説明

積層体

【課題】ロールトゥロール(Roll to Roll)方式などのより簡易な製造プロセスによって大面積かつ低コストで生産することができ、欠陥やグレイン構造などが含まれないミクロ相分離構造を有する高分子膜を備える積層体、およびその積層体を製造する方法を提供する。
【解決手段】一の表面に、前記表面を基準として互いに平行に配列した複数の線状の凹部を有する基板12と、前記基板上に形成されるシリンダー状またはラメラ状のミクロドメインを含むミクロ相分離構造を有する高分子膜14aとを備える積層体であって、前記線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有し、前記凹部の内面と基準面である前記基板表面とのなす角度(θ)が90°未満であり、前記シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが前記基板の厚み方向に配向していることを特徴とする積層体10a。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関するものであり、より詳しくは所定の構造の凹部を有する基板と、その基板上に形成されるミクロ相分離構造を有する高分子膜とを備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料や電子材料の分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化などの要求が高まっている。このような要求に対応するため、ナノメートルレベルで構造制御された材料・構造体が必要とされている。
このような材料・構造体を作製するための微細パターニングの方法として、秩序パターンを自発的に形成する、いわゆる自己組織化を利用して、微細構造を作製するボトムアップ方式が提案されている。なかでも、異種の2以上のポリマー鎖が結合したブロック共重合体は、自己組織化によってデカナノレベルで相分離し、いわゆるミクロ相分離構造を形成することが知られている。このようなミクロ相分離構造のシリンダー状またはラメラ状のミクロドメインを、例えば、基板に対して垂直に配向させることができれば、位相差膜、偏光膜、ディスプレイ用部材、磁気記録媒体などに適用可能であり、エネルギー・環境・生命科学など広範な分野への応用が期待されている。
【0003】
通常、ブロック共重合体の構造体(例えば、膜)は、構造体の狭い領域(このような領域を「グレイン」と呼ぶ)でのみ規則正しく配向したミクロ相分離構造を有し、全体としては、複数のグレインが集合した不規則な配向のミクロ相分離構造を有している。現在までに、基板上に特定方向に配列した秩序パターンを有するブロック共重合体の膜を作製する試みがいくつかなされている。
例えば、特許文献1では、凹凸形状を有し、凹形状部分の深さがミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aに対して0.5a以上1.5a以上である基板を使用することにより、欠陥やグレイン構造などがない均一なミクロ相分離構造を有するブロック共重合体の薄膜が得られることが開示されている。
また、特許文献2では、基板上に、使用されるブロック共重合体の2つのブロック鎖の表面自由エネルギーの中間の値の表面自由エネルギーを有する中性層を形成し、さらに、ブロック鎖の一方の表面自由エネルギーに近い表面自由エネルギーを有するガイドパターンを形成することにより、その基板上に形成されるブロック共重合体のミクロ相分離構造を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−125699号公報
【特許文献2】特開2008−36491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1では、主に、規則的に配置された球状ミクロドメインを含む相分離構造を有する高分子膜が開示されているが、シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが基板に対して垂直方向に配向した相分離構造を備える高分子膜は具体的には開示されていない。なお、特許文献1に具体的に開示されてある凹部の断面形状は矩形のみであり、本発明者らが、特許文献1について検討行った結果、このような矩形構造では熱力学的観点より、ミクロドメインが垂直方向に配向した相分離構造が得られ難いことを見出した。
また、特許文献2では、ミクロドメインが基板に対して垂直方向に配向した相分離構造を備える高分子膜が得られているものの、基板表面上に中性層およびガイドパターンを作製する必要がある。そのため、生産プロセスが煩雑となると共に、生産性やコストの面では非常に不利となり、必ずしも工業的に適した方法とは言えない。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、ロールトゥ ロール(Roll to Roll)方式などのより簡易な製造プロセスによって大面積かつ低コストで生産することができる、欠陥やグレイン構造などが含まれないミクロ相分離構造を有する高分子膜を備える積層体、およびその積層体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、表面上に所定の断面形状を有する線状の凹部を有する基板を用いることにより、所望のミクロ相分離構造を有する高分子膜を備える積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
つまり、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<10>の構成により解決されることを見出した。
<1> 一の表面に、前記表面を基準として互いに平行に配列した複数の線状の凹部を有する基板と、前記基板上に形成されるシリンダー状またはラメラ状のミクロドメインを含むミクロ相分離構造を有する高分子膜とを備える積層体であって、
前記線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有し、
前記凹部の内面と基準面である前記基板表面とのなす角度が90°未満であり、
前記シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが前記基板の厚み方向に配向していることを特徴とする積層体。
<2> 前記線状の凹部の断面形状において、前記凹部の幅が、前記基板の表面から前記凹部の最深部へ向かって小さくなる<1>に記載の積層体。
<3> 前記線状の凹部の断面形状において、凹部が凸状の湾曲部から形成される、<1>または<2>に記載の積層体。
<4> 前記凹部の底部から高分子膜表面までの厚さTが、前記凹部の深さをhとしたとき、以下の関係を満たす<1>〜<3>のいずれかに記載の積層体。
T≦1.2×h 式(1)
<5> 前記線状の凹部の深さhが、20nm〜1000nmである、<1>〜<4>のいずれかに記載の積層体。
<6> 前記線状の凹部の開口部の幅Wが、20nm〜1000nmである、<1>〜<5>のいずれかに記載の積層体。
<7> 前記基板が、基板上にヒートモードの形状変化が可能な有機層を設け、前記有機層に集光した光を照射して照射部の有機層を除去し、さらに残存した有機層をマスクとして用い前記基板にエッチング処理を施し、その後、残存した有機層を除去することによって製造される基板である<1>〜<6>のいずれかに記載の積層体。
<8> 基板上に、ヒートモードの形状変化が可能な有機層を設け、前記有機層に集光した光をストライプ状に照射して、照射部の有機層を除去する工程と、
残存した有機層をマスクとして用い、前記基板にエッチング処理を施し、その後、基板上に残存した有機層を除去することにより、前記基板表面を基準として互いに平行に配列した複数の線状の凹部を有し、前記線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有し、前記凹部の内面と基準面である前記表面とのなす角度が90°未満である基板を製造する工程と、
得られた基板上に、2種以上の互いに非相溶であるポリマー鎖が結合してなるブロック共重合体を含む溶液を塗布して、乾燥させ、シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが前記基板の厚み方向に配向しているミクロ相分離構造を有する高分子膜を製造する工程とを備える、高分子膜を備える積層体の製造方法。
