説明

移動装置

【課題】移動装置が走行面を移動する際に、脚部が傾倒するのを抑制し、良好な移動性能を確保することができる移動装置を提供する。
【解決手段】各駆動部材30a,30b,30c,30dの伸縮動作を第1フレーム10および第2フレーム20に作用させ、第1フレーム10と第2フレーム20とを相対移動させることにより走行面70を移動する移動装置1であって、板バネ部材として、コイル19a,19b,19c,19dと走行面70との間に第1板バネ部材5aが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器や半導体デバイス等の製品の小型化が進んでおり、これら小型製品の量産を支える基盤技術として、微小な移動を制御できる小型の移動装置の需要が高まっている。
従来から、電磁石として機能する複数のフレームを交差するように配置し、複数のフレームの間に圧電素子を挟んだ小型の移動装置が提案されている(特許文献1および非特許文献1参照)。フレームは磁性材料からなる正面視略U字形状の部材であり、脚部を有している。この移動装置は、圧電素子に印加する電圧を制御して、圧電素子を伸縮させることにより、複数のフレームを相対移動させることができる。また、この移動装置は、脚部に設けられたコイルに流す電流を制御して、コイルを励磁または消磁させることにより、磁性材料で形成された走行面に脚部を吸着または離脱させることができる。このフレームの相対移動と、脚部の吸着または離脱動作とを適宜組み合わせることにより、移動装置は走行面を移動する。
【0003】
また、非特許文献1に記載の移動装置は、走行面から離間したコイルの上部に、圧電素子と脚部とを接続する板バネ部材を設けている。板バネ部材は、圧電素子の伸縮動作を脚部に伝達する機能を有している。さらにこの板バネ部材は、走行面に対して垂直方向に撓むことにより走行面に対して垂直方向に脚部を移動させて、走行面の凹凸を吸収する機能を有している。これにより、走行面に凹凸があっても、凹凸に引っ掛かることなく走行面を移動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−254398号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小林賢史、青山尚之、渕脇大海「小型自走機械群による超精密生産機械システム―第110報 二枚の板バネを用いた四点接地機構の開発―」2008年度精密工学会春季大会学術講演会論文集、p.85−86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、コイルの鉄心はヒステリシス特性を有しているため、コイルを消磁した後、脚部と走行面との間に、残留磁力による吸着力が発生する。また、移動装置が走行面を移動する際、脚部と走行面との間に、脚部が移動する方向と反対方向に摩擦力が発生する。
【0007】
ここで、走行面に対して水平方向に圧電素子を伸縮させると、板バネ部材を介して脚部に水平方向の力が作用し、脚部が水平方向に移動する。しかし、残留磁力による吸着力および摩擦力により、脚部の走行面への接地部にはその場に留まろうとする力が働くため、脚部が傾倒した状態で移動装置は走行面を移動する。特に非特許文献1の移動装置は、コイルの上部に板バネ部材が配置されており、脚部の接地部から板バネ部材までの距離が長くなっているので、脚部は傾倒した状態のまま保持されやすくなっている。これにより、移動装置の移動距離の減少や移動時の直進性の悪化、移動動作毎の移動距離のバラつき等が発生するという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、移動装置が走行面を移動する際に、脚部が傾倒するのを抑制し、良好な移動性能を確保することができる移動装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の移動装置は、第1フレームと、前記第1フレームに対して交差して配置される第2フレームと、前記第1フレームおよび前記第2フレームに連結され、走行面と交差するように伸びる複数の脚部と、前記脚部に配置され、前記脚部を前記走行面に一時固定するための磁力を発生するコイルと、前記第1フレームの前記脚部と前記第2フレームの前記脚部との間に配置された駆動部材と、前記駆動部材と前記脚部とを接続する板バネ部材と、を有し、前記駆動部材の伸縮動作を前記脚部に作用させ、前記第1フレームと前記第2フレームとを相対移動させることにより前記走行面を移動する移動装置であって、前記板バネ部材として、前記コイルと前記走行面との間に第1板バネ部材が設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、コイルと走行面との間に第1板バネ部材が設けられているので、脚部の接地部から第1板バネ部材までの距離が短くなり、脚部が傾倒しにくくなる。