説明

移動体速度検出装置

【課題】
簡素な構造で且つ小型の局部船速演算装置を提供する。
【解決手段】
サテライトコンパス2は測位用信号に基づいて対地船速、船首方位、および回頭角速度を演算して局部船速演算部1に出力する。局部船速演算部1は、対地船速、船首方位、回頭角速度とともに、メモリに記憶されているサテライトコンパス2のアンテナ中心位置から局部位置までの距離と、アンテナ中心位置と局部位置との方位関係とを読み出して、該当する局部位置での局部船速を演算して、表示部3に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体の速度を検出する移動体速度検出装置、特に、移動体の局部の速度を検出する移動体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の大型タンカー等の船舶を接岸する際に、この船舶の船首速度と船尾速度とが必要となる。なぜならば、大型船舶では船首から船尾までの距離が長いため船首速度と船尾速度とが異なり、これらを適宜制御しなければ、船体側面を接岸壁に平行に維持しながら接岸することができないからである。
【0003】
このため、従来の船舶では、図3に示すようなシステム構成にて船首速度および船尾速度を演算していた。
図3は従来の局部船速演算システムの概略構成を示すブロック図である。
従来の局部船速演算装置101は、船速測定装置102と、回頭角速度測定装置103とに接続し、局部船速演算部111とメモリ112とを備える。
局部船速演算装置101の局部船速演算部111は、船速測定装置102から入力される船首尾方向対地船速および左右舷方向対地船速と、回頭角速度測定装置103から入力される回頭角速度と、メモリ112に記憶されている船速測定位置から船首および船尾までの距離とを用いて船首速度および船尾速度を算出する。そして、従来の局部船速演算では船速測定装置102として、ドップラソナーや特許文献1に記載されたコンパスが利用されてきた。
【特許文献1】特開2002−71779公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の局部船速演算システムでは、前述のように、別途設置された船速測定装置や回頭角速度測定装置からの出力が必要となる。しかし、特に回頭角速度測定装置は、高額且つ定期的なメンテナンスが必要であり、また、電源投入から正常動作するまでに数時間を要する等の問題があった。
【0005】
したがって、この発明の目的は、簡素な構造で且つ小型の局部船速演算装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の移動体速度検出装置は、測位衛星からの測位用信号に基づいて移動体の対地速度、方位、回頭角速度を検出する姿勢検出手段と、この姿勢検出手段の姿勢検出位置と移動体の所定位置との距離を記憶する記憶手段と、姿勢検出手段から得られる各情報と記憶手段から得られる距離とに基づいて所定位置の対地速度を演算する局部速度演算手段と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
この構成では、姿勢検出手段で対地速度、方位、回頭角速度が検出されて、局部速度演算手段に入力される。記憶手段には移動体上の速度を求めたい所定位置と姿勢検出手段の姿勢検出位置との距離が記憶されており、局部速度演算手段は、この距離と前記各情報とを用いて所定位置の対地速度を演算して出力する。
【0008】
また、この発明の移動体速度検出装置は、記憶手段に姿勢検出手段の姿勢検出位置と移動体の複数の所定位置と距離を記憶し、局部速度演算手段で移動体の複数位置の対地速度を略同時に演算することを特徴としている。
【0009】
この構成では、速度を求めたい移動体上の位置が複数有る場合に、これらの位置と姿勢検出位置との距離がそれぞれ記憶されており、局部速度演算手段は、これらの距離を用いて移動体上の複数位置での対地速度を演算して出力する。
【0010】
また、この発明の移動体速度検出装置は、局部速度演算手段により演算された対地速度を表示する表示手段を備えたことを特徴としている。
【0011】
この構成では、前述のように演算された移動体上の対地速度が、液晶ディスプレイ等の表示手段により外部に表示される。
【0012】
また、この発明の移動体速度検出装置は、複数のGPSアンテナを備えたGPS受信機で姿勢検出手段を構成することを特徴としている。この際、対地速度を観測する所定位置を移動体の前後端部等に設定する。なお、このような複数のGPSアンテナを備えたGPS受信機からなる姿勢検出手段を、以下「サテライトコンパス」と称する。
