説明

積層フィルム及びその製造方法

【課題】光学機能及び導電機能を別々に形成する積層フィルムよりも製造工程を削減し、かつ、歩留まりを向上させることができる優れた積層フィルムを提供すること。
【解決手段】積層フィルム10は、透明な樹脂基板11と、ハードコート層12と、光学膜13、14,15と、透明導電膜16とを具備している。光学膜13、14、15及び透明導電膜16は、樹脂基板11の屈折率とは異なる屈折率を有している。積層フィルム10は、40℃90%Rhにおける水蒸気透過速度が1.0g/m・day以下であるように形成されている。積層フィルム10は、全光線透過率(JIS−K7105)が90%以上であり、かつ、D65光源の透過光の色相をL*a*b*表色系で表す場合のb*の値が−1.0以上1.5以下であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気バリア機能、光学機能及び導電機能を有する積層フィルム及びその製造方法に関するものある。
【背景技術】
【0002】
バリア機能、光学機能及び導電機能のうち2つ又は3つの機能を併せ持つ積層フィルムの例として、特許文献1及び特許文献2に挙げられるような光学膜及び透明導電膜をそれぞれ積層したものが知られている。また、特許文献3及び特許文献4に挙げられるようなバリア膜、光学膜及び透明導電膜をそれぞれ積層したもの、又は、特許文献5に挙げられるようなバリア機能、光学機能及び導電機能のいずれかの機能を有するフィルムを粘着により貼り合わせることにより複数の機能を持たせることが知られている。また、バリア機能と反射防止機能を満たす薄膜をフィルム上に形成する例として、特許文献6のように光学膜の少なくとも1層にバリア機能を持たせる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-286066
【特許文献2】特許第3626624
【特許文献3】特開2005-70616
【特許文献4】特開2006-4633
【特許文献5】特開2006-327098
【特許文献6】特開2004-291464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子デバイスに用いられるフィルムに要求される機能として、光学機能及び導電機能が挙げられる。これらの機能を別々にフィルムに付与する場合、工程が増えてしまう問題がある。
【0005】
また、透明電極として最も一般的に用いられている酸化インジウムスズ(ITO)は、一般的なガラスやプラスチック基材に比べ、屈折率の高い高屈折率材料に分類されることから、単純に基板上にITOを形成すると、透過率が低下(反射率が増大)してしまう。また、酸化インジウムスズ(ITO)は短波長域での透過率が低下するため、透過色が黄色味を帯びてしまう問題がある。さらに、基材がプラスチックの場合、基材に含まれるH20に代表されるようなガス分子の影響により、ITO膜の特性が劣化する問題がある。
【0006】
本発明の目的は、光学機能及び導電機能を別々に形成する積層フィルムよりも製造工程を削減し、かつ、歩留まりを向上させることができる優れた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る積層フィルムは、透明な樹脂基板と、前記樹脂基板の少なくとも一方の面に形成されている光学膜と、前記光学膜の表面に形成されている透明導電膜とを具備し、前記光学膜及び前記透明導電膜は前記樹脂基板の屈折率とは異なる屈折率を有し、40℃90%Rhにおける水蒸気透過速度が1.0g/m・day以下であることを特徴とする。
【0008】
請求項1の発明によれば、樹脂基板の少なくとも一方の面に光学膜及び透明導電膜を有するため、光学機能及び導電機能を別々に形成する積層フィルムよりも製造工程を削減し、かつ、歩留まりを向上させることができる優れた積層フィルムを提供することができる。
【0009】
請求項2の発明に係る積層フィルムは、請求項1に記載の積層フィルムにおいて、
前記光学膜が、前記樹脂基板に順次に積層されている第1の薄膜層、第2の薄膜層及び第3の薄膜層を具備し、前記第1の薄膜層が1.50〜2.20の屈折率を有し、かつ、1〜10nmの膜厚を有し、前記第2の薄膜層が1.90〜2.50の屈折率を有し.かつ、15〜35nmの膜厚を有し、前記第3の薄膜層が1.35〜1.50の屈折率を有し、かつ、35〜70nmの膜厚を有し、前記透明導電膜が1.90〜2.20の屈折率を有し、かつ、10〜30nmの膜厚を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果を有し、かつ、光学膜が複数の高屈折率膜又は低屈折率膜を用いた積層膜であるため、単層よりも高度な光学性能を付与することができる。請求項2の発明によれば、例えば、可視光域での反射防止機能、高透過機能、透過又は反射色相調整機能を有する積層フィルムの提供が可能となる。
