説明

移植用の死体心の評価および蘇生のための組成物および方法

本発明は、エクスビボにおけるヒト候補死体心の評価、蘇生、トリアージ、および維持のための装置、溶液、および方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、組織保存および臓器移植の分野に関する。一態様において、本発明は特に臓器の長期保存用の溶液に関し、より詳細には、移植前の心臓の保存用の水溶液に関する。一態様において、本発明は、心臓移植に先だって候補死体心の予想される働きを評価するための装置および方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
背景
組織および臓器の保存液は、(i) 体外で組織または臓器が生存可能な状態に維持されうる時間を延長するように;および (ii) レシピエントへの移植後に該組織または臓器の働きを最大にするように設計されている。これらの溶液の例としては、(a) スタンフォード大学液(Swanson, D. K., et al., Journal of Heart Transplantation, (1988), vol. 7, No. 6, p 456-467を参照されたい);(b) 改変コリンズ液(Maurer, E. J., et al., Transplantation Proceedings, (1990), vol. 22, No. 2, p 548-550; Swanson, D. K., et al.を参照されたい);および (c) ウィスコンシン大学液(1989年1月17日発行のBelzer, et al., 米国特許第4,798,824号を参照されたい)が挙げられる。
【0003】
上述した組織または臓器の保存液はそれぞれ、(i) エクスビボ保存期間中の、候補の組織または臓器の生理機能および代謝、ならびに (ii) 該組織または臓器の移植後生存率に対して異なる効果を発揮する。さらに、(a) 温停止(warm arrest)/冷虚血、(b) 冷停止(cold arrest)/大量灌流(macroperfusion)、(c) 冷停止/微小灌流、および (d) 冷停止/冷虚血を含む、これらの溶液を用いた(心臓保存用の)様々なプロトコールが記載されている。
【0004】
この第一の心臓保存法は、放血および低温保存の前の、温かい心停止液を用いた心停止段階を伴う。しかし、「温かい」期間中に心筋エネルギーの蓄えが急速に欠乏するので、このプロトコールは最適ではない。
【0005】
冷保存液を用いた心停止段階を伴う第二の方法はより優れているが、従来の保存液による心臓の連続灌流によって酸素フリーラジカルが発生し、これは、移植後の、候補の組織または臓器の生存率を損なう可能性がある。
【0006】
「少量灌流(trickle perfusion)」と称する系において1972年に雑誌Natureに最初に記載された第三の方法もまた、望ましくない酸素フリーラジカルを発生させる。
【0007】
第四の方法である、死体ドナー心臓の冷心停止法による(cold cardioplegic)停止およびその後の冷臓器保存液中での浸漬は、現在の標準的な心臓保存法である。この方法によって最大6時間の「保存期間(window of preservation)」が得られるが、4時間を上回る保存は、移植後生存率の著しい低下を伴う。
【0008】
これらの問題を悪化させているのは、臓器の利用可能性に付随する論争である。現在、米国において、全ての心臓同種移植片は、生命維持システムで維持された、心臓が拍動している(beating heart)脳死ドナーから入手される。この厳しく制限された臓器プールの結果、心臓移植候補者全体の10%〜40%が、新しい臓器を待ちながら死亡する。
【0009】
したがって、(i) 候補臓器が移植用に生存可能であり続ける期間を延長する生理学的溶液、ならびに、(ii) 移植に先立って候補ドナーおよび/または死体心の予想される働きを評価するための方法および装置が必要とされている。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は概して、組織保存および臓器移植の分野に関する。特に、(選択された態様において、)本発明は臓器の長期保存用の溶液に関し、より詳細には、拍動している心臓および拍動していない心臓の保存プロトコールにおいて使用される溶液に関する。選択された態様において、候補死体心および脈管構造の単離された部分を蘇生させて保存するために、これらの溶液が使用される。一態様において、上記死体心は、拍動している状態で移植前に摘出される。別の態様において、上記死体心は、心臓が拍動していないドナーから摘出される。
【0011】
他の態様において、本発明は、心臓移植に先だって候補死体心の予想される働きを評価するための装置および方法に関する。
【0012】
移植が意図される臓器を適切に保存することは、移植後に臓器の適切な機能を持続させるために不可欠である。選択された態様において、本発明は、現在臨床的に使用されている溶液または文献に以前記載された溶液よりも長い期間、生存可能な状態で臓器を保存する溶液を記載する。好ましい態様において、本発明は、心臓および脈管構造の単離された部分の保存を記載する。
【0013】
本発明の態様は、心臓および心臓組織に対する延長された保存期間を提供する。本発明がいずれかの特定の機構(または特定の灌流温度)に制限されることを意図するわけではないが、拍動状態および実質的な正常温状態で心臓を維持することによって、停止状態および低体温状態で維持された停止した候補死体心について現在観察されている、4〜6時間の生存可能期間を十分上回る保存期間が提供される。つまり、候補死体心を拍動状態で維持することは、少なくとも10時間、より好ましくは20時間、最も好ましくは24時間を上回る期間にわたって、正常な代謝機能、収縮機能、および内皮機能を持続させるのに(部分的に)役立つ。
【0014】
