説明

積層ポリエステルフィルム

【課題】 特定の厚さ範囲において高度な隠蔽性と分光反射特性を有し、かつ静電気防止性能を併せ持ち、光の漏洩が厳しく制限される各種反射部材として好適なフィルムを提供する。
【解決手段】 遮光剤を含有するポリエステル系樹脂層(B層)の少なくとも片面に、平均粒径0.1〜1.0μmの白色顔料を3〜30重量%含有するポリエステル系樹脂層(A層)を有する積層ポリエステルフィルムであって、フィルムの総厚さが10〜19μmであり、光学濃度が4.0〜8.0であり、波長460nmの光線に対するA層表面の分光反射率が70〜105%であり、少なくとも一方のA層表面に塗布層を有し、当該塗布層の表面固有抵抗値が1×10〜1×1012Ωであることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、隠蔽性および反射特性が高度に優れ、かつ静電気防止性能を併せ持った各種光学用反射部材に好適に使用される積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリペイドカード用白色ポリエステルフィルムのように、酸化チタンなどの白色顔料を添加することでフィルムに隠蔽性を付与させる技術は、従来知られている。また、必要に応じて蛍光増白剤を併用添加することで、フィルムの白色性を高度に維持させる技術も知られている。ところが、光の漏洩が厳しく制限される反射部材用途においては、フィルム厚さが19μm以下ともなると、隠蔽性の不足が避けられない。また従来、これを補うために、白色フィルム上に遮光性のある塗布層を設けることが行われているが、所定のインク厚さ(隠蔽性)を得るために複数回の塗布工程を経る必要があり、製造コスト面、品質管理面(塗布抜けの発生)から見て、不利な方法である。
【0003】
さらに当該フィルムをロール間をパスさせる工程で印刷・塗布加工する際、静電気を帯びる傾向があり、溶剤使用雰囲気下でのスパーク発生は爆発こと故に至る恐れがある。また帯電により異物を引き寄せると、印刷・塗布ヌケの原因となり、加工後製品の品質上、大きな問題である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−26087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、特定の厚さ範囲において高度な隠蔽性と分光反射特性を有し、かつ静電気防止性能を併せ持ち、光の漏洩が厳しく制限される各種反射部材として好適なフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定のフィルム構成を採用することによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、遮光剤を含有するポリエステル系樹脂層(B層)の少なくとも片面に、平均粒径0.1〜1.0μmの白色顔料を3〜30重量%含有するポリエステル系樹脂層(A層)を有する積層ポリエステルフィルムであって、フィルムの総厚さが10〜19μmであり、光学濃度が4.0〜8.0であり、波長460nmの光線に対するA層表面の分光反射率が70〜105%であり、少なくとも一方のA層表面に塗布層を有し、当該塗布層の表面固有抵抗値が1×10〜1×1012Ωであることを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、代表的には、例えば、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレート、構成単位の80モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレートであるポリエチレン−2,6−ナフタレート、構成単位の80モル%以上が1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートであるポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられる。その他にも、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0009】
上記の優位構成成分以外の共重合成分としては、例えば、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオール成分、イソフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびオキシモノカルボン酸などのエステル形成性誘導体を使用することができる。また、ポリエステルとしては、単独重合体または共重合体のほかに、他の樹脂との小割合のブレンドも使用することができる。
【0010】
本発明に用いる白色顔料としては、従来公知のものを使用することができ、例えば二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛等を用いることができる。特に酸化チタンは高屈折率を有し、比較的少量でフィルムに高い隠蔽性を付与することが可能であるため、好ましく使用される。
【0011】
本発明で用いる白色顔料の平均粒子径は、0.1〜1.0μmであり、より好ましくは0.2〜0.6μmである。白色顔料の平均粒子径が小さすぎると、積層フィルムの隠蔽性が不足する。一方、白色顔料の平均粒子径が大きすぎると、積層フィルムの表面から粒子が脱落する。ここで、白色顔料は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明の積層フィルムのA層には、十分な光線反射率を得るために、所定の白色顔料を含有させる必要がある。後述するように、A層の厚さは積層フィルムの総厚さに対して相当の割合を占めることが好ましいため、A層において積層フィルムの製膜安定性を保持することが要求される。よってA層中の白色顔料の含有量は、30重量%以下であり、好ましくは25重量%以下である。一方、積層フィルムの隠蔽性を向上するとともに、A層表面の光線反射率を向上させる目的から、A層中の白色顔料の含有量は5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。
