移動体の距離測定装置
【課題】距離測定中に、距離測定装置を搭載した移動体と、その移動体周囲の物体(被測定物)との距離が時々刻々変化する事態が発生しても、周囲物体までの距離をより安定的に測定可能とする。
【解決手段】車両MMの外方に向けて、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光すると共に、予め設定した撮像領域内に位置する上記投光したパルス光を撮像し、撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する。そして、抽出したパルス光上端のエッジ部を検出して、その検出したエッジ部と車両MMとの距離を算出する。
【解決手段】車両MMの外方に向けて、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光すると共に、予め設定した撮像領域内に位置する上記投光したパルス光を撮像し、撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する。そして、抽出したパルス光上端のエッジ部を検出して、その検出したエッジ部と車両MMとの距離を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体周囲の物体との距離を測定するために、移動体に搭載される距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
距離測定装置としては、例えば特許文献1に記載の装置がある。この装置では、静止した基線長を有する一対の発光素子と受光素子を使用して、静止した被測定物までの距離および方向を三角測量方式により検出する。特許文献1に記載の装置では、具体的には、トロイダルレンズにより集光されたシートビームを複数回パルス発光させ、発光のタイミングに同期して受光素子から受光位置(受光位置観測結果の時間平均)を抽出する。そして、シートビームの照射方向と、反射光の受光素子への入射方向と、発光素子と受光素子の基線長とに基づいて被測定物までの距離を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−157718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、静止した被測定物と静止した光学デバイスとの間であって、その距離の変化が発生しないものを距離測定する。しかし、この光学デバイスを移動体に搭載して距離測定を実施すると、複数回のパルス発光の間に、被測定物と光学デバイスとの間で距離の変化が起こる結果、的確にパルス発光を抽出できず、正確な距離が測れないおそれがある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、距離測定中に、距離測定装置を搭載した移動体と、その移動体周囲の物体(被測定物)との距離が時々刻々変化する事態が発生しても、周囲物体までの距離をより安定的に測定可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、移動体に搭載した投光部から、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光すると共に、予め設定した撮像領域内に位置する上記投光したパルス光を撮像し、撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する。そして、抽出したパルス光上端のエッジ部を検出して、その検出したエッジ部と移動体との距離を算出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を使用することで、距離測定中に走行体と被測定物との相対距離が変化して例えば被測定物の位置が上下に相対変位しても、撮像した画像間において発光領域の重なりが確保される。この結果、パルス光を頑健に検出することができる。
また、使用するパルス光は、横方向(例えば水平方向)に延在した発光領域を有するので、パルス光の照射領域と非照射領域の境界を、横方向に沿って位置するパルス光の上端エッジとして検出される。このため、従来公知のシートビームを用いた三角測量方式による距離計測が可能となり、本装置を搭載した移動体と被測定物との間の距離をより安定して測ることができる。
以上のように、距離測定中に、距離測定装置を搭載した移動体と、その移動体周囲の物体(被測定物)との距離が時々刻々変化する事態が発生しても、周囲物体までの距離をより安定的に測定可能とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る車両を示す図である。
【図2】領域光の投光部の例を示す図である。
【図3】距離測定制御部の構成を示す図である。
【図4】同期検波の原理を説明する図である。
【図5】BPSKによる同期検波原理を説明する図である。
【図6】同期検波のフローチャート図である。
【図7】上端エッジの検出例を説明する図である。
【図8】光切断法の説明図である。
【図9】相対距離が変化することにより検波できなくなることの説明図である。
【図10】投光パターンの説明図である。
【図11】複数パターンの照射についての説明図である。
【図12】撮像部の視軸の俯角による距離分解能の違いの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、距離測定装置を搭載する移動体として、道路や床などの走行路に沿って移動する車両MMを例にして説明する。
また本実施形態では、距離測定方向として車両前方に位置する被測定物との距離を測定する場合で説明する。もちろん、車両後方や側方に位置する被測定物との距離を測定可能になるように、後述の撮像部12及び投光部11を配置しても良い。
【0009】
(構成)
本実施形態の距離測定装置は、対象とする車両MMに搭載されている。その距離測定装置は、図1に示すように、投光部11、撮像部12、及び距離測定制御部20を備える。
本実施形態の投光部11は、図1に示すように、車両MMの前部に設けられている。その投光部11は、車両MM前方に向けてパルス光を投光(照射)可能となっている。本実施形態の投光部11は、プロジェクタヘッドライトやリフレクタを備えたヘッドライトからなる。そして、その投光部11からの光は、上下に幅を持って水平方向に延びた発光領域を形成する配光特性を有し、且つ予め定められた投光パターンで投光される。上記水平方向は、若干左右に傾斜していても良い。そして、上記水平方向に形成された投光は被測定物SMに照射され、被測定物SM上に照射領域と非照射領域の輝度境界を鮮明に映し出す配光を実現する。
【0010】
なお、投光する光として、可視光、赤外光、紫外光を例示できる。
上記投光の発光領域は、車幅方向に沿って水平方向に延在する上端を有する。そして、その発光領域の上下幅は、撮像する撮像周期等に基づき、連続して撮像する画像間において発光領域同士が確実に重なりが生じるだけの大きさを有する。例えば、発光領域の下端部は後述の撮像領域よりも下方に位置するように設定する。
【0011】
上記投光パターンを実現する投光部11の構成例について、図2に基づき説明する。図2(a)は反射鏡11a(リフレクタ)を使用して、発光領域光を形成する場合の投光部11の断面図である。このとき、図2(b)に示すように、前方に投光レンズ11cを配置して、領域光の投光方向や形成される発光領域を調整するようにしても良い。この投光部11の構造は、一般的な車両MMに搭載されるヘッドライトと同じ構造である。すなわち、光源11b位置と反射鏡11aの形状により、目的とする配光パターン(発光領域)を形成することが可能である。また、複数の反射鏡11aを用い、光源11bからの光を擬似集光し、擬似集光された位置を仮想光源11bとして、2次反射鏡11aを構成することにより、これら領域光を形成することも可能である。
【0012】
また撮像部12は、上記投光部11よりも上側位置において車両MMに設けられて、車両MM前方に予め設定した撮像領域(撮像フレーム)内の像を撮像する。この撮像部12は、CCDやCMOS等の撮像装置(カメラ)であり、一般的な画像を取得するとともに、投光部11により投光された照射光の被測定物SMからの反射光も併せて受光する。上記撮像領域(撮像フレーム)は固定でも良いし、その撮像領域(撮像フレーム)の位置を移動若しくは領域の大きさを変更可能となっていても良い。また、撮像物12は、投光部11から照射される光の領域に感度を有する。
【0013】
また、距離測定制御部20は、図3に示すように、検波部13、検波制御部14、エッジ検出部15、及び距離算出部16を備える。
検波部13は、撮像部12が予め設定した撮像周期で取得した2以上の画像を参照し、その画像中の画素から、投光部11から照射(投光)されるパルス光に同期した光を抽出する。すなわち、検波部13は、投光部11から照射されたパルス光に同期して撮像された画像からパルス光を抽出するための検波処理を行う。
