説明

積層体および積層体の製造方法

【課題】ガラスを含む酸化物表面から成る基材だけではなく樹脂材料から成る基材表面に、機能性ケイ素化合物から成る被膜を形成し、基材と被膜との間の密着性および耐久性を良好に結合させ維持することが可能となる中間層を備えた積層体および積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材に、エポキシ化合物、多官能シラン化合物、ジシラン化合物を含有する中間層を形成する。これにより、基材と機能性ケイ素化合物被膜との双方に密着性および耐久性が良好な中間層を形成することができ、機能性ケイ素化合物被膜が基材に密着性良好に結合され耐久性を維持することが可能な積層体を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料から成る基材に密着性および耐久性の良好な中間層を有し、防汚性、防曇性、帯電防止性などの機能を備えた機能性ケイ素含有化合物被膜を形成した積層体および積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器などの表示部および筐体の基材表面、またはレンズなどの光学部品の基材表面には、使用するにあたって、手垢、指紋、汗、化粧品などの付着による汚れが目立ちやすく、その汚れが取れ難いという問題がある。そのため、含フッ素ケイ素含有化合物を含んだ表面処理剤を基材表面に成膜することにより、基材表面に汚れ防止機能を付与している。鏡またはガラスなどに親水性を付与し、汚れを浮かせて落とす方法が採用されている。
たとえば、基材表面に機能性官能基を有するシリカ質被膜として、親水性官能基またはその前駆体を有するケイ素含有化合物のアルコキシシランを形成することにより、基材表面に親水性を付与している。その結果、基材表面に防曇性や汚れ防止機能が付与される方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
また、撥水性を有したフッ素基を含む化学吸着膜が、基材表面と共有結合して形成されているので、防汚性を付与する方法が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−239607号公報(4〜14頁)
【特許文献2】特開平5−70761号公報(4〜14頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基材が二酸化ケイ素を主成分としたガラスを含む酸化物表面である場合と比べて、基材が樹脂材料である場合は、樹脂材料に機能性官能基を有するケイ素含有化合物とは、反応しにくく、結合強度および反応密度が共に低い。そのため、樹脂材料から成る基材に機能を付与することが困難で、密着性および耐久性を良好に維持することは難しいという問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、ガラスを含む酸化物表面から成る基材だけではなく樹脂材料から成る基材表面に、機能性ケイ素化合物から成る被膜を形成し、基材と被膜との間の密着性および耐久性を良好に結合させ維持することが可能となる中間層を備えた積層体および積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の積層体では、基材と、前記基材表面に形成された中間層と、前記中間層表面に形成された機能性ケイ素化合物被膜とを備えた積層体であって、前記中間層は少なくとも多官能シラン化合物およびジシラン化合物およびエポキシ化合物を含有していることを要旨とする。
【0007】
これによれば、基材に、エポキシ化合物、多官能シラン化合物、ジシラン化合物を含有する中間層を形成する。これにより、基材と機能性ケイ素化合物被膜との双方に密着性および耐久性が良好な中間層を形成することができ、機能性ケイ素化合物被膜が基材に密着性良好に結合され耐久性を維持することが可能な積層体を提供することができる。
【0008】
本発明の積層体では、前記基材は樹脂材料であることが好ましい。
【0009】
これによれば、樹脂材料から成る基材に、エポキシ化合物、多官能シラン化合物、ジシラン化合物を含有する中間層を形成する。これにより、機能性官能基を有するケイ素含有化合物とは、反応しにくく、結合強度および反応密度が低い、樹脂材料から成る基材であっても、中間層を介して基材と機能性ケイ素化合物被膜との密着性および耐久性を維持することができる。つまり、樹脂材料から成る基材に撥水性、撥油性または親水性などの特性が付与された機能性ケイ素化合物から成る被膜を良好に形成し、防汚性、防曇性、離型性、帯電防止またはセルフクリーニング機能などの機能を備える積層体を得ることが可能となる。
【0010】
本発明の積層体では、前記中間層は、金属酸化物ゾルを含有していることが好ましい。
【0011】
これによれば、金属酸化物ゾルを含有した中間層を形成する。これにより、中間層の屈折率を、基材の屈折率に近い値に調整することができ、中間層と基材との屈折率の違いによる干渉縞の発生を抑制することが可能な積層体を提供することができる。