また、走行面近傍で第1フレームおよび第2フレームの各脚部に駆動部材の伸縮動作を伝達することができる。これにより、移動装置が移動する時に、脚部の接地部に残留磁力による吸着力および摩擦力が働いても、脚部が傾倒するのを抑制することができる。したがって、移動装置の良好な移動性能を確保することができる。
【0010】
また、前記板バネ部材として、前記コイルを挟んで前記第1板バネ部材の反対側に、第2板バネ部材が配置されていることが望ましい。
本発明によれば、コイルを挟んで脚部の離間した位置に対して、同様に駆動部材の伸縮動作を伝達することができるので、脚部が傾倒するのをさらに抑制し、駆動部材の変位の伝達効率を向上させることができる。
【0011】
また、前記駆動部材は、前記走行面の法線方向において、前記第1板バネ部材と前記第2板バネ部材との間に配置されていることが望ましい。
走行面に対する電磁石の吸着力を確保するため、コイルは走行面近傍に配置される。本発明によれば、コイルの両側に配置された第1板バネ部材と第2板バネ部材との間に駆動部材を配置することにより、コイルとともに駆動部材を走行面近傍に配置することになり、移動装置の低重心化を図ることができる。これにより、移動装置の加速および停止時における慣性モーメントの影響を低減することができるので、より良好な移動性能を確保することができる。
【0012】
また、前記脚部は、前記脚部の長手方向に沿って形成された貫通孔と、前記脚部の外周面と前記貫通孔の内周面とを連通するように形成された、前記長手方向に沿って伸びるすり割りと、前記貫通孔に挿通され、先端が前記走行面と当接する接地部材と、を有しており、前記すり割りの間隔を狭めて、前記貫通孔の前記内周面で前記接地部材を狭持することにより、前記接地部材が固定されていることが望ましい。
本発明によれば、接地部材を貫通孔の内周面で狭持しているので、すり割りの間隔を広げることにより、接地部材を脚部から容易に引き抜くことができる。これにより、接地部材を容易に交換することができる。また、貫通孔の中心軸方向に沿って、接地部材を容易に移動させることができるので、各接地部材の走行面に対する高さを容易に調整することができる。
【0013】
また、前記第1フレームと前記第2フレームとの相対移動を規制する規制部材を有していることが望ましい。
本発明によれば、第1フレームと第2フレームとの過度な相対移動による板バネ部材の塑性変形を防止することができる。これにより、板バネ部材を高寿命化することができる。また、板バネ部材が塑性変形すると脚部が傾倒して、脚部の接地部の接地状態が不安定となるおそれがある。しかし、規制部材により板バネ部材の塑性変形を防止しているので、板バネ部材の塑性変形に起因する脚部の傾倒を防止して、良好な移動性能を維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コイルと走行面との間に第1板バネ部材が設けられているので、脚部の接地部から第1板バネ部材までの距離が短くなり、脚部が傾倒しにくくなる。また、走行面近傍で第1フレームおよび第2フレームの各脚部に駆動部材の伸縮動作を伝達することができる。これにより、移動装置が移動する時に、脚部の接地部に残留磁力による吸着力および摩擦力が働いても、脚部が傾倒するのを抑制することができる。したがって、移動装置の良好な移動性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】移動装置の斜視図である。
【図2】移動装置の説明図であり、図2(a)は平面図であり、図2(b)は正面図である。
【図3】第1フレームの説明図であり、図3(a)は平面図であり、図3(b)は正面図である。
【図4】第2フレームの説明図であり、図4(a)は平面図であり、図4(b)は正面図である。
【図5】図2(a)のA−A線における断面図であり、規制部材の説明図である。
【図6】移動動作の説明図であり、図6(a)は第1フレームの移動動作の説明図であり、図6(b)は第2フレームの移動動作の説明図である。
