説明

積層体および電子レンジ加熱用包装体

【課題】電子レンジ内において使用する際に、高い耐溶断性を保持することができる積層体、および、この積層体を用いた電子レンジ加熱用包装体を提供する。
【解決手段】本発明の積層体Aは、基材層1と、この基材層1の片面に設けられヒートシール可能なシーラント層2とを備えた積層体であって、基材層1は、融点が200℃以上であり、かつ、周波数1kHzにおける誘電率εと誘電正接tanδとの積Mが0.05F/m以下のプラスチック材料で形成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジを用いて被加熱物を加熱する際に使用する積層体およびこの積層体を用いて形成した電子レンジ加熱用包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジによる食品の加熱調理は、電子レンジが広く普及したこと、調理時間が短時間で済み調理が簡便であること等の観点から、広く行われるようになり、市販される調理済み食品においても、同様に消費者の利便性を考慮し、包装されたままで電子レンジによる加熱調理が可能な食品が非常に増え、これに用いる包装体も電子レンジ加熱に適するように耐熱設計等が成されている(例えば、特許文献1の段落番号[0029]参照)。
【特許文献1】特開平9−150864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、食品の成分や性状によっては加熱時に非常に高温となり、包装体を構成する積層体が部分的に溶断して穿孔や裂けが発生し、この溶断した部位から高温の被加熱物が漏出してしまうという危険性があった。
【0004】
本発明は、上述したような電子レンジで加熱する際に用いる積層体の溶断を防止するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、基材層と、この基材層の片面に設けられヒートシール可能なシーラント層とを備えた積層体であって、前記基材層は、融点が200℃以上であり、かつ、周波数1kHzにおける誘電率と誘電正接との積が0.05F/m以下のプラスチック材料で形成されている積層体である。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の積層体において、シーラント層は、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)またはポリプロピレンを主成分として形成されているものである。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の積層体により、該積層体のシーラント層側を互いに当接させて所定幅のヒートシールにより接合して袋体を形成した後、この袋体の内部に被加熱物を充填し、前記袋体の開口部をヒートシールして密封包装した電子レンジ加熱用包装体である。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の電子レンジ加熱用包装体において、基材層の厚さが10μm以上であるものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の積層体によれば、基材層は、融点が200℃以上であり、かつ、周波数1kHzにおける誘電率と誘電正接との積が0.05F/m以下のプラスチック材料で形成されているため、この積層体を電子レンジ内において使用する際に、基材層自身が電子レンジからのマイクロ波のエネルギーを吸収して加熱されるのを抑制することができ、基材層が溶断して積層体に穿孔や裂けが発生するのを防止することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の積層体の効果に加え、シーラント層は、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)またはポリプロピレンを主成分として形成されているため、基材層にヒートシール可能な良好な接着性を付与することができる。
【0011】
請求項3に記載の電子レンジ加熱用包装体によれば、請求項1または2に記載の積層体により、該積層体のシーラント層側を互いに当接させて所定幅のヒートシールにより接合して袋体を形成した後、この袋体の内部に被加熱物を充填し、前記袋体の開口部をヒートシールして密封包装したため、この電子レンジ加熱用包装体を電子レンジ内において使用する際に、積層体の基材層自身が電子レンジからのマイクロ波のエネルギーを吸収して加熱されるのを抑制することができ、基材層が溶断して包装体から被加熱物が漏出するのを防止することができる。
【0012】
請求項4記載の電子レンジ加熱用包装体によれば、請求項3に記載の電子レンジ加熱用包装体の効果に加え、基材層の厚さが10μm以上であるため、電子レンジでの被加熱物の加熱による内圧の上昇や、振動または落下などの衝撃により包装体が破断して該包装体から被加熱物が漏出するのをより一層防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の積層体の一実施例を、図1、2に基づき説明する。図1、2においてAは本発明に係る積層体であり、積層体Aは、概略的に基材層1とシーラント層2とにより構成されている。
【0014】
基材層1は、フィルム状の基材からなるもので、融点Mpが200℃以上であり、かつ、周波数1kHzにおける誘電率εと誘電正接tanδとの積M(=ε×tanδ)が0.05F/m以下のプラスチック材料で形成されている。ここで、融点Mpは、JIS K7121に規定されたDSC曲線から求めた融解ピーク温度の値であり、周波数1kHzにおける誘電率εおよび誘電正接tanδは、ASTM D150に規定された測定法により測定した値である。
【0015】
