説明

積層樹脂板の製造方法

【課題】透明性、耐擦傷性、防汚性及び摩擦耐久性に優れた積層樹脂板の製造方法を提供する。
【解決手段】次の(a)〜(d)の工程を有する積層樹脂板の製造方法。
(a)フィルム上に、特定の組成の乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)を形成する第1工程、(b)フィルム上の乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)の面と樹脂板とを、特定の組成の活性エネルギー線硬化性組成物(3)を介して積層する第2工程、(c)活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物(3)を硬化し、樹脂板上に硬化被膜(ハ)を形成する第3工程、(d)樹脂板上の硬化被膜(ハ)の表面から、乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)が積層されたフィルムを剥離する第4工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層樹脂板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CRT表示装置、液晶テレビ、携帯電話等の各種ディスプレーの光学部材の表面を保護する為に、光学部材の前面にディスプレー前面板として透明性を有する樹脂板が使用されている。しかしながら、透明性を有する樹脂板はガラスと比較して柔らかいため、引掻き等による傷が発生し易い。耐擦傷性を向上させる方法としては、多官能(メタ)アクリレート等の多官能性単量体を用いて得られる架橋被膜を基材表面に形成する方法が知られている。しかしながら、従来の架橋被膜は、指紋、皮脂、汗、化粧品等の汚れが付着した際に汚れが目立ちやすく、また汚れの除去が困難であった。このような状況において、樹脂板の性能として耐擦傷性に加えて、防汚性も求められてきている。
【0003】
耐擦傷性及び防汚性を向上させる手法として、例えば、特定のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体を含む活性エネルギー線硬化性組成物を用いる手法(特許文献1)及び特定の重合性不飽和基を持つパーフルオロ基含有化合物を含む重合性組成物を用いる手法(特許文献2)が提案されている。しかしながら、上記手法における活性エネルギー線硬化性組成物はラジカル重合により硬化するため、大気中の酸素により重合が阻害される傾向がある。重合阻害により硬化被膜表層の重合が不完全の場合には、硬化物の防汚性が不十分になると共に、布等で硬化被膜を空拭きすると防汚性能が劣化していくという摩擦耐久性の不十分さが問題となる。
【0004】
一方、大気中の酸素をフィルムで遮断して活性エネルギー線硬化性組成物を硬化する手法として、例えば、基材表面とポリオレフィンフィルムとの間にフッ素原子及び/又はケイ素原子を含有し、且つ分子内に少なくとも1個のラジカル重合性(メタ)アクリロイルオキシ基を有する光重合性化合物を含む活性エネルギー線硬化性組成物を介在させた状態でフィルム側から活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させて、基材表面へ耐汚染性硬化被膜を形成する手法(特許文献3)及びフッ素原子を含む共重合体からなり、臨界表面張力が25mN/m未満の低表面張力フィルムと基材との間に、25℃における表面張力値が20mN/m未満で分子内に1個以上のラジカル重合性(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含む活性エネルギー線硬化性組成物を充填し、フィルム側から活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させて、基材表面へ耐汚染性硬化被膜を形成する手法(特許文献4)が提案されている。しかしながら、一般的に、活性エネルギー線硬化性組成物中のフッ素原子やケイ素原子を含む化合物は、表面張力が低いために、比較的表面張力の高い基材よりも表面張力の低い大気界面に集まりやすい傾向にある。従って、特許文献3の手法では、活性エネルギー線硬化性組成物を大気界面で硬化した場合と比較して、フッ素原子及び/又はケイ素原子を含有する化合物が活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜表層に配向しにくく、防汚性能が不十分であるという問題点がある。また、特許文献4の手法では、大気中の酸素を遮断するためのフィルムとして低表面張力フィルムを使用することで、フッ素原子及び/又はケイ素原子を含有する化合物は硬化被膜表層に配向し易くなるものの、硬化被膜に付着した指紋、皮脂、汗、化粧品等の汚れ除去性能を十分発現させることが望まれていた。
【特許文献1】特開昭61−258870号公報
【特許文献2】特開2004−35845号公報
【特許文献3】特開2003−47908号公報
【特許文献4】特開2002−194249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は透明性、耐擦傷性、防汚性及び摩擦耐久性に優れた積層樹脂板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は次の(a)〜(d)の工程を有する積層樹脂板の製造方法である。
【0007】
(a)フィルム上に、以下に示す乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)を形成する第1工程
<乾燥被膜(イ)>
下記一般式(α)で示される含フッ素化合物(A)及び有機溶剤(B−1)を含有するフッ素含有コーティング剤(1)をフィルム上に塗工し、次いで有機溶剤(B−1)を揮発させて得られる乾燥被膜
【化1】

【0008】
(式中、Rはフッ素原子を有する有機官能基、Rは炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)
<硬化被膜(ロ)>
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)、有機溶剤(B−2)及び光重合開始剤(E−1)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物(2)をフィルム上に塗工し、次いで有機溶剤(B−2)を揮発させた後に活性エネルギー線を照射して得られる硬化被膜
(b)フィルム上の乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)の面と樹脂板とを、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)及び光重合開始剤(E−2)を含み、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)及び(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の合計量を100質量部としたときに(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)が65〜95質量部であり、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)が5〜35質量部である活性エネルギー線硬化性組成物(3)を介して積層する第2工程
(c)活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物(3)を硬化し、樹脂板上に硬化被膜(ハ)を形成する第3工程
(d)樹脂板上の硬化被膜(ハ)の表面から、乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)が積層されたフィルムを剥離する第4工程
尚、本発明において「(メタ)アクリロイル基」はアクリロイル基又はメタクリロイル基を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」をそれぞれ表す。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により製造された積層樹脂板は透明性、耐擦傷性、防汚性、摩擦耐久性に優れ、且つ、指紋、皮脂、汗、化粧品等の汚れ除去性に優れることから、CRT、液晶テレビ、携帯電話等の各種ディスプレーの前面板として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
フィルム
本発明に用いられるフィルムは特に限定されないが、活性エネルギー線透過性及び耐溶剤性に優れ、酸素透過性の低いものが好ましい。
【0011】
フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「PETフィルム」という);ナイロンフィルム;ポリカーボネートフィルム;アクリル系フィルム;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系フィルム;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系フィルム及びポリ塩化ビニリデン系フィルムが挙げられる。これらの中で、耐溶剤性を有し、酸素の透過率が低い点でPETフィルムが好ましい。
【0012】
フィルムの厚みは、フィルム強度の点で1μm以上が好ましく、取り扱い性、コスト等の点で200μm以下が好ましい。
【0013】
また本発明においては、フィルム表面の水に対する接触角は、フッ素含有コーティング剤(1)のフィルムへの濡れ性を良好とし、且つフィルムと乾燥被膜(イ)との密着性を良好とする点で、少なくともフィルムの片面が55度以下であることが好ましく、50度以下であることがより好ましい。
【0014】
水に対する接触角が55度以下の表面を有するフィルムとしては、基材そのものの水に対する接触角が55度以下であるフィルム、及びフィルム表面を以下に述べる易接着処理したフィルムが挙げられる。
【0015】
上記の易接着処理の方法としては、例えば、プライマー処理、溶剤処理、酸処理、アルカリ処理等の化学的処理法及びコロナ処理、プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、フレーム処理等の物理的処理法が挙げられる。これらの中で、フッ素含有コーティング剤(1)の濡れ性が向上する点で、すなわち水に対する接触角が小さくなる点でコロナ処理が好ましい。
【0016】
本発明においては、プライマー処理とは、フィルム上に、後述する活性エネルギー線硬化性組成物(2)との密着性が良好な被膜を形成する処理をいう。
【0017】
また、本明細書におけるコロナ処理とは、フィルム表面に放電処理を行い、該表面を化学改質する処理をいう。
【0018】
含フッ素化合物(A)
本発明で使用される後述のフッ素含有コーティング剤(1)中に含有される含フッ素化合物(A)は下記一般式(α)で示されるもので、フィルム表面上に表面張力が低く、撥水・撥油性能の高い後述の乾燥被膜(イ)を形成するための成分である。
【化1】

【0019】
含フッ素化合物(A)はフッ素原子を有する有機官能基であるRを有するが、乾燥被膜(イ)の撥水・撥油性能の点及びフィルムとの密着性の点で、Rはパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基が好ましい。Rは炭素数が1〜3のアルキル基を表す。
【0020】
含フッ素化合物(A)は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明においては、含フッ素化合物(A)は、撥水・撥油性能の高い被膜を得る点で、フッ素含有コーティング剤(1)中に0.02〜0.2質量%含有されることが好ましい。
【0022】
有機溶剤(B−1)
フッ素含有コーティング剤(1)中に含有される有機溶剤(B−1)は含フッ素化合物(A)との相溶性に優れ、また、フッ素含有コーティング剤(1)の粘度、乾燥速度及び乾燥被膜(イ)の膜厚をコントロールするために使用される。
【0023】
有機溶剤(B−1)としては炭化水素系溶剤等の非フッ素溶剤及び含フッ素溶剤が挙げられるが、含フッ素化合物(A)との相溶性に優れる点で、含フッ素溶剤が好ましい。
【0024】
非フッ素溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2プロパノール等の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類及びジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。
【0025】
含フッ素溶剤としては、例えば、含フッ素アルコール、含フッ素エーテル及びジトリフルオロメチルベンゼンが挙げられる。
【0026】
含フッ素アルコールの具体例としては、化学式H(CF(CH−OH、F(CF(CH−OH、F(CFCH=CHCHOH及びF(CFCHCH(I)CHOHで示される化合物が挙げられる。尚、上記の式において、v及wはそれぞれ独立に1〜8の整数を表す。
【0027】
含フッ素エーテルの具体例としては、R21−O−R22で示される化合物が挙げられる。尚、上記の式において、R21及びR22はそれぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基であり、R21及びR22の少なくとも一方がフッ素原子を含む。
【0028】
含フッ素エーテルとしては、例えば、ハイドロフルオロアルキルエーテルが挙げられる。また、含フッ素エーテルの市販品としては、例えば、住友スリーエム(株)製の「HFE−7100」及び「HFE−7200」(いずれも商品名)が挙げられる。
【0029】
ジトリフルオロメチルベンゼンとしては、o−ジトリフルオロメチルベンゼン、m−ジトリフルオロメチルベンゼン、p−ジトリフルオロメチルベンゼン及びこれらの混合物が挙げられる。
【0030】
有機溶剤(B−1)は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
フッ素含有コーティング剤(1)
本発明で使用されるフッ素含有コーティング剤(1)は含フッ素化合物(A)及び有機溶剤(B−1)を含有するが、含フッ素化合物(A)及び有機溶剤(B−1)の必要量を混合して調整する方法及び含フッ素化合物(A)及び有機溶剤(B−1)が既に混合された状態の市販品を使用する方法のいずれでもよい。
【0032】
含フッ素化合物(A)及び有機溶剤(B−1)を含むフッ素含有コーティング剤(1)の市販品としては、例えば、(株)フロロテクノロジー製「フロロサーフFG5010」(商品名)、ダイキン工業(株)製「オプツールDSX」及び「オプツールAES−4」(いずれも商品名)、住友スリーエム(株)製「ノベックEGC−1720」(商品名)が挙げられる。これら市販品を使用する際には、含フッ素化合物(A)の含有量が適正なものになるように、適宜、有機溶剤(B−1)を添加することができる。
【0033】
フッ素含有コーティング剤(1)のフィルム表面への塗工方法としては、特に限定されないが例えば、流延法、ローラーコート法、バーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、フローコート法、カーテンコート法及びディッピング法が挙げられる。
【0034】
乾燥被膜(イ)
本発明において、乾燥被膜(イ)はフッ素含有コーティング剤(1)をフィルム上に塗工し、次いで有機溶剤(B−1)を揮発させる乾燥処理を実施することにより得られる。
【0035】
得られた乾燥被膜(イ)は表面張力が低く、撥水・撥油性能が高いので、後述する活性エネルギー線硬化性組成物(3)に含まれるフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)が活性エネルギー線硬化性組成物(3)の塗膜の乾燥被膜(イ)側の表層に配向しやすくなり、得られる硬化被膜(ハ)の防汚性及び摩擦耐久性が向上する。硬化被膜(ハ)表面の水に対する接触角は100度以上が好ましく、105度以上がより好ましい。
【0036】
フッ素コーティング剤(1)から有機溶剤(B−1)を揮発させる場合、乾燥温度は使用する有機溶剤(B−1)の種類及び乾燥時間に応じて任意に設定することができるが、60℃以上で乾燥を行うことが好ましい。また、フィルムと乾燥被膜(イ)との密着性をより強固にするために乾燥処理後3〜24時間放置することが好ましい。このときの放置温度は室温とすることができるが、放置温度を60〜120℃とすることで放置時間を短縮しても同様の性能を発現することができる。
【0037】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)
本発明において、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)は後述する硬化被膜(ロ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(2)の1成分である。
【0038】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)としては、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びアルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
これらの中で、活性エネルギー線硬化性組成物(2)の硬化性及び耐擦傷性を向上させる点で、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0040】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)
