説明

積層フィルム、それを用いた蒸着フィルム

【課題】ポリグリコール酸と、それとは異なるポリエステル層を直接積層しているにも関わらず、安定的に製造することができ、かつ優れたガスバリア性、さらには長期の耐久性に優れた実用性を有する積層フィルム、およびその蒸着フィルムの提供。
【解決手段】化学式1に示す構造を70モル%以上有するポリグリコール酸を主体とする樹脂層(A)と、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステルを主体とする樹脂層(B)とを少なくとも有する積層フィルムであって、樹脂層(A)と樹脂層(B)とが直接積層され、樹脂層(B)が、触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(B)の全成分に対して、1〜100mol/t含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素、炭酸ガスなどのガスバリア性に優れ、かつ耐久性に優れた積層フィルム、それを用いた蒸着フィルム、ラミネート体、および包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品や薬品、最近では電子部品等の内容物の変質を防ぐために、外部からのガスの浸入を遮断する効果をもつ包装材が必要とされている。この目的に使用されるガスバリア性に優れたフィルム材料としては、エチレンビニルアルコール共重合体を積層したフィルムやポリアミド等からなるガスバリア性フィルムを組み合わせた複合フィルムが開発されている。しかし、エチレンビニルアルコール共重合体やポリアミド等のフィルムは、ガスバリア性に湿度依存性があり、高湿下でガスバリア性が大幅に劣化する問題があった。
【0003】
ガスバリア性ポリマーとして、ポリグリコール酸(以下PGAと略す)が挙げられ、ガスバリア性フィルムとしてポリグリコール酸からなる配向フィルム(例えば特許文献1)などが提案されている。一般的に、このようなガスバリア性に優れるポリマーは高価であるため、他の安価な樹脂からなる層に薄い層として積層される場合が多い(例えば、特許文献2及び3)。
【0004】
一方、アルミニウム等の金属膜を形成した蒸着フィルムはバリア性の湿度依存が小さく、また、酸化珪素や酸化アルミニウム膜を形成した透明蒸着フィルムは内容物の状態を確認できる可視性に優れているため好まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3731838号公報
【特許文献2】特許3978070号公報
【特許文献3】特許3913847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献1では、ガスバリア性ポリマーとして、ポリグリコール酸を使用しているものの、ポリグリコール酸は分解性が高く、特に高温高湿環境下では分解の懸念がある。
【0007】
前述の特許文献2および3では、高温・高湿下での処理によるガスバリア性の低下を抑制するため、ポリグリコール酸の層と熱可塑性樹脂層を積層したフィルム構成が開示されているが、ポリグリコール酸と熱可塑性樹脂の反応によって、直接共押出する際の安定性が不十分となる場合や、高温・高湿環境下での分解が促進するなど長期の耐久性の点で十分ではなかった。
また、近年ガスバリア性の要求レベルはさらに高まっており、工業材料・包装材料で広く用いられているポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)を原反とする蒸着PETフィルムでは不十分となってきた。
【0008】
そこで本発明の目的は、ポリグリコール酸と、それとは異なるポリエステル層を直接積層しているにも関わらず、安定的に製造することができ、かつ優れたガスバリア性、さらには長期の耐久性に優れた実用性を有する積層フィルム、およびその蒸着フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の通りの本発明を完成した。
1) 化学式1に示す構造を70モル%以上有するポリグリコール酸を主体とする樹脂層(A)と、ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルを主体とする樹脂層(B)とを少なくとも有する積層フィルムであって、
樹脂層(A)と樹脂層(B)とが直接積層され、
樹脂層(B)が、触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(B)の全成分に対して、1〜100mol/t含有することを特徴とする積層フィルム。
【0010】
【化1】

【0011】
2) 前記触媒活性低減剤が、リン系化合物である前記1)に記載の積層フィルム。
3) 樹脂層(B)のガラス転移温度が30℃以上65℃以下であることを特徴とする前記1)または2)に記載の積層フィルム。
4) 樹脂層(B)の主体である前記ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルが、以下の(a)〜(c)のいずれかを含むことを特徴とする前記1)から3)のいずれかに記載の積層フィルム。
(a)ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート
(b)ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとの共重合体
(c)ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとの共重合体
5) 樹脂層(A)が、触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(A)の全成分に対して、1〜100mol/t含有してなることを特徴とする前記1)〜4)のいずれかに記載の積層フィルム。
6) 樹脂層(A)が、末端封鎖剤及び/又は末端封鎖剤由来成分を、樹脂層(A)の全成分100質量%に対して、0.05〜3質量%含有してなることを特徴とする前記1)〜5)のいずれかに記載の積層フィルム。
7) 末端封鎖剤が、カルボジイミド基及び/又はエポキシ基を有する化合物であることを特徴とする前記6)に記載の積層フィルム。
8) 樹脂層(A)が、少なくとも片面の最表層であり、
該樹脂層(A)の中心線表面粗さ(Ra)が5nm〜50nmであることを特徴とする前記1)〜7)のいずれかに記載の積層フィルム。
9) 前記1)〜8)のいずれかに記載の積層フィルムの少なくとも片面に、金属または無機酸化物からなる蒸着層を有する蒸着フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層フィルムは、ポリグリコール酸を主体とする樹脂層(A)と、それとは異なるジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルを主体とする樹脂層(B)とを直接積層しているにも関わらず、触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を特定量含有することにより、安定的に製造することができ、かつ優れたガスバリア性、加工性、さらには長期の耐久性に優れた効果を有する。このような本発明の積層フィルムおよびそれから形成される蒸着フィルムを用いることにより、ガスバリア性に優れた一般工業用や包装材料用フィルムなどとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、望ましい実施の形態とともに、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の積層フィルムは、 化学式1に示す構造を70モル%以上有するポリグリコール酸を主体とする樹脂層(A)と、ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルを主体とする樹脂層(B)とを少なくとも有する積層フィルムであって、樹脂層(A)と樹脂層(B)とが直接積層され、さらに樹脂層(B)が、触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(B)の全成分に対して、1〜100mol/t含有することを特徴とするフィルムである。
【0015】
【化1】

【0016】
樹脂層(A)は、樹脂層(A)中の主体として含まれるポリグリコール酸の全モノマー単位を100モル%とした場合に、化学式1に示す構造を70モル%以上有することが必要であり、好ましくは85モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、その上限は100モル%である。樹脂層(A)の主体として含まれるポリグリコール酸の全モノマー単位を100モル%とした際に、化学式1で表わされる構造の含有割合が70モル%よりも少ないと、積層フィルムのガスバリア性や耐熱性が低下する。前述のポリグリコール酸が化学式1で表わされる構造を70モル%以上有すれば、その他の成分(モノマー)として少量の共重合成分(モノマー)を導入することにより、ポリグリコール酸の結晶性を制御、押出温度の低下や延伸性の向上が可能となるとともに、後述する延伸工程での結晶化による粗面化を抑制できる。つまりポリグリコール酸としては、共重合成分を導入したポリグリコール酸共重合樹脂を使用することも可能であり、また全モノマー単位が化学式1に示す構造であるポリグリコール酸樹脂のいずれを使用することもできる。
【0017】
ポリグリコール酸は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができる。これらの中でも、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120℃から約250℃の温度に加熱して、開環重合する方法によってポリグリコール酸を合成する方法が好ましい。開環重合は、塊状重合法または溶液重合法によることが好ましい。
【0018】
なお、本発明の樹脂層(A)は、前述の化学式1に示す構造を70モル%以上有するポリグリコール酸を主体とするが、ここでいう主体とは、樹脂層(A)の全成分を100質量%とした際に、50質量%以上100質量%以下を意味する。つまり樹脂層(A)に含有される前記ポリグリコール酸は、樹脂層(A)の全成分を100質量%とした際に、50質量%以上であることが重要であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、その上限は、100質量%である。
【0019】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(B)は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルを主体とする樹脂層である。このようなポリエステルとしては、ジカルボン酸成分とグリコール酸成分とをエステル結合させてなる種々のポリエステルを用いることができる。本発明の樹脂層(B)は、前述のジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルを主体とするが、ここでいう主体とは、樹脂層(B)の全成分を100質量%とした際に、50質量%以上99.99質量%以下を意味する。つまり樹脂層(B)中の前述のジカルボン酸成分とグリコール酸成分とからなるポリエステルは、樹脂層(B)を構成する全成分を100質量%とした際に、50質量%以上であることが重要であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%であり、その上限は99.99質量%である。
【0020】
樹脂層(B)の主体として含有されるポリエステルのジカルボン酸成分として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多官能酸等を用いることができる。一方樹脂層(B)の主体として含有されるポリエステルのグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール等を用いることができる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を挙げることができる。なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は、2種類以上を併用してもよく、また2種類以上のポリエステルをブレンドして使用してもよい。