【0013】
この構成では、サテライトコンパスで移動体の対地速度、方位、および回頭角速度を検出する。また、サテライトコンパスの姿勢検出位置と移動体の前端部等との距離、およびサテライトコンパスの姿勢検出位置と移動体の後端部等との距離が記憶手段であるメモリに記憶されている。なお、この設定位置は任意に設定できる。局部速度演算手段は、サテライトコンパスからの各情報とメモリに記憶さている距離情報とを用いて、移動体の前端部および後端部等の速度を演算する。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、移動体上の前端部や後端部等の局部の速度を検出する移動体速度検出装置を簡素な構造で小型に実現することができる。
【0015】
また、この発明によれば、移動体上の複数位置の速度を同時に検出する移動体速度検出装置を簡素な構造で小型に実現することができる。
【0016】
また、この発明によれば、これら移動体上の局部速度を表示することで、簡単且つ明確にこれらの位置の速度をオペレータへ提供することができる。
【0017】
また、この発明によれば、移動体の姿勢、位置、方位、および回頭角速度の検出に用いているサテライトコンパスを移動体速度検出装置に用い、これに局部速度演算手段を合わせることで、従来の装置形状から殆ど大型化することなく移動体速度検出装置を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る移動体速度検出装置について図1、図2を参照して説明する。なお、以下の説明では、移動体として船舶、特に大型船舶を例に説明する。
図1は本実施形態の移動体速度検出装置の概略構成を示すブロック図である。
移動体速度検出装置は、局部船速演算部1、本発明の「姿勢検出手段」に相当するサテライトコンパス2、表示部3、本発明の「記憶手段」に相当するメモリ4を備える。
【0019】
サテライトコンパス2は、少なくとも3つのアンテナ20a〜20c、受信部21、対地船速測定部22、船首方位測定部23、および回頭角速度測定部24を備える。アンテナ20a〜20cは全てが一直線上にならばない位置に設置されており、GPS信号等の測位用信号を受信して受信部21に出力する。受信部21は各アンテナ20a〜20cが受信した測位用信号から各アンテナ20a〜20cの位置を測位し、測位結果を対地船速測定部22、船首方位測定部23、および回頭角速度測定部24に出力する。
対地船速測定部22は、受信機21から入力された測位結果に基づき対地船速Vtを演算して、局部船速演算部1に出力する。
【0020】
船首方位測定部23は、受信機21から入力された測位結果に基づき船首方位θhを演算して局部船速演算部1に出力する。ここで、船首方位θhとは、アンテナ20a〜20cの中心位置(本発明の「姿勢検出位置」に相当。)から北方向を基準方向として、この中心位置を通り船首尾方向に平行な方向が前記基準方向(北方向)に対して成す角を示す。
回頭角速度測定部24は、受信部21から入力された測位結果より得られる船首方位θhを所定時間記憶して時間微分することにより回頭角速度ωを演算して局部船速演算部1に出力する。
【0021】
局部船速演算部1は、サテライトコンパス2の対地船速測定部22から入力される対地船速Vtと、サテライトコンパス2の船首方位測定部23から入力される船首方位θhと、回頭角速度測定部24から入力される回頭角速度ωとを用いて、船体の所定位置、例えば、船首や船尾の船速VL(以下、船首の船速を船首船速VLbと称し、船尾の船速を船尾船速VLdと称す。)を演算して出力する。この際、移動中心を算出する手段を設けてもよい。
【0022】
具体的な船首船速VLbの演算方法について図2を用いて説明する。
図2は船首船速VLbの一成分である船首左右方向船速VLbxを演算する方法を説明する説明図である。
図2において、Cは船体の移動中心、CAはアンテナ20a〜20cの中心位置(姿勢検出位置)、BSは船首位置、Rは船首位置BSとアンテナ中心位置CAとの距離を示す。また、Nは北方向、Eは東方向、SCは針路方向を示す。さらに、Vtは対地船速、ωは回頭角速度、θhは船首方位を示す。
θhは前述の船首方位、θrsは北方向Nと針路方向SCとの成す角(北方向Nを基準方向として北方向から東方向側を正方向とする角)、φはアンテナ中心位置CAと船首位置BSとを結ぶ方向と船首尾方向との成す角を示す。
【0023】
このような設定とすると、船首左右方向船速VLbxは次に示す式(1)で演算することができる。
【0024】