【0014】
検波制御部14は、投光部11の光源11bをパルス点灯する際の点灯および消灯時間の長さを、PWM制御などで制御すると共に、投光部11からの投光に同期するように、撮像部12による撮像タイミングを決定する。また、検波制御部14は、検波部13に対し、検波処理に使用する搬送波(キャリア周波数)の情報を出力する。
エッジ検出部15は、検波部13で抽出されたパルス光の画像(照射光画像)から、当該パルス光の上端エッジを検出する。
【0015】
距離算出部16は、三角測量の原理に基づき、投光部11からのパルス光の上端エッジの照射方向Hと撮像部12の撮像の視軸Pとがなす角度、および投光部11や撮像部12の設置位置などのレイアウトとから、エッジ部検出部15が検出し特定した上記エッジ上の各画素について、車両MMにおける予め設定した位置(例えば車両重心点)に対する相対距離を算出する。算出した相対距離は、例えば、測定した相対距離を必要とする先行車追従制御部などのその他の制御部に出力する。
【0016】
ここで、上記距離測定制御部20に対し検波制御部14を設けた場合を例示しているが、撮像部12が検波制御部14の処理を実施しても良い。すなわち、予め定められた投光パターン(強度変調パターン)によって検波部13が照射光を抽出する構成において、撮像部12が検波制御部14の機能を有する構成とする。この場合には、撮像部12は、投光タイミング信号を投光部11に与えると共に、同期して撮像する。そして、検波部13は、撮像部12から出力される画像に基づき、予め定められた強度変調パターンによって、投光された照射光を、画像中に同期検波により特定する構成とする。
【0017】
次に、上記検波部13で行う検波処理について説明する。
投光された照射光のみを頑健に検出する処理として、同期検波が一般的に用いられる。本実施形態の検波部13では、その同期検波で処理を行う。すなわち、検波部13では、撮像部12によって撮像された画像における画像領域中の全画素について、この同期検波処理を施し、各画素で照射光の抽出を行う。
【0018】
ここで、同期検波の基本原理を図4に基づき説明する。図4では、変調方式としてAM変調(振幅変調)を例示している。送信信号をS(t)(tは時間)とする。そして、送信したい信号S(t)を送出する際に、高い周波数wを持つ搬送波(キャリア)を送信信号S(t)に重畳し、送信信号の振幅変調を行う。この搬送波は一般的には正弦波が用いられ、この場合には、送出される振幅変調信号は、S(t)sin(wt)となる。一方、受信側では、この振幅変調信号S(t)sin(wt)を受信し、この受信信号からS(t)を抽出する。このS(t)を復元する処理を同期検波という。振幅変調された受信信号からS(t)を抽出する場合は、例えば、まず、受信信号S(t)sin(wt)に対して搬送波sin(wt)を乗算する。結果、S(t)sin(wt)sin(wt)=S(t)(1−cos(2wt))/2が得られる。
【0019】
そして、搬送波信号を重畳した結果に対して、周波数が2wの成分を除去するLPF(低域通過フィルタ)を適用することにより、元信号S(t)を取り出す。ここで、上記説明のうち送出される振幅変調信号が、投光部11から投光される光の投光パターンに相当する。そして、検波部13が上記受信側での同期検波の処理を行うこととなる。
【0020】
次に、検波部13で実施される具体的な同期検波について、図5を参照して説明する。ここでは、位相偏移変調方式として、BPSK(Binary Phase Shift Keying:二位相偏移変調)を適用した例を示す。
ここで、BPSKは一回の位相変調(1シンボル)で1bitを伝送する。なお、送信する信号列(ビット列)をan、搬送周波数をfcとする。BPSKでは、1bit送信時に、1を送る場合は位相0(ゼロ)、0(ゼロ)を送る場合は位相πだけシフトした搬送波により信号を送信する。そして、送信信号(図5で「2)」で記載のBPSK信号)は、キャリア周波数fcにより強度変調をかけたパルス光として、投光部11から送出される。送出されたパルス光は、被測定物SMにより反射され、撮像部12により撮像される。撮像部12で撮影された画像は、各画素、搬送波が重畳され、図5の「3)」に示す搬送波重畳後の時系列信号が得られる。その後、低域通過フィルタにより、高周波成分を除去した結果について、正負の符号判定を行い、送信する信号列(ビット列)をanを復元する(図5の「4)」参照)。
【0021】
次に、本実施形態の距離測定制御部20のうち、検波部13で行う同期検波の処理について、図6を参照して説明する。
まず、ステップS1で、撮像部12が撮像した画像を取得する。
次に、ステップS2では、取得した画像に対し、検波制御部14が規定する搬送波を重畳する(図5の「3)」参照)。具体的には、画像中処理領域に設定された全画素に対して、取得タイミングに応じた位相における正弦波を掛け合わせる。
次に、ステップS3では、ステップS2で搬送波を重畳した画像をフレームメモリに蓄積する。同期検波処理に連続するnフレーム必要な場合は、nフレーム分のフレームメモリが確保される。このとき、例えば、リングバッファ構造により、最も古い画像データを最新の画像データにより更新する。
【0022】
ステップS4では、フレームバッファに蓄積された画像データから、現在処理する所定アドレス(i,j)(フレーム中の画素を特定するアドレス)の画素データの時系列データを読み出す。例えば、最新の時刻tに取得された画素位置(xi、yj)の画素データをI(xi、yj、t)とすると、同期検波に用いる最新n画素分のデータ、I(xi、yj、t)、I(xi、yj、t−1)、・・・、I(xi、yj、t−n+1)を読み出す。
そして、ステップS5にて、読み出した同期検波に用いる最新n画素分のデータに対しローパスフィルタを適用する。
【0023】
ステップS6では、ローパスフィルタを適用した後の画素の時系列データに対して、正負判定を行う。例えば、正ならば「1」、負ならば「0」を割り当て、送信した信号列(ビット列)anを復元する。
ステップS7では、処理領域中のすべての画素について、検波が終了したか否かを判定する。処理領域中のすべての画素について、検波が終了していれば、次のエッジ検出部15の処理に移行する。一方、処理領域中のすべての画素について、検波が終了していなければ、ステップS4に戻り、次の画素位置(例えば、(xi+1、yj))の時系列画素データを読出し、ステップS5以下の処理を繰り返す。
【0024】
次に、上記エッジ検出部15の処理について図7を参照して説明する。
エッジ検出部15は、検波部13で検出したnフレーム数の各領域光投光エリアS(t)、S(t+dt)・・・S(t+n・dt)の重複するエリアである照射エリアSd(t+n・dt)を、下記式に基づき演算する。
Sd(t+n・dt)=S(t)∩S(t+dt)・・・
・・・∩S(t+n・dt)
【0025】
若しくは、1フレーム目の画像とnフレーム目の画像とを使用して、下記式に基づき、重複する照射エリアSd(t+n・dt)を演算する。
Sd(t+n・dt)=S(t)∩S(t+n・dt)
ここで、検波部13による同期検波に必要なフレーム数をn、画像取得の撮像間隔をdtとする。そして、検波部13で抽出した領域光投光エリアについて、時刻tでの領域光投光エリアをS(t)、・・・、時刻t+n・dtでの領域光投光エリアをS(t+n・dt)とする。
【0026】
例えば、図9(a)に示す時刻tでの領域光投光エリアをS(t)、図9(b)に示す時刻t+n・dtでの領域光投光エリアをS(t+n・dt)とすると、nフレームの画像を使った同期検波により抽出される投光光の照射エリアSd(t+n・dt)は、下記式で表される領域として、時刻t+n・dtで取得された画像中に、その領域が特定される。
Sd(t+n・dt)=S(t)∩S(t+n・dt)
そして、エッジ検出部15は、この画像中に特定された領域Sd(t+n・dt)の上端エッジを検出することで、エッジE(t+n・dt)を得る(図7(d))。
そして、距離算出部16は、エッジ検出部15が検出したエッジEを使用し、光切断法の原理に基づき、対象物までの距離を測定する。
【0027】
ここで、距離算出部16が距離算出に使用する光切断法について図8を参照して説明する。
光切断法では、図8に示すように、対象とする物体にあらかじめ定められた位置からスリット光(細い帯状のパターン)を照射した状態で物体の像を入力する。3次元物体の形状データを得る場合は、このスリット光の照射方向を少しずつ変化させつつ対象物の像を入力することで、物体上に写ったスリット光の位置や形状と、スリット光照射装置の位置と方向により、三角測量の原理により物体表面の位置を検出する。 このように、照射した一本のスリット光が物体表面を切断する形となるため、光切断法と呼ばれている。なお、スリット光の作成方法として、シリンドリカルレンズを用いたもの、ポリゴンミラーによるもの、ライン状LEDによるものなどがある。
