説明

移植用細胞の製造方法

本発明は、哺乳動物の心筋組織に移植するための細胞を調製する方法を特徴とする。
その方法は、(a)不死化されていない骨髄幹細胞を供給する、(b)骨髄幹細胞の特質を維持する条件下で2回継体培養する、(c)骨髄幹細胞を心筋特異的培地で培養し心筋芽細胞に分化させる、及び(d)骨髄幹細胞の約80〜90%が心筋芽細胞に分化されたときに、工程(C)の細胞を採取する工程を含有する。
この方法によって誘導された心筋芽細胞は、5−アザシチジンのような脱メチル化試薬を用いて得られたものよりも臨床的により適切に適用できる。従って、心臓機能不良を伴う疾患であると診断された哺乳動物(例えばヒト)の治療に、高い細胞の取り込み及び細胞の生存率を有する、心筋細胞に誘導された哺乳動物の骨髄幹細胞が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳動物の心筋組織に移植するための細胞を製造する方法に関するものである。特に、哺乳動物の骨髄幹細胞を生物学的な成長因子で処理して心臓系に分化させ、分化した骨髄幹細胞を一定期間インビトロで処理して細胞の取り込み及び細胞の生存率を高め、生じた骨髄幹細胞を心筋梗塞の哺乳動物に移植し、変化した状態を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成体の骨髄から得られる間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、肝細胞及び心筋細胞などの様々な細胞に分化する能力を有している。このような能力のため、骨髄幹細胞は細胞移植に好適に用いられている。
【0003】
心筋梗塞は、世界における最も重大な死因の一つとなっている。成人の心臓では心筋芽細胞(cardiomyogenic cell)が増殖できないため、心筋梗塞による心筋細胞死により健康な細胞部位が傷つけられる。
【0004】
最近の研究では、骨髄幹細胞は心臓に移植された後に顕著な柔軟性を示すことが見出されている。心筋に移植された骨髄幹細胞は心筋芽細胞に分化転換(transdifferentiate)する能力を有するので、心筋の再生に使用することが可能である。しかし、治療に於ける有効性が見込まれるにもかかわらず、骨髄幹細胞は有意な機能改善を示すほどには心筋芽細胞に分化しない。従って、骨髄幹細胞を心筋細胞に分化させる更なる研究がなされている。
【0005】
5−アザシチジンのような脱メチル化試薬で処理することにより、骨髄幹細胞を心筋細胞に分化させることが可能であるとの報告がある。5−アザシチジンは、ゲノムのヌクレオシド配列を無作為で脱メチル化し、正常のサイレント遺伝子の発現をもたらすものである。5−アザシチジンで処理した骨髄幹細胞は、心筋細胞(MyoD陽性)、骨細胞(オステオカルシン陽性)、脂肪細胞(PPAR−陽性)及び心筋芽細胞(心筋トロポニンI陽性)のような、様々な細胞を発生させる。骨髄幹細胞は、5−アザシチジンに曝露されるとc−abl及びインターロイキン−6の転写が急速に増加し、主な基質タンパク質であるコラーゲンIの発現は減少する。しかしながら、5−アザシチジンのような脱メチル化試薬は、人体には安全であるが、心筋芽細胞といった一つの細胞型に有意に分化させることはできない。
【0006】
本発明者らは以上のような問題点を考慮して、骨髄幹細胞は、移植する前に特定の生物環境に曝すと心筋系に分化転換し易くなると推測し、細胞を一つの細胞型(例えば、心筋芽細胞のような)へ誘導するのに適した生物学的な成長因子及び条件を見出すべく試みた。その結果として、生物学的な成長因子を処理することで、骨髄幹細胞を心筋細胞系へ直接誘導する特異的な方法を開発した。更に、細胞の取り込み及び細胞の生存率を高めるために、誘導された骨髄幹細胞を投与する前にインビトロで一定の期間処理する方法も開発した。当該方法により誘導された骨髄幹細胞を梗塞犬の心筋に移植し心筋梗塞が改善したのを確認した。
【0007】
本出願人であるANTEROGEN CO.,LTD所有の韓国特許出願第10-2003-0004565号には、骨髄幹細胞から心筋芽細胞を高収率で生産する方法が記載されている。本発明は、先願に較べ、更に具体的で改良された方法を提供するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は哺乳動物の骨髄幹細胞を生物学的な成長因子を用いて心筋細胞に誘導し、誘導された骨髄幹細胞を、細胞の取り込み及び細胞の生存率を高めるために、移植する前に一定期間処理する方法を提供するものであり、また、こうして生産された骨髄幹細胞を心機能が不完全な障害と診断された哺乳動物(例えば、ヒト)を治療するために提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に於いて、