【0011】
請求項3の発明に係る積層フィルムは、請求項1又は2に記載の積層フィルムにおいて、全光線透過率(JIS−K7105)が90%以上であり、かつ、D65光源の透過光の色相をL*a*b*表色系で表す場合のb*の値が−1.0以上1.5以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果を有し、かつ、さらに優れた積層フィルムを提供することができる。
【0013】
請求項4の発明に係る積層フィルムは、請求項1乃至3のいずれかに記載の積層フィルムにおいて、前記透明導電膜が、In、Zn及びSnの少なくとも1つを主原料とする酸化物からなり、かつ、表面抵抗値が150〜800Ω/□であることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明の効果を有し、かつ、さらに優れた積層フィルムを提供することができる。
【0015】
請求項5の発明に係る積層フィルムは、請求項1乃至4のいずれかに記載の積層フィルムにおいて、前記樹脂基板の片面又は両面に形成されているハードコート、表面平滑層及びオリゴマー析出防止層の少なくとも1層を具備していることを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の効果を有し、かつ、さらに優れた積層フィルムを提供することができる。
【0017】
請求項6の発明に係る積層フィルムは、請求項1乃至5のいずれかに記載の積層フィルムにおいて、前記樹脂基板における前記透明導電膜が形成されている側とは反対側の面上に積層されている可視光域の光線の反射を低減させる薄膜を具備し、前記樹脂基板の前記透明導電膜が位置する裏面側の光線の反射を除外し測定する場合の波長が380〜780nmである光線の平均反射率が2%以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明によれば、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明の効果を有し、かつ、さらに優れた積層フィルムを提供することができる。
【0019】
請求項7の発明に係る積層フィルムは、請求項1乃至6のいずれかに記載の積層フィルムにおいて、前記樹脂基板における前記透明導電膜が形成されている側とは反対側の最表面に形成されている防汚層を具備することを特徴とする。
【0020】
請求項7の発明によれば、請求項1乃至6のいずれかに記載の発明の効果を有し、かつ、さらに優れた積層フィルムを提供することができる。
【0021】
請求項8の発明に係る積層体は、請求項1乃至7のいずれかに記載の積層フィルムが、他のフィルム、プラスチック基板及びガラス基板のいずれかと、粘着剤又は接着剤によって貼り合わされていることを特徴とする。
【0022】
請求項8の発明によれば、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の効果を有する積層フィルムを具備する積層体を提供することができる。
【0023】
請求項9の発明に係る電子デバイスは、請求項1乃至7のいずれかに記載の積層フィルム又は請求項8に記載の積層体を具備することを特徴とする。
【0024】
請求項9の発明によれば、請求項1乃至7のいずれかに記載の効果を有する積層フィルム又は請求項8に記載の効果を有する積層体を具備する電子デバイスを提供することができる。
【0025】
請求項10の発明に係る積層フィルムの製造方法は、請求項1乃至7のいずれか記載の積層フィルムの製造方法であって、真空チャンバーの内部において前記樹脂基板を繰り出して搬送して巻き取る工程と、前記真空チャンバーの内部において前記樹脂基板に前記光学膜及び前記透明導電膜を順次に形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0026】
