説明

種々の疾患の治療のための抗−NGF抗体

【課題】喘息、関節炎及び乾癬を含む種々のNGF(神経成長因子)関連疾患の治療で、患者の免疫系に優位な副作用を起こさずに、抗−NGF抗体を使用する方法を提供する。
【解決手段】抗−NGFモノクローナル抗体(抗体911)の治療有効量のインビボ投与が、アレルギーの実験的マウスモデルの免疫系に対して副作用を有しなかったことに基づいて、これと関連する抗体により、ヒト患者の喘息を含むNGF関連疾患の治療。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、概して、喘息、関節炎、乾癬を含む、種々のNGF関連疾患の治療に抗-NGF抗体を使用する方法に関する。本方法は、患者の免疫系に有意な副作用を起こさずに、これら疾患を治療することに効果がある。
【0002】
関連するArtの記述
神経成長因子(NGF)
神経成長因子(NGF)は最初に同定されたニューロトロフィンであり、末梢及び中枢神経の双方の発生と生存におけるその役割が良く特徴付けられている。NGFは、末梢交感神経及び胎児感覚ニューロン及び前脳基底核コリン作動性ニューロンの発生において、重要な生存及び維持因子であることが示されている(Smeyneら, Nature 368: 246-249(1994);Crowleyら, Cell 76 : 1001-1011(1994))。NGFは感覚ニューロンで神経ペプチドの発現をアップレギュレーションし(Lindsay及びHarmer, Nature 337:362-364(1989))、その活性は2つの異なる膜結合レセプターを介して媒介される。TrkAチロシンキナーゼレセプターは高親和性結合を媒介し、腫瘍壊死因子レセプターファミリーの他のメンバーと構造的に関連しているp75レセプターは、低親和性結合を媒介する(Chaoら, Science 232:518-521(1986))。
【0003】
神経系でのその効果の他に、NGFは神経系の外縁のプロセスとの関連が強まってきた。例えば、NGFは、血管の浸透性を高め(Ottenら, Eur. J. Pharmacol. 106: 199-201(1984))、T-及びB-細胞免疫応答を高め(Ottenら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:10059-10063(1989))、リンパ球の分化と肥満細胞の増殖を誘導して肥満細胞からの可溶性生物シグナルの遊離を起こす(Matsudaら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:6508-6512(1988); Pearceら, J. Physiol. 372: 379-393 (1986); Bischoffら, Blood 79: 2662-2669 (1992); Horigomeら, J. Biol. Chem. 268: 14881-14887 (1993))。
NGFは、肥満細胞(Leonら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91: 3739-3743 (1994))、B-リンパ球(Torciaら, Cell 85: 345-356 (1996))、ケラチノサイト(Di Marcoら, J. Biol. Chem. 268: 22838-22846)及び平滑筋細胞(Ueyamaら, J. Hypertens. 11: 1061-1065 (1993))を含む多数の細胞型によって産せられる。NGFレセプターは、神経系の外縁の種々の細胞型に見出されてきた。例えば、TrkAは、ヒトの単球、T-及びB-リンパ球及び肥満細胞に見出されてきた。
【0004】
NGFの非神経細胞的な役割と一致して、増大したNGFレベルと種々の炎症症状の間の関連は、幾つかの動物モデルとともにヒト患者で観察された。これらには、全身性エリテマトーデス(Bracci-Laudieroら, Neuroreport 4:563-565(1993))、多発性硬化症(Bracci-Laudieroら, Neurosci. Lett. 147:9-12(1992))、乾癬(Raychaudhuriら, Acta Derm. Venereol. 78:84-86(1998))、関節炎(Falciniら, Ann. Rheum. Dis. 55:745-748(1996))及び喘息(Braunら, Eur. J. Immunol. 28: 3240-3251 (1998))を含む。これらのような慢性炎症症状は、重大な公衆衛生上の問題である。例えば、合衆国のみでは、3千7百90万人が関節炎を患っていると見積もられている。これら症状を治療するための現在の療法は、極めて限られている。これら疾患におけるNGFの果たす役割の理解によって、それらを治療する新しい方法が提供されるであろう。
【0005】
ストレスと乾癬の関連が見出されている。この関連性と疾患をともなう皮膚障害の対称性に基づいて、神経系との関連性が提唱されている(Raychaudhuriら, Acta Derm. Venercol. 78:84-86(1998))。特に、神経ペプチドが乾癬の病原性を担うことが示唆されてきた。研究者達は、サブスタンスP(SP)、血管活性腸管ポリペプチド(VIP)及びCGRP等の1つ又は複数の神経ペプチドのアップレギュレーションと同調して末端皮神経の数の増加を報告している。NGFは皮膚の神経感覚を制御することを担い、神経ペプチドをアップレギュレーションすることも知られており、このことは、NGFのレベルが神経ペプチドのアップレギュレーションと乾癬で見られる高まった皮膚反応神経の一因であることを示唆している。実際に、NGFの増大した発現が乾癬ケラチノサイトで観察されている(Raychaudhuriら, Acta Derm. Venernol. 78:84-86(1998))。NGFが、通常は、ケラチノサイトの生存因子として機能する一方で、NGFの過剰発現は正常細胞の死を防ぎ、乾癬につながることが示唆されてきた(Pincelliら, J. Derm. Sci. 22: 71-79(2000))。
【0006】
サブスタンスP(SP)等の神経ペプチド、及びヒスタミン等の肥満細胞から遊離される生物活性化合物が、ヒトで天然に発生する関節炎及び動物モデルで実験的に誘導される関節炎の双方でも一役を担うことが、多くの研究によって示された(Levine, J. Science 226: 547-549(1984))。NGFは、肥満細胞の脱顆粒(Bruniら, FEBS Lett. 138: 190-193(1982))及びサブスタンスPの遊離(Donnererら, Neurosci. 49: 693-698(1982))に作用することが示されており、このことは、NGFが関節炎の病因であることを示している。
一貫して、末端組織のNGFの上昇したレベルは、痛覚過敏と炎症の双方に関連しており、多くの関節炎の型に見られている。非炎症滑膜でNGFが検出されないことが報告されている一方で、リウマチ様関節炎を患った患者の滑膜は高レベルのNGFを発現する(Aloeら, Arch. Rheum. 35: 351-355(1992))。同じような結果が、実験的に誘導されたリウマチ関節炎のラットで見られた(Aloeら, Clin. Exp. Rheumatol. 10:203-204(1992))。NGFの上昇したレベルが、肥満細胞の数が増加したトランスジェニック関節炎マウスで報告されている(Aloeら, Int. J. Tissue Reaction-Exp. Clin. Aspects 15: 139-143(1993))。しかしながら、正常なラットの関節の滑膜へ注入した精製NGFは膝関節炎症を誘導せず、このことは、NGFが関節炎で原因的役割を担わないことを示唆している(Aloeら, Growth Factors 9:149-155(1993))。
【0007】
高レベルのNGFがアレルギー性炎症と関連していて、これが肥満細胞の脱顆粒と関連していることが示唆されている(Boniniら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:10955-10960(1996))。
上昇したNGFレベルは、アレルギー性及び非アレルギー性喘息の双方でも観察されている(Boniniら, 上掲)。肥満細胞、好酸球及びT-リンパ球は、すべてがこの炎症性疾患の一因であることが提唱されており、NGF血清レベルと全IgE抗体力価の間の相関は、NGFが炎症性免疫応答の一因であることを示唆している。マウスとヒトの双方では、アレルゲンによって誘導された気道炎症は、NGFの局地的産生と関連してきた(Braunら, Int. Arch. Allergy Immunol. 118: 163-165(1999))。
【0008】
NGFは、気管支喘息の特徴である、増大した気道機能亢進性応答の発症を制御することが示されている(Braunら, Eur. J. Immunol. 28:3240-3251(1998))。実際に、1つの研究では、抗-NGF抗体によるアレルゲン感作マウスの処理によって、局所的アレルゲンチャレンジの後の気道過敏症の発症を防いだ(Braunら, Int. Arch. Allergy Immunol. 118: 163-165(1999))。
マウスで得られた有望な結果にもかかわらず、報告された免疫系に対する中和化抗-NGF抗体の副作用は、ヒト患者の喘息又は他の疾患又は疾病の予防又は治療における療法として抗-NGF抗体を使用する可能性について重大な疑問を投げかけた。特に、Torciaら, Cell 85: 345-356(1996)は、NGFを記憶Bリンパ球にとっての自己分泌生存因子として同定し、マウスで、中和化抗-NGF抗体のインビボ投与が記憶B細胞の枯渇を引き起こし、二次抗原特異的免疫応答を消滅させることを示した。Garaciら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96: 14013-14018(1999)は、NGFが、HIV感染による細胞変性効果からヒト単球/マクロファージを救済する自己分泌生存因子であることを報告している。Toricaら, 上掲の発見とともにこの報告は、抗-NGF抗体が治療した被検体の免疫系を危うくする可能性を有することを示唆しているであろう。
【0009】
(本発明の概要)
本発明は、抗-NGFモノクローナル抗体(抗体911)の治療的有効量のインビボ投与が、アレルギーの実験的マウスモデルの免疫系に対して副作用を有しなかったという予期しなかった発見に基づいている。従って、これと関連する抗体は、ヒト患者の喘息を含むNGF関連疾患の治療においてかなり有望である。
一側面では、本発明は、抗体が患者の免疫系に有意な副作用を持たず、ナノモル濃度の親和性でhNGFと結合し、インビボでヒトTrkA(hTrkA)とのhNGFの結合を阻害することが可能な抗-ヒトNGF(抗-hNGF)モノクローナル抗体の有効量を患者へ投与することによる、ヒト患者でのNGF関連疾患を制御する方法に関する。
【0010】
一実施態様では、hNGFへの抗体の結合親和性は、好ましくは約0.10〜約0.80nM、より好ましくは約0.15〜約0.75nM、そして更により好ましくは約0.18〜約0.72nMである。
その他の実施態様では、抗体は、MAb911、MAb912及びMAb938で構成される群から選択された抗体と本質的に同じhNGFエピトープ、より好ましくは、MAb911と同じエピトープと結合する。
更にその他の実施態様では、抗体は、マウスNGF(muNGF)と交差反応することができる。
抗体は、また、抗体断片、好ましくはFab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ダイアボディー、単鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多特異性抗体で構成される群から選択される抗体断片、及びより好ましくは単鎖Fv(scFv)分子であってもよい。
その他の実施態様では、抗体はキメラである。それは、また、ヒト化又はヒトであってもよい。
更にその他の実施態様では、抗体は二重特異的である。二重特異的抗体は、抗-IgE特異性を有するであろう。
制御されるNGF関連疾患は、好ましくは、神経系に対するNGFの作用と関連していない。
【0011】
一実施態様では、NGF関連疾患は炎症症状であり、好ましくは、喘息、関節炎、多発性硬化症、エリテマトーデス及び乾癬で構成される群から選択される。
好ましい実施態様では、症状は喘息である。その他の実施態様では、症状は関節炎、好ましくはリウマチ関節炎である。更にその他の実施態様では、症状は乾癬である。
更にその他の実施態様では、抗体は、炎症症状の治療のために他の治療薬と組み合わせて投与される。従って、抗体は、喘息の治療のために、他の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。一実施態様では、抗体は、コルチコステロイド、好ましくはジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)とともに投与される。その他の実施態様では、抗体は、抗-IgE抗体、例えばrhuMAb-E25又はrhuMAb-E26とともに投与される。リウマチ関節炎の治療のために、抗体は、抗-TNF抗体、又はTNFレセプターと特異的に結合する抗体又はイムノアドヘシンと組み合わせて投与されてもよい。
【0012】
その他の側面では、本発明は、インビボで、製薬的に許容可能な担体との組み合わせで、ナノモル濃度の範囲の親和性でhNGFと結合し、ヒトTrkAとhNGFの結合を阻害することが可能なキメラ、ヒト化又はヒト抗-ヒトNGFモノクローナル抗体を含んでなる製薬的組成物に関するものであり、その抗体は患者の免疫系に対して有意な副作用を有しない。製薬的組成物中の抗体は、抗体断片、好ましくは、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ダイアボディー、抗体断片から形成された単鎖抗体分子及び多重特異性抗体で構成される群から選択された抗体断片である。
一実施態様では、抗体は二重特性抗体である。二重特性抗体は、天然ヒトIgE又は天然ヒトTNF又は天然ヒトTNFレセプターと特異的に結合することが可能であり得る。
その他の実施態様では、製薬的組成物は、炎症症状の治療にとって適した成分のような他の製薬的活性成分を更に含む。炎症症状は、好ましくは、喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬で構成される群から選択される1つである。一実施態様では、炎症症状は喘息である。その他の実施態様では、炎症症状は関節炎、好ましくはリウマチ関節炎である。その他の実施態様では、炎症症状は乾癬である。
【0013】
その他の側面では、本発明は、インビボで、製薬的に許容可能な担体との組み合わせで、ナノモル濃度の範囲の親和性でhNGFと結合し、ヒトTrkAとhNGFの結合を阻害することが可能なキメラ、ヒト化又はヒト抗-ヒトNGFモノクローナル抗体を含んでなる容器、製薬的組成物を含む製造品、及びヒト患者でのNGF-関連疾患をコントロールするために組成物を使用するための指示書に関するものであり、その抗体は患者の免疫系に対して有意な副作用を有しない。