【0021】
特に、樹脂層(B)の主体として含有されるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、およびこれらにイソフタル酸、セバシン酸、ダイマー酸を共重合したポリエステルを単体、もしくは二種以上ブレンドしたものが好適に用いられる。また、ポリ−ブチレンサクシネート−テレフタレート、ポリ−ブチレンアジペート−テレフタレートなどの脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルの共重合体も好適に用いることができる。
【0022】
樹脂層(B)を構成するポリエステルは、公知の方法で製造することができる。例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、グリコール成分並びに必要に応じて使用されるその他のモノマー成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができるが、経済性ならびに製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合でポリエステルを製造する方法が好ましい。
【0023】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(B)は、触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(B)の全成分に対して1〜100mol/t含有することが必要である。好ましくは1〜50mol/tであり、より好ましくは2〜20mol/tである。樹脂層(B)が、触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分を1〜100mol/t含有することにより、樹脂層(A)の主体であるポリグリコール酸と樹脂層(B)の主体であるポリエステルとの反応を抑制し、直接共押出する際の安定性が良好となり、また樹脂層(B)のポリエステル中の触媒が、樹脂層(A)のポリグリコール酸に作用することによる高温・高湿環境下でのポリグリコール酸の分解が抑制され、長期の耐久性が良好となる。樹脂層(B)中の触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分の含有量を1mol/t未満とした場合、前述したようにポリグリコール酸とポリエステルの反応、あるいはポリグリコール酸の分解抑制の効果が不十分となる。また樹脂層(B)中の触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分の含有量が100mol/tを超える場合には、触媒活性低減剤の分散性が不十分となり、フィルム上にブリードアウトしフィルム表面を汚染することでバリア性などの物性が低下する。
【0024】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(B)に含有される触媒活性低減剤は、ポリエステル中に含まれる触媒金属の活性を低減する効果を有する化合物である。触媒活性低減剤は、ポリエステル中の触媒金属の種類により好ましい化合物が変化するため、特に限定されるものではないが、一般には、触媒金属に反応可能な官能基を有する化合物である。そして触媒金属に反応可能な官能基としては、ヒドロキシル基が好ましい。このような触媒活性低減剤としては、好ましくはリン系化合物が用いられる。リン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸(リン酸、亜リン酸、次亜リン酸をまとめて、リン酸等という)の単体、もしくは、リン酸等のエステル類やリン酸等の無機金属塩などのリン化合物が挙げられる。このようなリン系化合物が、ポリエステルのポリマー鎖の切断を抑え、色相も良好で、かつ触媒金属との反応性の点から好ましい。リン酸等のエステル類やリン酸等の無機金属塩は、少なくとも官能基の一つは水酸基であることが触媒金属との反応性の点から好ましい。中でもリン酸、亜リン酸の単体もしくはこれらのエステル類が、触媒金属との反応性、ポリマー鎖への影響が小さい点から好ましい。
【0025】
さらには、取り扱い性や耐ブリードアウト性の点から、触媒活性低減剤としては融点が高く、ポリエステルへの配合時の飛散量が小さい化合物が好ましく、このような化合物として触媒活性低減剤としては分子量300以上のリン化合物が好ましく用いられる。具体的には、炭素数5〜20の長鎖アルキルエステル基と少なくとも一つの水酸基を有するリン酸エステルが挙げられ、例えばモノ/ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。
【0026】
また、リン酸等の無機金属塩としては、リン酸アルカリ金属塩、亜リン酸アルカリ金属塩、次亜リン酸アルカリ金属塩などを好ましく用いることができ、具体的には、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、次亜リン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸等のアルカリ金属塩は、触媒金属の活性を低減する効果を有することに加え、ポリマー中でイオン性を示し緩衝作用により、ポリエステル中の加水分解等によるカルボキシル基由来のプロトンを中和することで加水分解を抑制できるため好ましい。
【0027】
前述の通り触媒活性低減剤とは、ポリエステル中に含まれる触媒金属の活性を低減する効果を有する化合物であり、触媒金属に反応可能な官能基を有する化合物であるが、続いて触媒活性低減剤由来成分について説明する。触媒活性低減剤由来成分とは、触媒活性低減剤が触媒金属と反応した結果として得られる化合物のうち、触媒活性低減剤に由来する部分のみを意味する。つまり、触媒活性低減剤がリン酸の場合、これが触媒金属Mの活性を低減するために、リン酸の水素が外れた形で触媒金属Mと反応することとなり、この例における触媒活性低減剤由来成分とは、リン酸の水素が外れた部分を意味する。よって樹脂層(B)の原料として触媒活性低減剤を添加して、本発明の積層フィルムを製造し、該触媒活性低減剤の一部でも触媒金属の活性を低減する働きをした場合には、積層フィルムの樹脂層(B)中には少なくとも触媒活性低減剤由来成分が存在することになる。原料として使用した触媒活性低減剤の全てが、触媒金属の活性を低減する働きをしている場合には、樹脂層(B)中には触媒活性低減剤は存在せず、触媒活性低減剤由来成分のみが存在することとなる。
【0028】
触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を樹脂層(B)に含有させる方法は、特に限定されないが、樹脂層(B)の主体として用いるポリエステルの重合反応終了後に添加することが好ましい。反応終了前に添加した場合には、十分な分子量のポリエステルが得られない場合があり、また反応中にエチレングリコール等とともに留出、飛散し含有量の調整が困難となる場合がある。具体的には、樹脂層(B)の原料である前記ポリエステルを主体とする樹脂組成物の溶融押出時に押出機内に触媒活性低減剤を直接添加する方法、あらかじめポリエステル中に触媒活性低減剤を高濃度でコンパウンドして原料を作成し、樹脂層(B)の原料である前記ポリエステルを主体とする樹脂組成物の溶融押出時にポリエステルで希釈して用いる方法などが挙げられる。樹脂層(B)中での分散性の点から、あらかじめコンパウンドした高濃度の原料を希釈して用いる方法が好ましい。
【0029】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(B)に含有する触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分の含有量は、樹脂層(B)の主体として使用されるポリエステル中の触媒金属の配位数に該触媒金属のモル濃度(mol/t)を乗じた官能基数(M)(つまり、官能基数(M)=(触媒金属の配位数)×(該触媒金属のモル濃度(mol/t))、である)と、触媒活性低減剤の配位基数に該触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分のモル濃度(mol/t)を乗じた官能基数(P)(つまり、官能基数(P)=(触媒活性低減剤の配位基数)×(該触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分のモル濃度(mol/t))、である)の間で(M)≦(P)の関係となるよう調整することが、より良好な熱安定性を得る点で好ましく、(M)=(P)であることがさらに好ましい。触媒金属の配位数は、触媒金属に触媒活性低減剤を過剰に添加し、それを元素分析により、触媒とリンのモル比を定量した後、触媒活性低減剤の配位基数を乗じて算出することができる。また、触媒活性低減剤の配位基数は1分子中に持っているヒドロキシル基の数のことである。
【0030】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(B)のガラス転移温度は、70℃以下の温度でフィルムの延伸を可能とするために、65℃以下であることが好ましい。積層フィルムを70℃以下の温度で延伸することは、樹脂層(A)の結晶性と配向を調整することができ、その結果、樹脂層(A)の表面を平滑化させることができ、樹脂層(A)上に蒸着層を設けた場合のバリア性がより向上する。さらには、共延伸性の点から樹脂層(A)と樹脂層(B)のガラス転移温度の差は、15℃以内とすることが好ましい。ガラス転移温度の差を15℃以内とすることにより、各層を均一に共延伸でき、製膜安定性やフィルムの平滑性が向上する。樹脂層(B)のガラス転移温度の下限は、積層フィルムの耐熱性、取り扱い性が向上することから、30℃以上であることが好ましい。ここでいうガラス転移温度とは、JIS−K7121(1987)に記載されている方法で測定したDSC(示差走査熱量測定)での値であり、20℃/分で昇温した時の中間点ガラス転移温度である。
【0031】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(B)は、ガラス転移温度を30℃以上65℃以下とする点から、樹脂層(B)の主体であるポリエステル中にガラス転移温度を低下させる成分を有していることが好ましい。樹脂層(B)の主体であるポリエステル中にガラス転移温度を低下させる成分を含有させるためには、前述したジカルボン酸成分やグリコール成分の組成や量を調整する方法、可塑剤を添加する方法などで得ることが可能である。樹脂層(B)のガラス転移温度を低下させる成分として、具体的には、ジカルボン酸成分としては、セバシン酸、アジピン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、グリコール成分としては、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどの脂肪族グリコールやポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0032】
さらに延伸性および耐熱性の観点からは、樹脂層(B)の主体であるジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルは、以下の(a)〜(c)のいずれかを含むことが好ましい。
(a)ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート
(b)ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとの共重合体
(c)ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとの共重合体