請求項10の発明によれば、前記樹脂基板を大気に晒すことなく前記樹脂基板に前記光学膜及び前記透明導電膜を順次に形成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、樹脂基板の少なくとも一方の面に光学膜及び透明導電膜を有するため、光学機能及び導電機能を別々に形成する積層フィルムよりも製造工程を削減し、かつ、歩留まりを向上させることができる優れた積層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1に係る積層フィルムを示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る積層フィルムを示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態3に係る積層フィルムを示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態4に係る巻取式真空成膜装置を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例と比較例の評価を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いながら詳細に説明する。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る積層フィルムを示す概略断面図である。図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る積層フィルム10は、透明な樹脂基板11と、ハードコート層12と、光学膜13、14,15と、透明導電膜16とを具備している。
【0031】
ハードコート層12は、樹脂基板11の一方の面に形成されている。光学膜13、14、15は、樹脂基板11の他の面に順次に積層されている第1の薄膜層、第2の薄膜層及び第3の薄膜層である。透明導電膜16は、光学膜15の表面に形成されている。光学膜13、14、15及び透明導電膜16は、樹脂基板11の屈折率とは異なる屈折率を有している。
【0032】
積層フィルム10は、40℃90%Rhにおける水蒸気透過速度が1.0g/m・day以下であるように形成されている。水蒸気透過速度が1.0g/m・dayを上回ると、高温多湿の劣悪な環境でデバイスが使用された場合、積層フィルムを通してデバイス内に水蒸気が透過し、結露によりデバイス内でショートによる誤動作、最悪の場合、デバイスの破壊につながる深刻な影響を及ぼす。また、有機EL等、有機デバイスの電極として用いた場合、水分子により容易に腐食し、デバイスが早期に機能しなくなる。したがって、デバイスに与える影響を考慮すると、水蒸気透過速度は低ければ、低い程、良い。
【0033】
光学膜13は、1.50〜2.20の屈折率を有し、かつ、1〜10nmの膜厚を有している。光学膜14は、1.90〜2.50の屈折率を有し.かつ、15〜35nmの膜厚を有している。光学膜15は、1.35〜1.50の屈折率を有し、かつ、35〜70nmの膜厚を有している。透明導電膜16は、1.90〜2.20の屈折率を有し、かつ、10〜30nmの膜厚を有していることが望ましい。
【0034】
積層フィルムは、層間で干渉を起こすことにより、特定の波長領域の透過率あるいは反射率を増大させたり、低減したりすることができるが、そのためには、それらの層の屈折率および膜厚を特定の範囲内にする必要がある。
【0035】
例えば、第3の薄膜層の屈折率1.50を超える材料を使用、あるいは膜厚が70nmを超える膜厚を堆積させた場合、透過光b*が増大し、黄色味の強いフィルムとなる。逆に、屈折率が1.35を下回る屈折率材料を使用、あるいは膜厚を35nm未満とすると、全光線透過率が低下する。第2の薄膜層に関しても同様の傾向があり、前記範囲以外の屈折率および膜厚にすることは不適である。
【0036】
第1の薄膜層に関しては、樹脂基板と薄膜層の密着性を高める観点から化学両論に満たない材料を用いることが多く、この場合、10nmを超える膜厚だと透過率が低下し、1nm未満だと、樹脂基板表面に堆積する面積が不十分で、密着性が低下する。
【0037】
積層フィルム10は、全光線透過率(JIS−K7105)が90%以上であり、かつ、D65光源の透過光の色相をL*a*b*表色系で表す場合のb*の値が−1.0以上1.5以下であることが望ましい。
【0038】
樹脂基板11として用いられるプラスチックフィルムとしては、成膜工程及び後工程において十分な強度があり、表面の平滑性が良好であれば、特に限定されない。樹脂基板11として用いられるプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリイミド等が挙げられる。樹脂基板11の厚さは、部材の薄型化と基材の可撓性とを考慮し、10〜200μm程度が望ましい。樹脂基板11の表面に周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤及び易接着剤などが使用されてもよい。樹脂基板11の表面に、光学膜23との密着性を改善するため、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理又は薬品処理などを施してもよい。