【0012】
本発明の積層体の製造方法では、基材表面に中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層表面に機能性ケイ素化合物被膜を形成する機能性被膜形成工程とを備えることを要旨とする。
【0013】
これによれば、樹脂材料から成る基材に、中間層を介して撥水性、撥油性または親水性などの特性が付与された機能性ケイ素含有化合物被膜を形成する。これにより、基材に防汚性、防曇性、離型性、帯電防止またはセルフクリーニング機能などの機能を備えることが可能となる積層体の製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の積層体の製造方法では、前記中間層形成工程および前記機能性被膜形成工程は、ウェットプロセスであることが好ましい。
【0015】
これによれば、樹脂材料から成る基材表面に、中間層と機能性ケイ素化合物から成る被膜とを、ウェットプロセスにより形成する。これにより、中間層および機能性ケイ素化合物から成る被膜を、基材を構成する面のいずれの面であっても形成することができ、基材表面全てに形成することも可能となる。また、基材が窪んだ形状をしている場合であっても、中間層と機能性ケイ素化合物から成る被膜とを順番に、基材に形成することが可能となる積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による撥水性を備えた積層体および積層体の製造方法の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
(実施形態)
【0017】
本実施形態の積層体は、基材と機能性ケイ素化合物から成る被膜と中間層とを備え、中間層は基材と撥水性を備えた機能性ケイ素化合物から成る被膜との間に形成されている。
【0018】
基材は、たとえばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリシクロオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸、 アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、
変性ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの樹脂材料である。
【0019】
機能性ケイ素化合物から成る被膜は、撥水性、撥油性または親水性などの特性が付与され、防汚性、防曇性、離型性、帯電防止またはセルフクリーニング機能などの機能を備えている。
【0020】
中間層は、多官能シラン化合物、ジシラン化合物、エポキシ化合物、および金属酸化物ゾルを含有した塗液により形成されている。
【0021】
多官能シラン化合物は、化1の一般式で示される。化1に示す一般式において、X3は加水分解可能な官能基であり、nは0または1である。そして、R3は重合可能な反応基を有する有機官能基であり、R4は炭素数1〜6の炭化水素基である。
【0022】
【化1】

【0023】
多官能シラン化合物は、中間層の骨格を形作る役割と、樹脂材料である基材と反応し中間層を基材に密着結合する役割と、機能性ケイ素化合物と反応し中間層の表面に機能性ケイ素化合物を配置する役割とを備えている。
【0024】
多官能シラン化合物としてシランカップリング剤は、化1に示すX3が、メトキシ基,エトキシ基,メトキシエトキシ基などのアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基などのハロゲン基、アシルオキシ基などであり、加水分解することによりシラノール基になる。中間層を構成するシラノール基どうしが、水素結合や脱水縮合などの反応を起こし、安定なシロキサン結合を形成する。中間層はシロキサン結合を主たる骨格として備え、機能性ケイ素含有化合物に含まれるケイ素部分と同種の元素であるケイ素を含み、反応しやすく、結合を作りやすい。多官能シラン化合物は1個から4個のシロキサン前駆体を有し、0個から3個の有機官能基を有する化合物であり、これを1種以上含んでいて良い。また、シランカップリング剤は、エポキシ化合物およびジシラン化合物にも反応し、シロキサン結合どうしを架け渡す架橋作用により結合して、中間層の骨格を形作る。
シロキサン前駆体は、中間層の骨格を形作るだけでなく、組成物内の各成分との反応にも寄与する。組成物内各成分に含まれる有機官能基は、反応可能な官能基として、たとえばエポキシ基、金属酸化物ゾルのヒドロキシ基、エポキシ基、その他の有機官能基、ジシラン化合物のシロキサン前駆体などと反応をする。これにより、中間層の骨格を形作る。
【0025】
そして、化1に示すR3は、ビニル基,アリル基,アクリル基,メタクリル基,エポキシ基,メルカプト基,シアノ基,イソシアノ基,アミノ基などの重合可能な反応基を有する官能基であり、多官能シラン化合物は基材と反応し密着結合する。
【0026】