本発明において、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)は後述する硬化被膜(ロ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(2)の1成分である。
【0042】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)は硬化被膜(ロ)の撥水性、撥油性及び防汚性を発現するために必須な成分である。
【0043】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)としては特に限定されるものではなく、公知のフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。
【0044】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)の市販品としては、例えば、へプタデカンフルオロデシルアクリレートである大阪有機化学工業(株)製「ビスコート17F」(商品名)、パーフルオロオクチルエチルアクリレートである共栄社化学(株)製「ライトアクリレートFA−108」(商品名)、1,10−ビス(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,−ヘキサデカフルオロデカンである共栄社化学(株)製「16−FDA」(商品名)、ダイキン工業(株)製「オプツールDAC」(商品名)が挙げられる。
【0045】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)として、硬化被膜(ロ)の撥水性、撥油性を良好とする点で、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0046】
パーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレートの中で、下記一般式(β)で示されるパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物が、硬化被膜(ロ)の表面に付着した指紋やファンデーション等の化粧品の拭取り性を向上させる点で好ましい。
【化2】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を表す。)
【0047】
上記のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレートは、下記一般式(γ)で示されるトリイソシアネートに、下記一般式(δ)で示されるアルコール及び下記化学式(ε)で示されるアルコール(ヒドロキシエチルアクリレート、以下「アルコール(ε)」という。)を反応させることにより得ることができる。
【0048】
一般式(β)で示されるパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物は、一般式(γ)で示されるトリイソシアネートの一つのイソシアネート基に一般式(δ)で示されるアルコールを反応させ、残りの二つのイソシアネート基にアルコール(ε)を反応させることにより得ることができる。前記の反応は、一般式(γ)で示されるトリイソシアネートに一般式(δ)で示されるアルコール及びアルコール(ε)を同時に反応させてもよいし、又は一般式(δ)で示されるアルコール及びアルコール(ε)を順次反応させてもよい。
【化3】

【化4】

【0049】
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基又はパーフルオルポリエーテル基を表す。)
【化5】

【0050】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)の添加量は、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)100質量部に対して0.1〜2質量部が好ましい。フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)の添加量が0.1質量部以上で、硬化被膜(ロ)の撥水・撥油性能を十分とすることができる。また、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)の添加量が2質量部以下で、硬化被膜(ロ)の硬化性及び透明性を良好とすることができる。
【0052】
有機溶剤(B−2)
本発明において、有機溶剤(B−2)は後述する硬化被膜(ロ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(2)の1成分である。
【0053】
有機溶剤(B−2)としては炭化水素系溶剤等の非フッ素溶剤及び含フッ素溶剤が挙げられる。
【0054】
有機溶剤(B−2)の具体例としては前述の有機溶剤(B−1)と同様のものが挙げられる。
【0055】
有機溶剤(B−2)の中で、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)の溶解性が優れる点で、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール及びメチルエチルケトンが好ましい。
【0056】
有機溶剤(B−2)の含有量は、良好な塗工性を確保するために、活性エネルギー線硬化性組成物(2)中に10質量%以上が好ましく、有機溶剤(B−2)を揮発させた後の塗膜の厚み及び乾燥時の負荷の点で活性エネルギー線硬化性組成物(2)中に90質量%以下が好ましい。
【0057】
有機溶剤(B−2)は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
光重合開始剤(E−1)
本発明において、光重合開始剤(E−1)は後述する硬化被膜(ロ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(2)の1成分である。
【0059】
光重合開始剤(E−1)としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;メチルベンゾイルホルメート;1,7−ビスアクリジニルヘプタン及び9−フェニルアクリジンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
光重合開始剤(E−1)の添加量としては、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0061】
活性エネルギー線硬化性組成物(2)
本発明において、活性エネルギー線硬化性組成物(2)は(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)、有機溶剤(B−2)及び光重合開始剤(E−1)を含有するが、硬化被膜(ロ)のクラック防止や硬化被膜(ロ)とフィルムとの密着性を向上させるために、分子内に1個又は2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物を、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)100質量部に対して25質量部を上限に添加することが可能である。
【0062】
分子内に1個又は2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、後述する活性エネルギー線硬化性組成物(3)に含まれる、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)と同様の化合物が挙げられる。
【0063】
活性エネルギー線硬化性組成物(2)には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、離型剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光剤、連鎖移動剤等の各種添加剤を適宜添加することができる。
【0064】
活性エネルギー線硬化性組成物(2)の塗工方法としては前記のフッ素含有コーティング剤(1)のフィルム表面への塗工方法と同様の方法が挙げられる。
【0065】
活性エネルギー線
本発明においては、活性エネルギー線硬化性組成物(2)は活性エネルギー線により硬化される。
【0066】
活性エネルギー線硬化性組成物(2)を硬化させるための活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、可視光線等が使用可能であるが、装置コストや生産性の観点から紫外線を利用することが好ましい。光源としては、例えば、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、蛍光ランプ、メタルハライドランプ、Arレーザー、He−Cdレーザー、固体レーザー、キセノンランプ、高周波誘導水銀ランプ及び太陽光が挙げられる。
【0067】
硬化被膜(ロ)
