出率Pf(例えば、路側移動体検出装置2の検出精度をパーセンテージで表す。50%(Pf=0.5)の場合は、当該路側移動体検出装置2は、当該装置の仕様上において2回検出すべきところを1回だけ移動体を検出できることを示している。)、存在確定係数αを用いて、下記式(1)から閾値F2を算出する。ただし、路側移動体検出装置2の検出周期Tは、検出周期が無い場合(例えば、1回のみ移動体を検出する場合)、無限大(∞)として扱うものとする。この場合、F2≒0となる。なお、存在確定係数αとは、例えば、下記式(1)による移動体の存在を判定する閾値F2の計算結果に対する重み付け(傾き)を表す0以上の値である。α=0とした場合、路側通信装置3は、路側移動体検出装置2から移動体情報を受信した場合に閾値F2=0となり、常に移動体の存在判定(後述のステップST6のYES判定)となる。
F2={[(Lw/Vmax)/T]×Pf}×α (1)
【0032】
(2)算出事例2
算出事例2では、路側移動体検出装置2の検出範囲を複数に分割し、分割した検出範囲毎(以下分割検出範囲と呼ぶ)に移動体の検出回数をカウントし、分割検出範囲のそれぞれに対して異なる存在確定係数の値を与え、算出事例1と同様に移動体存在確定閾値F2を各々算出し、分割検出範囲毎の閾値F2と検出回数とを比較する。
【0033】
図3で示したステップST5では、路側移動体検出装置2の検出範囲全体に対する移動体の検出回数Nに対して移動体存在確定閾値F2を比較したが、実際は当該検出範囲全体が同じ検出精度(段落0031で前述した検出精度を参照)をもつことはない。
そのため、当該検出範囲が比較的広範囲に及び、当該検出範囲において検出精度が低い位置(例えば、移動体が存在しなくても、移動体の存在が検出される頻度が高い位置)が存在する場合、検出精度の低い位置で移動体を検出した回数が、ステップST5において検出回数Nに加算されてしまう。この結果として誤検出の回数が増え、ステップST6において移動体の存在が判定されやすくなる。
【0034】
そこで、図4に示すように路側移動体検出装置2の検出範囲200を複数の検出範囲N(図4の検出範囲1〜4)に分割し、分割検出範囲毎に移動体の検出回数N[0..m](m:検出範囲の分割数)をカウントする。この場合、分割検出範囲のそれぞれに対して異なる存在確定係数α[0..m]の値を与え、移動体存在確定閾値F2[0..m]を算出して、ステップST6にてN[0..m]と比較するようにしてもよい。
【0035】
ここで、図4に示す検出精度の低い分割検出範囲の存在確定係数αを大きくし、検出精度の良い分割検出範囲の存在確定係数αを小さくする。これにより、検出精度の低い分割検出範囲では、上記式(1)において移動体存在確定閾値Fが大きくなるため、N≧Fの条件が成立しにくくなり、結果として移動体の存在判定(ステップST6のYES判定)がされにくくなる。一方、検出精度の良い分割検出範囲では、上記式(1)において移動体存在確定閾値Fが小さくなるため、N≧Fの条件が成立しやすくなり、結果として移動体の存在判定(ステップST6のYES判定)がされやすくなる。
【0036】
αの値としては当該検出範囲に対して実験及び評価値から予め与えられた値を利用するか、もしくは、α=f(L[0..n],・・)として移動体の検出位置L[0..n]を引数とした計算式から求めるようにしてもよい。
【0037】
また、交差点に近い検出範囲に移動体が存在することを優先して判定したい場合等は、図5に示すように、交差点に近い位置で検出された移動体情報の存在確定係数αの値が高くなるように与えてもよい。この場合、交差点と検出範囲との相対的な位置関係は、上述の移動体検出装置情報に含まれていてもよい。
【0038】
例えば、移動体検出装置情報において、路側移動体検出装置2の検出範囲200が、交差点の特定の位置から所定の方向に対し、Ls離れた検出開始位置PsとLe離れた検出終端位置Peとに挟まれた領域として表現されている場合(Ls<Le)、検出開始位置Psに近い位置で検出された移動体が、交差点に近いものとして認識される。また、このとき、上記式(1)の検出範囲Lwは、Lw=Le−Lsとなる。
【0039】
(3)算出事例3
上記式(1)では、移動体が検出範囲を所定の速度で通過する際に期待される検出回数に対して、存在を判定するに足ると推定される所定の検出回数の割合(存在確定係数α)を積算することで、移動体存在確定閾値F2を求めていた。
しかしながら、上記式(1)では、算出に扱うパラメータが多いため、実際には利用しにくい。
【0040】
そこで、算出事例3は、例えば、所定の時間内(検出判定時間Ts)に期待される移動体の検出回数に対して時間存在確定係数βを積算することで、下記式(2)又は下記式(3)から移動体存在確定閾値F2を算出する。なお、時間存在確定係数βとは、下記式(2)又は下記式(3)による閾値F2の計算結果に対する重み付け(傾き)を表す0以上の値である。
F2=([Ts/T]×Pf)×β (2)
F2=([Ts/T])×β (3)
【0041】
検出判定時間Tsには、例えば、所定の速度で移動体が一定距離移動する時間、又は、ドライバーの認識時間などの安全制御上で移動体の情報出力を更新すべき値を利用する。
また、時間存在確定係数βの値には、検出判定時間Tsに対して実験及び評価値から予め与えられた値を利用するか、若しくは、β=f(Ts,・・)として、下記式(5)で表される関数f(x)に対して、Tsを引数とした計算式から求めてもよい。このとき、関数f(x)は、例えば、一般的な標準正規分布を表す下記式(4)に対して定数γを積算した下記式(5)を用いる。定数γ、期待値μ、分散値σは実験及び評価値から予め与えられた所定の値を用いる。