一実施態様では、製造品は、好ましくは、炎症症状の治療にとって適したさらなる製薬的活性剤を含む。この炎症症状は、好ましくは、喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬で構成される群から選択される。
【0014】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
A.定義
特に定義されなければ、ここで用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって共通に理解されるのと同じ意味を有する。例えば、Singletonら, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版., J. Wiley & Sons(ニューヨーク,ニューヨーク 1994);Sambrookら, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Press(コールド スプリングス ハーバー,ニューヨーク 1989)を参照。当該分野の熟練者は、それらは、本発明の実施において使用される、ここに記載されているのと類似又は同等の多くの方法及び材料を認識するであろう。実際に、本発明は、記載された方法と材料に限定されるものではない。本発明の目的のために、次の用語が下に定義されている。
【0015】
ここで使用されているように、用語「神経成長因子」及び「NGF」は、ヒトを含む、全哺乳類種の天然配列NGFとして定義されている。
「NGFレセプター」は、NGFによって結合又は活性化されているポリペプチドを指す。NGFレセプターには、ヒトを含むあらゆる哺乳動物種のTrkAレセプターとp75レセプターを含む。
【0016】
NGF又はその他のポリペプチドとの関連での用語「天然配列」は、その調製の方法にもかかわらず、天然から得た対応するポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。そのような天然配列ポリペプチドは天然から単離することが可能であり、組み換え及び/又は合成法又はその任意の組み合わせによって産生させることが可能である。「天然配列」という用語は、特に、完全長ポリペプチドの天然発生切断又は分泌型(例えば、細胞外ドメイン配列)、天然発生変異型(例えば、選択スプライシング型)、及び天然発生対立遺伝子変異体を包含する。
【0017】
「抗体」(Ab)と「免疫グロブリン」(Ig)は同じ構造的特徴を有する糖タンパク質である。抗体は特定の抗原に対して結合特異性を示すものであるが、免疫グロブリンは、抗体と抗原特異性を欠く他の抗体様分子の両方を含むものである。後者の種類のポリペプチドは、例えばリンパ系により低レベルで、骨髄腫により増加したレベルで産生される。
【0018】
「天然抗体及び天然免疫グロブリン」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンの異種四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、異なる免疫グロブリンアイソタイプ重鎖中のジスルフィド結合の数は相違する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した部位との間で鎖内ジスルフィド架橋を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインに続いて可変ドメイン(VH)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、他端に定常ドメインを有し;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている(Chothiaら, J. Mol. Biol. 186: 651[1985]; Novotny及びHaber, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 82: 4592[1985]; Chothiaら, Nature 342: 877-883[1989])。
【0019】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を称する。しかし、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域又は相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、主としてβ-シート配置をとり、それらは、そのβ-シート構造を連結するループを形成、そしてある場合にはその一部分を形成する3つのCDRによってつながっている4つのFR領域を含む。各鎖のCDRは、FRにより近接してつながっており、他の鎖のCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成の一因となっている(Kabatら, (1991)を参照のこと)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、種々のエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞傷害活性への抗体の関与を示す。
【0020】
抗体のパパイン消化によって、それぞれが単一抗原結合部位を有する「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片、そして名称が容易に結晶化できることを示している残基「Fc」断片をが生じる。ペプシン処理では、2つの抗原連結部位を有し、まだ抗原と架橋結合することが可能であるF(ab')断片が生じる。
【0021】
「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を有する最少の抗体断片である。2本鎖Fv種では、この領域は、堅固な非共有結合による1つの重及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体から成る。一本鎖Fv種では、軽及び重鎖が、2本鎖Fv種という点で類似する「二量体」構造として会合することができるように、1つの重及び1つの軽鎖可変ドメインは、適応性のあるペプチドリンカーによって共有的に連結することができる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用することでVH-VL二量体の表面上に抗原結合部位が定まるのは、この構造においてである。正確には、6つのCDRが、抗体へ抗原結合特異性を付与する。しかしながら、全結合部位よりも低い親和性ではあるが、単一の可変ドメイン(又は、抗体へ特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、抗原を認識してそれと結合する能力を有する。
【0022】
Fab断片は、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第一の定常ドメイン(CH1)をも有する。Fab'断片は、抗体のヒンジ領域の1つ又はそれより多いシステインを含めて、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端でのわずかの残基の付加によって、Fab断片とは異なる。Fab'-SHは、ここでは、定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'のための記号表記である。F(ab')2抗体断片は、元々は、ヒンジシステインを有するFab'断片の対として産生された。抗体断片の他の化学カップリングも知られている。
【0023】
任意の脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ及びλと呼ばれる2つの明らかに異なる型の1つに当てはめることができる。
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、免疫グロブリンは異なるクラスに当てはめることができる。免疫グロブリンの5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、及びこれらの幾つかは、更にサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1,及びIgA2にわけることができる。免疫グロブリンの異なるクラスと一致する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれている。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元構造は、良く知られている。
【0024】
用語「抗体」は、特に、抗体断片クローンを含むモノクローナル抗体を包含する。
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部分、通常は、無傷の抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片;ダイアボディー;一本鎖Fv(scFv)分子を含む一本鎖抗体分子;そして抗体断片から形成された二重特異性抗体が含まれる。
【0025】
ここで用いられる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(又は抗体断片)を意味する、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量存在しうる自然に生じる可能な突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対するものである。更には、一般的に異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む従来型(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。それらの特異性の他に、ハイブリドーマ培養によって合成され、他の免疫グロブリンによる混入がないという点で、モノクロナール抗体は有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示すものであって、ある特定の方法による抗体の産生を必要とすることを意味するためのものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256: 495 [1975]に最初に記載されたハイブリドーマ法によって作成してもよいし、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号参照)によって作成してもよい。また「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonら, Nature, 352: 624-628 [1991]及び Marksら, J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)に記載された技術を使用して、ファージ抗体ライブラリから単離した抗体断片(Fvクローン)を含む抗原認識及び結合部位のクローンを含む。
【0026】
ここで、モノクローナル抗体は特に、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含み、それは、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種から誘導された又は特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同であるが、鎖の残りの部分は他の種から誘導された又は他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体、並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限りにおいて、それらの抗体の断片の対応する配列と同一又は相同である(Cabilillyらへの米国特許第4,816,567号;Morrisonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851-6855 [1984])。
【0027】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含有する、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はそれらの断片(例えば、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2あるいは抗体の他の抗原結合性配列)である。大部分において、ヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であって、そのレシピエントの相補鎖決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性及び容量を持つマウス、ラット又はウサギなどのヒト以外の種のCDR(ドナー抗体)に由来する残基で置換されている。ある場合は、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が対応する非ヒト残基で置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移植されるCDR又は枠配列にも見られない残基を含んでもよい。これらの修飾は、抗体の性能を更に精密かつ最適化するために施される。一般にヒト化抗体は、CDR領域の全て又は実質上全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質上全てがヒト免疫グロブリン配列のものである少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含有するであろう。また、最適なヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含有するであろう。さらなる詳細については、Jonesら, Nature 321: 522-525 (1986);Reichmannら, Nature 332: 323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992);及びClark, Immunol. Today 21: 397-402(2000)を参照のこと。ヒト化抗体には、抗体の抗原結合領域が対象である抗原で免疫化したマカクザルによって産生された抗体から誘導したPrimatized(商品名)抗体が含まれる。
【0028】
