説明

移動距離計測装置および移動距離計測方法

【課題】 移動体の構造物に対する相対移動距離を、簡易に高い信頼性で測定する。
【解決手段】 移動体31の導電性の構造物2に対する相対移動距離を測定する移動距離計測装置において、移動体31と一体となって移動し、交流電圧が負荷される移動検出用励磁コイル3と、移動検出用励磁コイル3に対して移動体31の移動方向の前方および後方に配置された、移動体31と一体となって移動する少なくとも2つの検出コイル4a,4bと、検出コイル4a,4bに発生した励起電圧の振幅比および位相差に基づいて、移動体31の構造物2に対する相対移動距離を算出し、移動検出用励磁コイル3に負荷された電圧に対する励起電圧の振幅比に基づいて、移動体31と構造物2との距離を求め、相対移動距離を補正する移動距離演算手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の構造物に対する相対移動距離を計測する移動距離計測装置および移動距離計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントでは、原子炉圧力容器内の炉内構造物の洗浄、点検、検査等の保守作業や切断、溶接等の補修作業を行う装置が用いられている。溶接構造物であるシュラウドの溶接線に対して作業を行う装置は、シュラウド壁面に沿って移動する。このような装置には、各種作業装置を搭載した遊泳移動装置や壁面吸着移動装置、もしくはアーム先端に各種作業装置を取り付けて遠隔で搬送・移動する炉内遠隔作業ロボットがあり、各種作業装置のシュラウドに対する相対移動距離を計測する必要がある。
【0003】
相対移動距離の計測方法には、内界センサや外界センサを装置側に搭載する方法や、装置とは別に設置した検出センサによる方法がある。内界センサによる方法としては、回転ローラを炉内構造物に接触させてその回転回数を検出し直接的に移動距離を検出する方法や、ジャイロセンサ、加速度センサの出力により動作量を演算し移動距離を検出する方法、また水深のみであれば水深センサにより検出する方法がある。外界センサによる方法としては、各種作業装置にカメラを搭載して画像処理により炉内構造物の特徴点を抽出し相対移動距離を検出する方法がある。装置とは別に固定設置した検出センサによる方法としては、例えば外部設置されたカメラにより各種作業装置の映像をとらえ画像処理によって相対移動量を検出する方法や、各種作業装置にランプや発振器等のマーカを搭載しこのマーカを外部に固定設置された各々の検出センサによりとらえて相対移動距離を検出する方法がある。
【0004】
また、特許文献1には、レーザ光が反射するときに生成するスペックルパターンを用いて相対移動量を検出する方法が開示されている。この方法において、距離計測装置は水密ケースと、このケースに収められたレーザ照射手段と、同様にケースに収められたスペックルパターンの撮像手段と、撮像手段から得られる出力変化の演算手段から構成されている。炉内構造物に対してレーザ光を照射し、反射レーザ光から得られるスペックルパターンを撮像手段で取得し、これを逐次演算処理することにより炉内構造物に対する相対移動量を計測している。この距離計測装置によれば、原子炉内水中において使用される遊泳移動装置および壁面吸着移動装置や炉内遠隔作業ロボットに取り付けられた各種作業装置の、炉内構造物に対する相対移動量を、レーザ光を照射するだけで遠隔、非接触で高精度に計測することができる。また接触式計測で困難な任意方向の移動量変化、角度変化が測定可能である。さらに非接触で計測できることから移動体や作業装置の運動を阻害することがないので位置決めが容易になり、位置や姿勢の精度が向上し作業品質を向上することができる。
【0005】
一方、特許文献2、特許文献3および特許文献4では、移動する物体の速度を固定された測定装置で測定する方法が開示されている。これらの文献に開示されている測定装置は、移動する物体を通る磁界を発生させ、物体が移動する際に生じる磁界を検出することにより物体の移動速度を測定している。
【特許文献1】特開2005−30771号公報
【特許文献2】特開平8−233843号公報
【特許文献3】特開平5−297012号公報
