説明

積層体布帛

【課題】生地表面のスナッグなどに対する物性が良く、かつ、軽量で伸縮性があるため着脱しやすく動きやすい雨具、登山着、スポーツウェア、作業着など各種衣料用の積層体布帛を提供すること。
【解決手段】総繊度が20〜60デシテックス、単繊維繊度が0.2〜10デシテックスである仮撚加工された合成繊維マルチフィラメント糸条からなり、かつ、6.45cm2 当たりの編目数が6,000〜13,000個であるシングル丸編地と樹脂フィルムの少なくとも二層から形成されてなることを特徴とする積層体布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨具、登山着、スポーツウェア、作業着などの防風性や防水性、透湿防水性などが要求される各種衣料用として用いられる積層体布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から防風性や防水性、透湿防水性などが要求される衣料用途において、織物や編物の生地の片面にコーティングもしくはラミネートの手段で樹脂フィルムを積層し、要求性能を満たした積層体布帛が提供されている。
【0003】
これらの積層体布帛に使用する生地は、軽量であることやスナッグなどに対する物性が良いことなどから織物が多く使用されている。しかし、一般的に使われる織物は伸縮性が劣るため着脱時や運動時に、生地が突っ張り窮屈に感じてしまう。
【0004】
一方、編物は編目で生地が構成されるため構成糸が動くことができる。このために組織的に伸縮性があり、動きを妨げないことを重要とするスポーツなどの分野では、編物を使用した積層体布帛が多く使用されている。
【0005】
しかし、織物と比べると、重くなることや生地表面のスナッグなどに対する物性が劣るという問題があった。
【0006】
一方、基布の片面に透湿防水層を積層し、さらにその上に、総繊度が16デシテックス以下の加工糸を用いてなる布帛を積層した三層構造の透湿防水性布帛が提案されている(特許文献1)。
【0007】
しかし、この特許文献1に提案の透湿防水布帛は、軽量性に優れることを特徴としているが、該布帛面を表側面として使用するにはスナッグなどに対する物性が劣るという問題があった。
【0008】
このようなことから、伸縮性があり軽量で、かつ、生地表面のスナッグなどに対する物性の良い積層体布帛がいまだ提案されていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−201811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、生地表面のスナッグなどに対する物性の問題を解決し、軽量で伸縮性があることで各種衣料にしたときに着脱しやすく、動きやすい積層体布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するために、本発明の積層体布帛は、以下の(1)の構成を有するものである。
(1)総繊度が20〜60デシテックス、単繊維繊度が0.2〜10デシテックスである仮撚加工された合成繊維マルチフィラメント糸条からなり、かつ、6.45cm2 当たりの編目数が6,000〜13,000個であるシングル丸編地と樹脂フィルムの少なくとも二層から形成されることを特徴とする積層体布帛。
【0012】
また、かかる本発明の積層体布帛において、好ましくは、以下の(2)〜(5)のいずれかの構成からなる積層体布帛である。
(2)前記合成繊維マルチフィラメント糸条が、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維であることを特徴とする(1)に記載の積層体布帛。
(3)前記シングル丸編地のカバーファクター(CF)が800〜1700であることを特徴とする(1)または(2)に記載の積層体布帛。
(4)前記シングル丸編地の目付が30〜100g/m2 であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の積層体布帛。
(5)前記積層体布帛のJIS L 1018−2003 8.14.2定荷重時伸び率によるタテ方向およびヨコ方向の平均伸び率が5〜100%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の積層体布帛。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層体布帛は、生地表面のスナッグに対する物性(抗スナッグ性)、面ファスナーに対する耐久性等に優れ、かつ、軽量で伸縮性を有するものであるため、着脱がしやすく動きやすく、かつ、優れた防風性や防水性、透湿防水性などを有し、雨具、登山着、スポーツウェアあるいは作業着などの各種衣料に最適な積層体布帛を実現したものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】シングル丸編地の表面(ニードルループ面)の模式図である。
