説明

積層電子部品の製造方法

【課題】バレル研磨において、チップの端面クラックを低減するとともに、チップ同士の付着を防止し得る積層電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る積層電子部品の製造方法は、積層グリーンチップを固化乾燥させる工程と、その後、積層グリーンチップにバレル研磨を施す工程とを含む。積層グリーンチップを固化乾燥させる工程は、積層グリーンチップに含まれる樹脂バインダ成分と可塑剤成分との総量を基準として、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の分解量が7.0%〜14.0%になるように積層グリーンチップに熱処理を施す工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、積層セラミックコンデンサなどの積層電子部品は、次のような工程によって製造されている。まず、原料となる誘電体粉末にバインダ、可塑剤及び溶剤を加えた誘電体ペーストをPETフィルム上に塗布し、誘電体グリーンシートを形成する。次に、この誘電体グリーンシートに内部電極を印刷する。更に、内部電極を有する誘電体グリーンシートを複数枚積層し、圧着してシート積層体を作る。次に、シート積層体を複数のチップ領域に裁断し、積層グリーンチップを得る。更に、その積層グリーンチップに対して、バインダ等を除去する脱バインダ処理を行い、所定条件で焼成する。その後、端子電極形成などの周知の工程を行い、積層電子部品を得る。
【0003】
かような積層電子部品の製造方法において、裁断で得られた積層グリーンチップの端部には、裁断処理による鋭利な角が生じており、この状態のままで積層グリーンチップを取り扱うと、焼成の前後で欠けや積層の剥がれなどの端面クラックが生じる可能性がある。
【0004】
そこで、積層グリーンチップにバレル研磨を施し、チップ端部の角を丸める技術が知られている。
【0005】
特許文献1は、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の20%〜80%を熱分解した後、乾式バレル研磨を行うことを提案している。これは、同文献によれば、可塑剤成分の熱分解率が80%を超えるとチップ表面に欠けや剥離等が発生し易くなり、熱分解率が20%未満ではチップ同士の付着が発生するとしているためである(同文献の段落番号0019参照)。しかし、実際には、可塑剤の熱分解率が20%程度でも、欠けや積層の剥がれが生じる。
【特許文献1】特開2004−172526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バレル研磨において、チップの端面クラックを低減するとともに、チップ同士の付着を防止し得る積層電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る積層電子部品の製造方法は、積層グリーンチップを固化乾燥させる工程と、その後、積層グリーンチップにバレル研磨を施す工程とを含む。
【0008】
積層グリーンチップを固化乾燥させる工程は、積層グリーンチップに含まれる樹脂バインダ成分と可塑剤成分との総量を基準として、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の分解量が7.0%〜14.0%になるように積層グリーンチップに熱処理を施す工程を含む。
【0009】
上述したように、本発明に係る積層電子部品の製造方法は、積層グリーンチップを固化乾燥させる工程と、その後、積層グリーンチップにバレル研磨を施す工程とを含む。積層グリーンチップの固化乾燥工程は、積層グリーンチップを固化させて積層グリーンチップを研磨し易くする役割を担うとともに、研磨の際、積層グリーンチップ中の可塑剤成分が溶媒に溶出してチップ同士が付着するのを防ぐ役割を担う。
【0010】
積層グリーンチップの固化乾燥工程は、積層グリーンチップに熱処理を施す工程を含む。熱処理によって、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の一部を熱分解することができる。発明者の検討によれば、可塑剤成分の分解量が多いと、積層グリーンチップが固くなり過ぎて衝撃に弱くなり、バレル研磨の際、端面クラックが多発する恐れがある。かといって、可塑剤成分の分解量が少ないと、残留有機成分が多くなり、バレル研磨の際、チップ同士が付着する恐れがある。
【0011】
本発明では、積層グリーンチップに含まれる樹脂バインダ成分と可塑剤成分との総量を基準として、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の分解量が7.0%〜14.0%になるように積層グリーンチップに熱処理を施す。発明者の実験によれば、かかる数値範囲内では、バレル研磨によるチップ端面のクラックを低減するとともに、チップ同士の付着を防止できることがわかった。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明によれば、バレル研磨において、チップの端面クラックを低減するとともに、チップ同士の付着を防止し得る積層電子部品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を積層セラミックコンデンサの製造方法に適用した場合の実施の形態について説明する。
【0014】
まず、原料となる誘電体粉末にバインダ、可塑剤及び溶剤を加えた誘電体ペーストを調製する。バインダとしては、ブチラール樹脂などを用いることができる。また、可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(ジオクチルフタレート)を用いることができる。また、溶剤としては、ソルミックス、n-プロパノールやキシレンなどを用いることができる。
【0015】
次に、誘電体ペーストをPETフィルム上に塗布し、誘電体グリーンシートを形成する。更に、この誘電体グリーンシートに、導電性ペーストにより複数の内部電極をスクリーン印刷法などで形成する。更に、内部電極を有する誘電体グリーンシートを、内部電極の位置がずらされた状態とずらされていない状態とが交互に重なるように複数枚積層し、圧着してシート積層体を作製する。この他、シート積層体を作製するための手法として、誘電体グリーンシートの形成工程及び内部電極の印刷工程を、必要な回数だけ可撓性支持体上で繰り返すことによりシート積層体を作製する手法を採用することもできる。
【0016】
次に、シート積層体を複数のチップ領域に裁断し、積層グリーンチップを得る。シート積層体を裁断するための手法としては、例えば、円盤状の切断刃を回転させてシート積層体を切断する回転刃切断法が用いられる。
【0017】
図1は、切断によって得られた積層グリーンチップを示す斜視図である。図示のように、積層グリーンチップは、長さ方向X、幅方向Y及び厚さ方向Zで定義される直方体形状となっており、誘電体基体2の内部に、複数の内部電極4を厚さ方向Zの間隔を隔てて埋設した構造となっている。
【0018】
図示のように、切断で得られた積層グリーンチップの端部には、切断処理による鋭利な角6が生じている。従って、この状態のままで積層グリーンチップを取り扱うと、焼成の前後で欠けや積層の剥がれが生じる可能性がある。
【0019】
そこで、積層グリーンチップを固化乾燥させ、その後、積層グリーンチップに湿式バレル研磨を施すことにより、チップ端部の角6を丸める。
【0020】
積層グリーンチップの固化乾燥工程は、積層グリーンチップに熱処理を施す工程を含む。熱処理によって、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の一部を熱分解することができる。発明者の検討によれば、可塑剤成分の分解量が多いと、積層グリーンチップが固くなり過ぎて衝撃に弱くなり、湿式バレル研磨の際、端面クラックが多発する恐れがある。かといって、可塑剤成分の分解量が少ないと、湿式バレル研磨の際、積層グリーンチップ中の可塑剤成分が溶媒に溶出し、この可塑剤成分でチップ同士が付着する恐れがある。
【0021】
本発明では、積層グリーンチップに含まれる樹脂バインダ成分と可塑剤成分との総量を基準として、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の分解量が7.0%〜14.0%になるように積層グリーンチップに熱処理を施す。発明者の実験によれば、かかる数値範囲内では、湿式バレル研磨によるチップ端面のクラックを低減するとともに、チップ同士の付着を防止できることがわかった。
【0022】
なお、可塑剤成分の分解量を少なくすることにより、積層グリーンチップの弾力性が増し、積層グリーンチップが研磨されにくくなった場合でも、バレル研磨時間を通常より長く、例えば通常の1.5倍に設定することにより、積層グリーンチップの研磨を確実に行うことができる。
【0023】
次に、可塑剤成分の熱分解量の算出方法について述べる。
【0024】
可塑剤分解量は、熱処理前の積層グリーンチップに含まれていたバインダ成分及び可塑剤成分の総量を基準とし、400℃熱処理における重量変化から算出した。なお、誘電体ペーストに含まれていた溶剤(ソルミックス、n-プロパノール、キシレン)は、積層グリーンチップを切断するまでの工程で、ほぼ揮発していることから、積層グリーンチップにはほとんど残存していないと考えられる。
【0025】
下記の表1は、固化乾燥条件別に、積層グリーンチップの重量減少率と、熱処理による可塑剤分解量とを示した表である。
【表1】

