説明

積層型有機発光素子

本発明は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に位置する2以上の発光ユニットを含む積層型有機発光素子であって、前記発光ユニットは、下記エネルギー関係を満足し、NP接合を形成するn−型有機物層およびp−型有機物層を含み、前記発光ユニットの間にはn−型ドーピングされた有機物層を含むことを特徴とする積層型有機発光素子を提供する:
pH−EnL≦1eV
前記式において、EnLは前記n−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記p−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極から有機物層への正孔注入のためのエネルギー障壁が低く、駆動電圧が低く、高効率および高輝度を有する積層型有機発光素子およびその製造方法に関する。本出願は2008年5月16日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2008−0045361号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、通常、2個の電極とこれらの電極の間に介在した有機物層とを含む。有機発光素子は、2個の電極から有機物層に電子および正孔を注入して電流を可視光に変換させる。このような有機発光素子は、性能を向上させるために、電流を可視光に変換させる有機物層の他に電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層をさらに含むことができる。
【0003】
しかし、金属、金属酸化物または導電性ポリマーからなる電極と有機物層との間の界面は不安定である。したがって、外部から加えられる熱、内部発生熱、または素子に加えられる電界は素子の性能に悪影響を与える。また、電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層とこれに隣接する他の有機物層との間の伝導エネルギー準位(conductive energy level)差のため、素子動作のための駆動電圧が大きくなり得る。したがって、電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層と他の有機物層との間の界面を安定化させるだけでなく、電極から有機物層に電子/正孔を注入するエネルギー障壁を最小化することが重要である。
【0004】
有機発光素子は2以上の電極とこれらの電極の間に位置する有機物層との間のエネルギー準位差を調節することができるように開発されてきた。有機発光素子において、正極電極を正孔注入層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位と類似するフェルミエネルギー準位(Fermi energy level)を有するように調節するか、あるいは正孔注入層のために正極電極のフェルミエネルギー準位と類似するHOMOエネルギー準位を有する物質を選択する。しかし、正孔注入層は、正極電極のフェルミエネルギー準位だけでなく、正孔注入層と接する正孔輸送層または発光層のHOMOエネルギー準位を考慮して選択しなければならないため、正孔注入層用物質を選択するには制限がある。したがって、有機発光素子を製造するにおいて、一般的に正極電極のフェルミエネルギーを調節する方法が採択されているが、正極電極用物質は制限される。
【0005】
一方、多層の有機物層を有する素子の性能特性は、各層の有機物層が有する電荷キャリアの輸送能力によって大きく影響を受けると知られている。動作時に電荷輸送層から発生する抵抗損失は伝導率と関連し、このような伝導率は、必要な動作電圧だけでなく、素子の熱負荷に大きい影響を及ぼす。有機物層の電荷キャリアの濃度に応じて有機物層と金属接点の近くにバンド曲がり(band bending)現象が現れるが、このような現象によって電荷キャリアの注入が容易となって接触抵抗が低くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、正孔注入のためのエネルギー障壁を下げ、電荷輸送有機物の電荷輸送能力を向上させ、性能に優れ、製造工程が簡素化された積層型有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に位置する2以上の発光ユニットを含む積層型有機発光素子であって、前記発光ユニットは、下記エネルギー関係を満足し、NP接合を形成するn−型有機物層およびp−型有機物層を含み、前記発光ユニットの間にはn−型ドーピングされた有機物層を含むことを特徴とする積層型有機発光素子を提供する:
pH−EnL≦1eV
前記式において、EnLは前記n−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記p−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る積層型有機発光素子は、各発光ユニットがNP接合を形成するn−型有機物層とp−型有機物層を含むことにより、前記NP接合の界面における電荷発生によって正孔注入のためのエネルギー障壁が低いだけでなく、電極物質として様々な物質を用いることができる。これにより、素子製造工程を簡素化できるだけでなく、同一の物質で正極および負極を形成することができるため、高輝度の積層型有機発光素子を提供することができる。また、発光ユニットの間に中間導電層が備えられた従来の積層型有機発光素子とは異なり、本発明においては、発光ユニットの間にn−型ドーピングされた有機物層だけを配置する場合にも複数の発光単位が積層された高輝度の有機発光素子を提供することができる。
【0009】
本発明に係る有機発光素子において、第2電極に接する発光ユニットがn−型ドーピングされた有機物層を含む場合には、正孔輸送能力だけでなく、電子輸送能力が向上し、各発光ユニットの発光領域における電荷バランシング(balancing)をなすことができ、これにより、効率、輝度、駆動電圧などの素子性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の例示的な具体例による有機発光素子を示す図である。
【図2】本発明の例示的な具体例による有機発光素子において、第1電極にn−型有機物層を適用する前と後の第1電極およびn−型有機物層のエネルギー準位を示す図である。
【図3】本発明の例示的な具体例による有機発光素子において、n−型有機物層とp−型有機物層との間に形成されたNP接合を示す図である。
【図4】従来技術による有機発光素子のエネルギー準位を示す図である。
【図5】本発明の例示的な具体例による有機発光素子のエネルギー準位を示す図である。
【図6】金フィルムおよび前記金フィルム上に位置するHATフィルムのUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectrum)データを示すグラフである。
【図7】NP接合とn−型ドーピング有機物適用技術中、NP接合だけを適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。
【図8】NP接合とn−型ドーピング有機物適用技術中、n−型ドーピング有機物だけを適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。
【図9】NP接合とn−型ドーピング有機物適用を全て適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。
【図10】NP接合とn−型ドーピング有機物適用を全て適用した単位有機発光素子を2つ積層した積層有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明を具体的に説明する。但し、添付図面および以下の詳細な説明はその性質上例示的なものであって、本発明を制限するためのものではなく、本発明は、本発明の範囲を逸脱しないつつ様々な変化が可能である。
【0012】
本発明に係る積層型有機発光素子は、第1電極、第2電極、および前記第1電極と第2電極との間に位置する2以上の発光ユニットを含む積層型有機発光素子であって、前記発光ユニットは、下記エネルギー関係を満足し、NP接合を形成するn−型有機物層およびp−型有機物層を含み、前記発光ユニットの間にはn−型ドーピングされた有機物層を含むことを特徴とする。
pH−EnL≦1eV
前記式において、EnLは前記n−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記p−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【0013】
本発明に係る積層型有機発光素子においては、NP接合が各発光ユニット内に形成される。図3は、前記n−型有機物層とp−型有機物層との間に形成されたNP接合を示す。
【0014】
NP接合が形成された場合、n−型有機物層のLUMO準位とp−型有機物層のHOMO準位から電荷が発生し得る。したがって、外部電圧や光源によって正孔または電子が容易に形成される。すなわち、NP接合によってp−型有機物層内には正孔が、n−型有機物層内には電子が容易に形成される。前記NP接合から正孔と電子が同時に発生するため、電子はn−型有機物層のLUMO準位を通じて第1電極方向に輸送され、正孔はp−型有機物層のHOMO準位を通じて第2電極方向に輸送される。
【0015】
本発明において、NP接合によって電荷が発生するためには、前記n−型有機物層は、前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位に対して所定のLUMOエネルギー準位を有することが好ましい。p−型有機物のHOMO準位がn−型有機物のLUMO準位に比べて小さいのであれば自発的な電荷発生がなされる。参考に、エネルギー準位が小さい値を有するほど、電子のエネルギー値は大きい値を有する。自発的な電荷発生がなされるためには、p−型有機物のHOMO準位がn−型有機物のLUMO準位に比べて小さいものでありさえすればよく、そのエネルギー差の大きさは特に制限されない。言い換えれば、p−型有機物のHOMO準位とn−型有機物のLUMO準位の差がいくら大きいといっても、p−型有機物のHOMO準位がn−型有機物のLUMO準位に比べて小さいものでありさえすれば自発的な電荷発生が生じる。