【図2】シングル丸編地の裏面(シンカーループ面)の模式図である。
【図3】本発明の積層体布帛の一例を示した概略側面図である。
【図4】本発明の積層体布帛の一例を示した概略側面図である。
【図5】面ファスナーに対する耐久性試験結果が1級であった試験片の、その1級と判定された要因となった生地組織の崩れが生じた部分を拡大して示した顕微鏡写真である。
【図6】面ファスナーに対する耐久性試験結果が2級であった試験片の、その2級と判定された要因となった毛羽立ちはあるが、生地組織の崩れがない部分を拡大して示した顕微鏡写真である。
【図7】面ファスナーに対する耐久性試験結果が3級であった試験片の、その3級と判定された要因となった毛羽立ち、生地組織の崩れが共にない部分を拡大して示した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の積層体布帛について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
本発明の積層体布帛は、総繊度が20〜60デシテックス、単繊維繊度が0.2〜10デシテックスの範囲である仮撚加工された合成繊維マルチフィラメント糸条からなり、かつ、6.45cm2 当たりの編目数が6,000〜13,000個の範囲であるシングル丸編地と樹脂フィルムの少なくとも二層から形成されるものである。
【0017】
一般的に伸縮性を必要とする積層体布帛には、ダブル丸編地を使用することが多い。しかし、ダブル丸編地はその名の通りに編目が二層ある編地であり、生地が重くなりやすい。そのため、生地を軽くするには編目を粗くする必要があるが、スナッグなどに対する物性が悪いものとなってしまう。
【0018】
図1に示すように編目が一層であるシングル丸編地であれば、生地を軽くすることができる。しかし、編目が一層であるため、樹脂フィルムを積層したときに編目の間隙Dに接着剤などの樹脂が入り込みやすく、その部分のみ光沢が出て品位が悪くなる問題があった。
【0019】
そのため、まず6.45cm2 当たりの編目数が6,000〜13,000個であることが必要となる。6.45cm2 あたりの編目数とは、2.54cm当たりのウエル数と2.54cm当たりのコース数を掛け算した値であり、この編目数が多ければ編目の間隔が狭く詰まった生地となり、少なければ編目の間隔が広く粗い生地となる。
【0020】
編目数を6,000個以上にすることで、編目の間隔が狭く、編目の間隙が狭いことでスナッグなど対する物性も良いものとなる。また、接着剤などの樹脂が入り込みにくい生地となる。編目数を多くすれば編目の間隔が狭くなるためスナッグなどに対する物性は良くなるものの、13,000個を越えると目付が付き過ぎるため積層体布帛として重いものとなってしまう。編目数は、7,000〜12,500個であることがより好ましく、7,500〜12,000個であることがさらに好ましい。
【0021】
また、前記シングル丸編地を構成する繊維は、仮撚加工された合成繊維マルチフィラメント糸条であることが重要である。
【0022】
仮撚加工とは、糸に撚りをかけた状態で熱セットし、撚りを戻すことで糸にひずみを与え、かさ高性のある糸にする加工方法である。仮撚加工されたマルチフィラメント糸条は、単繊維それぞれに細かなひずみがあるため糸に膨らみを持たすことができ、編地にしたときに編目の間隙Dを狭くすることができる。仮撚加工法は、1ヒーター仮撚法、2ヒーター仮撚法など、従来からある仮撚方法で加工することができる。
【0023】
また、前記繊維は仮撚加工できる熱可塑性の合成繊維である必要があり、強度、耐久性、加工性、コストの観点からポリエステル繊維やポリアミド繊維がより好ましく使用できる。
【0024】
さらに、前記繊維はマルチフィラメントである必要があり、モノフィラメントであれば仮撚加工しても糸に膨らみを持たすことができず、生地にしたときに編目の間隙が広くなってしまう。その観点からフィラメント数は6本以上であることが好ましく、12本以上であることがより好ましい。また、上限は150本である。
【0025】
さらに、前記シングル丸編地を構成する繊維は、総繊度が20〜60デシテックスであることが重要であり、22〜50デシテックスであることがより好ましい。総繊度が20デシテックス未満になると破裂や摩耗などの強度が弱いものとなってしまい、60デシテックスを越えると太くなり過ぎるため、積層体布帛として重いものとなってしまう。
【0026】
単繊維繊度は0.2〜10デシテックスであることが重要であり、0.3〜8デシテックスの範囲であることがより好ましく、0.4〜5デシテックスであることがさらに好ましい。単繊維繊度が0.2デシテックス未満になると糸が細くなりすぎるため、スナッグなどに対する物性が悪いものとなってしまう。一方、10デシテックスを越えると、生地が固くなり過ぎるため各種の衣料にしたときに着心地が悪いものとなってしまう。
【0027】