エクスビボにおける候補死体心に関して、この保存期間延長は、(i) ドナーとレシピエントの組織型(移植臓器のレシピエントの生存に影響する)の交差適合試験、および (ii) 延長された輸送時間中の生存率の維持を可能にし、それによって、臓器が摘出されうる地理的領域の拡大が可能になる。そしてこのことは、臓器のドナーおよびレシピエントの予想される数を増大させる。本発明の好ましい態様は死体心を記載しているが、本出願において記載されている溶液、プロトコール、および装置は、その他の臓器および組織の保存に対して適合化されうる。
【0015】
本発明の様々な態様によって記載された装置、灌流液、および方法は、候補死体心の蘇生および評価のために使用されうる。さらに、RMAが6.5を上回り(より好ましくは6.8を上回り)、かつ、候補死体心が拍動状態へ電気転換(electroconversion)された後に左室拡張末期圧(本明細書において、以下「LVEDP」と称する)が約0.0〜30.0 mmHgの範囲内に維持されている場合、候補死体心は移植に適していると見なされうる(たとえ全停止30分後よりも後であっても)ことが示されている。
【0016】
一態様において、本発明は、以下の段階を含む、候補死体心の生存率を評価する方法を記載する:
停止した候補死体心を提供する段階;
該停止した候補死体心を拍動している候補死体心に転換する段階;
該拍動している候補死体心の組織pHを測定する段階;および
該測定された組織pHを使用して、該候補死体心の生存率を評価する段階。
【0017】
一態様において、本発明は、以下の段階を含む、候補死体心の生存率を評価する方法を記載する:
停止した候補死体心を提供する段階;
該停止した候補死体心を拍動している死体心へと転換する段階;
該拍動している候補死体心の (i) 心筋層の前側のpH、および (ii) LVEDPを測定する段階;ならびに
該測定された心筋pHおよび該LVEDPを使用して、該候補死体心の生存率を評価する段階。
一態様において、上記拍動している心臓は、機能性調律(functional rhythm)状態にある。一態様において、上記機能性調律は、洞調律、結節調律、および心房細動からなる群より選択される。一態様において、上記候補死体心はヒト由来である。
【0018】
一態様において、本発明は、以下の段階を含む、候補死体心を処置する方法を記載する:
候補死体心を提供する段階;
該候補死体心の組織pHを測定する段階;および
段階(b)で測定された組織pHが6.7を上回る場合に、該候補死体心をレシピエントに移植する段階。
一態様において、上記候補死体心は拍動している。
【0019】
一態様において、本発明は、以下の段階を含む、死体心を処置する方法を記載する:
停止した死体心を提供する段階;
該停止した心臓を拍動している死体心へと転換する段階;
該拍動している候補死体心のLVEDPを測定する段階;および
該LVEDPが30.0 mmHg未満である場合に、該候補死体心をレシピエントに移植する段階。
一態様において、上記拍動している心臓は、機能性調律状態にある。一態様において、上記機能性調律は、洞調律、結節調律、および心房細動からなる群より選択される。一態様において、上記候補死体心はヒト由来である。
【0020】
一態様において、本発明は、以下の段階を含む、候補死体心を処置する方法を記載する:
停止した候補死体心を提供する段階;
該停止した心臓を拍動している候補死体心へと転換する段階;ならびに
(i) 該拍動している候補死体心の組織pH、および (ii) 該拍動している候補死体心のLVEDPを測定する段階。
一態様において、本発明は、以下の段階を含むその後の段階をさらに記載する:
段階 (c) で測定された組織pHが6.8を上回りかつ左室拡張末期圧が30 mmHg未満である場合に、上記候補死体心をレシピエントに移植する段階。
一態様において、上記拍動している心臓は、機能性調律状態にある。一態様において、上記機能性調律は、洞調律、結節調律、および心房細動からなる群より選択される。一態様において、上記候補死体心はヒト由来である。
【0021】
一態様において、本発明は、以下の段階を含む、候補死体心を処置する方法を記載する:
停止した候補死体心を提供する段階;
該候補死体心を生理学的溶液で灌流する段階;
該灌流された停止した候補死体心を拍動している心臓へと転換する段階;および
該拍動している候補死体心の心筋層の前側のpHを測定する段階。
一態様において、本発明は、以下の段階を含むその後の段階をさらに記載する:
段階 (c) で測定されたpHが6.8を上回りかつLVEDPが30.0 mmHg未満である場合、上記死体心を移植する段階。
一態様において、上記生理学的溶液は、ハンクス平衡塩溶液、アスコルビン酸、還元型グルタチオン、L-アルギニン、ヘパリン、アデノシン、グアノシン、イノシン、リボース、脂質、赤血球、アルブミン、インスリン、エピネフリン、およびアスピリンからなる。
【0022】
定義
本明細書において使用される「患者」という用語は、ヒトを含むがこれに限定されない、動物界のメンバーを含む。
【0023】
本明細書において使用される「心停止」とは心臓の麻痺を指す。
【0024】
本明細書において使用される「抗酸化剤」とは、酸化可能な基質である生物学的分子を含む混合物または構造中に存在する場合に、基質である生物学的分子の酸化を遅延させるか予防する物質である。例えば、アスコルビン酸は抗酸化剤である。
【0025】
本明細書において使用される「平衡塩溶液」とは、細胞または組織の急性損傷を予防するための浸透圧的に平衡な水溶液と定義される。
【0026】
本明細書において使用される「心停止液」とは、輸送または手術の間の心臓の保存を助ける溶液と定義される。
【0027】
本明細書において使用される「脈管構造の単離された部分」とは、外科手術により摘出された脈管系の部分を指す。脈管構造の単離された部分の例には、(これらに限定されるわけではないが)大動脈同種移植片、内胸動脈、および伏在静脈が含まれる。
【0028】
本明細書において使用される「生理学的溶液」とは、正常間質液と等張であることによって正常組織に適合性のある水性の塩溶液と定義される。
【0029】