【0013】
本発明の積層フィルムのB層には、積層フィルムの隠蔽性を高度なものにするために遮光剤を含有させることが必要である。遮光剤としては、具体的には黒色顔料、白色顔料、その他有色顔料などが挙げられる。
【0014】
黒色顔料としては、従来公知のものを使用することができ、例えばカーボンブラック、酸化鉄、アニリンブラックなどが挙げられるが、隠蔽性向上の効果、材料コストの点からカーボンブラックが好ましい。
【0015】
本発明のB層には、黒色顔料、白色顔料、有色顔料について1種単独で、もしくは2種以上を混合して使用することができるが、隠蔽性向上、当該積層フィルム自身の再生配合、などの観点から黒色顔料と白色顔料を併用することが好ましい。特に黒色顔料として好適に使用されるカーボンブラックの場合、その導電性のために高濃度添加が困難である(製造工程で口金からキャストロール上にシート状に押し出す際に、静電印加密着を行うが、この工程でスパークなどの不具合を生じる)ことから、隠蔽性が不足する場合には白色顔料の追加で補完することが好ましい。
【0016】
本発明のフィルムのB層にカーボンブラックを使用する場合、その含有量は1〜10重量%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜9重量%である。カーボンブラックの含有量が10重量%を超える場合、積層フィルムの製造工程(キャストロール上の電気密着工程)でスパークするなど生産性の問題が生じる傾向にある。一方、カーボンブラックの含有量が2重量%未満の場合、積層フィルムの隠蔽性が不足する傾向がある。
【0017】
本発明のB層に白色顔料を使用する場合、その含有量は前述のA層の場合と同じく3〜30重量%であることが好ましい。その上限については、製膜安定性の観点から25重量%以下であることがより好ましく、下限については積層フィルムの隠蔽性向上の観点から、10重量%以上、さらには15重量%以上であることがより好ましい。
【0018】
本発明で使用する遮光剤(白色顔料を除く)の平均粒子径は、隠蔽性向上および積層フィルム生産性の観点から、0.01〜0.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.3μmである。
【0019】
本発明の積層フィルムの光学濃度(OD)は4.0以上である必要がある。ODが4.0未満のフィルムを僅かな光の漏洩が許されない反射用部材に使用した場合、不具合が生じる傾向がある。好ましいOD値は5.0以上であり、さらに好ましくは5.5以上である。OD値の上限は通常8.0であり、OD値がこれを超えても、フィルムの隠蔽性は既に飽和している。
【0020】
本発明の積層フィルムのA層表面における、波長460nmの光線に対する分光反射率は、70〜105%であることが必要である。分光反射率が70%未満の場合、積層フィルムのA層(白色)面で光が反射された際に光量のロスが生じ、反射光によって照らされる表示面の明るさが不足する傾向がある。より好ましい分光反射率は75%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。当該分光反射率の上限は通常105%である。
【0021】
A層表面の分光反射率を70%以上とするために、A層に蛍光増白剤を含有させてもよい。なお蛍光増白剤を多量に添加しすぎると、蛍光増白剤の効果が飽和すると共に耐候性が悪化する傾向があるため、A層中の含有量としては、5000ppm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは2000ppm以下である。
【0022】
本発明の積層フィルムは、少なくとも一方のA層表面の表面固有抵抗値が1×10〜1×1012Ωの範囲内にあることが必要である。A層表面の表面固有抵抗値が1×1012Ωを超える場合、フィルムをロール間にパスさせて加工する際に静電気を帯びて、フィルム表面に異物を引き寄せることが問題となる。好ましいA層表面の表面固有抵抗値(上限)は1×1011Ω以下であり、さらに好ましくは1×1010Ω以下である。一方で表面固有抵抗値が1×10Ωに満たない場合には、静電気防止効果が飽和する上、多量の静電気防止材添加が必要となり、塗布面状の均一さが損なわれる傾向がある。好ましいA層表面の表面固有抵抗値(下限)は1×10Ω以上であり、さらに好ましくは1×10Ω以上である。
【0023】
上記塗布層の組成は、必要な表面固有抵抗値(1×10〜1×1012Ω)を満たす限り、特に限定されるものではないが、例えば以下のような組成とすることが可能である。
【0024】
(a)主鎖にピロリジウム環を有するポリマー、(b)ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタンおよび含塩素系ポリマーから選ばれる少なくとも1種のポリマー、並びに(c)メラミン系および/またはエポキシ系の架橋剤とを含有する塗布層。
【0025】
上記塗布剤成分の一つである、主鎖にピロリジウム環を有するポリマーとは、例えば下記式(I)あるいは(II)の構造を主成分とするポリマーである。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