多官能シラン化合物の具体例として、3−グリシジシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシランなどがある。
【0027】
さらに、基材に形成する中間層の表面にシロキサン前駆体、有機官能基が露出しても、機能性ケイ素化合物と反応し被膜を形成する働きをする。
【0028】
ジシラン化合物は、化2の一般式で示される。
【0029】
【化2】

【0030】
化2に示す一般式において、R1,R2は炭素数1〜6の炭化水素基である。その具体例としては、メチル基,エチル基,ブチル基,ビニル基,フェニル基などが挙げられる。そして、X1、X2は、加水分解可能な官能基であり、具体例としては、メトキシ基,エトキシ基,メトキシエトキシ基などのアルコキシ基、クロロ基,ブロモ基などのハロゲン基、アシルオキシ基などが挙げられる。
【0031】
Yは、カーボネート基またはエポキシ基を含有する有機官能基であり、mは0または1である。具体例としては、化3、化4、化5、化6、化7、化8、化9、化10、化11、化12、化13などが挙げられる。
カーボネート基またはエポキシ基などの有機官能基は樹脂基材と似た組成のものを用いることで相溶性を良くし、密着性を確保することが可能である。また、カーボネート基、エポキシ基などの有機官能基はエポキシ化合物との相溶性も良い。また、両末端にシラノール基があるため、多官能シラン化合物、金属酸化物ゾルとも相溶性が良い。このため、硬化した際にも良好に混じり合い、ミクロドメインなどによる白濁などの不具合を生じ難くする。また、ジシラン化合物は、両末端にシラノールが存在することにより架橋作用も有するため、多官能シラン化合物のみでシロキサン結合を形成する場合と比べて、耐水性の向上にも寄与する。さらに、ジシランに含まれるシロキサン前駆体は機能性ケイ素化合物との密着性を確保することにも寄与する。
【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】


これらのジシラン化合物は、従来公知の種種の方法により合成することができる。
【0043】
エポキシ化合物は、接着剤、塗料、注型用などに実用されているもので、たとえば過酸化法で合成されるポリオレフィン系エポキシ樹脂、シクロペンタジエンオキシドやシクロヘキセンオキシドあるいはヘキサヒドロフタル酸とエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエステルなどの脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールAやカテコール、レゾシノールなどの多価フェノールあるいは(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ソルビトールなどの多価アルコールとエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエーテル、エポキシ化植物油、ノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンから得られるエポキシノボラック、フェノールフタレインとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、グリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートアクリル系モノマーあるいはスチレンなどの共重合体、さらには上記エポキシ化合物とモノカルボン酸含有(メタ)アクリル酸とのグリシジル基開環反応により得られるエポキシアクリレートなどが挙げられる。
【0044】
エポキシ化合物の具体例としては、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールヒドロキシヒバリン酸エステルのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテルなどの脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテルなどの芳香族エポキシ化合物などが挙げられる。
【0045】
金属酸化物ゾルは、中間層に硬さと耐水性を持たせる特性を有している。また、金属酸化物ゾルにより、基材の屈折率を調整できる特性も有している。
