説明

空中浮遊微生物の検出方法およびそのための粘着シート

【課題】新規な微生物量測定方法、特に、空中浮遊微生物を簡便にサンプリングし、計数するための方法を提供すること。
【解決手段】1)空気中に存在する微生物を粘着シート上に捕集する工程、2)粘着シートの微生物捕集面を培地表面に接触させ、微生物の分裂増殖を行う工程、および3)粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程を含む、空気中に存在する微生物の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に存在する微生物(空中浮遊微生物)の新規な検出方法に関する。より詳細には、本発明は、粘着層を用いて空気中の微生物を捕集し、捕集した微生物を分裂増殖させ可視化することにより該微生物を検出する方法および該方法に使用する粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の環境中における微生物や真菌などの微生物量を迅速かつ簡便に見積もることは、食品工業や医療の現場における衛生管理、また製薬工業における品質管理に重要である。
【0003】
従来、空気中に存在する微生物の測定方法としては落下菌法や衝突法がある。落下菌法は一定時間開放した一定面積の寒天平板培地上に空中浮遊微生物を自然に落下させて補足する方法であり、一定時間後に回収し培養しコロニー数として計測する。この場合の問題点は、空中浮遊微生物が少ない環境下では微生物数が少ないため検出するためには長時間の開放時間が必要となり、平板寒天培地の水分が蒸散し、培地が乾燥してしまうという欠点があった。またエアコンなどの空気の噴出し口においても培地の乾燥という問題があった。衝突法はエアサンプラーにて空気を一定時間吸引し、寒天平板培地の表面に吹き付け空中浮遊微生物を捕捉する方法で、サンプリング後、寒天平板培地を培養し、生育したコロニー数を計測する。本衝突法も寒天平板培地を用いているため、長時間サンプリングにおいては寒天の乾燥が大きな問題となっていた。
【0004】
一方、近年、固体表面の微生物をサンプリングする手法として、粘着シートを用いる方法が示されている(特許文献1)。該方法は、非水溶性高分子化合物を主成分としてなる粘着層を有する微生物捕集用粘着シートを被験体である固体の表面に圧着、剥離して微生物を集積した後、微生物を染色し得る1種以上の蛍光性物質を含有する水溶液を該粘着層の表面に接触させ、染色された菌体を観察・計数することにより、固体表面上の微生物を検出する方法であり、空気中に存在する微生物のサンプリングや計数に粘着シートを使用することについては言及していない。
【特許文献1】特開2002−142797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来法の諸欠点を解消した新規な空中浮遊微生物の検出方法、特に、空中浮遊微生物を簡便にサンプリングし、計数できる空中浮遊微生物の検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、粘着シートを用い、その粘着面に空中浮遊微生物を付着捕集して、粘着シートの微生物捕集面を培地に密着させた後、微生物を分裂増殖させることにより、迅速且つ簡便に微生物を検出し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は以下の通りである。
(1)1)空気中に存在する微生物を粘着シート上に捕集する工程、
2)粘着シートの微生物捕集面を培地表面に接触させ、微生物の分裂増殖を行う工程、および
3)粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程を含む、
空気中に存在する微生物の検出方法。
(2)空気中に存在する微生物を粘着シート上に捕集する工程が、微生物捕集用粘着シートの粘着面を上にして静置することで落下菌を捕集する工程、あるいはエアサンプラーの空気吹き付け部に粘着シートを設置し、空気を吹き付けることにより微生物を捕集する工程である、(1)に記載の検出方法。
(3)微生物が細菌又は真菌である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)粘着シートの支持体が1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)粘着シートの粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)粘着シートの支持体の可視光線透過率が30%以上である、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)粘着シートの粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する支持体の片面に粘着層を設けた粘着シートであって、粘着層表面を空中に存在する微生物の捕集面として使用し、該粘着層表面に捕集した微生物を当該面上で分裂増殖をさせるものであることを特徴とする、空中浮遊微生物検出用粘着シート。
(9)粘着シートの支持体が、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリプロピレン、ポリウレタンフィルムからなる群より選ばれるものである、(8)に記載の粘着シート。
(10)粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、(8)または(9)に記載の粘着シート。