樹脂層(B)の主体である前記ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートを含む場合には、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートの質量比が、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート=75/25〜5/95であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートの質量比を、75/25〜5/95とすることで、樹脂層(B)のガラス転移温度を30℃以上65℃以下に調整でき、樹脂層(A)との共延伸性が良好となる。樹脂層(B)の主体となるポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとを含み、その質量比がポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート=70/30〜30/70である場合には、樹脂層(B)の主体となる該ポリエステルにおけるポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとの合計の含有率は特に限定されないが、樹脂層(B)の主体となるポリエステルの全て(100質量%)がポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとであることが特に好ましい態様である。
【0033】
樹脂層(B)の主体である前記ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートからなる共重合体を含む場合には、該共重合体中のポリエチレンテレフタレート部分と該共重合体中のポリブチレンテレフタレート部分の質量比が、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート=60/40〜20/80であることがより好ましく、35/65〜45/55がさらに好ましい。樹脂層(B)の主体となるポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとからなる共重合体を含む場合には、樹脂層(B)の主体となる該ポリエステルにおける該共重合体の含有率は特に限定されないが、樹脂層(B)の主体となるポリエステルの全て(100質量%)が該共重合体であることが特に好ましい態様である。
【0034】
また、樹脂層(B)の主体である前記ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとからなる共重合体を含む場合には、該共重合体中のポリエチレングリコール部分の分子量や、該共重合体中のポリエチレングリコール部分の共重合量とで、所望のガラス転移温度に制御することが可能である。例えば、ポリエチレンテレフタレートと数平均分子量4000のポリエチレングリコールを用いて共重合体とする場合、該共重合体の全成分100質量%に対しポリエチレングリコール部分の共重合量が4質量%以上でガラス転移温度を65℃以下に調整可能である。ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールからなる共重合体における、ポリエチレングリコール部分の共重合量は、取り扱い性の点から4〜30質量%が好ましく、より好ましくは、5〜10質量%である。樹脂層(B)の主体となるポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとの共重合体を含む場合には、樹脂層(B)の主体となる該ポリエステルにおける該共重合体の含有率は特に限定されないが、樹脂層(B)の主体となるポリエステルの全て(100質量%)が該共重合体であることが特に好ましい態様である。
【0035】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(A)には、本発明の目的を阻害しない範囲内において、ポリグリコール酸のほか、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤などを配合することができる。また、ポリグリコール酸には、必要に応じて、触媒活性低減剤、末端封鎖剤、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料などの各種添加剤を含有させることができる。樹脂層(A)中のポリグリコール酸の含有量が、前述の通り樹脂層(A)の全成分を100質量%とした際に、50質量%以上100質量%以下であるので、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤、各種添加剤等の含有量は、上述のように本発明の目的を阻害しない範囲内であり、具体的には樹脂層(A)の全成分を100質量%とした際に、30質量%以下が好ましい。特に、樹脂層(A)に、触媒活性低減剤あるいは末端封鎖剤を含有せしめることは、本発明の効果をより顕著なものとし、耐久性を向上させることから好ましい。
【0036】
上述の通り本発明の積層フィルムの樹脂層(A)にも触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分を含有させる場合には、樹脂層(B)に使用可能な触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分と同様の化合物を使用することができ、その触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分の含有量は、樹脂層(A)の全成分に対して、1〜100mol/tであることが好ましい。より好ましくは1〜50mol/tであり、さらに好ましくは2〜20mol/tである。触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(A)中に樹脂層(A)の全成分に対して1〜100mol/t含有することにより、ポリグリコール酸とポリエステルとの反応やポリエステル中の触媒の作用によるポリグリコール酸の分解が抑制され、長期の耐久性がさらに良好となるため好ましい。
【0037】
樹脂層(A)に含有される触媒活性低減剤は、樹脂層(B)に含有される触媒活性低減剤と同様にリン系化合物が好ましく、リン酸、亜リン酸の単体もしくはこれらのエステル類を用いることが好ましく、さらには、取り扱い性や耐ブリードアウト性の点から分子量300以上のリン系化合物が好ましく用いられる。
【0038】
また、樹脂層(A)に含有する触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分の含有量は、ポリエステル中の触媒金属の配位数に該触媒金属のモル濃度(mol/t)を乗じた官能基数(M)(つまり、官能基数(M)=(触媒金属の配位数)×(該触媒金属のモル濃度(mol/t))、である)と、触媒活性低減剤の配位基数に該触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分のモル濃度(mol/t)を乗じた官能基数(P)(つまり、官能基数(P)=(触媒活性低減剤の配位基数)×(該触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分のモル濃度(mol/t))、である)の間で(M)≦(P)の関係となるよう調整することが、より良好な熱安定性を得る点で好ましく、(M)=(P)であることがさらに好ましい。
【0039】
また樹脂層(A)には、ポリグリコール酸の水酸基あるいはカルボキシル基(ここで、水酸基とカルボキシル基を合わせて、末端基という)と反応する末端封鎖剤を樹脂層(A)の全成分100質量%に対して、0.05〜3質量%添加させることが好ましい。つまり、樹脂層(A)が、末端封鎖剤及び/又は末端封鎖剤由来成分を、樹脂層(A)の全成分100質量%に対して、0.05〜3質量%含有することが好ましい。樹脂層(A)に末端封鎖剤を添加することにより、未反応の末端基、あるいは分解に伴い生成する末端基に作用し、ポリグリコール酸とポリエステルとの反応やポリエステル中の触媒の作用によるポリグリコール酸の分解が抑制され、長期の耐久性がさらに良好となるため好ましい。なお、末端封鎖剤がこのように末端基に作用した結果得られる化合物を、末端封鎖剤由来成分という。
【0040】
このような末端封鎖剤として、例えば、カルボジイミド基、エポキシ基(グリシジル基)、オキサゾリン基、イソシアネート基等の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0041】
カルボジイミド基を有する化合物(カルボジイミド系化合物)として、具体的には、末端ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物およびこれらをポリマー化したポリカルボジイミドや、末端にイソシアネート基を有するイソシアネート末端カルボジイミド化合物等を例示することができる。
【0042】
また、エポキシ基(グリシジル基)を有する化合物(エポキシ系化合物)としては、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0043】
グリシジルエステル化合物として、具体的には、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルチミン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、テレフタル酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、コハク酸グリシジルエステル、ドデカンジオン酸グリシジルエステル、トリメリット酸グリシジルエステルなどが挙げられる。
【0044】
グリシジルエーテル化合物の具体例としては、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、レゾルシングリシジルエーテル、ヒドロキノングリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、オルソフェニルフェノールグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0045】
その他、エピクロルヒドリンの反応等でエポキシ基(グリシジル基)を付加したN−グリシジルフタルイミド、トリスグリシジルイソシアヌレート、エポキシ化大豆油等のエポキシ化合物やエポキシ基を高分子の側鎖に有する多官能エポキシ化合物などが挙げられる。
【0046】
またオキサゾリン基を有する化合物(オキサゾリン系化合物)として、具体的には、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、スチレンー2−イソプロピルー2−オキサゾリン共重合体などのオキサゾリン系化合物等が挙げられる。
【0047】
また末端封鎖剤としては、トリレンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物も用いることができる。さらにはまた末端封鎖剤としては、カルボジイミド基、エポキシ基(グリシジル基)、オキサゾリン基、イソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する高分子型の化合物を用いても良い。また、これらの多官能性化合物等の末端封鎖剤は、単独で用いても良いし、2種類以上併用しても良い。中でも反応性が高く、優れた経時安定性を得ることができる点から、カルボジイミ系ド化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物が好ましい。さらには、ポリマーと反応した場合の分子運動性を抑制する効果が高く、高温湿度条件下で経時安定性の点から、末端封鎖剤としては、カルボジイミド基を有する化合物(カルボジイミド系化合物)及び/又はエポキシ基を有する化合物(エポキシ系化合物)が好ましい。末端封鎖剤としてエポキシ系化合物を使用することは、エポキシ系化合物が反応性に優れているため、少量で高い効果を示すことから特に好ましい。
【0048】
