説明

積層型圧電アクチュエータの製造方法及び積層型圧電アクチュエータ

【課題】発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることのできる積層型圧電アクチュエータの製造方法を提供する。
【解決手段】圧電セラミック層と内部電極とを交互に積層してなるセラミック積層体の側面に、前記内部電極と導通確保のために設けられた外部電極を有する積層型圧電アクチュエータの製造方法であって、前記セラミック積層体と前記外部電極とを用いて予め組み立てておいた前記積層型圧電アクチュエータに直流電圧を入力し、当該積層型圧電アクチュエータの分極を行う分極工程S1と、分極を行った積層型圧電アクチュエータに、予荷重が分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータの発生応力の1/2以下であり、周波数が分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータの共振周波数の1/1000以下であり、立上り時間及び立下り時間がそれぞれ200μ秒以下であるパルス電圧を入力するパルス電圧入力工程S2とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型圧電アクチュエータの製造方法及び積層型圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型圧電アクチュエータは、素早い応答性と精密な動作、高い発生力を有することから幅広い分野で利用されている。
例えば、自動車産業の分野では、ディーゼルエンジンなどの内燃機関の燃料の噴射をON/OFFする弁やダンパーの油圧を制御する弁に利用されている。また、半導体事業の分野では、半導体結晶を作るガスの成分を精密にコントロールするマスフロー装置のバルブや、半導体露光装置のステージの微小な位置合わせ或いはミラー(レンズ)の位置合わせを行うアクチュエータとして利用されており、通信事業の分野では通信容量を拡大するためのDWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)や特定の波長の光だけを通すチューナブル・光フィルタ、微小なミラーを動かす光スイッチなどに用いられている。
【0003】
かかる積層型圧電アクチュエータは、圧電セラミック層と内部電極とを交互に積層してなるセラミック積層体の側面に、内部電極と導通確保のための外部電極を取り付けた後、自発分極の方向がランダムな状態となっている焼結後の圧電セラミック層の自発分極の方向を揃えて圧電アクチュエータとして使用することができるようにするため、高電圧を一定方向に入力する分極処理を行っていた。
【0004】
なお、積層型圧電アクチュエータは、積層直後においては電界に対する初期ひずみが大きいという特性を有するため、積層直後に高速度でパルス電圧(パルス状の電圧波形を有する電圧をいう)を入力すると、積層型圧電アクチュエータがパルス電圧の入力速度に追随できず、引張り、圧縮応力により微小欠損(クラック)が入るという不具合が発生する。このようにクラックが入ると、当該クラックを起点に積層型圧電アクチュエータの劣化が進み、耐久性の観点で望ましくないという問題を有していた。
【0005】
この問題を解消するため、従来の分極処理に替えて、例えば、特許文献1や特許文献2に記載の分極方法による分極処理が提案されている。
【0006】
前記特許文献1には、圧電磁器(本願の積層型圧電アクチュエータに相当する)にパルス電圧を入力して分極する圧電磁器の分極方法であって、図3に示すように、前記パルス電圧が高周波数成分を含むことを特徴とする圧電磁器の分極方法が記載されている。また、特許文献1には、パルス電圧が、矩形波、台形波及び三角波のうちいずれかであること、パルス電圧の立上り時間及び立下り時間が0.1マイクロ秒(μ秒)から1ミリ秒(m秒)であること、圧電磁器を80℃からキュリー温度の範囲に加熱しながら分極すること、圧電磁器に入力するパルス電圧の周波数が1Hzから1kHzの範囲であること、圧電磁器の分極方向側の面に圧縮力(5MPa以上)を入力しながら分極することなどが記載されている。
【0007】
この特許文献1によれば、前記したように高周波数成分を含むことにより、圧電磁器に含まれる多くの結晶粒やドメインを振動させることができ、圧電磁器を十分に分極できるとしている。
【0008】
前記特許文献2には、圧電セラミック層と内部電極とが交互に積層されてなる積層型圧電素子(本願の積層型圧電アクチュエータに相当する)を分極するに際し、直流電圧を入力する第1の直流分極、パルス電圧を入力するパルス分極、及び直流電圧を入力する第2の直流分極をこの順に行うことを特徴とする積層型圧電素子の分極方法が記載されている。また、特許文献2には、前記第1の直流分極及び第2の直流分極は積層型圧電素子に圧力を加えることなく行い、前記パルス分極は積層型圧電素子に所定の圧力を加えて行うこと、前記パルス分極は、素子温度が120℃〜200℃の範囲となるような条件で行うことが記載されている。
【0009】
この特許文献2によれば、第1の直流分極とパルス分極とをこの順で行うことにより飽和電極に近い十分な分極が実現でき、次いで行う第2の直流分極を行うことにより層間剥離する形のクラックを十分に拡大することができる結果、駆動の際の入力圧力がパルス分極時の入力圧力よりも低い場合であっても層間に跨るクラックの発生を抑制することが可能となり、駆動停止などの事態を回避することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−296784号公報