【特許文献4】特許第3307170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子炉圧力容器内の炉内構造物の保守、補修作業を行う装置の、相対移動距離を遠隔、非接触で測定するための、簡易で信頼性が高い方法が望まれている。しかし、内界センサによる方法においては、回転ローラが滑ってしまうと検出不可能となってしまう。また、接触反力により搬送・移動装置の移動が阻害されるといった問題点がある。また直交する2方向の移動距離を検出するため互いに回転軸を直交させたローラを配置しても、互いに他方の回転を阻害する接触反力が作用してしまい検出が困難である。ジャイロセンサや加速度センサにより検出する場合は精度が劣るといった課題がある。
【0007】
外界センサによる方法では、原子炉内の狭隘部においては目標パターンとしての炉内構造物の特徴点抽出が困難である、処理速度が遅い、検出精度が劣るといった課題がある。
【0008】
装置と別に固定設置した検出センサによる方法では、原子炉内の狭隘部において作業カメラや検出センサの設置そのものや固定・保持が困難であるといった課題がある。
【0009】
また、特許文献1による方法では、炉内構造物に付着したソフトクラッドによりレーザ光の反射率が変化して、検出出力に影響を与えることや、外乱光が撮像手段に入射して検出出力に影響を与えることが懸念される。
【0010】
特許文献2,3,4に開示されている方法は、測定装置が固定されているため、たとえば原子炉圧力容器内を移動する装置の移動距離を測定するためには、原子炉圧力容器全体を包むように測定装置を設置する必要があり、現実的ではない。
【0011】
本発明はこれらの課題を解決するためになされたものであり、移動体の構造物に対する相対移動距離を、簡易に高い信頼性で測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、導電性の構造物に沿って移動する移動体の前記構造物に対する相対移動距離を測定する移動距離計測装置において、前記移動体と一体となって移動する移動検出用励磁コイルと、前記移動検出用励磁コイルに交流電圧を負荷する手段と、前記移動検出用励磁コイルに対して前記移動体の移動方向の前方および後方に配置された、前記移動体と一体となって移動する少なくとも2つの検出コイルと、前記検出コイルに発生した励起電圧の振幅比および位相差に基づいて、前記移動体の前記構造物に対する相対移動距離を算出する演算手段と、前記移動検出用励磁コイルに負荷された電圧に対する前記励起電圧の振幅比に基づいて、前記移動体と前記構造物との距離を求め、前記相対移動距離を補正する補正手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、導電性の構造物に沿って移動する移動体の前記構造物に対する移動体の相対移動距離を測定する移動距離計測方法において、交流電流によって前記構造物に前記移動体の移動に伴って移動する渦電流を発生させ、前記移動体の移動方向の前方および後方の少なくとも2箇所で前記渦電流によって発生した磁界により励起される励起電圧を測定する電圧測定工程と、前記励起電圧の振幅比および位相差に基づいて、前記移動体の前記構造物に対する相対移動距離を求める移動距離算出工程と、前記交流電流の大きさに対する前記励起電圧の振幅比に基づいて、前記移動体と前記構造物との距離を求め、前記相対移動距離を補正する補正工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動体の構造物に対する相対移動距離を、簡易に高い信頼性で測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る移動距離計測装置の実施形態を、図面を参照して説明する。ことわらない限り原子炉容器内の水中を移動する移動体の移動距離計測装置として説明するが、水中でない場合や原子炉容器外の場合についても適用可能である。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
[実施形態1]
図2は本発明に係る実施形態1の移動体31の外観図であり、(a)は移動体31の正面図、(b)は移動体31の側面図である。また、図2(b)には炉内構造物2もあわせて示している。
【0017】