【0016】
前記のようなエネルギー関係を有するNP接合においては、p−型有機物のHOMO準位にある電子がn−型有機物の空いているLUMO準位に自発的に移動することが可能となる。この場合、p−型有機物層のHOMO準位には正孔が生成され、n−型有機物層のLUMO準位には電子が生成され、これが電荷発生(charge generation)の原理である。逆のエネルギー準位においては自発的な電荷発生は起こらず、この場合、電荷発生のためには、界面における双極子などによる真空準位の変化が必要である。本発明においては、NP接合界面において、双極子影響による真空準位(VL)移動が約1eV程度で可能であるということを明らかにし、自発的な電荷発生が可能な条件として、p−型有機物層のHOMO準位をn−型有機物層のLUMO準位に比べて1eVだけ大きいエネルギー準位までに限定した。
【0017】
前記p−型有機物のHOMO準位とn−型有機物のLUMO準位が前述したエネルギー関係を有しなければ、前記p−型有機物層と前記n−型有機物層との間のNP接合が容易に形成されないために正孔注入のための駆動電圧が上昇する。すなわち、本発明において、NP接合は、n−型有機物層とp−型有機物層が物理的に接することだけでなく、前述したエネルギー関係を満足しなければならない。
【0018】
このような電荷発生構造を単位有機発光素子に適用する場合、電荷注入障壁を下げて低電圧素子の駆動を可能にする。また、前記NP接合構造を有する電荷発生層は、単位素子を積層して積層型発光素子を実現する時、2単位の有機発光素子の連結層の役割を果たすことができる。
【0019】
既存の有機発光素子においては、正極電極から有機物のHOMO準位に直接正孔が注入される方法を使っているが、本発明においては、正極電極またはn−型ドーピングされた有機物層に接した有機物層として、LUMO準位の大きいn−型有機物を用いて、n−型有機物とp−型有機物がNP接合を形成するようにした。これにより、前記NP接合によって電荷発生(Charge generation)をするようにし、電極またはn−型ドーピングされた有機物層とn−型有機物層との間に電子の移動をn−型有機物およびn−型ドーピングされた有機物のLUMO準位に移動するようにした。
【0020】
本発明においては、前記第1電極と接する発光ユニットにおいて前記NP接合を形成するn−型有機物層は前記第1電極と接し、下記エネルギー関係を満足することが好ましい。
0eV<EnL−EF1≦4eV
前記式において、EF1は前記第1電極のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記n−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【0021】
また、前記第1電極と接する発光ユニット以外の発光ユニットにおいて、前記NP接合を形成するn−型有機物層は前記n−型ドーピングされた有機物層と接することが好ましい。
【0022】
前記第1電極が前記NP接合構造と接することにより、前記第1電極は、従来の電極物質として用いることができる材料よりさらに様々な材料が用いられる。例えば、前記第1電極としては金属、金属酸化物、または導電性ポリマーおよびn−型ドーピングされた有機物質を含む材料が用いられる。前記導電性ポリマーは電気伝導性ポリマーを含むことができる。第1電極は第2電極と同一の物質で形成することもできる。
【0023】
本発明においては、積層型素子において、NP接合構造がn−型ドーピングされた有機物層と共に中間接続者としての役割をするだけでなく、各単位発光素子にもNP接合を用いる場合、低電圧、長寿命の素子実現が可能であることを明らかにした。したがって、各単位発光素子にNP接合構造である電荷発生層を含ませれば、電荷発生層が含まれた単位発光素子をn回単純繰り返し積層する場合、n個の単位発光素子が積層された積層型発光素子を提供することができる。これにより、追加の中間接続層なしで単位発光素子の繰り返し構造により積層型発光素子が可能となることにより、積層素子の工程単純化が可能となる。また、第1電極と接する層としてNP接合を用いることにより、n単位発光素子が積層された素子においてNP接合を含む中間接続子層をn−1個含む積層型素子に比べ、低電圧駆動および長寿命の積層型素子の実現が可能となる。
【0024】
第1電極のフェルミ準位と、n−型有機物層のLUMO準位は、先のNP接合から発生した電子と正孔のうちのn−型有機物層のLUMO準位の電子が第1電極に移動できる値を有しなければならない。本発明の場合、第1電極とn−型有機物層の界面から第1電極の自由電子がn−型有機層のLUMO準位に移動することによる真空準位(VL)変化、ギャップ状態または双極子形成などによって電荷の移動が可能となる。
【0025】
本発明において、第1電極のフェルミ準位と前記n−型有機物層のLUMO準位のエネルギー差は、物質選択の観点からは約0.01〜4eVであることがより好ましい。前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極のフェルミエネルギー準位のエネルギー差が4eVより大きければ、正孔注入のエネルギー障壁に対する表面双極子(surface dipole)またはギャップ状態(gap state)の効果が減少する。
【0026】
前記p−型有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、または発光層を含むことができる。
【0027】
前記第1電極は導電層を含むことができる。前記導電層は、金属、金属酸化物、または導電性ポリマーおよびn−型ドーピングされた有機物を含む。前記導電性ポリマーは電気伝導性ポリマーを含むことができる。第1電極は第2電極と同一の物質で形成することもできる。
【0028】
本発明に係る積層型有機発光素子において、各々の発光ユニットは少なくとも1つの発光層を含むことができる。本発明に係る有機発光素子は、前述した有機物層の他に追加の有機物層を備えることができる。本発明に係る有機発光素子が1つ以上の有機物層をさらに含む場合、これらは互いに同一の物質または他の物質で形成することができる。
【0029】
図1は、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子を示す。すなわち、本発明に係る有機発光素子は、第1電極と第2電極との間に2以上の発光ユニットを含み、前記発光ユニットは前述したエネルギー関係を満足し、NP接合を形成するn−型有機物層およびp−型有機物層を含み、前記発光ユニットの間にはn−型ドーピングされた有機物層を含む。前記発光ユニットは各々少なくとも1つの発光層をはじめとする有機物層をさらに含むことができる。
【0030】
図1には第1電極が下部電極として示されているが、逆に第1電極が上部電極であり、第2電極が下部電極である場合も本発明に含まれる。また、本発明に係る積層型有機発光素子は、前記発光ユニットを2つまたは3つ以上含むことができる。前記積層された構造は必要により個数を選択することができ、その個数の上限は特に限定されない。
【0031】
図2の(a)および(b)は各々本発明の例示的な一具体例による積層型有機発光素子において、第1電極にn−型有機物層を適用する前と後の第1電極およびn−型有機物層のエネルギー準位を示す。図2の(a)において、前記第1電極はn−型有機物層のLUMOエネルギー準位(EnL)より小さいフェルミエネルギー準位(EF1)を有する。真空準位(VL)は第1電極およびn−型有機物層から電子を空気中に抜き出すことができるエネルギー準位を示す。
【0032】
図2の(b)において、電子は第1電極からn−型有機物層に移動するため、前記2層のエネルギー準位(EnL、EF1)は等しくなる。その結果、表面双極子が第1電極とn−型有機物層との間の界面に形成され、真空準位、フェルミエネルギー準位、HOMOエネルギー準位、およびLUMOエネルギー準位は図2の(b)に示すように変わる。
【0033】
したがって、第1電極のフェルミエネルギー準位とn−型有機物層のLUMOエネルギー準位の差が大きくても、正孔注入のためのエネルギー障壁は、前記第1電極とn−型有機物層を接触させることによって減少させることができる。また、前記第1電極がn−型有機物層のLUMOエネルギー準位より小さいフェルミエネルギー準位を有する場合、電子は第1電極からn−型有機物層に移動して、前記第1電極とn−型有機物層との間の界面にギャップ状態を形成する。したがって、電子輸送のためのエネルギー障壁は最小化される。
【0034】
また、本発明に係る積層型有機発光素子は、発光ユニットの間にn−型ドーピングされた有機物層を含む。本発明においては、前記n−型ドーピングされた有機物層によって有機物層の電荷キャリアの密度を上昇させ、素子内において電荷輸送効率を向上させるだけでなく、中間導電層なしで積層型有機発光素子を提供することができる。具体的には、前記n−型ドーピングは好適なドナー材料を有機物層にドーピングすることによってなされ、これによって有機物層の電荷キャリアの密度が非常に高くなり得るし、これによって電荷の伝導率が非常に高くなり得る。これにより、本発明に係る積層型有機発光素子においては、各発光ユニットの発光領域においてバランシング(balancing)を達成することができる。ここで、バランシングとは、発光領域において再組合して発光に参加する正孔と電子の密度が最大化しつつ等しくなるようにすることを意味する。本発明に係る有機発光素子は、遥かに優れた低電圧、高輝度、および高効率特性を示すことができる。
【0035】