そして、本実施形態の距離算出部16では、エッジ検出部15が検出した上端エッジEを上記スリット光とみなして、上述の光切断法の原理に基づく処理を実施し、公知の方法にて距離測定を行う。
【0028】
(動作その他について)
まず本実施形態とは異なる、投光部11からの投光がスリット状の照射光(投光)の場合について説明する。
三角測量の原理に基づき被測定物SMまでの距離を計測する際に、検出頑健性を確保すべく同期検波を用いたとする。この場合、スリット状の照射光では、同期検波による照射光抽出時に被測定物SMとの相対距離が変化する。この結果、画像中における照射光位置がずれてしまうため、安定して照射光を画像中に検出することができないという問題がある。たとえば、図9(a)に示すように、連続する時刻tと時刻t+dtで被測定物SM(距離を計測する対象)と観測系(ここでは車両MMに搭載された撮像部12位置とする)の距離がDからD+dDに変化したとする。このとき、撮像部12画像中における投光された照射光上端エッジ位置は、時刻tで高さ方向y0の位置(図9(b))、時刻t+dtでは高さ方向(y0+dy)の位置(図9(c))となる。このとき、投光上端エッジを画像中に特定する検波処理は、画素単位で行われるため、投光光上端エッジが連続する時刻で異なる画像位置(ここでは、y0とy0+dy)に観測されることは、検波処理によって、画像から投光光を抽出することができないことを意味する(図9(d)参照)。すなわち、検波処理による安定した投光光抽出を実現するためには、連続する複数の画像(フレーム)において、投光光が画像中の同じ位置に観測されることが必須である。つまり、検波のためには連続する5フレームの画像が必要としたら、5フレーム連続して画像中の同じ位置に、投光パターンが形成されていることが必要である。しかしながら、車両MMに搭載された観測系は、車両MMの動きに応じて、また、被測定物SMの動きに応じて、その相対的な位置関係(距離等)が変化する。このため、図9に示すような、シート状の投光パターンでは、複数のフレームにわたって投光パターンが画像上の同一箇所に観測される保証が無く、投光パターンの検出が破綻する可能性が大きい。
【0029】
これに対し、本実施形態では、シート状の投光パターンを用いるのではなく、明暗が鮮明なパターンを上下に幅を有して水平方向に延在した発光領域となる領域光を用いる。これによって、本実施形態では、検波のために必要な複数フレームの各画像における領域光投光エリアSが相互に重複したエリアSdとなることから、車両MMと被測定物SMとにおける相対的な位置関係(距離等)が変化したとしても、一つのエッジを検出することが可能となる。
【0030】
例えば、シート状の投光パターンでは、図10(a)に示すように、横方向に延びるシート状の配向パターンが撮像部12で撮像される。一方、本実施形態では、図10(b)に示すように、シート状の上端エッジを有する上下に幅を有する領域光パターンとなる画像として、撮像部12で撮像される。
これによって、車両MMの姿勢変化や、被測定物SMの移動に伴う車両MMと被測定物SMの相対的な位置変化が生じる場合でも、重複した照射パターンが被測定物SM上の同一箇所に連続して観測できる結果、安定的に照射光を抽出することが可能である(図7参照)。
【0031】
現実的には、車両MMおよび被測定物SMの動きに制約を設けることはできないので、車両MMおよび被測定物SMが任意の動きをした場合でも安定した照射光抽出を実現するために十分な照射光領域を設定する必要がある。本実施形態に基づけば、安定して照射光抽出を実現可能となる。
例えば、検波部13により5フレーム(n=5)で、エッジ検出部15で使用する上記エッジE(t+n・dt)が得られるとし、画像を毎秒1000枚(1000fps)得る設定とする。この場合には、距離測定装置を搭載した車両MMと被測定物SMとの相対的な移動速度が100km/hである場合、実空間での相対距離変化量は、15cmとなる。これは、エッジE(t+n・dt)から算出される被測定物SMまでの距離誤差が15cmであることを意味する。すなわち、この場合には、被測定物SMとの相対距離が15mとしても、誤差1%であり、十分な距離計測精度が得られることが分かる。
【0032】
また、車両MMに搭載される距離測定装置にとって、水平方向など横方向に延在する発光領域を有する投光パターンを用いることは有益である。すなわち、車両MMに搭載される距離測定装置での測定結果は、車両MMの移動を支えるための環境認識にために通常使用される。把握しなくてはならない環境要件は、車両MMが移動できる領域の特定や障害物の検出等多岐に渡る。また、道路形状(凹凸)等を把握することも重要な要素である。これらを充足するためには、上述のように横方向(水平方向)に広がりを有するパターン光を用いることが効果的である。また、水平方向に広がりを有することで、1つの距離測定装置で広く移動平面および移動方向の空間を走査することができる。
ここで、投光部11は投光手段を構成する。撮像部12は撮像手投を構成する。検波部13は検波手段を構成する。エッジ検出部15はエッジ部検出手段を構成する。距離算出部16は距離算出手段を構成する。
【0033】
(本実施形態の効果)
(1)投光部11は、車両MMの外方に向けて、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光する。撮像部12は、予め設定した撮像領域内に位置する上記投光部11が投光したパルス光を撮像する。検波部13は、上記撮像部12が撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する。エッジ検出部15は、上記検波部13が抽出したパルス光上端のエッジ部を検出する。距離算出部16は、上記エッジ部検出部が検出したエッジ部と車両MMとの距離を算出する。
【0034】
時間変調をさせて横方向に延びる発光領域を有するパルス光を用いることにより、被測定物SMとの相対距離が変化しても、連続した画像において発光領域の重なりが確保される。この結果、パルス光を頑健に検出することができる。
また、パルス光は横方向に延在した発光領域を有するので、パルス光の照射領域と非照射領域との境界をエッジとして検出することで、シートビームを用いた三角測量方式による距離計測が可能となる。
以上から、本装置を搭載した車両MMと被測定物SMとの相対位置が時々刻々変化する場合であっても、本装置を搭載した車両MMと被測定物SMとの間の距離をより安定して求めることが可能となる。
【0035】
(変形例)
(1)上記投光部11として、発光方向が異なる複数の投光部11を備え、且つ、異なる投光方向毎に照射光(投光)の時系列パターンが異なるようにしても良い。
このように、パルス光を照射する投光部11を複数備えると、単一の投光部11だけでは検出できない領域を減らすことができる。また、各投光部11を固有の周波数(時間)変調によりパルス光を発光し、検波部13により投光光検出をするようにすれば、距離計測をする領域毎に、最適な距離計測周期(スループット)を設定することが可能となる。
このことは、例えば、遠方であれば時間を掛けた冗長的な検波により、確度高く照射光を抽出して、確実な障害物検出を行う。一方、近傍位置であれば、より短時間での距離計測を実現するなど、緊急度合いに応じた距離計測周期を設定し、その緊急度合いに応じて車両MMを制御することが可能となる。
【0036】
(2)例えば、上記複数の投光部11の少なくとも2つの投光部11の投光方向を上面視で同じ方向(例えば車両前方)となるように設定すると共に、各投光部11の発光領域の上端エッジ部を互いに上下にずらして投光する。上述のように照射光(投光)の時系列パターンが異なるので、複数の投光部11からの発光領域が重なっていても抽出は可能である。
この場合には、複数の発光領域のうち上端部が相対的に上側にある発光領域を使用して、被測定物SMまでの距離がある程度大きい場合であれば時間を掛けた冗長的な検波により、確度高く照射光を抽出し、確実な被測定物検出と被測定物SMまでの距離計測を行う。
【0037】
一方、比較的近傍に存在する被測定物SMに対しては、複数の発光領域のうち上端エッジ部が相対的に下側にある発光領域を使用して、より短時間でのその存在を検出するとともに、距離計測を実現するなど、緊急度合いや用途に応じた距離計測周期を設定し、その緊急度合いや用途に応じて本距離測定装置を搭載する車両MMを制御することが可能となる。
【0038】
この複数の投光部11を備えた場合の例を、図11に基づき説明する。図11では、投光部11を3つ備えた場合について記述している。そして、図11に示すように、3つの投光部11に対応した発光領域の上端エッジが互いに上下にずれている場合の例である。
ここで、第一の投光部11が照射(投光)する照射光の発光領域の上端エッジをE1、第二の投光部11が照射(投光)する照射光の発光領域の上端エッジをE2、第三の投光部11が照射(投光)する照射光の発光領域の上端エッジをE3とする。そして、E1、E2、E3をそれぞれ撮影した画像は、図10(b)のようになる。