移動体31には、一対の上下スラスタ7および一対の水平スラスタ8が取り付けられている。上下スラスタ7および水平スラスタ8にはプロペラが組み込まれており、それぞれ上下方向および水平方向の推進力を発生する。また、水平スラスタ8が発生する推進力方向に垂直な移動体31の側面には、走行車輪10が取り付けられている。走行車輪10を回転させる車輪駆動モータ9も移動体31に組み込まれている。
【0018】
移動体31は、上下スラスタ7および水平スラスタ8によって原子炉圧力容器内の水中を移動し、水平スラスタ8が発生する力によって、移動体31は原子炉圧力容器内の炉内構造物2に押し付けられる。炉内構造物2に押し付けられた移動体31は、走行車輪10によって、炉内構造物2の表面に沿って移動する。なお、走行車輪10はステアリングモータ(図示せず)によって走行車輪10の向きを変更できるようになっており、炉内構造物2に沿った移動体31の移動方向を変更できるようになっている。移動体31にはコイルユニット1が取り付けられている。
【0019】
図1は実施形態1の移動距離計測装置の構成図であり、(a)は移動距離計測装置のブロック図であって、コイルユニット1は縦断面図で示す。また、図1(b)は(a)のB−B矢視断面図である。また、図1(a)には炉内構造物2もあわせて示している。
【0020】
コイルユニット1は、移動検出用励磁コイル3および2つの検出コイル4a,4bを有している。移動検出用励磁コイル3および2つの検出コイル4a,4bは、いずれも円筒形状をしており、軸が、対向する炉内構造物2の表面に垂直になるように取り付けられている。また、検出コイル4a,4bは、移動検出用励磁コイル3をはさんで移動体1の移動方向に沿った直線上に配置されている。
【0021】
図3は、実施形態1の移動体距離計測装置のブロック図である。
【0022】
移動検出用励磁コイル3および検出コイル4a,4bは出力変化検出手段5に接続され、出力変化検出手段5は移動距離演算手段6に接続されている。出力変化検出手段5は、高周波発振回路14、2台の増幅器15a,15b、3つの振幅比位相差検出手段16a,16b,16cを備えている。説明のため、2つの検出コイル4a,4bを第一検出コイル4aおよび第二検出コイル4bと呼び、2台の増幅器15a,15bを第一増幅器15aおよび第二増幅器15bと呼び、3つの振幅比位相差検出手段16a,16b,16cを第一振幅比位相差検出手段16a、第二振幅比位相差検出手段16bおよび第三振幅比位相差検出手段16cと呼ぶ。
【0023】
移動検出用励磁コイル3は高周波発振回路14に接続されている。第一検出コイル4aは第一増幅器15aの入力側に接続され、第二検出コイル4bは第二増幅器15bの入力側に接続されている。第一振幅比位相差検出手段16aは第一増幅器15aおよび第二増幅器15bの各出力側に接続されている。第二振幅比位相差検出手段16bは高周波発振回路14および第一増幅器15aの各出力側に接続されている。第三振幅比位相差検出手段16bは高周波発振回路14および第二増幅器15aに接続されている。移動距離演算手段6は第一振幅比位相差検出手段16a、第二振幅比位相差検出手段16bおよび第三振幅比位相差検出手段16cに接続されている。
【0024】
増幅器15a,15b、振幅比位相差検出手段16a,16b,16c、および、移動距離演算手段6は、移動体31とともに移動するようにしてもよいし、たとえば移動体31の外部に設置した移動体31の制御装置(図示せず)に組み込んでもよい。また、増幅器15a,15bを検出コイル4a,4bの近傍に設置し、増幅した電気信号を外部の移動距離演算手段6に送信するようにしてもよい。
【0025】
次に実施形態1の移動体距離計測装置による移動体の移動距離の計測方法を説明する。
【0026】
図4は本発明による移動距離の計測方法の原理を示す模式図である。移動検出用励磁コイル3を高周波励磁することにより、炉内構造物2を通る励磁磁界11が発生する。移動体31の移動に伴って移動検出用励磁コイル3が進行方向32に移動すると、炉内構造物2を通る磁束が変化するため、この磁束の変化を打ち消すように炉内構造物2に渦電流12が発生する。すなわち、進行方向前方では炉内構造物2を通る磁束が増加するために磁束を減少させる方向に渦電流12が発生し、進行方向後方では炉内構造物2を通る磁束が減少するために磁束を増加させる方向に渦電流12が発生する。つまり、進行方向32に対して前方および後方では、渦電流12の向きは反対になる。