<9> 前記線状の凹部の断面形状において、前記凹部の幅が、前記基板の表面から前記凹部の最深部へ向かって小さくなる、<8>に記載の高分子膜の製造方法。
<10> 前記線状の凹部の断面形状において、凹部が凸状の湾曲部から形成される、<8>または<9>に記載の高分子膜を備える積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロール トゥ ロール(Roll to Roll)方式などのより簡易な製造プロセスによって大面積かつ低コストで生産することができる、欠陥やグレイン構造などが含まれないミクロ相分離構造を有する高分子膜を備える積層体、およびその積層体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)はシリンダー状ミクロ相分離構造を有する高分子膜を備える積層体を示す斜視断面図であり、(b)は上面図である。
【図2】図2(a)はラメラ状ミクロ相分離構造を有する高分子膜を備える積層体を示す斜視断面図であり、(b)は上面図である。
【図3】図3は、本発明で使用される基板の好適な実施形態の模式的断面図である。
【図4】図4は、図3の基板の凹部の概略断面図と、該凹部を水平面に投影した図である。
【図5】図5は、本発明で使用される基板の他の実施形態の模式的断面図である。
【図6】図6は、図5の基板の凹部の概略断面図と、該凹部を水平面に投影した図である。
【図7】図7(a)および(b)は、本発明で使用される基板の他の実施形態の模式的断面図である。
【図8】図8(a)〜(c)は、ミクロ相分離構造を有する高分子膜を備える積層体の製造方法を工程順に示す基板および高分子膜の模式的断面図である。
【図9】図9は、線状の凹部が形成された基板の電子顕微鏡写真を示す。
【図10】試料Aの上面からの原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る積層体について、図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の積層体の一実施形態の斜視断面図である。
同図に示す積層体10aは、基板12、高分子膜14aを備える。
なお、同図において、高分子膜14aは、基板12上の連続した線状の凹部(溝部)内に形成され、ジブロック共重合体(ポリマーAとポリマーBとが末端で結合)を用いて得られるミクロ相分離構造を有する。高分子膜14aは、連続相20と、連続相20中に分布するシリンダー状ミクロドメイン22とからなるシリンダー状ミクロ相分離構造を有する。シリンダー状ミクロドメイン22は、基板12の厚み方向(基板12の表面に対して垂直方向)に配向している。なお、基板12の凹部の断面形状は、深さ方向に凸状の湾曲部(円弧状)より形成されるが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
図2は、本発明の構造体の他の実施形態の斜視断面図である。
同図に示す積層体10bは、基板12、高分子膜14bを備える。
なお、同図において、高分子膜14bは、基板12上の連続した線状の凹部(溝部)内に形成され、ジブロック共重合体(ポリマーAとポリマーBとが末端で結合)を用いて得られるミクロ相分離構造を示す。高分子膜14bは、ラメラ状の相24と相26とから構成されるラメラ状ミクロ相分離構造を形成し、ラメラ状の相24と相26とは基板12の厚み方向(基板12の表面に対して垂直方向)に配向している。
図1および図2で示される積層体10aおよび10b中の、基板12は、同一の構成要素である。なお、図1および図2において、基板12、高分子膜14aおよび14bの層厚は該図によっては限定されない。
まず、本発明の積層体を構成する基板12、高分子膜14aおよび14bについて説明する。
【0014】
<基板>
本発明の基板12は、後述する高分子膜14aおよび14bを積層し、かつ支持するためのものであり、互いに平行に配列された線状の凹部(溝部)を有する。具体的には、基板の一の表面に、該表面を基準として互いに平行に配列した複数の連続した線状の凹部を有する。さらに、線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有し、凹部の内面と基準面である基板表面とのなす角度が90°未満である基板を使用することにより、後述する高分子膜中で所定の配列構造を有するミクロ相分離構造を得ることができる。
以下に、使用される基板について詳述する。
【0015】
本発明で使用される基板は、後述する所定の構造を有していれば、その種類は特に制限されない。例えば、石英基板、シリコンウエハ、ガラス基板、金属基板、可撓性基板などが挙げられる。なかでも、エッチング加工のしやすさの点で、シリコンウエハ、石英基板、可撓性基板が好ましい。
可撓性基板としては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、液晶ポリマー(LCP)、または、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、トリアセチルセルロース(TAC)などのポリマー基板、銅箔、アルミニウム箔などの金属フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、加工し易さ、取り扱い性からポリマー基板が好ましく、特に、耐熱温度が高く、耐溶剤性に優れ、かつ、機械的強度が良好な点で、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0016】
本発明で使用される基板は、線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有している。凹部は傾斜部と湾曲部とより構成されていてもよい。また、基板表面に対する傾きが異なる2種以上の傾斜部(直線部)より構成されていてもよい。より具体的には、凹部の断面形状として、V字状、円弧状、台形状などが挙げられる。
また、凹部の内面と基準面である基板表面とのなす角度が90°未満である。より詳細には、断面形状における凹部の内面が傾斜部(直線部)である場合はその傾斜線と、または、湾曲部である場合は湾曲部上の任意点での接線と、基板表面とのなす角が上記範囲であればよい。
以下に図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図3は、本発明で使用される基板の好適な一実施形態の模式的断面図である。
図3で示される基板30aの表面34に、複数の線状の凹部32aが互いに平行に配置されている。また、線状の凹部32aの断面形状において、凹部32aは深さ方向に凸状(円弧状、楕円円弧)の湾曲部36により形成されている。凹部32aが湾曲部36を有していると、ミクロドメインの配向がより整った相分離構造が得られ好ましい。
【0018】
図3に示すように、断面形状における凹部32aの内面(図3においては湾曲部36上の任意点における接線)と、基準となる基板表面34とのなす角度θは、90°未満であり、85°以下が好ましく、80°以下がより好ましく、60°以下が特に好ましい。また、下限値は0°であり、これは凹部32aの内面(図3においては湾曲部36上の任意点における接線)と基板表面34とが平行であることを指す。上記範囲内であれば、高分子膜中に形成されるミクロ相分離構造がより制御されたものとなり好ましい。なお、上記角度θは、凹部の内側方向における角度を意味する。
角度θは、例えば、基板を割り、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)などにより測定することができる。
【0019】
図3に示される凹部32aの中心間の距離(ピッチ:P)は、積層体の用途により適宜変更されるが、20〜2000nmが好ましく、20〜1500nmがより好ましく、20〜1000nmが特に好ましい。
ピッチPは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)などにより測定することができる。
【0020】
図3に示される凹部32aの深さh(基板表面から最深部までの深さ)は、積層体の使用方法などにより適宜選択されるが、20〜1000nmが好ましく、20〜750nmがより好ましく、20〜500nmが特に好ましい。凹部32aの深さhが、上記範囲内であれば、後述する高分子膜のミクロ相分離構造がより制御されたものとなり好ましい。
前記凹部32aの深さhは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)などにより測定することができる。