ところで、融点Mpを200℃以上としたのは、基材層1を形成するプラスチック材料に耐熱性を持たせるためであり、電子レンジ内において使用する際に、高温となった被加熱物に直接接触したり、被加熱物から蒸発した高温の蒸気が付着したりして基材層1が溶断するのを防止するためである。また、基材層1を形成するプラスチック材料の周波数1kHzにおける誘電率εと誘電正接tanδとの積Mを0.05F/m以下としたのは、この積Mが0.05F/mを超えると、電子レンジ内において使用する際に、基材層1で吸収される電子レンジからのマイクロ波のエネルギーが大きくなり、基材層1を形成する基体自身の自己発熱により積層体が溶断し易くなるからである。
【0016】
基材層1を構成するプラスチック材料(基材)は、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカーボネイト、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。
【0017】
なお、この基材層1は上述した融点Mpおよび積Mの条件を満たすプラスチック材料を用いる限り、複数の層を積層(同種または異種のプラスチック材料を積層)した構成としてもよく、例えば、第1の基材層11の上に第2の基材層12を設けて二層にしたり(図2参照)、あるいは、三層以上の層を積層(図示せず)して基材層1としてもよい。
【0018】
前述のシーラント層2は、基材層1の片面に設けられ、ヒートシール可能となるように、基材層1に良好な接着性を付与するもので、ヒートシール性と耐熱性とを兼ね備えた材料が用いられる。
【0019】
このシーラント層2を構成する好適な材料としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)またはポリプロピレンを主成分とする材料などが挙げられる。ここで、主成分とは、シーラント層2を構成する材料全体に対し、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)またはポリプロピレンの割合が50質量%以上であることをいい、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)またはポリプロピレンが単独の場合を含むものである。
【0020】
なお、前述の積層体1の形成には公知の技術を用いることができ、例えば、公知のドライラミネート法により基材層1とシーラント層2とを接着剤で接着して積層したり、公知の押出コーティング法により基材層1上にシーラント層2を積層したり、公知の押出ラミネート法により基材層1とシーラント層2とを積層したりすることができる。
【0021】
次に、上述した積層体Aを用いて形成した電子レンジ加熱用包装体について、同一部分に同一符号を付して図3〜5に基づき説明する。図3〜5において、Bは本発明に係る電子レンジ加熱用包装体であり、電子レンジ加熱用包装体Bは、前述の積層体Aにより、該積層体Aのシーラント層2側を互いに当接させて所定幅のヒートシールにより接合して袋体4を形成した後、この袋体4の内部に被加熱物bを充填し、袋体4の開口部3をヒートシールして密封包装したものである。
【0022】
以下、本発明の電子レンジ加熱用包装体Bの具体的な例について説明する。まず、第一の例としては、図3に示したように、二枚の積層体A、Aを用いて包装体を形成するもので、例えば、略長方形に形成した二枚の積層体A11(A)、A12(A)を、それぞれのシーラント層2、2同士が対向するように互いに当接させ(図3(a)参照)、対向する側端部S11、S11および底端部S12において、ヒートシール装置(図示せず)により所定幅のヒートシールとなるように接合して袋体4を形成した後(図3(b)参照)、この袋体4の開口部3を介して該袋体4の内部に、例えば加熱調理用食品などの被加熱物bを充填し、この袋体4の開口部3を閉じ、この閉じた上端部S13をヒートシールして密封包装することにより電子レンジ加熱用包装体Bが得られる(図3(c)参照)。
【0023】
次に、第二の例について説明すると、図4に示したように、一枚の積層体Aを用いて包装体を形成するもので、例えば、略長方形に形成した積層体A2(A)をシーラント層2側が内側になるように湾曲させ、一組の対辺が重なるように側端部S21、S21を当接させ、この側端部S21、S21をヒートシール装置(図示せず)によりヒートシールして筒状とし(図4(a)参照)、この筒状の一方の開口部を閉じ、この閉じた底端部S22をヒートシールにより接合して合掌状の袋体4を形成した後(図4(b)参照)、この袋体4の開口部3を介して該袋体4の内部に被加熱物bを充填する。そして、この袋体4の開口部3を閉じ、この閉じた上端部S23をヒートシールして密封包装することにより電子レンジ加熱用包装体Bが得られる(図4(c)参照)。
【0024】
さらに、第三の例について説明すると、図5に示したように、複数枚の積層体A、A、・・を用い、底部に自立手段を設けた自立包装体に形成するもので、例えば、袋体の両側部を構成する積層体A31(A)、A32(A)と、底部を形成する積層体A33(A)と、袋体4上端の開口部3および合掌接合部S33を形成する積層体A34(A)とにより、各積層体A31、A32、A33、A34のシーラント層2、2、・・側を互いに当接させ、側端部S31、S31、底端部S32および合掌接合部S33において、ヒートシール装置(図示せず)により所定幅のヒートシールとなるように接合して袋体4(自立袋)を形成した後(図5(b)参照)、この袋体4の内部に被加熱物bを充填する。そして、この袋体4の開口部3を閉じ、この閉じた上端部S34をヒートシールして密封包装することにより電子レンジ加熱用包装体Bが得られる(図5(c)参照)。
【0025】
ところで、本発明の電子レンジ加熱用包装体Bにあっては、基材層1の厚さが10μm以上であるのが好ましい。基材層1の厚さを10μm以上とすることにより、電子レンジでの被加熱物の加熱による内圧の上昇や、振動または落下などの衝撃により包装体が破断して該包装体から被加熱物が漏出するのをより一層防止することができる。ここで、基材層の厚さとは、基材層全体の厚さをいい、複数の層を積層(同種または異種のプラスチック材料を積層)して基材層1を形成した場合にあっては、該複数の層の合計の厚さをいう。
【0026】