前記シングル丸編地は、編機の選択と編み条件の設定を行い製編し、染色加工でウエル数とコース数の設定と調整をすることで、目的の編目数に仕上げることができる。
【0028】
また、前記編機は、46ゲージ以上のシングル丸編機を用いて編成することが好ましく、58ゲージ以上のシングル丸編機を用いることがより好ましい。46ゲージ未満の編機を使用した場合、目的の編目数を得ることが困難となり、上述した編目の間隙Dが広がってしまう。そのため、スナッグなどに対する物性の問題や接着剤などの樹脂が間隙Dに入り込む品位の問題がないシングル丸編地を得ることができなくなる。編組織は平編(天竺)、鹿の子編、1×1天竺など、特に限定されないが、目付、厚み、スナッグなどに対する物性、コストを考慮すると天竺組織であることが好ましい。
【0029】
前記染色加工法は、従来から知られている染色方法で加工することができる。また、必要に応じ、従来から知られている撥水処理加工、制電処理加工などを施すことができる。
【0030】
本発明の積層体布帛に使用するシングル丸編地は、カバーファクター(CF)が800〜1,700の範囲であることが好ましい。カバーファクターは下記の式にて算出される値である。
CF={√T×W}+{√T×C}
CF:カバーファクター
T:構成糸の総繊度(デシテックス)
W:2.54cmあたりのウエル数
C:2.54cmあたりのコース数
【0031】
カバーファクターが800未満になると編地密度が低くなり過ぎるため、スナッグなどに対する物性の問題や接着剤などの樹脂が間隙Dに入り込む品位の問題が起きてしまうので好ましくない。また、1,700を越えると編地密度が高くなり、目付が付き過ぎるため積層体布帛として重く、また、風合いも粗硬なものになってしまうことが多く好ましくない。カバーファクターは、900〜1,500であることがより好ましい。
【0032】
また、前記シングル丸編地の目付は30〜100g/m2 であることが好ましい。100g/m2 を越えると積層体布帛とし衣類にしたときに重くなりすぎ、着心地の悪いものとなってしまうので好ましくない。また、30g/m2 未満になると積層体布帛としてときに軽すぎるため、破裂強度などが弱くなり各種衣料にしたときに傷みやすいものとなってしまうので好ましくない。目付は、40〜90g/m2 の範囲であることがより好ましい。
【0033】
本発明の積層体布帛に使用する樹脂フィルムは、従来から知られている樹脂フィルムを使用することができる。樹脂フィルムの材料としては、例えばポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、含フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、使用する用途に応じて適宜選択すればよい。厚さは、3〜100μmであることが好ましく、より好ましくは5〜50μmである。目付は、3〜60g/m2 であることが好ましく、より好ましくは3〜50g/m2 の範囲内である。
【0034】
例えば、伸縮性が特に必要なスポーツ分野の衣料に用いる場合は、ポリウレタン系樹脂からなる伸縮性の高い樹脂フィルムを使用することが好ましい。
また、透湿防水性の衣料に用いる場合は、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂、含フッ素系樹脂などからなる透湿防水性フィルムを使用することが好ましい。また、透湿防水性フィルムには湿式製法により製造される多孔質樹脂薄膜と、乾式製法により製造される親水性無孔質樹脂薄膜とに分けられ、それぞれ以下のような特徴に基づいて使い分けるとよい。
【0035】
多孔質樹脂薄膜は、その内部に超微細で均一に分散する多数の気孔が、互いに連通した状態で形成されている連続気泡体であり、その孔幅が略0.3〜3μmのものであることが好ましい。水蒸気の粒径は略0.4nm程度であり、雨や水の粒径は略0.1〜3mm程度の範囲でなるため、気孔の孔幅より粒径の小さい水蒸気は通過し、気孔の孔幅より粒径の大きい雨や水の浸透は阻止できることにより優れた透湿防水性を発揮する。また、親水性無孔質樹脂薄膜は、上記した多孔質樹脂薄膜とは異なり連続気泡状の多数の気孔を有しておらず、内部に親水性を有した親水基を持つことにより透湿機能が確保されている。親水性無孔質樹脂薄膜の片面側の水蒸気濃度が上昇すると、薄膜内部の親水基により薄膜内へ水蒸気が取りこまれ、さらに、薄膜内の水蒸気は水蒸気濃度の低い他面側へ移行する。このように親水性無孔質樹脂薄膜は、自己の親水基により水蒸気を通過させることで優れた透湿防水性を発揮する。
【0036】
本発明において、前記シングル丸編地と樹脂フィルムとの積層には、生地に直接コーティングする方法や、皮膜(フィルム)を作製し生地に接着剤などで接着するラミネート法など、従来公知の製造技術を用いて積層することができる。
【0037】