【0039】
光学膜13,14、15及び透明導電膜16としては、酸化物、硫化物、フッ化物、窒化物などの材料が使用可能である。前記無機化合物からなる薄膜は、その材料により屈折率が異なり、その屈折率の異なるセラミック薄膜を特定の膜厚で形成することにより、光学特性を調整することが可能となる。
【0040】
光学膜13,14、15及び透明導電膜16に用いられる屈折率の低い材料としては、酸化マグネシウム(屈折率1.6)、二酸化珪素(屈折率1.5)、フッ化マグネシウム(屈折率1.4)、フッ化カルシウム(屈折率1.3〜1.4)、フッ化セリウム(屈折率1.6)、フッ化アルミニウム(屈折率1.3)などが挙げられる。また、光学膜13,14、15及び透明導電膜16に用いられる屈折率の高い材料としては、酸化チタン(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、硫化亜鉛(屈折率2.3)、酸化タンタル(屈折率2.1)、酸化亜鉛(屈折率2.1)、酸化インジウム(屈折率2.0)、酸化ニオブ(屈折率2.3)、酸化タンタル(屈折率2.2)が挙げられる。
【0041】
光学膜13,14、15及び透明導電膜16に用いられるバリア性能を有する材料としては、珪素やアルミニウムの酸化物、窒化物等、酸窒化物等が挙げられるが、特に限定されるものではない。一方、薄膜層成膜中又は成膜後に熱やプラズマにより、薄膜を処理し、緻密な薄膜を形成する方法でもバリア性能を向上させることが可能である。プラズマ処理の際に、樹脂基板11にバイアスを印加することにより、その効果を高めることも可能である。
【0042】
積層ファイル10の水蒸気透過速度は、JIS-Z0208、JIS-Z7129に代表されるような方法で測定可能である。水蒸気透過速度としては、40℃90%Rhの環境下で最表面の透明導電膜16の形成前で約1.5g/m・day以下であることが望ましく、また、透明導電膜16まで形成された状態で1.0g/m・day以下であれば性能バラツキの少なく、かつ、再現性の良い透明導電膜26を形成できる。
【0043】
本発明の実施の形態1における水蒸気バリア膜、光学膜13、14、15及び透明導電膜16の製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる成膜方法でも良く、なかでも薄膜の生成には乾式法が優れている。これには真空蒸着法又はスパッタリング等の物理的気相析出法やCVD法のような化学的気相析出法を用いることができる。特に大面積に均一な膜質の薄膜を形成するために、プロセスが安定し、薄膜が緻密化するスパッタリング法が望ましい。
【0044】
透明導電膜16は、In、Zn及びSnの少なくとも1つを主原料とする酸化物からなり、かつ、表面抵抗値が150〜800Ω/□であることが望ましい。透明導電膜16の表面抵抗値は、光線透過率の観点から150Ω/□以上とすることがより望ましく、膜の耐久性の観点から、800Ω/□以下であることが望ましい。
【0045】
透明導電膜16の材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化スズのいずれか、又は、それらの2種類もしくは3種類の混合酸化物、さらには、その他添加物が加えられた物等が挙げられるが、目的・用途により種々の材料が使用でき、特に限定されるものではない。現在のところ、最も信頼性が高く、かつ、多くの実績のある透明導電膜16の材料は、酸化インジウムスズ(ITO)である。
【0046】
透明導電膜16として酸化インジウムスズ(ITO)を用いる場合、酸化インジウムにドープされる酸化スズの含有比はデバイスに求められる仕様に応じて、任意の割合を選択される。例えば、機械強度を高める目的で薄膜を結晶化させるために用いるスパッタリングターゲット材料は、酸化スズの含有比が10重量%未満が望ましく、薄膜をアモルファス化しフレキシブル性を持たせるためには、酸化スズの含有比は10重量%以上が望ましい。また、薄膜に低抵抗が求められる場合には、酸化スズの含有比は3重量%から20重量%の範囲が望ましい。
【0047】
樹脂基板10における透明導電膜16が形成されている側とは反対側の面上に積層されている可視光域の光線の反射を低減させる薄膜を具備し、樹脂基板10の透明導電膜16が位置する裏面側の光線の反射を除外し測定する場合の波長が380〜780nmである光線の平均反射率が2%以下であることが望ましい。
【0048】