上記式(I)および(II)中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル基、フェニル基等であり、これらのアルキル基、フェニル基が以下に示す基で置換されていてもよい。すなわち、置換可能な基は、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、カルボ低級アルコキシ基、低級アルコキシ基、チオフェノキシ基、シクロアルキル基、トリ−(低級アルキル)アンモニウム低級アルキル基等であり、ニトロ基はアルキル基上でのみ、またハロゲン基はフェニル基上でのみ置換可能である。また、RおよびRは化学的に結合していてもよく、例えば、−(CH−(mは2〜5の整数)、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH=CH−CH=CH−、−CH=CH−CH=N−、−CH=CH−N=CH−、−(CHO(CH−、−(CH−O(CH−等が挙げられる。上記式中のXは、Cl、Br、1/2SO2−、または1/3PO3−等の無機酸残基、CHSO、CSOのスルホン酸残基を示す。
【0029】
(I)のポリマーは、例えば、下記式(III )で表される化合物を、ラジカル重合触媒を用いて環化重合させることにより得られる。
【0030】
【化3】

【0031】
また、前記(II)式のポリマーは、上記(III )式の化合物を、二酸化イオウを溶媒とする系で環化重合させることにより得られる。重合は、溶媒として水あるいはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ホルムアミド、ジオキサン、アセトニトリル、二酸化イオウなどの極性溶媒中で過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、第3級ブチルパーオキサイド等の重合開始剤により、公知の方法で実施できるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
主鎖にピロリジウム環を有するポリマーは、上記(III )式の化合物と重合性のある炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を共重合成分としてもよい。
【0033】
本発明における主鎖にピロリジウム環を有するポリマーの分子量は、好ましくは500〜1000000、さらに好ましくは1000〜500000である。ポリマーの分子量が5000000未満の場合は、帯電防止効果はあるものの、塗膜の強度が弱かったり、ブロッキングしやすかったりする傾向がある。ポリマーの分子量が1000000より高い場合は、塗布液の粘度が高くなり、取扱い性や塗布性が悪化する傾向がある。
【0034】
本発明の塗布層成分として用いられるポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタンおよび含塩素系ポリマーとしては、通常塗布剤として用いられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、含塩素系ポリマーとしては、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体およびクロロプレン等が挙げられる。
【0035】
これらのポリマーは、そのモノマーの一成分としてノニオン、カチオンまたは両性系の親水成分を共重合することで親水性を付与し、水に分散させることができる。あるいはノニオン、カチオンまたは両性系の界面活性剤を用いて、いわゆる強制乳化させることにより水分散させたり、ノニオン、カチオンまたは両性系の界面活性剤を用いて乳化重合させ水分散体としたりすることもできる。
【0036】
また、これらのポリマーは共重合体でも使用でき、ランダム共重合体ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれでもよく、異種ポリマーの結合体でもよい。例えばポリウレタンまたはポリエステルの水溶液または水分散体存在下でアクリル系モノマーを乳化重合させて得られるポリウレタン−グラフト−ポリアクリレートまたはポリエステル−グラフト−ポリアクリレートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明で用いるメラミン系架橋剤としては、アルキロールまたはアルコキシアルキロール化したメラミン化合物であるメトキシメチル化メラミン、ブトキシメチル化メラミン等が例示され、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できる。
【0037】
また、エポキシ系架橋剤としては、水溶性あるいは水溶化率が50%以上のエポキシ基を持つ化合物であればよい。
【0038】
架橋剤を添加することにより、塗布層の固着性、耐水性、耐溶剤性および機械的強度が改良される。この結果、ベースフィルムとの接着性の改良に加え、驚くべきことに帯電防止性も改良される。特にメラミン系架橋剤は硬化速度が速く、プロトン酸あるいはそのアンモニウム塩等の硬化触媒を併用すると一層効果的である。
本発明の塗布層を得るための塗布液中に配合される主鎖にピロリジウム環を有するポリマーの配合量は、通常5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。かかる配合量が5重量%未満では、塗布層を形成した面の静電気防止性能が不十分となる傾向がある。一方でかかる配合量が40重量%を超えると、静電気防止性能が飽和する上、塗布層の面状が不均一となる傾向がある。