【0027】
炉内構造物2に発生した渦電流12によって発生磁界13が生じる。移動検出用励磁コイル3に対して移動方向32の前方に配置した検出コイル4aおよび後方に配置した検出コイル4bによって、発生磁界13を検出する。発生磁界13によって検出コイル4a,4bには電圧が励起される。2つの検出コイル4a,4bの励起電圧の位相は、移動検出用励磁コイル3に与えられる交流の周期の半分ずれている。また、2つの検出コイル4a,4bの励起電圧の振幅の差は、移動体31の移動速度に比例する。したがって、2つの検出コイル4a,4bに発生する励起電圧の位相の差および振幅の比から、移動体31の移動速度を求めることができる。移動体31の移動距離は移動速度を時間で積分することにより求めることができる。
【0028】
実施形態1では、検出コイル4a,4bの励起電圧は第一増幅器15aおよび第二増幅器15bで増幅され、第一振幅比位相差検出手段16aに送られ、励起電圧の振幅比および位相差が検出される。移動距離演算手段6は、検出された励起電圧の振幅比および位相差を基に移動体31の移動速度および移動距離を求める。
【0029】
また、2つの検出コイル4a,4bの励起電圧の振幅および位相は、移動体31と炉内構造物2との距離によっても変化する。このため、本実施形態のように移動体31と炉内構造物2の距離が変化する場合には、補正の必要がある。そこで、移動検出用励磁コイル3に加えられた電圧と検出コイル4a,4bの励起電圧との間の振幅比および位相差を、第二振幅比位相差検出手段16bおよび第三振幅比位相差検出手段16cによって検出し、移動距離演算手段6に送る。移動距離演算手段6は、あらかじめ用意しておいた補正データを基に、移動検出用励磁コイル3に加えられた電圧と検出コイル4a,4bの励起電圧との間の振幅比および位相差から、移動距離を補正する。
【0030】
次に、移動距離演算手段6による、移動体31と炉内構造物との距離の変化に応じた、移動距離の補正の方法を説明する。
【0031】
まず、移動検出用励磁コイル3および検出コイル4a,4bからなるコイルユニット1と炉内構造物2との距離Lと、コイルユニット1の真の移動速度(実速度)Vおよび移動距離演算装置6によって求められた補正前のコイルユニット1の移動距離Vsの比V/Vsとの関係を求めておく。なお、この関係を求める際には、実際にコイルユニット1を炉内構造物2に対向させて検出コイル4a,4bの出力を測定する必要はない。移動検出用励磁コイル3が作る磁界の移動によって発生する渦電流の大きさが炉内構造物2と同じ物体を用いて測定してもよい。図5はLとV/Vsの関係を示す図である。このLとV/Vsの関係を、V=V(L,Vs)という関数として校正式または校正テーブルの形で移動距離演算手段6に与えておく。
【0032】
図6はコイルユニット1と炉内構造物2の位置関係を示す図であり、(a)は2つの検出コイル4a,4bと炉内構造物2の距離La,Lbがほぼ同じ場合、(b)は炉内構造物2に段差があり2つの検出コイル4a,4bと炉内構造物2の距離La,Lbの差が比較的大きい場合を示している。炉内構造物2の表面に溶接ビードや段差、凹凸がある場合には、図6(b)のようにLaとLbの差が大きくなる。
【0033】
図7は移動距離演算手段6による、移動距離の補正手順を示す流れ図である。
【0034】
2つの検出コイル4a,4bと炉内構造物2の距離La,Lbは、移動検出用励磁コイル3に加えられた電圧と検出コイル4a,4bの励起電圧との間の振幅比および位相差から求める(工程S1)。また、検出コイル4a,4bの励起電圧との間の振幅比および位相差から、補正前の速度Vsを求めておく(工程S2)。
【0035】
次に、2つの検出コイル4a,4bと炉内構造物2の距離La,Lbを比較する(工程S3)。LaとLbがほぼ等しい場合、すなわち、LaとLbの差の絶対値が所定の微小量ΔLより小さい場合には、補正に用いるコイルユニット1と炉内構造物2の距離Lとして、LaとLbの平均を用いることとする(工程S4)。すなわち、L=(La+Lb)/2とする。LaとLbが比較的大きい場合、すなわち、LaとLbの差の絶対値が所定の微小量ΔLより大きい場合には、距離Lとして、LaおよびLbの大きいほうを用いる(工程S5)。すなわち、L=Max(La,Lb)とする。なお、Maxは2つの数値のうち大きいほうを選択する関数である。