硬化被膜(ロ)は活性エネルギー線硬化性組成物(2)をフィルム上に塗工し、次いで有機溶剤(B−2)を揮発させた後に活性エネルギー線を照射して得られる。
【0068】
活性エネルギー線硬化性組成物(2)から有機溶剤(B−2)を揮発させる場合、乾燥温度は使用する有機溶剤(B−2)の種類及び乾燥時間に応じて任意に設定することができる。
【0069】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)
本発明において、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)は後述する硬化被膜(ハ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(3)の1成分である。
【0070】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)としては前述の(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)と同様のものが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
これらの中で、活性エネルギー線硬化性組成物(3)の硬化性及び耐擦傷性を向上させる点で、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0072】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)の添加量としては、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)及び後述する(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の合計量を100質量部としたときに65〜95質量部であり、75〜90質量部が好ましい。(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)の添加量が65質量部以上で、活性エネルギー線硬化性組成物(3)の硬化性並びに硬化被膜(ハ)の透明性、耐擦傷性、撥水性及び撥油性を良好とすることができる。また、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)の添加量が95質量部以下で、活性エネルギー線硬化性組成物(3)の硬化収縮率を低くすることができ、硬化被膜(ハ)のクラックの発生を抑制することができ、硬化被膜(ハ)と樹脂板との密着性を良好とすることができる。
【0073】
(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)
本発明において、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)は後述する硬化被膜(ハ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(3)の1成分である。
【0074】
(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)としては、例えば、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アクリルアミド、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチルジエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、テトラクロロフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、テトラブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−テトラブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−トリクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2−トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタクロロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタブロモフェニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、メチルトリエチレンジグリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルポリオキシ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルへキサヒドロフタル酸、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0075】
(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の添加量としては、前述の(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)及び(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の合計量を100質量部としたときに5〜35質量部であり、10〜25質量部が好ましい。(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の添加量が5質量部以上で、硬化被膜(ハ)と樹脂板との密着性を良好とすることができる。また、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の添加量が35質量部以下で、活性エネルギー線硬化性組成物(3)の硬化性並びに硬化被膜(ハ)の透明性、耐擦傷性、撥水性及び撥油性を良好とすることができる。
【0076】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−2)
本発明において、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−2)は後述する硬化被膜(ハ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(3)の1成分である。
【0077】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−2)としては、前述したフッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−1)と同様のものが挙げられる。
【0078】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−2)として、硬化被膜(ハ)の撥水性、撥油性を良好とする点で、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0079】
更に、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレートの中で、(メタ)アクリレート(D−1)の場合と同様に、前記の一般式(β)で示されるパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物が、硬化被膜(ハ)の表面に付着した指紋やファンデーション等の化粧品の拭取り性を向上させる点で好ましい。
【0080】
上記のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有するウレタン(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリレート(D−1)の場合と同様に、前記の一般式(γ)で示されるトリイソシアネートに、前記の一般式(δ)で示されるアルコール及び前記の一般式(ε)で示されるアルコールを反応させることにより得ることができる。
【0081】
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−2)の添加量は、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)及び(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の合計量100質量部に対して0.1〜2質量部が好ましく、0.25〜1.5質量部がより好ましく、0.3〜1質量部が更に好ましい。フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−2)の添加量が2質量部以下で、硬化被膜(ハ)の耐擦傷性及び透明性を良好とすることができる。また、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート(D−2)の添加量が0.1質量部以上で、硬化被膜(ハ)の防汚性や、指紋、皮脂、汗、化粧品等の汚れの拭き取り性を良好とすることができる。
