説明

積層板およびそれを用いたディスプレイ用保護板

【課題】さらに透明性に優れ、表面硬度が高く、かつ吸水率が低い積層板およびそれを用いたディスプレイ用保護板を提供することである。
【解決手段】アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の少なくとも片面に、アクリル樹脂層が積層されてなる積層板であって、前記積層板のヘイズが0.3%以下であり、前記積層板の厚さが0.3〜3mmであり、前記アクリル樹脂層の厚さが前記積層板の厚さの50%以下、かつ60〜200μmである。この積層板からなるディスプレイ用保護板である。前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面に、前記アクリル樹脂層が積層されてなるのが好ましい。前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層と前記アクリル樹脂層とが、共押出成形により積層されてなるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層板およびそれを用いたディスプレイ用保護板に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂板は、透明性や表面硬度に優れるので、ディスプレイ用の保護板等に用いられている。特許文献1には、表面に硬化性塗料を硬化させた耐擦傷性皮膜が形成されてなる耐擦傷性アクリル系樹脂フィルムが記載されている。特許文献1によると、前記フィルムは透明性と表面硬度に優れるので、携帯型情報端末の表示窓保護板として好適であると記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなアクリル樹脂板には、吸水率が高いという問題がある。吸水率が高いアクリル樹脂板は、寸法が変わり易く、寸法安定性に劣る。
【0004】
一方、本出願人は、先に特許文献2に記載のような耐擦傷性樹脂板を開発した。該耐擦傷性樹脂板は、基板の少なくとも一方の面に硬化被膜が形成されてなり、前記基板は、スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリル等の単量体との重合体からなる層(A)と、該層(A)の少なくとも片面に積層されるメタクリル酸メチル等の重合体からなる層(B)と、で構成されている。この耐擦傷性樹脂板は、透明性および耐擦傷性に優れ、高温高湿下に長時間曝されたとしても反り難く耐環境性にも優れる。
しかしながら、特許文献2に記載されている耐擦傷性樹脂板では、表面硬度が十分に得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143365号公報
【特許文献2】特開2010−30247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、さらに透明性に優れ、表面硬度が高く、かつ吸水率が低い積層板およびそれを用いたディスプレイ用保護板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の少なくとも片面に、アクリル樹脂層が積層されてなる積層板であって、前記積層板のヘイズが0.3%以下であり、前記積層板の厚さが0.3〜3mmであり、前記アクリル樹脂層の厚さが前記積層板の厚さの50%以下、かつ60〜200μmであることを特徴とする積層板。
(2)前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面に、前記アクリル樹脂層が積層されてなる前記(1)に記載の積層板。
(3)前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層と前記アクリル樹脂層とが、共押出成形により積層されてなる前記(1)または(2)に記載の積層板。
(4)少なくとも一方の面に硬化被膜が形成されてなる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層板。
(5)前記硬化被膜が、分子中に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含有する硬化性塗料組成物を硬化させて形成されている前記(4)に記載の積層板。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層板からなるディスプレイ用保護板。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層板は、透明性および表面硬度に優れ、かつ吸水率が低く、それゆえ寸法安定性に優れるので、この積層板をディスプレイ用の保護板として用いることにより、多様な環境下でも視認性に優れ、かつそのディスプレイを効果的に保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層板は、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の少なくとも片面に、アクリル樹脂層が積層されてなるものである。前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層は吸水率が低く、前記アクリル樹脂層は透明性や表面硬度に優れる。本発明の積層板は、これらの樹脂層を後述する特定の厚さで積層してなるので、各樹脂層における各々の効果が相まって、高い透明性および表面硬度を示すことができ、かつ低い吸水率を示すことができる。
【0010】