本発明のフィルムの塗布層を得るための塗布液中に配合されるポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタンおよび含塩素系ポリマーから選ばれた少なくとも1種のポリマーの総配合量は通常20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%である。かかる配合量が20重量%未満では、塗布層のベースフィルムへの密着性が不十分となる傾向がある。一方で配合量が60重量%を超えると、フィルムをロール状に巻いた時に塗布層がブロッキングを起こす傾向がある。
【0039】
塗布液中に配合されるメラミン系またはエポキシ系の架橋剤の総配合量は、通常10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%である。かかる配合量が10重量%未満では、静電気防止性能やブロッキング防止の効果が不十分となる傾向があり、一方で配合量が60重量%を超えると、塗布層とベースフィルムとの密着性が不十分となる傾向がある。
【0040】
本発明においては塗布層中にさらに潤滑剤を配合することにより、滑り性と適度な離型性を付与することができる。潤滑剤としてはポリオレフィン系ワックス、鉱物油、動植物油、ろう、エステル類および金属石けん等が挙げられるが、ポリオレフィン系ワックスを用いれば接着性を損なわないので、通常はこれを用いる。
【0041】
さらに本発明のフィルムの塗布層は、必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、無機粒子、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤および染料などを含有していてもよい。
【0042】
本発明の積層フィルムの層構成は、具体的には、A/BもしくはA/B/Aからなる。ただし、積層フィルムの一方の表面は必ずしも白色である必要はなく、構成材料の合理化の観点から、A/Bの2層からなることが好ましい。
【0043】
本発明において積層フィルムの総厚さは10〜19μmである。これは、フィルムの腰や加工適性の観点から、従来は厚さ6〜12μm程度の白色(単層)ポリエステルフィルムに黒色の塗布層を施したものが使用されており、本発明の積層フィルムをもってこれを代用する目的を考慮したためである。
【0044】
なお、B層の厚さ比は、積層フィルムの総厚さの30〜60%とすることが好ましい。
B層の厚さ比が積層フィルム総厚さの60%を超える場合、A層の厚さが比較的薄くなることにより、所定の光線反射率を得られなくなる傾向があり、A層表面の白色性も低下する(B層の色が影響)。一方、B層の厚さ比が積層フィルム総厚さの30%未満の場合、積層フィルムの隠蔽性が不足する傾向がある。さらに好ましいB層厚さの総厚さに対する比は、下限としては40%以上、上限としては50%以下である。
【0045】
本発明の積層フィルムのB層を形成するフィルム原料への遮光剤の添加方法は、フィルム製造工程の溶融押出機内で、ポリエステル系樹脂に遮光剤を粉体として直接添加してもよい。また、予めポリエステル系樹脂に遮光剤を混練したマスターペレットを作成することは、フィルム製造工程で押出機によりポリエステル系樹脂と共に再混練することにより、顔料の分散性をより向上させることができ、好ましい方法である。
【0046】
本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法としては、A層、B層それぞれ所定に配合されたポリマーを、別々の押出し機に供給した後、溶融状態で積層して同一のダイから押し出す、共押出し法を採用することが好ましい。得られた未延伸フィルムは、少なくとも一軸方向にロール延伸法、テンター法等に従って延伸を施せばよい。なお機械的強度や熱寸法安定性を適度に満足させるためには、二軸延伸方法および熱処理方法を併用することが好ましい。
【0047】
ここで二軸延伸を用いた場合の一例を詳細に説明するが、本発明の要旨を超えない限り、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0048】
まず、積層フィルムを構成する異なる原料を別々の押出機へ供給し、溶融混練後、Tダイ内で溶融ポリマーをスリット状に積層の上、押し出す。次に、ダイから押し出された溶融シートを、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面均一性、冷却効果を向上させるためには、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法が好ましく採用される。次いで、得られたシートを二軸方向に延伸してフィルム化する。まず、通常70〜150℃、好ましくは75〜130℃の延伸温度、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜5.0倍の延伸倍率の条件下、前記未延伸シートを一方向(縦方向)に延伸する。かかる延伸にはロールおよびテンター方式の延伸機を使用することができる。次いで、通常75〜150℃、好ましくは80〜140℃の延伸温度で、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜5.0倍の延伸倍率の条件下、一段目と直交する方向(横方向)に延伸を行い、二軸配向フィルムを得る。かかる延伸には、テンター方式の延伸機を使用することができる。
【0049】
上記の一方向の延伸を2段階以上で行う方法も採用することができるが、その場合も最終的な延伸倍率が上記した範囲に入ることが好ましい。また、前記未延伸シートを面積倍率が6〜30倍になるように同時二軸延伸することも可能である。次いで、テンター内熱処理を、通常180〜240℃、好ましくは200〜235℃で、1秒〜5分間行う。この熱処理工程では、熱処理の最高温度のゾーンおよび/または熱処理出口直前の冷却ゾーンにおいて、横方向および/または縦方向に0.1〜20%の弛緩を行うことが、熱寸法安定性付与の点で好ましい。