特に、本発明においては、前述したように、n−型有機物層とp−型有機物層のNP接合により、正孔注入のためのエネルギー障壁を非常に下げることができる。これにより、第1電極から有機発光素子の発光領域までの正孔注入および輸送が効率的に行われる。このような正孔注入効率の高い本発明に係る有機発光素子において、有機物層に有機物または無機物をn−型ドーピングして電子輸送能力を向上させる場合、素子の発光領域には、正孔だけでなく、電子も高い濃度で到達することができる。また、本発明に係る有機発光素子は、中間導電層の挿入なしで複数の発光単位が積層されるため、遥かに優れた低電圧、高輝度、および高効率の特性を示すことができる。
【0036】
本発明において、前記第2電極と接する発光ユニットは、n−型ドーピングされた有機物層をさらに含むことが好ましい。この時、前記第2電極と接する発光ユニットに含まれたn−型ドーピングされた有機物層は、電子注入層、電子輸送層または電子注入および輸送層であってもよい。このように、前記第2電極と接する発光ユニットは、n−型ドーピングされた有機物層をさらに含む場合、各発光ユニットの発光領域においては電荷バランシング(balancing)をより効率的に達成することができる。
【0037】
図7は、NP接合とn−型ドーピングされた有機物層適用技術中、NP接合だけを適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。NP接合とn−型ドーピング有機物適用技術中、NP接合だけを適用した有機発光素子の場合、正孔の注入特性と輸送特性だけが向上され、発光層において正孔の濃度が電子の濃度に比べて相対的に高くなって、正孔と電子のバランシングが低下する。その結果、正孔の注入特性および輸送特性の向上による駆動電圧の減少はあるが、発光輝度の低下が発生し、よって、発光輝度に対する電流電圧の積として表現されるワット(Watt)比率である発光効率の上昇を期待することができない。
【0038】
図8は、NP接合とn−型ドーピングされた有機物層適用技術中、n−型ドーピング有機物だけを適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。NP接合とn−型ドーピング有機物適用技術中、n−型有機物ドーピングだけを適用した有機発光素子の場合、電子の注入特性と輸送特性だけが向上され、発光層において電子の濃度が正孔の濃度に比べて相対的に高くなって、正孔と電子のバランシングが低下する。その結果、電子の注入特性および輸送特性の向上による駆動電圧の減少はあるが、発光輝度の低下が発生し、よって、発光輝度に対する電流電圧の積として表現されるワット(Watt)比率である発光効率の上昇を期待することができない。
【0039】
図9は、NP接合とn−型ドーピングされた有機物層適用を全て適用した有機発光素子の電子と正孔の移動を図式化したものである。NP接合とn−型ドーピング有機物を同時に用いる場合、NP接合による正孔の注入特性と輸送特性の向上とn−型ドーピングによる電子の注入特性と輸送特性の向上が共に起こって発光層において電子と正孔の濃度がバランシングをなし、電荷の注入特性および輸送特性の向上による大きい駆動電圧の減少と電子と正孔のバランシングによる輝度向上が発生する。したがって、発光輝度に対する電流電圧の積として表現されるワット(Watt)比率である発光効率の高い有機発光素子の製作が可能である。
【0040】
図10は、積層型有機発光素子において、各発光ユニットがNP接合構造を含み、第1電極がNP接合構造と接し、発光ユニットの間および第2電極に接する有機物層としてn−型ドーピングされた有機物層が適用された場合を図式化したものである。
【0041】
このように、第1電極と第2電極との間の単位有機発光素子のn回繰り返し構造を利用すれば、n回積層された積層型高効率積層型素子の製作が可能である。
【0042】
本発明において、前記n−型ドーピングされた有機物層のn−型ドーピングのための物質としては有機物または無機物が用いられる。例えば、前記無機物としてはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などのアルカリ金属;ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)などのアルカリ土金属、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Th、Dy、Ho、Er、Em、Gd、Yb、Lu、Y、Mnなど、またはこれらの金属のうちの少なくとも1つを含む金属化合物が挙げられる。また、前記有機物としてはシクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、6員複素環またはこれらの環が含まれた縮合環を含む有機物、具体的には、キサンテン系、アクリジン系、ジフェニルアミン系、アジン系、オキサジン系、チアジン系またはチオキサンテン系などの有機物が用いられる。また、ドーピング有機物として2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)などを用いることもできる。
【0043】
n−型ドーピング濃度は0.02〜50体積%であることが好ましい。n−型ドーピングされた有機物層の厚さは500Å未満が好ましく、これより厚のであれば、n−型ドーピング物質による可視光吸収によって発光効率が低下し得る。より好ましくは、100Å未満が好ましい。前記n−型ドーピングされた有機物層の厚さは10Å以上に形成することができる。
【0044】
本発明において、有機物または無機物によってn−型ドーピングされた有機物層の形成は当技術分野に知られている方法を利用して行うことができ、本発明の範囲が特定方法によって限定されるものではない。
【0045】
例えば、ピロニンB(pyronin B)のHCl塩のような有機物塩を昇華させて有機物のロイコ塩基を製造した後、これを、ドーピングされた有機物層を形成しようとする基材が存在する真空下で、ドーピングされる有機物と共に蒸発させることにより、ドーピングされた有機物層を形成することができる。
【0046】
また、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(TCNQ)のようなドーピングされる有機物をモルタル(mortar)で粉砕した後、これをドーパント二量体(dimer)、例えば、ジ−(p−メトキシフェニルアミン)メチルと混合し、ここに光を照射して二量体の酸化およびTCNQへの電子移送がなされるようにすることにより、ドーピングされた有機物層を形成することができる。
【0047】
また、ドーピング材料である有機物を非電荷性状態、例えば、水素添加形態でドーピングされる有機物層に注入した後、有機物層に注入された状態の非電荷性有機物を陽イオンまたはラジカルに変換させる方法を利用することもできる。
【0048】
具体的には、水素添加形態の有機物は、これが、ドーピングされる有機物層材料がない状態で独自に製造することができる。例えば、前記水素添加形態の有機物は、有機物の塩を昇華させることによって製造することができる。必要な場合、水素添加形態の有機物の収得率および純度を改善するために追加の精製工程を実行することもでき、水素添加形態の有機物は精製された状態で用いることが好ましい。
【0049】
水素添加形態の有機物は、例えば、ドーピングされる有機物層材料との混合蒸発または連続的な蒸発により、ドーピングされる有機物層に直接注入することができる。水素添加形態の有機物は非イオン性中性分子であるため、ほぼ完全に昇華する。したがって、水素添加形態の有機物を昇華させる場合も水素添加形態の有機物を蒸発させる場合の作用と同一である。
【0050】
上記のように水素添加形態の有機物をドーピングされる有機物層に注入した後、前記水素添加形態の有機物から水素、一酸化炭素、窒素またはヒドロキシラジカルを分離することにより、有機物の陽イオンまたはラジカルを形成することができる。前記分離は光または電子線の照射によってなされる。前記光の照射に用いられる放射線スペクトルは、水素添加形態の非電荷性有機物とドーピングされる有機物層材料のうちのいずれか1つの吸収領域と少なくとも部分的に重複することが好ましい。上記のように形成されたラジカルからドーピングされる有機物層材料に電子を移動させる方式によりn−型ドーピングが行われる。
【0051】
本発明において、前記水素、一酸化炭素、窒素またはヒドロキシラジカルは、有機物のシクロペンタジエン、シクロヘプタトリエンまたは6員複素環から分離することができる。このような種類の官能基から水素、一酸化炭素、窒素またはヒドロキシラジカルが分離される場合、電子放出(n−型ドーピング)は6π−芳香族系の形成によってなされる。
【0052】
また、前記シクロペンタジエン、シクロヘプタトリエンまたは6員複素環が縮合環系(condensed−ring system)の一部である場合、電子放出または収容は8π−、10π−、12π−、または(2n)π(nは7以上の整数)−系の形成によってなされる。
【0053】
前記水素添加形態の有機物は、陽イオン染料のカルビノール(carbinol)塩基またはロイコ(leuco)塩基であってもよい。通常、陽イオン染料は、有機発光素子の光出力に対して高い量子効率を有すると知られている。例えば、ローダミンB(rhodamin B)のような陽イオン染料は、有機発光素子において発光ドーパントとして用いる時に高い発光量子効率を示す。
【0054】
前記陽イオン染料としてはキサンテン系染料、アクリジン系染料、ジフェニルアミン系染料、アジン系染料、オキサジン系染料、チアジン系染料またはチオキサンテン系染料などを用いることができるが、これらだけに限定されるものではない。例えば、水素化物で構成された官能基の分離によって陽イオンに変換される化合物も前記陽イオン染料として用いることができる。
【0055】
前記n−型ドーピングされた有機物層において、ドーピングされる有機物層材料は特に限定されないが、電子注入または輸送物質が用いられる。例えば、イミダゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、キノリンおよびフェナントロリン基から選択された官能基を有する化合物を用いることができる。
【0056】
前記イミダゾール基、オキサゾール基およびチアゾール基から選択された官能基を有する化合物の具体的な例としては、下記化学式1または2の化合物の化合物がある。
【0057】
【化1】