直接コーティングする方法とは、目的に応じた樹脂を生地の一面に均一な薄膜状に直接塗工し皮膜化(フィルム化)することであり、水中を通過させ皮膜化する湿式と乾燥することによって皮膜化する乾式がある。樹脂を塗工する方法としては、一般的にはナイフオーバーロールコーティング、ダイレクトロールコーティング、リバースロールコーティング、グラビアコーティングなどがあり、そのコーティング処方を利用し所望の膜厚となるように塗工すればよい。
【0038】
ラミネート法とは、目的に応じた樹脂を予め皮膜化し、その上に接着剤を塗工して生地を積層することである。または、生地に接着剤を塗工して、皮膜化した樹脂を積層しても良い。接着剤を塗工する方法としては、一般的にはナイフオーバーロールコーティング、ダイレクトロールコーティング、リバースロールコーティング、グラビアコーティングなどがあり、そのコーティング処方を利用し所望の膜厚、被覆率となるように塗工すればよい。
【0039】
接着剤は、熱可塑性樹脂接着剤の他、熱や光などと反応をして硬化する硬化性樹脂接着剤など、従来から知られているものを使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、あるいはポリオレフィン樹脂などがある。特に、本発明の積層体布帛を透湿防水性の衣類に用いる場合は、透湿性の高いものが好ましい。
【0040】
接着剤による被覆率は、特に限定されないが高い方が剥離強度は高くなる。例えば、本発明の積層体布帛を透湿防水性の衣類に用いる場合、高透湿性の接着剤であれば100%被覆の全面接着でも問題はないが、透湿性と耐水性の両立を考えると一般的には40〜80%の被覆率とすることが好ましい。被覆率が100%の全面接着としたい場合はナイフコーターなどを用い、被覆率が40〜80%とコントロールする場合はグラビアコーターなどを用いて実施することができる。グラビアコーターは、表面にドット状の凹部を彫刻したロールを用い、その凹部に接着剤を入れ樹脂フィルムに転移して加工する方法で凹部の面積および深さ、凹部間の間隔を調整することにより被覆率を自由に設定することができる。
【0041】
また、前記シングル丸編地に樹脂フィルムを積層する面は、図1に示すような表面(ニードルループ面)もしくは、図2に示すような裏面(シンカーループ面)のどちらであってもよい。
【0042】
例えば、編物特有の柔らかさを残したい場合は、シンカーループ面に樹脂フィルムを積層しニードルループ面を積層体布帛の表面とすればよい。シンカーループ面は、図2に示すように凹凸構造をしているため、樹脂フィルムと積層したときに凸部分のみ接着されるため、柔らかい風合いとなる。
【0043】
また、スナッグなどに対する物性を重視する場合は、ニードルループ面に樹脂フィルムを積層しシンカーループ面を積層体布帛の表面とすればよい。ニードルループ面は図1に示すように平滑であるため、樹脂フィルムと積層したときに全面に接着することができるため、樹脂フィルムと剥離しにくくすることができる。
【0044】
上記の方法を用いてシングル丸編地と樹脂フィルムとを図3のように積層し、本発明の一例である二層積層体布帛を得ることができる。図3において、1は積層体布帛のシングル丸編地層、2は積層体布帛の樹脂フィルム層である。
【0045】
また、本発明の積層体布帛は、裏面(樹脂フィルム面)に編物や織物、更に新たな樹脂を積層してもよい。生地と樹脂フィルムの二層で構成される積層体は、樹脂フィルム面が引っ掛かりや摩擦によって剥がれやすいため、通常、各種衣料にするときに縫製にて裏地を取り付ける。しかし、登山やスポーツなど動きの激しい用途の場合は、樹脂フィルムが剥がれやすくなるため、該樹脂フィルム面に編物や織物、更に新たな樹脂を積層することで樹脂フィルムを保護することができる。その積層体布帛の概略側面図を図4に示す。3は、積層体布帛のその樹脂フィルム保護層である。
【0046】
裏面(樹脂フィルム面)に積層する編物の種類は、特に限定されないが、緯編地である平編(天竺)、鹿の子編、リブ編、両面編(スムース)、パール編、ポンチローマ編、ミラノリブ編、ブリスター編など、経編地であるシングルデンビ編、シングルコード編、シングルアトラス編、ハーフトリコット編、ダブルデンビ編、サテン編などがある。
【0047】
織物としては、平織、綾織、朱子織、ななこ織、急斜文織、よこ二重織、たて二重織など組織は特に限定されないが、生地に伸縮性を持たせるため、仮撚加工糸、サイドバイサイド型複合繊維など伸縮性のある繊維を使用することが好ましい。
【0048】
また、これらの生地を構成する素材は、合成繊維、天然繊維など、積層体布帛が使用される用途に応じて適宜選択することができるが、強度、耐久性、加工性、コストの観点からポリエステル繊維やポリアミド繊維が好ましく使用できる。
【0049】
新たに積層する樹脂は、全面に積層させてもよいし、ドット状、ライン状、メッシュ状など非全面に積層させてもよい。非全面に積層する場合は、被覆率が高くなるほど樹脂フィルムが剥がれることを防げるため、被覆率が50%以上であることが好ましい。
【0050】