【図7】板バネ部材の説明図であり、図7(a)は従来例の板バネ部材の説明図であり、図7(b)は本実施形態の板バネ部材の説明図である。
【図8】移動距離のデータであり、図8(a)は従来の移動装置の移動距離であり、図8(b)は本実施形態の移動装置の移動距離であり、図8(c)は各移動装置の移動距離の偏差である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、走行面の法線方向を+Z方向とし、その反対方向を−Z方向とする。
図1は移動装置の斜視図である。
図2は移動装置の説明図であり、図2(a)は平面図であり、図2(b)は正面図である。
図1および図2に示すように、本発明の移動装置1は、第1フレーム10と、第1フレーム10に対して交差して配置される第2フレーム20とを有している。また、第1フレーム10および第2フレーム20に連結され、走行面70と交差するように伸びる複数の脚部12(12a,12b,12c,12d)と、脚部12に配置され、走行面70に脚部12を一時固定するための磁力を発生するコイル19(19a,19b,19c,19d)とを有している。さらに、第1フレーム10と第2フレーム20との間に配置された複数の駆動部材30(30a,30b,30c,30d)と、駆動部材30と脚部12とを接続する板バネ部材5(5a,5b)と、を有している。
なお、脚部12は各脚部12a,12b,12c,12dの総称であり、各図中では、適宜符号12および符号12a,12b,12c,12dのいずれかを用いて表現している。板バネ部材5、コイル19および駆動部材30についても同様としている。
また、本実施形態では、移動装置1が移動する走行面70は、例えば鉄等の磁性材料により形成されている。これにより、後述するように、脚部12を電磁石として機能させ、脚部12を走行面70に吸着または離脱させることができる。
【0017】
(第1フレーム)
図3は第1フレームの説明図であり、図3(a)は平面図であり、図3(b)は正面図である。
図3に示すように、第1フレーム10は正面視略U字形状の部材であり、棒状の本体部11と、本体部11の両端から−Z方向に立設され、本体部11と一体的に形成されている一対の脚部12a,12bと、を有している。
第1フレーム10は磁性材料からなる部材であり、プレスや鋳造、鍛造、機械加工等により形成される。なお、本実施形態では、磁性材料として3%ケイ素鋼を選択している。3%ケイ素鋼を選択したのは、後述するように第1フレームは電磁石の鉄心としての機能を有しており、ヒステリシス特性の良好な材料を選択する必要があるためである。3%ケイ素鋼は飽和磁束密度および透磁率が高いため、少ない電流で大きな磁力を得ることができる。さらに、3%ケイ素鋼は保磁力が小さいため、電磁石の電流を切断した際に発生する残留磁力を最小限に抑えることができる。第1フレーム10の表面には、例えばニッケル等によりめっきが施される。これにより、腐食による錆等の発生を防止している。
【0018】
本体部11の端部には、Z方向に沿って貫通する板バネ部材取付孔11aが形成されている。本実施形態の板バネ部材取付孔11aは、本体部11の両端部に複数個所形成されている。板バネ部材取付孔11aの内周面には雌ネジが形成されている。この板バネ部材取付孔11aにボルトを締結して、後述する板バネ部材を固定する。なお、後述するように、本体部11の+Z方向からボルトを締結して板バネ部材を取り付ける。
【0019】
脚部12は、脚部12の長手方向(Z方向)に沿って形成された貫通孔14と、脚部12の外周面17と貫通孔14の内周面14aとを連通するように形成された、Z方向に沿って伸びるすり割り13と、を有している。貫通孔14およびすり割り13は、第1フレーム10を形成した後、機械加工により形成される。なお、本実施形態の貫通孔14は、平面視略円形状となっているが、略矩形状としてもかまわない。ただし、貫通孔14を略円形状としたほうが加工のしやすさという点で優れている。
【0020】
また、脚部12には、後述する板バネ部材を固定する板バネ部材取付部16が形成される。板バネ部材取付部16は、脚部12の−Z方向の端部から+Z方向に若干の距離をおいた位置において、第1フレーム10の本体部11と略並行に、第1フレーム10の中央に向かって立設されている。板バネ部材取付部16には、Z方向に沿って貫通する板バネ部材取付孔16aが形成されている。板バネ部材取付孔16aは板バネ部材取付部16の両端部に複数箇所形成されている。板バネ部材取付孔16aの内周面には雌ネジが形成されている。なお、後述するように、板バネ部材取付部16の−Z方向からボルトを締結して板バネ部材を取り付ける。