【特許文献2】特開2008−53285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来から行われている高電圧を一定方向に入力する分極処理では、発生変位や発生応力といった圧電特性を十分に向上させることができないという問題があった。
【0012】
また、特許文献1,2に記載の分極方法によっても前記した圧電特性を十分に向上させることができるとはいえなかった。
さらに、前記したように積層型圧電アクチュエータは、積層直後においては電界に対する初期ひずみが大きく、積層直後に高速度でパルス電圧を入力すると積層型圧電アクチュエータがパルス電圧の入力速度に追随できず、引張り、圧縮応力によりクラックが入るという不具合が発生するところ、特許文献1,2では、分極処理の初期の段階からパルス電圧を入力するため積層型圧電アクチュエータにクラックが入り易かった。そのため積層型圧電アクチュエータの劣化が進み易く、耐久性の観点で望ましくないという問題があった。
【0013】
本発明は前記状況に鑑みてなされたもので、圧電特性を十分に向上させることのできる積層型圧電アクチュエータの製造方法、及び圧電特性を十分に向上させた積層型圧電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)前記課題を解決するため、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法は、圧電セラミック層と内部電極とを交互に積層してなるセラミック積層体の側面に、前記内部電極と導通確保のために設けられた外部電極を有する積層型圧電アクチュエータの製造方法であって、前記セラミック積層体と前記外部電極とを用いて予め組み立てておいた前記積層型圧電アクチュエータに直流電圧を入力し、当該積層型圧電アクチュエータの分極を行う分極工程と、分極を行った前記積層型圧電アクチュエータに、予荷重を前記分極工程後の積層型圧電アクチュエータの発生応力の1/2以下で入力しつつ、周波数が前記分極工程後の積層型圧電アクチュエータの共振周波数の1/1000以下であり、且つ、立上り時間及び立下り時間がそれぞれ200μ秒(マイクロ秒)以下であるパルス電圧を入力するパルス電圧入力工程とを含むことを特徴としている。
【0015】
このように、直流電圧を積層型圧電アクチュエータに入力する分極工程後に、当該分極工程とは別に、特定の条件の予荷重を入力しつつ、特定の条件の周波数、及び特定の条件の立上り時間と立下り時間を有するパルス電圧を積層型圧電アクチュエータに入力するパルス電圧入力工程を行うことによって積層型圧電アクチュエータのドメインを励振させ、ドメインの分極を整列させることが可能となる。そのため、分極工程を行った積層型圧電アクチュエータをより活性化することが可能となり、駆動方向である厚さ方向(d33)の出力に寄与する発生変位及び発生応力を向上させることができる。
【0016】
(2)また、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法においては、前記パルス電圧入力工程は、室温からキュリー点以下の温度で行い、前記パルス電圧の入力時間を4時間以下とするのが好ましい。
【0017】
このようなパルス電圧入力工程を行うと積層型圧電アクチュエータの多結晶粒やドメインを確実に励振させることができ、結晶粒やドメインの分極を整列させることができる。そのため、分極工程を行った積層型圧電アクチュエータをさらにより活性化することが可能となり、駆動方向である厚さ方向(d33)の出力に寄与する発生変位及び発生応力をより向上させることができる。
【0018】
そして、本発明に係る積層型圧電アクチュエータは、前記した(1)又は(2)に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法によって製造されたことを特徴としている。
【0019】
このように、本発明に係る積層型圧電アクチュエータは、前記した(1)又は(2)に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法によって製造されているので、当該積層型圧電アクチュエータは活性化されており、駆動方向である厚さ方向(d33)の出力に寄与する発生変位及び発生応力が向上している。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、直流電圧の入力を行う分極工程後に、特定の条件で行うパルス電圧入力工程を行っているので、積層型圧電アクチュエータの発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができる。
このように、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができるため、積層型圧電アクチュエータの形状の自由度が増加し、薄型化、小型化、コスト低減を図ることができる。
さらに、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができるため、誘電正接が小さくなり、損失を小さくすることができる。従って、発熱量を小さくすることができ、積層型圧電アクチュエータの耐久性を向上させ、信頼性の向上を図ることができる。