樹脂の種類は、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられ、使用する用途に応じて適宜選択すればよい。また、樹脂以外の成分を含んでいてもよい。例えば、表面のタッチを改善するためには酸化ケイ素、酸化チタン、窒化チタン、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、酸化亜鉛、アルミナ、ホウ酸アルミニウムなどの無機微粒子やアクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系などの有機微粒子、皮膜強度を向上させるためには架橋剤、酸化防止剤、増粘剤など、色を付けるため着色用の顔料などを添加することができる。
【0051】
本発明の積層体布帛は、JIS L 1018−2003 8.14.2定荷重時伸び率によるタテ方向およびヨコ方向の平均伸び率が5〜100%の範囲であることが好ましい。ここで、平均伸び率とは、タテ方向およびヨコ方向の測定値の平均である。これは、積層体布帛を各種衣料とし着用して動く場合、生地のタテ方向あるいはヨコ方向の一方向のみ伸長されるわけではなく、身体の丸みに応じて三次元的に生地が伸長されるため、タテ方向およびヨコ方向の測定値を平均した値を評価している。
【0052】
一般的な織物を表地に使用した場合は、平均伸び率が2%程度とほとんど伸びのない積層体布帛となる。平均伸び率を5%以上の積層体布帛を使用し各種衣料にすることで、着脱時や運動時に生地が突っ張ることを解消することができる。しかし、100%を越えるとスナッグなどに対する物性が劣ることになる。平均伸び率は、10〜90%の範囲であることがより好ましい。
【0053】
本発明の積層体布帛は、JIS L 1058−2003 7.4 「ICI形ピリング試験機法による生地表面の抗スナッグ性」が3級以上であることが好ましい。
【0054】
また、生地表面の面ファスナーに対する耐久性が、タテ方向およびヨコ方向ともに2級以上であることが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づいてさらに詳しく本発明を説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0056】
(1)編目数
編地の2.54cmあたりのコース数とウエル数とを掛け算することにより算出し、編目数とした。測定にあたっては、平置きした生地の2.54cmあたりのウエル数とコース数を数え、各5箇所を測定し、平均値の小数点以下を四捨五入して求めた。
【0057】
(2)目付
JIS L 1018−2003 8.4.2に基づき、試験片の単位面積あたりの質量(g/m2 )を測定した。
【0058】
(3)平均伸び率
JIS L 1018−2003 8.14.2定荷重時伸び率のカットストリップ法に基づき、2.5×20cmの試験片を採取し、サンプル2.5cm幅当たり9.8N(1kgf)の一定荷重でタテ方向、ヨコ方向それぞれ5枚ずつ測定し平均値を算出した。さらに、タテ方向、ヨコ方向の各々についての定荷重時伸び率を加算し、さらにその加算値を1/2にして平均伸び率とした。
【0059】
(4)面ファスナーに対する耐久性
JIS L 0849−2003に記載される摩擦試験機II形の摩擦子に、面ファスナーのフック側(クラレファスニング(株)製「CMマジックT縫製用EM 20R」)を試験台側に向けて装着し、試験片台には積層体布帛の表面を摩擦子側に向けて装着した。ただし、摩擦子に装着する面ファスナーは、約2.5×2cmにカットし約5×5cmの大きさの白綿布の中央部に両面テープを利用して貼り付け、フック列と往復運動方向とが平行になるように装着した。また、試験片の大きさは約22×3cmとし、両面テープを利用して試験台に貼り合わせた。この状態で摩擦子には2Nの荷重をかけ、試験片上10cmの間を毎分30回往復の速度で100回往復させて摩擦した。試験片は、生地のタテ方向およびヨコ方向各3枚をそれぞれ摩擦し、摩擦子は毎回新しいものに交換した。試験片の摩擦された部位の状態を次の3段階で評価し、タテ方向およびヨコ方向それぞれの平均値(小数点以下1桁まで)を算出し、小数点以下を四捨五入した。
≪評価基準≫
1級:一部でも生地組織の崩れがあるもの
2級:毛羽立ちはあるが、生地組織の崩れがないもの
3級:毛羽立ち、生地組織の崩れが共にないもの
【0060】
各等級の状態になった生地の顕微鏡写真を図5、図6、図7に参考写真として示す。図5は1級の状態例であり、写真中央部にあるように、編糸が完全に切れて一目でも編目がなくなってしまった状態を「生地組織の崩れがある」という。図6は2級の状態例であり、写真中央部にあるように毛羽はあるものの編目が残っている状態を、「毛羽立ちはあるが、生地組織の崩れがない」という。図7は3級の状態例であり、「毛羽立ち、生地組織の崩れが共にない」ものである。
【0061】
(5)スナッグ試験
JIS L 1058−2003 7.4 ICI形ピリング試験機法に基づき、生地表面の抗スナッグ性を判定した。