【0021】
(接地部材)
図2に示すように、貫通孔14には、棒状の接地部材15が挿通されている。
接地部材15は、第1フレーム10と同様に電磁石の鉄心としての機能を有する。したがって、接地部材15は、第1フレーム10と同じ磁性材料である3%ケイ素鋼で形成される。
接地部材15の−Z方向の先端に形成された接地部15aは、表面が曲面となっているのが望ましい。これにより、走行面70に対する接地部15aの接地面積が減少するので、移動装置1が走行面70を移動する際に発生する接地部15aと走行面70との摩擦力を軽減することができる。
接地部材15は、前述したすり割り13の間隔を狭めて、貫通孔14の内周面14aで接地部材15を狭持することにより固定される。本実施形態では、脚部12にすり割り13と直交するようにボルト取付孔18を形成し、ボルト18aを締め付けてすり割り13の間隔を狭めることにより、接地部材15を固定している。
【0022】
さらに、ボルト18aを緩めてすり割り13の間隔を広げることにより、接地部材15を脚部12から容易に引き抜くことができる。これにより、移動装置1の走行時の摩擦等により接地部材15の接地部15aが磨耗した場合でも、接地部材15を容易に交換することができる。また、貫通孔14の中心軸方向に沿って、接地部材15を+Z方向および−Z方向に容易に移動させることができる。これにより、移動装置1の組立て時やメンテナンス時等において、各接地部材15の走行面70に対する高さを容易に調整することができる。
【0023】
(第2フレーム)
図4は第2フレームの説明図であり、図4(a)は平面図であり、図4(b)は正面図である。第2フレーム20は、本体部21の形状を除き、第1フレーム10と同様の構成となっている。したがって、本体部21以外の説明は省略する。
本体部21の長手方向における略中央付近は、−Z方向に凹んだ曲部22が形成されている。図2に示すように、曲部22の凹みに第1フレーム10の本体部11を配置することにより、第1フレーム10および第2フレーム20を干渉することなく交差して配置することができる。
【0024】
(規制部材)
図5は図2(a)のA−A線における断面図であり、規制部材の説明図である。
規制部材40は、第1フレーム10および第2フレーム20の過度な相対移動を規制している。
規制部材40は、アルミや樹脂等の非磁性材料からなる略U字形状の部材であり、プレスや鋳造、鍛造、機械加工、樹脂インジェクション等により形成される。図5に示すように、規制部材40は、第1フレーム10の本体部11の略中央付近であって、本体部11の−Z方向に配置される。なお、規制部材40は、第1フレーム10にボルト41等を用いて固定される。規制部材40および第1フレーム10の本体部11で第2フレーム20の本体部21の曲部22を囲むことにより、第2フレーム20が+Z方向、−Z方向および走行面の水平方向に過度に移動するのを規制できる。なお、第2フレーム20の本体部21の軸方向への移動は、曲部22の曲面が第1フレームの本体部に当たることにより規制される。これにより、移動装置の落下等により、脚部12に荷重が加わっても、第1フレーム10および第2フレーム20の過度な相対移動を規制することができる。したがって、後述する板バネ部材5の塑性変形を防止することができる。
【0025】
(コイル)
図1および図2に示すように、脚部12には、走行面70に脚部12を固定するための磁力を発生するコイル19が配置されている。
コイル19は、表面が樹脂でコーティングされた銅線であり、絶縁紙や樹脂等からなる不図示のインシュレータを介して、脚部12に巻回されている。コイル19は、不図示の電源に接続されており、電源からコイル19に電流を供給することにより、脚部12は電磁石として作用する。コイル19に流す電流を制御して、コイル19を励磁または消磁させることにより、磁性材料で形成された走行面70に、脚部12を吸着または離脱させることができる。コイル19は、走行面70に対する電磁石の吸着力を確保するため、走行面近傍に配置される。
【0026】