【0058】
前記化学式1において、R〜Rは互いに同じであるか異なってもよく、各々独立に、水素原子;ハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換もしくは非置換されたC〜C30のアルキル基;ハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換もしくは非置換されたC〜C30のシクロアルキル基;ハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換もしくは非置換されたC〜C30のアリール基;またはハロゲン原子、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、C〜C30のアルキル基、C〜C30のアルケニル基、C〜C30のアルコキシ基、C〜C30のシクロアルキル基、C〜C30のヘテロシクロアルキル基、C〜C30のアリール基およびC〜C30のヘテロアリール基からなる群から選択された1つ以上の基で置換もしくは非置換されたC〜C30のヘテロアリール基であり、互いに隣接する基と脂肪族、芳香族、脂肪族ヘテロまたは芳香族ヘテロの縮合環を形成するかスピロ結合をなすことができ;Arは水素原子、置換もしくは非置換の芳香族環、または置換もしくは非置換の芳香族複素環であり;XはO、SまたはNRであり;Rは水素、C〜Cの脂肪族炭化水素、芳香族環または芳香族複素環である。
【0059】
【化2】

【0060】
前記化学式2において、XはO、S、NRまたはC〜Cの2価炭化水素基であり;A、DおよびRは、各々、水素原子、ニトリル基(−CN)、ニトロ基(−NO)、C〜C24のアルキル、C〜C20の芳香族環またはヘテロ原子を含む置換された芳香族環、ハロゲン、または隣接する環と縮合環を形成することができるアルキレンまたはヘテロ原子を含むアルキレンであり;AとDは連結されて芳香族またはヘテロ芳香族環を形成することができ;Bは、nが2以上である場合には、連結ユニットとして複数の複素環を共役または非共役になるように連結する置換もしくは非置換のアルキレンまたはアリーレンであり、nが1である場合には、置換もしくは非置換のアルキルまたはアリールであり;nは1〜8の整数である。
【0061】
前記化学式1の化合物の例としては韓国特許公開第2003−0067773号に公知された化合物を含み、前記化学式2の化合物の例としては米国特許第5,645,948号に記載された化合物と国際公開第05/097756号に記載された化合物とを含む。前記文献はその内容の全てが本明細書に含まれる。
【0062】
具体的には、前記化学式1の化合物には下記化学式3の化合物も含まれる。
【0063】
【化3】

【0064】
前記化学式3において、R〜Rは互いに同じであるか異なり、各々独立に、水素原子、C〜C20の脂肪族炭化水素、芳香族環、芳香族複素環または脂肪族または芳香族縮合環であり;Arは直接結合、芳香族環、芳香族複素環または脂肪族または芳香族縮合環であり;XはO、SまたはNRであり;Rは水素原子、C〜Cの脂肪族炭化水素、芳香族環または芳香族複素環であり;但し、RおよびRが同時に水素である場合は除外する。
【0065】
また、前記化学式2の化合物には下記化学式4の化合物も含まれる。
【0066】
【化4】