【0036】
コイルユニット1と炉内構造物2の距離L、補正前の速度Vs、および、あらかじめ与えられたLとV/Vsの関係から、真の速度Vを求める(工程S6)。すなわち、関数V(L,Vs)により真の移動速度(実速度)Vを求める。真の移動速度Vに微小時間Δtを乗じることによって積分し、移動距離を求める。微小時間Δtは積分間隔であり、移動距離の測定精度および移動速度に応じて適切に設定する必要がある。なお、ここでは単純な積分方法を採用しているが、他の積分方法を採用して測定精度を高めることも可能である。
【0037】
以上述べたように、本実施形態の移動距離計測装置1により、炉内構造物2に沿って原子炉圧力容器内の水中を移動する移動体31の移動距離を計測できる。また、移動距離は非接触で計測することができるため、移動体31の移動を阻害しない。このため、移動体31の位置決め精度が向上し、作業品質および作業効率が向上するという効果もある。さらに、移動距離計測装置と炉内構造物2との距離に応じて演算した移動距離を補正するので、炉内構造物2の表面の凹凸に影響されにくい計測が可能である。
【0038】
また、移動距離計測装置1のうち移動体31とともに移動しなければならない主要な部品は、移動検出用励磁コイル3および検出コイル4a,4bという電磁コイルなので、高放射線領域で使用可能であり、構造が簡単なので信頼性も高く、小型化も容易である。さらにこれらの電磁コイルを容易に着脱できるようにしておけば、放射線や温度などの影響により劣化した場合の交換も容易であり、他の移動体と共用することもできる。
【0039】
各種作業を行う機器を移動体31のように自由に運動できる装置に搭載する場合には、容易に各所に移動可能であることが利点であるが、逆に装置の位置を特定が難しいという欠点がある。本実施形態の移動距離計測装置1により、基準位置からの移動距離を計測することで、炉内構造物2に対する移動体31の位置を特定することができる。
【0040】
[実施形態2]
図8は実施形態2の移動距離計測装置の構成図であり、(a)は移動距離計測装置のブロック図であって、コイルユニット1は縦断面図で示す。また、図8(b)は(a)のC−C矢視断面図である。また、図8(a)には炉内構造物2もあわせて示している。
【0041】
実施形態2において、移動距離計測装置1には4つの検出コイル4a,4b,4c,4dが取り付けられている。4つの検出コイル4a,4b,4c,4dは、移動検出用励磁コイル3を中心とした円周上に、等間隔で配置されている。なお、検出コイルの数および配置は、これに限定されるものではなく、検出コイルは3個以上であって、そのうちの少なくとも3個は同一直線上になければよい。
【0042】
移動検出用励磁コイル3および4つの検出コイル4a,4b,4c,4dは出力変化検出手段5に接続されており、移動検出用励磁コイル3に負荷される電圧および4つの検出コイル4a,4b,4c,4dに発生する励起電圧は出力変化検出手段5で検出され、移動距離演算手段6によって移動距離が求められる。
【0043】
検出コイルを4つ取り付けているため、炉内構造物2の表面に沿った、互いに平行でない異なる2方向の移動距離を計測することができる。なお、検出コイルは3つ以上であれば、2方向の移動距離を計測することができる。検出コイルの数を増やすことにより、移動方向および移動距離の計測制度が向上する。
【0044】
異なる2方向の移動を計測することができるため、たとえば直線状の溶接ビードに沿って移動体が移動して検査などを行っている場合、移動方向の直線からのずれを検出することが可能となる。したがって移動方向を逐次修正することが可能であり、目標とする移動方向へ追従する精度が向上し、作業品質および作業効率を向上することができる。
【0045】
[実施形態3]
図9は実施形態3の移動距離計測装置の構成図である。実施形態3では、コイルユニット1の近傍に、温度補償ユニット20を取り付けている。この温度補償ユニット20の位置は、コイルユニット1と同じ温度になる位置であればどこでもよく、また、コイルユニットによって生じる磁界の影響が小さい場所が好ましい。温度補償ユニット20は、温度測定用励磁コイル21、検出コイル22および基準距離測定用部材23から構成されている。基準距離測定用部材23と温度測定用励磁コイル21および検出コイル23の距離は既知である。温度測定用励磁コイル21および検出コイル22は出力変化検出手段5に接続されている。