前述の通り末端封鎖剤とは、未反応の末端基あるいは分解に伴い生成する末端基に作用する化合物であるが、末端封鎖剤由来成分について説明する。末端封鎖剤由来成分とは、末端封鎖剤が末端基と反応した結果として得られる化合物のうち、末端封鎖剤に由来する部分のみを意味する。よって樹脂層(A)の原料として末端封鎖剤を添加して、本発明の積層フィルムを製造し、該末端封鎖剤の一部でも末端基に作用した場合には、積層フィルムの樹脂層(A)中には少なくとも末端封鎖剤由来成分が存在することになる。原料として使用した末端封鎖剤の全てが、末端基に作用している場合には、樹脂層(A)中には末端封鎖剤は存在せず、末端封鎖剤由来成分のみが存在することとなる。
【0049】
本発明の積層フィルムを構成する樹脂層(A)の溶融粘度は、270℃、100sec−1において1000poise〜10000poiseであることが好ましく、より好ましくは2000poise〜6000poise、さらに好ましくは2500poise〜5500poiseである。270℃、100sec−1における樹脂層(A)の溶融粘度が、1000poiseを下回る場合は、樹脂層(A)の主成分であるポリグリコール酸の分子量が低く、分解しやすくなる恐れがある。また樹脂層(A)が、10000poiseを上回る溶融粘度を有する場合、ポリマー押出工程において、押出機への負荷や濾圧が高くなる問題が生じたり、樹脂層(B)との積層が困難になる恐れがある。
【0050】
本発明の積層フィルムは、積層構成として樹脂層(A)が少なくとも片面の最表層であり、該樹脂層(A)の表面の中心線平均粗さが5nm〜50nmであることが好ましい。より好ましくは10〜40nmであり、さらに好ましくは15〜30nmである。樹脂層(A)の表面の中心線平均粗さが5nm〜50nmにあれば、樹脂層(A)の表面に蒸着層を設ける際、蒸着時ピンホールの発生が抑制され、良好なバリア性となると共に、製膜時や蒸着加工時の加工適性に優れたものとなる。中心線平均粗さが5nmより小さくなると、フィルムの滑りが悪く、製膜時の巻き取りや蒸着時にブロッキングや静電気の帯電を誘発しやすくなり、蒸着バリア性悪化を招く恐れがある。また、中心線平均粗さが50nmを越えると、均一な蒸着層形成が行われないため、大幅なバリア性の悪化が起こる。
【0051】
本発明の積層フィルムの樹脂層(A)の表面の中心線平均粗さを5nm〜50nmに収める方法は特に限定されないが、ポリグリコール酸は結晶化速度が速いため、樹脂層(A)の結晶性の低下や延伸、熱固定工程での条件により配向を制御する方法が好ましく用いられる。樹脂層(A)を有するフィルムの逐次二軸延伸における一例を挙げれば、延伸温度を70℃以下、面積倍率で4.0倍以上の二軸延伸を行い、熱処理することで達成可能である。また、ポリグリコール酸は熱安定性が低く、溶融ポリマー中にゲルなどの異物が生じやすいが、こういった異物が粗大な突起となりしばしば表面を荒らすことから、それを取り除くために、ステンレス繊維を焼結圧縮したフィルターやステンレス鋼粉体を焼結したフィルターを用いて、押出機から押し出された溶融ポリマーを濾過することが望ましい。なお、蒸着フィルムの場合は、蒸着層を酸で除去することで、樹脂層(A)の表面の中心線平均粗さを確認することができる。
【0052】
本発明の積層フィルムは、樹脂層(A)と樹脂層(B)を少なくとも有する積層構成であり、該樹脂層(A)と樹脂層(B)が直接積層された構成である。本発明の積層フィルムは、その他の層を設けて3層以上の構成とすることも可能であるが、樹脂層(A)と樹脂層(B)が直接積層された2層構成が特に好ましい態様である。なお、他の樹脂との積層構成にすることで、コストメリットに優れたフィルムとすることができる。本発明の積層フィルムにおいて、積層フィルム全体に占める樹脂層(B)の厚み(ここでいう樹脂層(B)の厚みとは、樹脂層(B)を複数層有する積層フィルムの場合、複数の樹脂層(B)の合計の厚みである。)比は、積層フィルム全体の厚みを1としたとき、0.98〜0.1となることが好ましく、より好ましくは0.95〜0.3、さらに好ましくは0.95〜0.6である。
【0053】
また、積層性の観点より、樹脂層(B)の溶融粘度は、押出温度において樹脂層(A)と同等か、やや大きいことが好ましい。樹脂層(B)の溶融粘度が極端に小さい場合、均一な積層が困難になる。溶融粘度差が大きい場合は、押出温度差を設け口金で積層する手法や、樹脂層(B)に増粘剤、架橋剤、鎖延長剤などを添加し粘度を上げる手法などで是正することが好ましい。
【0054】
本発明の積層フィルムの厚みは、特に制限はなく、厚みが厚いほどガスバリア性が良好であるが、蒸着層を設ける際の加工適性の観点より、5μm〜200μmである事が好ましく、より好ましくは8〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
本発明の積層フィルムは、よりバリア性を高める点から、積層フィルムの少なくとも片面に金属または無機酸化物からなる蒸着層を設けて蒸着フィルムとすることが好ましい。さらには積層構成として、樹脂層(A)を最表層とし、少なくとも樹脂層(A)の表面に蒸着層を設けた蒸着フィルムとすることがバリア性に特に優れるため最も好ましい。また、フィルムの両表層に蒸着層を形成することもできる。樹脂層(A)と樹脂層(B)からなる2層積層フィルムに蒸着層を設ける場合の構成は、樹脂層(B)、樹脂層(A)、蒸着層がこの順に積層されることが好ましい。
【0055】
当該蒸着層に用いる金属または無機酸化物としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、あるいはそれらの混合物などが挙げられる。生産性を保持あるいは向上させながら、ガスバリア性をも向上させるために、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素がより好ましく用いられる。アルミニウムを用いた蒸着層は、経済性、ガスバリア性能に優れていることから好ましく、酸化アルミニウムまたは酸化珪素を用いた蒸着層は、透明性に優れ、コストの点からも好ましい。
【0056】
本発明の積層フィルムを蒸着フィルムとして用いる場合、蒸着層の形成方法としては、真空プロセスが用いられる。真空プロセスとしては、特に限定されないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法などが好ましく用いられる。例えば、無機酸化物の蒸着層を設けるためには、生産性、コストの点から反応性蒸着法がより好ましく用いられる。
【0057】
真空プロセスでは、ガスバリア性の一層の向上のためには、蒸着前フィルムの表面をプラズマ処理やコロナ処理することが好ましい。コロナ処理を施す際の処理強度は5〜50W・min/mが好ましく、より好ましくは10〜45W・min/mである。また、金属または無機酸化物からなる蒸着層を設ける前に、プラズマ放電下において核付金属蒸着層を設けることは、蒸着層の密着性向上ひいてはそれに伴うガスバリア性向上の観点から好ましい。この場合、プラズマ放電を酸素および/または窒素ガス雰囲気で行うことが好ましく、核付金属として銅を用いることが好ましい。
【0058】
反応性蒸着法によって酸化アルミニウムを蒸着させるには、アルミニウム金属やアルミナを抵抗加熱のボート方式やルツボの高周波誘導加熱、電子ビーム加熱方式で蒸発させ、酸化雰囲気下でフィルム上に酸化アルミニウムを堆積させる方式が好ましく採用される。酸化雰囲気を形成するための反応性ガスとしては酸素が用いられるが、酸素を主体に水蒸気や希ガスを加えたガスでもよい。更にオゾンを加えたり、イオンアシストなどの反応を促進する手法を併用してよい。酸化珪素の蒸着層を反応性蒸着法によって形成させるには、Si金属、SiOやSiOを電子ビーム加熱方式で蒸発させ、酸化雰囲気下フィルム上に酸化珪素を堆積させる方式が採用される。酸化雰囲気を形成する方法は、上記の方法が用いられる。
【0059】
また、蒸着層の厚さは特に限定されないが、生産性、ハンドリング性、外観から5〜100nmが好適であり、さらに好ましくは5〜50nmである。蒸着層の厚さが5nm未満であると、蒸着層欠陥が発生しやすく、ガスバリア性が著しく悪化する場合がある。蒸着層の厚さが100nmより厚くなると、蒸着時のコストが高くなったり、蒸着層の着色が顕著になり、外観的に劣る場合がある。
【0060】
本発明の積層フィルムは、150℃で30分間熱処理した後、長手方向の熱収縮率が8%以下、幅方向の熱収縮率が8%以下であることが好ましい。より好ましくは長手方向の熱収縮率は−1%〜6%、幅方向の熱収縮率が−2%〜6%であり、さらに好ましくは長手方向の収縮率が0%〜4%、幅方向の熱収縮率が−1%〜5%である。さらに、縦方向、横方向ともに0であることが最も好ましい。150℃で30分間熱処理した後の長手方向及び幅方向の熱収縮率が8%以下にあれば、耐熱寸法安定性に優れることで、蒸着時の熱に起因するフィルムの構造変化によるガスバリア性の悪化がなく、その他、印刷、製袋などの加工適性や、印刷精度の観点からも好ましい。積層フィルムを150℃で30分間熱処理した後の長手方向及び幅方向の熱収縮率を8%以下にする方法は特に限定されないが、少なくとも樹脂層(A)を有するフィルムの製膜での熱固定工程において、温度や熱処理時間を制御する方法が好ましく用いられる。
【0061】
積層フィルムの蒸着時の張力による伸び、熱によりフィルム表面が動くこと、蒸着後の張力によるクラック発生をそれぞれ抑制する観点から、本発明の積層フィルムの長手方向と幅方向の引張弾性率は、それぞれ3.0GPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは3.5〜8.0GPaであり、より好ましくは4.0GPa〜8.0GPaである。弾性率が3.0GPaを下回ると蒸着時の熱に起因するフィルムの構造変化によるガスバリア性の悪化の恐れがある。上限は特に規定されないが通常8.0GPaである。積層フィルムの引張弾性率を3.0GPa以上にする方法としては、フィルムの延伸工程の延伸温度、倍率、熱固定工程での熱処理温度により配向を制御する方法が好ましく用いられる。また、蒸着層を有する場合は、蒸着層を酸で除去し、引張弾性率を確認することができる。
【0062】
本発明の積層フィルムは、二軸配向していることが好ましい。本発明のフィルムを二軸配向せしめるためには、特に限定されないが、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法などの公知の二軸延伸法、あるいはそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0063】
本発明の積層フィルムの配向状態は、アッベ式屈折率計等を用いて確認することができる。 例えば、樹脂層(A)の配向状態は、表面の長手方向屈折率(Nx)、幅方向屈折率(Ny)、厚み方向屈折率(Nz)を測定し、(Nx+Ny)/2−Nzで求められる面配向係数(以下fnとする)が0.01〜0.1であることが好ましい。より好ましくは0.02〜0.08であり、さらに好ましくは0.03〜0.07である。fnが0.01を下回ると配向性が低いため、ガスバリア性が悪化する懸念があり、0.1を越えると劈開の恐れがある。樹脂層(A)のfnを0.01〜0.1の範囲にする方法としては、少なくとも樹脂層(A)を有するフィルムの延伸工程の延伸温度、延伸倍率、熱固定工程での熱処理温度により配向を制御する方法が好ましく用いられる。また、蒸着層を有する場合は、蒸着層を酸で除去し、面配向係数を確認することができる。樹脂層(A)に樹脂層(B)を積層した積層フィルムの場合でも、樹脂層(A)の表面の屈折率を測定することで樹脂層(A)の面配向係数を確認することができる。
【0064】
以下に、本発明の積層フィルムの製造方法について述べる。
【0065】
押出機に樹脂層(A)の原料と樹脂層(B)の原料をそれぞれ別の押出機に供給し、別々の流路にてフィルターによる異物除去、ギアポンプによる流量適性化を行った後、多層積層口金または口金の上部に設置したフィードブロック、もしくは内部に複数のマニホールドを有する口金内にて合流、積層後、口金よりシート状に吐出し、エアナイフまたは静電印加などの方式により、キャスティングドラムに密着させ、冷却固化せしめて未延伸フィルムとする。
【0066】