【0062】
(6)外観評価
外観の評価は、男女10名が積層体布帛の表面の外観を評価した。
≪評価基準≫
○:生地表面が非常に綺麗である
△:生地表面が一般編物表地並である
×:生地表面が綺麗でない
【0063】
(7)積層体布帛としての総合評価
≪評価基準≫
○:積層体布帛として優れている
×:積層体布帛として優れていない
【0064】
実施例1
表地用として、33デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸(単繊維繊度0.92デシテックス)を60ゲージ30インチの編機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編し、通常の染色法で加工し撥水処理をした丸編地(目付:60g/m2 、83ウエル/2.54cm、103コース/cm、編目数8549個/6.45cm2 )を準備した。
【0065】
上記丸編地のシンカーループ面に、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質樹脂フィルム(目付:13g/m2 )をラミネート法によりポリウレタン系接着剤を用いて接着して二層積層体布帛を得た。
【0066】
さらに、その二層積層体布帛のフィルム面にポリウレタン系接着剤を用いて、裏地用として準備した17デシテックス7フィラメントのナイロン生糸(未加工糸)を使用した天竺組織の丸編地(目付:22g/m2 )を貼り合わせ本発明の三層積層体布帛(目付:126g/m2 )を得た。
【0067】
この三層積層体布帛の評価結果等を表1、表2に示す。
実施例2
表地用として、33デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸(単繊維繊度0.92デシテックス)を60ゲージ30インチの編機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編し、通常の染色法で加工し撥水処理をした丸編地(目付:60g/m2 、83ウエル/2.54cm、103コース/cm、編目数8549個/6.45cm2 )を準備した。
【0068】
上記丸編地のニードルループ面に、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質樹脂フィルム(目付:13g/m2 )をラミネート法によりポリウレタン系接着剤を用いて接着して本発明の二層積層体布帛(目付:92g/m2 )を得た。
【0069】
この二層積層体布帛の評価結果等を表1、表2に示す。
実施例3
表地用として、33デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸(単繊維繊度0.46デシテックス)を60ゲージ30インチの編機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編し、通常の染色法で加工し撥水処理をした丸編地(目付:66g/m2 、96ウエル/2.54cm、111コース/cm、編目数10656個/6.45cm2 )を準備した。
【0070】
上記丸編地のシンカーループ面に、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質樹脂フィルム(目付:13g/m2 )をラミネート法によりポリウレタン系接着剤を用いて接着して二層積層体布帛を得た。
【0071】
さらに、その二層積層体布帛のフィルム面にポリウレタン系接着剤を用いて、裏地用として準備した22デシテックス9フィラメントのナイロン生糸(未加工糸)を使用したハーフ組織の経編地(目付:26g/m2 )を貼り合わせ、本発明の三層積層体布帛(目付:136g/m2 )を得た。
【0072】
この三層積層体布帛の評価結果等を表1、表2に示す。
実施例4
表地用として、44デシテックス12フィラメントのナイロン仮撚加工糸(単繊維繊度3.67デシテックス)を46ゲージ30インチの編機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編し、通常の染色法で加工し撥水処理をした丸編地(目付:79g/m2 、79ウエル/2.54cm、102コース/cm、編目数8058個/6.45cm2 )を準備した。
【0073】
上記丸編地のニードルループ面に、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質樹脂フィルム(目付:13g/m2 )をラミネート法によりポリウレタン系接着剤を用いて接着して本発明の二層積層体布帛(目付:111g/m2 )を得た。
【0074】
この二層積層体布帛の評価結果等を表1、表2に示す。
比較例1
