説明

種結晶固定装置

【課題】種結晶配置部に対して種結晶表面を均等に圧着する種結晶固定装置を提供する。
【解決手段】反応容器の種結晶配置部3に接着剤5を介して種結晶9を固定するための種結晶固定装置1であって、種結晶配置部3を内部に配置可能なチャンバ10と、チャンバ10上面に配置され、気体の給排気により膨張収縮し、膨張した際に種結晶9の表面に接して種結晶9の全面に均一に圧力を掛ける加撓性袋体16とを備え、チャンバ10上面が、種結晶配置部3に向かって凸形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器の種結晶配置部に接着剤を介して種結晶を固定するための種結晶固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、ケイ素に比し、バンドギャップが大きく、絶縁破壊特性、耐熱性、耐放射線性等に優れることから、小型で高出力の半導体等の電子デバイス材料として注目されている。また、光学的特性に優れることから光学デバイス材料としても注目されてきている。かかる炭化ケイ素の結晶の中でも、炭化ケイ素単結晶は、炭化ケイ素多結晶に比し、ウェハ等のデバイスに応用した際にウェハ内特性の均一性等に特に優れるという利点がある。
【0003】
この炭化ケイ素単結晶の製造方法の1つとして、反応容器(坩堝)内の第一端部に昇華用原料を収容し、上記反応容器内の昇華用原料に略対向する第二端部(種結晶配置部)に炭化ケイ素単結晶の種結晶を配置し、昇華させた昇華用原料を上記種結晶上に再結晶させて炭化ケイ素単結晶を成長させる改良レイリー法がある。
【0004】
改良レイリー法において、種結晶配置部に種結晶が完全に接着していない状態で種結晶を成長させると、完全に接着していない部分の種結晶配置部側から種結晶を貫通して成長結晶内にまでマクロ欠陥(空洞欠陥)が発生しウェハの品質を損ねる傾向があった。また接着剤が高温下ではガス化してこれが気泡として接着剤層内に残留することも品質の低下の発生原因として考えられていた。
【0005】
上記課題を解決する手段としていくつかの技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。例えば特許文献1には、所定の圧力をかけて固定する固定方法が開示されている。また特許文献2には重石を種結晶の上に載せて圧着する固定方法が開示されている。
【0006】
しかし、機械的圧着法では種結晶表面に微細な凸凹が生じるため、種結晶の全表面を均等に圧着することが困難であった。また、重りによる圧着も同様に均等に圧着させることが困難であった。
【特許文献1】特開2001−139394号公報
【特許文献2】特開2003−119098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来より、種結晶配置部に種結晶を完全に接着した状態で種結晶を成長させるために、種結晶配置部に対して種結晶表面を均等に圧着する種結晶固定装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、種結晶配置部に接着剤を介して種結晶を固定するための種結晶固定装置であって、種結晶配置部を内部に配置可能なチャンバと、チャンバ上面に配置され、気体の給排気により膨張収縮し、膨張した際に種結晶の表面に接して種結晶の全面に均一に圧力を掛ける加撓性袋体とを備え、上述の課題を解決するために、チャンバ上面が、種結晶配置部に向かって凸形状に形成されている。
【0009】
また、本発明に係る種結晶固定装置は、チャンバ上面に溝が設けられていることが望ましい。
【0010】
更に、本発明に係る種結晶固定装置は、加撓性袋体に対する気体の給排気口がチャンバ上面における中心位置に設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る種結晶固定装置によれば、チャンバ上面が種結晶配置部に向かって凸形状に形成されているので、可撓性袋体を膨張させた時に、種結晶配置部上の種結晶のうちの略中心部が先に可撓性袋体と触れて、種結晶表面を均等に圧着できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る種結晶固定装置1について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(種結晶固定装置)
図1(a)は、接着剤5を介して種結晶9が配置された種結晶配置部3を収納した種結晶固定装置1の概略断面図を示し、図1(b)は上チャンバーの上面図を示し、図1(c)は下チャンバーの上面図を示す。
【0014】
図1(a)に示すように、実施形態にかかる種結晶固定装置1は、反応容器の種結晶配置部3に接着剤5を介して種結晶9を固定する。この種結晶固定装置1は、種結晶配置部3を内部に配置可能とし密閉雰囲気を形成するチャンバー10と、チャンバー10内部における上面に配置され、気体の給排気により膨張収縮し、膨張した際に種結晶の表面に接して種結晶の全面に均一に圧力をかける可撓性袋体16と、を備え、チャンバー10内部における上面が種結晶配置部3に向かって凸形状に形成されている。種結晶固定装置1は、さらに接着剤を加熱硬化させる加熱体20を有する。
【0015】
可撓性袋体16は、ゴムもしくは樹脂から構成されている。可撓性袋体16は、図1(a)に示すように、チャンバー10内であって上チャンバー11の側壁部11aに挟み込まれて固定されている。
【0016】