【0021】
図3に示される凹部32aの開口部の幅Wは、積層体の用途により適宜変更されるが、20〜1000nmが好ましく、20〜750nmがより好ましく、20〜500nmが特に好ましい。
凹部32aの幅Wは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)などにより測定することができる。
【0022】
上述のように、本発明において凹部の断面形状は湾曲部により構成されていることが好ましく、凹部の湾曲部の曲率半径が、50〜1000nmであることが好ましい。なかでも、得られるミクロ相分離構造の規則性がより向上する点で、曲率半径が75〜900nmであることがより好ましく、100〜800nmであることが特に好ましい。
【0023】
図5は、本発明で使用される基板の他の実施形態の模式的断面図である。
図5で示される基板30bの表面34に、複数の連続した線状の凹部32bが平行に配置されている。また、線状の凹部32bの断面形状は台形状であり、凹部32bは深さ方向に凸状の底面部40および傾斜部38を有している。
【0024】
図5において角度θは、凹部32bの内面(図5においては傾斜部38)と、基準となる基板表面34とのなす角度を指す。
なお、図5で示される角度θ、深さh、幅W、および、ピッチPは、上記の定義と同義である。
【0025】
なお、本発明において、断面形状における凹部の幅が、基板の表面から凹部の最深部へ向かって徐々に小さくなることが好ましい。凹部の内面がこのような構造であれば、熱力学的な観点から、ミクロドメインの基板表面に対して垂直方向への配向がより促進される。なかでも、断面形状がV字状、半円状、円弧状であることが好ましい。
【0026】
本発明においては、断面形状における凹部の傾斜部および/または湾曲部を水平面に垂直投影した投影面積Aと、凹部全体を水平面に垂直投影した投影面積Bとが、(A/B)×100≧20%を満たすことが好ましい。なかでも、(A/B)×100≧30%を満たすことが好ましく、(A/B)×100≧40%を満たすことがより好ましい。上記(A/B)×100が、上記範囲以上であると得られるミクロドメインの配向がより制御されたものとなる。
【0027】
図4上図は、凹部32aの概略断面図、図4下図は、凹部32aの湾曲部36を水平面に垂直投影した図である。凹部32aの深さ方向に凸状の湾曲部36を水平面に垂直投影した投影面積A(斜線部)は、凹部32a全体を水平面に垂直投影した投影面積Bと同じ面積となる。つまり、(A/B)×100=100(%)と計算される。
【0028】
図6上図は、凹部32bの概略断面図、図4下図は、凹部32bを水平面に垂直投影した図である。凹部32bの開口部に対応する領域に深さ方向に凸状の傾斜部38を水平面に垂直投影した投影面積Aは、図4下図における斜線部分となる。凹部32b全体を水平面に垂直投影した投影面積Bは全体の面積となる。
上述のように、(A/B)×100≧20%を満たすことが好ましい。
【0029】
本発明で使用される基板は、上記規定を満足していれば、線状の凹部の断面形状は特に制限されない。例えば、図7(a)に示すようにV字状(ジグザグ状)であってもよいし、図7(b)に示すように波状であってもよい。
なお、本発明においては、その効果を損なわない範囲において、開口部が凹部内側に傾いた構造を有していてもよい。
【0030】
本発明で使用される基板としては、上記の所定の要件を満たしていればよく、線状の凹部の断面形状が矩形(長方形状)ではないことが必要である。凹部の断面形状が短形の場合は、熱力学的観点から、ミクロドメインが基板の厚み方向に配向しにくく、所望の配向構造を有するミクロ相分離構造が得られない。
【0031】
本発明で使用される基板の厚みは、特に限定されず、形成される凹部の深さhとの関係で適宜選択される。取扱いが容易である点より、その厚みは50μm〜1.5mmが好ましく、50μm〜1.2mmがより好ましい。
【0032】
本発明で使用される所定の凹部を有する基板は、公知のリソグラフィー技術を用いて製造することができる。なかでも、基板の作製が容易であり、得られるミクロ相分離構造の構造がより制御されている点で、後述する基板上にヒートモードの形状変化が可能な有機層を設け、有機層に集光した光を照射して照射部の有機層を除去し、さらに残存した有機層をマスクとして用いて基板のドライエッチングを施し、その後、残存した有機層を除去することによって製造される基板であることが好ましい。
【0033】
<高分子膜>
本発明の高分子膜14a、14bは、基板12上に形成され、シリンダー状またはラメラ状の相(以下、ミクロドメインとも称する)が基板12の厚み方向(基板12の表面に対して垂直方向)に配向したミクロ相分離構造を形成する。
この高分子膜14a、14bの構造異方性により、光学異方性、異方導電性、熱伝導異方性、イオン伝導の異方性などが積層体に付与される。
まず、使用されるブロック共重合体について述べる。
【0034】
<ブロック共重合体>
一般的に、ブロック共重合体(ブロックコポリマー)とは、複数の種類のホモポリマー鎖がブロック(構成成分)として結合した高分子をいう。例えば、繰り返し構成単位がAモノマーからなるポリマーA鎖と、繰り返し構成単位がBモノマーからなるポリマーB鎖とが末端同士で結合したポリマーなどが挙げられる。
【0035】
本発明に使用されるブロック共重合体は、互いに非相溶な二種以上のポリマーからなり、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはマルチブロック共重合体のいずれの形態であってもよい。具体的には、ポリマーAからなる部分およびポリマーBからなる部分をそれぞれAブロックおよびBブロックとすると、−A−B−という構造を有する一つのAブロックと一つのBブロックとが結合したA−B型ブロック共重合体や、−A−B−A−という構造を有するBブロックの両端にAブロックが結合したA−B−A型ブロック共重合体や、−B−A−B−という構造を有するAブロックの両端にBブロックが結合したB−A−B型ブロック共重合体などが挙げられる。さらに、−(A−B)n−という構造を有する複数のAブロックとBブロックからなるブロック共重合体を用いてもよい。なかでも、入手のしやすさ、合成のしやすさの観点から、A−B型ブロック共重合体(ジブロック共重合体)が好ましい。なお、ポリマー同士を接続する化学結合は、共有結合が好ましい。
【0036】
本発明で使用されるブロック共重合体を構成するポリマーとしては、ビニル系高分子として、ポリスチレン類(例えば、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリトリメチルスチレン、ポリエチルスチレン、ポリイソプロピルスチレン、ポリクロルメチルスチレン、ポリメトキシスチレン、ポリアセトキシスチレン、ポリクロルスチレン、ポリジクロルスチレン、ポリブロムスチレン、ポリトリフルオロメチルスチレン)、ポリ(メタ)アクリレート類(例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸−2−エチルヘキシル、ポリメタクリル酸イソデシル、ポリメタクリル酸ラウリル、ポリメタクリル酸フェニル、ポリメタクリル酸メトキシエチル、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート、ポリフェニルアクリレート、ポリメトキシエチルアクリレート、ポリグリシジルアクリレート)、ポリビニルエステル類(例えば、ポリビニルアセテート、ポリビニルプロピオネート、ポリビニルブチレート、ポリビニルイソブチレート、ポリビニルカプロエート、ポリビニルクロロアセテート、ポリビニルメトキシアセテート、ポリビニルフェニルアセテート)、ポリアルキレン類(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン)、ポリビニルハロゲン化物類(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン)などが挙げられる。ジエン系高分子としては、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどが挙げられる。エーテル系高分子としては、ポリメチレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリチオエーテル、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。縮合系エステル型高分子としては、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ乳酸などが挙げられる。縮合系アミド型高分子としては、ナイロン6、ナイロン66、ポリ−m−フェニレンイソフタラミド、ポリ−p−フェニレンテレフタラミド、ポリピロメリットイミドなどが挙げられる。ブロック共重合体を構成するポリマー鎖の組み合わせは、使用するポリマー鎖同士が非相溶であれば特に限定されないが、例えば、ビニル系高分子同士、ビニル系高分子とジエン系高分子、ビニル系高分子とエーテル系高分子、ビニル系高分子と縮合系エステル型系高分子、ジエン系高分子同士の組み合わせが好ましく、ビニル系高分子1種以上使用することがより好ましく、ビニル系高分子同士が最も好ましい。