樹脂基板10の透明導電膜16が位置する裏面側の光線の反射を除外する方法としては、透明導電膜16の面側をつや消しスプレーで黒塗りする方法が容易で最適である。また、樹脂基材10の反射率は片面当たり5%であり、両面で10%である。透明導電膜16の面の反対面の反射率を2%以下とすることで、視認性を向上させることができます。また、反射率を低減させることは、透過率を増大させることでもあり、好適である。一方、透明導電膜16がITOで形成されている構成では、1〜2%程度の反射低減効果であるので、ITOの成膜面の反対面の構成を平均反射率が2%以下の構成にすることは、より大きな効果がある。
【0049】
ハードコート層12は、透明性と適度な硬度と機械的強度があれば、特に限定されるものではない。ハードコート層12の材料としては、電離放射線や紫外線の照射による硬化樹脂や熱硬化性の樹脂が使用でき、特に紫外線照射硬化型のアクリルや有機珪素系の樹脂や、熱硬化型のポリシロキサン樹脂が好適である。これらの樹脂は、透明な樹脂基板11と屈折率が同等もしくは近似していることがより好ましい。ハードコート層12の膜厚は、3μm以上あれば十分な強度となるが、透明性、塗工精度及び取り扱いから3〜7μmの範囲が好ましい。
【0050】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2に係る積層フィルムを示す概略断面図である。本発明の実施の形態2においては、本発明の実施の形態1と同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明を省略する。
【0051】
図2に示すように、本発明の実施の形態2に係る積層フィルム20は、透明な樹脂基板11と、ハードコート層12と、平滑層21、光学膜13、14,15と、透明導電膜16と、反射防止光学膜22、23、24、25と、防汚層26を具備している。
【0052】
平滑層27は、樹脂基板11と光学膜13との間に形成されている。平滑層27は、光学膜13、14,15の成膜前に形成することにより、透明導電膜32の表面の平滑性を高める目的で施される。防汚層27は表面に汚れを付きにくくする目的で形成される。
反射防止光学膜22、23、24、25は、ハードコート層12の表面に順次に積層されている。防汚層27は、反射防止光学膜25の表面に形成されている。防汚層27は、積層フィルム20の表面に汚れを付きにくくする目的で形成されている。
【0053】
反射防止光学膜22、23、24、25は、通常、屈折率の異なる薄膜を形成することにより、反射防止の機能が付与される。反射防止光学膜としては、樹脂基板11よりも屈折率の低い無機薄膜を真空成膜で形成したり、紫外線照射硬化型の樹脂を塗布したりして形成される1層のものがある。また、反射防止光学膜としては、屈折率が1.90〜2.50である高屈折率薄膜と屈折率が1.30〜1.50である低屈折率薄膜を用い、透明な樹脂基板11の上に複数の層を形成してなるものがある。反射防止光学膜としては、一般に、複数の薄膜構成を用いることにより、より広い波長領域に渡って低反射の特性を実現できる。
【0054】
平滑層21の材料としては、透明性、適度な硬度及び機械的強度を有するものであれば良く、アクリル系樹脂、有機シリコーン系樹脂、ポリシロキサン等の樹脂材料が挙げられる。ウェットプロセスでは、マイクログラビア、スクリーン等の各種コーティング方法を用いて塗工することができる。また、有機層を塗工する際に、塗工液に樹脂フィラーや無機のフィラーを混合させることにより高硬度化・易滑化も可能である。一方、有機蒸着法により保護層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、アクリレートもしくはメタクリレート、又はそれらの混合樹脂溶液を有機物蒸着装置で蒸発させ、コーティングドラム上のフィルム上に凝縮させる。その後、電子線照射装置にて硬化処理を行うことにより保護層を形成することができる。また、電子線硬化の替わりに紫外線硬化を用いてもよい。
【0055】
積層フィルム20は、樹脂基板11の片面又は両面に形成されているハードコート、表面平滑層及びオリゴマー析出防止層の少なくとも1層を具備していることが望ましい。
【0056】
防汚層26の材料は、撥水性及び撥油性の少なくとも1つ有することにより、表面を保護し、さらに防汚性を高めるものであり、要求性能を満たすものであれば、いかなる材料であっても制限されるものではない。防汚層26の材料の代表的な例としては、有機化合物、好ましくはフッ素含有有機化合物が適している。防汚層26の材料として撥水性を示すものとしては、例えば、疎水基を有する化合物がよく、フルオロカーボンやパーフルオロシラン、又はこれらの高分子化合物等が適している。
【0057】