押出条件としては、各樹脂の押出機内での分解を抑制する点、あるいはポリグリコール酸とポリエステルとの反応やポリエステル中の触媒の作用によるポリグリコール酸の分解をより抑制する点から、押出温度を各樹脂層の融点〜融点+50℃の範囲で設定することが好ましく、より好ましくは融点〜融点+30℃である。また口金から吐出されるまでの各樹脂層の溶融滞留時間を30分以下とすることが好ましく、より好ましくは20分以下、さらに好ましくは15分以下である。
【0067】
ゲルや熱劣化物などの異物による表面荒れを防ぐため、製膜時のフィルターとして平均目開き5〜40μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターを使用することが好ましい。また上記ステンレス繊維を焼結圧縮したフィルターの後に、平均目開き10〜50μm のステンレス鋼粉体を焼結したフィルターをこの順で連続濾過する、あるいは一つのカプセル中に上記2種類のフィルターを併せ持つ複合フィルターを使用することは、ゲルや熱劣化物を効率良く取り除くことができるため好ましく、製膜エッジや巻き芯部分の再利用が可能となるコストメリットがあり望ましい。
【0068】
次いで、逐次二軸延伸方式の場合、該未延伸シートをロールに通して予熱し、引き続き周速差を設けたロール間に通し、長手方向に延伸し、ただちに室温に冷却、引き続き該延伸フィルムをテンターに導いて、延伸し、次いで幅方向に弛緩を与えつつ、熱固定して巻取る。あるいは、長手方向、横方向を同時に延伸する方法により延伸してもよく、長手方向の延伸、幅方向の延伸を複数回数組み合わせて行う方法等による延伸を行っても良い。
【0069】
また、テンター同時二軸延伸方式では、一軸延伸後のポリグリコール酸の結晶性が向上し、樹脂層(A)が粗面化する恐れが小さくなるため、表面平滑性の観点から有利である。さらに、逐次二軸延伸に比較して延伸性が向上するために高倍率延伸が可能になり、高弾性率化、高配向化が可能となるメリットがあるために好ましい。
【0070】
積層フィルムの延伸条件は、樹脂層(A)の結晶性と配向を調整し、表面を平滑化させる観点より、70℃以下で延伸することが好ましく、具体的には長手方向の延伸温度を40〜70℃とすることが好ましい。より好ましくは40〜65℃であり、さらに好ましくは50℃〜60℃である。縦延伸倍率は2.0〜5.0倍が好ましく、より好ましくは2.5〜4.5倍であり、さらに好ましくは3.0〜4.5倍である。幅方向の延伸温度も70℃以下であることが好ましく、具体的には40〜70℃とすることが好ましい。より好ましくは40〜65℃であり、さらに好ましくは45〜55℃である。横延伸倍率は2.0〜5.0倍が好ましく、より好ましくは2.5〜4.5倍であり、さらに好ましくは3.0〜4.5倍である。逐次二軸延伸方式の場合、延伸温度が70℃を越えると、横延伸工程でポリグリコール酸の結晶化が進み、熱固定後表面が荒れやすくなる。また、縦延伸倍率と横延伸倍率の積である面積倍率が4.0倍以下であると、熱固定工程でのポリグリコール酸の熱結晶化が進み、粗面化する傾向にある。
【0071】
延伸後は好ましくは120℃〜(樹脂層(A)の融点)℃、より好ましくは150℃〜(樹脂層(A)の融点−10)℃、さらに好ましくは170℃〜(樹脂層(A)の融点−20)℃の温度で弛緩熱処理し、冷却する。適正な延伸後、該範囲での弛緩熱処理により、樹脂層(A)の表面平滑性を保つと共に、低熱収縮率と、高弾性率、一定の面配向係数の範囲を満たし、カールを抑制した平面性の良好なフィルムを得ることができる。弛緩熱処理温度を樹脂層(A)の融点より高い温度とすると、ポリグリコール酸結晶が融解、無配向化し、降温結晶化により樹脂層(A)が粗面化する恐れがある。一方、弛緩熱処理温度を120℃未満とした場合、耐熱性が大幅に低下し、蒸着時の収縮などのトラブルが起こりやすくなる。
【0072】
得られた延伸フィルムは蒸着加工を行う。蒸着層に用いられる金属または金属酸化物は、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、あるいはそれらの混合物などを挙げることができ、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素がガスバリア性、生産性の観点より好ましく用いることができる。アルミニウムを用いた蒸着層は、経済性、ガスバリア性能に優れていることから好ましく、酸化アルミニウム、又は酸化珪素を用いた蒸着層は、透明性に優れ、コストの点から好ましい。なお本発明の積層フィルムは、樹脂層(A)と樹脂層(B)からなる場合、蒸着層を設ける面には特に制限は無いが、樹脂層(A)の表面に蒸着層を有する層構成が優れたガスバリア性を発現する点から好ましい。つまり、樹脂層(B)/樹脂層(A)/蒸着層などの構成が好ましい。なお、樹脂層(A)/樹脂層(B)/樹脂層(A)の積層構成の場合などは、蒸着層は基材フィルムの両面に蒸着層を設けることもでき、ガスバリア性向上の観点からは好ましいが、コストの点では片面蒸着より高いものとなる。
【0073】
本発明の積層フィルムは、コーティング技術と併用することにより、より高いガスバリア性を得られる。つまり樹脂層(A)上に、あらかじめアンカーコート剤をインラインまたは、オフラインで塗布してアンカーコート層を形成しておけば、アンカーコート層上に形成する蒸着層が密着性の高い層となり、ガスバリア性向上に有効である(なお、この際の本発明の蒸着フィルムは、少なくとも、樹脂層(A)/アンカーコート層/蒸着層、をこの順に有する。)。
【0074】
また、蒸着層上にオーバーコート剤を塗布してオーバーコート層を形成すれば、蒸着層の欠陥を補完しガスバリア性向上につながる(なお、この際の本発明の蒸着フィルムは、少なくとも、樹脂層(A)/蒸着層/オーバーコート層、をこの順に有する。)。
【0075】
アンカーコート剤およびオーバーコート剤としては(以下、アンカーコート剤およびオーバーコート剤を、コート剤とする。)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン−ビニルアルコール、アクリル、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、およびポリエステル−ポリウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましく用いられ、中でもポリエチレン−ビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、およびポリウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む塗剤が、樹脂層(A)のオリゴマーなどの低分子量物の抑止、ガスバリア性の補完の観点より好ましい。
【0076】
エチレン−ビニルアルコール系樹脂を含む塗剤においては、エチレン−ビニルアルコール系樹脂の全モノマーユニット100モル%におけるエチレン成分量は、1〜50モル%であることが好ましく、2〜40モル%であることが更に好ましい。エチレン成分量が1モル%未満では、前記した樹脂層(A)との相溶性が悪く、アンカーコート層が不透明になり、エチレン成分量が50モル%を超えると、エチレン−ビニルアルコール系樹脂の溶媒への溶解性が悪く、加工性が低下する。ケン化度は95モル%以上が好ましく、さらには97モル%以上が好ましい。
【0077】
ポリアクリロニトリル系樹脂を含む塗剤においては、ポリアクリロニトリル系樹脂100質量%においてニトリル基が5〜70質量%含まれることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。概範囲であれば、ガスバリア性向上効果と塗膜の均一性、塗剤の取扱性のバランスが取りやすく好ましい。ポリアクリロニトリル系樹脂のガラス転移温度としては、塗膜の均一性の観点より50℃〜100℃が好ましい。
【0078】
ポリアクリロニトリル系樹脂において、アクリロニトリルと共重合されるモノマーとしては、たとえば、各種アクリル酸エステル、各種メタクリル酸エステル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド;アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;酢酸ビニル等のビニルエステル;スチレン、メチルスチレン等のスチレン系モノマー;メタクリロニトリルなどを用いることができる。
【0079】
ウレタン系塗剤の主成分であるポリウレタン系樹脂は、ガスバリア性の観点からウレタン基およびウレア基の濃度の合計が高いことが好ましいが、ウレタン基およびウレア基の濃度の合計を高めすぎるとエマルジョン化するのが困難となることから、ポリウレタン系樹脂100質量%においてウレタン基およびウレア基の合計が20〜70質量%とするのが好ましく、25〜60質量%とすることがより好ましい。なお、ウレタン基濃度とはウレタン基の分子量を繰り返し構成単位構造の分子量で割った値、ウレア基濃度とはウレア基の分子量を繰り返し構成単位構造の分子量で割った値である。
【0080】
ウレタン系塗剤に含まれるポリウレタン系樹脂はガスバリア性の観点より、イソシアネートとして、1,3−または1,4−キシリレンジイソシアネートや、1,3−または1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネートおよび、1,3−または1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ポリオールとして1,3−または1,4−キシリレンジオールは水添キシリレンジオールが好ましく用いられ、これらの組み合わせが好ましい。
【0081】
これらコート剤には、必要に応じて架橋剤を含有させることで、耐水性、ガスバリア性の向上を図ることができ好ましい。エポキシ、アミン、メラミン、イソシアネート、オキサゾリン系の架橋剤やチタンカップリング剤、シランカップリング剤など各種カップリング剤を好適に使用できる。
【0082】
該コート剤の塗布量は、好ましくは0.01〜2g/mの範囲であり、より好ましくは0.01〜1g/mの範囲である。塗布量が0.01g/m未満の場合には、比較的薄い樹脂膜を形成可能なインラインコーティング法においても、膜切れやはじきなどの欠陥を生じ易く均一な樹脂膜を形成することが困難であり、樹脂層上に無機酸化物層を形成しても十分なガスバリア性が発現しない傾向がある。一方、塗布量が2g/mより大きくなると、十分に溶剤を蒸発させるためにコーティング時の乾燥条件を高温化し、長時間化する必要があること、フィルムにカール等の変形を生じやすくなること、残留溶剤の懸念があること、およびコストの点から好ましくない。
【0083】
本発明の積層フィルムおよび蒸着フィルムは、包装材料として各種包装体に好ましく用いられる。当該包装体としては、特にこれらに限定されるわけではないが、縦ピロー包装体、横ピロー包装体、三方シール包装体、四方シール包装体、真空包装体、スタンドパウチ、上包み包装体などが挙げられる。
【0084】
これら包装体では、本発明の積層フィルムの少なくとも片面にヒートシール性が要求される。このためには、本発明のフィルムにヒートシール層(C層)を形成したフィルム構成とし(例えば、A層/B層/C層)、これに適宜蒸着層を形成させ(例えば、蒸着層/A層/B層/C層)、C層をヒートシール層として用いることができる。また、ヒートシール力を更に高めるためには、ポリプロピレン単体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を用いたポリエチレンもしくはポリプロピレンもしくはエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、公知の非晶ポリエステル、アクリル系樹脂などに代表されるヒートシール性樹脂を、本発明のフィルムの少なくとも片面に形成することができる。当該ヒートシール性樹脂は、押出ラミネート法やウェットコーティング法により直接本発明のフィルム上に形成することができる(ラミネート体構成例:本発明のフィルム/ヒートシール性樹脂層)。また、当該ヒートシール性樹脂からなるフィルムを、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系接着剤などに代表される公知の接着剤からなる接着層を介して本発明のフィルムにドライラミネートしたり、ポリエチレン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂からなる接着層を介して本発明のフィルムに押出ラミネート(ポリサンドラミネート)する方法を用いることもできる(ラミネート体構成例:本発明の積層フィルム/接着層/ヒートシール性樹脂層、もしくは、本発明の蒸着フィルム/接着層/ヒートシール性樹脂層)。