本明細書において使用される「候補死体心」とは、患者への移植に利用可能である、(心臓が拍動しているまたは心臓が拍動していないドナーから)摘出された心臓と定義される。一部の態様において、候補死体心は、心臓と循環系をつなぐ様々な長さの血管(例えば、上行大動脈、下行大動脈、下大静脈、上大静脈、肺動脈、および肺静脈)を含む。
【0030】
本明細書において使用される頭字語「LAPmpH」とは、心臓の心房または心室の前壁および後壁に接触したpH電極によって測定される「前部または後部の心筋pHの低下(Lower of the Anterior or Posterior Myocardial pH)」を指す。
【0031】
本明細書において使用される「正常温」という用語は、哺乳動物の正常な体温を指す。一例として、ヒトの正常な体温は約36.0〜38.0℃の範囲内である。
【0032】
本明細書において使用される頭字語「RMA」とは、「局所心筋アシドーシス(Regional Myocardial Acidosis)」を指し、これは、測定された前部または後部の心筋pHの低下(すなわち「LAPmpH」)として定義される。
【0033】
本明細書において使用される「正常範囲内のRMA」という語句は、6.5〜7.8の範囲内の、より好ましくは6.8〜7.2の範囲内のRMAを指す。
【0034】
本明細書において使用される「正常範囲内のLVEDP」または「正常LVEDP」という語句は、約0.0〜30.0 mmHgの範囲内のLVEDPを指す。
【0035】
発明の詳細な説明
I. GALAH液およびGALAHS液
本発明によって記載される臓器保存液は、移植を意図される臓器が生存状態で保存されうる期間を増大させる。本発明の態様によって記載される臓器保存(または維持)液は、「GALAH」液(心臓のためのグルタチオン、アスコルビン酸、L-アルギニン(Glutathione, Ascorbic acid, L-Arginine for the Heart)にちなんで命名された)と称する。このGALAH液は、Thatteらに付与された米国特許第6,569,615号(参照により本明細書に組み入れられる)に開示されたGALA液を改変したものである。
【0036】
本発明の態様において記載されるこのGALAH液は、その他の臓器保存液とはいくつかの点で異なる。晶質ベースの(crystalloid-based)心停止・保存液(以前文献に記載された)は、4〜6時間の範囲内で候補死体心の構造的完全性および機能を保存する。本発明の選択された態様は、NOS基質および抗酸化剤を含む溶液用の処方を記載するが、これらは容易に調製され、かつ(好ましい態様において)死体心を保存するように設計されている。
【0037】
さらに、本発明の様々な態様において記載される保存液は、先行技術において記載される多くの溶液(例えば、Sternらに付与された米国特許第5,552,267号を参照されたい)のように、溶液からのナトリウム、カルシウム、および塩化物の除去を必要としない。この点において、本発明の選択された態様によって記載される保存液は、先行技術において記載された組織保存液よりも改善されている。
【0038】
一態様において、本発明のGALAH液は、ハンクス平衡塩溶液ベースである。ハンクス平衡塩溶液(HBSS)は、D-グルコース1 g/L、(無水)塩化カルシウム0.14 g/l、塩化カリウム0.4 g/l、リン酸カリウム0.06 g/l、塩化マグネシウム.6H2O 0.1 g/l、塩化マグネシウム.7H2O 0.1g/l、塩化ナトリウム8 g/l、炭酸水素ナトリウム0.35 g/l、およびリン酸ナトリウム0.048 g/lを含む、市販の生理学的塩溶液である。
【0039】
好ましい態様において、アスコルビン酸(ビタミンC)、還元型グルタチオン、L-アルギニン、およびヘパリン(好ましい態様において、添加されるこれらの化合物は、それぞれ約500μM、1000μM、500μM、および50ユニット/mlの最終濃度に調整される)、ならびに、アデノシン、グアノシン、イノシン、リボース、および、脂質内溶液(intralipid solution)すなわち心筋細胞への代謝エネルギーのさらなる供給源を提供する脂肪酸エマルジョン(好ましい態様において、これらのさらなる化合物であるアデノシン、グアノシン、イノシン、リボース、および脂質内溶液は、それぞれ約1000μM、1000μM、1000μM、および5000μM、ならびに20%の最終濃度に調整される)をHBSSに追加することによって、本発明のGALAH液が調製される。上述のGALAH液内の化合物のための商業的供給源が数多く存在する。そのような供給源の1つが、St. Louis, MissouriのSigma Chemical Companyである。
【0040】
一部の態様において、前段落に記載されたGALAH液に、さらなる水溶性ビタミン(すなわち溶液中の天然アスコルビン酸に加えて)、脂溶性ビタミン、および/または無機物(セレンおよび亜鉛を含むがこれらに限定されるわけではない)を追加してもよい。一部の態様において、抗生物質であるミノサイクリンが(0.1〜100μMol/Lの濃度で)GALAHに追加されるが、これは、ミトコンドリアからのチトクロムC放出に媒介されるミトコンドリア孔遷移を阻害しかつしたがってアポトーシスから保護する。
【0041】
別の態様において、このGALAH液(ビタミンおよび/または無機物が追加されたまたは追加されていない)に、以下をさらに追加し、それによって、GALAHS液(すなわち、以下に列挙する様々な化合物のうち1種または複数が追加された、GALAH「S」)を作製する:
自己由来または異種由来の精製された濃縮赤血球(好ましい態様においては最終ヘマトクリットが10〜55%の範囲内である);
ヒトアルブミン(一態様においては最終濃度が1〜20%の範囲内であり、好ましい態様においては最終濃度10%である);
グルコース取り込みを改善する、インスリン(一態様においては溶液の体積1Lあたり5〜100ユニットが添加され、好ましい態様においては溶液の体積1Lあたり40ユニットが添加される);
エピネフリン;