【0046】
移動距離計測装置1の移動検出用励磁コイル3によって発生した渦電流12の大きさは、温度によって変化する。このため、様々な温度条件でコイルユニット1を用いる場合には、温度補償することにより計測精度が向上する。温度補償ユニット20の温度測定用励磁コイル21は、移動距離計測装置1の移動検出用励磁コイル3と同様に高周波励磁されている。出力変化検出手段5により、温度測定用励磁コイル21に負荷される電圧と検出コイル22に発生する励起電圧の振幅比および位相の差を検出する。
【0047】
基準距離測定用部材23と温度測定用励磁コイル21および検出コイル23の距離は一定であるため、温度測定用励磁コイル21に負荷される電圧と検出コイル22に発生する励起電圧の振幅比および位相の差の変化から温度を求めることができる。また、温度に対する距離計測装置1が検出する炉内構造物2との距離の変化を、あらかじめ校正データとして準備しておく。温度補償ユニット20によって求められる温度とあらかじめ準備した校正データに基づいて、検出した炉内構造物2との距離を補正する。
【0048】
このようにして、様々な温度条件で使用する移動距離計測装置の検出精度を高めることができる。
【0049】
なお、以上の説明は単なる例示であって、本発明は上述の各実施形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。たとえば、移動体は気中を移動するものであってもよいし、適用場所は原子力発電所に限定されるものでもない。また、公知の移動距離計測方法と組み合わせて、公知の移動距離計測方法によって補正するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る実施形態1の移動距離計測装置の構成図であり、(a)は移動距離計測装置のブロック図であって、コイルユニットは縦断面図を示したものであり、(b)は(a)のB−B矢視断面図である。
【図2】本発明に係る実施形態1の移動距離計測装置を備えた移動体の外観図であり、(a)は移動体の正面図、(b)は移動体の側面図である。
【図3】本発明に係る実施形態1の移動体距離計測装置のブロック図である。
【図4】本発明による移動距離の計測方法の原理を示す模式図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】炉内構造物とコイルユニット間の距離に対する実速度と検出速度の比の変化を示すグラフである。
【図6】コイルユニットと炉内構造物の位置関係を示す図であり、(a)は2つの検出コイルと炉内構造物の距離がほぼ同じ場合、(b)は炉内構造物2に段差があり2つの検出コイルと炉内構造物の距離の差が比較的大きい場合である。
【図7】本発明に係る実施形態1の距離計測装置における、移動距離の補正手順を示す流れ図である。
【図8】本発明に係る実施形態2の移動距離計測装置の構成図であり、(a)は移動距離計測装置のブロック図であって、コイルユニットは縦断面図を示したものであり、(b)は(a)のC−C矢視断面図である。
【図9】本発明に係る実施形態3の移動距離計測装置のブロック構成図である。
【符号の説明】
【0051】
1…コイルユニット、2…炉内構造物、3…移動検出用励磁コイル、4a,4b,4c,4d…検出コイル、5…出力変化検出手段、6…移動距離演算手段、7…上下スラスタ、8…水平スラスタ、9…車輪駆動モータ、10…走行車輪、11…励磁磁界、12…渦電流、13…発生磁界、14…高周波発振回路、15a,15b…増幅器、16a,16b,16c…振幅比位相差検出手段、20…温度補償ユニット、21…温度測定用励磁コイル、22…検出コイル、23…基準距離測定用部材、31…移動体、32…進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の構造物に沿って移動する移動体の前記構造物に対する相対移動距離を測定する移動距離計測装置において、
前記移動体と一体となって移動する移動検出用励磁コイルと、