【0021】
本発明に係る積層型圧電アクチュエータによれば、前記した本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によって製造されているので、発生応力や発生変位といった圧電特性が十分に向上している。
このように、本発明に係る積層型圧電アクチュエータによれば、発生応力や発生変位といった圧電特性が十分に向上しているため、積層型圧電アクチュエータの形状の自由度が増加し、薄型化、小型化、コスト低減を図ることができる。
さらに、本発明に係る積層型圧電アクチュエータによれば、発生応力や発生変位といった圧電特性が十分に向上しているため、誘電正接が小さくなり、損失を小さくすることができる。従って、本発明に係る積層型圧電アクチュエータは、発熱量が小さく、耐久性が向上するため、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る積層型圧電アクチュエータの一例を示す構成図である。
【図2】本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法のフローチャートである。
【図3】従来技術における、積層型圧電アクチュエータに入力するパルス電圧の波形を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の要旨は、直流電圧を入力して分極を行った積層型圧電アクチュエータに、特定の条件の低周波のパルス電圧を入力することによって素子の分極をより活性化させ、素子の発生応力や発生変位といった圧電特性を向上させることにある。
【0024】
以下、適宜図面を参照して本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法及び積層型圧電アクチュエータについて詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法について説明する前に、当該製造方法によって製造される本発明に係る積層型圧電アクチュエータについて説明する。
【0026】
図1に示すように、本発明に係る積層型圧電アクチュエータ1は、圧電セラミック層2と内部電極3とを交互に積層してなるセラミック積層体4の側面に、前記した内部電極3と導通確保のために設けられた一対の外部電極5を有する。
【0027】
圧電セラミック層2は、発生応力や発生変位といった圧電特性を有するセラミック材料全般を使用して形成することが可能である。例えば、チタン酸鉛とジルコン酸鉛の混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いることができる。PZTは、Pb(Zrx,Ti1-x)O3の組成式で表され、x=0.525付近のものを用いると大きな圧電特性を得ることができるので好ましい。なお、圧電セラミック層2を構成することのできる材料は、これに限定されるものではない。例えば、Pbの一部をSr,Ba,Caなどで置換した複合酸化物も用いることができる。また、圧電セラミック層2は、例えば、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、ロッシェル塩(酒石酸カリウム−ナトリウム)(KNaC446)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、リチウムテトラボレート(Li247)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)、窒化アルミニウム、電気石(トルマリン)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのセラミック材料を使用して形成することもできる。
【0028】
圧電セラミック層2は、前記したセラミック材料を含むグリーンシートを焼成することにより形成することができる。焼成後の圧電セラミック層2の厚さは、例えば、80〜100μm程度とすることができる。なお、圧電セラミック層2の厚さはこれに限定されるものではなく、積層数などに応じて所望の圧電特性が得られるように設計することができる。
【0029】
内部電極3は、前記圧電セラミック層2と積層することができて、当該圧電セラミック層2に電圧を入力することのできるものであれば従来公知の材料を使用することができる。例えば、銀、パラジウム、銅、ニッケル、白金などの導電性に優れた金属を単体で、或いは、これらを用いて合金化したものを含む導電ペーストなどとして、前記グリーンシート上にスクリーン印刷等の手法により所定のパターンで印刷することで形成することができる。また、蒸着法、スパッタ法、メッキ法などによっても形成することができる。内部電極3の厚さは、例えば、0.5〜5μm程度とすることができる。
【0030】
圧電セラミック層2に積層する内部電極3の積層位置や面積によって、圧電特性を得ることのできる有効電極面積Eが決定する。内部電極3の積層位置や面積は、所望する製品に応じて自由に決定することができる。また、圧電セラミック層2と内部電極3は任意の積層数とすることができる。
【0031】
図1に示すように、前記した内部電極3は、一対の外部電極5,5のうちの一方の外部電極5に接続されたものと、他方の外部電極5に接続されたものとを交互に配置することができる。