交感神経の緊張(sympathetic tone)の維持を助ける、β1アゴニスト(一態様においては溶液の体積1Lあたり5〜10mgが添加され、好ましい態様においては溶液の体積1Lあたり8mgが添加される);および
アスピリン(好ましい態様においては溶液の体積1Lあたり40〜200mgが添加される)。
【0042】
本発明がいずれかの特定の機構に限定されることを意図するわけではないが、GALAHS液中の赤血球は (i) 灌流された死体心を酸化状態で維持し、かつ (ii) 酸素センサー(チオールおよび/または一酸化窒素結合したヘムの送達を介して低酸素血管拡張および高酸素血管収縮を調節する)としてはたらくと考えられる。追加されたアルブミンは細胞変性に対する保護を提供するが、一方で、ヌクレオシド(三リン酸塩の形状で提供される)は心臓内の細胞性酵素に対する基質を提供し、それによって、心筋の細胞機能および収縮および弛緩のための高エネルギーリン酸(ATP、GTP、ITP)の供給源を提供する。抗生物質、その他のホルモン、および薬理学的作用物質もまた、GALAH液またはGALAHS液に添加されうる。GALAH液およびGALAHS液はどちらも(選択された態様において)実質的に等浸透性であり、電解質安定であり(electrolyte stabilized)、低粘度であり、好ましい態様において20〜37℃の範囲内に維持されており、かつ、好ましい態様において、およそ6.8〜7.8の範囲内の最終調整pHを有する。
【0043】
II. 候補死体心の評価
A. 方法論の概要
本発明の別の態様は、移植候補である死体心の評価を対象とする。本発明の好ましい態様は、心臓が拍動しているドナーおよび心臓が拍動していないドナー(以下「NBHD」と称する)の両方から摘出された死体心の評価を意図している。
【0044】
一態様において、この評価プロトコールは、(i) 摘出心の順行性再灌流;(ii) 該再灌流された摘出心の(拍動状態への)電気転換;ならびに (iii) その後の、左心室の前壁および後壁における (a) 腔内圧の測定および/または (b) 心筋pHの測定からなる。心筋pHの測定を特定の位置に限定することは意図されていない。すなわち、右心室および右心房および左心房の前壁および後壁における心筋pHの測定もまた意図される。好ましい態様において、上記候補心臓の移植後の働きを予測するために、これらの測定値(例えば、心筋pHおよび/または腔内圧)が使用される。
【0045】
一態様において、限局性心筋アシドーシス(以下、本明細書において「RMA」と称する)を予想するために、上述した前部および後部のpH測定値が使用される。具体的には、RMAは、前部または後部の心筋pH測定値の低下(すなわち「LAPmpH」)によって定義される。一態様において、候補死体心において測定されたRMAおよびLVEDPを組み合わせて、該死体心の移植後の働きを予測する指標を作成する。具体的には、一態様において、(i) RMAが6.6を上回り、より好ましくは6.7を上回り、最も好ましくは6.8を上回り、かつ (ii) LVEDPが約0.0〜30.0 mmHgの範囲内である候補死体心は、移植後の該死体心の順調な働きを予言するものである。別の態様において、問題の死体心の、移植後の順調な働きを予測するために、RMAおよびLVEDPを別々に用いることができる。
【0046】
別の態様において、心筋細胞機能のさらなる測定パラメータを、pHおよびLVEDPに追加することができる。すなわち、ミオシン、アクチン、ミトコンドリアの呼吸および分極、ATPレベル、エステラーゼ活性および膜透過性(構造的および機能的な生存率の測定)、カルシウム動員、eNOS機能、ならびに一酸化窒素産生を測定することによって、pH電極の領域(好ましい態様においては、左心室の前壁および後壁)から採取した心筋細胞生検をさらに評価する。一部の態様において、アゴニストおよびアンタゴニストの存在下で、蛍光ベースのアッセイ法である免役蛍光顕微鏡法ならびに透過および/もしくは落射蛍光モードの多光子顕微鏡法を用いて、または、標準的な蛍光/透過光顕微鏡によって、心筋細胞のアポトーシスおよび壊死を評価する。すなわち、正常範囲内のRMAおよびLVEDPを有する候補死体心が、実質的に正常な範囲内の化学的性質および形態(前述の生検試料中で測定および観察される)も示す場合、これらの生検データは、候補死体心の移植後の好適な働き(RMAおよび/またはLVEDPによって予言される)をさらに予言していると考えられる。
【0047】
B. 候補死体心の供給源および摘出
一態様において、本発明は、移植用の任意の候補心臓の評価を意図する。すなわち、本発明の態様において記載されるトリアージ法を、心臓が拍動しているドナーまたはNBHDのいずれかから摘出された候補心臓に適用することができる。
【0048】
米国およびその他の世界各地において、現在、全ての心臓同種移植片は、生命維持システムで維持された、脳死/心臓が拍動しているドナーから入手されている。しかし、心臓が拍動しているドナーから心臓が摘出され、その後冷心停止液中で移植まで維持されたとしても、移植後のその生存率および/または働きを損なう代謝的変化を受ける可能性は残っている。本発明は、一部、(i) 改善された保存液、および (ii) ドナーの拍動している心臓の移植前評価のための方法論を対象とした態様を記載する。
【0049】
死亡時の心筋血流の停止からその後のNBHDの摘出までの間に起こる有害な虚血性変化のために、NBHDは、移植のために利用可能な心臓のプールから除外されてきた。本発明の態様は、これらの変化を最小限にし、その重篤度を評価し、かつ、その後の移植に対する蘇生NBHDの適合性を予測するために設計されている。
【0050】