前記移動検出用励磁コイルに交流電圧を負荷する手段と、
前記移動検出用励磁コイルに対して前記移動体の移動方向の前方および後方に配置された、前記移動体と一体となって移動する少なくとも2つの検出コイルと、
前記検出コイルに発生した励起電圧の振幅比および位相差に基づいて、前記移動体の前記構造物に対する相対移動距離を算出する演算手段と、
前記移動検出用励磁コイルに負荷された電圧に対する前記励起電圧の振幅比に基づいて、前記移動体と前記構造物との距離を求め、前記相対移動距離を補正する補正手段と、
を有することを特徴とする移動距離計測装置。
【請求項2】
前記検出コイルは、前記移動検出用励磁コイルに対して前記移動体の移動方向の前方および後方に配置された、前記移動体と一体となって移動する少なくとも3つのコイルであって、前記検出コイルのうちの少なくとも3つは同一直線上になく、
前記演算手段は、前記検出コイルに発生した励起電圧の振幅比および位相差に基づいて、前記移動体の前記構造物に対する互いに平行でない2方向の相対移動距離を算出するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の移動距離計測装置。
【請求項3】
前記移動体と一体となって移動する温度測定用励磁コイルと、
前記温度測定用励磁コイルに交流電圧を負荷する手段と、
前記移動体と一体となって移動する温度測定用検出コイルと、
前記移動体と一体となって移動する導電体である基準距離測定用部材と、
前記温度測定用検出コイルに発生した励起電圧の前記温度測定用励磁コイルに負荷された電圧に対する比、前記温度測定用励磁コイルと前記基準距離測定用部材との距離、および、前記温度測定用検出コイルと前記基準距離測定用部材との距離に基づいて温度を算出する温度算出手段と、
前記温度算出手段が算出した温度に基づいて、前記相対移動距離を補正する温度補償手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の移動距離計測装置。
【請求項4】
導電性の構造物に沿って移動する移動体の前記構造物に対する移動体の相対移動距離を測定する移動距離計測方法において、
交流電流によって前記構造物に前記移動体の移動に伴って移動する渦電流を発生させ、前記移動体の移動方向の前方および後方の少なくとも2箇所で前記渦電流によって発生した磁界により励起される励起電圧を測定する電圧測定工程と、
前記励起電圧の振幅比および位相差に基づいて、前記移動体の前記構造物に対する相対移動距離を求める移動距離算出工程と、
前記交流電流の大きさに対する前記励起電圧の振幅比に基づいて、前記移動体と前記構造物との距離を求め、前記相対移動距離を補正する補正工程と、
を有することを特徴とする移動距離計測方法。
【請求項5】
前記電圧測定は、交流電流によって前記構造物に前記移動体の移動に伴って移動する渦電流を発生させ、前記移動体の移動方向の前方および後方であって同一直線上にない少なくとも3箇所で前記渦電流によって発生した磁界により励起される励起電圧を測定する工程であって、
前記移動距離算出工程は、前記励起電圧の振幅比および位相差に基づいて、前記移動体の前記構造物に対する互いに平行でない2方向の相対移動距離を求める工程であること、
を特徴とする請求項4記載の移動距離計測方法。
【請求項6】
第二の交流電流によって前記移動体と一体となって移動する導電体に第二の渦電流を発生させ、前記導電体と所定の距離だけ離れた位置で前記第二の渦電流によって発生した磁界により励起される第二の励起電圧を測定する温度測定用電圧測定工程と
前記第二の交流電流の大きさに対する前記第二の励起電圧の振幅比および前記所定の距離に基づいて温度を算出する温度算出手段と、
前記温度算出手段が算出した温度に基づいて、前記相対移動距離を補正する温度補償工程と、
を有することを特徴とする請求項4または請求項5記載の移動距離計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−78558(P2007−78558A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268213(P2005−268213)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】