【0039】
図11の例では、E1は、比較的遠方に存在する被測定物SMまでの距離を計測するために、車両MM前方で且つ路面に対して水平方向に照射光を照射する例を示している。また、E2は、例えば車両MM前方30m〜50m等、中距離程度の位置に存在する被測定物SMまでの距離を計測するために、照射方向は、E1に対して下方向に若干の俯角を有する照射方向としている。E3は、例えば車両MM前方5m〜30m等、比較的近い距離に存在する被測定物SMまでの距離を計測するために、照射方向は、E2に対してさらに下方向に俯角を有する照射方向としている。E1、E2、E3を形成する3つの照射光は、それぞれ、検波制御部14により独立に駆動される。つまり、検波部13により、E1、E2、E3のそれぞれが独立して検出出来ることを意味する。
【0040】
ここで、E1、E2、E3を形成する照射光を同じ発光タイミング、同じ時系列強度変調を施して駆動し、撮像部12の画像から照射光を抽出すると、本例では、E2およびE3は、E1の投光光と同化してしまい、E2およびE3を検出することができなくなる。したがって、E1、E2、E3を形成する照射光および検波は、発光タイミングおよび時系列強度変調を施すことが必要となる。
上述のように、E1、E2、E3の距離計測レンジは、それぞれの投光光照射方向の俯角を変化させることにより設定している。
【0041】
次に、E1、E2、E3を得る具体的な処理構造について説明する。E1は比較的遠方の被測定物SMまでの距離を計測するための照射光が形成するエッジである。被測定物SMまでの距離が大きいということは、投光部11から照射した光が被測定物SMに反射して撮像部12に入射する反射光強度は、E2やE3のそれに比較して極めて弱くなる。その強度は、被測定物SMまでの距離と被測定物SMの反射率により決まる。被測定物SMからの微弱な反射光を検出するためには、検波部13は時間冗長性を持たせた同期検波処理を行う必要がある。
【0042】
具体的には、前述したBPSKを例にすると、送信する信号列(ビット列)anを長くすることが求められる(例えば、10ビット等)。対して、E2およびE3は被測定物SMまでの距離が比較的小さいため、撮像部12に入射する被測定物SMからの反射光強度もある程度大きくなるので、検波部13に対する時間的な冗長性に対する制約は、E1の検出と比較して緩くなる。具体的には、前述したBPSKを例にすると、送信する信号列(ビット列)anを短くすることが可能となる(例えば、3〜5ビット等)。これは、同期検波処理および距離計測周期を短くすることができることを意味する。特に車両MMに搭載される距離測定装置においては、近傍に存在する障害物に対しては、その動きに応じて緊急的に回避することが求められるなど、比較的近傍の被測定物SMまでの距離計測は短時間で行うことが求められる。一方、比較的遠方に存在する被測定物SMは、自車両MMの移動に対する影響度合いが比較的弱く、つまり、確定的な情報として、その存在位置や動きを正確に短時間で把握する必要がないため、距離計測の安定性(頑健性)を確保する意味でも、時間冗長性を持たせ、確実な存在と距離を計測することが求められる。
ここでは、E1、E2、E3と、3つの照射光上端エッジについての距離計測を例示したが、投光器の数については、3つに限られるものではない。
【0043】
(3)検波のための変調として、位相変調、振幅変調、及び周波数変調のいずれかを使用すると良い。
投光部11による照射光(投光)と撮像部12による撮像タイミングは制御され、生成する元信号により検波部13で同期検波を行うことにより照射光抽出が行われる。この同期検波処理は、変調として、位相変調または振幅変調または周波数変調を使用することにより、複数システムによる混信の回避や検出頑健性の向上を実現することができる。
【0044】
(4)上記投光部11は、少なくとも赤外光または紫外光のいずれかを照射する光源11bを有し、上記撮像部12は、上記光源11bから照射される光領域に感度を有するようにすると良い。
投光部11に具備される発光源11bとして、赤外光または紫外光を使用すると、撮像部12に特定スペクトルの光を高効率で透過するフィルタを構成することにより、照射光をより頑健に検出することが可能となる。また、赤外光または紫外光を使用すると、パルス光照射によって他者の視認を妨げず、幻惑を防止することも可能となる。
【0045】
(5)上記撮像部12は、上記投光部11の上端エッジが照射される方向Hに対し上下にオフセットして配置すると共に、撮像部12の視軸Pが上記上端エッジの照射方向Hと交差するように、俯角若しくは迎角をつけて、当該視軸Pの向きを上下に傾けると良い。
一つの撮像部12で広域を観測するためには、通常、広角レンズが用いられる。一般的な広角レンズは、射影方式として等距離射影(いわゆるfθレンズ)を採用しており、周辺視野では中心視野に比べて分解能が劣る。このような広角レンズとの組合せにおいては、撮像部12視軸Pに俯角(仰角)を持たせ、分解能が高い領域を監視したい領域に向けて適切に設定することが好ましい。
【0046】
fθレンズとの組合せにおいて、撮像部12視軸Pに正の俯角がある場合には、被測定物SMまでの距離計測値の分解能が向上することを、図11に基づき説明する。なお、簡単のために、照射光の上端エッジが路面に対して水平である場合を仮定する。
撮像部12視軸Pに俯角が無い場合と有る場合をそれぞれ図12(a)、(b)に示す。図12で視軸P方向の画素位置をy(j)、y(j)の下に隣接する画素位置をy(j+1)とする。このとき、図12(a)に示すように、俯角(仰角)が0(ゼロ)[rad]の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は実空間距離での距離分解能dD(0)であるとする。一方、図12(b)に示すように、俯角(仰角)がα[rad]の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は実空間距離での距離分解能dD(α)であるとする。
【0047】
この場合、
dD(α)<dD(0)
が成立するので、撮像部12視軸Pに俯角(仰角)を持たせた場合、1画素の角度分解能に対する実空間分解能が高くなる。
このように、投光部11から照射される照射光の上端エッジを、撮像部12に対して横方向に延びる発光領域を形成し、撮像部12を上端エッジ照射方向に対して上下方向にオフセットして配置する。さらに、上端エッジ照射方向と撮像物の視軸Pが予め設定した角度をなすように当該視軸Pを設定することで、一般的な広角レンズ(魚眼レンズ)を使用した際においても、三角測量の原理に基づき距離計測する際の計測精度が向上する。
【符号の説明】
【0048】
11 投光部
11a 反射鏡
11b 光源
11c 投光レンズ
12 撮像部
20 距離測定制御部
13 検波部
14 検波制御部
15 エッジ検出部
15 エッジ検出部
16 距離算出部
E 上端エッジ
H 照射方向
MM 車両
SM 被測定物
S 領域光投光エリア
Sd 照射エリア
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体周囲の物体との距離を測定するために、移動体に搭載される距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
距離測定装置としては、例えば特許文献1に記載の装置がある。この装置では、静止した基線長を有する一対の発光素子と受光素子を使用して、静止した被測定物までの距離および方向を三角測量方式により検出する。特許文献1に記載の装置では、具体的には、トロイダルレンズにより集光されたシートビームを複数回パルス発光させ、発光のタイミングに同期して受光素子から受光位置(受光位置観測結果の時間平均)を抽出する。そして、シートビームの照射方向と、反射光の受光素子への入射方向と、発光素子と受光素子の基線長とに基づいて被測定物までの距離を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−157718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、静止した被測定物と静止した光学デバイスとの間であって、その距離の変化が発生しないものを距離測定する。しかし、この光学デバイスを移動体に搭載して距離測定を実施すると、複数回のパルス発光の間に、被測定物と光学デバイスとの間で距離の変化が起こる結果、的確にパルス発光を抽出できず、正確な距離が測れないおそれがある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、距離測定中に、距離測定装置を搭載した移動体と、その移動体周囲の物体(被測定物)との距離が時々刻々変化する事態が発生しても、周囲物体までの距離をより安定的に測定可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、移動体に搭載した投光部から、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光すると共に、予め設定した撮像領域内に位置する上記投光したパルス光を撮像し、撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する。そして、抽出したパルス光上端のエッジ部を検出して、その検出したエッジ部と移動体との距離を算出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を使用することで、距離測定中に走行体と被測定物との相対距離が変化して例えば被測定物の位置が上下に相対変位しても、撮像した画像間において発光領域の重なりが確保される。この結果、パルス光を頑健に検出することができる。