【0037】
より具体的には、例えば、ポリスチレン−ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン−ポリエチレンオキシド、ポリイソプレン−ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリメチルアクリレート−ポリスチレン、ポリブタジエン−ポリスチレン、ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリスチレン−ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリスチレン−ポリジメチルシロキサン、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド、ポリスチレン−ポリアクリル酸などが挙げられる。
なかでも、入手のしやすく汎用性がある点から、ポリスチレン−ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン−ポリエチレンオキシド、ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリスチレン−ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシドなどのブロック共重合体が好適に挙げられる。
【0038】
本発明においてブロック共重合体は、ブロック共重合体を構成する互いに非相溶な高分子ブロック鎖間の極性差が大きいものが好ましい。極性差は、例えば、溶解性パラメーター差(SP値差)で数値表現することができる。SP値は、分子構造から推算でき、Small、Hoy、Fedorsの理論SP値等多くの推算法が提案されている。この中で、Fedorsの理論SP値は、重合体の密度のパラメーターが不要のため、新規構造のポリマーに対しても有効な計算法である(日本接着協会誌、vol.22、no.10、564−567(1986)等参照)。Fedors推算法では、重合体を構成している原子もしくは極性基などの原子団が有する結合エネルギーおよび分子運動エネルギーΔei、重合体を構成する繰り返し単位の結合エネルギーおよび分子運動エネルギーΣΔei、重合体を構成している原子もしくは極性基などの原子団の占有体積Δvi、重合体を構成する繰り返し単位の占有体積ΣΔviによって、下記式3で理論SP値(単位は(cal/cm 1/2 である)を求めることができる。
式(3): SP=(ΣΔei/ΣΔvi) 1/2
【0039】
例えば、ポリスチレンの理論SP値は14.09(cal/cm1/2、ポリメチルメタクリレートの理論SP値は10.55(cal/cm1/2と推算される。従って、ポリスチレンブロック鎖とポリメチルメタクリレートブロック鎖とからなるブロック共重合体の極性差(SP値差)は、3.54(cal/cm1/2ということになる。
【0040】
本発明にかかるブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、使用目的により適宜選択されるが、1×10以上が好ましく、なかでも1×10〜1×10が好ましく、5×10〜1×10がより好ましい。なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0041】
本発明にかかるブロック共重合体は、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数重量平均分子量(Mn)とで表される分子量分布(Mw/Mn)が、1.00〜1.50であることが好ましく、1.00〜1.15であることが更に好ましい。Mw/Mnの値が上記範囲内であれば、より均一なサイズを有するミクロ相分離構造を形成することができる。
【0042】
本発明にかかるブロック共重合体の共重合比率は、高分子膜14a、14bでシリンダー状またはラメラ状のミクロ相分離構造が得られるように適宜選択される。
例えば、ジブロック共重合体(A−B型)またはトリブロック共重合体(A−B−A型)で、図1に示すようなシリンダー状ミクロ相分離構造の場合、共重合体を構成するポリマーAとポリマーBとの比率(ポリマーA/ポリマーB)=0.9/0.1〜0.65/0.35(体積比)または、0.35/0.65〜0.1/0.9(体積比)が好ましく、より好ましくは0.8/0.2〜0.7/0.3(体積比)または、0.3/0.7〜0.2/0.8(体積比)である。上記範囲内であれば、より配列の整ったシリンダー状のミクロ相分離構造が得られる。
また、図2に示すようなラメラ状ミクロ相分離構造の場合、共重合体を構成するポリマーAとポリマーBとの比率(ポリマーA/ポリマーB)=0.65/0.35〜0.35/0.65(体積比)が好ましく、より好ましくは0.6/0.4〜0.4/0.6(体積比)である。上記範囲内であれば、より配列の整ったラメラ状のミクロ相分離構造が得られる。
【0043】
本発明にかかるブロック共重合体は、公知の方法で合成することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0044】
<ミクロ相分離構造>
高分子膜14a、14bは、シリンダー状またはラメラ状の相(以下、ミクロドメインとも称する)が基板12の厚み方向(基板12に対して垂直方向)に配向したミクロ相分離構造を形成する。上述のように、図1では、ジブロック共重合体(ポリマーAとポリマーBとが末端で結合)を用いて得られるシリンダー状ミクロ相分離構造を有する構造体の斜視断面図を示す。なお、シリンダー状ミクロ相分離構造とは、一方の分離相がシリンダー状の構造をしているものをさす。
図1に示されるように高分子膜14aは、連続相20と、連続相20中に分布するシリンダー状ミクロドメイン22とからなるミクロ相分離構造を有し、基板12の表面上に配置されている。連続相20とシリンダー状ミクロドメイン22は、それぞれブロック共重合体を構成するポリマーAとポリマーBより形成される。シリンダー状ミクロドメイン22は、連続相20中に分布するとともに、基板12の厚み方向(基板12の表面に対して垂直方向)である図1(a)中のZ軸方向に配向している。つまり、シリンダー状ミクロドメイン22の長手方向(中心軸)は、高分子膜14aの厚さ方向と略並行に配列している。
そして、図1(b)に示すようにシリンダー状ミクロドメイン22は、膜の水平面(図中XY平面)において、千鳥配置をなすことが好ましく、特に六方格子状となるように規則配列パターンを形成していることが好ましい。ここで、六方格子状とは、ミクロドメインの一つと、これに隣接する2つのミクロドメインがなす角度θが略60度(略60度とは、50〜70度、好ましくは55〜65度をさす)となるような構造をさす。
なお、規則配列パターンは、六方格子状をとるものを例示したが、これに限定されることなく、例えば、正方配列をとる場合もある。また、規則配列パターンを有している場合に限定されるわけでなく、不規則配列パターンである場合も含まれる。
【0045】
シリンダー状ミクロドメイン22の大きさ(直径)は、使用するブロック共重合体の分子量などにより適宜制御することができ、5〜200nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。楕円などの場合は、長径が上記範囲内であればよい。
隣り合うミクロドメイン間の距離(中心軸間の距離)は、使用するブロック共重合体の分子量などにより適宜制御することができ、5〜300nmが好ましく、10〜150nmがより好ましい。ミクロドメインの大きさやミクロドメイン間の距離は、原子間力顕微鏡観察などによって測定することができる。
なお、ミクロドメインという用語はマルチブロックコポリマー中のドメインを表すのに一般に使用されており、ドメインのサイズを規定するものではない。