金属酸化物ゾルは、粒径1〜100μmのAl、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiから選ばれる1種以上の金属酸化物より少なくともなる微粒子、および/またはSi、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiから選ばれる複数種の金属酸化物より少なくともなる複合微粒子を含有している。具体例としては、SiO2、Al23、SnO2、Sb25、Ta25、CeO2、La23、Fe23、ZnO、WO3、ZrO2、In23、TiO2の無機酸化物微粒子が、分散媒たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒の中にコロイド状に分散しているものである。または、これら無機酸化物の2種以上によって構成される複合微粒子が水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散したものである。さらにコーティング液中での分散安定性を高めるためにこれらの微粒子表面を有機ケイ素化合物またはアミン系化合物で処理したものを使用することも可能である。この際用いられる有機ケイ素化合物としては、単官能性シラン、あるいは二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シランなどがある。処理に際しては加水分解性基を未処理で行ってもあるいは加水分解して行ってもよい。また処理後は、加水分解性基が微粒子の−OH基と反応した状態が好ましいが、一部残存した状態でも安定性には何ら問題がない。またアミン系化合物としてはアンモニウムまたはエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミンなどのアルキルアミン、ベンジルアミンなどのアラルキルアミン、ピペリジンなどの脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンがある。
【0046】
多官能シラン化合物は、中間層の組成比は、体積モル濃度で0.1%以上98.9%以下であり、40%以上95%以下であることが望ましい。40%以上であれば中間層は有機系、無機系のいずれの性能も示し、90%以下であれば基材と中間層との密着性が確保される。
ジシラン化合物は、中間層の組成比は、体積モル濃度で0.1%以上50%以下であり、0.1%以上20%以下であることが望ましい。0.1%以上であれば耐水性を向上させ、50%以下であれば中間層にクラックを生じさせる要因を抑制することができる。
エポキシ化合物は、中間層の組成比は、体積モル濃度で1%以上〜50%以下であり、5%以上20%以下であることが望ましい。5%以上であれば骨格を形作る役割、および基材と中間層との密着性を確保することができ、20%以下であれば機能性ケイ素化合物と反応するだけの、エポキシ官能基の量を確保できる。
金属酸化物ゾルは、中間層の組成比は、体積モル濃度で0%を超え70%以下であり、0%を超え50%以下であることが望ましい。少なくとも金属酸化物ゾルを含有していれば、中間層の屈折率を調整することが可能であり、50%以下であれば、中間層を構成する他の成分の反応を阻害することを抑制できる。
なお、中間層を形成する、多官能シラン化合物、ジシラン化合物、エポキシ化合物、および金属酸化物ゾルの組成比の合計が、100%になるように適宜決定することができる。
【0047】
また、中間層を形成する塗液は、溶媒を含み、レベリング性、濡れ性の向上、膜厚を確保のために、界面活性剤を含んでいてもよい。また、反応の促進のために、触媒を含んでも良く、その他、紫外線吸収剤などの添加物を適宜含むことが可能である。
(実施例1)
【0048】
実施例1の積層体において、中間層を形成する塗液は、多官能シラン化合物、ジシラン化合物、エポキシ化合物、金属酸化物ゾルを含有している。
多官能シラン化合物として、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(以下、「GTS」と記す)およびテトラメトキシシラン(以下、「TMS」と記す)を用いる。
ジシラン化合物として、化13に示した構造式のジシラン化合物を用いる。エポキシ化合物として、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX−313」、以下、「デナコールEX−313」と記す)を用いる。金属酸化物ゾルとして、メタノール分散コロイド状シリカ(触媒化成工業株式会社製、商品名「オスカル1132」、固形濃度30重量%、以下、「オスカル1132」と記す)を用いる。そして、機能性ケイ素化合物は、撥水性を有している。
【0049】
中間層を形成する塗液の調合手順について説明する。なお、塗液に含有される多官能シラン化合物、ジシラン化合物、エポキシ化合物、金属酸化物ゾルの分量については、前述の組成比の範囲であることとする。
【0050】
まず、多官能シラン化合物として、GTSを89.8gと、TMSを77.12gと、ジシラン化合物として化13を31.2gと、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、「PGME」と記す)423.1gとを混合する。そして、この混合液を攪拌しながら、加水分解を促進させるために、この混合液に酸性溶液またはアルカリ性溶液を滴下する。本実施例では、多官能シラン化合物の加水分解触媒として0.1N塩酸75.14gを滴下する。そして、4時間攪拌した後に一昼夜熟成させる。