前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層を構成するアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えばアクリロニトリルとスチレンとを所望の割合で塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等で重合させることにより得られるもの等が挙げられる。前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂には、アクリロニトリルおよびスチレン以外に、これらと共重合し得る他の単量体が共重合されていてもよい。前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂は、市販のものを用いることができ、具体例としては、例えば旭化成ケミカルズ(株)製の“スタイラック−AS CS747”等のスタイラック−ASシリーズ等が挙げられる。
【0011】
一方、前記アクリル樹脂層を構成するアクリル樹脂としては、透明性に優れ、剛性も高いメタクリル樹脂が好適である。メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位を主成分とするもの、具体的にはメタクリル酸メチル単位を通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上含むメタクリル酸メチル樹脂であるのが好ましく、メタクリル酸メチル単位100重量%のメタクリル酸メチル単独重合体であってもよいし、メタクリル酸メチルと、該メタクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体との共重合体であってもよい。
【0012】
メタクリル酸メチルと共重合し得る前記他の単量体としては、例えばメタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル類や、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類等が挙げられる。また、スチレンや置換スチレン類として、例えばクロロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン類や、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のアルキルスチレン類等も挙げられる。さらに、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等も挙げられる。これらメタクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂および/またはアクリル樹脂は、ゴム粒子を含有することもできる。これにより、積層板を割れ難くすることができる。ゴム粒子としては、例えばアクリル系、ブタジエン系、スチレン−ブタジエン共重合体系、イソプレン系、スチレン−イソプレン共重合体系、エチレン−プロピレン共重合体系、シリコーンゴム系等が挙げられる。アクリル樹脂がゴム粒子を含有する場合に、中でも、アクリル系ゴム粒子は、その屈折率をアクリル樹脂層の屈折率と合わせ易く、それゆえアクリル樹脂層の透明性を維持しつつ、積層板を割れ難くすることができる点で好ましい。
【0014】
なお、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層およびアクリル樹脂層には、それぞれ必要に応じて、例えば光拡散剤、艶消剤、染料、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を1種または2種以上、添加してもよい。
【0015】
本発明の積層板は、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層とアクリル樹脂層とを共押出成形で積層一体化することにより、好適に製造される。この共押出成形は、2基または3基の一軸または二軸の押出機を用いて、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の材料とアクリル樹脂層の材料とをそれぞれ溶融混練した後、フィードブロックダイやマルチマニホールドダイ等を介して積層することにより行うことができ、積層一体化された溶融積層樹脂体は、例えばロールユニットを用いて冷却固化すればよい。共押出成形により製造した積層板は、粘着剤や接着剤を用いた貼合により製造した積層板に比べて、二次成形し易い点で好ましい。
【0016】
積層板は、ヘイズが0.3%以下、好ましくは0.2%以下である。積層板のヘイズがあまり大きいと、積層板の透明性が低下する。
【0017】
積層板は、通常、シート状ないしフィルム状であり、その厚さは、0.3〜3mm、好ましくは0.3〜2mm、さらに好ましくは0.4〜1.5mmである。この積層板において、アクリル樹脂層の厚さは、積層板の厚さの50%以下、好ましくは6〜30%、より好ましくは6〜10%であり、かつ60〜200μm、好ましくは60〜150μm、より好ましくは70〜100μmである。アクリル樹脂層の厚さが小さい程、吸水率は低くなる傾向にあるが、アクリル樹脂層の厚さがあまり小さいと、積層板の透明性および表面硬度が低下する。また、アクリル樹脂層の厚さがあまり大きいと、吸水率が高くなる。なお、下記で説明するように、積層板は、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル樹脂層が積層されてなる3層構造のものであってもよい。この場合には、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面に積層されるアクリル樹脂層の各々の厚さを、前記した特定の厚さに構成する。
【0018】