また、使用するパルス光は、横方向(例えば水平方向)に延在した発光領域を有するので、パルス光の照射領域と非照射領域の境界を、横方向に沿って位置するパルス光の上端エッジとして検出される。このため、従来公知のシートビームを用いた三角測量方式による距離計測が可能となり、本装置を搭載した移動体と被測定物との間の距離をより安定して測ることができる。
以上のように、距離測定中に、距離測定装置を搭載した移動体と、その移動体周囲の物体(被測定物)との距離が時々刻々変化する事態が発生しても、周囲物体までの距離をより安定的に測定可能とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る車両を示す図である。
【図2】領域光の投光部の例を示す図である。
【図3】距離測定制御部の構成を示す図である。
【図4】同期検波の原理を説明する図である。
【図5】BPSKによる同期検波原理を説明する図である。
【図6】同期検波のフローチャート図である。
【図7】上端エッジの検出例を説明する図である。
【図8】光切断法の説明図である。
【図9】相対距離が変化することにより検波できなくなることの説明図である。
【図10】投光パターンの説明図である。
【図11】複数パターンの照射についての説明図である。
【図12】撮像部の視軸の俯角による距離分解能の違いの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、距離測定装置を搭載する移動体として、道路や床などの走行路に沿って移動する車両MMを例にして説明する。
また本実施形態では、距離測定方向として車両前方に位置する被測定物との距離を測定する場合で説明する。もちろん、車両後方や側方に位置する被測定物との距離を測定可能になるように、後述の撮像部12及び投光部11を配置しても良い。
【0009】
(構成)
本実施形態の距離測定装置は、対象とする車両MMに搭載されている。その距離測定装置は、図1に示すように、投光部11、撮像部12、及び距離測定制御部20を備える。
本実施形態の投光部11は、図1に示すように、車両MMの前部に設けられている。その投光部11は、車両MM前方に向けてパルス光を投光(照射)可能となっている。本実施形態の投光部11は、プロジェクタヘッドライトやリフレクタを備えたヘッドライトからなる。そして、その投光部11からの光は、上下に幅を持って水平方向に延びた発光領域を形成する配光特性を有し、且つ予め定められた投光パターンで投光される。上記水平方向は、若干左右に傾斜していても良い。そして、上記水平方向に形成された投光は被測定物SMに照射され、被測定物SM上に照射領域と非照射領域の輝度境界を鮮明に映し出す配光を実現する。
【0010】
なお、投光する光として、可視光、赤外光、紫外光を例示できる。
上記投光の発光領域は、車幅方向に沿って水平方向に延在する上端を有する。そして、その発光領域の上下幅は、撮像する撮像周期等に基づき、連続して撮像する画像間において発光領域同士が確実に重なりが生じるだけの大きさを有する。例えば、発光領域の下端部は後述の撮像領域よりも下方に位置するように設定する。
【0011】
上記投光パターンを実現する投光部11の構成例について、図2に基づき説明する。図2(a)は反射鏡11a(リフレクタ)を使用して、発光領域光を形成する場合の投光部11の断面図である。このとき、図2(b)に示すように、前方に投光レンズ11cを配置して、領域光の投光方向や形成される発光領域を調整するようにしても良い。この投光部11の構造は、一般的な車両MMに搭載されるヘッドライトと同じ構造である。すなわち、光源11b位置と反射鏡11aの形状により、目的とする配光パターン(発光領域)を形成することが可能である。また、複数の反射鏡11aを用い、光源11bからの光を擬似集光し、擬似集光された位置を仮想光源11bとして、2次反射鏡11aを構成することにより、これら領域光を形成することも可能である。
【0012】
また撮像部12は、上記投光部11よりも上側位置において車両MMに設けられて、車両MM前方に予め設定した撮像領域(撮像フレーム)内の像を撮像する。この撮像部12は、CCDやCMOS等の撮像装置(カメラ)であり、一般的な画像を取得するとともに、投光部11により投光された照射光の被測定物SMからの反射光も併せて受光する。上記撮像領域(撮像フレーム)は固定でも良いし、その撮像領域(撮像フレーム)の位置を移動若しくは領域の大きさを変更可能となっていても良い。また、撮像物12は、投光部11から照射される光の領域に感度を有する。
【0013】
また、距離測定制御部20は、図3に示すように、検波部13、検波制御部14、エッジ検出部15、及び距離算出部16を備える。
検波部13は、撮像部12が予め設定した撮像周期で取得した2以上の画像を参照し、その画像中の画素から、投光部11から照射(投光)されるパルス光に同期した光を抽出する。すなわち、検波部13は、投光部11から照射されたパルス光に同期して撮像された画像からパルス光を抽出するための検波処理を行う。
【0014】
検波制御部14は、投光部11の光源11bをパルス点灯する際の点灯および消灯時間の長さを、PWM制御などで制御すると共に、投光部11からの投光に同期するように、撮像部12による撮像タイミングを決定する。また、検波制御部14は、検波部13に対し、検波処理に使用する搬送波(キャリア周波数)の情報を出力する。
エッジ検出部15は、検波部13で抽出されたパルス光の画像(照射光画像)から、当該パルス光の上端エッジを検出する。
【0015】
距離算出部16は、三角測量の原理に基づき、投光部11からのパルス光の上端エッジの照射方向Hと撮像部12の撮像の視軸Pとがなす角度、および投光部11や撮像部12の設置位置などのレイアウトとから、エッジ部検出部15が検出し特定した上記エッジ上の各画素について、車両MMにおける予め設定した位置(例えば車両重心点)に対する相対距離を算出する。算出した相対距離は、例えば、測定した相対距離を必要とする先行車追従制御部などのその他の制御部に出力する。
【0016】
ここで、上記距離測定制御部20に対し検波制御部14を設けた場合を例示しているが、撮像部12が検波制御部14の処理を実施しても良い。すなわち、予め定められた投光パターン(強度変調パターン)によって検波部13が照射光を抽出する構成において、撮像部12が検波制御部14の機能を有する構成とする。この場合には、撮像部12は、投光タイミング信号を投光部11に与えると共に、同期して撮像する。そして、検波部13は、撮像部12から出力される画像に基づき、予め定められた強度変調パターンによって、投光された照射光を、画像中に同期検波により特定する構成とする。
【0017】
次に、上記検波部13で行う検波処理について説明する。
投光された照射光のみを頑健に検出する処理として、同期検波が一般的に用いられる。本実施形態の検波部13では、その同期検波で処理を行う。すなわち、検波部13では、撮像部12によって撮像された画像における画像領域中の全画素について、この同期検波処理を施し、各画素で照射光の抽出を行う。
【0018】
ここで、同期検波の基本原理を図4に基づき説明する。図4では、変調方式としてAM変調(振幅変調)を例示している。送信信号をS(t)(tは時間)とする。そして、送信したい信号S(t)を送出する際に、高い周波数wを持つ搬送波(キャリア)を送信信号S(t)に重畳し、送信信号の振幅変調を行う。この搬送波は一般的には正弦波が用いられ、この場合には、送出される振幅変調信号は、S(t)sin(wt)となる。一方、受信側では、この振幅変調信号S(t)sin(wt)を受信し、この受信信号からS(t)を抽出する。このS(t)を復元する処理を同期検波という。振幅変調された受信信号からS(t)を抽出する場合は、例えば、まず、受信信号S(t)sin(wt)に対して搬送波sin(wt)を乗算する。結果、S(t)sin(wt)sin(wt)=S(t)(1−cos(2wt))/2が得られる。
【0019】