【0067】
前記化学式4において、ZはO、SまたはNRであり;RおよびRは水素原子、C〜C24のアルキル、C〜C20の芳香族環またはヘテロ原子を含む置換された芳香族環、ハロゲン、またはベンザゾール環と縮合環を形成することができるアルキレンまたはヘテロ原子を含むアルキレンであり;Bは、nが2以上である場合には、連結ユニットとして複数のベンザゾールを共役または非共役になるように連結するアルキレン、アリーレン、置換されたアルキレン、または置換されたアリーレンであり、nが1である場合には、置換もしくは非置換のアルキルまたはアリールであり;nは1〜8の整数である。
【0068】
好ましい化合物としてイミダゾール基を有する化合物には下記構造の化合物がある。
【0069】
【化5】

【0070】
前記キノリン基を有する化合物の例としては下記化学式5〜11の化合物がある。
【0071】
【化6A】

【化6B】

【0072】
前記化学式5〜11において、
nは0〜9の整数であり、mは2以上の整数であり、
は水素、メチル基、エチル基などのアルキル基、シクロヘキシル、ノルボルニルなどのシクロアルキル基、ベンジル基などのアラルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などのシクロアルケニル基、メトキシ基などのアルコキシ基、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアルキルチオ基、フェノキシ基などのアリールエーテル基、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアリールチオエーテル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などのアリール基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、キノリル基、カルバゾリル基などの複素環基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、トリメチルシリル基などのシリル基、エーテル結合によって珪素を有する基であるシロキサニル基、隣接置換基との間の環構造から選択され;前記置換基は非置換もしくは置換されてもよく、nが2以上である場合に置換基は互いに同じであるか異なってもよく、
Yは前記Rの基の2価以上の基である。
【0073】
前記化学式5〜11の化合物は韓国公開特許2007−0118711に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0074】
前記フェナントロリン基を有する化合物の例としては下記化学式12〜22の化合物があるが、これらの例だけに限定されるものではない。
【0075】
【化7】

【0076】
前記化学式12〜15において、
mは1以上の整数であり、nおよびpは整数であり、n+pは8以下であり、
mが1である場合、R10およびR11は水素、メチル基、エチル基などのアルキル基、シクロヘキシル、ノルボルニルなどのシクロアルキル基、ベンジル基などのアラルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などのシクロアルケニル基、メトキシ基などのアルコキシ基、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアルキルチオ基、フェノキシ基などのアリールエーテル基、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子で置換されたアリールチオエーテル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などのアリール基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、キノリル基、カルバゾリル基などの複素環基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、トリメチルシリル基などのシリル基、エーテル結合によって珪素を有する基であるシロキサニル基、隣接置換基との間の環構造から選択され;
mが2以上である場合、R10は直接結合または前述した基の2価以上の基であり、R11はmが1である場合と同様であり、
前記置換基は非置換もしくは置換されてもよく、nまたはpが2以上である場合に置換基は互いに同じであるか異なってもよい。
【0077】
前記化学式12〜15の化合物は韓国公開特許2007−0052764および2007−0118711に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0078】
【化8A】

【化8B】

【0079】
前記化学式16〜19において、R1a〜R8aおよびR1b〜R10bは、各々、水素原子、置換もしくは非置換の核原子数5−60のアリール基、置換もしくは非置換のピリジル基、置換もしくは非置換のキノリル基、置換もしくは非置換の1−50のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数3−50のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の核原子数6−50のアラルキル基、置換もしくは非置換の炭素数1−50のアルコキシ基、置換もしくは非置換の核原子数5−50のアリールオキシ基、置換もしくは非置換の核原子数5−50のアリールチオ基、置換もしくは非置換の炭素数1−50のアルコキシカルボニル基、置換もしくは非置換の核原子数5−50のアリール基で置換されたアミノ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基であり、これらは互いに結合して芳香族環を形成することができ、Lは置換もしくは非置換の炭素数6−60のアリーレン基、置換もしくは非置換のピリジニレン基、置換もしくは非置換のキノリニレン基または置換もしくは非置換のフルオレニレン基である。前記化学式16〜19の化合物は、特開2007−39405号に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0080】
【化9】

【0081】
前記化学式20および21において、d、d〜d10およびgは、各々、水素または芳香族または脂肪族炭化水素基であり、mおよびnは0〜2の整数であり、pは0〜3の整数である。前記化学式20および21の化合物は米国特許公開2007/0122656に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0082】
【化10】

【0083】
前記化学式22において、R1c〜R6cは、各々、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の複素環基またはハロゲン原子であり、Ar1cおよびAr2cは、各々、下記構造式から選択される。
【0084】
【化11】