積層板は、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の片面のみにアクリル樹脂層が積層されてなる2層構造のものであってもよいし、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル樹脂層が積層されてなる3層構造のものであってもよい。積層板の耐環境性、例えば高温下や高湿下に曝したときの反り難さの点からは、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル樹脂層が積層されてなる積層板が好ましい。なお、3層構造の場合には、両面のアクリル樹脂層の組成や厚みは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、例えば一方のアクリル樹脂層にのみゴム粒子を含有させることも可能である。
【0019】
積層板の少なくとも一方の面には硬化被膜を形成するのが好ましい。これにより、積層板の耐擦傷性を向上させることができる。硬化被膜を積層板上に形成する場合の層構成としては、下記(i)〜(v)が挙げられる。
(i)硬化被膜/アクリル樹脂層/アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層
(ii)硬化被膜/アクリル樹脂層/アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層/硬化被膜
(iii)アクリル樹脂層/アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層/硬化被膜
(iv)硬化被膜/アクリル樹脂層/アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層/アクリル樹脂層
(v)硬化被膜/アクリル樹脂層/アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層/アクリル樹脂層/硬化被膜
【0020】
アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の片面にのみアクリル樹脂層が形成されてなる積層板を用いる場合には、少なくともアクリル樹脂層上に硬化被膜が形成されているのが好ましい。したがって、上記(i)〜(iii)では、(i),(ii)が好ましい。なお、積層板の両面に硬化被膜を形成する場合には、両面の硬化被膜の組成や厚みは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
前記硬化被膜は、硬化性塗料組成物を硬化させて形成されている。該硬化性塗料組成物は、耐擦傷性をもたらす硬化性化合物を必須成分とし、必要に応じて、例えば硬化触媒、導電性粒子、溶媒、レベリング剤、安定化剤、酸化防止剤、着色剤等を含有するものである。
【0022】
硬化性化合物としては、例えばアクリレート化合物、ウレタンアクリレート化合物、エポキシアクリレート化合物、カルボキシル基変性エポキシアクリレート化合物、ポリエステルアクリレート化合物、共重合系アクリレート化合物、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテルエポキシ樹脂、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物等が挙げられる。中でも、硬化被膜の耐擦傷性の点から、多官能アクリレート化合物、多官能ウレタンアクリレート化合物、多官能エポキシアクリレート化合物等のラジカル重合系の硬化性化合物や、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等の熱重合系の硬化性化合物等が好ましく用いられる。これらの硬化性化合物は、例えば電子線、放射線、紫外線等のエネルギー線を照射することにより硬化するものであるか、加熱により硬化するものであるのがよい。これらの硬化性化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
特に好ましい硬化性化合物は、分子中に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。ここで、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基をいい、その他、本明細書において、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等というときの「(メタ)」も同様の意味である。
【0024】
分子中に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物としては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ−またはテトラ−(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ−、テトラ−、ペンタ−またはヘキサ−(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ−、ペンタ−、ヘキサ−またはヘプタ−(メタ)アクリレートのような、3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート;分子中にイソシアナト基を少なくとも2個有する化合物に、水酸基を有する(メタ)アクリレートを、イソシアナト基に対して水酸基が等モル以上となる割合で反応させて得られ、分子中の(メタ)アクリロイルオキシ基の数が3個以上となったウレタン(メタ)アクリレート〔例えば、ジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートの反応により、6官能のウレタン(メタ)アクリレートが得られる〕;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、ここには単量体を例示したが、これら単量体のままで用いてもよいし、例えば2量体、3量体等のオリゴマーの形になったものを用いてもよい。また、単量体とオリゴマーを併用してもよい。これらの(メタ)アクリレート化合物は、それぞれ単独か、または2種以上を混合して用いられる。
【0025】
分子中に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物は、市販のものを用いることができ、具体例としては、例えばいずれも新中村化学工業(株)製の“NKハ−ド M101”(ウレタンアクリレート系)、“NKエステル A−TMM−3L”(ペンタエリスリトールトリアクリレート)、“NKエステル A−TMMT”(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、“NKエステル A−9530”(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)および“NKエステル A−DPH”(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、日本化薬(株)製の“KAYARAD DPCA”(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、サンノプコ(株)製の“ノプコキュア 200”シリーズ、大日本インキ化学工業(株)製の“ユニディック”シリーズ等が挙げられる。
【0026】
なお、硬化性化合物として分子中に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を用いる場合には、必要に応じて、他の硬化性化合物、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートのような、分子中に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を併用してもよいが、その使用量は、分子中に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物100重量部に対して、通常20重量部までである。
【0027】
硬化性塗料組成物を紫外線で硬化させる場合には、硬化触媒として光重合開始剤を使用するのがよい。該光重合開始剤としては、例えばベンジル、ベンゾフェノンやその誘導体、チオキサントン類、ベンジルジメチルケタール類、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、ヒドロキシケトン類、アミノアルキルフェノン類、アシルホスフィンオキサイド類等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。光重合開始剤の使用量は、硬化性化合物100重量部に対して、通常0.1〜5重量部である。
【0028】
光重合開始剤は、市販のものを用いることができ、具体例としては、例えばいずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の“IRGACURE 651”、“IRGACURE 184”、“IRGACURE 500”、“IRGACURE 1000”、“IRGACURE 2959”、“DAROCUR 1173”、“IRGACURE 907”、“IRGACURE 369”、“IRGACURE 1700”、“IRGACURE 1800”、“IRGACURE 819”、“IRGACURE 784” 等の、IRGACURE(イルガキュア)シリーズおよびDAROCUR(ダロキュア)シリーズ、いずれも日本化薬(株)製の“KAYACURE ITX”、“KAYACURE DETX−S”、“KAYACURE BP−100”、“KAYACUREBMS”、“KAYACURE 2−EAQ” 等の、KAYACURE(カヤキュア)シリーズ等が挙げられる。
【0029】
硬化性塗料組成物に導電性粒子を含有させることにより、硬化被膜に帯電防止性を付与することができる。導電性粒子としては、例えばアンチモン−スズ複合酸化物、リンを含有する酸化錫、5酸化アンチモン等の酸化アンチモン、アンチモン−亜鉛複合酸化物、酸化チタン、インジウム−錫複合酸化物(ITO)のような無機粒子が好ましく用いられる。前記導電性粒子は、固形分濃度が10〜30重量%程度のゾルの形態で使用することもできる。
【0030】
導電性粒子の粒子径は、通常0.5μm以下であり、硬化被膜の帯電防止性や透明性の点からは、平均粒子径で表して、好ましくは0.001μm以上であり、また好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.05μm以下である。導電性粒子の平均粒子径が小さい程、積層板のヘイズを低くすることができ、透明性を高めることができる。
【0031】
導電性粒子の使用量は、硬化性化合物100重量部に対して、通常2〜50重量部、好ましくは3〜20重量部である。導電性粒子の使用量が多い程、硬化被膜の帯電防止性が向上する傾向にあるが、導電性粒子の使用量があまり多いと、硬化被膜の透明性が低下するので好ましくない。
【0032】
導電性粒子は、例えば気相分解法、プラズマ蒸発法、アルコキシド分解法、共沈法、水熱法等により製造することができる。また、導電性粒子の表面は、例えばノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、シリコン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等で表面処理されていてもよい。
【0033】
硬化性塗料組成物には、その粘度調整等を目的として、溶媒を含有させるのがよく、特に導電性粒子が含まれる場合には、その分散のために溶媒を含有させるのがよい。導電粒子および溶媒を含有する硬化性塗料組成物を調製する場合には、例えば導電性粒子および溶媒を混合して、溶媒に導電性粒子を分散させた後、この分散液を硬化性化合物と混合してもよいし、硬化性化合物と溶媒を混合した後、この混合液に導電性粒子を分散させてもよい。
【0034】
溶媒は、硬化性化合物を溶解することができ、かつ塗布後に容易に揮発し得るものであるのがよく、また塗料成分として導電性粒子を用いる場合には、それを分散させることができるものであるのがよい。このような溶媒としては、例えばジアセトンアルコール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノールのようなアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコールのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類、水等が挙げられる。溶媒の使用量は、硬化性化合物の性状等に合わせて、適宜調整すればよい。
【0035】
硬化性塗料組成物にレベリング剤を含有させる場合には、シリコーンオイルが好ましく用いられ、その例としては、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル、シラノール基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル、フェノール基含有シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。これらのレベリング剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。レベリング剤の使用量は、硬化性化合物100重量部に対して、通常0.01〜5重量部である。
【0036】
レベリング剤は、市販のものを用いることができ、具体例としては、例えばいずれも東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の“SH200−100cs”、“SH28PA”、“SH29PA”、“SH30PA”、“ST83PA”、“ST80PA”、“ST97PA”および“ST86PA”、いずれもビック・ケミー・ジャパン(株)製の“BYK−302”、“BYK−307”、“BYK−320”および“BYK−330”等が挙げられる。
【0037】
こうして得られる硬化性塗料組成物を、前記積層板の少なくとも一方の面に塗布して硬化性塗膜とし、該硬化性塗膜を硬化させると硬化被膜を形成することができる。硬化性塗料組成物の塗布は、例えばバーコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、ダイコート法、スプレーコート法等のコート法により行えばよい。硬化性塗膜の硬化は、硬化性塗料組成物の種類に応じて、エネルギー線の照射や加熱等により行えばよい。
【0038】
エネルギー線の照射により硬化させる場合のエネルギー線としては、例えば紫外線、電子線、放射線等が挙げられ、その強度や照射時間等の条件は、硬化性塗料組成物の種類に応じて適宜選択される。また、加熱により硬化させる場合において、その温度や時間等の条件は、硬化性塗料組成物の種類に応じて適宜選択されるが、加熱温度は、積層板が変形を起こさないよう、一般的には100℃以下であるのが好ましい。硬化性塗料組成物が溶媒を含有する場合には、塗布後、溶媒を揮発させた後に硬化性塗膜を硬化させてもよいし、溶媒の揮発と硬化性塗膜の硬化とを同時に行ってもよい。
【0039】
硬化被膜の厚みは、好ましくは0.5〜50μmであり、より好ましくは1〜20μmである。硬化被膜の厚みが小さい程、亀裂が生じ難くなる傾向にあるが、あまり小さいと、耐擦傷性が不十分になり好ましくない。
【0040】
得られた積層板には、必要に応じて、その表面に、コート法やスパッタ法、真空蒸着法等により反射防止処理を施してもよい。また、別途作製した反射防止性のシートを積層板の片面または両面に貼合して、反射防止効果を付与してもよい。
【0041】
かくして得られる積層板は、透明性および表面硬度に優れ、かつ吸水率が低く、それゆえ寸法安定性に優れるので、各種用途に用いることができるが、中でもディスプレイ保護板として好適に用いられる。保護されるディスプレイの種類としては、例えばCRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等が挙げられる。また、保護されるディスプレイの用途としては、例えばテレビやコンピューターのモニター、携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)、PDA(Personal Digital Assistant)等の携帯型情報端末の表示窓、デジタルカメラやハンディ型ビデオカメラのファインダー部、携帯型ゲーム機の表示窓等が挙げられる。本発明の積層板は、特に液晶ディスプレイやELディスプレイ等による携帯型情報端末の表示窓保護板として好適に用いられ、とりわけ、携帯電話、特に表示窓を含む表示部が、不使用時には折りたたまれて操作ボタン部を覆う構造となった携帯電話の表示窓保護板として、有利な効果を発揮する。
【0042】
本発明の積層板から、ディスプレイ保護板を作製するには、まず必要に応じて印刷、穴あけ等の加工を行い、必要な大きさに切断処理すればよい。しかるのちに、ディスプレイにセットすれば、ディスプレイを効果的に保護することができる。その際、積層板の片面にのみ硬化被膜が形成されている場合には、硬化被膜が形成された側が表側(視認者側)、硬化被膜が形成されていない側が裏側(ディスプレイ側)になるようにセットするのがよい。また、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の片面にのみアクリル樹脂層が積層されてなる積層板の両面に硬化被膜が形成されている場合には、アクリル樹脂層側が表側、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層が裏側になるようにセットするのがよい。
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0044】
実施例および比較例において、積層板および樹脂板の作製に使用した材料は、次の通りである。
・アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂:旭化成ケミカルズ(株)製の「スタイラック−AS CS747」を用いた。
・メタクリル樹脂:メタクリル酸メチル97.8%とアクリル酸メチル2.2%とからなる単量体のバルク重合により得られた熱可塑性重合体(ガラス転移温度104℃)のペレットを用いた。なお、このガラス転移温度は、JIS K7121:1987に従い、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で求めた補外ガラス転移開始温度である。
【実施例1】
【0045】
〔積層板の作製〕
まず、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂を日立造船(株)製の直径65mmφの一軸押出機で、メタクリル樹脂を日立造船(株)製の直径45mmφの一軸押出機で、それぞれ溶融させ、これらを設定温度240℃のマルチマニホールド型ダイスを介して積層し押し出した。
【0046】
次いで、得られるフィルム状物を、一対の表面が平滑な金属製のロールの間に挟み込んで成形・冷却して、厚さ830μmのアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面に、各々の厚さが80μmのメタクリル樹脂層が積層されてなる総厚さ990μmの3層構成の積層板を作製した。該積層板における両面のメタクリル樹脂層の組成および厚さは、互いに同一である。片面のメタクリル樹脂層の厚さは、積層板の厚さの8%、かつ80μmである。
【0047】
〔評価〕
得られた積層板について、全光線透過率(Tt)、ヘイズ(H)、表面硬度(鉛筆硬度)および吸水率を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0048】
<全光線透過率(Tt)>
JIS K7105に従って測定した。
【0049】
<ヘイズ(H)>
JIS K7136に従って測定した。
【0050】
<表面硬度(鉛筆硬度)>
JIS K5600に従って測定した。
【0051】
<吸水率>
積層板を60mm×60mmの大きさに切断し、JIS K7209に従い、23℃の蒸留水に浸漬し、積層板の重量変化がなくなったときの吸水率を測定した。
【0052】
[比較例1]
まず、メタクリル樹脂を日立造船(株)製の直径65mmφの一軸押出機で溶融させ、設定温度240℃のマルチマニホールド型ダイスを介して押し出した。次いで、得られるフィルム状物を、一対の表面が平滑な金属製のロールの間に挟み込んで成形・冷却して、厚さ990μmのメタクリル樹脂層からなる単層構成の樹脂板を作製した。この樹脂板について、前記実施例1と同様にして、全光線透過率(Tt)、ヘイズ(H)、表面硬度(鉛筆硬度)および吸水率を評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
メタクリル樹脂に代えて、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂を用いた以外は、前記比較例1と同様にして、厚さ970μmのアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層からなる単層構成の樹脂板を作製した。この樹脂板について、前記実施例1と同様にして、全光線透過率(Tt)、ヘイズ(H)、表面硬度(鉛筆硬度)および吸水率を評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から明らかなように、実施例1は、メタクリル樹脂層からなる比較例1と同等の高い透明性および表面硬度を有しており、かつアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層からなる比較例2と同等の低い吸水率を示しているのがわかる。これに対し、メタクリル樹脂層からなる比較例1は吸水率が高い結果を示した。また、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層からなる比較例2は、透明性および表面硬度に劣る結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の少なくとも片面に、アクリル樹脂層が積層されてなる積層板であって、前記積層板のヘイズが0.3%以下であり、前記積層板の厚さが0.3〜3mmであり、前記アクリル樹脂層の厚さが前記積層板の厚さの50%以下、かつ60〜200μmであることを特徴とする積層板。
【請求項2】
前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層の両面に、前記アクリル樹脂層が積層されてなる請求項1に記載の積層板。
【請求項3】
前記アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂層と前記アクリル樹脂層とが、共押出成形により積層されてなる請求項1または2に記載の積層板。
【請求項4】
少なくとも一方の面に硬化被膜が形成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の積層板。
【請求項5】
前記硬化被膜が、分子中に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含有する硬化性塗料組成物を硬化させて形成されている請求項4に記載の積層板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の積層板からなるディスプレイ用保護板。

【公開番号】特開2011−251454(P2011−251454A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126405(P2010−126405)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】