【0050】
なお、上記においては、縦延伸後のフィルムに塗布層を設ける。塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著 1979年発行に記載例がある。
【0051】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではないが、通常、塗布後の後工程において、70〜280℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
【0052】
また、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明の積層ポリエステルフィルムには、予めコロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、従来の白色フィルムでは得られなかった、隠蔽性と反射特性が高度に優れ、かつ静電気防止性能を併せ持った白色積層ポリエステルフィルムを提供することができる。さらに本発明のフィルムは僅かな光の漏洩も許容されないような光学用反射部材として好適に使用され、加工適性も高く、その工業的価値は非常に高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明における各種の物性およびその測定方法、定義は下記のとおりである。また、実施例および比較例中、「部」および「%」とあるのは、各「重量部」および「重量%」を意味する。
【0055】
(1)白色顔料の平均粒径(μm)
(株)島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置SA−CP3型を用いて、ストークスの抵抗則に基づく沈降法によって粒子の大きさを測定した。測定により得られた粒子の等価球形分布における積算(体積基準)50%の値を用いて平均粒径とした。
【0056】
(2)固有粘度(dl/g)
ポリエステル1gに対し、フェノール/テトラクロロエタン:50/50(重量比)の混合溶媒を100mlの比で加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0057】
(3)光学濃度
マクベス濃度計TD−904型を用いて、フィルムを単枚で測定した。(この値が大きいほど、高い隠蔽性を表す。)表示値が安定後、読み取りを行った。
【0058】
(4)分光反射率、色相(L*、a*、b*)
ミノルタ製分光測色計CM−3700dを用いて、反射法により、光線波長460nmの反射率測定を行った。(白色標準板使用)2°視野、C光源を用い、表色系はL*a*b*(CIE1976)とした。なお、積層フィルムについては、A層表面(白色面)を測定した。
【0059】
(5)層厚さ比(μm)
積層フィルムの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0060】
(6)A層の表面固有抵抗(Ω)
横河ヒューレット・パッカード社の同心円型電極「16008A(商品名)」(内側電極50mm、外側電極70mm径)に23℃、50%RHの雰囲気下、試料フィルムを設置し、100Vの電圧を印加し、同社の高抵抗計「4329A(商品名)」でフィルム表面(A層側)の表面抵抗を測定した。
【0061】
比較例1:
平均粒径0.3μmのアナターゼ型二酸化チタン粒子を22%含有する、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレートチップ(原料A)を調製した。次いで、平均粒径0.3μmのアナターゼ型二酸化チタン粒子を15%および平均粒径0.02μmのカーボンブラックを6%含有する、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレートチップ(原料B)を調製した。原料Aと原料Bとを各々別のベント付二軸押出機に投入して270℃で溶融、混練し、得られた溶融体をTダイ内で原料A/Bとなるように積層した後にスリット状に押出し、30℃の冷却ドラム上に静電印加法により密着、冷却させて無延伸シートを得た。次いで当該無延伸シートを縦方向に82℃で2.7倍延伸した後、さらに横方向に115℃で3.6倍延伸し、段階的に昇温後、220℃で5秒間熱処理した。次いで190℃の雰囲気下、幅方向に2%の弛緩処理(テンターレール幅を狭める)を行った。最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=10/8μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムのA層は表面固有抵抗が高いことから静電気を帯びやすく、環境下の異物を吸着しやすいフィルムであった。
【0062】
比較例2:
上記比較例1において、原料A中に蛍光増白剤を600ppm添加する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=10/8μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムのA層は優れた分光反射特性を示したが、表面固有抵抗が高いことから静電気を帯びやすく、環境下の異物を吸着しやすいフィルムであった。
【0063】
実施例1:
比較例1と同様にして、無延伸シートを得た。次いで当該無延伸シートを縦方向に82℃で2.7倍延伸した後、下記に示す塗布剤組成の塗布液(5重量%水分散体)を塗布厚さ4.5μm(wet)となるように、積層フィルムのA層側に塗布した。さらに横方向に115℃で3.6倍延伸した後は比較例1と同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=10/8μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムのA層は表面固有抵抗が好適な範囲内にあり、静電気を帯びにくく、環境下の異物の吸着問題を解消したフィルムであった。