そして、搬送波信号を重畳した結果に対して、周波数が2wの成分を除去するLPF(低域通過フィルタ)を適用することにより、元信号S(t)を取り出す。ここで、上記説明のうち送出される振幅変調信号が、投光部11から投光される光の投光パターンに相当する。そして、検波部13が上記受信側での同期検波の処理を行うこととなる。
【0020】
次に、検波部13で実施される具体的な同期検波について、図5を参照して説明する。ここでは、位相偏移変調方式として、BPSK(Binary Phase Shift Keying:二位相偏移変調)を適用した例を示す。
ここで、BPSKは一回の位相変調(1シンボル)で1bitを伝送する。なお、送信する信号列(ビット列)をan、搬送周波数をfcとする。BPSKでは、1bit送信時に、1を送る場合は位相0(ゼロ)、0(ゼロ)を送る場合は位相πだけシフトした搬送波により信号を送信する。そして、送信信号(図5で「2)」で記載のBPSK信号)は、キャリア周波数fcにより強度変調をかけたパルス光として、投光部11から送出される。送出されたパルス光は、被測定物SMにより反射され、撮像部12により撮像される。撮像部12で撮影された画像は、各画素、搬送波が重畳され、図5の「3)」に示す搬送波重畳後の時系列信号が得られる。その後、低域通過フィルタにより、高周波成分を除去した結果について、正負の符号判定を行い、送信する信号列(ビット列)をanを復元する(図5の「4)」参照)。
【0021】
次に、本実施形態の距離測定制御部20のうち、検波部13で行う同期検波の処理について、図6を参照して説明する。
まず、ステップS1で、撮像部12が撮像した画像を取得する。
次に、ステップS2では、取得した画像に対し、検波制御部14が規定する搬送波を重畳する(図5の「3)」参照)。具体的には、画像中処理領域に設定された全画素に対して、取得タイミングに応じた位相における正弦波を掛け合わせる。
次に、ステップS3では、ステップS2で搬送波を重畳した画像をフレームメモリに蓄積する。同期検波処理に連続するnフレーム必要な場合は、nフレーム分のフレームメモリが確保される。このとき、例えば、リングバッファ構造により、最も古い画像データを最新の画像データにより更新する。
【0022】
ステップS4では、フレームバッファに蓄積された画像データから、現在処理する所定アドレス(i,j)(フレーム中の画素を特定するアドレス)の画素データの時系列データを読み出す。例えば、最新の時刻tに取得された画素位置(xi、yj)の画素データをI(xi、yj、t)とすると、同期検波に用いる最新n画素分のデータ、I(xi、yj、t)、I(xi、yj、t−1)、・・・、I(xi、yj、t−n+1)を読み出す。
そして、ステップS5にて、読み出した同期検波に用いる最新n画素分のデータに対しローパスフィルタを適用する。
【0023】
ステップS6では、ローパスフィルタを適用した後の画素の時系列データに対して、正負判定を行う。例えば、正ならば「1」、負ならば「0」を割り当て、送信した信号列(ビット列)anを復元する。
ステップS7では、処理領域中のすべての画素について、検波が終了したか否かを判定する。処理領域中のすべての画素について、検波が終了していれば、次のエッジ検出部15の処理に移行する。一方、処理領域中のすべての画素について、検波が終了していなければ、ステップS4に戻り、次の画素位置(例えば、(xi+1、yj))の時系列画素データを読出し、ステップS5以下の処理を繰り返す。
【0024】
次に、上記エッジ検出部15の処理について図7を参照して説明する。
エッジ検出部15は、検波部13で検出したnフレーム数の各領域光投光エリアS(t)、S(t+dt)・・・S(t+n・dt)の重複するエリアである照射エリアSd(t+n・dt)を、下記式に基づき演算する。
Sd(t+n・dt)=S(t)∩S(t+dt)・・・
・・・∩S(t+n・dt)
【0025】
若しくは、1フレーム目の画像とnフレーム目の画像とを使用して、下記式に基づき、重複する照射エリアSd(t+n・dt)を演算する。
Sd(t+n・dt)=S(t)∩S(t+n・dt)
ここで、検波部13による同期検波に必要なフレーム数をn、画像取得の撮像間隔をdtとする。そして、検波部13で抽出した領域光投光エリアについて、時刻tでの領域光投光エリアをS(t)、・・・、時刻t+n・dtでの領域光投光エリアをS(t+n・dt)とする。
【0026】
例えば、図9(a)に示す時刻tでの領域光投光エリアをS(t)、図9(b)に示す時刻t+n・dtでの領域光投光エリアをS(t+n・dt)とすると、nフレームの画像を使った同期検波により抽出される投光光の照射エリアSd(t+n・dt)は、下記式で表される領域として、時刻t+n・dtで取得された画像中に、その領域が特定される。
Sd(t+n・dt)=S(t)∩S(t+n・dt)
そして、エッジ検出部15は、この画像中に特定された領域Sd(t+n・dt)の上端エッジを検出することで、エッジE(t+n・dt)を得る(図7(d))。
そして、距離算出部16は、エッジ検出部15が検出したエッジEを使用し、光切断法の原理に基づき、対象物までの距離を測定する。
【0027】
ここで、距離算出部16が距離算出に使用する光切断法について図8を参照して説明する。
光切断法では、図8に示すように、対象とする物体にあらかじめ定められた位置からスリット光(細い帯状のパターン)を照射した状態で物体の像を入力する。3次元物体の形状データを得る場合は、このスリット光の照射方向を少しずつ変化させつつ対象物の像を入力することで、物体上に写ったスリット光の位置や形状と、スリット光照射装置の位置と方向により、三角測量の原理により物体表面の位置を検出する。 このように、照射した一本のスリット光が物体表面を切断する形となるため、光切断法と呼ばれている。なお、スリット光の作成方法として、シリンドリカルレンズを用いたもの、ポリゴンミラーによるもの、ライン状LEDによるものなどがある。
そして、本実施形態の距離算出部16では、エッジ検出部15が検出した上端エッジEを上記スリット光とみなして、上述の光切断法の原理に基づく処理を実施し、公知の方法にて距離測定を行う。
【0028】
(動作その他について)
まず本実施形態とは異なる、投光部11からの投光がスリット状の照射光(投光)の場合について説明する。
三角測量の原理に基づき被測定物SMまでの距離を計測する際に、検出頑健性を確保すべく同期検波を用いたとする。この場合、スリット状の照射光では、同期検波による照射光抽出時に被測定物SMとの相対距離が変化する。この結果、画像中における照射光位置がずれてしまうため、安定して照射光を画像中に検出することができないという問題がある。たとえば、図9(a)に示すように、連続する時刻tと時刻t+dtで被測定物SM(距離を計測する対象)と観測系(ここでは車両MMに搭載された撮像部12位置とする)の距離がDからD+dDに変化したとする。このとき、撮像部12画像中における投光された照射光上端エッジ位置は、時刻tで高さ方向y0の位置(図9(b))、時刻t+dtでは高さ方向(y0+dy)の位置(図9(c))となる。このとき、投光上端エッジを画像中に特定する検波処理は、画素単位で行われるため、投光光上端エッジが連続する時刻で異なる画像位置(ここでは、y0とy0+dy)に観測されることは、検波処理によって、画像から投光光を抽出することができないことを意味する(図9(d)参照)。すなわち、検波処理による安定した投光光抽出を実現するためには、連続する複数の画像(フレーム)において、投光光が画像中の同じ位置に観測されることが必須である。つまり、検波のためには連続する5フレームの画像が必要としたら、5フレーム連続して画像中の同じ位置に、投光パターンが形成されていることが必要である。しかしながら、車両MMに搭載された観測系は、車両MMの動きに応じて、また、被測定物SMの動きに応じて、その相対的な位置関係(距離等)が変化する。このため、図9に示すような、シート状の投光パターンでは、複数のフレームにわたって投光パターンが画像上の同一箇所に観測される保証が無く、投光パターンの検出が破綻する可能性が大きい。
【0029】
これに対し、本実施形態では、シート状の投光パターンを用いるのではなく、明暗が鮮明なパターンを上下に幅を有して水平方向に延在した発光領域となる領域光を用いる。これによって、本実施形態では、検波のために必要な複数フレームの各画像における領域光投光エリアSが相互に重複したエリアSdとなることから、車両MMと被測定物SMとにおける相対的な位置関係(距離等)が変化したとしても、一つのエッジを検出することが可能となる。
【0030】
例えば、シート状の投光パターンでは、図10(a)に示すように、横方向に延びるシート状の配向パターンが撮像部12で撮像される。一方、本実施形態では、図10(b)に示すように、シート状の上端エッジを有する上下に幅を有する領域光パターンとなる画像として、撮像部12で撮像される。
これによって、車両MMの姿勢変化や、被測定物SMの移動に伴う車両MMと被測定物SMの相対的な位置変化が生じる場合でも、重複した照射パターンが被測定物SM上の同一箇所に連続して観測できる結果、安定的に照射光を抽出することが可能である(図7参照)。