【0085】
さらに、本発明の積層フィルムには、目的に応じて適宜上記した以外の他のフィルムをラミネートしてラミネート体とすることができ、該ラミネート体を用いて包装体に加工できる。例えば、少なくとも片面に1層以上の印刷層を形成した印刷フィルムを、上記に例示した接着層を用い、上記に例示したラミネート方法で本発明のフィルムにラミネートすることができる(例えば、印刷フィルム/接着層/本発明のフィルム/接着層/ヒートシール樹脂層)。印刷面は、目的に応じて外面、内面にするか選択すればよい。また、本発明の積層フィルムのガスバリア性能をさらに高めるために、アルミ箔をラミネートしたり、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)などに代表されるガスバリア性樹脂を上記に例示したラミネート方法でラミネートすることもできる。ここでラミネート体とは、本発明のフィルムの少なくとも一方の層に、上述したヒートシール性樹脂、アルミ箔、エチレン・ビニルアルコール共重合体、その他のフィルム等のラミネート材をラミネートして得られるものを意味する。
【0086】
以上により、ポリグリコール酸と、それとは異なるポリエステル層を直接積層したフィルムを、安定的に製造することができ、かつ優れたガスバリア性、さらには長期の耐久性に優れた実用性を有する積層フィルム、およびその蒸着フィルムを得ることができる。また本発明の積層フィルムおよび蒸着フィルムを用いることによりガスバリア性に優れた一般工業用や包装材料用フィルムなどとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0087】
次に、実施例を挙げて、具体的に本発明のフィルムについて説明する。
[測定及び評価方法]
本発明で用いた特性の評価方法は、下記の通りである。
[質量平均分子量]
ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、40℃、1mL/分で、カラム(HFIP−LG+HFIP−806M×2本:SHODEX)を通し、分子量 82.7万、10.1万、3.4万、1.0万、0.2万の分子量 既知のPMMA(ポリメタクリル酸メチル)標準物質の示差屈折率検出による溶出時間から求めた検量線をあらかじめ作成し、その溶出時間から、質量平均分子量を計算した。
【0088】
ただし、ポリグリコール酸は、昭和電工(株)製「Shodex−104」を用いて、5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、40℃、0.6mL/分で、カラム(HFIP−606M、2本およびプレカラム)を通し、異なる7種の分子量のPMMA標準物質の示差屈折率検出による溶出時間から求めた検量線をあらかじめ作成し、その溶出時間から、質量平均分子量を計算した。
[共重合成分量]
日本電子製JNM−30AL400を用いて、溶液プロトン核磁気共鳴法(H−NMR)によりスペクトルを測定し、各ピークの積分強度より求められる組成比から質量%の形で算出した。
【0089】
測定条件は溶媒を重水素化クロロホルムとして室温にて溶解、試料濃度20mg/mLとし、パルス幅を11μs/45°、パルス線繰り返し時間を9秒、積算回数を256回とし、23℃で測定した。
【0090】
ただし、ポリグリコール酸は、Bruker製AVANCE400を用いて、溶液プロトン核磁気共鳴法(H−NMR)によりスペクトルを測定し、各ピークの積分強度より求められる組成比から質量%の形で算出した。
【0091】
測定条件は溶媒をCDCl:HFIP=1:1として室温にて溶解、試料濃度20mg/mLとし、パルス幅を4.4μs/45°、取り込み時間を9秒、積算回数を8回とし、27℃で測定した。
[触媒活性低減剤及び/又は触媒活性低減剤由来成分の含有量]
樹脂層(A)および樹脂層(B)をそれぞれ剥離し板状に溶融成形してサンプル片を作成した。このサンプル片について理学電機社製蛍光X線装置(型番3270)により、蛍光X線の強度を測定した。この値を含有量既知のサンプルで予め作成した検量線を用いて、リン元素量を定量し、触媒活性低減剤の含有量mol/tを求めた。
[末端封鎖剤および末端封鎖剤由来成分の評価方法]
カルボジイミド系化合物の含有量は、積層フィルムの樹脂層(A)を削りだし、熱分解GC/MS等にて末端封鎖剤の構造を同定した。また別途、微量窒素分析装置ND−100型分析装置を用いて、1gあたりに含まれる窒素含有量(μg/g)を求めた。測定はn=5とし、定量に当たっては、ピリジン標準溶液で作成した検量線を用いた。末端封鎖剤の単位分子量と窒素含有量からカルボジイミド系化合物の含有量を求めた。
エポキシ系化合物の含有量は、積層フィルムの樹脂層(A)を削りだし、重溶媒(CDCl/HFIP−d混合溶媒)に溶解させた。遠心分離等により、不溶成分を分離した後、残りの溶液を用いてNMR(核磁気共鳴)スペクトル測定を行った。得られた結果から末端封鎖剤の構造を同定し、そのピーク強度比と単位分子量からエポキシ系化合物の含有量を求めた。なお、構造同定については、必要に応じて溶媒抽出分離作業を組み合わせて測定を実施した。
[溶融粘度]
フロ−テスタ−CFT−500(島津製作所製)を用いて、口金長さを10mm、口金径を1.0mm、荷重を5,10,15,20kgと変更して、測定温度270℃、予熱時間5分で測定した。剪断速度と溶融粘度の関係を測定し、100sec−1近傍の溶融粘度を求めた。
[樹脂層(A)および樹脂層(B)のガラス転移温度(Tg)]
JIS K7121(1987)に基づいて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置”ロボットDSC−RDC220”を、データ解析にはディスクセッション”SSC/5200”を用いて求めた。サンプルパンに樹脂層(A)から削り取ったサンプルを5mgずつ秤量し、昇温速度は20℃/minで走査した。示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点から、樹脂層(A)のTgを求めた。樹脂層(B)のTgも同様にして求めた。
[樹脂層(A)の中心線平均表面粗さ(Ra)]
JIS B0601(1976)に従って、触針式表面粗さ計(小坂研究所(株)製、高精度薄膜段差測定器、形式ET30HK)を用いてフィルムの樹脂層(A)の表面を測定した。なお、この時の条件は、触針径円錐型0.5μmR、荷重16mg、カットオフ0.08mmとした。粗さ曲線からその中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をX軸、縦方向をY軸とし、粗さ曲線をy=f(X)で表した時、次の式によって求められる値(μm)を中心線平均表面粗さRaとする。
Ra=(1/L)∫|f(X)|dx。
なお、同じサンプルについて同様の測定を任意に場所を変えて5回行い、得られた5つの値の平均値をRaとした。
[フィルム厚み]
JIS−B7509(1955)に従い、ダイヤルゲージ式厚み計を用いて測定した。
[積層厚み比]
フィルムの長手方向−厚み方向断面を観察面とするようにミクロトームを使用して超薄切片を作成した。このフィルム断面の薄膜切片を、透過型電子顕微鏡を用いて倍率2万倍でフィルム断面写真を撮影し、フィルム幅方向のセンター部の各層の厚みを確認した。
[積層フィルムの引張弾性率]
ASTM D882−64T(2002)に従い、積層フィルムの引張弾性率を測定した。
[熱収縮率]
蒸着フィルムを長手方向および幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔で標線を描き、3gの錘を吊して150℃に加熱した熱風オーブン内に30分間設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から熱収縮率を算出し、寸法安定性の指標とした。測定は各蒸着フィルムとも長手方向および幅方向に5サンプル実施して平均値で評価を行った。
[樹脂層(A)の面配向係数(fn)]
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、積層フィルムの樹脂層(A)側の表面の長手方向屈折率(Nx),幅方向屈折率(Ny),厚み方向屈折率(Nz)を測定し、下式から面配向係数(fn)を算出した。マウント液はモノブロモナフタレンを用いた。
【0092】
fn=(Nx+Ny)/2−Nz
[酸素透過度]
温度23℃、湿度0%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名、“オキシトラン”(登録商標)(“OXTRAN ”2/20))を使用して、JIS K7126−2(2006)に記載の電解センサ法に基づいて測定した。また、測定は蒸着層側から酸素気流を当て、反対側で検出する測定方式で、2回行い、2つの測定値の平均値を各実施例と比較例における酸素透過度とした。
[炭酸ガス透過度]
温度23℃、湿度0%RHの条件でGTRテック株式会社製ガス透過率測定装置GTR−10Xを使用して、JIS K7126−1附属書2(2006)に記載のガスクロマトグラフ法に基づいてCO2メタン化・FID法にて測定した。また、測定は蒸着層側から炭酸ガス気流を当て、反対側で検出する測定方式で、2回行い、2つの測定値の平均値を各実施例と比較例における炭酸ガス透過度の値とした。
[押出安定性]
積層フィルム中の気泡の有無を目視にて観察し、気泡の無いものを○、1個以上の気泡が観察されたものを×として、押出安定性を評価した。
[耐久性]
積層フィルムを50℃90%RH条件の恒温恒湿層内で処理し、一定時間ごとにフィルムを取りだし、樹脂層(A)を削りだし質量平均分子量を測定した。樹脂層(A)の質量平均分子量が15万を下回る時間を下記のように評価した。
◎:240時間処理で分子量15万以上である。
○:分子量が15万を下回る処理時間が、120時間以上240時間未満である。
△:分子量が15万を下回る処理時間が、60時間以上120時間未満である。
【0093】
×:分子量が15万を下回る処理時間が、60時間未満である。
【0094】
本発明の実施例、比較例で用いた原料は下記の通りである。
[ポリエチレンテレフタレート(PET)の重合]
テレフタル酸ジメチル194質量部とエチレングリコール124質量部に、酢酸マグネシウム4水塩0.1質量部および三酸化アンチモン0.05質量部を加え、140〜230℃でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。ついで、重縮合反応缶に移行し、リン酸0.05質量部のエチレングリコール溶液を加えて5分間撹拌した後、低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応系を230℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、100Paまで減圧した。3時間重合反応させ所定の撹拌トルクとなった時点で重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングし、その後、回転式反応容器に仕込み、190℃、67Paの減圧下において5時間固相重合を行い、固有粘度0.79のポリエチレンテレフタレートのペレットを得た。270℃100sec−1での溶融粘度は4800poiseだった。
[ポリブチレンテレフタレート(PBT)の重合]