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。一般的に、scFvポリペプチドはVH及びVLドメイン間にポリペプチドリンカーを更に含み、それはscFvが抗原結合に望まれる構造を形成することを可能にする。scFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)のPluckthun、Dall'Acqua及びCarter, Curr. Opin. Struct. Biol. 8: 443-450(1998)、及びHudson, Curr. Opin. Immunol. 11:548-557(1999)を参照のこと。
【0029】
「ダイアボディ」なる用語は、二つの抗原結合部位を持つ小さい抗体断片を指し、その断片は同一のポリペプチド鎖(VH-VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)が結合している。非常に短いために同一鎖上で二つのドメインの対形成を不可能にするリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、二つの抗原結合部位を形成する。ダイアボディーは、例えば、欧州特許第404,097号;国際公開第93/11161号;及びHollingerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993)に更に詳細に記載されている。
【0030】
「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の夾雑成分とは、抗体の診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様において、抗体は、(1)ローリー(Lowry)法によって決定した場合95重量%以上の、最も好ましくは99重量%の抗体まで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15のN末端あるいは内部アミノ酸配列の残基を得るのに充分な程度まで、あるいは(3)非還元あるいは還元条件下でのSDS-PAGEを行い、クーマシーブルーあるいは好ましくは銀染色によって、均一になるまで精製されうる。単離された抗体には、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれるが、これは抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないからである。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製工程により調製される。
【0031】
「中和抗体」とは、それが結合する標的抗原のエフェクター機能を除く又は有意に減じることができる抗体分子を意味する。従って、「中和化」抗-NGF抗体は、エフェクター機能、例えばNGFのレセプター結合及び/又は細胞応答の誘発を除くか又は有意に減じることができる。「有意な」減少とは、標的抗原(例えば、NGF)のエフェクター機能の少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約75%、更に好ましくは少なくとも約80%、なお更に好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは少なくとも約90%の減少を意味する。
【0032】
レセプターへ結合するリガンドの能力の客観的に測定可能な減少を生じるならば、抗体は、レセプターへのリガンドの「結合を阻害すること」が可能である。
用語「エピトープ」は、タンパク質抗原上の(モノクローナル又はポリクローナル)抗体の結合部位を指すのに使用される。
【0033】
特定のエピトープと結合する抗体は、「エピトープマッピング」によって同定することができる。タンパク質上のエピトープの位置をマッピング及び特徴付ける多くの方法が当該分野で知られており、これには、例えばHarlow 及びLane, Using Antibodies, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, コールド・スプリング・ハーバー,ニューヨーク,1999の第11章に記載されているような抗体-抗原複合体の結晶構造を解析すること、競合アッセイ、遺伝子断片発現アッセイ、及び合成ペプチドベースアッセイが含まれる。競合アッセイは、以下で論じられている。遺伝子断片発現アッセイによると、タンパク質をコードしているオープンリーディングフレームは、ランダムに又は特定の遺伝的構築物のいずれかによって断片化されていて、タンパク質の発現断片の試験される抗体との活性が測定される。例えば、遺伝子断片はPCRによって生産され、次いで、放射性アミノ酸の存在下で転写されてインビトロでタンパク質へ翻訳される。抗体の放射標識タンパク質断片への結合は、次いで免疫沈降とゲル電気泳動によって測定される。特定のエピトープは、また、ファージ粒子の表面に表示されたランダムペプチド配列の大きなライブラリ(ファージライブラリ)を用いることによって同定される。或いは、重なり合ったペプチド断片の特定されたライブラリは、単純な結合アッセイで、試験抗体との結合を試験することができる。後者の方法は、約5から15のアミノ酸の直鎖状エピトープを特定するために適している。
【0034】
二つの抗体が同一又は立体的に重なり合ったエピトープを認識する場合、抗体は、参考の抗体のように、「本質的に同じエピトープ」と結合する。二つのエピトープが同一又は立体的に重なり合ったエピトープと結合するかどうかを決定するために、最も広くそして迅速な方法は競合アッセイであり、それは、標識抗原又は標識抗体のいずれかを用いて、全ての異なる形式で構成することができる。通常は、抗原は96ウェルプレート上に固定化され、標識抗体の結合を遮断する非標識抗体の能力は、放射性又は酵素標識を用いて測定する。
【0035】
ここで用いられる場合のアミノ酸又はアミノ酸残基という用語は、変異体について以下で更に説明するように、天然発生Lアミノ酸又はDアミノ酸を意味する。アミノ酸のために広く使用される一及び三文字略語が、ここで用いられる(Bruce Albertsら, Molecular Biology of the Cell, Garland Publishing, Inc., New York (第3版. 1994))。
【0036】
「変異体」とは、同じ生物活性を保持する一方で、天然抗体とは幾つかの点で異なる抗体である。変異体は、天然配列内で1つ又は複数のアミノ酸残基の挿入、欠損、修飾及び/又は置換の結果として、天然抗体の配列と異なるアミノ酸配列を有する可能性がある。変異体は、天然抗体とは異なるグリコシル化パターンを有する可能性がある。更には、変異体は、共有的に修飾された天然抗体であり得る。
【0037】
「疾患」とは、本発明に記載の治療から恩恵を受けるであろうあらゆる症状である。「疾患」及び「症状」は、ここで相互交換可能に使用され、哺乳動物を 問題となっている疾患へ感染し易くせしめる病状を含む、慢性及び急性疾患又は疾病を含む。ここで、治療されるべき疾患の限定されない例には、エリテマトーデス、接触皮膚炎、湿疹、帯状疱疹、ヘルペス後神経痛、痛覚過敏、慢性の痛み、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、膀胱炎、多発性硬化症、喘息、乾癬、及び慢性関節炎及びリウマチ関節炎を含む関節炎を含む。本発明によって治療されるべき好ましい疾患は、喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬等の炎症症状である。
【0038】
「炎症症状」とは、痛み、熱、赤熱状態、腫れ及び機能喪失の1つ又は複数によって特徴付けられる症状、及び組織傷害、感染、過敏又は損傷と関連している。
【0039】
「疾患状態」なる語は、細胞又は身体機能系、又は器官の障害、休止、又は異常が生じている細胞又は哺乳動物全体の生理学的状態を指す。
【0040】
用語「有効量」又は「治療的有効量」とは、哺乳動物の疾患、又は疾病又は望ましくない生理的症状を治療及び/又は予防するために効果的な薬剤の量を指す。本発明では、抗-NGF抗体の「有効量」は、ループス、多発性硬化症、喘息、乾癬又は関節炎等の疾患の発症を予防、縮小、鈍化、又は遅延;ループス、多発性硬化症、喘息、乾癬又は関節炎等の疾患の発症を縮小、予防又は阻害(即ち、ある程度まで縮小させて、好ましくは止める);及び/又は、ある程度までこのような疾患と関連している1つ又は複数の症候を軽減することができる。
【0041】
本発明の方法では、用語「コントロール」及びその文法上の変異体は、好まざる症状、例えば喘息等と関連している炎症応答等の生理学的症状を予防、部分又は完全阻害、縮小、遅延又は鈍化することを指すのに用いられる。
【0042】
ここで使用される「治療」又は「治療する」とは、治癒的療法、予防的療法及び防止的療法を称する。治療が必要なものとは、既に疾患に罹っているもの、並びに疾患が防止されているもののなかで疾患に罹りやすいものを含む。本発明の目的に関しては、有益又は所望される臨床結果には、限定されるものではないが、検出可能の有無にかかわらず、兆候の緩和、疾患の範囲の消滅、疾患の安定した(即ち、悪化しない)状態、疾患進行の遅延又は鈍化、疾患状態の改善又は軽減、及び緩解(部分又は全体のいずれか)が含まれる。「治療」は、治療を受けていない場合の予想される生存度に比べて伸びた生存度をも意味する。症状又は疾患を有する傾向にあるもの又は症状又は疾患が予防されるものと並んで、治療が必要なものには、すでに症状又は疾患を有するものが含まれる。
【0043】
免疫系への「有意な副作用」とは、免疫系を危うくし、及び/又は、抗原の刺激への正常な免疫応答を阻害する作用である。免疫系への有意な副作用の例は、縮小した体液性免疫応答であろう。
【0044】
「製薬的にに許容可能な」担体、賦形剤、又は安定化剤とは、用いられる用量及び濃度で、それに曝される細胞又は哺乳動物にとって無毒なものである。多くの場合、生理学的に許容可能な担体とは、水溶性pH緩衝液である。生理学的に許容可能な担体の例は、緩衝液、例えばリン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸塩;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;疎水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリシン;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えばトゥイーン(TWEEN)(商品名)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びプルロニクス(PLURONICS)(商品名)を含む。
【0045】
「リポソーム」は、種々の型の脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤からなる小型の小胞であり、哺乳動物への薬物(例えば、ここで開示されている抗-NGF抗体及び、状況に応じて、化学療法剤)の送達に有用である。リポソームの成分は、通常は生体膜の脂質配列に類似する二層形式に配列されている。
【0046】
「パッケージ挿入物」という用語は効能、用法、用量、投与、禁忌及び/又はかかる治療製品の使用に関する警告についての情報を含む、治療製品の市販用パッケージに通常含まれるインストラクションを意味するために使用される。
【0047】
治療の対象のための「哺乳動物」は、ヒト、家庭及び農業用動物、動物園、スポーツ、又はペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、などを含む哺乳類に分類される任意の動物を意味する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0048】
B.本発明を実施する方法
以下により詳しく記載されているように、喘息のマウスモデルでの抗-NGF抗体911の投与によって、気道過敏症と炎症の程度が縮小したが、全免疫グロブリンレベル及びIgEの血清レベルで測定されたように、吸入した抗原に対する体液性免疫応答を低減しなかった。
抗-NGF抗体は当該分野で知られている。本発明で有用な抗-NGF抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、及び抗体断片、並びに抗体のグリコシル化変異体、抗体のアミノ酸配列変異体及び共有修飾抗体を含む修飾抗体を含む。この抗体は、当該分野で知られている任意の方法で作製することができる。
従って、モノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256: 495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を使用して、又は組み換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作製することができる。
【0049】
要約すると、ハイブリドーマ法では、マウス又はその他の適切な宿主動物、例えばハムスター又はマカクザルを上記のようにして免疫し、免疫化に用いたタンパク質と特異的に結合する抗体を産生するか又は産生することのできるリンパ球を誘発する。別法として、リンパ球をインビトロで免疫化してもよい。免疫化の後、リンパ球を単離し、ポリエチレングリコールのような適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞株と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁[Academic Press, 1986])。こうして準備されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは無融合の親骨髄腫細胞の成長又は生存を阻止する一種以上の物質を含有する適切な培地に播種し、生育させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠いて、ハイブリドーマの培地は通常ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン(HAT培地)等のHGPRT欠乏性細胞の成長を阻止する物質を含む。好ましい骨髄腫細胞株はマウス骨髄腫株であって、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、アメリカ合衆国より入手することができるMOP-21およびMC-11マウス腫瘍、及び、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ロックビル、メリーランド、アメリカ合衆国より入手することができるSP-2又はX63-Ag8-653細胞である。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫株化細胞も、ヒトモノクローナル抗体の産生に関して記載されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁、(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。ハイブリドーマ細胞が生育する培養培地は、抗原に対するモノクローナル抗体の産生に関してアッセイされる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によって、或いはラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等のインビトロ結合アッセイによって測定する。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munsonら, Anal. Biochem., 107:220(1980)に記載のスキャッチャード分析によって測定することができる。所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が一度同定されると、限界希釈法によりその細胞をサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。サブクローンにより分泌したモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィー等の常套的な抗体精製法によって、培地、腹水、又は血清から適切に分離される。