チャンバー10は、着脱自在に形成された上チャンバー11と下チャンバー13とからなる。チャンバー10は、使用の際に上チャンバー11を下チャンバー13の外周に配置されたOリング15を挟んで下チャンバー13に装着する。これにより、チャンバー10は、密閉雰囲気を形成するように構成されている。上チャンバー11の略中心位置には吸引排気口(給排気口)12が設けられている。種結晶固定装置1は、密閉雰囲気が形成されたチャンバー10内から空気を吸引することで減圧雰囲気が形成される。
【0017】
上チャンバー11は、図1(b)に示すように、略中心位置に吸引排気口12が形成されている。上チャンバー11は、当該吸引排気口12を中心とした放射状の溝11bが形成されている。この溝11bは、可撓性袋体16を膨張させるに際して、吸引排気口12から排気された空気を可撓性袋体16内に均一に分散させる。これにより、吸引排気口12から排出された空気によって、可撓性袋体16の端部よりも種結晶配置部3の直上の可撓性袋体16の中心部分から先に膨張する。そして、可撓性袋体16は、種結晶9の端部よりも、種結晶9の略中心部を先に押圧する。
【0018】
また下チャンバー13は、図1(a)、(c)に示すように、種結晶配置部3を固定すると共に種結晶9を固定するリング状のガイド部17を有する。種結晶配置部3を下チャンバー13に収納した後に、ガイド部17が下チャンバー13に着脱自在に固定され、そして種結晶9が種結晶配置部3上に配置される。なお、種結晶配置部3を固定する方法としては上記に限定されず、チャンバーに掘り込み式に固定しても構わない。
【0019】
種結晶固定装置1に収容される種結晶配置部3としては、例えば後に説明する図3に示す炭化ケイ素単結晶製造装置30の種結晶配置部3を用いることができる。種結晶9としては、使用目的により適宜定まるが、6Hのレーリー結晶、6Hのアチソン結晶等を用いることができる。接着剤5としては、樹脂、炭水化物、耐熱性微粒子が挙げられる。樹脂としては、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、ノボラック樹脂、フルフリルアルコール樹脂等を用いることができる。フェノール樹脂にカーボン粉末を混入したものを用いることもできる。炭水化物としては、糖類、例えばグルコースのような単糖類及びセルロースのような多糖類並びにそれらの誘導体を使用することができる。耐熱性微粒子としては、黒鉛(炭素)の他、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)等の耐熱物や、タングステン、タンタル等の高融点金属及びそれらの化合物例えば炭化物や窒化物を使用することができる。
【0020】
(種結晶固定方法)
図1の種結晶固定装置を用いた実施形態にかかる種結晶固定方法について、図2(a)〜(g)を用いて説明する。
【0021】
(イ)まず、図2(a)に示すように下チャンバー13を用意する。
【0022】
(ロ)次に、図2(b)に示すように下チャンバー13内に反応容器の種結晶配置部3を配置する。
【0023】
(ハ)そして、図2(c)に示すように種結晶配置部3をガイド部17で固定する。
【0024】
(ニ)図2(d)に示すように接着剤5を種結晶配置部3上に塗布する。塗布量は1μl/cm2〜25μl/cm2が好ましい。
【0025】
(ホ)次に、図2(e)に示すように種結晶9を接着剤5を介して種結晶配置部3上に配置する。種結晶配置部3に対する種結晶9の接着性を向上させる観点からは、種結晶9の種結晶配置部3への接触面を研磨しておくことが好ましい。具体的には種結晶9の接触面の表面粗さ(Ra)は0.1μm以下が好ましい。また、種結晶配置部3の種結晶9配置面の表面粗さ(Ra)を1.4μm以下とすると接着性が向上する点で好ましい。
【0026】
(ヘ)図2(f)に示すように下チャンバー13に上チャンバー11を装着して密閉雰囲気を形成する。
【0027】
(ト)図2(g)に示すように、吸引排気口12から、可撓性袋体16に気体を給気して可撓性袋体16を膨張させる。このとき、可撓性袋体16の略中心位置から膨張が開始し、当該可撓性袋体16の略中心位置の直下の種結晶9の略中心部から先に押圧する。次いで、可撓性袋体16の全体が膨張した時に最終的には種結晶9の全体を押圧する。そして、種結晶9の種結晶配置面の他面側に可撓性袋体16を接触させて種結晶9の全面に均一に圧力をかける。0.01〜1MPa程度の圧力で荷重をかけることが好ましい。
【0028】
(チ)ヒータ20により加熱して接着剤5を硬化させる。加熱条件は接着剤(熱硬化性樹脂)の性質等に依るが、100℃〜1000℃、好ましくは100℃〜300℃で、5分〜10分程度である。
【0029】
ここで、接着剤5を硬化させる際に生じるガスが種結晶9と種結晶配置部3の間に気泡として残るとそれが原因となって接着ムラが生じるおそれがある。そのため、吸引排気口12に接続された吸引機(図示せず)を用いてチャンバー10内から大気や接着ムラの原因と考えられるガスを吸引して減圧雰囲気を形成しながら加熱硬化することが好ましい。この減圧雰囲気を形成する場合には、上記(ト)の工程に先立って減圧雰囲気を形成し、その後(ト)工程、(チ)工程を行うことで種結晶9に荷重される圧力の均一性の向上の効果も得られる。即ち、常に同一の条件で接着することにより接着性の再現性が向上する。この減圧雰囲気は300Torr以下であることが好ましい。以上により種結晶9が種結晶配置部3上に固定される。
【0030】