テレフタル酸100質量部、1,4−ブタンジオール110質量部の混合物を窒素雰囲気下で140℃まで昇温して均一溶液とした。その後、テトラ−n−ブチルチタネート0.067質量部、モノヒドロキシブチルスズオキサイド0.067質量部を加え160℃〜230℃まで昇温し、生成する水とテトラヒドロフランを留出しつつエステル化反応を行った。エステル化反応生成物を重縮合反応缶に移行し、テトラ−n−ブチルチタネート0.09質量部、安定剤として日本チバガイギー社製‘イルガノックス1010’0.13質量部およびリン酸0.026質量部を添加した。ついで、反応系を230℃から徐々に250℃まで昇温するとともに、常圧から133Pa以下に減圧した。2時間50分後に重縮合反応を終了させ、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングして固有粘度0.90のポリブチレンテレフタレートのペレットを得た。その後、回転式反応容器に仕込み、190℃、67Paの減圧下において8時間固相重合を行い、のポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。得られたポリブチレンテレフタレートの固有粘度は1.20、融点は230℃、270℃100sec−1での溶融粘度は3000poiseだった。
[ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール共重合ポリエステル(PET−PEG)の重合]
テレフタル酸ジメチル175質量部とエチレングリコール112質量部に酢酸カルシウム1水塩0.1質量部、三酸化二アンチモン0.03質量部、安定剤としてチバ・スペシャリティ−ケミカルズ社製ヒンダードフェノール系添加剤‘イルガノックス1010’0.1質量部、発泡低減剤として東レ・ダウコーニング社製シリコーンオイル‘SH200’0.1質量部を加え、140〜230℃でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。ついで、トリメチルリン酸0.04質量部のエチレングリコール溶液を加えて、5分間撹拌した後、重縮合反応缶に移行し、三洋化成工業社製質量平均分子量4000のポリエチレングリコール‘PEG4000S’19質量部を加えて5分間撹拌した後、低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応系を230℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、100Paまで減圧した。3時間重合反応させ所定の撹拌トルクとなった時点で重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングした後、回転式真空乾燥機にて120℃で4時間乾燥し、固有粘度0.78の共重合ポリエステル(融点253℃)(PETにPEGを10質量%共重合したPET−PEG)を得た。270℃100sec−1での溶融粘度は3200poiseだった。
(PGA)
質量平均分子量19万のホモポリグリコール酸樹脂を準備し、回転式真空乾燥機にて120℃6時間乾燥して用いた。この樹脂の融点およびガラス転移温度Tgは、JIS K7121(1987)に基づいて、昇温速度20℃/minにて示差走査熱量測定を行った結果、融点221℃、Tg41℃であった。270℃100sec−1での溶融粘度3500poiseであった。
(触媒活性低減剤マスタ−原料1)
PBT98質量部と触媒活性低減剤としてADEKA社製モノ/ジステアリルアシッドホスフェート‘アデカスタブAX71’(質量平均分子量490)2質量部を二軸押出機に供給し、250℃で混練、冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングした後、回転式真空乾燥機にて120℃で4時間乾燥し、チップ状の触媒活性低減剤マスター原料を得た。
(触媒活性低減剤マスタ−原料2)
PGA98質量部と触媒活性低減剤としてADEKA社製モノ/ジステアリルアシッドホスフェート‘アデカスタブAX71’2質量部を二軸押出機に供給し、250℃で混練、冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングした後、回転式真空乾燥機にて120℃で4時間乾燥し、チップ状の触媒活性低減剤マスター原料2を得た。
(触媒活性低減剤マスタ−原料3)
PBT98質量部と触媒活性低減剤としてリン酸二水素ナトリウム2質量部を二軸押出機に供給し、250℃で混練、冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングした後、回転式真空乾燥機にて120℃で4時間乾燥し、チップ状の触媒活性低減剤マスター原料3を得た。
(粒子マスター原料)
テレフタル酸ジメチル194質量部とエチレングリコール124質量部に、酢酸マグネシウム4水塩0.1質量部および三酸化アンチモン0.05質量部を加え、140〜230℃でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。ついで、重縮合反応缶に移行し、リン酸0.05質量部のエチレングリコール溶液さらにエチレングリコール中に分散させた平均粒径2.0μmのシリカ粒子4質量部を加えて5分間撹拌した後、低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応系を230℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、100Paまで減圧した。3時間重合反応させ所定の撹拌トルクとなった時点で重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングし、その後、回転式反応容器に仕込み、190℃、67Paの減圧下において5時間固相重合を行い、固有粘度0.79のシリカ粒子2質量%を含有するポリエチレンテレフタレートの粒子マスター原料のペレットを得た。270℃100sec−1での溶融粘度は4800poiseだった。
(実施例1)
単軸押出機−1に、樹脂層(A)としてPGAを100質量部供給し、255℃で押出、濾過精度(95%カット径)25μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにてポリマーを濾過させ多層口金に供給した。樹脂層(A)の溶融滞留時間は、20分であった。単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料1および粒子マスター原料を用い、PBT60質量部、PET40質量部、粒子0.02質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(B)の全成分に対し5mol/tになるように供給し、270℃で押出、平均目開き12μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにてポリマーを濾過させた後、多層口金に供給した。樹脂層(B)の溶融滞留時間は25分であった。
【0095】
樹脂層(A)/樹脂層(B)の二層構成となるよう積層した後、口金より25℃の温度のドラムに巻き付けてシート状に冷却固化した。該フィルムを60℃でロールにて長手方向に3.5倍に延伸、ただちに室温に冷却し、テンターに導き、延伸50℃の温度で幅方向に4.0倍延伸し、次いで幅方向に5%の弛緩を与えつつ190℃の温度で熱処理して二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは15μmであった。積層フィルムの厚み構成は、樹脂層(A)/樹脂層(B)=3/12μmであった。
【0096】
得られたフィルムについてフィルム走行装置を具備した真空蒸着装置内にセット、1.00×10−2Paの高減圧状態にした後に、0℃の冷却金属ドラムを介して走行させた。この際、アルミニウム金属を加熱蒸発し、樹脂層(A)上に蒸着層を形成した。
【0097】
このようにして得られた蒸着フィルムを48時間エージングして、本発明の蒸着フィルムを得た。なお、蒸着フィルムの光学濃度は、蒸着中にオンラインで確認し、2.5となるよう蒸着厚みを制御した。
【0098】
得られたフィルムの製膜条件およびフィルムの評価結果を表1に示す。得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(実施例2)
実施例1において、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、粒子マスター原料、ADEKA社製モノ/ジステアリルアシッドホスフェート‘アデカスタブAX71’を用い、PET−PEG100質量部、粒子0.02質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(B)の全成分に対し3mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0099】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(実施例3)
実施例1において、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料1および粒子マスター原料を用い、PBT60質量部、PET40質量部、粒子0.02質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(B)の全成分に対し40mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0100】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(実施例4)
実施例1において、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料1および粒子マスター原料を用い、PBT60質量部、PET40質量部、粒子0.02質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(B)の全成分に対し1.5mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0101】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れていたが、耐久性はやや劣る結果であった。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(実施例5)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、触媒活性低減剤マスター原料2を用い、PGA100質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(A)の全成分に対し4mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0102】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(実施例6)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、触媒活性低減剤マスター原料2を用い、PGA100質量部、ラインケミー社製カルボジイミド‘スタバクゾールP100’0.5質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(A)の全成分に対し4mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0103】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(比較例1)
実施例1において、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料1を添加しないこと以外は、同様にして製造した。触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を特定量含有していないため、押出時に気泡が発生するなど安定して積層フィルムを得ることが困難であった。
【0104】
また少量得られたフィルムも耐久性が著しく劣っていた。