【0032】
外部電極5は、内部電極3と導通を確保することのできるものであれば特に制限されることなく従来公知の外部電極5を使用することができる。外部電極5は、例えば、銀、パラジウム、銅、鉄、ニッケル、白金などの導電性に優れた金属を単体で、或いは、これらを用いて合金化したものを含む導電ペーストを印刷して焼きつけることで形成することができる。もちろん、前記した金属を用いた板材を使用することもできる。
【0033】
積層型圧電アクチュエータ1は、図1に示すように、例えば、長さLが7mm、幅Wが7mm、高さHが32mmの長方体状の形状とすることができる。もちろん、積層型圧電アクチュエータ1の形状はこれに限定されるものではなく、所望する製品に応じて適宜寸法等を変更することができる。
【0034】
以上に説明した積層型圧電アクチュエータ1は、後記する本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によって製造されているので、発生応力や発生変位といった圧電特性が十分に向上している。
本発明に係る積層型圧電アクチュエータ1によれば、発生応力や発生変位といった圧電特性が十分に向上しているため、積層型圧電アクチュエータ1の形状の自由度が増加し、薄型化、小型化、コスト低減を図ることができる。
さらに、本発明に係る積層型圧電アクチュエータ1によれば、発生応力や発生変位といった圧電特性が十分に向上しているため、誘電正接が小さくなり、損失を小さくすることができる。従って、本発明に係る積層型圧電アクチュエータ1は、発熱量が小さく、耐久性が向上するため、信頼性が向上する。
【0035】
次に、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法について説明する。
図2に示すように、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法は、前記した積層型圧電アクチュエータ1を製造するため、大きく分けて分極工程S1と、パルス電圧入力工程S2とを含み、これらの工程をこの順に行う。
【0036】
なお、この分極工程S1の前に、本発明の属する技術分野において従来公知の技術により、圧電セラミック層2と内部電極3とを交互に積層してセラミック積層体4を製造するセラミック積層体製造工程(図示せず)、外部電極5を製造する外部電極製造工程(図示せず)、製造したセラミック積層体4と外部電極5とを用いて、分極前の積層型圧電アクチュエータ1を予め組み立てておく組立工程(図示せず)などを行うことができる。
【0037】
図2に戻って説明を続ける。
分極工程S1は、製造しておいたセラミック積層体4と外部電極5とを用いて予め組み立てておいた積層型圧電アクチュエータ1に直流電圧を入力し、当該積層型圧電アクチュエータ1の分極を行う工程である。
【0038】
この分極工程S1では、積層型圧電アクチュエータ1を完全に分極するのが好ましい。
そのため分極工程S1では、積層型圧電アクチュエータ1に対して、例えば、1000kV/秒から5000kV/秒で電圧200〜250Vまで昇圧後入力を停止する。このような条件で直流電圧を入力すれば、積層型圧電アクチュエータ1を分極することができる。なお、昇圧後に任意の時間電圧を保持してもよい。
【0039】
また、分極工程S1では、駆動方向及びこの駆動方向と逆の方向となるように、分極方向を繰り返し逆転させて入力してもよい。このように、分極方向を繰り返し逆転させて入力することで、電界方向に向いたドメインの配向成分を増した結晶粒を増やすことができる。
【0040】
次いで行うパルス電圧入力工程S2は、分極工程S1で分極を行った積層型圧電アクチュエータ1に、予荷重が分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータ1の発生応力の1/2以下であり、周波数が前記分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータ1の共振周波数の1/1000以下であり、立上り時間及び立下り時間がそれぞれ200μ秒以下であるパルス電圧を入力する工程である。予荷重、周波数、立上り時間及び立下り時間がこの範囲であれば、パルス電圧入力時に積層型圧電アクチュエータ1にかかる引張り、圧縮応力によるクラックを抑制することができるため、発生応力や発生変位といった圧電特性を向上させることができる。
【0041】
前記した予荷重は、分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータ1の発生応力の3/5以下であれば発生応力や発生変位といった圧電特性を向上させることができるが、前記したように1/2以下とすると、より確実に圧電特性を向上させることができ、また圧電特性の向上率も高い。
予荷重が分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータ1の発生応力の1/2を超えると、発生応力や発生変位といった圧電特性が飽和するだけでなく、パルス電圧入力時にクラックが発生して圧電特性が低下する場合もある。
【0042】
前記した周波数は、分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータ1の共振周波数の1/200以下であれば発生応力や発生変位といった圧電特性を向上させることができるが、前記したように1/1000以下とすると、より確実に圧電特性を向上させることができ、また圧電特性の向上率も高い。