表地用として、33デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸(単繊維繊度0.92デシテックス)を40ゲージ33インチの編機を使用してスムース組織のダブル丸編地を製編し、通常の染色法で加工し撥水処理をした丸編地(目付:71g/m2 、59ウエル/2.54cm、62コース/cm、編目数3658個/6.45cm2 )を準備した。
【0075】
上記丸編地の片面に、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質樹脂フィルム(目付:13g/m2 )をラミネート法によりポリウレタン系接着剤を用いて接着して二層積層体布帛を得た。
【0076】
さらに、その二層積層体布帛のフィルム面にポリウレタン系接着剤を用いて、裏地用として準備した17デシテックス7フィラメントのナイロン生糸(未加工糸)を使用した天竺組織の丸編地(目付:22g/m2 )を貼り合わせ、三層積層体布帛(目付:136g/m2 )を得た。
【0077】
この三層積層体布帛の評価結果等を表1、表2に示す。
比較例2
表地用として、17デシテックス5フィラメントのナイロン仮撚加工糸(単繊維繊度3.4デシテックス)を46ゲージ30インチの編機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編し、通常の染色法で加工し撥水処理をした丸編地(目付:23g/m2 、65ウエル/2.54cm、83コース/cm、編目数5395個/6.45cm2 )を準備した。
【0078】
上記丸編地のニードルループ面に、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質樹脂フィルム(目付:13g/m2 )をラミネート法によりポリウレタン系接着剤を用いて接着して二層積層体布帛(目付:55g/m2 )を得た。
【0079】
この二層積層体布帛の評価結果等を表1、表2に示す。
比較例3
表地用として、33デシテックス12フィラメントのポリエステル生糸(単繊維繊度2.75デシテックス)を60ゲージ30インチの編機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編し、通常の染色法で加工し撥水処理をした丸編地(目付:61g/m2 、82ウエル/2.54cm、108コース/cm、編目数8856個/6.45cm2 )を準備した。
【0080】
上記丸編地のニードルループ面に、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質樹脂フィルム(目付:13g/m2 )をラミネート法によりポリウレタン系接着剤を用いて接着して二層積層体布帛(目付:93g/m2 )を得た。
【0081】
この二層積層体布帛の評価結果等を表1、表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【符号の説明】
【0084】
1:積層体布帛のシングル丸編地層
2:積層体布帛の樹脂フィルム層
3:積層体布帛の樹脂フィルム保護層
A:編地の構成糸
D:編目の間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が20〜60デシテックス、単繊維繊度が0.2〜10デシテックスである仮撚加工された合成繊維マルチフィラメント糸条からなり、かつ、6.45cm2 当たりの編目数が6,000〜13,000個であるシングル丸編地と樹脂フィルムの少なくとも二層から形成されてなることを特徴とする積層体布帛。
【請求項2】
前記合成繊維マルチフィラメント糸条が、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1に記載の積層体布帛。
【請求項3】
前記シングル丸編地のカバーファクター(CF)が800〜1,700であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体布帛。
【請求項4】
前記シングル丸編地の目付が30〜100g/m2 であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体布帛。
【請求項5】
前記積層体布帛のJIS L 1018−2003 8.14.2定荷重時伸び率によるタテ方向およびヨコ方向の平均伸び率が5〜100%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層体布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−161924(P2012−161924A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21502(P2011−21502)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(597052053)ミツカワ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】