その後、エポキシ化合物として、デナコールEX−313を67.27gと、金属酸化物ゾルとして、オスカル1132を228.3gと、触媒として過塩素酸マグネシウム(Mg(Cl42)3.67gと、界面活性剤としてシリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「L−7001」、以下、「L−7001」と記す)とを混合する。その後さらに、この混合液を4時間攪拌した後に一昼夜熟成させて塗液とする。このとき、塗液中に固形分として含まれる多官能シラン化合物、ジシラン化合物、エポキシ化合物、および金属酸化物ゾルの体積モル濃度は25%である。
【0051】
なお、本実施例の中間層を形成する塗液は、上述の成分の他に、必要に応じて溶剤に希釈することができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類などの溶剤が用いられる。
また、必要に応じて少量の帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料・油溶染料・蛍光染料・顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン・ヒンダードフェノール系などの耐光耐熱安定剤などを添加しコーティング液の塗布性および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0052】
次に、基材表面に中間層を形成する中間層形成工程、つまり塗液の基材表面への形成方法および塗液の硬化処理方法について説明する。
【0053】
前述の調合手順により得られた塗液の中に、ウェットプロセスであるディッピング法にて基材を浸漬し、基材表面に塗液を塗布するようにして中間層を形成する。引き上げ速度は、230mm/minとする。その後、80℃で20分間の風干しをした後に、110℃で180分間の焼成を行う。このようにして、基材表面に中間層を形成する。
【0054】
なお、塗液の基材表面への形成方法をウェットプロセスであるディッピング法としたが、スピンコート法、スプレー法、フロー法、ドクターブレード法などを採用することもできる。また、塗液の硬化処理方法を、風干しをした後に焼成するとしたが、風干しまたは焼成のいずれかにより硬化処理してもよい。また、光処理を用いて硬化処理してもよく、焼成などの熱処理および光処理を併せて用い硬化処理してもよい。また、熱処理の条件については、基材のガラス転移温度より低い温度で処理するのが望ましく、用いる樹脂基材によって、コーティング液に添加する触媒などを変更することで適宜変更可能である。
【0055】
次に、基材に形成された中間層に、機能性ケイ素化合物を形成する機能性被膜形成工程について説明する。
【0056】
まず、機能性ケイ素化合物を含んだ溶液の中に、ウェットプロセスであるディッピング法にて中間層が形成された基材を浸漬し、中間層表面に機能性ケイ素化合物を含んだ溶液を塗布するようにして被膜を形成する。引き上げ速度は、230mm/minとする。その後、80℃で20分間の風干しをした後に、110℃で180分間の焼成を行う。このようにして、中間層表面に機能性ケイ素化合物から成る被膜を形成する。
(実施例2)
【0057】
ここで、実施例2の積層体において、中間層は、前記実施例1における多官能シラン化合物としてのGTSおよびTMSを、GTSだけとしたことに特徴を有している。
【0058】
実施例2の中間層を形成する塗液の調合手順について説明する。なお、実施例2の機能性ケイ素化合物から成る被膜、および中間層に含有されるエポキシ化合物、金属酸化物ゾル、ジシラン化合物は、実施例1と同様の構成とし説明を省略する。
まず、多官能シラン化合物としてGTSを89.8gと、ジシラン化合物として化13を31.2gと、溶媒としてPGMEを442.62g、混合する。そして、この混合液を攪拌しながら、加水分解を促進させるために、この混合液に酸性溶液またはアルカリ性溶液を滴下する。そして、4時間攪拌した後に一昼夜熟成させる。
その後、エポキシ化合物として、デナコールEX−313を67.27gと、金属酸化物ゾルとして、オスカル1132を329.77gと、触媒として過塩素酸マグネシウム(Mg(Cl42)4.16gと、界面活性剤としてL−7001とを混合する。その後さらに、この混合液を4時間攪拌した後に一昼夜熟成させて塗液とする。このとき、塗液中に固形分として含まれる多官能シラン化合物、ジシラン化合物、エポキシ化合物、および金属酸化物ゾルの体積モル濃度は25%である。
【0059】
なお、基材表面に中間層を形成する中間層形成工程、および基材に形成された中間層に機能性ケイ素化合物を形成する機能性被膜形成工程については、実施例1と同様の工程とし説明を省略する。
(実施例3)
【0060】
ここで、実施例3の積層体において、中間層は、前記実施例2におけるエポキシ化合物としてデナコールEX−313を、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX−421」、以下、「デナコールEX−421」と記す)としたことに特徴を有している。そして、前記実施例2における溶媒としてPGMEの代わりに、ブチルセロソルブ(以下、「BuCe」と記す)を用いている。