【0050】
抗体の組み換え生産は、抗体又は抗体鎖をコードするDNAの単離を必要とする。モノクローナル抗体をコードするDNAは、常法を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に分離されて、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび分離されたならば、組換え宿主細胞でモノクローナル抗体の合成を得るために、このDNAを発現ベクターへ配し、次いで、それを、この状況以外では免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞のような宿主細胞へトランスフェクトしてもよい。例えば、相同的なマウス配列をヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列で置換することによって(Morrisonら, Proc.Nat.Acad.Sci.,USA,81:6851[1984])、又は免疫グロブリンコード化配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード化配列の全部又は一部を共有結合させることによって、このDNAを修飾することができる。この方法では、ここでの抗NGFモノクローナル抗体の結合特異性を有するように、「キメラ」又は「ハイブリッド」抗体は調製される。
【0051】
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは抗体の定常部を置換するか、又は本発明の抗体の1個の抗原結合部位の定常部を置換し、NGFポリペプチドに対する特異性を有する1個の抗原結合部位、及び高親和性IgEレセプター、又はTNFレセプター等の異なる標的に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を作り出す。キメラ又はハイブリッド抗体は、また、合成タンパク質化学において既知の方法を用いてインビトロで調製することができ、それには、架橋剤に関するものが含まれる。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を用いて、又はチオエーテル結合の形成によって構築され得る。この目的に関して適した試薬の例としては、イミノチオレート及びメチル-4-メルカプトブチリイミデートが含まれる。
【0052】
非ヒト、例えばマウス抗体はヒト化することができる。一般的に、ヒト化抗体には、非ヒト源由来の1つ又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合は「移入」可変ドメインに由来する「移入」残基と称されている。ヒト化は、基本的にウィンター(Winter)及び共同研究者の方法(Jonesら, Nature, 321:522-525 (1986);Riechmannら, Nature, 332:323-327 (1988);Verhoeyenら, Science, 239:1534-1536 (1988))に従い、齧歯動物のCDR又はCDR配列でヒト抗体の該当する配列を置換することによっておこなうことができる。
【0053】
抗体が、抗原及び他の好ましい生物学的特性に対する高い親和性の保持をともなってヒト化されることは重要である。この目的を達成するために、好ましい方法によって、ヒト化抗体は、親及びヒト化配列の三次元モデルを用いて、親配列及び概念上のヒト化産物の分析の工程によって調製される。三次元免疫グロブリンモデルは、広く入手可能であり、当該分野に熟練した者にとっては良く知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の可能性のある三次元立体配置構造を例示して表示するコンピュータープログラムが入手可能である。これら表示の検討によって、候補免疫グロブリン配列の機能化における残基の可能性ある役割すなわち、候補免疫グロブリンのその抗原へ結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。この方法では、標的抗原に対して増大した親和性のような所望される抗体特性が達成されるよう、FR残基をコンセンサス及び移入配列から選択して組み合わせることが可能である。一般的に、CDR残基は、抗原結合に影響を与えることに、直接にそして最も実質的に関与している。さらなる詳細については、米国特許第5,821,337号を参照のこと。
【0054】
本発明は、ヒト抗-NGF抗体をも含む。前記のように、そのようなヒト抗体は、ヒトモノクローナル抗体の生産のためのヒト骨髄腫又はマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株を使用したハイブリドーマ法によって作製することができる(例えば、Kozbor, J. Immunol. 133, 3001 (1984)、及びBrodeur, ら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, 51-63頁(Marcel Dekker, Inc., New York, (1987))。更には、免疫化することで、内因性免疫グロブリンの生産なしに、ヒト抗体のレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を作り出すことが現在は可能である。例えば、キメラ及び生殖細胞変異体マウスでの抗体重鎖J領域(JH)遺伝子のホモ接合体欠失によって、内在性抗体の産生の完全な阻害が生じることが説明されてきた。そのような生殖細胞変異マウスへのヒト生殖細胞免疫グロブリン遺伝子アレイの転移は、抗原刺激によるヒト抗体の産生を引き起こす。例えば、Jakobovitsら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551-2555(1993);Jakobovitsら, Nature 362: 255-258 (1993)を参照のこと。この技術の改良版に関しては、Mendezら(Nat. Genet. 15: 146-156 (1997))も参照のこと。
【0055】
別法として、ファージディスプレイ技術(MaCaffertyら, Nature 348, 552-553[1990])を、免疫化されていない供与体の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体及び抗体断片をインビトロで生産することに用いることができる。この技術によると、抗体Vドメインは、M13又はfdのような糸状バクテリオファージの主要又は副コートタンパク質遺伝子のいずれかへインフレームでクローンされ、ファージ粒子の表面上に機能性抗体断片として表示される。糸状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むことから、抗体の機能的特性に基づいた選択も、これらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択をする結果となる。従って、ファージは、B細胞の幾つかの特性を模倣する。ファージディスプレイは、種々のフォーマットでおこなうことができる;それらの概説として、例えば、Johnson, Kevin S. 及びChiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3, 564-571(1993)を参照せよ。V遺伝子セグメントの幾つかのソースをファージディスプレイのために用いることができる。Clacksonら, Nature 352, 624-628(1991)は、免疫化したマウスの脾臓から取り出したV遺伝子の小さなランダムコンビナトリアルライブラリから、多様な抗-オキサゾロン抗体を単離した。免疫化していないヒト供与体のV遺伝子のレパートリーを構築することができ、多様な抗原(自己抗原を含む)に対する抗体を、基本的にMarksら, J. Mol. Biol. 222, 581-597(1991)、又はGriffithら, EMBO J. 12, 725-734(1993)によって記載されている技術に従って単離することができる。天然免疫応答では、抗体遺伝子は高速度で変異を蓄積する(体細胞過剰変異)。導入された幾つかの変化は、より高い親和性を与え、そして高親和性表面免疫グロブリンを表示するB細胞は、後の抗原の刺激の間に、優先的に複製されて分化する。この天然プロセスは、「チェーン・シャッフリング(chain shuffling)」として知られている技術を用いて模倣することができる(Marksら, Bio/Technol. 10, 779-783[1992])。この方法では、ファージディスプレイによって得られた「一次」ヒト抗体の親和性を、重鎖及び軽鎖V領域遺伝子を、免疫化していない供与体から得られたVドメイン遺伝子の天然発生変異体(レパートリー)のレパートリーで経時的に置き換えることによって改良することができる。この技術は、nMの程度での親和性で、抗体及び抗体断片の生産を可能にする。かなり大きなファージ抗体レパートリーを作製するための戦略(「全てのライブラリのもと」としても知られている)は、Waterhouseら, Nucl. Acids Res. 21, 2265-2266(1993)によって記載され、そのような大きなファージライブラリからの直接の高親和性ヒト抗体の単離は、印刷中のGriffithら, EMBO J. 13: 3245-3260(1994)によって報告されている。
【0056】
遺伝子シャッフリングは、また、げっ歯動物の抗体からヒト抗体を誘導するために用いられ、そのヒト抗体は、初発のげっ歯抗体に対して類似の親和性及び特異性を有する。「エピトープ・インプリンティング」とも呼ばれるこの方法によると、ファージディスプレイ技術によって得られたげっ歯抗体の軽鎖Vドメイン遺伝子は、ヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置換されて、げっ歯-ヒトキメラを作成する。抗原での選択は、機能性抗原結合部位を使うことができるヒト可変部の単離を引き起こす結果となる、すなわちエピトープは、パートナーの選択を支配(インプリント)する。残りのげっ歯Vドメインを置換するために工程が繰り返されると、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日に発行のPCT特許出願国際公開93/06213を参照せよ)。CDR移植によるげっ歯抗体の伝統的なヒト化とは違って、この技術によって、げっ歯起源のフレームワーク又はCDR残基を有しない完全なるヒト抗体を提供される。
【0057】
本発明は、特に二重特異性抗体を含む。伝統的には、二重特異性抗体の組換え産生は、二つの重鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現に基づく(Millstein及びCuello, Nature, 305:537-539 (1983))。異なるより好ましい手法によって、所望の結合特異性(抗体-抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合できる。融合は、好ましくは少なくともヒンジ部、CH2及びCH3領域の一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとのものである。少なくとも一つの融合に存在する、軽鎖結合に存在する部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を有することが望ましい。免疫グロブリン重鎖融合をコードするDNA、及び所望されるのであれば免疫グロブリン軽鎖を別々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これは、構築において使用される3つのポリペプチド鎖の不等価な割合が最高の産生を提供する場合、実施態様で3つのポリペプチド断片の相互割合を調節するのに高い柔軟性を提供する。しかしながら、等しい割合での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現によって高い産生が起こる場合、又は、その割合が特に有意ではない場合には、1つの発現ベクターへ2又は3つすべてのポリペプチド鎖のコード化配列を挿入することが可能である。二重特異性抗体を作成するための更なる詳細については、例えばSureshら, Methods in Enzymology, 121:210(1986)を参照されたい。
【0058】
ヘテロコンジュゲート抗体もまた本発明の範囲に入る。ヘテロコンジュゲート抗体は、2つの共有結合した抗体からなる。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせるため[米国特許第4,676,980号]及びHIV感染の治療のために[国際公開91/00360;国際公開92/200373;欧州特許第03089号]提唱されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の常套的架橋法を用いて作製することができる。好適な架橋剤は当該分野で知られており、多くの架橋技術ととも米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0059】
抗体断片は、伝統的に無傷の抗体のタンパク分解性消化によって誘導されてきた(例えば、Morimotoら, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennanら, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は,現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合してF(ab')2断片を形成することができる(Carterら, Bio/Technology 10:163-167[1992])。他の実施態様では、ロイシンジッパーGCN4を使用してF(ab')2 分子のアセンブリを促進することで、F(ab')2断片を形成する。他の手法によると、組み換え宿主細胞培養から直接にFv、Fab又はF(ab')2断片を単離することができる。抗体断片の作製に関する他の技術は、熟練技術者にとって明かである。