周波数が分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータ1の共振周波数の1/1000よりも大きいと、発生応力や発生変位といった圧電特性が飽和するだけでなく、パルス電圧入力時にクラックが発生して圧電特性が低下する場合もある。
なお、共振周波数は、公知の周波数特性分析器を使用して分極工程S1後の積層型圧電アクチュエータ1を実測するのが好ましい。このようにすれば、正確な共振周波数を把握することができる。公知の周波数特性分析器としては、例えば、アジレントテクノロジー社製インピーダンスアナライザ4294Aなどを使用することができる。
【0043】
さらに、パルス電圧の立上り時間及び立下り時間がそれぞれ200μ秒を超えると、パルス電圧の立上り時間及び立下り時間が長過ぎるため発生応力や発生変位といった圧電特性が十分に向上しないおそれがある。
【0044】
このパルス電圧入力工程S2は、室温(約25℃)からキュリー点以下の温度で行い、パルス電圧の入力時間を4時間以下とするのが好ましい。
パルス電圧入力工程S2の温度が室温からキュリー点以下の温度であれば、確実に発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができる。
【0045】
また、パルス電圧の入力時間が4時間以下であれば、発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができ、コスト的にも有利となるので好適である。なお、パルス電圧の入力時間は4時間を超えても15時間程度以下であれば圧電特性を向上させることが可能である。パルス電圧の入力時間は1時間以上とするのが好ましい。
このパルス電圧入力工程S2におけるパルス電圧の立上り速度及び立下り速度は1000〜5000kV/秒とするのがよく、電圧はこの立上り速度で200〜250Vまで昇圧させることが望ましい。
【0046】
かかるパルス電圧入力工程S2を実施すると、分極工程S1のみを行ったものと比較して、例えば、発生応力を8.5〜18.7%向上させ、発生変位を示す圧電定数(圧電d定数d33)を4.8〜22.2%向上させることができる。また、誘電率を7.7〜15.5%向上させ、入力電圧を発生変位や発生応力に変換する変換効率を示す電気機械結合係数(k33)を1.5〜5.5%向上させ、発熱量に直結する誘電正接(tanδ)を0.2〜0.5%低減させることができる。
【0047】
このように、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、製造して分極した積層型圧電アクチュエータ1の発生変位や発生応力といった圧電特性を十分に向上させることができるので、積層型圧電アクチュエータ1の形状の自由度が増加し、薄型化、小型化、コスト低減を図ることができる。
また、誘電率や電気機械結合係数を向上させることができるから電気的な特性も向上する。さらに、誘電正接を小さくすることができるため、電圧を入力したときに素子に流れる電流の位相を90°進ませることができる結果、損失が小さくなり、発熱量を小さくすることが可能となる。そのため、耐久性等の信頼性を向上させることができる。
【0048】
以上に説明した本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、直流電圧の入力を行う分極工程S1後に、特定の条件で行うパルス電圧入力工程S2を行っているので、積層型圧電アクチュエータ1の発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができる。
このように、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができるため、積層型圧電アクチュエータ1の形状の自由度が増加し、薄型化、小型化、コスト低減を図ることができる。
さらに、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、発生応力や発生変位といった圧電特性を十分に向上させることができるため、誘電正接が小さくなり、損失を小さくすることができる。従って、発熱量を小さくすることができ、積層型圧電アクチュエータの耐久性を向上させ、信頼性の向上を図ることができる。
【0049】
そして、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法によって製造された積層型圧電アクチュエータ1は、発生変位や発生応力といった圧電特性が十分に向上されているため、例えば、自動車産業の分野では、ディーゼルエンジンなどの内燃機関の燃料の噴射をON/OFFする弁やダンパーの油圧を制御する弁に好適に利用することができる。また、半導体事業の分野では、半導体結晶を作るガスの成分を精密にコントロールするマスフロー装置のバルブや、半導体露光装置のステージの微小な位置合わせ或いはミラー(レンズ)の位置合わせを行うアクチュエータとして好適に利用することができる。さらに、通信事業の分野では、通信容量を拡大するためのDWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)や特定の波長の光だけを通すチューナブル・光フィルタ、微小なミラーを動かす光スイッチなどに好適に利用することができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明に係る積層型圧電アクチュエータの製造方法及び積層型圧電アクチュエータについて実施例を示して説明する。