防汚層26の材料は、これらの材料に応じて真空蒸着法、プラズマCVD法などの真空成膜プロセスや、マイクログラビア、スクリーン印刷等のウェットプロセスの各種コーティング方法を用いて形成することができる。防汚層26の膜厚は、光学デバイスに用いる場合、光学機能を損なわないように設定しなければならず、50nm以下であればよく、さらには10nm以下にすることが好ましい。
【0058】
(実施の形態3)
図3は、本発明の実施の形態3に係る積層体を示す概略断面図である。本発明の実施の形態3においては、本発明の実施の形態1と同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明を省略する。
【0059】
図3に示すように、本発明の実施の形態3に係る積層体40は、積層フィルム41と、透明な基板42と、ハードコート層43と、粘着層44と、を具備している。積層フィルム41は、透明な樹脂基板11と、光学膜13、14,15と、透明導電膜16を具備している。基板42は、樹脂基板11の表面に粘着層44により接着されている。なお、基板42は、樹脂基板11の表面に接着層により接着されてもよい。ハードコート層43は、基板42の表面に形成されている。
【0060】
基板42は、樹脂フィルム、プラスチック基板又はガラス基板により形成されている。基板47としては、可とう性の樹脂フィルムを用いることにより、ロール状に巻かれた積層フィルム41と粘着剤44とラミネートした後にロールに巻き取ることが可能となる。
【0061】
(実施の形態4)
図4は、本発明の実施の形態4に係る巻取式真空成膜装置を示す概略図である。本発明の実施の形態4においては、本発明の実施の形態1、2、3と同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明を省略する。
【0062】
図4に示すように、本発明の実施の形態4に係る巻取式真空成膜装置50は、積層フィルム10,20を製造するものである。巻取式真空成膜装置50は、真空チャンバー501と、繰出ロール51と、巻取ロール52と、案内ロール53と、成膜ユニット55a、55b、55c、55d、55eと、仕切り部材502と、成膜ドラム57と、を具備している。
【0063】
真空チャンバー501の内部は、仕切り部材502により上下に仕切られて、上に基板搬送巻取室503が形成され、下に成膜室56a、56b、56c、56d、56eが形成されている。基板搬送巻取室503には、繰出ロール51、巻取ロール52及び案内ロール53が配置されている。繰出ロール51には、樹脂基板11が巻回されている。繰出ロール51から繰り出される樹脂基板11は、案内ロ−ル53に案内されて成膜ドラム57の外表面の巻かれ、かつ、巻取ロール52に巻き取られている。繰出ロール51、巻取ロール52及び案内ロール53は、成膜ドルム57の外表面において樹脂基板11を所定速度で所定方向へ搬送して巻き取る基板搬送巻取手段を構成している。
【0064】
成膜室56a、56b、56c、56d、56eには、成膜ユニット55a、55b、55c、55d、55eが配置されている。成膜ユニット55a、55b、55c、55d、55eは、成膜ドルム57の外表面において所定速度で所定方向へ搬送される樹脂基板11の表面に光学膜13、14,15及び透明導電膜16を順次に成膜するものである。
【0065】
成膜速度の遅い材料の成膜工程については2個以上の成膜ユニットが設けられ、他方の成膜速度の高い工程とマッチングをとることにより、複層の薄膜層をインラインで一度に成膜することも可能となる。インラインで複数の薄膜層を一度に成膜する場合、各薄膜層で相互に不純物や成膜ガスが混合しないように、成膜室の間のコンダクタンスをできる限り小さくし、また、必要に応じて成膜室の間にポンプを取り付けた中間室を設けることにより、成膜室間の差圧が1:100以上を実現できることが好ましい。
【0066】
なお、透明導電膜16は、成膜時の雰囲気により、膜質が変化する傾向があるが、透明導電膜16を成膜する前に、水蒸気バリア性を有する薄膜を形成することにより、プラスチック基材から放出されるガスによる影響が抑制される。また、該水蒸気バリア性を有する薄膜を光学膜として用いることにより、水蒸気バリア性を有する薄膜を別に形成した積層フィルムよりも工程が減り、歩留まりが向上する。
【0067】
次に、本発明の具体的な実施例を詳細に説明する。
【0068】
(実施例1)
図1に示すような積層フィルム10がデュアルマグネトロンスパッタリング(DMS)法により作成された。この積層フィルム10の樹脂基板11は、ポリエチレンテレフタレートで188μmの膜厚及び1000mmの幅に形成されている。この積層フィルム10のハードコート層は、樹脂基板11の一面に膜厚が3μmであるように形成されている。SiOx(1<x<2)薄膜(光学膜13)、Nb薄膜(光学膜14)、SiO薄膜(光学膜15)及びITO薄膜(透明導電膜16)は、デュアルマグネトロンスパッタリング(DMS)法により順次に積層された。