なお、本実施形態では、第1フレーム10の脚部12に取り付けられるコイル19aおよびコイル19bと、第2フレーム20の脚部12に取り付けられるコイル19cおよびコイル19dとは、それぞれ共通のループに属している。したがって、コイル19a,19bを不図示の第1の電源で制御することにより、第1フレーム10の脚部12a,12bを同時に走行面70に吸着または離脱させることができる。また、コイル19c,19dを不図示の第2の電源で制御することにより、第2フレーム20の脚部12c,12dを同時に走行面70に吸着または離脱させることができる。このように、1つの電源で2つのコイルを制御することができるので、移動装置の周辺回路を簡単に構成することができる。
【0027】
(駆動部材)
図1および図2に示すように、第1フレーム10と第2フレーム20との間には、複数の駆動部材30が配置されている。
本実施形態では、駆動部材30として圧電素子を採用している。本実施形態では、圧電体を複数重ねた積層型の圧電素子を採用している。圧電素子の変位量は約6μm/100V程度であるが、変位拡大機構により、約100μm/100V程度まで変位量を拡大している。駆動部材30は、不図示の電源に接続されている。電源の電圧を制御して圧電素子を伸縮させることにより、駆動部材30を伸縮することができる。
【0028】
このような特性を有する圧電素子からなる駆動部材30を、第1フレーム10の脚部12a,12bと第2フレーム20の脚部12c,12dとの間に配置する。具体的には、脚部12aと脚部12cとの間に駆動部材30aを配置し、脚部12aと脚部12dとの間に駆動部材30bを配置し、脚部12bと脚部12dとの間に駆動部材30cを配置し、脚部12bと脚部12cとの間に駆動部材30dを配置する。このとき、駆動部材30の変位方向が走行面70と平行となるように、2個の駆動部材30を直列接続した状態で配置する。これにより、駆動部材30が1個の場合と比較して、2倍の変位量を確保することができる。したがって、移動装置1の1ステップ動作の移動距離を長く確保でき、かつ移動装置1の移動スピードを向上させることができる。なお、1ステップ動作とは、移動装置1の第1フレーム10もしくは第2フレーム20が一回移動する動作のことをいう。
【0029】
また、本実施形態の駆動部材30は、図2(b)に示すように、走行面70の法線方向において、後述する第1板バネ部材5aと第2板バネ部材5bとの間に配置されている。
ところで、移動装置1の各構成部品の重量のうち、コイル19および脚部12の重量は大きな割合を占める。また、コイル19は前述のとおり、走行面70の近傍に配置される。したがって、第1板バネ部材と第2板バネ部材との間に駆動部材30を配置することにより、駆動部材30はコイル19および脚部12とともに走行面70の近傍に配置されるので、移動装置1の低重心化を図ることができる。これにより、移動装置1の加速および停止時における慣性モーメントの影響を低減することができるので、より良好な移動性能を確保することができる。
【0030】
(板バネ部材)
図1および図2に示すように、上述した脚部12および駆動部材30は、板バネ部材5により接続されている。
板バネ部材5は、りん青銅やアルミ、樹脂等の非磁性材料からなる、平面視略L字形状の平板部材であり、プレスや機械加工、樹脂インジェクション等により成型される。非磁性材料としたのは、前述の第1フレーム10および第2フレーム20は電磁石の鉄心として磁路を形成するので、各フレーム10,20に接続される板バネ部材5により、磁気干渉や磁束漏れ等が発生するのを防止するためである。板バネ部材5の中央部および両端部には、取付孔7が複数個所形成されている。本実施形態の板バネ部材5の板厚は約0.8mm程度であるが、移動装置1の重量や板バネ部材の材料等により適宜変更することができる。
【0031】
本実施形態では、板バネ部材5として、コイル19と走行面70との間に第1板バネ部材5aが設けられている。さらに、コイル19を挟んで第1板バネ部材5aの反対側に第2板バネ部材5bが設けられている。なお、第1板バネ部材5aおよび第2板バネ部材5bは同一の部材としてもよい。第1板バネ部材5aおよび第2板バネ部材5bを同一の部材とすることで、部品の共用化ができ、移動装置1の低コスト化ができる。
【0032】
(第1板バネ部材)
図1および図2に示すように、第1板バネ部材5aは、前述した第1フレーム10および第2フレーム20の脚部12に形成された、板バネ部材取付部16の−Z側に固定される。具体的には、第1板バネ部材5aの中央部の取付孔7に−Z側からボルトを挿通し、第1板バネ部材5aの−Z方向からボルトを締め付けることにより、第1板バネ部材5aを板バネ部材取付部16に固定する。このようにして、コイル19と走行面70との間に第1板バネ部材5aが取り付けられる。また、第1板バネ部材5aは、前述した駆動部材30の−Z側に固定される。具体的には、第1板バネ部材5aの両端部の取付孔7にボルトを挿通し、板バネ部材取付部16の−Z方向からボルトを締め付けることにより、第1板バネ部材5aに、駆動部材30を固定する。