(比較例2)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、触媒活性低減剤マスター原料2を用い、PGA100質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(A)の全成分に対し4mol/tになるように変更し、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料1を添加しないこと以外は、同様にして製造した。触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を樹脂層(B)に特定量含有していないため、押出時に気泡が発生するなど安定して積層フィルムを得ることが困難であった。
【0105】
また少量得られたフィルムも耐久性が不十分であった。
(実施例7)
実施例1において、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、粒子マスター原料、ADEKA社製モノ/ジステアリルアシッドホスフェート‘アデカスタブAX71’を用い、PET50質量部、PET−PEG50質量部、粒子0.02質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(B)の全成分に対し3mol/tになるように変更し、長手方向の延伸温度を65℃、幅方向の延伸温度を60℃とした以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0106】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(実施例8)
実施例1において、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料1および粒子マスター原料を用い、PBT20質量部、PET80質量部、粒子0.02質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(B)の全成分に対し5mol/tになるように変更し、長手方向の延伸温度を75℃、幅方向の延伸温度を68℃とした以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0107】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れていた。
(実施例9)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、触媒活性低減剤マスター原料2を用い、PGA100質量部、BASF社製エポキシ系化合物‘Joncryl ADR4368’0.1質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(A)の全成分に対し4mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0108】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に特に優れていた。
(実施例10)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、PGA100質量部、BASF社製エポキシ系化合物‘Joncryl ADR4368’0.5質量部に変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0109】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に特に優れていた。
(実施例11)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、PGA100質量部、BASF社製エポキシ系化合物‘Joncryl ADR4368’0.5質量部に変更し、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料3および粒子マスター原料を用い、PBT60質量部、PET40質量部、粒子0.02質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(B)の全成分に対し3mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0110】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に特に優れていた。
(実施例12)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、PGA100質量部、日油(株)製エポキシ系化合物‘モディパー A4400’0.5質量部に変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0111】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に特に優れていた。
(実施例13)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、触媒活性低減剤マスター原料2を用い、PGA100質量部、ラインケミー社製カルボジイミド‘スタバクゾールI LF’1質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(A)の全成分に対し4mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0112】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に特に優れていた。
(実施例14)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、触媒活性低減剤マスター原料2を用い、PGA100質量部、日清紡ケミカル(株)製カルボジイミド化合物‘カルボジライトLA−1’0.5質量部、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分が樹脂層(A)の全成分に対し4mol/tになるように変更した以外は、同様にして製造した積層フィルムおよび蒸着フィルムを得た。
【0113】
得られたフィルムは、触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を含有することにより、押出安定性に優れ、耐久性に特に優れていた。また、蒸着フィルムは、水蒸気バリア性、酸素バリア性に特に優れていた。
(比較例3)
実施例1において、単軸押出機−1に樹脂層(A)として、触媒活性低減剤マスター原料2を用い、PGA100質量部、ラインケミー社製カルボジイミド‘スタバクゾールP100’0.5質量部に変更し、単軸押出機−2に樹脂層(B)として、触媒活性低減剤マスター原料1を添加しないこと以外は、同様にして製造した。触媒活性低減剤や触媒活性低減剤由来成分を樹脂層(B)に特定量含有していないため、押出時に気泡が発生するなど安定して積層フィルムを得ることが困難であった。
【0114】
また少量得られたフィルムも耐久性に劣る結果であった。
【0115】
【表1−1】

【0116】
【表1−2】

【0117】
ただし、表中の記載は下記の通り。
PGA:ポリグリコール酸
PET:ポリエチレンテレフタレート
PBT:ポリブチレンテレフタレート
PET−PEG:ポリエチレングリコール10質量%共重合ポリエチレンテレフタレート
AX71:ADEKA社製モノ/ジステアリルアシッドホスフェート‘アデカスタブAX71’
リン酸塩:リン酸二水素ナトリウム
カルボジイミド1:ラインケミー社製カルボジイミド‘スタバクゾールP100’
カルボジイミド2:ラインケミー社製カルボジイミド‘スタバクゾールI LF’
カルボジイミド3:日清紡ケミカル(株)製カルボジイミド化合物‘カルボジライトLA−1’
エポキシ1:BASF社製エポキシ系化合物‘Joncryl ADR4368’
エポキシ2:日油(株)製エポキシ系化合物‘モディパー A4400’
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、ポリグリコール酸と、それとは異なるポリエステル層を直接積層しているにも関わらず、安定的に製造することができ、かつ優れたガスバリア性、さらには長期の耐久性に優れた実用性を有する積層フィルム、およびその蒸着フィルムに関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1に示す構造を70モル%以上有するポリグリコール酸を主体とする樹脂層(A)と、ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルを主体とする樹脂層(B)とを少なくとも有する積層フィルムであって、
樹脂層(A)と樹脂層(B)とが直接積層され、
樹脂層(B)が、触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(B)の全成分に対して、1〜100mol/t含有することを特徴とする積層フィルム。
【化1】

【請求項2】
前記触媒活性低減剤が、リン系化合物である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
樹脂層(B)のガラス転移温度が30℃以上65℃以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
樹脂層(B)の主体である前記ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルが、以下の(a)〜(c)のいずれかを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の積層フィルム。
(a)ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート
(b)ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとの共重合体
(c)ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとの共重合体
【請求項5】
樹脂層(A)が、触媒活性低減剤及び/又は該触媒活性低減剤由来成分を、樹脂層(A)の全成分に対して、1〜100mol/t含有してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
樹脂層(A)が、末端封鎖剤及び/又は末端封鎖剤由来成分を、樹脂層(A)の全成分100質量%に対して、0.05〜3質量%含有してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記末端封鎖剤が、カルボジイミド基及び/又はエポキシ基を有する化合物であることを特徴とする請求項6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
樹脂層(A)が、少なくとも片面の最表層であり、
該樹脂層(A)の中心線表面粗さ(Ra)が5nm〜50nmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の積層フィルムの少なくとも片面に、金属または無機酸化物からなる蒸着層を有する蒸着フィルム。

【公開番号】特開2011−143709(P2011−143709A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257522(P2010−257522)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19〜23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「革新的ノンフロン系断熱材技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術強化力法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】