【0082】
なお、前記活性エネルギー線硬化性組成物(2)のフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)及び活性エネルギー線硬化性組成物(3)のフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)の少なくとも一方が前記一般式(β)で示されるウレタン(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0083】
光重合開始剤(E−2)
本発明において、光重合開始剤(E−2)は後述する硬化被膜(ハ)を形成するための活性エネルギー線硬化性組成物(3)の1成分である。
【0084】
光重合開始剤(E−2)としては、前述した光重合開始剤(E−1)と同様のものが挙げられる。
【0085】
光重合開始剤(E−2)の添加量としては、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)及び(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の合計量100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0086】
活性エネルギー線硬化性組成物(3)
本発明において、活性エネルギー線硬化性組成物(3)は(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)及び光重合開始剤(E−2)を含有する。
【0087】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物(3)には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、離型剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光剤、連鎖移動剤等の各種添加剤を適宜添加することができる。
【0088】
本発明において、活性エネルギー線硬化性組成物(3)は、活性エネルギー線硬化性組成物(3)の塗膜が、後述する樹脂板と、第1工程で得られた乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)が積層されたフィルムの乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)の面との間に塗工され、次いで活性エネルギー線により活性エネルギー線硬化性組成物(3)が硬化されて後述する硬化被膜(ハ)が形成される。
【0089】
活性エネルギー線硬化性組成物(3)の樹脂板への塗工方法としては、前記のフッ素含有コーティング剤(1)のフィルム表面への塗工方法と同様の方法が挙げられる。
【0090】
活性エネルギー線硬化性組成物(3)を硬化させるための活性エネルギー線としては、活性エネルギー線硬化性組成物(2)を硬化させるための活性エネルギー線と同様のものが挙げられる。
【0091】
本発明においては、活性エネルギー線硬化性組成物(3)の表面は、片面が樹脂板、反対の面が乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)が積層されたフィルムの乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)の面と接触していることから、活性エネルギー線硬化性組成物(3)は嫌気性雰囲気で硬化されるため、酸素等によって重合阻害されることなく、硬化被膜(ハ)の防汚性及び摩擦耐久性を向上することができる。また仕上がり不良の原因となる泡やゴミの混入等も排除することができる。また、乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)が積層されたフィルムを使用することから、活性エネルギー線硬化性組成物(3)を安価な嫌気性雰囲気中で硬化することができる。
【0092】
本発明において、活性エネルギー線硬化性組成物(3)を硬化させるための活性エネルギー線の照射は、フィルムを介してフィルム側から行うか、又は樹脂板側から行うことができる。
【0093】
フィルムを使用すること以外にも、嫌気性雰囲気を作り出す方法として例えば鋳型と樹脂板でサンドイッチする方法、不活性ガス雰囲気とする方法等があるが、鋳型を用いた場合には、鋳型を損傷した場合の修理にコストがかかり、また不活性ガス雰囲気とする場合にもやはり高コストとなる。本発明ではファイルを用いることにより、低コストで嫌気性雰囲気を作り出すことができる。
【0094】
本発明においては、活性エネルギー線硬化性組成物(3)はフィルムに積層された乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)の面に接触した状態で硬化されることから、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)が、活性エネルギー線硬化性組成物(3)中において樹脂板側よりも乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)の面の側で高濃度となり、防汚性及び耐擦傷性に優れた硬化被膜(ハ)を容易に形成することができる。
【0095】
硬化被膜(ハ)
活性エネルギー線硬化性組成物(3)を硬化させると硬化被膜(ハ)が形成される。硬化被膜(ハ)は樹脂板に防汚性及び耐擦傷性を付与するために樹脂板の表面に積層される。
【0096】
樹脂板
本発明で使用される樹脂板としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の樹脂成分を含むものが挙げられる。これらの中で、樹脂板としては透明性が良好であるメタクリル樹脂が好ましい。
【0097】
積層樹脂板
本発明においては、樹脂板の表面に、硬化被膜(ハ)、乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)及びフィルムが順次積層されたものが形成されるが、得られた積層体から乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)がフィルムに積層された状態のものを剥離することにより最終的に樹脂板と硬化被膜(ハ)との積層樹脂板が得られる。
【0098】
本発明の積層樹脂板の製造方法を以下に示す図1を参照して説明する。尚、本発明は図1の方法に限られるものではない。
【0099】
乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)(以下、乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)を「被膜(い)」という。)が積層されたフィルム(あ)の被膜(い)の面上に活性エネルギー線硬化性組成物(3)を塗工する。次いで、搬送体(け)で搬送される樹脂板(え)表面と、活性エネルギー線硬化性組成物(3)を塗工したフィルム(あ)の被膜(い)側の面とを相対させてプレスロール(か)で圧接することにより樹脂板(え)、活性エネルギー線硬化性組成物(3)(図1の(う)左部)、被膜(い)及びフィルム(あ)が順次積層された積層体が形成される(第2工程)。この積層体に、フィルム面側よりフィルムを介して、活性エネルギー線照射装置(く)を用いて紫外線を照射し、活性エネルギー線硬化性組成物(3)を硬化させる(第3工程)。本発明においては上記積層体が形成された後、活性エネルギー線の照射までに保持時間を設けることが好ましい。保持時間としては、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)が活性エネルギー線硬化性組成物(3)中で被膜(い)の面側に移行することを考慮して0.5〜5分が好ましい。
【0100】
活性エネルギー線硬化性組成物(3)の硬化後、上記の積層体がガイドロール(き)を通過した後に、樹脂板(え)上に積層された硬化被膜(ハ)(図1の(う)右部)から被膜(い)が積層されたフィルム(あ)を剥離する(第4工程)。このようにして硬化被膜(ハ)が樹脂板(え)上に積層された積層樹脂板(お)が得られる。
【0101】
本発明においては、第4工程の後に、硬化被膜(ハ)の耐擦傷性を更に向上させる目的で、硬化被膜(ハ)が形成された積層樹脂板に活性エネルギー線を照射することができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。尚、実施例における各種評価は下記の方法により実施した。また、以下において、「部」は「質量部」を表す。
【0103】
(1)接触角
(a)水に対する接触角