【0064】
塗布剤組成(重量%):X/Y/Z=20/40/40
X:ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド(分子量=30000)
Y:メチルメタクリレート/エチルアクリレート/メチロールアクリルアミド共重合体のノニオン水分散体(モノマー比率:47.5/47.5/5モル%)
Z:メトキシメチルメラミン水溶液
【0065】
実施例2:
実施例1において、A層/B層の厚さを12/6μmに変更する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=12/6μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムのA層は表面固有抵抗が好適な範囲内にあり、静電気を帯びにくく、環境下の異物の吸着問題を解消したフィルムであった。
【0066】
実施例3:
実施例1において、A層/B層の厚さを8/10μmに変更する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=8/10μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムのA層は表面固有抵抗が好適な範囲内にあり、静電気を帯びにくく、環境下の異物の吸着問題を解消したフィルムであった。
【0067】
実施例4:
実施例1において、原料A中に蛍光増白剤を600ppm添加する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=10/8μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムのA層は優れた分光反射特性を示すと共に、表面固有抵抗が好適な範囲内にあり、静電気を帯びにくく、環境下の異物の吸着問題を解消したフィルムであった。
【0068】
比較例3:
実施例1において、原料Aのみを使用して(原料Bを使用しないで)、その他の製法は塗布工程の実施も含めて実施例1と同様に行い、最終的にフィルム厚さ18μm(単層)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムは隠蔽性に劣るフィルムであった。
【0069】
比較例4:
実施例1において、原料B(比較例1に記載)の代わりに、平均粒径0.02μmのカーボンブラックを6%含有する(二酸化チタンは含有しない)、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレートチップ(原料B′)を使用する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=10/8μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムは隠蔽性に劣るフィルムであった。
【0070】
比較例5:
比較例4において、原料B′のカーボンブラック含有量を12%とする以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=10/8μm)の二軸配向フィルムを得た。物性確認用のフィルムを採取することはできたが、冷却ドラム上に静電印加により密着させる工程でスパークが断続的に発生し、製膜連続性を確保することができず、塗布工程の実施も出来なかった。
【0071】
比較例6:
実施例1において、A層/B層の厚さを14/4μmに変更する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=14/4μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムは、隠蔽性に劣るフィルムであった。
【0072】
比較例7:
実施例1において、A層/B層の厚さを6/12μmに変更する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ18μm(A/B厚さ=6/12μm)の二軸配向フィルムを得た。当該フィルムは、分光反射特性が劣るフィルムであった。
【0073】
以上、得られたフィルムの特性をまとめて下記表1に示す。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のフィルムは、例えば、光学用反射部材として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光剤を含有するポリエステル系樹脂層(B層)の少なくとも片面に、平均粒径0.1〜1.0μmの白色顔料を3〜30重量%含有するポリエステル系樹脂層(A層)を有する積層ポリエステルフィルムであって、フィルムの総厚さが10〜19μmであり、光学濃度が4.0〜8.0であり、波長460nmの光線に対するA層表面の分光反射率が70〜105%であり、少なくとも一方のA層表面に塗布層を有し、当該塗布層の表面固有抵抗値が1×10〜1×1012Ωであることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2009−208335(P2009−208335A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53354(P2008−53354)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】