【0060】
本発明のある実施態様については、血清半減期を増大させるために抗体断片を改変することが望ましい。これは、例えば、抗体断片にサルベージレセプター結合エピトープを導入することにより(例えば、抗体断片中の適当な領域の突然変異により、あるいはついで抗体断片の何れかの末端又は中央に、例えばDNA又はペプチド合成により融合されるペプチドタグ内にエピトープを導入することにより)、達成できる。1996年10月17日に発行の国際公開第96/32478号を参照せよ。
【0061】
サルベージレセプター結合エピトープは、一般的には、Fcドメインの1又は2つのループのいずれか一又は複数のアミノ酸残基が抗体断片の類似位置に移される領域を構成する。更により好ましくは、Fcドメインの1又は2つのループの3又はそれより多い残基が移される。なお更に好ましくは、エピトープはFc領域(例えばIgGの)のCH2ドメインから取上げられ、抗体のCH1、CH3、又はVH領域、あるいは一以上のそのような領域に移される。別法として、エピトープをFc領域のCH2ドメインから取上げ、抗体断片のCL領域又はVL領域、又は両方に移す。
【0062】
具体的に開示された抗-NGF抗体の置換、挿入、及び/又は欠失を含むアミノ酸配列変異体は、コード化DNAへ適切なヌクレオチド変化を導入すること、又はペプチド合成によって調製される。このような変異体を作製する方法は当該分野で良く知られており、例えば、Cunningham 及び Wells Science, 244: 1081-1085(1989)に記載されている「アラニンスキャンニング突然変異誘発」を含む。抗体のアミノ酸変異体の特定の型は、抗体の本来のグリコシル化パターンを変える。改変することによるとは、抗体で見出された1つ又は複数の炭水化物部分を除去すること、及び/又は抗体には存在しない1つ又は複数のグリコシル化部位を添加することを意味する。
【0063】
所望される特性を有する抗体のスクリーニング
本発明で有用な抗体は、NGFの活性を中和するものである。従って、例えば、本発明の中和化抗-NGF抗体は、NGFを候補抗体とインキュベートし、結合とNGFの生物活性の中和化をモニターすることによって同定することができる。結合アッセイは、精製NGFポリペプチド、又はNGFポリペプチドを天然に発現する又はトランスフェクトされて発現する細胞によっておこなうことができる。一実施態様では、この結合アッセイは、NGF結合に関して、既知の抗-NGF抗体と競合する候補抗体の能力を評価する競合結合アッセイである。ELISA型を含めて種々の形式で、このアッセイをおこなうことができる。
【0064】
NGFの生物活性を中和する候補抗体の能力は、例えば、Hongoら(Hybridoma 19:215-227(2000))に記載のように、胎児ラットの背根神経節生存バイオアッセイでNGF媒介生存を阻害する候補抗体の能力をモニターすることで実行される。
【0065】
興味の対象である抗体によって結合したNGF上のエピトープと結合する抗体のスクリーニングのために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow及びDavid Lane(1988)に記載された日常的なクロスブロッキングアッセイをおこなうことができる。別法として、又はそれに加えて、当該分野で知られた方法によって、エピトープマッピングをおこなうことが可能である。例えば、本発明のモノクローナル抗体によって結合したNGFエピトープは、Fendlyら. Cancer Research 50:1550-1558(1990)に記載のような競合結合解析によって測定することができる。クロスブロッキング研究は、蛍光発光を定量化するPANDEX(商品名)Screen Machineを使用して、無傷の細胞での直接蛍光発光によっておこなうことができる。この方法では、確立された手法を使用して、フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)でコンジュゲートされている(Wofsyら, Selected Methods in Cellular Immunology, p.287, Mishel及びSchiigi(編) San Francisco: W. J. Freeman Co.(1980))。懸濁液中のNGF発現細胞及び精製モノクローナル抗体をPANDEX(商品名)プレートウェルへ添加してインキュベートし、蛍光発光をPANDEX(商品名)によって定量化する。関連しないモノクローナル抗体コントロールと比較して50%又はそれより高く、各々が他の結合を遮断するならば、モノクローナル抗体はエピトープを共有するものと考えられる。
【0066】
本発明で有用な抗-NGF抗体は、また、所望する活性又は作用を有する合成抗体クローンのためのコンビナトリアルライブラリを使用して同定することができる。このような方法は、当該分野で知られている。要約すると、ファージコートタンパク質と融合した抗体可変領域(Fv)の種々の断片(例えば、Fab、F(ab')2、等...)を表示するファージを含有するファージライブラリによって、合成抗体クローンを選択する。このようなファージライブラリは、所望する抗原に対するアフィニティークロマトグラフィーによってピックアップされる。所望される抗原と結合することが可能なFv断片を発現するクローンが抗原へ吸収され、よって、ライブラリ中の未結合クローンから分離される。結合するクローンは、その後、抗原から溶出され、さらなる抗原吸収/溶出のサイクルによって更に濃縮することができる。本発明で使用される適切な抗-NGF抗体は、対象のファージクローンを選択するために適した抗原スクリーニング法を設計すること、その後の対象であるファージクローンのFv配列及び適切な定常領域(Fc)配列を使用した完全長抗-NGF抗体クローンの構築によって得ることができる。
【0067】
細胞ベース生物学的アッセイで得られた結果は、その後、動物、例えばマウス、モデル、及びヒト臨床試験での試験によって追跡することができる。所望されるならば、所望される特性を有すると同定されたマウスモノクローナル抗体を、米国特許第5,821,337号に記載の「遺伝子変換突然変異」を含む当該分野で知られている技術によってキメラ抗体へ変換するか、又はヒト化することができる。
【0068】
C.製薬的製剤
本発明で使用される抗体の治療用製剤は、所望される程度の純度を持つ抗体を、凍結乾燥製剤又は水性溶液の形態で、最適な製薬上許容される担体、賦形剤又は安定化剤と混合することにより調製され保存される(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. [1980])。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、用いられる用量及び濃度で受容者に非毒性であり、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロライド;ベンズアルコニウムクロライド;ベンズエトニウムクロライド;フェノール;ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物、EDTA等のキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、亜鉛-タンパク質錯体)及び/又はトゥイーン(TWEEN)(商品名)、プルロニクス(PLURONICS)(商品名)、及びポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0069】
本発明の方法で有用な中和化抗-NGF抗体は、免疫リポソームとして処方することもできる。抗体を含有するリポソームは、例えばEpsteinら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688(1985);Hwangら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030(1980);及び米国特許第4,485,045号及び同4,544,545号に記載されているように、当該分野において既知の方法により調製される。循環時間が増したリポソームは米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0070】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG-誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含有する脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作製することができる。リポソームは孔径が定められたフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab'断片は、ジスルフィド交換反応を介して、Martinら, J. Biol. Chem. 257:286-288(1982)に記載されているようにしてリポソームにコンジュゲートすることができる。場合によっては、化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)はリポソーム内に包含される。Gabizonら, J. National Cancer Inst. 81(19)1484(1989)を参照されたい。
【0071】
また、活性成分は、例えばコアセルベーション技術により又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えば、各々ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル中、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミン小球、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)中、又はマクロエマルション中に包括されていてもよい。これらの技術は、Remington's Pharmaceutical Science 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
【0072】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、このマトリクスは成形された物品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形状である。徐放性マトリクスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(polylactide)(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸及びエチル-L-グルタメート、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商品名)(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸リュープロリドの注射可能な小球)などの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、ポリ-(D)-(-)-3-ヒドロキシブチル酸を含む。
【0073】
ここでの製剤は、治療すべき特定の徴候に必要な場合に1つより多い活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を持つものも含んでよい。例えば、1つの製剤中のNGFの異なるエピトープ又はNGFレセプターと結合する抗体を更に提供することが望ましい。あるいは、又は更には、その組成物は、抗-炎症剤等の他の生物活性化合物を更に含むことが可能である。そのような分子は、意図される目的にとって効果的な量の組み合わせで適切に存在する。
【0074】
インビボ投与に用いる製剤は無菌であるべきである。これは、滅菌濾過膜を通した濾過により容易に達成される。
【0075】
治療用抗-NGF抗体組成物は、一般的に、無菌アクセスポート、例えば皮下注射針で貫通可能な止め具を有する静脈内溶液バッグ又はバイアルを備えた容器に入れられる。
【0076】
D.抗-NGF抗体による治療
本発明によると、抗-NGF抗体を使用して種々の疾患又は疾病を治療することが可能だと考えられる。例示的な症状又は疾患には、喘息、乾癬及び関節炎が含まれる。抗-NGF抗体は、疾患の活性段階の発症を防ぎ、あまねく経験される症状を治療し、潜在的な疾患そのものを治療するために使用することができる。
【0077】
アレルギー性応答を制御する細胞及び分子機構の理解の進展と向上した治療法にもかかわらず、アレルギー性疾患の発生、特に喘息は、近年において劇的に増加している(Beasleyら, J. Allergy Clin. Immunol. 105:466-472(2000);Peat及びLi, J. Allergy Clin. Immunol. 103:1-10(1999))。アレルギー性疾患は、例えば、数年にわたる注射よってアレルゲンを増やしながら与えるアレルゲンベースワクチン接種によって治療することができる。軽い喘息は、殆どの患者では、通常、吸入コルチコステロイド剤の比較的に低量投与によってコントロールすることができるが、中度の喘息は、通常、吸入長鎖β-アンタゴニスト又はロイコトリエン阻害剤のさらなる投与によって治療される。しかしながら、幾つかの喘息の治療は、未だに深刻な医療的課題である。現在、FDAの認可待ちである抗-IgE抗体(rhuMAb-E25、Xolair(商品名)ジェネンテック,インク., タノックス, インク. 及ノバルティス・ファーマシューティカルズの共同開発)は、アレルギー性喘息と季節性アレルギー性鼻炎の症状の原因となる状態の治療上の初期介入に関して有望な結果を示すが、喘息などのアレルギー性疾患をコントロールするためのさらなる治療上の戦略と薬剤の開発の必要である。
【0078】
本発明の抗-NGF抗体は、典型的には、咳、喘鳴、胸苦しさ、及び/又は呼吸困難の発症で特徴付けられる喘息、気道過敏症に関連する他の疾患の治療に使用することができる。
【0079】
本発明の抗-NGF抗体は、多発性硬化症、大腸炎、炎症性腸疾患、膀胱炎、湿疹、接触性皮膚炎、慢性関節炎及びリウマチ関節炎を含む関節炎、クローン病及び乾癬等の他の炎症症状の管理にも有用である。
【0080】
更に、抗-NGF抗体は、例えば、エリテマトーデス、帯状疱疹、ヘルペス後神経痛、痛覚過敏、慢性の痛みを含むNGFのレベルの増加と関連するであろう他の疾患の治療にも有用である。
【0081】