【0033】
上述のように、コイル19と走行面70との間に第1板バネ部材5aを設けることにより、脚部12の接地部15aから第1板バネ部材5aまでの距離が短くなるので、移動装置1の移動時に脚部12は傾倒しにくくなる。また、取付後の第1板バネ部材5aは、Z方向に可撓性を有する。したがって、移動装置1の走行時に、走行面70の凹凸による衝撃を安定して吸収することができる。また、従来は第1板バネ部材5aを交換する際に、コイル19を取り外す必要があった。しかし本発明では、コイル19の−Z方向からボルトを締結して第1板バネ部材5aを固定しているので、コイル19を取り外すことなく第1板バネ部材5aを交換することができる。したがって、メンテナンス時において、容易に第1板バネ部材5aを交換することができる。
【0034】
(第2板バネ部材)
図1および図2に示すように、第2板バネ部材5bは、前述した第1フレーム10および第2フレーム20の本体部11,21の+Z側に固定される。具体的には、第2板バネ部材5bの中央部の取付孔7にボルトを挿通し、本体部11,21の+Z方向からボルトを締め付けることにより、第2板バネ部材5bを本体部11,21の両端に固定する。また、第2板バネ部材5bには、前述の第1板バネ部材5aの場合と同様に、本体部11,21の+Z方向からボルトを締め付けることにより駆動部材30が固定される。このようにして、コイル19を挟んで両側に、第1板バネ部材5aおよび第2板バネ部材5bが取り付けられる。これにより、コイル19を挟んで脚部12の離間した位置に対して同様に、駆動部材30の伸縮動作を伝達することができる。したがって、脚部12が傾倒するのをさらに抑制し、駆動部材30の変位の伝達効率を向上させることができる。また、伝達効率が向上することで、移動装置1の移動距離を長く確保できるので、移動装置1の移動スピードを向上させることができる。なお、コイル19の+Z方向からボルトを締結して第2板バネ部材5bを固定しているので、第1板バネ部材5aの場合と同様に、コイル19を取り外すことなく第2板バネ部材5bを交換することができる。したがって、容易に第2板バネ部材5bを交換することができる。
【0035】
(移動装置の動作)
上述した各構成部品により移動装置が構成される。そして、圧電素子に印加する電圧およびコイルに流す電流を制御して、各フレームの相対移動および脚部の吸着または離脱動作を適宜組み合わせることにより、移動装置は走行面を移動する。
図6は移動動作の説明図であり、図6(a)は第1フレームの移動動作の説明図であり、図6(b)は第2フレームの移動動作の説明図である。なお、図6において、紙面の上方向を前方向と定義する。また、わかりやすくするために、各構成部品の表記を簡略化または省略している。移動動作の一例として、前進動作を以下に説明する。
【0036】
まず、第2フレーム20に取り付けられたコイル19c,19dに電流を流し、第2フレーム20を電磁石として走行面に吸着させる。これにより、第2フレーム20を走行面に固定し、第1フレーム10を移動可能とすることができる。次に、駆動部材30dを伸長させ、駆動部材30bを圧縮させる。これにより、図6(a)に示すように、第1フレーム10を前方向に移動させることができる。続いて、第1フレーム10に取り付けられたコイル19a,19bに電流を流して第1フレーム10を電磁石として走行面に吸着させ、第2フレーム20に取り付けられたコイル19c,19dに流れている電流を切断して走行面から離脱させる。これにより、第1フレーム10を走行面に固定し、第2フレーム20を移動可能とすることができる。次に、駆動部材30bを伸長させ、駆動部材30dを圧縮させる。これにより、図6(b)に示すように、第2フレーム20を前方向に移動させることができる。以上の動作を繰り返すことで、前進動作を行うことができる。
【0037】
なお、後退、左方向および右方向へも、同じ原理で移動することができる。さらに、斜め方向および回転方向へも、駆動部材30の伸縮動作と、第1フレーム10および第2フレーム20の吸着または離脱動作とを適宜組み合わせることにより、同じ原理で移動することができる。詳細は特許文献1の段落0018以降に記載されているとおりである。