表1に、固化乾燥条件による積層グリーンチップの重量変化率、可塑剤分解量を示す。固化乾燥条件「切断後、熱処理なし」では、切断後、熱処理を施していない積層グリーンチップを測定した。一方、固化乾燥条件「固化後、熱処理(140℃及び1時間)」では、固化後、140℃及び1時間の熱処理を施した積層グリーンチップを測定した。また、固化乾燥条件「固化後、熱処理(180℃及び10時間)」では、固化後、180℃及び10時間の熱処理を施した積層グリーンチップを測定した。
【0026】
各固化乾燥条件の積層グリーンチップについて、熱重量測定装置で400℃までの昇温処理を施し、重量減少率を算出した(表1中、重量減少率の欄を参照)。
【0027】
400℃までの昇温処理を施すと、積層グリーンチップに含まれていたバインダ成分及び可塑剤成分は、全て分解または揮発することから、積層グリーンチップに含まれていたバインダ成分及び可塑剤成分の総量を、昇温処理による重量減少率として求めることができる。
【0028】
「切断後、熱処理なし」の積層グリーンチップの熱重量減少率を測定したところ、7.30%となった。
【0029】
同様に、「固化後、熱処理(140℃及び1時間)」の積層グリーンチップの熱重量減少率を測定したところ、6.76%となることから、0.54%の可塑剤が140℃及び1時間の熱処理で分解されたと算出される。
【0030】
従って、(バインダ成分+可塑剤成分)に対する可塑剤成分の分解量は、次のように算出される。
(0.54/7.30)×100(%)=7.4(%)
「固化後、熱処理(180℃及び10時間)」の積層グリーンチップについても、同様に、可塑剤分解量の算出を行うことができる。
【0031】
切断後、熱処理なしの積層グリーンチップの熱重量減少率をAとし、固化後、熱処理を施した積層グリーンチップの熱重量減少率をBとすると、熱処理による可塑剤分解量Xは、次の式で与えられる。
【0032】
X=[(A−B)/A]×100(%) (1)
(1)式に従い、熱処理条件(140〜160℃、1〜3hr)により、可塑剤分解量を制御し、端面クラック及びチップ付着量を評価した。結果を下記の表2に示す。
【表2】