一態様において、拍動している心臓およびNBHD両方を摘出するために以下のプロトコールを適合化させることができる。心臓の摘出およびその後の全手順は、滅菌条件下で実施する。胸骨正中切開術(midsternotomy)を経て、(1) できる限り遠位の大動脈を切除し、(2) 上大静脈および下大静脈を、各血管の長さをできる限り長くして切除し、(3) 肺静脈をその分岐部を超えて切除し、(4) 上肺静脈および下肺静脈を、両血管をできる限り長くして切除することにより、心臓が取り出される。切除の順番は以下の通りである。心膜を切開したらすぐに上大静脈および下大静脈をできる限り遠位で切り開き(dissect)、遠位クランプ(distal clamping)の後に分割する。次に、できる限り遠位で無名動脈を切り開き、切除する。灌流装置(図1)由来の後負荷カニューレ(afterload cannula)を無名動脈に接続し、左頸動脈の取出し前に大静脈弓をクランプする。カニューレを介して、ヘパリン、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼを(独立にまたはこれらを組み合わせて)含むGALAH液5リットルを、心臓に流す。最後に、肺動脈および肺静脈を切除して、ドナーの胸腔から心臓を取り出す。
【0051】
一態様において、心臓が切除されたらすぐに、pH電極(KHURI pHモニタリングシステム、テルモ)を左心室の前および後ろの領域に設置する。必要ならば、心筋細胞の生理学的、生化学的、および組織病理学的な評価のために、pH電極の領域由来の生検試料をこの段階で得てもよい。心臓を灌流チャンバ内に配置し、続いて、以下に記載のように灌流システムに接続する。
【0052】
C. 候補死体心の格納・保存(containment and preservation)システム
本発明はいずれかの特定の構造に限定されるわけではないが、心臓の格納・保存システムの一態様の系統図を式1に示す。心臓が拍動しているドナーまたはNBHDのいずれかから摘出した候補死体心133を、灌流チャンバ101内に含有された灌流液126に浸漬させる。このチャンバはLEXANなどの硬プラスチックから製造されることが好ましいが、その他の材料もまた意図される。上記灌流チャンバの分解組立図を図2に示す。好ましい態様において、この灌流液はGALAH液であるが、任意で全血または血液製剤を追加してもよい。
【0053】
遠心ポンプ102(保存システムの構成要素をいずれかの特定のモデルまたは製造業者に限定することを意図するわけではないが、好ましい態様において、遠心ポンプはMedtronics(Minneapolis、MN)製である)が作動して拍動流を送り、それによって、灌流液が循環して、代謝産物および壊死組織片を灌流液から除去する活性化チャコールフィルター103内に入り、その後、膜型人工肺104および一酸化窒素ガスインジェクタ(RBCおよび/または血液が該液中で使用されている場合)へと入る。特記しない限り、装置100内の灌流液126は、管142を介した灌流回路全体にわたって流体連通したままである。制御型酸素ボトル105から派生した膜型人工肺104によって、酸素95%および二酸化炭素5%の混合物を用いて(1〜2 L/min)、流体を酸化させる(さらに、RBCおよび/または血液143が使用される場合、灌流液中の一酸化窒素濃度が40〜120 ppmに維持されるように、制御型一酸化窒素ボトル106から一酸化窒素を注入する)。人工肺表面の複数の穴によって、圧力のかかった灌流液を必要に応じて他の装置へ導くことができる。水循環による温水器および/または熱交換機107は、灌流回路内の流体を、一態様においては、20〜37℃の範囲内で維持する。
【0054】
温められた(または冷却された)灌流液は、その後、ドナーの心臓を所望の温度に維持する。血液またはRBCが灌流液の構成要素である場合、温められた酸化流体は、人工肺排出ライン(line)によって、白血球除去のための白血球フィルター108(好ましい態様において、白血球フィルター108はMedtronics(Minneapolis、MN)製である)まで運ばれる。上記フィルターの排出ラインによって流体は選択弁109まで運ばれるが、これは、初期灌流ライン110(大動脈を介した順行性灌流のため)に、上肺静脈を介した左心房供給ライン111(左心房を介した順行性灌流のため)に、または、プライミング(priming)目的で両ラインへ同時に、流体を導くものである。これらのライン(例えば110および111)は、回路の動脈側を形成する。初期灌流ライン110の反対端はT字管112に接続されており、これは分岐して大動脈ライン113および後負荷カラムライン114となる。
【0055】
水平ライン115は、後負荷ラインを大動脈還流ライン116に接続する。後負荷カラムライン114から水平ライン115を通って大動脈還流ライン116へと入る流体の一方向性ポンピング(unidirectional pumping)を可能にするために、一方向緩衝弁125を水平ライン115内に設けることができる。後負荷ラインの遠位端をレザバーに取り付け、大動脈を通じてポンピングされた流体をレザバー117に逆流させる。大動脈ラインにより、灌流の様式に依存した、ドナー心臓からの双方向の流れが提供される。心臓がそれに対して拍動またはポンピングする後負荷圧を選択的に変更するために、後負荷カラムライン114の高さを調整できる。別の態様において、後負荷カラムライン114の高さを操作する代わりに、遠心ポンプ136を大動脈還流ライン116中に組み込んで後負荷圧を調節することができる。
【0056】
後負荷カラムによってポンピングされた流体は、大動脈還流ライン116を通じてレザバー内に戻る。冠動脈流出液(coronary effluent)をレザバー117に戻すために、右心室還流ライン118も同様に肺動脈に接続される。これらのラインは、回路の静脈還流側を形成する。様々なIVバッグ/ライン119(好ましい態様において、これらのバッグおよびラインはBaxter(Deerfield、IL)製である)を点滴マニホールド(drip manifold)120に接続することができ、これは次に、必要に応じて、灌流液、血液、血液製剤、ならびに様々な化学物質および薬学的作用物質の濃縮および/または補充のために、レザバー117に接続される。
【0057】
D. 拍動状態での候補死体心の維持