抗-NGF抗体は、等の周知の方法、例えばボーラスとしての静脈内投与、又は一定期間にわたる連続的な注入によって、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、骨液内、くも膜腔内、経口又は局所的経路で哺乳動物、好ましくはヒト患者へ投与される。抗-NGF抗体は吸入によっても投与される。ジェット・ネブライザー及び超音波ネブライザーを含む市販で入手可能な液体製剤のためのネブライザーは、投与のために有用である。液体製剤を直接に霧状化することが可能であり、凍結乾燥粉末を、再構成後に霧状化することができる。別法として、抗-NGF抗体は、フッ化炭素製剤及び定量吸入器を使用してエアロゾル化するか、又は凍結乾燥及び製粉パウダーとして吸入することが可能である。気道過敏症によって特徴付けられる他の症状及び喘息の治療のためには、好ましい投与経路は吸入である。
【0082】
他の治療法は、抗-NGF抗体の投与との組み合わせであってもよい。好ましくは、双方(又は全て)の活性剤が同時にその生物活性を発揮する期間があり、組み合わせ投与には、個別の製剤又は単一の製薬的製剤を使用する同時投与、及び任意の順序による連続投与が含まれる。喘息の治療に関しては、抗-IgE抗体、特にrhuMAb-E25(Xolair(商品名))、又は第2世代抗体分子であるrhuMAb-E26(ジェネンテック,インク.)との組み合わせで、ここでの抗体を使用することに特に利点があるであろう。rhuMAb-E25抗体は、アレルギー症の過程の早期に介入するように開発された組み換えヒト化抗-IgEモノクローナル抗体である。組み合わせ用途には、単一の製薬的製剤で2つの抗体を投与すること、又は抗-NGF及び抗-IgE特異性を持つ二重特性抗体を使用する可能性をも含む。その他の好ましい実施態様では、ここでの抗-NGF抗体は、ジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)治療のような吸入コルチコステロイド剤との組み合わせで投与される。リウマチ関節炎又はクローン病の治療のためには、本発明の抗体は、これら症状の治療として知られている他の療法との組み合わせで投与することが可能である。例えば、ここでの抗-NGF抗体は、レミケード(Remicade)(登録商標)(Infliximab(インフリキシマブ)、セントコア(Centocor))、又はエンブレル(Enbrel)(登録商標)(エタナセプト(Etanercept)(登録商標)、Wyeth-Ayerst)との組み合わせで投与することができる。本発明は、これら疾患を標的化する二重特異性抗体をも含む。例えば、二重特異性抗体は、ここでの抗体のNGF-結合力と組み合わせた抗-TNF特異性を含む。
【0083】
上記のいずれかの同時投与薬剤に適した投与量は、現在使用されているものであり、薬剤及び抗-NGF抗体の組み合わせ作用(相乗効果)のために低くてもよい。
【0084】
疾患の予防及び治療に関して、抗-NGF抗体の適切な投与量は、用いられる抗-NGF抗体、治療される疾患の型、疾患の重症度と経過、抗体が予防又は治療目的として投与されるのかどうか、薬歴、患者の臨床歴及び抗体への反応、及び通院する医師の裁量に依存する。典型的には、臨床医は、投与が所望する結果に達するまで抗-NGF抗体を投与する。
【0085】
抗-NGF抗体は、1度又は一連の治療を通して患者へ適切に投与される。疾患の型及び重症度によって、例えば、1回又は複数回の分離投与、又は連続又は繰り返し投与によるのかにかかわらず、患者への投与の最初の候補投与量は約2mg/kgの抗体である。通常の日投与量は、上記の要因によって、約1g/kgから100mg/kg又はそれより多くの範囲にあるであろう。数日又はより長きにわたる繰り返し投与に関しては、症状によって、疾患症状の望ましい抑制が起こるまで治療が維持される。好ましい投与療法は、約2mg/kgの初期投与量の投与、その後の約1mg/kgの抗-NGF抗体の週間維持投与で構成される。しかしながら、実施者が到達したい薬物動態学的崩壊のパターンによっては、他の投与療法が有用であろう。この療法の進展は、常套的な技術及びアッセイによって容易にモニターできる。
【0086】
E.製造品
本発明の他の実施態様では、上記の疾患の診断又は治療に有用な物質を含む製造品が提供される。この製造品は容器とラベルとを具備する。好適な容器は、例えば、ビン、バイアル、シリンジ等を含む。容器は、ガラス又はプラスチックなどの材料から形成されてよい。容器は、状態を診断し治療するのに有効な組成物を収容し、無菌のアクセスポートを有し得る(例えば、容器は皮下注射針で貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は抗-NGF抗体である。その容器は、第2の製薬的活性剤を更に含んでもよい。好ましい第2薬剤は、喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬等の炎症疾患の治療に適している。
【0087】
ラベル又は添付文書は、組成物が炎症症状等の最適の症状を治療するために使用されることを示している。一実施態様では、ラベル又は添付文書は、NGFと結合する抗体を含む組成物を使用して、喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬等で構成される群から選択される炎症症状を治療することが可能であることを示している。更に、ラベルと添付文書は、治療される患者が喘息、乾癬、関節炎又は他の疾患又は疾病を有するものであることを示している。更には、製造品は、(a)NGFと結合し、生物活性を阻害する最初の抗体を含む組成物を含む最初の容器;及び(b)NGFレセプターと結合し、リガンド活性化を遮断する二次抗体を含む組成物を有する2番目の容器を含んでもよい。本発明のこの実施態様の製造品は、最初と2番目の組成物を使用して喘息、乾癬、関節炎又は他の疾患又は疾病を治療することが可能であることを示す添付文書を更に含んでもよい。あるいは、又は更に製造品には、製薬的に許容可能な緩衝液、例えば注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝液化生理的食塩水、リンガー液又はデキストロース溶液を含む2番目(又は三番目)の容器を更に含んでもよい。それは、商業上及び使用者の立場から望ましい他の物質を更に含み、それには、他の緩衝液、希釈液、フィルター、針、及び注射器が含まれる。
【0088】
本発明のさらなる詳細は、以下の限定されない実施例に例示されている。
(実施例)
【0089】
実施例で言及されている市販で入手可能な試薬を、他に指示がなければ、製造者指示書に従って使用した。ATCC寄託番号によって、以下の実施例、そして明細書を通して同定されたこれら細胞のソースは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、マナサス,バージニアである。
【実施例1】
【0090】
抗-NGFモノクローナル抗体の生産及び特徴付け
A.抗-NGFモノクローナル抗体の生産
この実施例は、ヒトNGF(hNGF)と特異的に結合するモノクローナル抗体の調製を例示している。モノクローナル抗体を生産する技術は当該分野で知られており、例えば、Kohler及びMilstein, Nature 256: 495-497(1975)に記載されている。実施例1及び2に記載の実験は、Hongoら, Hybridoma 19:215-227に更に記載されている。
【0091】
Hongoら, Hybridoma 14: 253-260の記載に類似する方法によって、hNGFに対する23のマウスモノクローナル抗体のパネルを発展させた。要約すると、Balbc/マウス(Charles River Laboratories, ウィルミントン, デラウェア)を、Ribiアジュバンド(Ribi Immunochem Research, Inc., ハミルトン, ミズーリ)中のヒトNGFによって過免疫化した。固定化したNGFに対して最も高い力価を示すマウスの脾細胞を、マウスメラノーマ細胞(X63.Ag8.653;アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション,ロックビル,メリーランド)と融合させた。10-14日後に、上清を収集し、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)によって抗体産生についてスクリーニングした。第二ラウンド目のサブクローニングの後に最も高い免疫活性を示すクローンを、MAbのインビボ産生のためにプリスタンで初回刺激したマウスへ注射した(Hoogenraadら, J. Immunol. Methods 6:317-320 (1983))。その腹水をプールし、確立された手法(Moksら, Eur. J. Biochem. 85: 1205-1210(1986))を使用して、スタフィロコッカル プロテイン A(staphylococcal proteinA)(ファルマシア)でのアフィニティー・クロマトグラフィー(ファルマシアFPLC(Pharmacia Fast Protein Liquid Chromatography);ウップラサ,スウェーデン)によって精製した。その精製抗体調製物を無菌的に濾過し、リン酸バッファー化生理的食塩水(PBS)で4℃で貯蔵した。
【0092】
B.ドメインスワップ変異体を使用したエピトープマッピング
抗-NGF MAbsのエピトープ特異性を、ホモログ-スキャンニング突然変異誘発(homolog-scanning mutagenesis)によって生成されるキメラNGF/ニューロトロフィン-3(NT-3)タンパク質とのMAbの結合を評価することで、最初に決定された。そのようなドメイン-スワップ変異体の使用は、欠失変異体を上回る明かな利点がある。ドメイン-スワップ変異体である関連するタンパク質の同じ大きさで実質的に同じアミノ酸配列である対応するドメインによるドメインの置換により、二次構造が保持される一方で、ドメインの欠失はタンパク質の二次構造を破壊する可能性がある。
【0093】
対応するhNGFの可変領域へのヒトNT-3(hNT-3)配列の3〜7残基置換を有する8つのhNGF/hNT-3キメラ変異体(図1)を、オリゴヌクレオチド定方向突然変異誘発によって作った。このキメラ変異体を、一時的にヒト293細胞で発現させ、以下に記載のように、精製したMAbを捕獲抗体として、そして検出用のHRP-コンジュゲートアフィニティー精製ラビット抗-hNGFポリクローナル抗体を使用する酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)によって、変異体NGFとの抗-hNGFの結合を評価した。各NGF変異体への抗-hNGF MAbの結合を2〜4の独立した定量的ELISAで測定し、野生型NGFとの結合と比較した。
【0094】
要約すると、マイクロタイタープレート(Nunc Maxisorb, VWR Scientific, サン フランシスコ, カリフォルニア)をウェルあたり100Lの1g/mlのヤギ抗マウスIgG(べーリンガー・マンハイム, インディアナポリス, インディアナ)で終夜、4℃でコーティングし、過度の結合部位を0.05%トゥイーン20と0.5%ウシ血清アルブミン(BSA, インタージェン(Intergen)、サンディエゴ、カリフォルニア;PBS/BSA/T20)を含有するPBSで遮断した。MAbs(PBS/BSA/T20で1g/mlに希釈)を適切なウェルへ添加し、大気温度で1−2時間インキュベートした。このプレートを洗浄し、100Lの野生型又は変異型hNGF(PBS/BSA/T20で60ng/mLへ希釈 7.8ng/ml)を添加し、大気温度で1−2時間インキュベートし、再び洗浄した。西洋ワサビパルオキシダーゼ(HRP; PBS/BSA/T20で1:10,000)とコンジュゲートした精製ラビット抗-hNGFポリクローナル抗体を添加(100L/ウェル)し、1時間インキュベートした。このプレートを展開させ、二重の波長で読み取った。hNGF変異体とのMAbsの結合を、同じ条件下で解析した野生型hNGF結合(100%に設定)と比較した。
【0095】
hNGFに対して高いアフィニティー(MAb908に対してEC50=0.18nM、MAb909に対して0.18nM、MAb911に対して0.37nM、MAb912に対して0.18、MAb938に対して0.74及びMAb14.14に対して0.59)、そして、種々のキメラ変異体(図1)との結合で60−90%より大きな縮小を示す6つのヒト抗-NGFモノクローナル抗体(MAb908,909,911,912,938及び14.14)を、さらなる解析のために選択した。図1に示すように、3つのMAbs(908、909及び14.14)は、単一の可変領域との結合の60−95%の損失によって特徴付けられる、鮮明な領域結合特性を示した(図1)。可変領域変異体のそれほど劇的ではない効果はMAb911、MAb912及び938で観察され、それには、これら抗体の結合エピトープの一因となる複数のNGF可変領域を有していた。しかしながら、これらエピトープを含む可変領域は、3次構造的には近接している(図3A)。
【0096】
C.部位特異的突然変異誘発を使用したエピトープマッピング
選択された6つの各抗-NGF MAbのエピトープ特異性を更に明らかにするために、TrkA及びp75結合及び生物機能を担うことが以前に報告されている領域内の残基に特に焦点を当てて、単一、二重、又は三重アミノ酸点変異を示すNGF変異体を発現させて特徴付けた(Shihら, J. Biol. Chem., 269(44): 27679-27686(1994))。抗-NGF MAb結合への変異の効果は、上記のようにELISAによって特徴付けた。各変異体への抗-NGF MAbの結合に関する平均EC50値をELISA結合曲線から計算し、野生型NGF結合について得られたEC50値と比較した(図2A−F)。
【0097】
すべての6つのMAbによって、hNGF点変異の結合特異性は、一般的には、以前に特定のNGFキメラ変異体との結合の損失によって同定された領域と関連している。しかしながら、MAb911及び938の結合へのNGF点変異の効果は、他のMAbで観察された効果と比べてそれほど重要ではない(図2A−F)。変異効果の領域特異性はNGFキメラ変異体で交換された可変領域内又は近傍の残基と関連しており、その変異体は、MAb911又は938の最大結合の50−60%より高い損失となっている。MAb911に関しては、これらの変異体には、K32A+K34A+E35A、Y79A+T81K、H84A+K88A、及びR103Aが含まれる。結合の更なる損失は、近傍の変異体E11A、Y52A及びL112A+S113Aで観察された(図2C)。これは、MAb911のエピトープが7つのhNGF可変領域のうちの4つに及ぶことを示している(図3C)。
【0098】
D.MAbによる結合に関するエピトープの構造依存性