乾燥被膜(イ)若しくは硬化被膜(ロ)が形成されたフィルム又は硬化被膜(ハ)が形成された樹脂板の、乾燥被膜(イ)、硬化被膜(ロ)又は硬化被膜(ハ)の表面に、23℃、相対湿度50%の環境下において、純水0.2μLを1滴で滴下し、携帯型接触角計(Fibro syetem ab社製、商品名:「PG−X」)を用いて水と硬化被膜面間の接触角を測定し、水に対する接触角を求めた。
【0104】
(b)トリオレインに対する接触角
純水の代わりにトリオレインを使用したこと以外は水に対する接触角の評価と同様にして、トリオレインと硬化被膜(ハ)間の接触角を測定し、トリオレインに対する接触角を求めた。
【0105】
(2)密着性
クロスカット試験(JIS K5600−5−6)により、乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)と、フィルムとの密着性及び硬化被膜(ハ)と樹脂板との密着性を以下の基準で評価した。
【0106】
「○」:乾燥被膜及び硬化被膜の剥離無し
「×」:乾燥被膜及び硬化被膜の剥離有り
(3)硬化被膜(ハ)の外観
硬化被膜の表面の状態を目視により以下の基準で評価した。
【0107】
「○」:目視により、クラック・硬化不良有り
「×」:目視により、クラック・硬化不良無し
(4)ヘーズ値
硬化被膜(ハ)の表面のヘーズ値を日本電色工業(株)製HAZE METER NDH2000を用いてJIS K7136に示される測定法に準拠して測定した。
【0108】
(5)耐擦傷性
擦傷試験の前後における硬化被膜(ハ)の表面のヘーズ値の変化の大きさを以下の方法により評価した。
【0109】
#000のスチールウール(日本スチールウール(株)製、商品名:「ボンスター No.001」)を装着した直径24mmの円形パッドを積層樹脂板の硬化被膜側の表面上に置き、2,000gの荷重下で、20mmの距離を100回往復させて擦傷した。擦傷前と擦傷後のヘーズ値の差△ヘーズ(%)を下記式より求め、耐擦傷性を評価した。
【0110】
[耐擦傷性(△ヘーズ(%))]=[擦傷後のヘーズ値(%)]−[擦傷前のヘーズ値(%)]
(6)油性インク拭き取り性
油性インク(黒字)として「マイネーム」((株)サクラクレパス製、商品名)で硬化被膜の表面上に線を書き、3分後に「キムタオル」(日本製紙クレシア(株)製、商品名)で拭き取り、その際の油性インクの拭き取れ具合を目視により以下の基準で評価した。
【0111】
「○」:5回の拭取りで完全に拭き取れる
「△」:5回の拭取りでわずかに線の跡が残る
「×」:5回の拭取りで一部、又は全部のインクが付着したままである
(7)指紋拭き取り性
硬化被膜の表面上に右手親指を3秒間押し当てて指紋を付着させた後、「キムタオル」にて指紋を拭き取り、その際の指紋の拭き取れ具合を目視により以下の基準で評価した。
【0112】
「○」:5回以内で完全に拭き取れる。
【0113】
「△」:6回から10回以内で完全に拭き取れる。
【0114】
「×」:完全に拭き取るのに11回以上かかる、又は指紋は完全には拭き取れない。
【0115】
(8)ファンデーション拭き取り性
市販のファンデーションとして「ミッション リバイタライジングトリートメント」(エイボンプロダクツ(株)製、商品名)を硬化被膜に指で塗りつけた後、「キムタオル」にて拭き取り、その際のファンデーションの拭き取れ具合を目視により以下の基準で評価した。
【0116】
「○」:5回以内で完全に拭き取れる。
【0117】
「△」:6回から10回以内で完全に拭き取れる。
【0118】
「×」:完全に拭き取るのに11回以上かかる、又は完全には拭き取れない。
【0119】
(9)摩擦耐久性
硬化被膜表面を以下の方法により「キムタオル」で擦傷し、擦傷前後における水と硬化被膜面間の接触角の変化により摩擦耐久性を評価した。
【0120】
直径24mmの円形パッドに「キムタオル」1枚(380mm×330mm)の裏面を両面テープで貼りつけた後に、「キムタオル」を直径24mmの円形パッドのサイズに裁断した。「キムタオル」を装着した直径24mmの円形パッドを硬化被膜の表面上に置き、500gの荷重下で、60mmの距離を500回往復させて擦傷し、擦傷前と擦傷後の水に対する接触角の変化の割合を下式により求め、摩擦耐久性を評価した。尚、本評価方法における硬化被膜にかかる圧力は10.8kPaであった。
【0121】
摩擦耐久性(%)=(擦傷前の硬化被膜の接触角−擦傷後の硬化被膜の接触角)/(擦傷前の硬化被膜の接触角)×100
〔製造例1〕乾燥被膜(イ−1)が積層されたPETフィルム
フッ素含有コーティング剤(1−1)として、含フッ素化合物(A)の含有量が20質量%の「オプツールAES−4」(ダイキン工業(株)製、商品名、溶剤 パーフルオロヘキサン80質量%)を用い、含フッ素化合物(A)の含有量が0.1質量%になるように、有機溶剤(B−1)としてパーフルオロヘキサンを用いて希釈し、均一になるように攪拌混合を行い、「オプツールAES−4」溶液を調整した。
【0122】
片面がコロナ処理された厚み50μmのPETフィルム「テイジンテトロンフィルムG2C」(帝人デュポンフィルム(株)製、商品名)のコロナ処理面に、前記の調整した「オプツールAES−4」溶液を、バーコーターを用いて乾燥膜厚が10nmとなるように塗布した。次いで、このフィルムを60℃の熱風乾燥炉で10分間乾燥し、更に室温で3時間放置し、乾燥被膜(イ−1)が積層されたPETフィルムを得た。乾燥被膜(イ−1)が積層されたPETフィルムの評価結果を表1に示す。
【0123】
〔製造例2〕乾燥被膜(イ−2)が積層されたPETフィルム
厚み38μmのPETフィルムである「コスモシャインA4300」(東洋紡績(株)製、商品名)の片面に、「プライマーコートPC−3」((株)フロロテクノロジー製、商品名)を、バーコーターを用いて乾燥後の厚みが0.1μmとなるように塗布した。次いで、60℃の熱風乾燥炉で15分間乾燥し、フィルムのプライマー処理を実施した。
【0124】
フッ素含有コーティング剤(1−2)として、含フッ素化合物(A)の含有量が0.1質量%の「フロロサーフFG5010Z130−0.1」((株)フロロテクノロジー製、商品名)を用いた。
【0125】
PETフィルムの「プライマーコートPC−3」を塗布した面に、バーコーターを用いて乾燥膜厚が15nmとなるように塗布した。次いで、このフィルムを60℃の熱風乾燥炉で10分間乾燥し、更に室温で8時間放置し、乾燥被膜(イ−2)が積層されたPETフィルムを得た。乾燥被膜(イ−2)が積層されたPETフィルムの評価結果を表1に示す。
【0126】
〔製造例3〕乾燥被膜(イ−3)が積層されたPETフィルム
PETフィルムとしてコロナ処理後1ヶ月が経過した「テイジンテトロンフィルムG2C」を使用した。それ以外は製造例1と同様にして乾燥被膜(イ−3)が積層されたPETフィルムを得た。乾燥被膜(イ−3)が積層されたPETフィルムの評価結果を表1に示す。
【表1】

【0127】
〔製造例4〕硬化被膜(ロ−1)が積層されたPETフィルム
以下に示す化合物を混合し、活性エネルギー線硬化性組成物(2−1)を得た。なお、「部」は「質量部」のことを表す。
【0128】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1):ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成(株)製、商品名:「M400」)50部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成(株)製、商品名:「M305」)50部
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)(前記一般式(β)で示されるウレタン(メタ)アクリレート化合物)溶液:「オプツールDAC」(ダイキン工業(株)製、商品名)2部(フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)20質量%及び2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(有機溶剤(B−2))80質量%の混合物)
有機溶剤(B−2):1−メトキシ−2−プロパノール244.3部
光重合開始剤(E−1):1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製、商品名:「IRGACURE184」)5部
片面がコロナ処理された厚み50μmのPETフィルム「テイジンテトロンフィルムG2C」(帝人デュポンフィルム(株)製、商品名)のコロナ処理面に、上記で調整した活性エネルギー線硬化性組成物(2−1)を、バーコーターを用いて硬化後の膜厚が4μmとなるように塗布した。次いで、このフィルムを60℃の熱風乾燥炉で5分間乾燥した後、出力120W/cmの高圧水銀灯の下20cmの位置を0.25m/分の速度で通過させて活性エネルギー線硬化性組成物(2−1)を硬化させ、硬化被膜(ロー1)が積層されたPETフィルムを得た。尚、硬化被膜(ロ−1)の膜厚は、得られたフィルムの断面の微分干渉顕微鏡写真を用いて測定した。硬化被膜(ロ−1)が積層されたPETフィルムの評価結果を表2に示す。