【0046】
シリンダー状ミクロドメイン22は、基板12の厚み方向(基板12の表面に対して垂直方向)に配向しており、略平行であることが好ましい。具体的に略平行とは、基板12厚み方向に対するシリンダー状ミクロドメイン32の中心軸の傾斜角度が±45度以内、好ましくは±30度以内であることを指す。傾斜角度は、超薄切片のTEM解析や、小角X線散乱解析などによって測定することができる。
【0047】
上述のように、図2では、ジブロック共重合体(ポリマーAとポリマーBとが末端で結合)を用いて得られるラメラ状ミクロ相分離構造を有する構造体の斜視断面図を示す。なお、ラメラ状ミクロ相分離構造とは、ラメラ状(板状)相で構成される構造をさす。図2に示すように、高分子膜14bでは、ラメラ状(板状)の相が交互に配置されている。それぞれのラメラ状の相24および相26は、それぞれブロック共重合体を構成するポリマーAとポリマーBより形成されている。ラメラ状の相は、基板12の厚み方向(基板12の表面に対して垂直方向)である図2(a)中のZ軸方向に配向している。つまり、ラメラ状相24および26の界面が、基板12の厚み方向に略並行して配列している。
また、図2に示すように、ラメラ状相24および26が、互いに隣接して、基板上の線状の凹部が伸びる方向(線状の凹部が配列する方向とは直交する方向)に平行に配置されていることが好ましい。つまり、ラメラ状相同士の界面が、線状の凹部(溝部)が伸びる方向に平行に配置される。
【0048】
ラメラ状相24、26の幅は、使用するブロック共重合体の分子量などにより適宜制御することができ、5〜200nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。ラメラ状相の幅は、原子間力顕微鏡観察などによって測定することができる。
【0049】
ラメラ状相24、26は、基板12の厚み方向(基板12の表面に対して垂直方向)に配向しており、略平行であることが好ましい。具体的に略平行とは、基板12の厚さ方向に対する、ラメラ相間の界面のなす傾斜角度が±45度以内、好ましくは±30度以内であることを指す。角度は、超薄切片のTEM解析や、小角X線散乱解析などによって測定することができる。
【0050】
本発明の高分子膜14a、14bは、層全体が規則配列パターンを有している場合に限定されるわけでなく、一部に不規則配列パターンを含む場合もある。
【0051】
高分子膜14a、14bの凹部の底部から高分子膜表面までの厚さTは、使用するブロック共重合体の濃度などを変えることにより適宜制御することができるが、10〜1200nmが好ましく、50〜1200nmがより好ましい。上記範囲内であれば、得られるミクロ相分離構造の規則性がより向上する。
膜厚の測定方法としては、公知のプロファイラ装置(KLA−Tecnor社製)などにより、任意の点を3ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0052】
なお、高分子膜14a、14bの厚さTは、上述した基板上の凹部の深さhとの間で以下式(1)の関係を満たすことが好ましい。
T≦1.2×h 式(1)
高分子膜14a、14bの厚さTが上記範囲内であれば、より構造の整ったミクロ相分離構造を作製することができる。
なお、厚さTと凹部の深さhとは、以下の式(2)の関係を満たすことがより好ましい。
T≦1.0×h 式(2)
【0053】
<積層体>
本発明の積層体は、上記の所定の構造を有する基板と、所定のミクロ相分離構造を有する高分子膜とを備える。この積層体は、広範な分野・用途への展開が可能となる。例としては、フォトマスク、異方性導電膜、異方性イオン伝導膜、フォトニック結晶、位相差膜、偏光膜、スクリーン、カラーフィルタ、ディスプレイ用部材、光電変換素子、ナノインプリントモールド、磁気記録媒体、音響振動材料、吸音材料および制振材料などが挙げられる。特に、フォトマスク、異方性導電膜、異方性イオン伝導膜、フォトニック結晶、位相差膜、偏光膜への応用が期待される。
【0054】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、特に制限されないが、短時間・低コストで製造でき、得られるミクロ相分離構造がより制御されたものになる点で、以下の工程により製造されることが好ましい。
(光照射工程) 基板上に、ヒートモードの形状変化が可能な有機層を設け、有機層に集光した光をストライプ状に照射して、照射部の有機層を除去する工程
(エッチング処理工程) 残存した有機層をマスクとして用い、基板にエッチング処理を施し、その後、基板上に残存した有機層を除去することにより、基板表面を基準として互いに平行に配列した複数の線状の凹部を有し、線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有し、凹部の内面と基準面である表面とのなす角度が90°未満である基板を製造する工程
(膜形成工程) 除去工程で得られた基板上に、2種以上の互いに非相溶であるポリマー鎖が結合してなるブロック共重合体を含む溶液を塗布して、乾燥させ、シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが前記基板の厚み方向に配向しているミクロ相分離構造を有する高分子膜を製造する工程
上記の各工程について、図8に従って、以下に説明する。
【0055】
<光照射工程>
光照射工程は、基板上に、ヒートモードの形状変化が可能な有機層を設け、有機層に集光した光をストライプ状に照射して、照射部の有機層を除去する工程である。この工程により、図8(a)に示すように、基板50表面上に複数の線状の凹部54を有する有機層52が形成される。この有機層52が後述するエッチング処理工程において、マスクとしての役割を果たす。
以下に、本工程で使用される材料および手順について詳述する。
【0056】
<有機層>
ヒートモードの形状変化が可能な有機層は、強い光の照射により光が熱に変換されてこの熱により材料が形状変化して凹部を形成することが可能な層であれば特に限定されない。例えば、シアニン系、フタロシアニン系、キノン系、スクワリリウム系、アズレニウム系、チオール錯塩系、メロシアニン系などの色素を含む層を用いることができる。
好適な色素の例としては、例えば、メチン色素(シアニン色素、ヘミシアニン色素、スチリル色素、オキソノール色素、メロシアニン色素など)、大環状色素(フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、ポルフィリン色素など)、アゾ色素(アゾ金属キレート色素を含む)、アリリデン色素、錯体色素、クマリン色素、アゾール誘導体、トリアジン誘導体、1−アミノブタジエン誘導体、桂皮酸誘導体、キノフタロン系色素などが挙げられる。これらの中でも、メチン色素、アゾ色素が特に好ましい。メチン色素としては、シアニン色素、オキソノール色素が特に好ましい。
【0057】
なお、有機層は、レーザ光源の波長に応じて適宜色素を選択したり、構造を改変することができる。
例えば、レーザ光源の発振波長が780nm付近であった場合、ペンタメチンシアニン色素、ヘプタメチンオキソノール色素、ペンタメチンオキソノール色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素などから選択することが有利である。
また、レーザ光源の発振波長が660nm付近であった場合は、トリメチンシアニン色素、ペンタメチンオキソノール色素、アゾ色素、アゾ金属錯体色素、ピロメテン錯体色素などから選択することが有利である。
更に、レーザ光源の発振波長が405nm付近であった場合は、モノメチンシアニン色素、モノメチンオキソノール色素、ゼロメチンメロシアニン色素、フタロシアニン色素、アゾ色素、アゾ金属錯体色素、ポルフィリン色素、アリリデン色素、錯体色素、クマリン色素、アゾール誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、1−アミノブタジエン誘導体、キノフタロン系色素などから選択することが有利である。
【0058】
以下、レーザ光源の発振波長が405nm付近であった場合に対し、有機層として好ましい化合物の例を挙げる。下記III−1〜III−14で表される化合物は、レーザ光源の発振波長が405nm付近であった場合の化合物である。