【0038】
以下に、移動装置が移動しているときの本実施形態の板バネ部材の作用について、従来例の板バネ部材の作用と比較しながら詳述する。
図7は、板バネ部材の説明図であり、図7(a)は従来例の板バネ部材の説明図であり、図7(b)は本実施形態の板バネ部材の説明図である。なお、図中の板バネ部材の変位量および脚部の傾倒度合いは誇張して表現している。
【0039】
図7(a)に示すように、従来例の板バネ部材50は、コイル19の+Z方向に配置されている。
移動装置1が移動する時に、駆動部材が単位長さLだけ伸長すると、板バネ部材50を介して脚部12の上部を距離Lだけ移動させる。しかし、脚部12の接地部15aには、残留磁力による吸着力および摩擦力により、その場に留まろうとする力が働く。これにより、脚部12の中心軸Tは中心軸T1のように傾倒した状態で移動するので、脚部12の接地部15aの移動距離は、Lよりも少ない距離Mしか移動しない。このため移動量を精確に制御することができない。特に、斜め方向に移動する際に移動精度が著しく悪化する。
【0040】
これに対して、図7(b)に示すように、本実施形態の第1板バネ部材5aは、コイル19と走行面70との間に配置されている。
上述した従来手法と同様に、駆動部材が単位長さLだけ伸長すると、第1板バネ部材5aは、脚部12の接地部15aに極めて近い部分に力を加えるため、脚部12の中心軸Tは、移動後の中心軸T2に示すようにほぼ平行移動する。このため、接地部15aの移動距離はLに極めて近い距離となり、移動量を精確に制御することができる。さらに、本発明では、コイル19を挟んだ反対側にも第2板バネ部材5bを備えているので、脚部12の上部は傾倒しないため、平行移動をより確実にしている。
【0041】
(移動距離の均一性について)
図8は移動装置の一回の動作(1ステップ)における移動距離のデータであり、図8(a)は従来の移動装置の1ステップの移動距離であり、図8(b)は本実施形態の移動装置の1ステップの移動距離であり、図8(c)は各移動装置の1ステップの移動距離の偏差である。以下、従来の移動装置をS−1型と呼び、本実施形態の移動装置をG−1型と呼ぶ。
なお、S−1型は図7(a)に示すような、コイル19の+Z側のみに板バネ部材50を備えたタイプの移動装置であり、非特許文献1に記載の移動装置と同タイプの移動装置である。また、S−1型とG−1型とでは、駆動部材である圧電素子の変位量が異なっており、G−1型の圧電素子はS−1型の圧電素子よりも大きい変位量を有している。
【0042】
図8(c)は、各移動装置の前後左右方向および斜め方向の移動距離の平均値に対する偏差の百分率である。
図8(c)のデータで示すように、S−1型とG−1型とでは、移動距離の偏差が大きく異なっている。具体的には、G−1型の前後左右方向の移動距離の偏差は約5%程度であり、S−1型の前後左右方向の移動距離の偏差は約20%程度である。また、G−1型の斜め方向の移動距離の偏差は約3%程度であり、S−1型の斜め方向の移動距離の偏差は約30%程度である。このように、G−1型の移動距離の偏差は、S−1型の移動距離の偏差よりも小さい。以上のデータより、本実施形態の移動装置G−1型は、1ステップ動作の移動距離の均一性に優れており、S−1型と比較して良好な移動性能を有していることが証明できたといえる。
【0043】
本実施形態によれば、図2に示すように、コイル19と走行面70との間に第1板バネ部材5aが設けられているので、脚部12の接地部15aから第1板バネ部材5aまでの距離が短くなり、脚部12が傾倒しにくくなる。また、走行面70近傍で第1フレーム10および第2フレーム20に駆動部材30の伸縮動作を伝達することができる。これにより、移動装置1が移動する時に、脚部12の接地部15aに残留磁力による吸着力および摩擦力が働いても、脚部12が傾倒するのを抑制することができる。したがって、移動装置1の良好な移動性能を確保することができる。
【0044】
なお、この発明は上述した実施の形態に限られるものではない。
本実施形態では、駆動部材として圧電素子を使用して第1フレームと第2フレームとを相対移動させている。しかし、駆動部材は圧電素子に限られず、例えば超音波モータ等のマイクロアクチュエータを用いて、第1フレームと第2フレームとを相対移動させてもよい。
【0045】