(a) 不死化されていない骨髄幹細胞を供給する、
(b) 骨髄幹細胞を、骨髄幹細胞の特質を維持する条件下で2回継代培養する、
(c) 骨髄幹細胞を、心筋芽細胞に分化させるために心筋特異的培地で培養する、及び
(d) 工程(c)の細胞の約80〜90%が心筋芽細胞に分化されたときに、その細胞を採取する、
工程を含有してなる、哺乳動物の心筋組織に移植するための細胞の生産方法を提供する。
本発明の方法に於いて、骨髄幹細胞は、移植先の哺乳動物由来のものであってもよい。骨髄幹細胞は、工程(c)に於いて、1時間〜21日間培養するのが好ましく、6日間培養するのがより好ましい。
【0010】
工程(c)に於ける心筋特異的培地は、生物学的な成長因子であるbFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)、BMP-2(骨形成因子2)及びIGF-1(インスリン様成長因子1)を含む。培地は、bFGF、BMP-2及びIGF-1をそれぞれ1〜200ng/mlの濃度で含有し、2〜20%の牛胎仔血清、1〜1000μMのL-アスコルビン酸-2-PO、5〜15ng/mlのLIF、及び1〜200nMのデキサメタゾンをさらに含有することが好ましい。
【0011】
本発明の方法によれば、培養された骨髄幹細胞は移植に適した心筋芽細胞に特異的なマーカーを発現する。上記の工程に於いて、MEF2タンパク質を発現しているが、MF−20は発現していない細胞を採取するのが好ましい。
【0012】
本発明による、哺乳動物の心臓組織に移植するための細胞の産生は下記の方法:
移植前に骨髄幹細胞を心筋系細胞に誘導する、
誘導された骨髄幹細胞を、細胞の取り込み及び細胞の生存率を高めるために、一定期間培養する、及び
哺乳動物の心筋梗塞モデルに移植して評価する
によって実施される。
【0013】
まず、移植する前に骨髄幹細胞を心筋系統に誘導する方法は次の工程を含む。
(1) 不死化されていない骨髄幹細胞を供給する、
(2) 十分な数の細胞を得るために骨髄幹細胞を継代培養する、
(3) 前記骨髄幹細胞を生物学的な成長因子を含む心筋特異的な培地(cardiac specific media)で培養して心筋芽細胞に分化させる、
(4) 工程(3)の細胞の分化状態をモニタリングする、そして
(5) 前記細胞の約60〜90%が心筋芽細胞に分化されたときに、工程(3)の細胞を採取する。
【0014】
更に又、誘導された骨髄幹細胞を、細胞の取り込み及び細胞の生存率を高めるために、一定期間培養する方法は次の工程を含む。
(1) 不死化されていない骨髄幹細胞を供給する、
(2) 十分な数の細胞を得るために前記骨髄幹細胞を継代培養する、
(3)前記骨髄幹細胞を生物学的成長因子を含有する心筋特異的培地で1時間〜21日間培養して心筋芽細胞に分化させる、
(4) 工程(3)の細胞の分化状態を特定の期間モニタリングする、そして
(5) 細胞の約80〜90%が心筋芽細胞に分化されたときに、工程(3)の細胞を採取する。
【0015】
更にまた、細胞を哺乳動物の心筋梗塞モデルに移植してその効果を評価する方法は次のような工程を含む。
(1) 心筋梗塞哺乳動物モデルを製造する、
(2) 哺乳動物から骨髄幹細胞を分離する、
(3) 十分な数の細胞を得るために、骨髄幹細胞を継代培養する、
(4) 前記骨髄幹細胞を生物学的な成長因子を含む心筋特異的培地で6日間培養して心筋芽細胞に分化させる、
(5) 細胞の約80〜90%が心筋芽細胞に分化されたときに、工程(4)の細胞を採取する、そして
(6) 心筋芽細胞を哺乳動物に移植する。
【0016】
本発明者らは、哺乳動物の骨髄幹細胞を、心臓系に分化させるために生物学的な成長因子で処理して、損傷を受けた心筋での細胞の取り込み及び細胞の生存率を高めるために、この細胞を投与前の一定期間培養した。更に、培養した細胞を哺乳動物の梗塞を起こした心筋層に移植して、分化の状態を評価した。本発明によって誘導された心筋芽細胞は、5−アザシチジンのような脱メチル化試薬を用いて得られたものに較べより好適である。
【0017】
以下、本発明をさらに詳述する。