【0031】
現実的には、車両MMおよび被測定物SMの動きに制約を設けることはできないので、車両MMおよび被測定物SMが任意の動きをした場合でも安定した照射光抽出を実現するために十分な照射光領域を設定する必要がある。本実施形態に基づけば、安定して照射光抽出を実現可能となる。
例えば、検波部13により5フレーム(n=5)で、エッジ検出部15で使用する上記エッジE(t+n・dt)が得られるとし、画像を毎秒1000枚(1000fps)得る設定とする。この場合には、距離測定装置を搭載した車両MMと被測定物SMとの相対的な移動速度が100km/hである場合、実空間での相対距離変化量は、15cmとなる。これは、エッジE(t+n・dt)から算出される被測定物SMまでの距離誤差が15cmであることを意味する。すなわち、この場合には、被測定物SMとの相対距離が15mとしても、誤差1%であり、十分な距離計測精度が得られることが分かる。
【0032】
また、車両MMに搭載される距離測定装置にとって、水平方向など横方向に延在する発光領域を有する投光パターンを用いることは有益である。すなわち、車両MMに搭載される距離測定装置での測定結果は、車両MMの移動を支えるための環境認識にために通常使用される。把握しなくてはならない環境要件は、車両MMが移動できる領域の特定や障害物の検出等多岐に渡る。また、道路形状(凹凸)等を把握することも重要な要素である。これらを充足するためには、上述のように横方向(水平方向)に広がりを有するパターン光を用いることが効果的である。また、水平方向に広がりを有することで、1つの距離測定装置で広く移動平面および移動方向の空間を走査することができる。
ここで、投光部11は投光手段を構成する。撮像部12は撮像手投を構成する。検波部13は検波手段を構成する。エッジ検出部15はエッジ部検出手段を構成する。距離算出部16は距離算出手段を構成する。
【0033】
(本実施形態の効果)
(1)投光部11は、車両MMの外方に向けて、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光する。撮像部12は、予め設定した撮像領域内に位置する上記投光部11が投光したパルス光を撮像する。検波部13は、上記撮像部12が撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する。エッジ検出部15は、上記検波部13が抽出したパルス光上端のエッジ部を検出する。距離算出部16は、上記エッジ部検出部が検出したエッジ部と車両MMとの距離を算出する。
【0034】
時間変調をさせて横方向に延びる発光領域を有するパルス光を用いることにより、被測定物SMとの相対距離が変化しても、連続した画像において発光領域の重なりが確保される。この結果、パルス光を頑健に検出することができる。
また、パルス光は横方向に延在した発光領域を有するので、パルス光の照射領域と非照射領域との境界をエッジとして検出することで、シートビームを用いた三角測量方式による距離計測が可能となる。
以上から、本装置を搭載した車両MMと被測定物SMとの相対位置が時々刻々変化する場合であっても、本装置を搭載した車両MMと被測定物SMとの間の距離をより安定して求めることが可能となる。
【0035】
(変形例)
(1)上記投光部11として、発光方向が異なる複数の投光部11を備え、且つ、異なる投光方向毎に照射光(投光)の時系列パターンが異なるようにしても良い。
このように、パルス光を照射する投光部11を複数備えると、単一の投光部11だけでは検出できない領域を減らすことができる。また、各投光部11を固有の周波数(時間)変調によりパルス光を発光し、検波部13により投光光検出をするようにすれば、距離計測をする領域毎に、最適な距離計測周期(スループット)を設定することが可能となる。
このことは、例えば、遠方であれば時間を掛けた冗長的な検波により、確度高く照射光を抽出して、確実な障害物検出を行う。一方、近傍位置であれば、より短時間での距離計測を実現するなど、緊急度合いに応じた距離計測周期を設定し、その緊急度合いに応じて車両MMを制御することが可能となる。
【0036】
(2)例えば、上記複数の投光部11の少なくとも2つの投光部11の投光方向を上面視で同じ方向(例えば車両前方)となるように設定すると共に、各投光部11の発光領域の上端エッジ部を互いに上下にずらして投光する。上述のように照射光(投光)の時系列パターンが異なるので、複数の投光部11からの発光領域が重なっていても抽出は可能である。
この場合には、複数の発光領域のうち上端部が相対的に上側にある発光領域を使用して、被測定物SMまでの距離がある程度大きい場合であれば時間を掛けた冗長的な検波により、確度高く照射光を抽出し、確実な被測定物検出と被測定物SMまでの距離計測を行う。
【0037】
一方、比較的近傍に存在する被測定物SMに対しては、複数の発光領域のうち上端エッジ部が相対的に下側にある発光領域を使用して、より短時間でのその存在を検出するとともに、距離計測を実現するなど、緊急度合いや用途に応じた距離計測周期を設定し、その緊急度合いや用途に応じて本距離測定装置を搭載する車両MMを制御することが可能となる。
【0038】
この複数の投光部11を備えた場合の例を、図11に基づき説明する。図11では、投光部11を3つ備えた場合について記述している。そして、図11に示すように、3つの投光部11に対応した発光領域の上端エッジが互いに上下にずれている場合の例である。
ここで、第一の投光部11が照射(投光)する照射光の発光領域の上端エッジをE1、第二の投光部11が照射(投光)する照射光の発光領域の上端エッジをE2、第三の投光部11が照射(投光)する照射光の発光領域の上端エッジをE3とする。そして、E1、E2、E3をそれぞれ撮影した画像は、図10(b)のようになる。
【0039】
図11の例では、E1は、比較的遠方に存在する被測定物SMまでの距離を計測するために、車両MM前方で且つ路面に対して水平方向に照射光を照射する例を示している。また、E2は、例えば車両MM前方30m〜50m等、中距離程度の位置に存在する被測定物SMまでの距離を計測するために、照射方向は、E1に対して下方向に若干の俯角を有する照射方向としている。E3は、例えば車両MM前方5m〜30m等、比較的近い距離に存在する被測定物SMまでの距離を計測するために、照射方向は、E2に対してさらに下方向に俯角を有する照射方向としている。E1、E2、E3を形成する3つの照射光は、それぞれ、検波制御部14により独立に駆動される。つまり、検波部13により、E1、E2、E3のそれぞれが独立して検出出来ることを意味する。
【0040】
ここで、E1、E2、E3を形成する照射光を同じ発光タイミング、同じ時系列強度変調を施して駆動し、撮像部12の画像から照射光を抽出すると、本例では、E2およびE3は、E1の投光光と同化してしまい、E2およびE3を検出することができなくなる。したがって、E1、E2、E3を形成する照射光および検波は、発光タイミングおよび時系列強度変調を施すことが必要となる。
上述のように、E1、E2、E3の距離計測レンジは、それぞれの投光光照射方向の俯角を変化させることにより設定している。
【0041】
次に、E1、E2、E3を得る具体的な処理構造について説明する。E1は比較的遠方の被測定物SMまでの距離を計測するための照射光が形成するエッジである。被測定物SMまでの距離が大きいということは、投光部11から照射した光が被測定物SMに反射して撮像部12に入射する反射光強度は、E2やE3のそれに比較して極めて弱くなる。その強度は、被測定物SMまでの距離と被測定物SMの反射率により決まる。被測定物SMからの微弱な反射光を検出するためには、検波部13は時間冗長性を持たせた同期検波処理を行う必要がある。
【0042】
具体的には、前述したBPSKを例にすると、送信する信号列(ビット列)anを長くすることが求められる(例えば、10ビット等)。対して、E2およびE3は被測定物SMまでの距離が比較的小さいため、撮像部12に入射する被測定物SMからの反射光強度もある程度大きくなるので、検波部13に対する時間的な冗長性に対する制約は、E1の検出と比較して緩くなる。具体的には、前述したBPSKを例にすると、送信する信号列(ビット列)anを短くすることが可能となる(例えば、3〜5ビット等)。これは、同期検波処理および距離計測周期を短くすることができることを意味する。特に車両MMに搭載される距離測定装置においては、近傍に存在する障害物に対しては、その動きに応じて緊急的に回避することが求められるなど、比較的近傍の被測定物SMまでの距離計測は短時間で行うことが求められる。一方、比較的遠方に存在する被測定物SMは、自車両MMの移動に対する影響度合いが比較的弱く、つまり、確定的な情報として、その存在位置や動きを正確に短時間で把握する必要がないため、距離計測の安定性(頑健性)を確保する意味でも、時間冗長性を持たせ、確実な存在と距離を計測することが求められる。