【0085】
前記構造式において、R17〜R23は、各々、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の複素環基またはハロゲン原子である。前記化学式22の化合物は、特開2004−107263号公報に記載されており、この文献の全ては本明細書に参考として含まれる。
【0086】
本発明に係る積層型有機発光素子は、当技術分野に知られている方法を利用し、前述した構造で製造することができる。本発明に係る有機発光素子の製造方法において、各層の材料とn−型ドーピングの方法は前述したのと同様であるため、これに対する具体的な内容は省略する。
【0087】
図4は、従来の有機発光素子の理想的なエネルギー準位を示す。このエネルギー準位において、正極および負極から各々正孔および電子を注入するためのエネルギー損失が最小化される。
【0088】
図5は、本発明の例示的な一具体例による積層型有機発光素子のエネルギー準位を説明するために、1つの発光単位を有する有機発光素子におけるエネルギー準位を示す。図5の有機発光素子は、正極、n−型有機物層、p−型正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)、電子輸送層(ETL)および負極を含む。前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記正極のフェルミエネルギー準位のエネルギー差は約4eV以下であり、また、前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位とp−型正孔注入層のHOMOエネルギー準位は下記式のエネルギー関係を満足する。
pH−EnL≦1eV
【0089】
正孔/電子注入のためのエネルギー障壁が前記n−型有機物層によって低くなったため、前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位および前記p−型正孔注入層のHOMOエネルギー準位を利用し、正孔は正極から発光層に容易に輸送される。
【0090】
前記n−型有機物層が正極からp−型正孔注入層、p−型正孔輸送層またはp−型発光層への正孔注入のためのエネルギー障壁を下げるため、前記正極は様々な導電性物質で形成することができる。例えば、前記正極は負極と同一の物質で形成することができる。正極を負極と同一の物質で形成した場合、導電性物質が低い仕事関数を有する有機発光素子が製造される。
【0091】
また、本発明においては、前述した構成によって正孔と電子の輸送能力を向上させ、正孔と電子のバランシングを達成することができるため、LiFのような材料からなる電子注入層を備えることがなくても、LiF層のような電子注入層を備えた場合よりさらに優れた素子性能を達成することができる。この場合、アルカリ土金属でn−型ドーピングされた有機物層は第2電極と接することができる。しかし、本発明の範囲から電子注入層を含むことを排除するのではない。
【0092】
本発明は、前述したような原理により、高効率および高輝度のスタック型有機発光素子を提供することができる。スタック型有機発光素子の場合、同一の駆動電圧下でスタックされた有機発光素子単位の数に比例して輝度が増加するため、有機発光素子をスタック型にすれば、高輝度の有機発光素子を得ることができる。
【0093】
本発明に係る積層型有機発光素子は、基板上に負極、有機物層および正極が下方から順次積層された逆(inverted)構造であってもよい。すなわち、本発明に係る積層型有機発光素子において、第1電極が正極であり、第2電極が負極である場合、前記第2電極が基板上に位置する下部電極であり、前記第1電極が上部電極であってもよい。また、本発明に係る積層型有機発光素子は、基板上に正極、有機物層および負極が下方から順次積層されたノーマル(normal)構造であってもよい。すなわち、前記第1電極が正極であり、第2電極が負極である場合、前記第1電極が基板上に位置する下部電極であり、前記第2電極が上部電極であってもよい。
【0094】
以下、本発明の例示的な一具体例による有機発光素子を構成する各層に対して具体的に説明する。以下で説明する各層の物質は単一物質または2以上の物質の混合物であってもよい。
【0095】
第1電極
第1電極は導電層を含む。前記導電層は、金属、金属酸化物または導電性ポリマーを含む。前記導電性ポリマーは電気伝導性ポリマーを含むことができる。
【0096】
有機発光素子内に含まれるn−型有機物層は第1電極からp−型有機物層に正孔を注入するためのエネルギー障壁を下げるため、前記第1電極は様々な導電性物質で形成することができる。例えば、約2〜5.5eVのフェルミエネルギー準位を有する。従来の有機発光素子においては、第1電極としてフェルミエネルギー準位が5〜6eVである材料しか用いることができなかったが、本発明においては、フェルミエネルギー準位が2〜5eVである材料、特に2〜4eVである材料まで用いることができる。導電性物質の例としては、炭素、セシウム、カリウム、リチウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、ジルコニウム、インジウム、アルミニウム、銀、タンタル、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、鉄、タングステン、モリブデン、ニッケル、金、その他の金属およびこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物およびその他のこれと類似する金属酸化物;ZnO:AlおよびSnO:Sbのような酸化物と金属の混合物などが挙げられる。有機発光素子が前面発光型である場合には、前記導電層として透明物質だけでなく、光反射率に優れた不透明物質も用いることができる。背面発光型有機発光素子の場合には、前記第1電極として透明物質であるべきであり、不透明物質が用いられる場合には透明になるほど薄膜で形成しなければならない。
【0097】
前記第1電極のフェルミエネルギー準位を調節するために、導電層の表面を窒素プラズマまたは酸素プラズマで処理することができる。
【0098】
プラズマ処理による第1電極のフェルミ準位は、酸素プラズマ処理時に大きくなり、窒素プラズマ処理時には低くなる。
【0099】
また、窒素プラズマの場合、第1電極の伝導性を上げることができ、表面酸素濃度を低下させつつ、表面に窒化物を生成させ、素子の寿命を増加させることができる。しかし、第1電極のフェルミ準位が下がって正孔注入が難しくなるため、駆動電圧が上昇する問題があった。
【0100】
本発明のようにNP接合構造を用いる場合、第1電極のフェルミ準位が下がっても、NP接合による正孔注入特性に影響がないことにより、窒素プラズマ処理が可能であり、これにより、長寿命、低電圧の素子実現が可能である。
【0101】
有機物層
本発明に係る積層型有機発光素子は第1電極と第2電極との間に位置した2以上の発光単位を含み、これらの発光単位は各々NP接合をなすn−型有機物層およびp−型有機物層を含む。また、本発明に係る積層型有機発光素子は、前記発光単位の間にn−型ドーピングされた有機物層を含み、必要な場合、第2電極と接する有機物層としてn−型ドーピングされた有機物層を含む。
【0102】
前記n−型有機物層は低電界において正孔を有機物層に注入する。前記n−型有機物層は約4〜7eVのLUMOエネルギー準位を有することが好ましく、約10−8cm/Vs〜1cm/Vs、好ましくは約10−6cm/Vs〜10−2cm/Vsの電子移動度を有することが好ましい。電子移動度が約10−8cm/Vs未満である場合には正孔を注入するのが容易ではない。電子移動度が1cm/Vsを超過する場合には、正孔注入はより効率的になるが、このような物質は通常結晶性有機物であるため、非結晶性有機物を用いる有機発光素子に適用し難い。
【0103】
前記n−型有機物層は、真空蒸着できる物質または溶解法(solution process)によって薄膜成形できる物質で形成することもできる。前記n−型有機物の具体的な例はこれに限定されないが、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDAまたは下記化学式23の化合物を含む。
【0104】
【化12】

【0105】
前記化学式23において、R〜Rは、各々、水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO)、スルホニル(−SOR)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SONR)、スルホネート(−SOR)、トリフルオロメチル(−CF)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換もしくは非置換された直鎖もしくは分枝鎖のC〜C12アルコキシ、置換もしくは非置換された直鎖もしくは分枝鎖のC〜C12のアルキル、置換もしくは非置換された芳香族もしくは非芳香族の複素環、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のモノ−またはジ−アリールアミン、および置換もしくは非置換のアラルキルアミンからなる群から選択され、前記RおよびR’は、各々、置換もしくは非置換のC〜C60のアルキル、置換もしくは非置換のアリールおよび置換もしくは非置換の5−7員複素環からなる群から選択される。
【0106】
前記化学式23の化合物は下記化学式23−1〜23−6の化合物で例示することができる。
【0107】
【化13A】