哺乳動物の心筋組織に移植する細胞をインビトロで製造する工程に於いては骨髄幹細胞を心筋細胞系に誘導するために全工程で成長因子が使用される。心筋細胞に誘導するために、特に生物学的な成長因子は全て、胚の発達過程で使用することができる。このような成長因子には、bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)、BMP-2(骨形成因子2)及びIGF-1(インスリン様成長因子1)、TGF-β、Wnt-阻害物質、アクチビン(activin)、レチノ酸(retinoic acid)、Erb-2、全FGF成長因子メンバー、全TGF成長因子メンバー、及び全IGF成長因子メンバーなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
移植された細胞は、活発に増殖し、十分に分化する。骨髄幹細胞は心筋細胞系に特異的に誘導され(心筋特異的マーカーにより同定可能である)、使用される。これらのマーカーには、Nkx2.5、GATA4、MEF2(筋細胞エンハンサー因子2)、及びSRF(血清応答因子)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。心臓分化マーカーの発現により同定される心筋芽細胞もまた使用可能である。これらのマーカーは、MHC(ミオシン重鎖)、cTnI(心筋トロポニンI)、cTnT(心筋トロポニンT)、心筋αアクチン、αアクチン及びMLC2(ミオシン軽鎖)等を含むが、これらに限定されるものではない。骨髄幹細胞は、互いにコミニュケートするという特徴を有する心筋細胞として利用することも可能である。このような細胞の表現型は、周期的な収縮及び心臓と関連するマーカーの発現によって評価できる。心臓と関連するマーカーの同定には、例えばレポータ遺伝子の発現(心筋特異的プロモーターによって誘導されるLacZ)、RNA発現(逆転写PCR法、ノーザンブロット法、RNaseプロテクション法)又はタンパク質の発現(免疫蛍光アッセイ、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー)等の、検出可能な何れの方法を用いてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
上記の方法によって移植する細胞には、心筋芽細胞に分化する過程の何れの細胞を用いてよい。
「骨髄間葉系幹細胞又は骨髄幹細胞(BMSC)」は骨髄間葉由来の幹細胞、即ちCD45を意味する。また骨髄間葉系幹細胞は、骨髄幹細胞及び「骨髄多能性前駆細胞」をも意味する。
「心臓細胞(cardiac cell)」は分化した心臓細胞(例えば、心筋細胞)又は心臓細胞を生成したり心臓細胞に分化するように決定づけられた細胞(例えば、cardiomyoblast(心筋新生細胞)又はcardiomyogenic cell (心筋芽細胞))を意味する。
「心筋細胞(cardiomyocyte)」は検出可能な量の心臓マーカー(例えば、α−ミオシン重鎖、cTnI、MLC2v、心筋αアクチン、及びインビボでコネキシン43)を発現し、収縮し、増殖しない心臓の筋肉細胞を意味する。
「心筋新生細胞(cardiomyoblast)」は検出可能な量の心臓マーカーを発現し、収縮し、増殖する細胞を意味する。
「心筋芽細胞(cadiomyogenic cell)」は検出可能な量のCsx/Nkx2.5RNA又はタンパク質を発現し、組織化された筋節構造(sarcomeric structure)や収縮を示さず、そして好ましくは検出可能な量のミオシン重鎖タンパク質を発現しない細胞を意味する。
「心筋特異的(cardiac specific)」とは最終的に分化されたマーカーが発現する前に、心臓の初期転写因子が発現する心臓分化の初期過程を意味する。
「心筋特異的培地(cardiac specific media)」は骨髄幹細胞を心筋細胞に誘導するbFGF、BMP-2及びIGF-1を含有する培地を意味する。
「分化転換(transdifferentiation)」は、胚葉起源が異なる他の細胞型に分化することを意味する。
本発明の他の特徴と利点は以下の本発明の好ましい態様の記載及び請求の範囲から明らかである。
【0020】
(発明の効果)
本発明により誘導された心筋芽細胞は、5−アザシチジンのような脱メチル化試薬を用いて誘導されたものと較べ、より好適に臨床に適用できる。本発明は、高い細胞の取り込み及び細胞の生存率を有する、心筋細胞に誘導された哺乳動物の骨髄幹細胞を提供し、心臓機能不良を伴う疾患と診断された哺乳動物(例えばヒト)の治療に当該誘導された骨髄幹細胞を用いるものである。
(実施例)
【0021】
(発明の最良の形態)