【0069】
SiOx(1<x<2)薄膜(光学膜13)は、1.70の屈折率を有し、かつ、3nmの膜厚を有している。Nb薄膜(光学膜14)は、2.30の屈折率を有し.かつ、25nmの膜厚を有している。SiO薄膜(光学膜15)は、1.45の屈折率を有し、かつ、60nmの膜厚を有している。ITO薄膜(透明導電膜16)は、1.98の屈折率を有し、かつ、20nmの膜厚を有している。
【0070】
作製された積層フィルム10の水蒸気透過速度は、測定したところ、0.1g/m・dayだった。この積層フィルム10の表面抵抗値は350Ω/□であり、この積層フィルム10の全光線透過率は91.1%である。この積層フィルム10の透過色相は、D65光源2°視野でb*=0.9となり、透過色のニュートラルな積層フィルム10が得られた。積層フィルム10表面抵抗値のバラツキを確認したところ、標準偏差8.9の良好な膜が得られた。
【0071】
(実施例2)
図4に示す巻取式真空成膜装置が用いられて図1に示すような積層フィルム10が作成された。この積層フィルム10の樹脂基板11は、ポリエチレンテレフタレートで188μmの膜厚及び1000mmの幅に形成されている。この積層フィルム10のハードコート層は、樹脂基板11の一面に膜厚が3μmであるように形成されている。SiOx(1<x<2)薄膜(光学膜13)、TiO薄膜(光学膜14)、SiO薄膜(光学膜15)及びITO薄膜(透明導電膜16)は、真空成膜法により順次に積層された。
【0072】
SiOx(1<x<2)薄膜(光学膜13)は、1.70の屈折率を有し、かつ、3nmの膜厚を有している。TiO薄膜(光学膜14)は、2.35の屈折率を有し.かつ、26nmの膜厚を有している。SiO薄膜(光学膜15)は、1.45の屈折率を有し、かつ、55nmの膜厚を有している。ITO薄膜(透明導電膜16)は、1.98の屈折率を有し、かつ、20nmの膜厚を有している。
【0073】
この際、カソードの磁場のバランスを調整した装置を用い、薄膜に高エネルギーイオンを入射し、緻密な膜が形成された。そして、ガラス基板上にITO膜が形成された下部電極にスペーサーを介し、この積層フィルムを上部電極とし、透明導電膜をガラス基板と対向させて配置させたタッチパネルが形成された。
【0074】
作製された積層フィルム10の水蒸気透過速度は、測定したところ、0.4g/m・dayだった。この積層フィルム10の表面抵抗値は350Ω/□であり、この積層フィルム10の全光線透過率は90.5%である。この積層フィルム10の透過色相は、D65光源2°視野でb*=0.5となり、透過色のニュートラルな積層フィルム10が得られた。作製したタッチパネルのリニアリティーは、測定したところ、1.1%であって良好な特性を示した。また、タッチパネルを60℃90%RHの環境下に1000h放置した後も、タッチパネルの動作に問題は見られなかった。
【0075】
(比較例1)
比較例1の積層フィルムが真空蒸着法により作成された。この積層フィルムの樹脂基板は、ポリエチレンテレフタレートで188μmの膜厚及び1000mmの幅に形成されている。この積層フィルムのハードコート層は、樹脂基板の一面に膜厚が3μmであるように形成されている。樹脂基板におけるハードコート層とは反対側の面に、TiO薄膜、SiO薄膜及びITO薄膜が、真空蒸着法により順次に積層された。
【0076】
TiO薄膜は、2.30の屈折率を有し.かつ、25nmの膜厚を有している。SiO薄膜は、1.45の屈折率を有し、かつ、60nmの膜厚を有している。ITO薄膜は、1.98の屈折率を有し、かつ、20nmの膜厚を有している。
【0077】
作製された積層フィルムの水蒸気透過速度は、測定したところ、2.9g/m・dayだった。この積層フィルムの表面抵抗値は430Ω/□であり、この積層フィルムの全光線透過率は90.2%である。この積層フィルムの透過色相は、D65光源2°視野でb*=0.7となり、透過色のニュートラルな積層フィルムが得られた。しかしながら、表面抵抗値のバラツキは、確認したところ、標準偏差32.1の表面抵抗分布の大きい膜であった。
【0078】
さらに、作製された積層フィルムを用いてタッチパネルを作製し、60℃90%RHの環境下に1000h放置した後に、常温に取り出したところ、タッチパネルの内部に結露が見られた。通常の打鍵加重(250gf)によりタッチパネルの動作を確認したところ、ON/OFFのスイッチング時間が通常よりも長い現象や、OFF信号が得られない(ショート)現象が確認された。
【0079】