hNGFへの抗-NGF MAbの結合がhNGFのエピトープの構造コンフォメーションに依存するのか否かを確かめるために、hNGFの非還元及び還元型への抗-NGFの結合を評価した。メルカプトエタノールによって未処理又は還元されたかいずれかのhNGFをゲル電気泳動へ供し、イムノブロッティングのためにニトロセルロースブロットへ移した。hNGFの検出のために、ニトロセルロースブロットを洗浄し、一次及び二次抗体でインキュベートし、撹拌して大気温度で1時間、ルミノール基質(アマシャム インターナショナル,アマシャム,英国)に曝し、10-45秒、x線フィルム(イーストマン・コダック,ロチェスター,ニューヨーク)に曝した。図4では、幾つかのモノクローナル抗-NGF抗体が、hNGFの還元型と最少結合を示すことがわかる。これらはMAb938、908,911及び912を含み、それらが結合するhNGF上のエピトープが電荷の改変及び縮小によって構造的に影響を受けることを示している。
【0099】
E.抗-NGFモノクローナル抗体のエピトープの分子モデリング
同定された抗-NGF MAbエピトープの分子モデリング表示(図3A−F)は、プログラムMidasPlus(ユニバーシティー オブ カリフォルニア サン フランシスコ校、サン フランシスコ、カリフォルニア)を使用して作製し、以前に記載のように、マウスNGFの3次構造の座標に基づいていた(McDonaldら, Nature, 354:411-414(1991))。
MAbエピトープマッピングの結果の概要は、図5に示されている。
【実施例2】
【0100】
TrkA及び/又はp75とNGFの相互作用で重要であることが以前に示された領域に、幾つかのエピトープがマッピングされたという観察は、これら相互作用の1つ又は双方をも遮断するであろうことを示唆した。
【0101】
A.125I-hNGF結合アッセイ
1つ又は複数の抗-NGF MAbがTrkA及び/又はp75とのNGFの結合を遮断するであろう可能性を評価するために、TrkA-IgGレセプターイムノアドヘシンと125I-hNGFの結合を、抗-NGFモノクローナル抗体の存在下で測定した。
【0102】
要約すると、Marchlonis(Marchlonis, Biochem J., 113:299-305(1969))によって最初に記載された可溶性ラクトパルオキシダーゼ法の改良版を使用して、125I-hNGFを調製した。最終反応混合物をpD-10セファデックスG-25サイズ排除カラム(ファルマシア、ウプラサ,スウェーデン)で分画し、4℃で貯蔵した。マイクロタイタープレート(Nunc, Maxisorb)を終夜、4℃で精製ラビット抗-ヒトIgG-Fc特異的ポリクローナル抗体(炭酸塩緩衝液で2g/mlへ希釈)でコーティングし、PBSで洗浄し、150LのPBS/0.5%BSA(PBS/BSA)で遮断した。ヒトTrkA-IgG又はp75-IgGイムノアドヘシン(Robert Pittiより親切に提供された)(20ng/mL)を含むPBS/BSAを添加(100L)し、1時間、大気温度でインキュベートした。PBS/BSA(150pM最終)で希釈したhNGFを、その後に添加(100L)し、大気温度で1時間インキュベートした。抗-NGFモノクローナル抗体(667nM 0.58nM)又はNGFに対するものではない関連しないモノクローナル抗体と4℃で終夜プレインキュベートしたhNGF(150pM最終)を同時に添加して記載のようにインキュベートした。プレートを0.05% T20を含有するPBSで洗浄し、ガンマカウンター(Packard Cobra Model5010、ダウナーズ,イリノイ)で1分間、個々のウェルを計測した。
【0103】
図6に見られるように、TrkA-IgGと結合した125I-hNGFのレベルによって測定されたように、抗-NGFモノクローナル抗体は、TrkA-IgGレセプターイムノアドヘシンとのhNGFの結合を阻害した。すべてのMAbは、最も高い濃度でアッセイされて(667nM)遮断能を示したが、低濃度で異なる遮断能力を示した。MAbs911、912及び938は同じ遮断力(IC50〜0.5−2nM)を示し、10nM MAb又はより高い濃度で80−90%の阻害が見られた。
【0104】
低親和性p75レセプターとNGFの結合を阻害するMAbの能力を、上記に記載された結合アッセイでp75-IgGを使用して評価した。図7に示すように、抗-hNGF MAbは、125I-hNGFを使用して、p75-IgGレセプターイムノアドヘシンとhNGFの結合を阻害する。MAb911、912及び938は、1nMよりも低いMAbの存在下で観察された結合の75−90%の低下で最も高い阻害活性を示す。MAb909も強力な遮断能(10nM MAbで>90%阻害)を示したが、 MAb908及び14.14は有意により低い効力であった(図7)。
【0105】
B.キナーゼ誘導レセプター活性化(KIRA)アッセイ
キナーゼ誘導レセプター活性化(KIRA)アッセイを使用して、hNGF、及び/又はアゴニストモノクローナル抗体等のリガンドによる刺激へ応答中のトランスフェクト細胞のNGF-依存性TrkA自己リン酸化を測定した(Sadickら, Exp. Cell Res. 234: 354-361(1997))。CHOトランスフェクト細胞上で発現したTrkA細胞外ドメインとhNGFの結合、及びそれに続くTrkA上のチロシン残基のリン酸化を阻害する能力に関して、抗-NGF MAbを評価した(図8)。チロシン残基のリン酸化は、抗ホスホチロシンMAbを使用したELISAによって測定された。
【0106】
マイクロタイタープレート(コースター、ケンブリッジ、マサシューセッツ)を、エピトープタグとして機能する26アミノ酸ポリペプチドである、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus )のグリコプロテインD(glycoprotein D)断片(gD)を有するTrkAレセプターの細胞外ドメインを発現している1X10のチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞でコーティングした。hNGFのみ(150pM)(ポジテイブコントロールとして)又は個別の抗-NGF MAb(667nM 0.31nM最終)によって4℃で終夜プレインキュベートしたhNGF(150pM最終)のいずれかの試料を、TrkA発現CHO細胞(ウェルあたり50L)を含有するウェルへ添加し、37℃で25分間インキュベートした。NGFに対するものではない関連しないモノクローナル抗体を、ネガティブコントロールとして使用した。その後、hNGF刺激細胞を可溶化緩衝液で処理し、そのライセートを、Sadickら(Sadickら, Anal. Biochem., 235: 207-214(1996))によって記載された手法と同じようにして、TrkA含有ホスホチロシンのELISA検出ためのgD-MAb-コーティングマイクロタイタープレートで処理した。希釈緩衝液(0.5%BSA、0.05%トゥイーン20、5mM EDTA、及び0.01%チメロサールを含有するPBS)で0.2mg/mlへ希釈した100lのビオチン化4G10(Upstate Biologicals、Inc. (UBI レイク プラシッド、ニューヨーク))を各ウェルへ添加した。室温で2時間のインキュベーションの後、プレートを洗浄し、希釈緩衝液で1:50000に希釈した100l HRP-コンジュゲートストレプトアビジン(Zymed Laboratories, エス.サン フランシスコ,カリフォルニア)を各ウェルへ添加した。このプレートを、撹拌して室温で30分間インキュベートした。遊離のアビジンコンジュゲートを洗い流し、100lの調製した新鮮基質溶液(テトラメチル ベンジジン、TMB、2成分基質キット、Kirkegard and Perry 、Gaitehersbug, メリーランド)を各ウェルへ添加した。反応は10分間、継続させ、100l/ウェルの1.0M H3PO4の添加によって発色を止めた。450nmの吸収は、Macintosh Centris 650(アップル コンピューターズ,クパチーノ,カリフォルニア)及びDelataSoft sofware(BioMetallics, Inc., プリンストン、ニュージャージー)でコントロールされたVmaxプレートリーダー(Molecular Devices, パロ アルト、カリフォルニア)を使用して650nm(A450/650)のレファレンス波長で読み取った。
【0107】
図8に示されているように、すべての選択された抗-NGFモノクローナル抗体は、CHOトランスフェクト細胞上に発現したTrkA細胞外ドメインとhNGFの結合及びTrkAレセプターのチロシン残基のリン酸化の双方を阻害することができた。試験された最も低い濃度(0.3nM)でのMAb911、912及び938とhNGFのプレインキュベーションによって、コントロールのMAbに関してチロシンリン酸化のおよそ60−80%の最大阻害が引き起こされた。MAb908、909及び14.14は、強力ではない。
【0108】
C.胎児ラット後根神経節生存バイオアッセイ
NGF依存プロセスへの抗-NGFモノクローナル抗体の効果を測定するために使用される他のアッセイは、胎児ラットE14後根神経節(DRG)生存バイオアッセイであった。胎児ラットE14後根神経節(DRG)ニューロンへのhNGFの生存効果を阻害する能力に関して、抗-NGFモノクローナル抗体を評価した。
【0109】
E15ラット(6〜8匹の胎児)から得た後根神経節(DRG)ニューロンを、添加物(McMahonら, Nat. Med. 8:774-780(1995))及び抗-NGFモノクローナル抗体をともなう又はともなわない3ng/mLのhNGFを含むF12培地で培養した。37℃での72時間のインキュベーションの後、細胞をホルムアルデヒドで固定し、生存能力のあるニューロンを計測した。
【0110】
図9は、抗-NGFモノクローナル抗体によるDRGニューロン生存の阻害を示す。MAb908、909及び14.14は、最高濃度(67nM;10g/ml)で20−30%のみ生存が低下したが、MAb911及び912は、およそ30−80倍低い濃度(0.8−2.4nM;0.12−0.37g/ml)で90%より高い生存を阻害した。MAb938は生存活性を90%阻害することが可能であったが、MAb911及び912よりも10−30倍効果が弱かった。
【0111】
MAb911は、NGF/TrkA相互作用の最も強力なブロッカーであった。MAb911は、重なっているNGF-TrkA及びp75結合領域ターンA'-A''(V-1)、及びドミナントTrkA結合領域シートを有するエピトープを認識する(図3D)。2番目に強力なNGF/TrkAインヒビターであるMAb912は、K32、K34及びK35、以前にNGF/p75相互作用にとって重要であることが示された領域を認識する。TrkA及びp75結合の更に強力なブロッカーであるMAb938は、TrkA又はp75結合にとって重要な領域であるN-及びC-末端をも認識する。
【0112】
3つの最も強力な遮断抗体のうちの2つ(911及び938)が、弱い遮断MAbよりもNGFに対して低い親和性を有するので、抗体遮断特異性に見られた相違は、hNGFへのMAbの相対親和性に起因するのではない。
【0113】
MAb911及び912との結合にとって重要なNGF領域は、TrkAとp75結合にとって重要な領域として同定された領域と重なる。MAb911及び912はNGF誘導活性のブロッカーとなることが可能であり、このことは、これらが、炎症性過形成症等のインビボ活性の特異的アンタゴニストであることを示している。
【実施例3】
【0114】
免疫応答への抗-NGFの効果
0日目に10gの卵白アルブミンでマウスを皮下免疫し、回復させた。免疫化の40日後に、動物に、10mg/kg抗-NGF抗体911又はコントロール、アイソタイプが一致する抗体で腹膜内注射した。2日後、動物を卵白アルブミンで追加免疫した。47日目に採取した血清試料においてELISAによって免疫応答を測定した。図10でわかるように、抗-NGF抗体911を受けた動物とコントロール抗体を受けた動物の間では、免疫応答には有意な(p>0.05)相違はなかった。しかしながら、抗-NGFモノクローナル抗体で処理した動物での免疫応答の増加の有意な傾向はなかった。
【0115】
対照的に、図11は、ニワトリガンマ-グロブリンによる以下の免疫化、抗-NGFによる処理では、免疫応答の低下の有意な傾向が生じないことを示す。0日目に、動物を10gのニワトリガンマ-グロブリンで免疫化し、40日目に、抗-NGF抗体911又はコントロール、アイソタイプが一致する抗体(10mg/kgIP)で処理した。42日目に、動物をガンマ-グロブリンで追加免疫し、47日目に、血清試料を採取してELISAによって解析した。2つの群の間には、免疫応答に有意な(p>0.05)相違はなかった。しかしながら、抗-NGFモノクローナル抗体911による処理の後、免疫応答の低下の傾向があった。
【実施例4】
【0116】
過形成への抗-NGFモノクローナル抗体の効果
NGFが誘導した温熱性痛覚過敏への抗-NGF抗体の効果を調べた。要約すると、成人フィッシャー雌ラットを、治療の前に少なくとも2日間、ハーグリーブス(Hargreaves)試験によって1日に2セッション訓練した。器具とプロトコールに慣れさせた後、動物をランダムにコントロール又は実験群に割り当てた。両群をベースライン応答性に関して試験し、その後、イソフルレン麻酔下で50l容量の1本の足の足底内部への注射を与えた。各群での注射は、90gの抗-NGF抗体又は不活性なアイソタイプの一致したコントロール抗体のいずれかとの組み合わせで1.25%カラゲナンを含んだ。
熱が低下する時間を、注射後の0,2,4,6及び24時間にハーグリーブス(Hargreaves)試験によって測定した。図12に示されているように、処理の4及び6時間後、カラゲナン注射の後の温熱性痛覚過敏は、コントロール動物と比べて抗-NGFモノクローナル抗体911で処理した動物で有意に低下した。
【実施例5】
【0117】
アレルゲンに対する応答への抗-NGFモノクローナル抗体の効果
雄C57/BL6マウス(Jackson Laboratories)を、モノクローナル抗-NGF抗体911(n=16)又はアイソタイプが一致した抗-gDコントロール抗体(クローン 1766;n=16)のいずれかで処理した。1日目に、動物を20mg/kgの抗体で処理し、6,13,20及び22日目には、動物を10mg/kgの抗体で処理した。すべての抗体処理は、頸部の首筋への皮下注射であった。
【0118】
0日及び14日目には、各群のマウスの半分を、30AUのチリダニ抗原(DMA; ダルベッコPBSで希釈し、その後、アジュバンドとして、ALUMで1:2とし、300AU/mlの最終濃度)の腹膜内注射によって感作(SN)した。非感作マウス(NS)は、コントロールとしてALUMで1:2に希釈した等容量のダルベッコPBSを受けた。
21及び22日目に吸入チリダニ抗原(DMA)で、マウスを刺激した。エアロゾル化のために0.01%トゥイーン20を加えたダルベッコPBSを使用して、チリダニを6000AU/mlに希釈した。すべての吸入刺激物をプレキシグラス パイ エクスポージャー チャンバー(Plexiglas pie exposure chamber)で投与した。22 PSIで駆動するPARI IS-2ネブライザーを使用して、DMAをエアロゾル化した。このネブライザーを3mlで満たし、完成させた(30分)。肺への全析出用量/露出は、〜6.5AU DMAであった。
【0119】