一態様において、上述の灌流回路への様々な接続を促進するように十分な遠位長の大動脈、肺動脈、上肺動脈および下肺動脈、ならびに上大静脈および下大静脈を保存しながら、(拍動状態または停止状態いずれかの)候補死体心133を摘出する。本発明がいずれかの特定の長さの遠位大動脈、肺動脈、ならびに上肺静脈および下肺静脈、ならびに上大静脈および下大静脈に限定されることは、意図されていない。しかし、好ましい態様において、これらの血管の長さは2cmを上回る。候補死体心を、灌流液126で満たした灌流チャンバ101中に入れる。灌流チャンバを蓋144で覆う。本発明が特定の灌流液に限定されることは意図されていない。一態様において、この灌流液はGALAHである。別の態様において、灌流液は白血球除去全血である。別の態様において、灌流液は、全血を追加したGALAH液である。別の態様において、灌流液は、濃縮赤血球を追加したGALAH液である。
【0058】
一態様において、灌流チャンバ内に死体心を設置した後、残りの流れライン(flow line)を候補死体心に接続する。具体的には、大動脈カニューレ121と大動脈137の間の接続が完了し、上肺静脈138を介して供給ライン111が左心房に接続され、右心室還流ライン118が肺動脈に接続される。本発明が候補死体心の血管と灌流回路との接続を容易にするために使用される材料に限定されることは、意図されていない。しかし、一態様において、密閉されるように灌流ラインまたはカニューレの端部の外壁の周りの血管内腔を押し縮める結紮が生じるように、絹製縫合糸を所与の血管に巻き付け、引き結び(sliding knot)によって穏やかに締める。この密閉は、灌流チャンバ101中の灌流液の結紮周囲の流れ(peri-ligature flow)を実質的に妨害するのに十分である。一態様において、上大静脈および下大静脈を、絹製縫合結紮糸を用いて閉じる。一態様において、これらの絹製縫合結紮糸は、Ethicon Corporation製の4-0ブレードシルク製品である。
【0059】
一態様において、遠心ポンプ102が作動し、それによって、回路の動脈側を通じて灌流液が循環する。一態様において、上記循環灌流液の温度は、熱交換機107によって調節される。好ましい態様において、上記熱交換機によって上記灌流液の温度は20〜40℃の範囲内で調節される。別の態様において、上記灌流液を人工肺104によって酸化させる。初期灌流ライン110および左心房供給ライン111に流体を同時に通すことによって、回路がプライミングされる(primed)。動脈ラインがプライミングされ全ての気泡が除去されたら、弁109を回して流体を初期供給ライン110に通す。大動脈カニューレ121を用いて灌流ラインを大動脈に接続し、それによって、(一態様においては)拍動していない状態の候補死体心の、大動脈を介した即時灌流を可能にする。好ましい態様において、この段階で、後負荷カラムライン114をクランプ(clamp)して、大動脈への灌流液の流れを最大にする。好ましい態様において、大動脈を介した心臓のこの順行性灌流は、約15分間実施される。この時間の間、候補死体心の生理学的な働きを測定する様々な機器からのベースライン測定値(LVEDP、腔内圧、および心筋pHを含むがこれらに限定されるわけではない)を、候補死体心が順行性灌流に応じて平衡化するのと同時に記録する。この期間の間に、心臓が自発的に拍動しはじめることが予想される。pH平衡化から15分後に心臓が拍動していない場合は、その後、これを電気的に心臓転換する(cardioconverted)。
【0060】
一態様において、この平衡化期間後に、選択弁109を通常の動作位置まで回転させることによって大動脈への(灌流液の)流れが減少し、それによって、左心房供給ライン111を介した左心房への流れが増大し、かつ(相反的に)、初期供給ライン110を通じた流れが漸進的に遮断される。その後、後負荷カラムライン114をアンクランプする(unclamp)。ほとんどの場合、この時点で、候補死体心は非拍動状態から拍動状態へと転換すると考えられる。しかし、候補死体心が拍動状態へと転換できない(または不規則な調律である)場合には、ECG/自動除細動器(Automatic Defibrillator)122(好ましい態様において、ECG/自動除細動器122はMedtronics(Minneapolis、MN)製である)から、該心臓を灌流チャンバ101中で支えている半透膜ポーチ124に組み込まれた除細動器パッド123へと電流を流すことによって、該候補死体心を電気転換してもよい。
【0061】
一態様において、拍動している候補死体心により生じる天然の駆出率によって供給される心臓への灌流液の流れに加えて、心臓への灌流液の流れをポンプ102によって補ってもよい。好ましい態様において、拍動している死体心を、灌流チャンバ101の上方に配置された垂直方向の後負荷カラム114内に含まれる灌流液のカラムにより生じた力によって生じる後負荷圧に対して拍動させ、それによって、拍動冠動脈血流(pulsatile coronary flow)を促進する。
【0062】
本発明の好ましい態様において、右心房および右心室に取り付けた電線127を介したECGによって、候補死体心の活動電位、電気的活性、および機械的収縮機能(mechano-contractile function)をモニターする。心臓をチャンバ内で支えているポーチ124に組み込まれた除細動器パッド123に接続された自動除細動器122により、必要に応じて心臓を蘇生させる。候補死体心の機械的収縮機能をモニターするのに使用される同じ電線127は、除細動パルスを心臓に伝えることができる。すなわち、候補死体心が不規則な調律となるか停止した場合に、該候補死体心を(ECGによって記録された)不規則な調律または停止から転換させる可能性のある電気パルスを放出するように、除細動器をプログラム運転することができる。大動脈ラインの一部である直列の超音波フロープローブ134によって、大動脈流を測定する。同様に、直列の超音波フロープローブ134によって、右心室からレザバーへの冠動脈流出液の右心室還流ラインを通る冠動脈血流量を測定する。連結ワイヤ139を介して伝達されるこれらのプローブからのシグナルのどちらも、2チャンネルフローメーター128に記録され、これはさらに、候補死体心の働きのモニタリングを支援する。