以下、多様な実施例により、本発明を具体的に説明する。これら実施例は説明のためのみに提供されるものであり、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。更に、当該実施例は、イヌの骨髄から単離した骨髄幹細胞について説明するものであるが、本発明は、これらに限定されることなく、ヒト、ラット、マウス、サル等を含む全ての哺乳動物から単離した骨髄幹細胞に適用されるものである。
【実施例1】
【0022】
生物学的成長因子で処理して骨髄幹細胞から心筋芽細胞を誘導する方法
心筋梗塞を起こして4週間以上経過した後に、ヘパリンに浸した注射器で、イヌの腸骨から15〜20mlの骨髄幹細胞を採取した。採取した骨髄幹細胞を2〜20%の牛胎仔血清、1〜1,000μMのL-アスコルビン酸−2−PO、5〜15ng/mlのLIF(白血病抑制因子)及び1〜200nMのデキサメタゾンを含む培地で培養した。全ての培養器とスライドを、骨髄幹細胞を入れる前に、室温で15分間、5ng/mlのコラーゲンでコーティングした。当該インビトロ条件は、骨髄幹細胞の自己再生を保持させて、成長因子のような分化試薬に対する反応性を失わずに、継代増殖させるものである。さらに当該条件は、継代培養しても、骨髄幹細胞が間葉性の形態(mesenchynmal morphology)と核型(keryotype)を維持できるようにするものである。図1は、イヌから単離して培養した骨髄幹細胞の位相差顕微鏡写真(100倍)である。
【0023】
骨髄幹細胞を2回継代培養して4ウェルのチャンバースライドに植菌し、心筋分化培地で処理した。分化培地は、DMEM中に2〜20%の牛胎仔血清、1〜1000μMのL-アスコルビン酸-2-PO、5〜15ng/mlのLIF、1〜200nMのデキサメタゾン、1〜200ng/mlのbFGF、1〜200ng/mlのBMP2及び1〜200ng/mlのIGF-1を含むものである。この培地は、胚の発生過程において、心筋に分化する重要な役割を果たすものとして知られる成長因子を含んでいる。
【0024】
成長因子の存在下で14日間培養した後、約50〜90%の骨髄幹細胞がMEF2タンパク質を発現した。図2は、イヌの骨髄幹細胞を心臓細胞特異的培地で培養した後のMEF2(A)とデスミン(B)の形態(morphology)及び発現を示す一連の顕微鏡写真(100倍)であり、一方、(C)はMF-20の陰性対照である。
これらの細胞において、MEF2タンパク質は見出されたが、MF-20との免疫反応によって確認できる心臓分化マーカーの発現は見られなかった。よって、細胞は、心筋特異的マーカーは発現するものの、最終分化(terminal differentiation)マーカーを発現しないものとみられる。
【0025】
MEF2の発現は、心臓系特異マーカーとして使用され、発現したタンパク質は細胞核に位置する。MEF2転写因子は、心臓に分化誘導される前の胚発生過程において、心臓前駆体細胞に発現する。これらの遺伝子は、胚発生過程に於ける初期の心臓前方中胚葉(precardiac mesoderm)で発現する。更に、MEF2タンパク質は、完全な心臓分化に必要とされる多くの構造遺伝子の発現に於ける重要な転写因子である。
【0026】
次のような方法で、細胞において検出するのが可能なようにMEF2又はミオシン重鎖を標識した。培養された細胞を4%のホルムアルデヒドで20分間冷蔵固定し、その後0.2%のTritonX-100を含有するPBSで15分間処理した。PBSで3回洗浄した後、得られた細胞をブロッティング溶液(1%の牛胎仔血清アルブミン及び0.2%のTween20を含有するPBS)で15分間処理した。処理した試料を抗MEF2(1:200、sc-10794、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz)、MF-20(1:100、 Developmental Studies Hybridoma Bank、University of Iowa、Iowa City、Iowa)、抗デスミン(1:100〜200、Sigma-Aldrich)及び、必要により、アイソタイプ抗体(MEF2に対してウサギIgG2b、MF-20に対してマウスIgG2b、Desminに対してマウスIgG1)のうち一種を用いて4℃で恒湿槽中で一晩培養する。その後、試料スライドを洗浄液(0.5%のTween20を含むPBS)で3回洗浄し、次いで、供給業者が提供する指示書にしたがって2次抗原(MEF2にはロバ抗ウサギIgG、MF20とデスミンにはロバ抗マウスIgG:Molecular Probe)と反応させた。3回洗浄後、試料を蛍光顕微鏡(Nikon TS100顕微鏡)で観察した。
【実施例2】
【0027】
高い細胞取り込みと細胞生存率を有する骨髄幹細胞を心筋芽細胞に一定期間誘導する方法
骨髄幹細胞は、心筋特異的培地で、1時間〜21日間のうちの各期間に亘り生物学的な成長因子で処理することができるが、この間に、約40〜90%の細胞で核タンパク質であるMEF2の発現が見られる。心筋特異的培地で処理する期間に応じて、心筋芽細胞への誘導を60〜90%まで増加させることができる。最適な期間処理することにより、80〜90%の細胞に於いてMF2タンパク質を発現させることができる。移植する骨髄幹細胞は、80〜90%がMEF2タンパク質を発現するものであり、梗塞を起こした心臓を再生させるのには最適なものである。
【0028】
成犬から単離した骨髄幹細胞を心筋特異的培地で6日間培養し、蛍光顕微鏡で観察すると、最適量のMEF2タンパクが核内に存在することが示された。梗塞犬への細胞移植は、移植した細胞が心筋に組み込まれ、イヌが移植後96日間生存したことを示した。図7は、移植96日後の心筋梗塞犬の心筋に移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真(40倍)である。赤色の蛍光は心臓に移植したDiI標識した骨髄幹細胞、緑色の蛍光はMF20抗体に反応した心筋芽細胞を示すものである。当該インビボ実験は次のように実施された。
【0029】
誘導の最適時間を決定するために、イヌの骨髄幹細胞を2回継代培養して、この培養細胞をコラーゲンでコーティングした4ウェルのチャンバースライドに10,000細胞/チャンバーの濃度で植菌した。24時間後、細胞をPBSで2回洗浄して、1mlの心筋特異的培地を添加した。一つのスライドには、心筋特異的培地を使用せず陰性対照群とした。心筋特異的培地で処理して1、2、3、4、5、6、8及び10日後に細胞を固定し、MEF2抗体を染色して、蛍光顕微鏡で観察した。図3は、心筋特異的培地で処理し、染色した、BMSC(骨髄幹細胞)に於けるMEF2の発現を示す一連の顕微鏡写真(A〜Fは200倍、G〜Nは100倍)である。A及びDは非処理細胞を示し、B及びEは心筋特異的な培地で処理してから1日後の細胞を示し、C及びFは処理後2日、G及びKは処理後3日、H及びLは処理後6日の細胞を示している。I及びMは、8日間処理し、その後ウサギIgGで染色した陰性対照である。MEF2染色の相対的強度試験の結果、心筋特異的培地で6日間処理したものが最大の発現を示している。
以上のような結果に基づき、心筋特異的培地で6日間処理した後に採取した細胞を心筋インビボ試験でイヌの梗塞モデルに使用した。
【実施例3】
【0030】
骨髄幹細胞の移植及び取り込み率及び生存率の評価
心筋芽細胞系へとインビトロで誘導した骨髄幹細胞を、イヌの心筋梗塞組織に移植した。イヌの心筋梗塞は、右冠状動脈の永久閉塞によるものである。骨髄幹細胞移植に先立ち、梗塞を少なくとも2ヶ月間安定化した。移植による免疫拒否反応を防止するために、それぞれの移植レシピエントのイヌから下記の要領で、骨髄を採取して、骨髄幹細胞を調製した。
【0031】
心エコー検査により心筋梗塞を確認し、結紮後約4週間が経過してから長骨髄腸骨を穿刺して骨髄を吸引した。 骨髄を直ちにヘパリンと混合し、冷凍し、ドライアイスと共に組織培養装置へ移した。そこで、37℃で解凍し、摂動して(perturbated)、通常のDMEMで一回洗浄した。そして、培養液(2〜20%の牛胎仔血清、1〜1、000μMのL-アスコルビン酸-2-PO、5〜15ng/mlのLIF、1〜200nMのデキサメタゾン)の入った組織培養フラスコに入れた。2回継代培養した後、骨髄幹細胞を1〜200ng/mlのbFGF、1〜200ng/mlのBMP2、及び1〜200ng/mlのIGF-1を含有する培地で6日間培養した。移植後の細胞の生存と経過を追跡するために、骨髄幹細胞を採取する際に赤色の蛍光マーカーであるDiIで標識した。約2×10個の細胞を採取し、心臓の梗塞部位に注入した。
【0032】
移植後の骨髄幹細胞の生存を、DiI蛍光の事後分析による視覚化により測定した。図4は、移植15日後の梗塞犬の心筋における移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真(40倍)である。赤色の蛍光は宿主の心筋に移植したDiI標識した骨髄幹細胞を、緑色の蛍光はMF20抗原で染色した心筋芽細胞を、そして青色の蛍光はDAPIで標識した核を示す。図4に示されるように、移植15日後の心筋層でDiI陽性細胞の大きな塊が観察された。これは骨髄幹細胞が長期間生存していることを示唆している。特に、DiIで標識した幹細胞は、MF20陽性である心筋細胞を含んでいる心筋層内部位で、またMF20陽性である心筋細胞が欠如している心筋梗塞部位で観察された。