実施例1〜3及び比較例1、2についてのデータは、次のようにして得た。
【0033】
<実施例1〜3>
バインダ成分としてブチラール樹脂(略称PVB)、可塑剤成分としてフタル酸ジオクチル(略称DOP)、溶剤としてソルミックス、n-プロパノール及びキシレンを含有する誘電体ペーストを調製した。
【0034】
次に、この誘電体ペーストを用いて先に述べた積層グリーンチップ製造工程を行い、積層グリーンチップを得た。
【0035】
そして、切断後の積層グリーンチップを140℃で加熱し、処理時間を変化させて可塑剤分解量を制御した。
【0036】
次に、熱処理後の積層グリーンチップ1000g及びメディア1500gを、2Lの容器に入れ純水で満たし、85回転/分で240分間バレル研磨を行った。その際、チップ同士の付着状態を調べた。
【0037】
その後、メディアから積層グリーンチップを分離し、積層グリーンチップを脱バイ、焼成した後、得られた積層チップの外観を顕微鏡で確認した。
【0038】
<比較例1、2>
比較例1では、切断後の積層グリーンチップに120℃及び1.5時間の熱処理を施し、比較例2では、切断後の積層グリーンチップに180℃及び10時間の熱処理を施した。その他の点については、実施例1〜3と同様とした。実施例1〜3と同様に、バレル研磨の際、チップ同士の付着状態を調べた。更に、焼成後、得られた積層チップの外観を確認した。
【0039】
更に、実施例1〜3及び比較例1、2のそれぞれについて、上記式(1)を適用し、熱重量減少率から、全有機成分に対する可塑剤成分の分解量を算出した。また、チップ付着の判定については、チップ付着率が1000ppm未満の場合、良好(○)とし、1000ppm以上の場合、不良(△)とした。
【0040】
表2より、可塑剤分解量が7.0%以上では、チップ付着結果が良好となるが(実施例1〜3)、可塑剤分解量が7.0%未満では、チップ付着判定結果が悪くなる(比較例1)。
【0041】
また、可塑剤分解量が14.0%以下では、端面クラックの発生率が低く抑えられるが(実施例1〜3)、可塑剤分解量が14.0%を超えると、端面クラックの発生率が急増する(比較例2)。
【0042】
従って、チップの端面クラックを低減するとともに、チップ同士の付着を防止するには、可塑剤分解量を7.0%以上14.0%以下とすればよいことがわかる。
【0043】
なお、可塑剤分解量を少なくすることにより、残留有機成分が多くなり、チップ同士の付着が生じたとしても、メディアからのチップの分離を、振動を与えながら行うことにより、チップ同士の付着を回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】裁断によって得られた積層グリーンチップを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
2 誘電体基体
4 内部電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層グリーンチップを固化乾燥させる工程と、その後、積層グリーンチップにバレル研磨を施す工程とを含む積層電子部品の製造方法であって、
積層グリーンチップを固化乾燥させる工程は、積層グリーンチップに含まれる樹脂バインダ成分と可塑剤成分との総量を基準として、積層グリーンチップに含まれる可塑剤成分の分解量が7.0%〜14.0%になるように積層グリーンチップに熱処理を施す工程を含む、
積層電子部品の製造方法。



【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−123630(P2007−123630A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315181(P2005−315181)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】