【0063】
別の好ましい態様において、上述の灌流回路によって冠動脈血管系に酸化灌流液が提供されるが、一方で、冠動脈脈管構造由来の脱酸素液が右心室から肺動脈還流ラインへとポンピングされてレザバー117に戻り、ここでこれは引き続いてポンピングされて人工肺を通り、それによって再酸素化される。
【0064】
一態様において、灌流された拍動している候補死体心の心筋pHおよび左心室充填圧が生理学的レベルに到達する場合、候補死体心は移植に対して適格性がある(competent)と見なされる。この時点で、レシピエントは、適格性のある死体心を受け入れるために外科手術的な準備を整えてよい。レシピエントが適格性のある死体心を受け入れる用意ができる時間まで、該適格性のある死体心は拍動状態で灌流したまま維持され、その後、該適格性のある死体心を、灌流装置から取り外してレシピエントに移植する。
【0065】
この点において、上述の装置および方法は、トリアージ、保存、および、移植箇所までの適格性のある死体心の輸送を考慮している。
【0066】
E. 候補死体心の移植後の働きを評価するために使用される生理学的測定
前述の項において考察したように、本発明の選択された態様は、一連の生理学的パラメータが候補死体心の移植後の働きと相関関係があるという所見を活用するものである。すなわち、6.8を上回るRMAおよび同時発生した正常LVEDPは、候補死体心の移植後の正常な働きと正の相関関係を示す生理学的パラメータ測定値の出力を含む。
【0067】
一態様において、マイクロチップ圧カテーテル129を、接続ワイヤ140を介して圧力記録システム130に接続し(好ましい態様において、圧力記録システム130はMedtronics(Minneapolis、MN)製である)、候補死体心の腔内圧を測定するために左心房を介して左心室に挿入する。心臓の上の後負荷カラム114の高さを調整することおよびポンプ102により供給される流量を調整することによって、冠動脈血流量が生理学的範囲(300〜500 ml/min)内に維持される。本発明の一態様において、後負荷圧を約70〜80 mmHgに維持する。
【0068】
一態様において、連続的にモニターされる組織pHを、候補死体心の保存の間の、血行動態(hemodynamic)プロセス、収縮プロセス、代謝プロセス、および微小血管(microvascular)プロセスの完全性の機能的測定として使用する。具体的には、RMAはLAPmpHによって定義される。組織pH電極131(参照によって本明細書に組み入れられる、Khuriらに付与された米国特許出願2003/0040665 A1、Khuriらに付与された米国特許第6,567,679 B1号、およびKhuriらに付与された米国特許第6,600,941 B1号に記載)を候補死体心の心室前壁および後壁に挿入することによって、これらのpH測定が行われた。参照電極131を、管内および/または大動脈に取り付けられたカニューレ121内の専用pHプローブポートに配置する。候補死体心の心室前壁および後壁における心筋pHの不連続な読み取り値が得られるpHモニタ132(好ましい態様において、pHモニタ132はTerumo Cardiovascular Systems(Ann Arbor、MI)製のKHURI心筋pHモニタリングシステムである)に、これらの電極を接続する。
【0069】
好ましい態様において、候補死体心(上述の装置内で拍動状態まで回復された)が以下の基準を満たす場合に、該候補死体心は移植に対して適格性があると見なされる。まず、一態様において、RMAが約6.60〜7.60のpH範囲内にある。好ましい態様において、RMAは6.90〜7.20のpH範囲内にある。第二に、LVEDP測定値が0〜30.0 mmHgの範囲内にある(LVEDPモニタ135によって測定)。好ましい態様において、上記LVEDP測定値は0〜12 mmHgの範囲内にある。本発明が、候補死体心が移植に対して適格性がある(またはない)と判定する前の特定の長さの再灌流時間(上述の装置における)に限定されることは、意図されていない。好ましい態様において、最適なRMAおよびLVEDP(上述)は、2時間またはそれ未満の再灌流の後に観察されると考えられる。しかし、移植後の良好な働きを予言するレベルにRMAおよびLVEDPが到達する前に、より長い再灌流時間(例えば2〜6時間)もまた意図される。
【0070】
一態様において、さらなる生理学的、生化学的、および組織病理学的な評価のために、一体型パンチ生検用器具141を用いて、pH電極挿入箇所の領域から心室生検が得られるであろう。
【0071】
実験
以下の実施例は、本発明の一態様の典型として提供される。しかし、以下の実施例におけるいずれかの特定の要素によって本発明の範囲を制限することは意図されていない。
【0072】
12頭の成熟ブタを放血し、それによって虚血性心停止を誘発して、その後30分間インビボ虚血を行った。次に、以前記載されたプロトコールに従って心臓を切除した。自己由来の白血球除去血液を灌流液として用いて、これらの摘出心を(上述のプロトコールに従って)再灌流した。要約すると、20分間の安定化・器具使用(stabilization and instrumentation)期間の間、非動作状態で順方向に心臓を灌流し、その後、DCショックを利用して、心臓を拍動動作状態に電気転換させた。心室性不整脈は、DCショックを用いて整えられた。
【0073】
マイクロチップ圧変換器を用いて、腔内圧をモニターした。さらに、ブラジキニンおよびNIPRIDEに対する冠状クッション(coronary ring)の用量応答を生じさせることによって、内皮血管運動機能を推定した。Khuri心筋組織電極を用いて(参照によって本明細書に組み入れられる、Khuriらに付与された米国特許出願2003/0040665 A1、Khuriらに付与された米国特許第6,567,679 B1号、およびKhuriらに付与された米国特許第6,600,941 B1号に記載)、実験全体にわたって左心室の前壁および後壁における心筋pHを連続的に測定した。代替的な灌流液としてGALAH液が使用されうることもまた意図される。