【0061】
実施例3の中間層を形成する塗液の調合手順について説明する。なお、実施例3の機能性ケイ素化合物から成る被膜、および中間層に含有される多官能シラン化合物、金属酸化物ゾル、ジシラン化合物は、実施例2と同様の構成とし説明を省略する。
まず、多官能シラン化合物としてGTSを111.29gと、ジシラン化合物として化13を48.33gと、溶媒としてBuCeを436.34gとを混合する。そして、この混合液を攪拌しながら、加水分解を促進させるために、この混合液に酸性溶液またはアルカリ性溶液を滴下する。本実施例では、多官能シラン化合物の加水分解触媒として0.1N塩酸40.78gを滴下する。そして、4時間攪拌した後に一昼夜熟成させる。
その後、エポキシ化合物として、デナコールEX−421を48.1gと、金属酸化物ゾルとして、オスカル1132を306.51gと、触媒として過塩素酸マグネシウム(Mg(Cl42)3.67gと、界面活性剤としてL−7001とを混合する。その後さらに、この混合液を4時間攪拌した後に一昼夜熟成させて塗液とする。このとき、塗液中に固形分として含まれる多官能シラン化合物、ジシラン化合物、エポキシ化合物、および金属酸化物ゾルの体積モル濃度は25%である。
【0062】
なお、基材表面に中間層を形成する中間層形成工程、および基材に形成された中間層に機能性ケイ素化合物を形成する機能性被膜形成工程については、実施例1と同様の工程とし説明を省略する。
(比較例1)
【0063】
ここで、実施例1、2、3の積層体における中間層を基材に形成せず、直接基材に撥水性を備えた機能性ケイ素化合物から成る被膜を形成したことに特徴を有している。基材に機能性ケイ素化合物を形成する機能性被膜形成工程については、実施例1の機能性被膜形成工程と同様の工程とし説明を省略する。
【0064】
ここで、上述の実施例1、2、3および比較例1の積層体について、木綿布による拭き耐久試験を行った。
木綿布による拭き耐久試験方法は、木綿布を用いて、積層体の表面を100gの荷重をかけながら5000回往復させる。これにより、拭き耐久試験前後の積層体表面の撥水性を、接触角と油性インクの弾き性とによって評価した。
(1)接触角測定評価方法。
接触角の測定には、接触角計(「CA−D」協和科学株式会社製)を使用し、液滴法による接触角を測定する。接触角は、180°を上限とし、大きいほど撥水性が良く、小さいほど撥水性が良くないことを示している。
(2)油性インクの弾き性評価方法。
積層体の表面に、黒色油性マーカー(「ハイマッキーケア」ゼブラ株式会社製)により約40mmの直線を引き、インクの弾き状態を下記の基準にて判定した。
○:インクが一本の線状または点状になる。
△:インクが部分的に弾く。
×:はっきりと線が引ける。
【0065】
その結果を、表1に示す。中間層を形成せず直接基材に撥水性を備えた機能性ケイ素化合物から成る被膜を形成した比較例1に対して、中間層を形成した実施例1、2、3は、接触角が大きく、また、油性インクの弾き性が優れていることが確認できる。
【0066】
【表1】


(実施例4)
【0067】
ここで、実施例4の積層体において、前記実施例1における撥水性を有した機能性ケイ素化合物を、親水性を有した機能性ケイ素化合物とし、積層体に防曇性を備えたことに特徴を有している。なお、中間層は、前記実施例1と同様の構成とし説明を省略する。また、基材表面に中間層を形成する中間層形成工程、および基材に形成された中間層に機能性ケイ素化合物を形成する機能性被膜形成工程については、実施例1と同様の工程とし説明を省略する。
(比較例2)
【0068】
ここで、実施例4の積層体における中間層を基材に形成せず、直接基材に親水性を備えた機能性ケイ素化合物から成る被膜を形成したことに特徴を有している。基材に機能性ケイ素化合物を形成する機能性被膜形成工程については、実施例1の機能性被膜形成工程と同様の工程とし説明を省略する。
【0069】
次に、上述の実施例4および比較例2の積層体について、以下に示す評価方法で評価を行った。評価項目は、初期防曇性、防曇耐久性、および脂質除去性として評価した。
以下、各評価項目についての評価方法を説明する。
【0070】
(3)初期防曇性評価方法。
20℃に保管した積層体を、温度40℃、湿度90%に保った環境中に移し、積層体表面の曇り発生を目視観察した。この曇り方を、つぎの3段階に分けて評価した。
○:ぜんぜん曇らない。
△:2分後に曇りが消えるが、実用上問題あり。
×:2分たっても曇りが消えない。
(4)防曇耐久性評価方法。
積層体表面を布(木綿)で500gの荷重をかけ1000回摩擦したあと、純水でよく洗浄、乾燥する。その後、この積層体を20℃に保管し、温度40℃、湿度90%に保った環境中に移し、積層体表面の曇り発生を目視観察する。この曇り方を、つぎの3段階に分けて評価する。
○:ぜんぜん曇らない。
△:2分後に曇りが消える、実用上問題あり。