【0129】
〔製造例5〜7〕硬化被膜(ロ−2)〜(ロ−4)が積層されたPETフィルム
活性エネルギー線硬化性組成物(2−2)〜(2−4)として表2に示す組成及び組成比のものを使用したこと以外は製造例4と同様にして硬化被膜(ロ−2)〜(ロ−4)が積層されたPETフィルムを得た。硬化被膜(ロ−2)〜(ロ−4)が積層されたPETフィルムの評価結果を表2に示す。
【0130】
〔製造例8〕硬化被膜(ロ−1)が積層された非コロナ処理PETフィルム
PETフィルムとして厚み38μmの「コスモシャインA4300」(東洋紡績(株)製、商品名)を使用したこと以外は製造例4と同様にして硬化被膜(ロ−1)が積層されたPETフィルムを得た。硬化被膜(ロ−1)が積層されたPETフィルムの評価結果を表2に示す。
【表2】

【0131】
表2中の略称は以下の化合物を示す。
【0132】
M400:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
M305:ペンタエリスリトールトリアクリレート
オプツールDAC:フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)
16−FDA:1,10−ビス(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,−ヘキサデカフルオロデカン(共栄社化学(株)製、商品名)
IRGACURE184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製、商品名)
C6DA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)
〔実施例1〕
下記に示す化合物を混合し、活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)を得た。
【0133】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2):ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成(株)製、商品名:「M400」)50部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(東亞合成(株)製、商品名:「M408」)15部及びトリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成(株)製、商品名:「M309」)25部
(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F):1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名:「C6DA」)10部
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2):「オプツールDAC」(ダイキン工業(株)製、商品名)2部(フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)20質量%、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール80質量%の混合物)
光重合開始剤(E−2):ジフェニル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド(BASFジャパン(株)製、商品名:「ルシリンTPO」)2部
上記で調整した活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)を、厚さ2mmのメタクリル系樹脂板「アクリライトMR100」(三菱レイヨン(株)製、商品名)のハードコート層が形成されていない面に塗布した。次いで、製造例1で作成したフィルムを、乾燥被膜(イ−1)が活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)の塗付面に接触するように、活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)の塗付面上に被覆し、プレスロールの下を0.25m/分の速度で通過させて、得られる硬化被膜(ハ−1)の膜厚が10μmになるように塗工した。次いで、メタクリル系樹脂板、活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)、乾燥被膜(イ−1)及びPETフィルムが積層された状態で1分間保持した。この後、得られた積層体を出力120W/cmのメタルハライドランプの下24cmの位置を0.25m/分の速度で通過させて活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)を硬化させた。次いで、乾燥被膜(イ−1)が積層されたPETフィルムを前記の積層体から剥離し、硬化被膜(ハ−1)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。尚、硬化被膜(ハ−1)の膜厚は硬化被膜(ハ−1)が積層されたメタクリル系樹脂板の断面の微分干渉顕微鏡写真を用いて測定した。
【0134】
硬化被膜(ハ−1)が積層されたメタクリル系樹脂板のヘーズ値は0.2%であり、透明性に優れていた。更に、硬化被膜(ハ−1)が積層されたメタクリル系樹脂板は異物による外観欠陥も無く、良好な外観を有するものであった。硬化被膜(ハ−1)が積層されたメタクリル系樹脂板の水に対する接触角は106度、トリオレインに対する接触角は71度であり、摩擦耐久性は2.8%であった。また、硬化被膜(ハ−1)が積層されたメタクリル系樹脂板の耐擦傷性は0.1%であり、防汚性、摩擦耐久性及び耐擦傷性に優れていた。評価結果を表3に示す。
【表3】

【0135】
表3〜6中の略称は以下の化合物を示す。
【0136】
M400:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成(株)製、商品名)
M408:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(東亞合成(株)製、商品名)
M305:ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成(株)製、商品名)
M309:トリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成(株)製、商品名)
C6DA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)
フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2):オプツールDAC(ダイキン工業(株)製、商品名)(フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)20質量%、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール80質量%の混合物)
ルシリンTPO:ジフェニル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド(BASFジャパン(株)製、商品名)
IRGACURE184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製、商品名)
UV3570:ポリエステル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン(株)製、商品名)
[実施例2及び3]
製造例2及び3で作成したフィルムを使用した以外は実施例1と同様の方法で硬化被膜(ハ−2)及び(ハ−3)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表3に示す。
【0137】
[実施例4〜6]
表3に示す組成及び組成比としたこと以外は実施例1と同様にして活性エネルギー線硬化性組成物(3−2)〜(3−4)を調製し、それを用いて実施例1と同様の方法で硬化被膜(ハ−4)〜(ハ−6)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表3に示す。
【0138】
[実施例7]
実施例1において、乾燥被膜(イ−1)が積層されたPETフィルムを、メタクリル系樹脂板、活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)、乾燥被膜(イ−1)及びPETフィルムが積層された積層体から剥離した後に、出力120W/cmの高圧水銀ランプの下20cmの位置を0.25m/分の速度で通過させて更に活性エネルギー線照射処理を実施し、硬化被膜(ハ−7)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表3に示す。