【化13B】

【0108】
前記化学式23の他例や、合成方法および様々な特徴は米国特許出願第2002−0158242号、米国特許第6,436,559号および米国特許第4,780,536号に記載されており、これらの文献の内容は全て本明細書に含まれる。
【0109】
前記発光ユニットは、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層をはじめとする1つ以上の有機物層をさらに含むことができる。
【0110】
正孔注入層または正孔輸送層はp−型有機物層として形成することができる。前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層は前記n−型有機物層とNP接合を形成することができ、このNP接合から形成された正孔は前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層を介して発光層に輸送される。
【0111】
前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層のHOMOエネルギー準位と前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位は下記式のエネルギー関係を満足する。
pH−EnL≦1eV、好ましくは、EpH−EnL≦0.5eV
【0112】
前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層はアリールアミン系化合物、導電性ポリマー、または共役部分と非共役部分が共に存在するブロック共重合体などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0113】
発光層においては正孔伝達と電子伝達が同時に起こるため、発光層はn−型特性とp−型特性を全て有してもよい。便宜上、電子輸送が正孔輸送に比べて速い場合にはn−型発光層、正孔輸送が電子輸送に比べて速い場合にはp−型発光層と定義することができる。
【0114】
n−型発光層においては、電子輸送が正孔輸送より速いため、正孔輸送層と発光層の界面付近において発光がなされる。したがって、正孔輸送層のLUMO準位が発光層のLUMO準位より高ければ、より良い発光効率を示すことができる。n−型発光層はこれに限定されないが、アルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノリン)(Alq);8−ヒドロキシキノリンベリリウム(BAlq);ベンズオキサゾール系化合物、ベンズチアゾール系化合物またはベンズイミダゾール系化合物;ポリフルオレン系化合物;シラシクロペンタジエン(silole)系化合物などを含む。
【0115】
p−型発光層においては、正孔輸送が電子輸送より速いため、電子輸送層と発光層の界面付近において発光がなされる。したがって、電子輸送層のHOMO準位が発光層のHOMO準位より低ければ、より良い発光効率を示すことができる。
【0116】
p−型発光層を用いる場合、正孔輸送層のLUMO準位変化による発光効率の増大効果がn−型発光層を用いる場合に比べて小さい。したがって、p−型発光層を用いる場合には、正孔注入層と正孔輸送層を用いず、n−型有機物層とp−型発光層との間のNP接合構造を有する有機発光素子を製造することができる。p−型発光層はこれに限定されるものではないが、カルバゾール系化合物;アントラセン系化合物;ポリフェニレンビニレン(PPV)系ポリマー;またはスピロ(spiro)化合物などを含む。
【0117】
電子輸送層物質としては、負極から電子の注入を円滑に受けて発光層に円滑に輸送できるように、電子移動度(electron mobility)の大きい物質が好ましい。前記電子輸送層はこれに限定されないが、アルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノリン)(Alq);Alq構造を含む有機化合物;ヒドロキシフラボン−金属錯化合物またはシラシクロペンタジエン(silole)系化合物などを含む。
【0118】
第2電極
第2電極物質としては、通常、有機物層への電子注入が容易に行われるように仕事関数の小さい物質が好ましい。前記第2電極はこれに限定されないが、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズおよび鉛のような金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alのような多層構造物質などを含む。前記第2電極は第1電極と同一の物質で形成することができる。また、第2電極または第1電極は透明物質を含むことができる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例および比較例により、本発明の様々な実施状態および特徴をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明の様々な実施状態および特徴を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲が下記実施例によって限定されるものではない。
【0120】
<実施例>
実施例1
UPSおよびUV−VIS吸収(absorption)方法によるHATのHOMOとLUMO準位の測定
ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(Hexanitrile hexaazatriphenylene:HAT)をn−型半導体特性の有機物として用いた。HATのHOMO準位を測定するために、UPS(Ultraviolet photoelectron spectroscopy)方法を利用した。この方法は、超真空(10−8Torr)下で、試料にHeランプから出る真空UV線(21.20eV)を照射する時、試料から出る電子の運動エネルギーを分析することにより、金属の場合には仕事関数を、有機物の場合にはイオン化エネルギー、すなわちHOMO準位およびフェルミエネルギー準位を知ることができる方法である。すなわち、真空UV線(21.20eV)を試料に照射した時、試料から放出される電子の運動エネルギーは、真空UVエネルギーである21.2eVと測定しようとする試料の電子結合エネルギー(electron binding energy)の差となる。したがって、試料から放出される電子の運動エネルギー分布を分析することにより、試料内物質の分子内結合エネルギー分布を知ることができる。この時、電子の運動エネルギー中の最大エネルギー値を有する場合、試料の結合エネルギーは最小値を有する。これを利用し、試料の仕事関数(フェルミエネルギー準位)およびHOMO準位を決定することができる。
【0121】
ここでは、金フィルム(gold film)を用いて金の仕事関数を測定し、前記金フィルムにHAT物質を蒸着し、HAT物質から出る電子の運動エネルギーを分析することにより、HATのHOMO準位を測定した。図7は、前記金フィルムとその上の20nmの厚さを有するHATフィルムから出るUPSデータを示したものである。以下では、H.Ishii,et al.,Advanced Materials,11,605−625(1999)で用いられた用語を利用して説明する。
【0122】
図6において、x軸の結合エネルギー(eV)は金フィルムで測定された仕事関数を基準点にして計算した値である。すなわち、本測定において、金の仕事関数は、照射した光エネルギー(21.20eV)から結合エネルギーの最大値(15.92eV)を引いた値である5.28eVと測定された。前記金フィルム上に蒸着されたHATに照射された光エネルギーから結合エネルギー最大値(15.21eV)と最小値(3.79eV)の差を引いた値として定義されるHATのHOMO準位は9.78eVであり、フェルミエネルギー準位は6.02Vである。
【0123】
前記HATをガラス表面に蒸着して形成した有機物を用いて他のUV−VISスペクトルを得、吸収エッジ(absorption edge)を分析した結果、約3.26eVのバンドギャップ(band gap)を有することが分かった。これにより、HATのLUMOは約6.54eVの値を有することが分かる。この値は、HAT物質のエキシトン結合エネルギー(exciton binding energy)によって変化することができる。すなわち、6.54eVは前記物質のフェルミ準位(6.02eV)より大きい値であって、LUMO準位がフェルミ準位よりさらに小さい値を有するようにするためには、エキシトン結合エネルギーが0.52eV以上でなければならないということが分かる。有機物のエキシトン結合エネルギーは通常0.5eV〜1eVの値を有するため、前記HATのLUMO準位は5.54〜6.02eVの値を有すると予測される。
【0124】
比較例1
基板上にIZOをスパッタリング方法により1000Å厚さの透明正極(第1電極)を形成し、その上にHATを熱真空蒸着して厚さが500Åであるn−型有機物を形成し、その上に下記化学式のNPBを真空蒸着して厚さが400Åである正孔輸送層を形成してNP接合を形成した。
【0125】
また、下記化学式のCBPに下記化学式のIr(ppy)を10重量%でドーピングし、ドーピングされた有機層で厚さが300Åである発光層を構成した。
【0126】
また、その上に下記化学式の正孔遮断層材料であるBAlqを50Åの厚さで形成した。
【0127】
その上に下記化学式の電子輸送層材料を150Åの厚さで形成し、その上に下記化学式の電子輸送材料にCaを10重量%ドーピングし、ドーピングされた電子輸送層を厚さ50Åで形成した。ドーピングされた電子輸送層上に反射負極(第2電極)としてアルミニウムを1000Åの厚さで形成して、単位有機発光素子を作った。この時、素子構造はIZO/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETL/Alである。
【0128】
【化14A】