(炭化ケイ素単結晶の製造方法)
以上、種結晶固定方法等について説明してきたが、本発明の別形態として炭化ケイ素単結晶の製造方法が提供される。即ち、昇華用原料を収容する反応容器に昇華用原料を収容し、昇華用原料に略対向して種結晶を配置し、昇華させた昇華用原料を種結晶上に再結晶させて炭化ケイ素単結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法であって、上記実施形態にかかる種結晶固定方法により種結晶配置部に固定された種結晶上に単結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法が提供される。
【0031】
反応容器としては、図3に示すように、昇華用原料35を収容可能とする容器31と、容器31に着脱自在に取り付けられると共に種結晶9を配置可能とする種結晶配置部3と、を有する炭化ケイ素単結晶製造装置30が用いられる。反応容器の外周には炭化ケイ素の昇華雰囲気を形成するための第一誘導加熱コイル33a、第二誘導加熱コイル33bが設けられている。容器31としては、容器31内部に炭化ケイ素の昇華雰囲気を形成できるものであれば特に制限はない。容器31としては例えば坩堝を用いることができるが、その材質は黒鉛であることが好ましく、熱膨張係数が種結晶と略同一であるものがさらに好ましい。昇華用原料35を収納しやすくする観点から、容器31と、種結晶配置部3は着脱自在に一体に形成されていることが好ましい。接合手段としては、容器31内部の密閉性が保たれるのであればいずれの接合手段を用いても構わない。接合手段としては、螺合手段が挙げられる。
【0032】
昇華用原料35としては従来公知の材料を用いることができる。昇華用原料35としては、例えば高純度のテトラエトキシシラン重合体をケイ素源とし、レゾール型フェノール樹脂を炭素源とし、これらを均一に混合して得た混合物をアルゴン雰囲気下で加熱焼成して得られた炭化ケイ素粉末を用いることができる。また炭化ケイ素単結晶の種結晶としては、従来公知の単結晶を用いることができる。
【0033】
昇華用原料35の加熱温度等の加熱条件は、特に制限されることなく周知の技術に基づいて当業者により適宜設定されうる。
【0034】
(炭化ケイ素単結晶)
炭化ケイ素単結晶は、前述の炭化ケイ素単結晶の製造方法により製造される。炭化ケイ素単結晶は、溶融アルカリによりエッチングして評価した結晶欠陥(パイプ欠陥)は、50個/cm以下が好ましく、10個/cm以下がより好ましい。炭化ケイ素単結晶における金属不純物元素の総含有量としては10ppm以下が好ましい。本発明により得られる炭化ケイ素単結晶は、多結晶や多型の混入やマイクロパイプ等の結晶欠陥がなく、極めて高品質であるので、絶縁破壊特性、耐熱性、耐放射線性等に優れ、半導体ウエハ等の電子デバイス、発光ダイオード等の光学デバイスなどに特に好適に用いられる。
【0035】
以上、本発明の炭化ケイ素単結晶製造方法によると、高品質な炭化ケイ素単結晶を効率よく、かつ割れ等の破損がない状態で容易に製造することができる。
【0036】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1(a)は、接着剤を介して種結晶が配置された種結晶配置部を収納した種結晶固定装置の概略断面図を示し、図1(b)は上チャンバーの上面図を示し、図1(c)は下チャンバーの上面図を示す。
【図2】図2(a)〜(g)は種結晶固定方法の工程図を示す。
【図3】図3は炭化ケイ素単結晶の製造装置(坩堝)の断面概略図を示す。
【符号の説明】
【0038】
1 種結晶固定装置
3 種結晶配置部
5 接着剤
9 種結晶
10 チャンバー
11 上チャンバー
11a 側壁部
11b 溝
12 吸引排気口
13 下チャンバー
15 Oリング
16 可撓性袋体
17 ガイド部
20 ヒータ
20 加熱体
30 炭化ケイ素単結晶製造装置
31 容器
33a 第一誘導加熱コイル
33b 第二誘導加熱コイル
35 昇華用原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶配置部に接着剤を介して種結晶を固定するための種結晶固定装置であって、
前記種結晶配置部を内部に配置可能なチャンバと、
前記チャンバ上面に配置され、気体の給排気により膨張収縮し、膨張した際に前記種結晶の表面に接して種結晶の全面に均一に圧力を掛ける加撓性袋体とを備え、
前記チャンバ上面は前記種結晶配置部に向かって凸形状に形成されていること
を特徴とする種結晶固定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の種結晶固定装置であって、
前記チャンバ上面に溝が設けられていること
を特徴とする種結晶固定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の種結晶固定装置であって、
前記加撓性袋体に対する気体の給排気口がチャンバ上面における中心位置に設けられていること
を特徴とする種結晶固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−88024(P2008−88024A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271711(P2006−271711)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】