VLbx=Vt・sin(θrs−θh)+R・ω・cosφ −(1)
局部船速演算部1はこの演算式を実現する演算処理器を備える。また、メモリ4には、船首位置BSとアンテナ中心位置CAとの距離R、アンテナ中心位置CAと船首位置BSとを結ぶ方向と船首尾方向との成す角φが予め記憶されている。
【0025】
局部船速演算部1は、対地船速Vt、船首方位θh、回頭角速度ωが入力されると、メモリ4から距離R、成す角φを読み出して、式(1)を用いて船首左右方向船速VLbxを演算する。
【0026】
演算された船首左右方向船速VLbxは表示部3に出力され、液晶ディスプレイ等からなる表示部3は船首左右方向船速VLbxを画像データ形式に変換して表示する。オペレータは表示部3を見ることで、現在の船首左右方向船速VLbxを認識することができる。
【0027】
以上のような構成とすることで、簡素な構造でありながら、船体の船首位置の速度、すなわち移動体の局部速度を正確に演算する小型の移動体速度検出装置を実現することができる。
【0028】
また、従来船体の姿勢検出に用いるサテライトコンパスを用いることで、現在の資源を用いながら簡素な構造の追加で局部船速を検出することができる。
【0029】
なお、前述の説明では、船首船速のみを演算する方法を説明したが、アンテナ中心位置CAを船尾位置との関係、すなわち、アンテナ中心位置と船尾位置との距離R’、およびアンテナ中心位置CAと船尾位置とを結ぶ方向と船首尾方向との成す角φ’を予め測定してメモリ4に記憶しておけば、局部船速演算部1で船尾船速VLdも略同時(同時も可能)に演算することができる。そして、船尾船速VLdを同時に表示部3に出力することで、表示部3には船首船速VLbと船尾船速VLdとを同時に表示することができる。これにより、オペレータは船首船速VLbと船尾船速VLdとを同時に認識することができるとともに、船首船速VLbと船尾船速VLdとの差分を確認でき、船舶の制御に活用することができる。
【0030】
また、船首船速と船尾船速とが演算されることで、これらの相対速度差を演算して、航行制御に用いることもできる。そして、局部船速演算部1で相対速度差演算を行うことで、さらに多くの局部船速関係の情報を検出する装置を簡素な構造で且つ小型のままで実現することができる。
【0031】
また、前述の説明では、船首や船尾の速度を演算する方法を示したが、船体の所定位置を自ら設定し、この設定値とアンテナ中心位置との距離および成す角(方位関係)を予め測定して記憶しておけば、船体のどの局部位置での船速でも演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の移動体速度検出装置の概略構成を示すブロック図
【図2】船首船速VLbの一成分である船首左右方向船速VLbxを演算する方法を説明する説明図
【図3】従来の局部船速演算システムの概略構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0033】
1−局部船速演算部、2−サテライトコンパス、20a〜20c−アンテナ、21−受信部、22−対地船速測定部、23−船首方位測定部、24−回頭角速度測定部、3−表示部、4−メモリ、101−局部船速演算装置、111−局部船速演算部、112−メモリ、102−船速測定装置、103−回頭角速度測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星からの測位用信号に基づき、移動体の対地速度、方位、回頭角速度を検出する姿勢検出手段と、
該姿勢検出手段の姿勢検出位置と前記移動体の所定位置との距離を記憶する記憶手段と、
前記姿勢検出手段から得られる各情報と前記記憶手段から得られる前記距離とに基づき、前記所定位置の対地速度を演算する局部速度演算手段と、を備えたことを特徴とする移動体速度検出装置。
【請求項2】
前記記憶手段は前記姿勢検出手段の姿勢検出位置と前記移動体の複数の所定位置と距離を記憶し、
前記局部速度演算手段は前記複数の所定位置の対地速度を略同時に演算する請求項1に記載の移動体速度検出装置。
【請求項3】
前記局部速度演算手段により演算された対地速度を表示する表示手段を備えた請求項1または請求項2に記載の移動体速度検出装置。
【請求項4】
前記姿勢検出手段は、複数のGPSアンテナを有するGPS受信機を備えた請求項1〜3のいずれかに記載の移動体速度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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