気道過敏症、気管支肺胞洗浄(BAL)液への細胞浸潤、BALのサイトカインレベル、及び血清IgEレベルとともにチリダニに対する血清力価について、マウスをアッセイした。要約すると、最後の刺激の後の24、48時間目に、マウスを麻酔し、頸静脈にカテーテルを入れて気管切開した。次いで、ミーシュを0.28mg/kgパンクロニウムで麻痺させ、胸部拡張と気道内圧の測定のためにプレキシグラス・フロー・プレチスモグラフ(Plexiglas flow plethysmograph)へ負荷した。170bpmの頻度及び9l/gに等しいVtで100%酸素を使用して、マウスを空気にあてた。呼吸のメカニズム(肺耐性及び動的コンプライアンス)を、バクスコ XA データ アクィジション プログラム(Buxco XA data acquisition program)を使用して連続してモニターした。マウスへボリューム・ヒストリー(volume history)(2.5x Vtで5息)を与え、ベースライン測定前の2分間は安定化させ、次いで、ハーバード・シリンジ・ポンプ及びシリンジ・アプリケーション・ソフトウエアを使用して体重で調節した流速で1度に5秒用量アゴニストを与えた。
【0120】
血液(血清)、BAL及び肺を収集した。血清は、全及び特異的IgEとIgGに関してアッセイした。NaClの同じアリコートを3回注射することでBALを得て、そのBALをELISAによって全IgEに関してアッセイした。全白血球細胞及び細胞の差異(cell differentials)を、BAL細胞から得た。
抗-NGFモノクローナル抗体による処理によって、BALへの細胞浸潤によって測定されるような炎症(図14)とともに、気道過敏症の有意な低下が生じた(図13)。しかしながら、いまだ、抗-NGF処理動物のBALには非常に高い割合の好酸球がある(図15)。抗-NGF抗体処理は、BALのTh2サイトカインIL-13のレベルをも低下させた(図16)。
アレルゲンへの炎症応答を低下させる能力にもかかわらず、チリダニに対する全血清免疫グロブリン力価(図17)、又はIgEの血清レベル(図18)による測定のいずれでも、抗-NGF抗体処理は、チリダニに対する体液性免疫反応を低下させなかった。これは、抗体は、NGFの生物効果を遮断したBリンパ球の生存又は機能に作用しなかったことを示唆する。
【0121】
抗-NGF抗体911がNGFに対して機能的に有意な効果を有していることを確かめるために、1日及び8日目に0.1、1又は10mg/kgの抗-NGFモノクローナル抗体911で、又は1、3、6及び8日に0.1、1又は10mg/kgのNGFで、マウスを頸部の首筋に皮下注射する、同時実験をおこなった。動物を9日目に犠牲にし、三叉神経節の神経ペプチドCGRPのレベルを調べた。1又は10mg/kgのNGFによる処理によってCGRPの増加が生じ、これによって、このペプチドがNGFレベルによって制御されていることが確かめられた(図19)。1又は10mg/kgの抗-NGFモノクローナル抗体911による処理によって神経節のCGRP含量の低下が生じ(図19)、この用量によって、上記の実験において免疫応答が起こった場合、内因性NGFの機能的に有意な遮断が生じたことが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】NGF/NT-3キメラ変異体へ結合する6つの抗-NGFの能力を概略している。NGF/NT3変異体への各MAbの相対的結合が、野生型hNGFの結合と比較されている:(-)、<10%;(+)、10-30%; (++)、30-60%; (+++)、60-100%。hNGFへの結合に関する各MAbのEC50は:MAb908、1.8x10-10M;MAb911、3.7x10-10 M;MAb912、1.8x10-10M;MAb938、7.4x10-10M;MAb14.14、5.9x10-10M。
【図2A−F】野生型及び変異型hNGFへのMAbの結合を示す。2〜5の独立したELISAで得られた各変異体の平均EC50値を、野生型NGF結合に関して得たEC50値と比較した。カレイダグラフ ・ソフトウエア・プログラム(Kaleidagraph software program)(Abelbeck Software)を使用した線形回帰分析によって、EC50値を決定した。少なくともMAb結合で2倍の縮小を招いた変異体を縞模様棒によって示し、その一因となった残基を標識した。
【図2A】野生型及び変異型NGFへのMAb908の結合を示す。
【図2B】野生型及び変異型NGFへのMAb909の結合を示す。
【図2C】野生型及び変異型NGFへのMAb911の結合を示す。
【図2D】野生型及び変異型NGFへのMAb912の結合を示す。
【図2E】野生型及び変異型NGFへのMAb938の結合を示す。
【図2F】野生型及び変異型NGFへのMAb14.14の結合を示す。
【図3A−F】それぞれ、抗-NGF MAbs 908、909、911、912、938及び14.14のNGF上にあるMAbエピトープの分子モデルを示す。軽度及び中度の灰色表示によりNGFの各モノマーを区別し、MAb結合へ作用するELISAで同定された残基を黒色で示す。図3Aでは、各可変領域が標識されている。
【図4A−B】非還元hNGF(A)及び還元hNGF(B)への抗-NGF結合のイムノブロット解析を示す。分子量マーカーは、第1レーンにて視覚で確認できる。緩衝液とネガティブコントロール抗体は、レーン2及び3のそれぞれで示されている。非還元条件下では、精製hNGFは3セットのバンドとして移動し、それらは、単量体、二量体及び部分的に加工された二量体hNGFに一致する。
【図5】MAbエピトープマッピングの結果を概略している。
【図6】抗-NGF MAbがTrkA-IgGレセプターイムノアドヘシンへのhNGFの結合を阻害することを示している。
【図7】p75-IgGイムノアドヘシンへのhNGFの結合を阻害する、抗-NGF MAbsの能力を示す。
【図8】トランスフェクトCHO細胞で発現したTrkA細胞外ドメインへのhNGFの結合を阻害する、抗-NGF MAbの能力を示す。抗-フォフォチロシン MAbを使用したELISAによって、チロシンリン酸化の阻害を測定した。
【図9】胚ラット後根神経節ニューロンへのhNGFの生存効果を阻害する抗-NGF MAbの能力を示す。最高生存度は、NGFのみで得られたシグナルに基づき、及び飽和濃度の可溶性TrkA-IgGの添加で得られたシグナルによって決定された最高阻害。
【図10】抗-NGF MAb911による処理が、卵白アルブミンへの免疫応答を有意に高めなかったことを示す。
【図11】ニワトリガンマ-グロブリンによる免疫化の後、抗-NGF MAb 911による処理によって、免疫応答は有意に低下しなかったことを示す。
【図12】抗-NGF MAb 911による処理によって、NGFで誘導された温熱性痛覚過敏が遮断されることを示す。
【図13】感作されたC57/BL6マウス(SN)では、抗-NGF MAb911による処理が、吸入されたチリダニ抗原による刺激後の気道過敏症を阻害することを示す。
【図14】感作されたC57/BL6マウス(SN)では、抗-NGF MAbによる処理が、吸入されたチリダニ抗原による刺激後のBALへの白血球細胞、リンパ球及び好酸球の浸潤を低下させることを示す。
【図15】抗-NGF MAb処理感作マウスでは、BALへの細胞浸潤が低下するが、好酸球の割合が高いままであることを示す。
【図16】抗-NGF MAb911による処理が、抗原の刺激の後、BALのIL-13の増加を止めることを示す。
【図17】アレルゲンへの炎症応答を低下させるその能力にもかかわらず、抗-NGF MAbによる処理は、チリダニに対する全血清免疫グロブリン力価によって測定されたような体液性免疫反応を低下させない。
【図18】抗-NGF MAbによる処理も、IgEの全血清レベルを低下させなないことを示す。
【図19】抗-NGF MAbによる処理がCGRPレベルの低下を起こす一方で、NGFによる処理が、三叉神経節のCGRPのレベルを増加させることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の免疫系に対して有意な副作用がなく、ナノモル濃度の範囲の親和性でhNGFと結合することが可能な抗-ヒトNGF(抗-hNGF)モノクローナル抗体の有効量をヒト患者へ投与し、インビボでのヒトTrkA(hTrkA)とhNGFとの結合を阻害することを含んでなる、ヒト患者でのNGF-関連疾患をコントロールする方法。
【請求項2】
hNGFへの前記抗体の結合親和性が約0.10〜約0.80nMである、請求項1の方法。
【請求項3】
hNGFへの前記抗体の結合親和性が約0.15〜約0.75nMである、請求項2の方法。
【請求項4】
hNGFへの前記抗体の結合親和性が約0.18〜約0.72nMである、請求項2の方法。
【請求項5】
前記抗体が、MAb911、MAb912及びMAb938で構成される群から選択される抗体と基本的に同じhNGFエピトープと結合する、請求項1の方法。
【請求項6】
前記抗体が、抗体MAb911と基本的に同じhNGFエピトープと結合する、請求項5の方法。
【請求項7】
前記抗体がマウスNGF(muNGF)と結合することも可能である、請求項1の方法。
【請求項8】
前記抗体が抗体断片である、請求項1の方法。
【請求項9】
前記抗体断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ダイアボディー、単鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多特異性抗体で構成される群から選択される、請求項8の方法。
【請求項10】
前記単鎖抗体分子が単鎖Fv(scFv)分子である、請求項9の方法。
【請求項11】
前記抗体がキメラである、請求項1の方法。
【請求項12】
前記抗体がヒト化である、請求項1の方法。
【請求項13】
前記抗体がヒト抗体である、請求項1の方法。
【請求項14】
前記抗体が二重特異性抗体である、請求項1の方法。
【請求項15】
前記二重特異性抗体が抗-IgE特異性である、請求項14の方法。
【請求項16】
前記NGF関連疾患が、神経系へのNGFの作用に関連する疾患以外である、請求項1の方法。
【請求項17】
前記NGF関連疾患が炎症症状である、請求項16の方法。
【請求項18】
前記炎症症状が、喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬で構成される群から選択される、請求項17の方法。
【請求項19】
前記症状が喘息である、請求項18の方法。
【請求項20】
前記症状が関節炎である、請求項18の方法。
【請求項21】
前記関節炎がリウマチ様関節炎である、請求項20の方法。
【請求項22】
前記症状が乾癬である、請求項18の方法。
【請求項23】
前記抗体が、前記炎症症状の治療のための他の治療剤との組み合わせで投与される、請求項17の方法。
【請求項24】
前記抗体がコルチコステロイドとの組み合わせで投与される、請求項19の方法。
【請求項25】
前記コルチコステロイドがジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)である、請求項24の方法。
【請求項26】
前記抗体が抗-IgE抗体との組み合わせで投与される、請求項19の方法。
【請求項27】
前記抗-IgE抗体がrhuMAb-E25又はrhuMAb-E26である、請求項26の方法。
【請求項28】
前記抗体が、リウマチ様関節炎の治療のための他の治療剤との組み合わせで投与される、請求項21の方法。
【請求項29】
前記治療剤がTNFレセプターと特異的に結合する抗-TNF抗体又は抗体又はイムノアドヘシンである、請求項28の方法。
【請求項30】
ナノモル濃度の範囲の親和性でhNGFと結合することが可能なキメラ、ヒト化又はヒト抗-ヒトNGF(抗-hNGF)モノクローナル抗体を含んでなり、インビボでヒトTrkA(hTrkA)とのhNGFの結合を阻害する製薬的な組成物であって、製薬的に許容可能な担体との組み合わせで、抗体が患者の免疫系に対して有意な副作用がない製薬的組成物。
【請求項31】
前記抗体が抗体断片である、請求項30の製薬的組成物。
【請求項32】
前記抗体の断片がFab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ダイアボディー、単鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多特異性抗体で構成される群から選択される、請求項31の製薬的組成物。
【請求項33】
前記抗体が二重特異的抗体である、請求項30の製薬的組成物。
【請求項34】
前記二重特異的抗体が天然ヒトIgEと特異的に結合することが可能である、請求項33の製薬的組成物。
【請求項35】
前記二重特異的抗体が天然ヒトTNF又は天然ヒトTNFレセプターと特異的に結合することが可能な、請求項33の製薬的組成物。
【請求項36】
他の製薬的に活性な成分を更に含む、請求項30の製薬的組成物。
【請求項37】
前記の他の製薬的に活性な成分が炎症症状を治療するために適切である、請求項36の製薬的組成物。
【請求項38】
前記炎症症状が喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬で構成される群から選択される、請求項37の製薬的組成物。
【請求項39】
前記炎症症状が喘息である、請求項38の製薬的組成物。
【請求項40】
前記炎症症状が関節炎である、請求項38の製薬的組成物。
【請求項41】
前記関節炎がリウマチ様関節炎である、請求項40の製薬的組成物。
【請求項42】
前記炎症症状が乾癬である、請求項41の製薬的組成物。
【請求項43】
容器;
請求項30の製薬的組成物;及び
ヒト患者でのNGF関連疾患をコントロールするための組成物を使用するための指示書:を含んでなる製造品。
【請求項44】
2番目の製薬的に活性な成分を更に含んでなる、請求項43の製造品。
【請求項45】
前記の2番目の製薬的に活性な成分が、炎症症状の治療に適している、請求項44の製造品。
【請求項46】
前記の炎症症状が、喘息、多発性硬化症、関節炎、エリテマトーデス及び乾癬で構成される群から選択される、請求項45の製造品。
【請求項47】
組成物がNGFレセプターと結合し、リガンド活性化を遮断する二次抗体を含み、その組成物が含まれる第2の容器を更に含んでなる、請求項43の製造品。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−43089(P2010−43089A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−211917(P2009−211917)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2002−592967(P2002−592967)の分割
【原出願日】平成14年5月9日(2002.5.9)
【出願人】(509012625)ジェネンテック インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】