【化14B】

【0129】
前記過程において、有機物の蒸着速度は0.5〜1.0Å/secに維持し、蒸着時における真空度は2x10−7〜2x10−8torr程度に維持した。
【0130】
実施例2
基板上にIZOをスパッタリングの方法により1000Å厚さの透明正極(第1電極)を形成し、その上にHATを熱真空蒸着して厚さが500Åであるn−型有機物を形成し、その上に下記化学式のNPBを真空蒸着して厚さが400Åである正孔輸送層を形成してNP接合を形成した。
【0131】
また、下記化学式のCBPに下記化学式のIr(ppy)を10重量%でドーピングし、ドーピングされた有機層で厚さが300Åである発光層を構成した。
【0132】
また、その上に下記化学式の正孔遮断層材料であるBAlqを50Åの厚さで形成した。
【0133】
その上に下記化学式の電子輸送層材料を150Åの厚さで形成し、その上に下記化学式の電子輸送材料にCaを10重量%ドーピングし、ドーピングされた電子輸送層を厚さ50Åで形成し、HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETLの単位素子構造を作った。ドーピングされたCa電子輸送層上に上記の単位素子蒸着方法と同じ方法と厚さでHAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETL単位素子層を形成して、2個の単位発光素子が積層されたIZO/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAÅlq/ETL/Ca+ETL/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETL/Al有機物層を形成した。
【0134】
2番目にCaドーピングされた電子輸送層上に第2電極としてアルミニウムを1000Åの厚さで形成して単位有機発光素子を作った。
【0135】
前記過程において、有機物の蒸着速度は0.5〜1.0Å/secに維持し、蒸着時における真空度は2x10−7〜2x10−8torr程度に維持した。
【0136】
実施例3
n−型ドーピングされた電子輸送層として、Caの代わりにMg体積10%を用いたことを除いては、実施例3と同じ方法を利用して積層型有機発光素子を製作した。この積層型素子の構造はIZO/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Mg+ETL/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Mg+ETL/Alである。
【0137】
比較例2
基板上にIZOをスパッタリングの方法により1000Å厚さの透明正極(第1電極)を形成し、その上に下記化学式のNPBを真空蒸着して厚さが900Åである正孔輸送層を形成したことを除いては、実施例2と同じ方法を利用して積層型有機発光素子を製作した。この積層型有機物素子の構造はIZO/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETL/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETL/Alである。
【0138】
比較例3
基板上にIZOをスパッタリングの方法により1000Å厚さの透明正極(第1電極)を形成し、その上に下記化学式のNPBを真空蒸着して厚さが900Åである正孔輸送層を形成するのと第2電極に接する2番目の単位発光素子の電子輸送層の厚さを200Åで蒸着し、その上に電子注入層としてLiFを15Åで蒸着したことを除いては、実施例2と同じ方法を利用して積層型有機発光素子を製作した。この積層型有機物素子の構造はIZO/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/Ca+ETL/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)/BAlq/ETL/LiF/Alである。
【0139】
【表1】

【0140】
表1から分かるように、比較例1の素子を2個積層した実施例3の素子の場合、比較例1の素子に比べて電圧は4.5Vから8.5Vに約2倍上昇し、電流効率も積層によって52cd/Aから98cd/Aに約2倍上昇することが分かる。これは、発光パワー効率36lm/Wの減少なしで単一素子と同一のパワー効率を有する積層型発光素子の製作が可能であることを示す。また、実施例4のように電子輸送層にCaの代わりにMgを用いる場合にも、Caに比べて若干のパワー効率の低下はあったものの、積層素子としてよく作用することが分かった。すなわち、2個の発光単位が積層された構造において、2個のNP接合層と、2個のn−型ドーピング層を用いる場合、非常に効率に優れ、単位面積当たり明るさが2倍である積層型素子を製作することができるということが分かる。
【0141】
比較例2、3の場合、2個の発光単位が積層された素子構造において、1個のNP接合または1個のn−ドーピング層を用いる場合、2個のNP接合および2個のn−ドーピング層を用いる場合に比べ、パワー効率が非常に下がることが分かる。これは、NP接合およびn−型有機物が電荷発生および電荷注入特性を向上させることにより、低電圧駆動および中間接続子層の役割を円滑にしていることを示し、また、このような電子発生および注入特性が発光層の電子と正孔のバランシング(balancing)に非常に有用であることが分かる。
【0142】
すなわち、これは、n個の単位発光素子が積層された積層型素子において、n個のNP接合による電荷発生層とn個のn−型ドーピングされた有機物を用いれば、効率の良い有機発光素子の製作が可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、
第2電極、および
前記第1電極と第2電極との間に位置する2以上の発光ユニット
を含む積層型有機発光素子であって、前記発光ユニットは、下記エネルギー関係を満足し、NP接合を形成するn−型有機物層およびp−型有機物層を含み、前記発光ユニットの間にはn−型ドーピングされた有機物層を含むことを特徴とする積層型有機発光素子:
pH−EnL≦1eV
前記式において、EnLは前記n−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位であり、EpHは前記p−型有機物層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【請求項2】
前記第1電極と接する発光ユニットにおいて、前記NP接合を形成するn−型有機物層は、前記第1電極と接し、下記エネルギー関係を満足する、請求項1に記載の積層型有機発光素子:
0eV<EnL−EF1≦4eV
前記式において、EF1は前記第1電極のフェルミエネルギー準位であり、EnLは前記n−型有機物層のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギー準位である。
【請求項3】
前記第1電極と接する発光ユニット以外の発光ユニットにおいて、前記NP接合を形成するn−型有機物層は、前記n−型ドーピングされた有機物層と接する、請求項1に記載の積層型有機発光素子。
【請求項4】
前記第2電極と接する発光ユニットは、n−型ドーピングされた有機物層をさらに含む、請求項1に記載の積層型有機発光素子。
【請求項5】
前記n−型ドーピングされた有機物層は前記第2電極に接する、請求項4に記載の積層型有機発光素子。
【請求項6】
前記発光ユニットは各々少なくとも1つの発光層を含む、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項7】
前記n−型ドーピングされた有機物層において、n−型ドーピング物質は、アルカリ金属、アルカリ土金属、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Th、Dy、Ho、Er、Em、Gd、Yb、Lu、YおよびMnからなる群から選択された1以上の金属または前記1以上の金属を含む金属化合物を含む、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項8】
前記n−型ドーピングされた有機物層において、n−型ドーピング物質は、シクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、6員複素環またはこれらの環が含まれた縮合環を含む物質である、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項9】
前記n−型ドーピングされた有機物層において、ドーピングされる有機物は、イミダゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、キノリンおよびフェナントロリン基から選択された官能基を有する化合物である、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項10】
前記第2電極と接する発光ユニットに含まれたn−型ドーピングされた有機物層は、電子注入層、電子輸送層または電子注入および輸送層である、請求項4に記載の積層型有機発光素子。
【請求項11】
前記p−型有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、または発光層である、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項12】
前記n−型有機物層は、4〜7eVのLUMOエネルギー準位を有する、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記n−型有機物層は、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、および下記化学式23の化合物からなる群から選択された有機物を含む、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【化1】

[前記化学式23において、
〜Rは、各々、水素、ハロゲン原子、ニトリル(−CN)、ニトロ(−NO)、スルホニル(−SOR)、スルホキシド(−SOR)、スルホンアミド(−SONR)、スルホネート(−SOR)、トリフルオロメチル(−CF)、エステル(−COOR)、アミド(−CONHRまたは−CONRR’)、置換もしくは非置換された直鎖もしくは分枝鎖のC〜C12アルコキシ、置換もしくは非置換された直鎖もしくは分枝鎖のC〜C12のアルキル、置換もしくは非置換された芳香族もしくは非芳香族の複素環、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のモノ−またはジ−アリールアミン、および置換もしくは非置換のアラルキルアミンからなる群から選択され、
前記RおよびR’は、各々、置換もしくは非置換のC〜C60のアルキル、置換もしくは非置換のアリールおよび置換もしくは非置換の5−7員複素環からなる群から選択される。]
【請求項14】
前記第1電極は正極であり、前記第2電極は負極である、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項15】
前記有機発光素子は、基板上に負極、有機物層および正極が順次形成された逆(inverted)構造である、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項16】
前記第1電極と前記第2電極は同一の物質で形成される、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。
【請求項17】
前記第1電極および前記第2電極のうちの少なくとも1つは透明物質を含む、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層型有機発光素子。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−521414(P2011−521414A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509421(P2011−509421)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/KR2009/002600
【国際公開番号】WO2009/139607
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】