本実施形態では、移動装置は第1フレームおよび第2フレームで形成されている。しかし、フレーム数を増やすことも可能である。これにより、斜め方向や回転方向において、本実施形態よりもさらに細かい角度分解能で移動装置を移動させることが可能である。ただし、装置の構成や各フレームを相対移動させる際の制御等が簡単である点で、本実施形態に優位性がある。
【0046】
本実施形態では、第1フレームおよび第2フレームには、それぞれ2本の脚部が形成されている。しかし、各フレームにそれぞれ脚部を2本以上形成してもよい。これにより、脚部の本数が増加するので、より安定した移動が可能となる。ただし、装置の構成や各フレームを相対移動させる際の制御等が簡単である点で、本実施形態に優位性がある。
【0047】
本実施形態では、脚部にすり割りを設け、すり割りの間隔を狭めて、貫通孔の内周面で接地部材を狭持することにより、接地部材を固定している。しかし、例えば、すり割を設けず、貫通孔の内周面と脚部の外周面とを連通するボルト取付孔を形成し、ボルト取付孔にボルトを挿入して、貫通孔内に挿通された接地部材を直接締結して固定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、小型製品の量産時において、チップ部品を実装する際に適用することができる。また、マウス卵子の顕微作業や人工授精の細胞処理における精密作業等に適用することができる。
また、小型のセンサー等を本発明の移動装置に搭載することにより、容易にオプション機能を追加することができる。さらに、本発明の移動装置は軽量であるため、往復動作時に発生する振動が小さい。したがって、周辺機器への振動の影響を抑制することができ、振動対策の費用を大幅に削減することができる。
【符号の説明】
【0049】
1・・・移動装置 5・・・板バネ部材 5a・・・第1板バネ部材 5b・・・第2板バネ部材 10・・・第1フレーム 12(12a,12b,12c,12d)・・・脚部 13・・・すり割り 14・・・貫通孔 14a・・・内周面 15・・・接地部材 19(19a,19b,19c,19d)・・・コイル 20・・・第2フレーム 30(30a,30b,30c,30d)・・・駆動部材 40・・・規制部材 70・・・走行面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1フレームと、
前記第1フレームに対して交差して配置される第2フレームと、
前記第1フレームおよび前記第2フレームに連結され、走行面と交差するように伸びる複数の脚部と、
前記脚部に配置され、前記脚部を前記走行面に一時固定するための磁力を発生するコイルと、
前記第1フレームの前記脚部と前記第2フレームの前記脚部との間に配置された駆動部材と、
前記駆動部材と前記脚部とを接続する板バネ部材と、
を有し、
前記駆動部材の伸縮動作を前記脚部に作用させ、前記第1フレームと前記第2フレームとを相対移動させることにより前記走行面を移動する移動装置であって、
前記板バネ部材として、前記コイルと前記走行面との間に第1板バネ部材が設けられていることを特徴とする移動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動装置であって、
前記板バネ部材として、前記コイルを挟んで前記第1板バネ部材の反対側に、第2板バネ部材が配置されていることを特徴とする移動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の移動装置であって、
前記駆動部材は、前記走行面の法線方向において、前記第1板バネ部材と前記第2板バネ部材との間に配置されていることを特徴とする移動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の移動装置であって、
前記脚部は、
前記脚部の長手方向に沿って形成された貫通孔と、
前記脚部の外周面と前記貫通孔の内周面とを連通するように形成され、前記長手方向に沿って伸びるすり割りと、
前記貫通孔に挿通され、先端が前記走行面と当接する接地部材と、
を有しており、
前記すり割りの間隔を狭めて、前記貫通孔の前記内周面で前記接地部材を狭持することにより、前記接地部材が固定されていることを特徴とする移動装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の移動装置であって、
前記第1フレームと前記第2フレームとの相対移動を規制する規制部材を有していることを特徴とする移動装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate