説明

積層体及びその製造方法

【課題】表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制して長期間の使用により断熱性能が低下することがなく、また屋外で使用しても凍害が生じる可能性がきわめて低い積層体を提供する。
【解決手段】スラグとフライアッシュバルーンを主成分とする基材1の少なくとも表面側に、スラグと石炭灰を主成分とする表面被覆層2を形成したものである。スラグに対する石炭灰の質量比aを0.5<a<2とすると共に、石炭灰/スラグの成分比率とフライアッシュバルーン/スラグの成分比率とを略同等とする。多孔質の基材1に均一な表面被覆層2を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面からの吸水を抑制した無機多孔質の積層体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量かつ断熱性に優れたセラミック製品を内外装材として使用することは居住空間の快適性、不燃性及び省エネルギー性の観点から望ましいことである。しかしながら、それらのセラミック製品の多くが吸湿(水)性を有し、長年の使用過程で断熱性能に劣化をきたし、耐凍結融解性に劣るなどの欠陥があることはよく知られている。
【0003】
この問題を解決するために、多孔質層の両面に開気孔を有しない層を設けることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−37800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このものにおいては、焼成時に多孔質層側から溶融する材料を拡散・流動させて表面層を充填することにより、開気孔を有しない層が形成されるため、両面或いは面全域に均等に溶融材料を行き渡らせるのは非常に困難であった。従って、表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制することができず、長期間の使用により断熱性能が低下したり屋外で使用すると凍害が生じるおそれがあった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制して長期間の使用により断熱性能が低下することがなく、また屋外で使用しても凍害が生じる可能性がきわめて低い積層体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る積層体は、スラグとフライアッシュバルーンを主成分とする基材1の少なくとも表面側に、スラグと石炭灰を主成分とする表面被覆層2を形成したものであって、スラグに対する石炭灰の質量比aを0.5<a<2とすると共に、石炭灰/スラグの成分比率とフライアッシュバルーン/スラグの成分比率とを略同等として成ることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2に係る積層体の製造方法は、スラグとフライアッシュバルーンを主成分とする基材1を成形する工程と、前記基材1の少なくとも表面側にスラグと石炭灰を主成分とする材料で被覆する工程と、前記被覆した基材1を焼成し基材1の少なくとも表面側にスラグと石炭灰を主成分とする表面被覆層2を一体に形成する工程とを備え、スラグに対する石炭灰の質量比aを0.5<a<2とすると共に、石炭灰/スラグの成分比率とフライアッシュバルーン/スラグの成分比率とを略同等とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、多孔質の基材1に均一な表面被覆層2を形成することができ、表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制して長期間の使用により断熱性能が低下することがなく、また屋外で使用しても凍害が生じる可能性をきわめて低くすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0010】
本発明の積層体は、図1に示すように、多孔質の基材1の少なくとも表面側に均一な表面被覆層2を全面にわたって設けて形成されている。
【0011】
基材1はスラグとフライアッシュバルーンとを主成分とするものである。本発明ではスラグの中でもエコスラグを用いるのが好ましい。エコスラグとは、一般廃棄物焼却灰を溶融後に冷却して生成されたスラグ並びに下水汚泥の焼却灰を溶融後に冷却して生成されたスラグの総称であり、通常のスラグに比べてカルシウムと珪酸成分に富むガラス物質である。また、フライアッシュバルーンは、主として、石炭を燃やす火力発電所などで発生する石炭灰のうち、微粉炭燃焼ボイラーの集塵機で捕集される粒状のものを分離精製等したものであって、例えば、嵩密度0.4程度の軽量な物質を選別したもので、平均粒径100μmのシリカ・アルミナ成分からなる中空ガラス球を用いることができる。
【0012】
また、基材1には、スラグとフライアッシュバルーン以外の成分として、ベントナイトやメチルセルローズなどの結合剤を配合することができる。この場合、結合剤の配合量は、スラグに対して質量比0.05〜0.2とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0013】
表面被覆層2はスラグと石炭灰を主成分とするものである。スラグは上記基材1のものと同様である。石炭灰は、石炭をボイラーで燃焼したあと、集じん装置で集められたフライアッシュとボイラ底部で回収される溶結状の石炭灰を砕いたクリンカアッシュとを含有するものである。表面被覆層2で使用される石炭灰は基材1で使用されるフライアッシュバルーンよりも嵩密度が大きいものであり、例えば、嵩密度2.2程度のものを使用することができる。
【0014】
また、表面被覆層2には、スラグと石炭灰以外の成分として、ベントナイトやメチルセルローズなどの結合剤を配合することができる。この場合、結合剤の配合量は、スラグに対して質量比0.05〜0.2とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0015】
そして、本発明の積層体は以下のようにして形成することができる。まず、スラグとフライアッシュバルーン及び必要に応じて結合剤を配合し、これらの固形分に対して水等を0.1〜0.5質量部加えて基材用坏土を調製する。また、スラグと石炭灰及び必要に応じて結合剤を配合し、これらの固形分に対して水等を0.3〜1.0質量部加えて表面被覆用坏土を調製する。
【0016】
次に、基材用坏土を加圧式成形機などで加圧成形して板状成形体を形成する。ここで、加圧成形は圧力5〜20MPaで時間5〜60秒とし、厚み5〜30mmの板状成形体を形成することができるが、これに限定されるものではない。
【0017】
次に、上記の板状成形体の表面または表面と裏面の両方に、表面被覆用坏土を塗布する。表面被覆用坏土の塗布量は1000〜5000g/mとすることができ、また二度塗りなど複数回重ね塗りをしてもよい。また刷毛塗りなどの任意の方法で塗布することができる。
【0018】
この後、表面被覆用坏土を塗布した板状成形体を電気炉等で加熱して焼成する。このとき、板状成形体は耐火性の棚板上に載せられて温度1100〜1250℃で1〜10時間焼成することができるが、これに限定されるものではない。そして、この焼成により、板状成形体及び表面被覆用坏土に含有される粉体成分を軟化溶融結晶化させることによって、板状成形体の焼結体からなる基材1の表面または表面と裏面に、表面被覆用坏土の焼結体からなる表面被覆層2を一体に有する積層体を形成することができる。
【0019】
本発明において、表面被覆層2はスラグに対する石炭灰の質量比(石炭灰/スラグで示す質量比)aを0.5<a<2とする。この質量比aが0.5以下であると、焼成して形成された表面被覆層2が軟化流動しやすく、表面被覆層2に欠陥が生じやすくなって表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制できないおそれがある。また、上記の質量比aが2以上であると、焼成時に基材1の表面に表面被覆層2の溶融材料を拡散・流動させにくくなり、均等に溶融材料を行き渡らせるのは非常に困難となり、表面被覆層2に欠陥が生じやすくなって表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制できないおそれがある。
【0020】
また、本発明において、基材1はスラグに対するフライアッシュバルーンの質量比(フライアッシュ/スラグで示す質量比)bをaと略同一、好ましくは同一にする。aとbが大きく異なると、焼成時に基材1の表面に表面被覆層2の溶融材料を拡散・流動させにくくなり、均等に溶融材料を行き渡らせるのは非常に困難となり、表面被覆層2に欠陥が生じやすくなって表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制できないおそれがある。
【0021】
本発明の積層体は、基材1により断熱性を確保することができ(約0.4W/mK)、また、表面被覆層2の緻密な結晶化ガラス層によって、表面からの吸湿或いは吸水を確実に抑制して長期間の使用により断熱性能が低下せず、また屋外で使用しても凍害が生じる可能性をきわめて低くすることができる。
【実施例】
【0022】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0023】
(実施例1)
スラグとしては、滋賀県下水道公社製造品を用いた。フライアッシュバルーンとして太平洋セメント(株)製の品番「E−SPHERES」を用いた。石炭灰としては(株)テクノ中部製造品を用いた。ベントナイト(結合剤)としては(株)ホージュン製の品番「スーパー穂高」を用いた。
【0024】
そして、スラグ1質量部に対して、フライアッシュバルーン1質量部と、ベントナイト0.1質量部と、水0.2質量部とを加えて混練し、基材用坏土を調製した。また、スラグ1質量部に対して、石炭灰1質量部と、ベントナイト0.1質量部と、水0.2質量部とを加えて混練し、表面被覆用坏土を調製した。この場合、上記質量比はa=b=1である。
【0025】
次に、基材用坏土を9.8MPa(100kgf/cm)で30秒間加圧成形して120×240×20mmの板状成形体を形成した。次に、この板状成形体の表面に表面被覆用坏土を塗布量2000g/mとなるように刷毛で二度塗りした。次に、表面被覆用坏土を塗布した板状成形体を電気炉で1200℃で2時間保持して焼成することによって、基材1の表面に表面被覆層2を形成した積層体を形成した。
【0026】
(比較例1)
石炭灰の配合量を0.3質量部とした以外は実施例1と同様にした。
【0027】
(比較例2)
石炭灰の配合量を0.5質量部とした以外は実施例1と同様にした。
【0028】
(比較例3)
石炭灰の配合量を2質量部とした以外は実施例1と同様にした。
【0029】
<透水試験>
JIS A 5422に準拠して24時間後の透水試験を行った。これは、内径35mm、高さ300mmのアクリル製の筒体を用いたものであって、筒立て法による減水高さで評価した。
【0030】
<断熱性能試験>
センサーにより熱伝導率を測定した。
【0031】
<凍害試験>
ASTM−B法200サイクルにより評価した。
【0032】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 基材
2 表面被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグとフライアッシュバルーンを主成分とする基材の少なくとも表面側に、スラグと石炭灰を主成分とする表面被覆層を形成したものであって、スラグに対する石炭灰の質量比aを0.5<a<2とすると共に、石炭灰/スラグの成分比率とフライアッシュバルーン/スラグの成分比率とを略同等として成ることを特徴とする積層体。
【請求項2】
スラグとフライアッシュバルーンを主成分とする基材を成形する工程と、前記基材の少なくとも表面側にスラグと石炭灰を主成分とする材料で被覆する工程と、前記被覆した基材を焼成し基材の少なくとも表面側にスラグと石炭灰を主成分とする表面被覆層を一体に形成する工程とを備え、スラグに対する石炭灰の質量比aを0.5<a<2とすると共に、石炭灰/スラグの成分比率とフライアッシュバルーン/スラグの成分比率とを略同等とすることを特徴とする積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269210(P2009−269210A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119206(P2008−119206)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】