【0074】
12個のうち10個の心臓が、拍動状態への転換に成功した。2時間の再灌流の後、LV最大圧(LV developed pressure)は89±6 mmHg(平均値±標準偏差)であり、自発調律は128±7 BPMの心拍で維持された。対照と比較したブラジキニン10-8Mに対する用量応答の緩和から明らかなように、内皮血管運動機能は完全に保存された(44、42がベースラインから変化、P>0.05)。NIPRIDE 10-6Mに対する用量応答から明らかなように、冠動脈平滑筋機能(coronary smooth muscle function)について同様の相関関係が認められた(27、22%がベースラインから変化、P>0.05)。
【0075】
単離した各心臓について、前部または後部の心筋pHの低下(LAPmpH)によってRMAの規模を定義した。研究全体にわたって、再灌流の最後におけるLAPmpHは7.09±0.45(平均値±標準偏差)であった。スターリング曲線の前にはLAPmpHは6.99±0.33であったが、曲線の最後においては7.01±0.44で統計学的には変化しないままであった。
【0076】
作動型に転換することができなかった2つの単離心臓はどちらも、pH <6.8のRMAを示した。蘇生した心臓のうち2つは、再灌流終了時にRMA <6.8を示した。どちらにおいても、スターリング曲線は、最大圧の著しい減少およびLVEDPの上昇によって示されるLV機能の著しい低下を示した。スターリング曲線の最後におけるLAPmpHは、両方の心臓における開始時よりも顕著に低かった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】候補死体心が接続された、本発明によって記載される格納・保存システムの系統図を示す。
【図2】半透膜ポーチ124と除細動パッド123との間の接続性が強調された、灌流チャンバ101の分解組立図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、候補死体心を処置する方法:
(a) 候補死体心を提供する段階;
(b) 該候補死体心の組織pHを測定する段階;および
(c) 段階(b)で測定された組織pHが6.7を上回る場合に、該候補死体心をレシピエントに移植する段階。
【請求項2】
上記候補死体心が拍動している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
以下の段階を含む、死体心を処置する方法:
(a) 停止した死体心を提供する段階;
(b) 上記停止した心臓を、拍動している死体心へと転換する段階;
(c) 上記拍動している候補死体心のLVEDPを測定する段階;および
(d) 段階(c)で測定されたLVEDPが30 mmHg未満である場合に、上記候補死体心をレシピエントに移植する段階。
【請求項4】
上記拍動している心臓が機能性調律(functional rhythm)状態にある、請求項3記載の方法。
【請求項5】
上記機能性調律が、洞調律、結節調律、および心房細動からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
上記候補死体心がヒトに由来する、請求項3記載の方法。
【請求項7】
以下の段階を含む、候補死体心を処置する方法:
(a) 停止した候補死体心を提供する段階;
(b) 上記停止した心臓を拍動している候補死体心へと転換する段階;ならびに
(c) (i) 上記拍動している候補死体心の組織pHおよび (ii) 上記拍動している候補死体心のLVEDPを測定する段階。
【請求項8】
(d) 段階(c)で測定された組織pHが6.8を上回りかつ左室拡張末期圧が30 mmHg未満である場合に、上記候補死体心をレシピエントに移植する段階
をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
上記拍動している心臓が機能性調律状態にある、請求項7記載の方法。
【請求項10】
上記機能性調律が、洞調律、結節調律、および心房細動からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
上記候補死体心がヒトに由来する、請求項7記載の方法。
【請求項12】
以下の段階を含む、候補死体心を処置する方法:
(a) 停止した候補死体心を提供する段階;
(b) 該候補死体心を生理学的溶液で灌流する段階;
(c) 該灌流された停止した候補死体心を拍動している心臓へと転換する段階;および
(d) 該拍動している候補死体心の心筋層の前側のpHを測定する段階。
【請求項13】
(e) 段階(c)で測定されたpHが6.8を上回りかつLVEDPが30 mmHg未満である場合に、上記死体心を移植する段階
をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
上記生理学的溶液が、ハンクス平衡塩溶液、アスコルビン酸、還元型グルタチオン、L-アルギニン、ヘパリン、アデノシン、グアノシン、イノシン、リボース、脂質、赤血球、アルブミン、インスリン、エピネフリン、およびアスピリンからなる、請求項13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−513235(P2009−513235A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537680(P2008−537680)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/003159
【国際公開番号】WO2007/055714
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(502389630)アメリカ合衆国 (4)
【出願人】(502333862)プレジデント・アンド・フエローズ・オブ・ハーバード・カレツジ (18)
【Fターム(参考)】