また、レーザ光源の発振波長が780nm付近であった場合、660nm付近であった場合の好ましい化合物は、特開2008−252056号公報の段落〔0024〕〜〔0028〕に記載されている化合物が挙げられる。なお、本発明は、これらの化合物を用いた場合に限定されるものではない。
【0059】
【化1】

【0060】
【化2】

【0061】
また、特開平4−74690号公報、特開平8−127174号公報、特開平11−53758号公報、特開平11−334204号公報、特開平11−334205号公報、特開平11−334206号公報、特開平11−334207号公報、特開2000−43423号公報、特開2000−108513号公報、および特開2000−158818号公報等に記載されている色素も好適に用いられる。
【0062】
このような色素型の有機層は、色素を、結合剤等と共に適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、次いで、この塗布液を、基板上に塗布して塗膜を形成した後、乾燥することにより形成できる。その際、塗布液を塗布する基板面の温度は、10〜40℃の範囲であることが好ましい。下限値は15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましく、23℃以上であることが特に好ましい。また、上限値としては、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることが更に好ましく、27℃以下であることが特に好ましい。このように被塗布面温度が上記範囲にあると、塗布ムラや塗布故障の発生を防止し、塗膜の厚さを均一にすることができる。なお、上記の上限値及び下限値は、それぞれが任意で組み合わせることができる。
ここで、有機層は、単層でも重層でもよく、重層構造の場合、塗布工程を複数回行うことによって形成される。
【0063】
塗布液中の色素の濃度は、有機溶媒に対して0.3〜30質量%で溶解することが好ましく、1〜20質量%で溶解することがより好ましく、テトラフルオロプロパノールに1〜20質量%以下で溶解することが特に好ましい。
【0064】
塗布液の溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジクロルメタン、1,2−ジクロルエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルホルムアミド等のアミド;メチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールジアセトンアルコール等のアルコール;2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のフッ素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;などが挙げられる。これらの中でも、酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート、メチルエチルケトン、イソプロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールが特に好ましい。
溶剤は使用する色素の溶解性を考慮して単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。塗布液中には、更に、酸化防止剤、UV吸収剤、可塑剤、潤滑剤等各種の添加剤を目的に応じて添加してもよい。
【0065】
塗布液が結合剤を含有する場合、結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ゼラチン、セルロース誘導体、デキストラン、ロジン、ゴム等の天然有機高分子物質;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン等の炭化水素系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル・ポリ酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、ゴム誘導体、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等の熱硬化性樹脂の初期縮合物等の合成有機高分子;を挙げることができる。
有機層の材料として結合剤を併用する場合に、結合剤の使用量は、一般に色素に対して0.01倍量〜50倍量(質量比)が好ましく、0.1倍量〜5倍量(質量比)がより好ましい。
【0066】
また、有機層には、有機層の耐光性を向上させるために、種々の褪色防止剤を含有させることができる。
褪色防止剤としては、一般的に一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項酸素クエンチャーとしては、既に公知の特許明細書等の刊行物に記載のものを利用することができる。
その具体例としては、特開昭58−175693号公報、同59−81194号公報、同60−18387号公報、同60−19586号公報、同60−19587号公報、同60−35054号公報、同60−36190号公報、同60−36191号公報、同60−44554号公報、同60−44555号公報、同60−44389号公報、同60−44390号公報、同60−54892号公報、同60−47069号公報、同63−209995号公報、特開平4−25492号公報、特公平1−38680号公報、同6−26028号公報等の各公報、ドイツ特許350399号明細書、日本化学会誌1992年10月号第1141頁等に記載のものを挙げることができる。
一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、色素の量に対して、0.1〜50質量%の範囲が好ましく、0.5〜45質量%の範囲がより好ましく、3〜40質量%の範囲が更に好ましく、5〜25質量%の範囲が特に好ましい。
【0067】
上記溶液の塗布方法としては、例えば、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。なお、生産性に優れ、膜厚のコントロールが容易であるという点でスピンコート法を採用するのが好ましい。
色素は、熱分解温度が150℃以上500℃以下であることが好ましく、200℃以上400℃以下であることがより好ましい。
塗布の際、塗布液の温度は、23℃〜50℃であることが好ましく、24℃〜40℃であることがより好ましく、25℃〜30℃であることが更に好ましい。
【0068】
以上、有機層の溶剤塗布法について述べたが、有機層は、蒸着、スパッタリング、CVD等の成膜法によって形成することもできる。
【0069】
なお、色素は、凹部54の加工に用いるレーザ光の波長において、他の波長よりも光の吸収率が高いものが用いられる。
この色素の吸収ピークの波長は、必ずしも可視光の波長域内であるものに限定されず、紫外域や、赤外域にあるものであっても構わない。
【0070】
レーザで凹部54を形成する波長λwは、λa<λwの関係であることが好ましい。このような関係にあれば、色素の光吸収量が適切で記録効率が高まるし、きれいな凹凸形状が形成できる場合がある。
なお、λaは色素材料の光の吸収のピーク波長、λwは凹部54を形成するときのレーザ光の波長を表す。
【0071】
なお、凹部54を形成するためのレーザ光の波長λwは、大きなレーザパワーが得られる波長であればよく、例えば、有機層に色素を用いる場合は、193nm、210nm、266nm、365nm、405nm、488nm、532nm、633nm、650nm、680nm、780nm、830nmなど、1,000nm以下が好ましい。
【0072】
また、レーザ光の種類としては、ガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザなど、どのようなレーザであってもよい。ただし、光学系を簡単にするために、固体レーザや半導体レーザを採用するのが好ましい。レーザ光は、連続光でもパルス光でもよいが、自在に発光間隔が変更可能なレーザ光を採用するのが好ましい。例えば、半導体レーザを採用するのが好ましい。レーザを直接オンオフ変調できない場合は、外部変調素子で変調するのが好ましい。
【0073】
また、レーザパワーは、加工速度を高めるためには高い方が好ましい。ただし、レーザパワーを高めるにつれ、スキャン速度(レーザ光で有機層を走査する速度)を上げなければならない。そのため、レーザパワーの上限値は、スキャン速度の上限値を考慮して、100Wが好ましく、10Wがより好ましく、5Wが更に好ましく、1Wが特に好ましい。また、レーザパワーの下限値は、0.1mWが好ましく、0.5mWがより好ましく、1mWが更に好ましい。