【0033】
移植した細胞の長期間にわたる生存能力を調べるためにイヌを犠牲にして観察した。図5は、移植70日後のイヌの心筋梗塞における移植した骨髄幹細胞の局在を示している顕微鏡写真(40倍)である。赤色の蛍光は、心筋に移植したDiI標識した骨髄幹細胞を、緑色の蛍光はMHC抗体に反応した心筋芽細胞を、そして青色の蛍光はDAPIで標識した核を示す。図6は、移植70日後のイヌの心筋梗塞における移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真(40倍)である。赤色の蛍光は心筋に移植したDiI標識した骨髄幹細胞を、緑色の蛍光はcTNI抗体に反応した心筋芽細胞を示す。
【0034】
更に図7は、移植後96日の心筋梗塞犬の心筋に移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真であって(40倍)、赤色の蛍光は心臓に移植したDiI標識した骨髄幹細胞、緑色の蛍光はMF20抗体に反応した心筋芽細胞を示す。図5〜図7に示めされるように、全ての場合において、梗塞領域でDiIで標識した細胞が観察された。一部、DiI蛍光が、MF20を含んだ心筋特異的マーカーと同じ領域で観察された。更に、梗塞領域の境界部位は、心筋特異的マーカーであるMHCα/β及びTNIも発現するDiI陽性の幹細胞を含んでいた。
これらのデータは、上記の方法によって、インビトロで調整され、移植した骨髄幹細胞が、宿主の心筋に生存し、取り込まれて、心臓分化に特異的なマーカーを発現することを示すものである。
【実施例4】
【0035】
心筋梗塞の改善
上述のイヌの心筋梗塞モデルを用いて、心エコー検査(ECG)により骨髄幹細胞移植の回復効果を評価した。骨髄幹細胞移植後3.5週間、4.5週間、及び5週間後に心エコー検査を行い、移植前の心エコー検査と比較した。
【0036】
図8は、梗塞犬の心筋に導入した骨髄幹細胞の移植前(BL)及び移植後(4、8及び12週)の心拍数の変化を示めすグラフである。図9は、心エコー検査において梗塞犬の心筋に誘導した骨髄幹細胞の移植前(BL)及び移植後4、8、12週の短縮率(fractional shortening)と領域短縮率(area shortening)の変化を示めす一連のグラフである。更に、図10は、心エコー検査においての梗塞犬の心筋に誘導した骨髄幹細胞の移植前(BL)及び4、8、12週後の後壁の厚さの変化を示しているグラフである。
【0037】
図8〜10に示めされるように、各々の動物において、梗塞部位に於ける収縮は、心筋の隣接領域にさらに同期化された。心エコー検査の結果は、実施例3の組織学的所見を確認し、培養した骨髄幹細胞の移植は、梗塞後の心臓組織を部分的に回復させたことを立証するものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明の上記又はその他の目的、特徴及び利点は、添付の図面と併せて上記の詳細な説明によって、より明確に理解されるものである。
【図1】図1は、イヌから単離して、培養した骨髄幹細胞の位相差顕微鏡写真(100倍)である。
【図2】図2は、イヌの骨髄幹細胞を心臓細胞特異的培地で培養した後のMEF2(A)及びデスミン(B)の形態(morphology)及び発現を示す一連の顕微鏡写真(100倍)であり、一方、(C)はMF-20の陰性対照である。
【図3】図3は、心筋特異的培地で処理し、染色した骨髄幹細胞(BMSC)に於けるMEF2の発現を示す一連の顕微鏡写真(A〜Fは200倍、G〜Nは100倍)である。A及びDは非処理細胞を示し、B及びEは心筋特異的な培地で処理してから1日後の細胞を示し、C及びFは処理後2日、G及びKは処理後3日、H及びLは処理後6日の細胞を示している。I及びMは、8日間処理し、その後ウサギIgGで染色した陰性対照である。
【図4】図4は、移植15日後の梗塞犬の心筋における移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真(40倍)である。赤色蛍光は宿主の心筋に移植したDiI標識した骨髄幹細胞を、緑色蛍光はMF20抗原で染色した心筋芽細胞を、そして青色蛍光はDAPIで標識した核を示している。