実施例1,2と比較例1の評価結果が図5に示されている。図5により、実施例1,2の積層フイルムが比較例1の積層フイルムより優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0080】
10 積層フィルム
11 樹脂基板
12 ハードコート層
13、14、15 光学層
16 透明導電膜
20 積層フィルム
21 平滑層
22、23、24、25 反射防止光学膜
26 防汚層
40 積層体
41 積層フィルム
42 基板
43 ハードコート層
44 粘着層
50 巻取式真空成膜装置
501 真空チャンバー
51 繰出ロール
52 巻取ロール
53 案内ロール
55a、55b、55c、55d、55e 成膜ユニット
57 成膜ドラム
502 仕切り部材
56a、56b、56c、56d、56e 成膜室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂基板と、前記樹脂基板の少なくとも一方の面に形成されている光学膜と、前記光学膜の表面に形成されている透明導電膜とを具備し、前記光学膜及び前記透明導電膜は前記樹脂基板の屈折率とは異なる屈折率を有し、
40℃90%Rhにおける水蒸気透過速度が1.0g/m・day以下であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記光学膜は、前記樹脂基板に順次に積層されている第1の薄膜層、第2の薄膜層及び第3の薄膜層を具備し、
前記第1の薄膜層は1.50〜2.20の屈折率を有し、かつ、1〜10nmの膜厚を有し、前記第2の薄膜層は1.90〜2.50の屈折率を有し.かつ、15〜35nmの膜厚を有し、前記第3の薄膜層は1.35〜1.50の屈折率を有し。かつ、35〜70nmの膜厚を有し、
前記透明導電膜は1.90〜2.20の屈折率を有し、かつ、10〜30nmの膜厚を有することを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
全光線透過率(JIS−K7105)が90%以上であり、かつ、D65光源の透過光の色相をL*a*b*表色系で表す場合のb*の値が−1.0以上1.5以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記透明導電膜は、In、Zn及びSnの少なくとも1つを主原料とする酸化物からなり、かつ、表面抵抗値が150〜800Ω/□であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記樹脂基板の片面又は両面に形成されているハードコート、表面平滑層及びオリゴマー析出防止層の少なくとも1層を具備していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記樹脂基板における前記透明導電膜が形成されている側とは反対側の面上に積層されている可視光域の光線の反射を低減させる薄膜を具備し、前記樹脂基板の前記透明導電膜が位置する裏面側の光線の反射を除外し測定する場合の波長が380〜780nmである光線の平均反射率が2%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記樹脂基板における前記透明導電膜が形成されている側とは反対側の最表面に形成されている防汚層を具備することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の積層フィルムが、他のフィルム、プラスチック基板及びガラス基板のいずれかと、粘着剤又は接着剤によって貼り合わされていることを特徴とする積層体。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の積層フィルム又は請求項8に記載の積層体を具備することを特徴とする電子デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか記載の積層フィルムの製造方法であって、
真空チャンバーの内部において前記樹脂基板を繰り出して搬送して巻き取る工程と、
前記真空チャンバーの内部において前記樹脂基板に前記光学膜及び前記透明導電膜を順次に形成する工程と、
を具備することを特徴とする積層フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−184477(P2010−184477A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31782(P2009−31782)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】