×:2分たっても曇りが消えない。
(5)脂質除去性評価方法。
25℃付近の室温で、綿棒に付けたラードを、積層体表面に約2cm2塗りつけたものを準備する。その後、この積層体を水道水で10秒間洗い流す。水道水の流量は、たとえば、水道水の直径が5mm程度とした状態とする。その後、脂質が除去された面積を塗布した面積で除した比率をつぎの3段階に分けて評価する。
○:塗布した面積に対し、脂質の除去面積が90%以上である。
△:塗布した面積に対し、脂質の除去面積が50%以上、90%未満である。
×:塗布した面積に対し、脂質の除去面積が50%未満である。
(5)脂質除去耐久性評価方法。
積層体表面を布(木綿)で500gの荷重をかけ1000回摩擦したあと、純水でよく洗浄、乾燥する。その後、この積層体を水道水で10秒間洗い流す。たとえば、水道水の流量は、水道水の直径が5mm程度とした状態とする。その後、上述の脂質除去性評価方法と同様に、3段階に分けて評価する。
【0071】
その結果を、表2に示す。中間層を形成せず直接基材に防曇性を備えた機能性ケイ素化合物から成る被膜を形成した比較例2に対して、中間層を形成した実施例4は、初期防曇性、防曇耐久性、初期脂質除去性、および脂質除去耐久性が優れていることを確認できる。
【0072】
【表2】

【0073】
以下、実施形態の効果を記載する。
(1)基材に、エポキシ化合物、多官能シラン化合物、ジシラン化合物を含有する中間層を形成する。これにより、基材と機能性ケイ素化合物被膜との双方に密着性および耐久性が良好な中間層を形成することができ、機能性ケイ素化合物被膜が基材に密着性良好に結合され耐久性を維持することが可能な積層体を提供することができる。
(2)樹脂材料から成る基材に、エポキシ化合物、多官能シラン化合物、ジシラン化合物を含有する中間層を形成する。これにより、機能性官能基を有するケイ素含有化合物とは、反応しにくく、結合強度および反応密度が低い、樹脂材料から成る基材であっても、中間層を介して基材と機能性ケイ素化合物被膜との密着性および耐久性を維持することができる。つまり、樹脂材料から成る基材に撥水性、撥油性または親水性などの特性が付与された機能性ケイ素化合物から成る被膜を良好に形成し、防汚性、防曇性、離型性、帯電防止またはセルフクリーニング機能などの機能を備える積層体を得ることが可能な積層体を提供することができる。
(3)金属酸化物ゾルを含有した中間層を形成する。これにより、中間層の屈折率を、基材の屈折率に近い値に調整することができ、中間層と基材との屈折率の違いによる干渉縞の発生を抑制することが可能な積層体を提供することができる。
(4)樹脂材料から成る基材に、中間層を介して撥水性、撥油性または親水性などの特性が付与された機能性ケイ素含有化合物被膜を形成する。これにより、基材に防汚性、防曇性、離型性、帯電防止またはセルフクリーニング機能などの機能を備えることが可能となる積層体の製造方法を提供することができる。
(5)樹脂材料から成る基材表面に、中間層と機能性ケイ素化合物から成る被膜とを、ウェットプロセスにより形成する。これにより、中間層および機能性ケイ素化合物から成る被膜を、基材を構成する面のいずれの面であっても形成することができ、基材表面全てに形成することも可能となる。また、基材が窪んだ形状をしている場合であっても、中間層と機能性ケイ素化合物から成る被膜とを順番に、基材に形成することが可能となる積層体の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材表面に形成された中間層と、
前記中間層表面に形成された機能性ケイ素化合物被膜とを備えた積層体であって、
前記中間層は少なくとも多官能シラン化合物およびジシラン化合物およびエポキシ化合物を含有していることを特徴とする積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層体において、
前記基材は樹脂材料であることを特徴とする積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体において、
前記中間層は、金属酸化物ゾルを含有していることを特徴とする積層体。
【請求項4】
基材表面に中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層表面に機能性ケイ素化合物被膜を形成する機能性被膜形成工程とを備えることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の積層体の製造方法において、
前記中間層形成工程および前記機能性被膜形成工程は、ウェットプロセスであることを特徴とする積層体の製造方法。

【公開番号】特開2008−87189(P2008−87189A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267526(P2006−267526)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】