説明

積層構造体及びその製造方法

【課題】インジウムターゲットとバッキングプレートとが良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制された積層構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】積層構造体は、バッキングプレート、バッキングプレート上に形成された、ガリウム濃度が1.0〜30at%であるインジウムとガリウムとの合金薄膜、及び、合金薄膜上に形成されたインジウムターゲットを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層構造体及びその製造方法に関し、より詳細にはバッキングプレート及びインジウムターゲットを備えた積層構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムは、Cu−In−Ga−Se系(CIGS系)薄膜太陽電池の光吸収層形成用のスパッタリングターゲットとして使用されている。
【0003】
従来、インジウムターゲットは、特許文献1に開示されているように、バッキングプレート上にインジウム合金等を付着させた後、金型にインジウムを流し込み鋳造することで作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−44820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バッキングプレート上に直接インジウムを溶解鋳造すると、銅等を用いて形成されているバッキングプレートとインジウムとの密着性不良のために隙間が生じてしまい、スパッタ時のターゲット割れが発生するという問題がある。
また、一方で、バッキングプレート上にインジウムと錫との合金ロウ材として使用すると、インジウムの溶解鋳造の際に、錫がインジウムへ拡散してしまう。インジウムターゲットをスパッタして得られるインジウム膜は、その上にCu−Ga膜を成膜後、セレン化工程を経て、最終的にはCIGS(Cu−In−Ga−Se)膜となるが、錫はGICS膜の構成元素ではないため、不純物として太陽電池の変換効率に悪影響を及ぼす。
【0006】
そこで、本発明は、インジウムターゲットとバッキングプレートとが良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制された積層構造体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、バッキングプレートとインジウムターゲットとの間にインジウムとガリウムとの合金薄膜を形成することで、バッキングプレートとインジウムとを良好に密着することができ、それによってスパッタ中にターゲットが割れるのを良好に抑制することができることを見出した。また、インジウムの溶解鋳造の際のインジウムターゲット内への不純物の拡散を防止することができ、それによって太陽電池の変換効率の低下を良好に抑制することができることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、バッキングプレート、バッキングプレート上に形成された、ガリウム濃度が1.0〜30at%であるインジウムとガリウムとの合金薄膜、及び、合金薄膜上に形成されたインジウムターゲットを備えた積層構造体である。
【0009】
本発明に係る積層構造体は一実施形態において、合金薄膜中のガリウムの濃度が10〜20at%である。
【0010】
本発明に係る積層構造体は更に別の一実施形態において、合金薄膜の厚さが0.1〜2.0mmである。
【0011】
本発明は別の一側面において、バッキングプレートとインジウムターゲットとを、ガリウム濃度が1.0〜30at%であり、膜厚が0.1〜2.0mmであるインジウムとガリウムとの合金薄膜で接合する本発明の積層構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インジウムターゲットとバッキングプレートとが良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制された積層構造体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る積層構造体は、バッキングプレート、バッキングプレート上に形成されたインジウムとガリウムとの合金薄膜、及び、インジウムとガリウムとの合金薄膜上に形成されたインジウムターゲットを備えている。バッキングプレートの形状は特に限定されないが、所定の厚さ及び直径を有する円盤状に形成することができる。バッキングプレートの構成材料は特に限定されないが、例えば銅等の金属材料で形成することができる。インジウムとガリウムとの合金薄膜は、バッキングプレート上に形成され、インジウムターゲットとバッキングプレートとを接合するロウ材としての機能を有している。インジウムとガリウムとの合金は、低融点のガリウムを含有しているため、インジウム単体よりも融点が低く、薄膜の形成が容易である。つまり、ターゲットであるインジウムを融解させることなく、バッキングプレートとインジウムターゲットとの接合が容易となる利点がある。また、銅等のバッキングプレートの構成材料との優れた密着性も有しており、インジウムターゲットとバッキングプレートとを接合するロウ材として適している。
【0014】
合金薄膜中のガリウムは、少量でも添加すればインジウムとガリウムとの合金の融点を下げることができる。そのため、ガリウム濃度は、ガリウムとインジウムとの合計原子数に対するガリウムの原子数の割合で、1at%以上であれば効果を有する。一方、あまりに添加し過ぎると合金の融点が下がり過ぎて、スパッタ時にターゲットの温度が上昇する際、ターゲットの冷却との関係でインジウムとガリウムとの合金であるロウ材が溶け出してしまい、ターゲットがバッキングプレートから剥がれ易くなってしまう。このため、ガリウム濃度は、30at%以下であることが好ましい。また、ガリウムは高価であるため、ある程度の添加濃度にして所定のレベルの密着性等の効果を確保しながらも、それ以上の効果を狙うよりは、コスト的に有利であることが望ましい。このような観点から、ガリウム濃度は、10〜20at%とするのが好ましい。また、ガリウムは最終的に形成されるCIGS膜の構成元素であるため、ロウ材に含まれていても不要な不純物とならない。このため、太陽電池の変換効率に悪影響を及ぼさない。
【0015】
インジウムとガリウムとの合金薄膜の厚さは、0.1〜2.0mmであるのが好ましい。インジウムとガリウムとの合金薄膜の厚さが0.1mm未満であると、十分な密着性を提供できない。インジウムとガリウムとの合金薄膜の厚さが2.0mm超であっても、密着性等の効果は低減する一方で、高価なガリウムをより含むこととなるために、コスト的に不利となる。インジウムとガリウムとの合金薄膜の厚さは、好ましくは0.5〜1.0μmである。
【0016】
本発明において、インジウムターゲットとバッキングプレートとの間には、インジウムとガリウムとの合金薄膜がロウ材として設けられているが、必要であれば、この合金薄膜の他に、バッキングプレートとインジウムターゲットとの間に不純物の拡散防止機能を有する薄膜等を形成してもよい。
【0017】
次に、本発明に係る積層構造体の製造方法の好適な例を順を追って説明する。
まず、溶解鋳造法等でインジウムインゴットを作製する。続いて、このインジウムインゴットを所定の形状に加工してインジウムターゲットを作製する。この際、使用する原料インジウムは、作製する太陽電池の変換効率を高くするために、より高い純度を有していることが望ましく、例えば、純度99.99質量%(4N)以上のインジウムを使用することが望ましい。
次に、所定の材料及び形状のバッキングプレートを用意して、バッキングプレート上にインジウムとガリウムとの合金であって、所定のガリウム濃度のロウ材を溶解させて、その上にインジウムターゲットを設置して、積層構造体を作製する。
【0018】
このようにして得られた積層構造体は、CIGS系薄膜太陽電池用光吸収層のスパッタリングターゲットとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0020】
(実施例1)
まず、純度4Nのインジウムを原料として使用し、このインジウム原料を160℃で溶解させ、この溶体を周囲が直径205mm、高さ7mmの円柱状の鋳型に流し込み、自然冷却により、凝固して得られたインジウムインゴットを直径204mm、厚さ6mmの円板状に加工して、スパッタリングターゲットとした。
次に、直径250mm、厚さ5mmの銅製のバッキングプレートを準備した。次に、インジウムとガリウムとの合金であって、ガリウム濃度が10at%のロウ材を150℃で溶解させたものをバッキングプレート上に設けて合金薄膜を形成した。続いて、ロウ材である合金薄膜の上に上記インジウムのスパッタリングターゲットを設置して、バッキングプレートとインジウムターゲットとを接合することにより積層構造体を作製した。
【0021】
(実施例2)
ロウ材のガリウム濃度を25at%とした以外は、実施例1と同様の条件で積層構造体を作製した。
【0022】
(実施例3)
ロウ材のガリウム濃度を3at%とした以外は、実施例1と同様の条件で積層構造体を作製した。
【0023】
(比較例1)
インジウムとガリウムとの合金薄膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様の条件で積層構造体を作製した。
【0024】
(比較例2)
ロウ材のガリウム濃度を35at%とした以外は、実施例1と同様の条件で積層構造体を作製した。
【0025】
(比較例3)
ロウ材のガリウム濃度を40at%とした以外は、実施例1と同様の条件で積層構造体を作製した。
【0026】
(評価)
実施例及び比較例で得られた積層構造体のインジウムターゲットについて、ガリウム濃度及び銅濃度をそれぞれICP分析法で測定した。
また、これら実施例及び比較例で得られた積層構造体のインジウムターゲットを、ANELVA製SPF−313Hスパッタ装置で、スパッタ開始前のチャンバー内の到達真空度圧力を1×10-4Pa、スパッタ時の圧力を0.5Pa、アルゴンスパッタガス流量を5SCCM、スパッタパワーを650Wで30分間スパッタし、スパッタ中のターゲットの割れや移動について、目視により観察した。
各測定結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1〜3は、ロウ材のガリウム濃度が1.0〜30at%であるため、インジウムターゲットとバッキングプレートとが良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制されている。
比較例1は、インジウムとガリウムとの合金薄膜を形成していないため、インジウムターゲット内に不要な不純物を多く含んでしまった。
比較例2及び3は、それぞれロウ材のガリウム濃度が30at%を超えているため、インジウムターゲットとバッキングプレートとの密着性が不良であり、ターゲット移動が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート、該バッキングプレート上に形成された、ガリウム濃度が1.0〜30at%であるインジウムとガリウムとの合金薄膜、及び、該合金薄膜上に形成されたインジウムターゲットを備えた積層構造体。
【請求項2】
前記合金薄膜中のガリウムの濃度が10〜20at%である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記合金薄膜の厚さが0.1〜2.0mmである請求項1又は2に記載の積層構造体。
【請求項4】
バッキングプレートとインジウムターゲットとを、ガリウム濃度が1.0〜30at%であり、膜厚が0.1〜2.0mmであるインジウムとガリウムとの合金薄膜で接合する請求項1〜3の何れかに記載の積層構造体の製造方法。

【公開番号】特開2012−52175(P2012−52175A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194572(P2010−194572)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】