ここでは、E1、E2、E3と、3つの照射光上端エッジについての距離計測を例示したが、投光器の数については、3つに限られるものではない。
【0043】
(3)検波のための変調として、位相変調、振幅変調、及び周波数変調のいずれかを使用すると良い。
投光部11による照射光(投光)と撮像部12による撮像タイミングは制御され、生成する元信号により検波部13で同期検波を行うことにより照射光抽出が行われる。この同期検波処理は、変調として、位相変調または振幅変調または周波数変調を使用することにより、複数システムによる混信の回避や検出頑健性の向上を実現することができる。
【0044】
(4)上記投光部11は、少なくとも赤外光または紫外光のいずれかを照射する光源11bを有し、上記撮像部12は、上記光源11bから照射される光領域に感度を有するようにすると良い。
投光部11に具備される発光源11bとして、赤外光または紫外光を使用すると、撮像部12に特定スペクトルの光を高効率で透過するフィルタを構成することにより、照射光をより頑健に検出することが可能となる。また、赤外光または紫外光を使用すると、パルス光照射によって他者の視認を妨げず、幻惑を防止することも可能となる。
【0045】
(5)上記撮像部12は、上記投光部11の上端エッジが照射される方向Hに対し上下にオフセットして配置すると共に、撮像部12の視軸Pが上記上端エッジの照射方向Hと交差するように、俯角若しくは迎角をつけて、当該視軸Pの向きを上下に傾けると良い。
一つの撮像部12で広域を観測するためには、通常、広角レンズが用いられる。一般的な広角レンズは、射影方式として等距離射影(いわゆるfθレンズ)を採用しており、周辺視野では中心視野に比べて分解能が劣る。このような広角レンズとの組合せにおいては、撮像部12視軸Pに俯角(仰角)を持たせ、分解能が高い領域を監視したい領域に向けて適切に設定することが好ましい。
【0046】
fθレンズとの組合せにおいて、撮像部12視軸Pに正の俯角がある場合には、被測定物SMまでの距離計測値の分解能が向上することを、図11に基づき説明する。なお、簡単のために、照射光の上端エッジが路面に対して水平である場合を仮定する。
撮像部12視軸Pに俯角が無い場合と有る場合をそれぞれ図12(a)、(b)に示す。図12で視軸P方向の画素位置をy(j)、y(j)の下に隣接する画素位置をy(j+1)とする。このとき、図12(a)に示すように、俯角(仰角)が0(ゼロ)[rad]の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は実空間距離での距離分解能dD(0)であるとする。一方、図12(b)に示すように、俯角(仰角)がα[rad]の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は実空間距離での距離分解能dD(α)であるとする。
【0047】
この場合、
dD(α)<dD(0)
が成立するので、撮像部12視軸Pに俯角(仰角)を持たせた場合、1画素の角度分解能に対する実空間分解能が高くなる。
このように、投光部11から照射される照射光の上端エッジを、撮像部12に対して横方向に延びる発光領域を形成し、撮像部12を上端エッジ照射方向に対して上下方向にオフセットして配置する。さらに、上端エッジ照射方向と撮像物の視軸Pが予め設定した角度をなすように当該視軸Pを設定することで、一般的な広角レンズ(魚眼レンズ)を使用した際においても、三角測量の原理に基づき距離計測する際の計測精度が向上する。
【符号の説明】
【0048】
11 投光部
11a 反射鏡
11b 光源
11c 投光レンズ
12 撮像部
20 距離測定制御部
13 検波部
14 検波制御部
15 エッジ検出部
15 エッジ検出部
16 距離算出部
E 上端エッジ
H 照射方向
MM 車両
SM 被測定物
S 領域光投光エリア
Sd 照射エリア
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される距離測定装置であって、
移動体の外方に向けて、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光する投光手段と、
予め設定した撮像領域内に位置する上記投光手段が投光したパルス光を撮像する撮像手段と、
上記撮像手段が撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する検波手段と、
上記検波手段が抽出したパルス光上端のエッジ部を検出するエッジ部検出手段と、
上記エッジ部検出手段が検出したエッジ部と移動体との距離を算出する距離算出手段と、を備えることを特徴とする移動体の距離測定装置。
【請求項2】
上記投光手段として、発光方向が異なる複数の投光手段を備え、異なる発光方向毎に投光する照射光の時系列パターンが異なることを特徴とする請求項1に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項3】
上記複数の投光手段の少なくとも2つの投光手段は、上面視で投光方向が同じ方向を向くように設定されていると共に、各投光手段に対応する発光領域の上端エッジ部が互いに上下にずれていることを特徴とする請求項2に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項4】
上記変調として、位相変調、振幅変調、及び周波数変調のいずれかを使用することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項5】
上記投光手段は、少なくとも赤外光または紫外光のいずれかを照射する光源を有し、
上記撮像手段は、上記光源から照射される光領域に感度を有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項6】
上記撮像手段は、上記投光手段に対し上下にオフセットして配置されると共に、側面視で、撮像部の視軸が、投光手段による上記発光領域の上端エッジ部の照射方向と交差するように、当該視軸の向きを上下に傾けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項1】
移動体に搭載される距離測定装置であって、
移動体の外方に向けて、上下方向に幅を有して横方向に延在した発光領域を有するパルス光を時間変調させて投光する投光手段と、
予め設定した撮像領域内に位置する上記投光手段が投光したパルス光を撮像する撮像手段と、
上記撮像手段が撮像した画像から同期検波により上記パルス光を抽出する検波手段と、
上記検波手段が抽出したパルス光上端のエッジ部を検出するエッジ部検出手段と、
上記エッジ部検出手段が検出したエッジ部と移動体との距離を算出する距離算出手段と、を備えることを特徴とする移動体の距離測定装置。
【請求項2】
上記投光手段として、発光方向が異なる複数の投光手段を備え、異なる発光方向毎に投光する照射光の時系列パターンが異なることを特徴とする請求項1に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項3】
上記複数の投光手段の少なくとも2つの投光手段は、上面視で投光方向が同じ方向を向くように設定されていると共に、各投光手段に対応する発光領域の上端エッジ部が互いに上下にずれていることを特徴とする請求項2に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項4】
上記変調として、位相変調、振幅変調、及び周波数変調のいずれかを使用することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項5】
上記投光手段は、少なくとも赤外光または紫外光のいずれかを照射する光源を有し、
上記撮像手段は、上記光源から照射される光領域に感度を有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した移動体の距離測定装置。
【請求項6】
上記撮像手段は、上記投光手段に対し上下にオフセットして配置されると共に、側面視で、撮像部の視軸が、投光手段による上記発光領域の上端エッジ部の照射方向と交差するように、当該視軸の向きを上下に傾けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載した移動体の距離測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−154898(P2012−154898A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16707(P2011−16707)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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