【0051】
まず、常法により、下記表1に示す構成の積層型圧電アクチュエータを20個製造し、製造した積層型圧電アクチュエータに対して入力電圧200V、Duty30%、昇圧1000kV/秒の条件で直流電圧を昇圧後、入力を停止する分極工程を実施した。分極工程を実施した積層型圧電アクチュエータをNo.1〜20とした。
【0052】
【表1】

【0053】
分極工程を実施したNo.1〜20の積層型圧電アクチュエータの発生変位(圧電d定数(d33))及び発生応力は常法により測定した。誘電率、誘電正接(tanδ)、及び電気機械結合係数(k33)は、アジレントテクノロジー社製インピーダンスアナライザ4294Aにより測定した。なお、表1に示す共振周波数もアジレントテクノロジー社製インピーダンスアナライザ4294Aにより測定した。測定結果を後記する表3に示す。
【0054】
そして、分極工程を実施したNo.1〜20の積層型圧電アクチュエータに下記表2に示す条件でパルス電圧入力工程を実施した。
【0055】
【表2】

【0056】
前記表2に示す各条件でパルス電圧入力工程を実施したNo.1〜20の積層型圧電アクチュエータの発生変位(d33)、発生応力、誘電率、誘電正接(tanδ)、及び電気機械結合係数(k33)を、前記と同様にして測定した。パルス電圧入力工程実施後の測定結果を、分極工程実施後の測定結果と併せて表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
発生変位(d33)、発生応力、誘電率、誘電正接(tanδ)、及び電気機械結合係数(k33)の変化率を下記表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
表4に示すように、No.1〜20に係る積層型圧電アクチュエータのパルス電圧入力工程実施後の測定結果は、分極工程実施後の測定結果と比較して発生変位(d33)が4.8〜22.2%向上し、発生応力が8.5〜18.7%向上していた。また、誘電率が7.7〜15.5%向上し、電気機械結合係数(k33)が1.5〜5.5%向上していた。さらに、誘電正接(tanδ)が0.2〜0.5%低減していた。
【0061】
以上の結果から、直流電圧を入力して分極を行った後に特定の条件のパルス電圧入力工程を実施することで発生変位や発生応力といった圧電特性を十分に向上させることができることがわかった。また、誘電率と電気機械結合係数を向上させることができること、及び誘電正接を低減させることができることがわかった。
また、発生変位や発生応力といった圧電特性と、誘電率、電気機械結合係数及び誘電正接とは、予荷重を分極工程後の積層型圧電アクチュエータの発生応力の1/2以下で入力しつつ、周波数が分極工程後の積層型圧電アクチュエータの共振周波数の1/1000以下であり、且つ、立上り時間及び立下り時間がそれぞれ200μ秒以下であるパルス電圧を入力することで十分に高くすることができ、パルス電圧の入力時間を4時間以下とするとこれらの特性を十分に高くすることができるだけでなくコスト的にも有利となり好ましいこともわかった。
【符号の説明】
【0062】
S1 分極工程
S2 パルス電圧入力工程
1 積層型圧電アクチュエータ
2 圧電セラミック層
3 内部電極
4 セラミック積層体
5 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミック層と内部電極とを交互に積層してなるセラミック積層体の側面に、前記内部電極と導通確保のために設けられた外部電極を有する積層型圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記セラミック積層体と前記外部電極とを用いて予め組み立てておいた前記積層型圧電アクチュエータに直流電圧を入力し、当該積層型圧電アクチュエータの分極を行う分極工程と、
分極を行った前記積層型圧電アクチュエータに、予荷重を前記分極工程後の積層型圧電アクチュエータの発生応力の1/2以下で入力しつつ、周波数が前記分極工程後の積層型圧電アクチュエータの共振周波数の1/1000以下であり、且つ、立上り時間及び立下り時間がそれぞれ200μ秒以下であるパルス電圧を入力するパルス電圧入力工程と、
を含むことを特徴とする積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記パルス電圧入力工程は、室温からキュリー点以下の温度で行い、前記パルス電圧の入力時間を4時間以下とすることを特徴とする請求項1に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法によって製造されたことを特徴とする積層型圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−23485(P2011−23485A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166083(P2009−166083)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】