【図5】図5は、移植70日後のイヌの心筋梗塞における移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真(40倍)である。赤色の蛍光は、心筋に移植したDiI標識した骨髄幹細胞を、緑色の蛍光はMHC抗体に反応した心筋芽細胞を、そして青色の蛍光はDAPIで標識した核を示している。
【図6】図6は、移植70日後のイヌの心筋梗塞における移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真(40倍)である。赤色の蛍光は心筋に移植したDiIで標識した骨髄幹細胞を、緑色の蛍光はcTNI抗体に反応した心筋芽細胞を示している。
【図7】図7は、移植96日後の心筋梗塞犬の心筋に移植した骨髄幹細胞の局在を示す顕微鏡写真(40倍)である。赤色蛍光は心臓に移植したDiIで標識した骨髄幹細胞、緑色蛍光はMF20抗体に反応した心筋芽細胞を示すものである。
【図8】図8は、梗塞犬の心筋に導入した骨髄幹細胞の移植前(BL)及び移植後(4、8及び12週)の心拍数の変化を示めすグラフである。
【図9】図9は、心エコー検査に於いて、梗塞犬の心筋に誘導された骨髄幹細胞の移植前(BL)及び移植後4、8、12週の短縮率(fractional shortening)と領域短縮率(area shortening)の変化を示めす一連のグラフである。
【図10】図10は、心エコー検査に於いて、梗塞犬の心筋に誘導された骨髄幹細胞の移植前(BL)及び移植後4、8、12週の後壁の厚さの変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 不死化されていない骨髄幹細胞を供給する、
(b)骨髄幹細胞を、骨髄幹細胞の特質を維持する条件下で2回継代培養する、
(c)骨髄幹細胞を、心筋芽細胞に分化させるために心筋特異的培地で培養する、及び
(d)工程(c)の細胞の約80〜90%が心筋芽細胞に分化されたときに、当該細胞を採取する、
工程を含有してなる、哺乳動物の心筋組織に移植するための細胞を生産する方法。
【請求項2】
骨髄幹細胞が、移植する哺乳動物由来のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において、骨髄幹細胞を1時間〜21日間培養する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)において、骨髄幹細胞を6日間培養する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
心筋特異的培地が、生物学的な成長因子を含む培地である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
生物学的な成長因子が、bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)、BMP-2(骨形成因子2)及びIGF-1(インスリン様成長因子1)である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
培地が、bFGF、BMP-2及びIGF-1を、それぞれ1〜200ng/mlの濃度で含み、そして更に2〜20%のウシ胎仔血清、1〜1000μMLのアスコルビン酸-2-PO、5〜15ng/mlのLIF、及び1〜200nMのデキサメタゾンを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
移植に適した心筋芽細胞に特異的なマーカーを発現する細胞を培養する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
MEF2タンパク質を発現しているがMF-20を発現していない工程に於ける細胞を採取する請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−513625(P2007−513625A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543733(P2006−543733)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【国際出願番号】PCT/KR2004/002983
【国際公開番号】WO2005/056779
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(503373182)アントロジェン カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】