なお、包装体に充填される被加熱物bが水分などの揮発性物質を含む場合にあっては、電子レンジによる加熱時の上昇した内圧を確実に逃圧させるため、図示していないが、ヒートシール幅を局部的に小さくしたり(例えば、特開平9−150864号公報の図3(a)、(b)参照)して、易通蒸手段を設けるのが好ましい。
【0027】
次に、本発明の積層体Aおよびこの積層体Aを用いて形成した電子レンジ加熱用包装体Bの実施例を、比較例と共に示した。
【0028】
[実施例1]
基材層となる厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、シーラント層となる厚さ50μmのブロック共重合ポリプロピレンフィルムを、ポリエステル系ラミネート接着剤を用いてドライラミネート法により接着して積層し、積層体を得た。そして、この積層体を用い、図3の第一の例に示したような寸法130mm×170mm(ヒートシール幅10mm)の袋体を形成し、この袋体内に食品疑似溶液(ケチャップ50質量%、水44質量%、小麦粉4質量%および塩2質量%の加熱済混合物)50gを充填し、開口部をヒートシールして密封することにより実施例1の包装体を得た。
【0029】
[実施例2]
基材層となる厚さ12μmのポリエチレンナフタレート(PEN)の片面に、シーラント層となる厚さ50μmの直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)を、実施例1と同様に接着して積層し、積層体を得た。そして、この積層体を用い、実施例1と同じ袋体の形成、食品疑似溶液の充填および包装体の作製により実施例2の包装体を得た。
【0030】
[比較例1]
基材層となる厚さ15μmの二軸延伸6−ナイロンフィルムの片面に、実施例1と同じシーラント層を、実施例1と同様に接着して積層し、積層体を得た。そして、この積層体を用い、実施例1と同じ袋体の形成、食品疑似溶液の充填および包装体の作製により比較例1の包装体を得た。
【0031】
[比較例2]
厚さ15μmの二軸延伸6−ナイロンフィルム(第1の基材層)の片面に、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(第2の基材層)を接着して基材層とし、この基材層上に実施例1と同じシーラント層を接着して積層し、積層体を得た。なお、これら三層は、ポリエステル系ラミネート接着剤を用いてドライラミネート法により接着した。そして、得られた積層体を用い、実施例1と同じ袋体の形成、食品疑似溶液の充填および包装体の作製により比較例2の包装体を得た。
【0032】
表1に基材の融点Mp、周波数1kHzにおける誘電率εと誘電正接tanδとの積M、および、上述した実施例、比較例により形成した包装体の特性を示した。なお、試験方法は次の通りである。
(試験方法)
試験に供する包装体を出力600Wの電子レンジ(使用機種:松下電器株式会社製、NE−S33F)内において、1分間加熱した後、包装体を電子レンジから取り出し、積層体の溶断(穿孔、裂けなど)の有無を確認した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示したように、実施例1、2の包装体にあっては、積層体の溶断(穿孔、裂けなど)は見られず、これに伴う被加熱物bの漏出も無かった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る積層体の一例を示した断面略図である。
【図2】図1の他の例を示した断面略図である。
【図3】図1または図2の積層体を用いた電子レンジ加熱用包装体の第一の例の斜視図であり、図3(a)はヒートシール前の図を、図3(b)は袋体を形成後の図を、図3(c)は電子レンジ加熱用包装体の一部を破断した図をそれぞれ示している。
【図4】図1または図2の積層体を用いた電子レンジ加熱用包装体の第二の例の斜視図であり、図4(a)はヒートシール前の図を、図4(b)は袋体を形成後の図を、図4(c)は電子レンジ加熱用包装体の一部を破断した図をそれぞれ示している。
【図5】図1または図2の積層体を用いた電子レンジ加熱用包装体の第三の例の斜視図であり、図5(a)はヒートシール前の図を、図5(b)は袋体を形成後の図を、図5(c)は電子レンジ加熱用包装体の一部を破断した図をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0036】
A 積層体
B 電子レンジ加熱用包装体
b 被加熱物
1 基材層
2 シーラント層
3 開口部
4 袋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、この基材層の片面に設けられヒートシール可能なシーラント層とを備えた積層体であって、
前記基材層は、融点が200℃以上であり、かつ、周波数1kHzにおける誘電率と誘電正接との積が0.05F/m以下のプラスチック材料で形成されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
シーラント層は、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)またはポリプロピレンを主成分として形成されていることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体により、該積層体のシーラント層側を互いに当接させて所定幅のヒートシールにより接合して袋体を形成した後、この袋体の内部に被加熱物を充填し、前記袋体の開口部をヒートシールして密封包装したことを特徴とする電子レンジ加熱用包装体。
【請求項4】
基材層の厚さが10μm以上であることを特徴とする請求項3記載の電子レンジ加熱用包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−166378(P2009−166378A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7721(P2008−7721)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000106151)株式会社サンエー化研 (13)
【Fターム(参考)】