【0074】
更に、レーザ光は、発信波長幅及びコヒーレンシが優れていて、波長並みのスポットサイズに絞ることができるような光であることが好ましい。また、凹部を適正に形成するための光パルス照射条件は、光ディスクで使われているようなストラテジを採用するのが好ましい。即ち、光ディスクで使われているような、記録速度や照射するレーザ光の波高値、パルス幅などの条件を採用するのが好ましい。
【0075】
有機層上への上記レーザ光などの照射領域は、互いに平行に配列した線状の凹部54を有する有機層52が形成されるように、基板全域にわたってストライプ状に照射される。
上記手順により作製される凹部54の幅は、後述するエッチング処理工程でエッチングされる基板上の領域に合わせて適宜選択される。
【0076】
有機層52の厚さは、後述する基板表面上に形成される凹部の深さに対応させるのがよい。
この厚みは、例えば、1nm〜10,000nmの範囲で適宜設定することができ、厚さの下限は、10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましい。厚さが薄すぎると、基板上の凹部が浅く形成されるため、得られるミクロ相分離構造の規則性が劣る場合がある。また、厚さの上限は、1,000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。厚さが厚すぎると、大きなレーザパワーが必要になるとともに、基板上に深い穴を形成することが困難になることがあり、更には、加工速度が低下することがある。
【0077】
なお、凹部54が形成される原理は、以下の通りとなっている。
有機層に、材料の光吸収がある波長(材料で吸収される波長)のレーザ光を照射すると、有機層によってレーザ光が吸収され、この吸収された光が熱に変換され、光の照射部分の温度が上昇する。これにより、有機層が、軟化、液化、気化、昇華、分解などの化学または/および物理変化を起こす。そして、このような変化を起こした材料が移動または/および消失することで、凹部54が形成される。
【0078】
また、軟化、液化、気化、昇華、分解などの化学および/または物理変化の転移温度は、その上限値が、2,000℃以下であることが好ましく、1,000℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることが更に好ましい。転移温度が高すぎると、大きなレーザパワーが必要となることがある。また、転移温度の下限値は、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることが更に好ましい。転移温度が低すぎると、周囲との温度勾配が少ないため、明瞭な穴エッジ形状を形成することができなくなる場合がある。
【0079】
<エッチング処理工程>
エッチング処理工程は、上記光照射工程で得られた有機層を有する基板にドライエッチング処理を施し、基板上に残存した有機層を除去して、基板表面に互いに平行に配列した複数の線状の凹部を有する基板を製造する工程である。図8(b)に示すように、本工程を経ることにより連続した線状の凹部32aを有する基板30aが形成される。なお、ここでは凹部が湾曲部(円弧状)で形成された基板30aを例示しているが、本発明はこれに限定されるわけではない。
【0080】
エッチング条件としては、基板をエッチングできれば特に限定されず、基板の種類に応じて最適な処理が実施される。例えば、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸などの薬液で腐食を行うウェットエッチング、または、反応性イオンエッチングや反応性ガスエッチングなどのドライエッチングなどが挙げられる。なかでも、エッチング量の制御が容易という点から、ドライエッチングが好ましい。なお、エッチングガスは、基板に応じて適宜選択すればよく、CF4、NF3、SF6などのフッ素系、Cl2、BCl3などの塩素系のエッチングガスを用いて行うことができる。
エッチングの処理時間は、基板の用途などに応じて適宜調整することができるが、エッチング量の制御がよりし易い点で、5〜300秒が好ましく、10〜200秒がより好ましい。
【0081】
エッチング処理を施した後、基板上に残存した有機層を除去する。除去する方法は特に限定されず、残存した有機膜が溶解する溶媒で処理する方法やエッチングにより除去する方法などが挙げられる。
【0082】
得られる線状の凹部を有する基板30aは、上記の定義の通りである。
【0083】
<膜形成工程>
膜形成工程では、上記除去工程で得られた基板上に、2種以上の互いに非相溶であるポリマー鎖が結合してなるブロック共重合体を含む溶液を塗布して、乾燥させ、シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが前記基板の厚み方向に配向しているミクロ相分離構造を有する高分子膜を製造する工程である。図8(c)に示すように、基板30aの凹部内に、ラメラ状のミクロドメインが基板の厚み方向に略並行(基板表面に対して垂直方向)に配向しているミクロ相分離構造を有する高分子膜14bが形成される。なお、ラメラ状のミクロドメインの代わりに、シリンダー状のミクロドメインが形成されていてもよい。
【0084】
ブロック共重合体を含む溶液を作製する際に使用される溶媒は、ブロック共重合体が溶解すればよく、両者のポリマーの種類により適宜選択される。例えば、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1、4−ジオキサン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、エタノール、メタノール、ヘキサン、オクタン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロヘキサンノン、酢酸、酢酸エチル、酢酸メチル、ピリジン、N−メチル−ピロリドン、水などが挙げられる。なかでも、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトンが好ましい。
溶液中のブロック共重合体の濃度は、0.10〜20.0質量%が好ましく、0.25〜15.0質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、塗布の際に取り扱いやすく、均一な膜が得られやすい。
【0085】
上記溶液の基板上への塗布方法としては、特に限定されず、スピンコート法、溶媒キャスト法、浸漬コーティング法、ロールコート法、カーテンコート法、スライド法、エクストリュージョン法、バー法、グラビア法などの一般的な塗布方法を採用することができ、生産性などの観点から、スピンコート法が好ましく挙げられる。スピンコート法の条件は、使用するブロック共重合体などにより適宜選択される。塗布後に、必要に応じて、乾燥工程を設けてもよい。
溶媒を除去するための乾燥条件としては、適用される基板、および使用するブロック共重合体などに応じて適宜選択されるが、20〜200℃の温度で、0.5〜336時間の処理を行うことが好ましい。特に好ましい温度としては、20〜180℃が好ましく、さらに好ましくは、20〜160℃である。乾燥処理は数回に分けて行ってもよい。この乾燥処理は、窒素雰囲気下、低濃度酸素下または大気圧10トール以下で行うことが特に好ましい。
【0086】
膜形成工程終了後、必要に応じて、膜形成工程で得られた構造体(積層体)を加熱する処理(加熱工程)を施してもよい。加熱温度および時間は、使用するブロック共重合体および層厚に応じて適宜設定するが、一般的には、ブロック共重合体のガラス転移温度以上で加熱を行う。加熱温度は通常、60〜300℃で可能であるが、ブロック共重合体を構成するモノマー単位のガラス転移温度を考慮すると80〜270℃が好ましい。加熱時間は1分以上が適当であり、好ましくは10〜1440分である。また、加熱によるブロック共重合体膜の酸化劣化を防ぐため、不活性雰囲気または真空中で加熱を行うことが好ましい。
【0087】