【0042】
これにより、上記式(1)と比較して、上記式(2)及び上記式(3)は、より簡易な式となり、利用しやすい。また、上記式(3)に関しては、移動体検出装置情報に含まれる検出周期Tのみで適用できる。時間存在確定係数βの値は、当該検出範囲に対して実験及び評価値から予め与えられた値を利用するか、若しくは、β=f(L[0..n],・・)として、移動体の検出位置L[0..n]を引数とした計算式から求めてもよい。
【0043】
また、時間存在確定係数βには、上述の移動体存在確定閾値F2の算出事例2における存在確定係数αと同様に、分割検出範囲毎の検出精度毎、又は、交差点と検出範囲の相対的な位置関係に応じて、値を与えてもよい。
【0044】
なお、上述した説明では、移動体の存在判定装置100が、移動体検出装置情報取得部104を用いて移動体検出装置情報を取得する場合を示したが、車載移動体検出装置110から、当該車載移動体検出装置110の移動体検出装置情報を取得するようにしてもよい。
【0045】
同様に、上述した算出事例1では、想定移動速度の上限値Vmaxとして、予め理論的あるいは実験的に求められた所定の値を設定しているが、例えば、路側移動体検出装置2が設置されている道路の規制速度(法定速度)を通信装置120から取得して利用してもよい。
【0046】
さらに、上述した説明では、移動体存在情報出力部103を用いて安全制御装置130に移動体の有無を示す移動体存在情報を出力する場合を示したが、当該移動体存在情報に対して、検出した移動体の位置及び速度、又は、この移動体を検出した移動体検出装置の移動体検出装置情報を付加して出力してもよい。これにより、安全制御装置130が、存在判定された移動体の速度と位置を取得でき、例えば、当該移動体の速度が一定値以上である場合等に安全制御を行うことができる。
【0047】
以上のように、この実施の形態1によれば、移動体を検出する路側移動体検出装置2の検出性能に応じて移動体の存在判定に用いる閾値Fを変更することにより、所望の移動体の存在判定を迅速かつ高精度に行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 車載安全制御装置(安全制御装置)、2 路側移動体検出装置(検出装置)、3 路側通信装置(通信装置)、4 車両、100 移動体の存在判定装置、101 移動体情報取得部、102 判定部、103 移動体存在情報出力部(情報出力部)、104 移動体検出装置情報取得部(検出装置情報取得部)、110 車載移動体検出装置(検出装置)、120 通信装置、130 安全制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出装置で検出された移動体に関する移動体情報を取得する移動体情報取得部と、
前記検出装置の検出性能を示す検出装置情報を取得する検出装置情報取得部と、
前記移動体情報取得部が移動体情報を取得した頻度である移動体の検出回数を存在確定閾値と比較して、この比較結果に応じて当該移動体情報に関する移動体の存在を判定する判定部と、
前記判定部の判定で移動体の存在が確定されると、当該移動体の存在を示す移動体存在情報を出力する情報出力部とを備え、
前記判定部は、前記移動体の存在を判定するにあたり、当該移動体を検出した検出装置の検出装置情報に示される検出性能に応じて、前記存在確定閾値を更新することを特徴とする移動体の存在判定装置。
【請求項2】
判定部は、検出装置情報に示される、検出装置の検出範囲内の区間、前記検出装置で検出が行われる検出周期、及び前記検出装置の単位時間あたりの検出率を用いて、前記検出範囲内の区間を移動体が所定の速度で通過する間に期待される検出回数を求め、当該検出回数に対して所定の存在確定係数を積算することにより、存在確定閾値を更新することを特徴とする請求項1記載の移動体の存在判定装置。
【請求項3】
判定部は、検出装置情報に示される検出装置で検出が行われる検出周期を用いて、所定の検出判定時間で期待される移動体の検出回数を求め、当該検出回数に対して所定の時間存在確定係数を積算することにより、存在確定閾値を更新することを特徴とする請求項1記載の移動体の存在判定装置。
【請求項4】
判定部は、検出装置情報に示される検出範囲内の区間を複数に分割し、分割した区間毎に移動体の検出回数をカウントし、分割した各区間に存在確定係数又は時間存在確定係数を与えて存在確定閾値をそれぞれ更新することを特徴とする請求項2または請求項3記載の移動体の存在判定装置。
【請求項5】
車両の安全運転を支援する安全運転支援システムにおいて、
移動体を検出する検出装置と、
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の移動体の存在判定装置と、
前記検出装置と前記移動体の存在判定装置との双方と通信接続し、前記検出装置が検出した移動体に関する移動体情報及び前記検出装置の検出装置情報を前記移動体の存在判定装置へ送信する通信装置と、
前記車両に設けられ、前記移動体の存在判定装置からの移動体存在情報に応じて自車両における所定の安全制御を行う安全制御装置とを備えた安全運転支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−244394(P2010−244394A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93956(P2009−93956)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】