【0139】
[比較例1]
表4に示す組成の活性エネルギー線硬化性組成物(3−5)を、厚さ2mmのメタクリル系樹脂板「アクリライトMR100」(商品名、三菱レイヨン(株)社製)のハードコート層が形成されていない面にバーコーターを用いて硬化被膜(ハ−8)の厚みが15μmとなるように塗布した。次いで、活性エネルギー線硬化性組成物(3−5)が塗付されたメタクリル系樹脂板を室温で1分間放置した後、出力120W/cmの高圧水銀灯の下20cmの位置を0.25m/分の速度で通過させて硬化させ、硬化被膜が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表4に示す。尚、硬化被膜の膜厚は硬化被膜が積層されたメタクリル系樹脂板の断面の微分干渉顕微鏡写真を用いて測定した。
【0140】
[比較例2]
厚み30μmのポリプロピレンフィルム(PPフィルム)「シルファンM1」(グンゼ(株)製、商品名)上に乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)を形成することなく使用したこと以外は実施例1と同様の方法で硬化被膜(ハ−1)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表4に示す。
【0141】
[比較例3〜比較例5]
表4に示す組成の活性エネルギー線硬化性組成物(3’−1)〜(3’−3)を使用したこと以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、それを用いて実施例1と同様の方法で硬化被膜(ハ’−1)〜(ハ’−3)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表4に示す。
【表4】

【0142】
[実施例8〜11]
製造例4〜6及び8で作成したフィルムを使用したこと以外は実施例1と同様の方法で硬化被膜(ハ−9)〜(ハ−12)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表5に示す。
【表5】

【0143】
[実施例12〜14]
表5に示す組成及び組成比としたこと以外は実施例8と同様にして活性エネルギー線硬化性組成物(3−2)〜(3−4)を調製し、それを用いて実施例1と同様の方法で硬化被膜(ハ−13)〜(ハ−15)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表5に示す。
【0144】
[実施例15]
実施例8において、硬化被膜(ハ−9)が積層されたPETフィルムを、メタクリル系樹脂板、活性エネルギー線硬化性組成物(3−1)、硬化被膜(ハ−9)及びPETフィルムが積層された積層体から剥離した後に、出力120W/cmの高圧水銀ランプの下20cmの位置を0.25m/分の速度で通過させて更に活性エネルギー線照射処理を実施し、硬化被膜(ハ−16)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表5に示す。
【0145】
[比較例6〜比較例8]
表6に示す組成の活性エネルギー線硬化性組成物(3’−1)、(3’−2)及び(3’−4)を使用したこと以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、それを用いて実施例8と同様の方法で硬化被膜(ハ’−4)〜(ハ’−6)が積層されたメタクリル系樹脂板を得た。評価結果を表6に示す。
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明の積層樹脂板の製造方法の1例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0147】
あ:フィルム
い:乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)
う:活性エネルギー線硬化性組成物(硬化後は硬化被膜(ハ))
え:樹脂板
お:積層樹脂板
か:プレスロール
き:ガイドロール
く:活性エネルギー線照射装置
け:搬送体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)〜(d)の工程を有する積層樹脂板の製造方法。
(a)フィルム上に、以下に示す乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)を形成する第1工程
<乾燥被膜(イ)>
下記一般式(α)で示される含フッ素化合物(A)及び有機溶剤(B−1)を含有するフッ素含有コーティング剤(1)をフィルム上に塗工し、次いで有機溶剤(B−1)を揮発させて得られる乾燥被膜
【化1】

(式中、Rはフッ素原子を有する有機官能基、Rは炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)
<硬化被膜(ロ)>
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−1)、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)、有機溶剤(B−2)及び光重合開始剤(E−1)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物(2)をフィルム上に塗工し、次いで有機溶剤(B−2)を揮発させた後に活性エネルギー線を照射して得られる硬化被膜
(b)フィルム上の乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)の面と樹脂板とを、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)及び光重合開始剤(E−2)を含み、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)及び(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)の合計量を100質量部としたときに(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物(C−2)が65〜95質量部であり、(メタ)アクリロイル基を1個又は2個有する(メタ)アクリレート化合物(F)が5〜35質量部である活性エネルギー線硬化性組成物(3)を介して積層する第2工程
(c)活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物(3)を硬化し、樹脂板上に硬化被膜(ハ)を形成する第3工程
(d)樹脂板上の硬化被膜(ハ)の表面から、乾燥被膜(イ)又は硬化被膜(ロ)が積層されたフィルムを剥離する第4工程
【請求項2】
活性エネルギー線硬化性組成物(2)のフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−1)及び活性エネルギー線硬化性組成物(3)のフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物(D−2)の少なくとも一方が下記一般式(β)で示されるウレタン(メタ)アクリレート化合物である請求項1に記載の積層樹脂板の製造方法。
【化2】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を表す。)
【請求項3】
フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項1又は2に記載の積層樹脂板の製造方法。
【請求項4】
フッ素含有コーティング剤(1)を塗工するフィルム表面の水に対する接触角が55度以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層樹脂板の製造方法。
【請求項5】
フッ素含有コーティング剤(1)を塗工するフィルムがコロナ処理による易接着処理されたものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層樹脂板の製造方法。
【請求項6】
一般式(α)に示す含フッ素化合物(A)のRfがパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層樹脂板の製造方法。
【請求項7】
フッ素含有コーティング剤(1)中の含フッ素化合物(A)の含有量が0.02〜0.2質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層樹脂板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215517(P2009−215517A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63571(P2008−63571)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】