膜形成工程終了後、必要に応じて、膜形成工程で得られた構造体(積層体)を有機溶剤の蒸気雰囲気中にさらす処理(溶媒処理工程)を行ってもよい。使用する有機溶剤としては、使用されているブロック共重合体により適宜選択されるが、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、メチレンクロライド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘキサン、オクタン、メタノール、エタノール、酢酸、酢酸エチル、ジエチルエーテル、二硫化炭素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましく、トルエン、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジオキサンがより好ましい。
【0088】
本発明においては、所定の線状の凹部を有する基板を使用することにより、ミクロドメインが基板の厚み方向に配向したミクロ相分離構造を有する高分子膜を容易に製造することができる。従来技術においては、基板上に所定の表面層などを作製する必要があったが、本願においては特にそのような中間層を設ける必要は特にない。そのためコスト面で優れると共に、ロール トゥ ロール(Roll to Roll)方式などのより簡易な製造プロセスにも適用でき、その工業的な価値は非常に高い。
また、例えば、高分子膜がラメラ状相分離構造を有する場合は、ラメラ状相が基板の線状の凹部が伸びる方向と平行に互いに隣接して配列する。このように本発明においては、基板の厚み方向のみならず、基板の水平方向におけるミクロドメインの配向制御を行うことができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
以下の実施例において原子間力顕微鏡(AFM)観察は、セイコーインスツルメンツ製のSPA−400で実施し、後述する表面粗さなどを測定した。走査透過電子顕微鏡(STEM)観察は、日立ハイテク製のHD−2300で実施した。
【0091】
<実施例1>
シリコンウエハを用い、該シリコンウエハ上に、下記構造式で表されるオキソノール有機物45mgを、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール1mlに溶解した溶液を、スピンコーターを用いて回転数300rpmで塗布し、その後回転数1,000rpmで乾燥させ、厚さ220nmの有機層を形成した。
【0092】
【化3】

【0093】
次に、基板上の有機層に、NEO1000(パルステック工業株式会社製)にて、5m/s、5mWにて幅500nmのストライプ状に、レーザ照射を行った。これにより、表面に線状の凹部が形成された有機層を有する基板が得られた。
次に、得られた有機層を有する基板をRIEドライエッチング装置にてエッチング処理した。処理条件としては、エッチングガス:SF、出力:150W、エッチング時間:32秒であった。処理後に、得られたサンプルをトルエンに浸漬し超音波洗浄を行うことで、有機層を除去して、表面上に凹部を有する基板を作製した。
図9に表面に凹部が形成された基板の電子顕微鏡写真を示す。線状の凹部の断面形状は湾曲線(円弧状)により形成されており、凹部の深さは120nm、開口部の幅は約500nm、隣接する凹部の中心間の最短距離(ピッチ)は500nmであった。凹部の内面(湾曲部の任意の点における接線)と基準面となる基板表面とのなす角は0〜50°であり、凹部の曲率半径は330nmであった。凹部の湾曲部を水平面に垂直投影した投影面積Aと、凹部全体を水平面に垂直投影した投影面積Bとの関係[(A/B)×100]は、100%であった。
【0094】
次に、上記基板上に、PS-b-PMMA(Mw(PS)=37,000、Mw(PMMA)=37,000)(Polymer Source社)1.0wt%トルエン溶液をスピンコート(1500rpm、30秒)した。スピンコート後、真空乾燥機にて200℃、5時間アニールすることで、高分子膜(基板凹部の最底部から高分子膜表面部までの厚み100nm)を作製した。これを試料Aとする。試料Aの表面AFM像を図10に示す。図10および層厚方向の構造を観察したTEM観察より、高分子膜でラメラ状ミクロドメインが基板の厚み方向に配向した垂直ラメラ状相分離構造が形成されていることが確認された。
【符号の説明】
【0095】
10a、10b 積層体
12、30a、30b、30c、30d 凹部を有する基板
14a、14b 高分子膜
20 連続相
22 シリンダー状ミクロドメイン
24 ラメラ相(ポリマーA鎖)
26 ラメラ相(ポリマーB鎖)
32a、32b 線状の凹部
34 表面
36 湾曲部
38 傾斜部
40 底面部
50 基板
52 有機層
54 凹部(有機層中)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の表面に、前記表面を基準として互いに平行に配列した複数の線状の凹部を有する基板と、前記基板上に形成されるシリンダー状またはラメラ状のミクロドメインを含むミクロ相分離構造を有する高分子膜とを備える積層体であって、
前記線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有し、
前記凹部の内面と基準面である前記基板表面とのなす角度が90°未満であり、
前記シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが前記基板の厚み方向に配向していることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記線状の凹部の断面形状において、前記凹部の幅が、前記基板の表面から前記凹部の最深部へ向かって小さくなる請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記線状の凹部の断面形状において、凹部が凸状の湾曲部から形成される、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記凹部の底部から高分子膜表面までの厚さTが、前記凹部の深さをhとしたとき、以下の関係を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
T≦1.2×h 式(1)
【請求項5】
前記線状の凹部の深さhが20nm〜1000nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記線状の凹部の開口部の幅Wが20nm〜1000nmである、請求項1〜5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記基板が、基板上にヒートモードの形状変化が可能な有機層を設け、前記有機層に集光した光を照射して照射部の有機層を除去し、さらに残存した有機層をマスクとして用い前記基板にエッチング処理を施し、その後、残存した有機層を除去することによって製造される基板である請求項1〜6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
基板上に、ヒートモードの形状変化が可能な有機層を設け、前記有機層に集光した光をストライプ状に照射して、照射部の有機層を除去する工程と、
残存した有機層をマスクとして用い、前記基板にエッチング処理を施し、その後、基板上に残存した有機層を除去することにより、基板表面を基準として互いに平行に配列した複数の線状の凹部を有し、前記線状の凹部の断面形状において、凹部は深さ方向に凸状の傾斜部または湾曲部を有し、前記凹部の内面と基準面である前記表面とのなす角度が90°未満である基板を製造する工程と、
得られた基板上に、2種以上の互いに非相溶であるポリマー鎖が結合してなるブロック共重合体を含む溶液を塗布して、乾燥させ、シリンダー状またはラメラ状のミクロドメインが前記基板の厚み方向に配向しているミクロ相分離構造を有する高分子膜を製造する工程とを備える、高分子膜を備える積層体の製造方法。
【請求項9】
前記線状の凹部の断面形状において、前記凹部の幅が、前記基板の表面から前記凹部の最深部へ向かって小さくなる、請求項8に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項10】
前記線状の凹部の断面形状において、凹部が凸状の湾曲部から形成される、請求項8または9に記載の高分子膜を備える積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−234703(P2010−234703A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86408(P2009−86408)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】