(11)粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、(8)〜(10)のいずれか1つに記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、空中浮遊菌のうち増殖能を有する微生物を簡便にサンプリングすることができ、また、サンプリングした微生物量を高精度に計数することができる。特に、従来の寒天培地を用いた落下菌法やエアサンプラー法では寒天培地が乾燥するために微生物のサンプリング(作業)を長時間行うことが困難であったが、本発明では、微生物の捕集手段として粘着シートを使用することから、微生物の長時間サンプリング(作業)を支障なく行うことができる。したがって、微生物の長時間サンプリング(作業)が必要な、無菌医薬品製造環境、食品製造クリーンルームなどの清浄度が高い環境中の浮遊微生物をも高精度に検出することができる。また、エアコンの空気の噴出し口付近などの顕著な空気の流れを有する、従来法では培地の乾燥によって微生物のサンプリング(作業)が困難であった条件下でも、微生物のサンプリング(作業)を支障なく行うことができ、微生物量を高精度に検出することができる。以上のことより、本発明は、食品工業や医療の現場における衛生管理、また製薬工業における品質管理などを向上させる上で極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に使用する粘着シートは、支持体の片面に粘着層を設けた粘着シートであって、粘着層表面を空中に存在する微生物の捕集面として使用し、該粘着層表面に捕集した微生物を当該面上で分裂増殖をさせるものである。そのため、粘着層表面に微生物捕集能を有し、微生物の分裂増殖を阻害しない支持体から構成されている。具体的には、非水溶性高分子化合物あるいは水溶性高分子を主成分としてなる粘着層が支持体の片面上に積層された構造を有する。
【0009】
本発明の粘着シートの粘着層は、空中浮遊微生物を捕獲するに十分な粘着性を有する、平滑な表面構造を有する層である。粘着層に使用する粘着剤としては、非水溶性粘着剤または水溶性粘着剤を使用できるが、通常、非水溶性粘着剤が使用され、該非水溶性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。なお、これらの粘着剤はいずれか1種を使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。本発明においては、後記にて詳しく説明するように、粘着層表面にて増殖させた微生物を粘着シート越しに観察して計数するため、粘着層に使用する粘着剤は透明性の高いものが好ましく、上記例示の中でも、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤が特に好ましい。
【0010】
アクリル系粘着剤の具体例としては、アルキル基が炭素数2〜13の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル及び(メタ)アクリル酸デシル等から選ばれる1種または2種以上を主モノマーとし、これに(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールといった親水性のモノマーを1種または2種以上共重合させた共重合体が挙げられる。また、粘着特性(特に粘着力)の改善のために、かかる共重合体に、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物といった熱架橋剤による処理や、紫外線、γ線、電子線等の照射処理等を行って、架橋を施したものも好ましく使用される。また、シリコーン系粘着剤の具体例としては、主成分がジメチルシロキサンからなるものが挙げられる。
【0011】
本発明で使用する粘着シートの粘着層の厚みは、製造時に厚み制御が可能な範囲であれば特に制限はないが、微生物捕集性等の点から、5〜100μmとするのが好ましく、より好ましくは10〜60μmである。また、粘着層表面の平滑度(表面粗さ)は20μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。
【0012】
本発明では、後述するように、粘着層表面にて増殖させた微生物を粘着シート越しに観察して、その数を計数するが、位相差顕微鏡等の顕微鏡を用いて微生物を観察し、その数を計数する場合、粘着層表面の平滑度が20μm以下であれば、顕微鏡で観察する際の焦点の合致範囲が広くなり、より正確な微生物の計数を行うことができる。かかる粘着層表面の平滑度は粘着シートの断面を電子顕微鏡などで観察し、該断面における粘着層表面の最大高さ部(凸部の頂点)から最低高さ部(凹部の最底点)までの高低差を測定する方法によって求めることができる。
【0013】
微生物捕集用粘着シートの支持体は、粘着層と同様に非水溶性で、粘着層表面に大きな凹凸を形成させず、また、粘着シートを曲面や狭所表面にも自在に静置させ得る柔軟な材質であって、フィルム越しの観察が可能な透明性を有しているフィルムである。具体的には、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、塩化ビニル、又はポリカーボネート等からなるプラスチックフィルムが挙げられ、中でも、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリプロピレン、又はポリウレタンからなるフィルムが好ましい。さらに、本発明では、粘着シートの粘着層表面にて微生物を培養(分裂増殖)することから、粘着シートの支持体は微生物の培養(分裂増殖)に必要な酸素透過性を有することが必要であり、1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有するものが好ましく、3000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有するものがより好ましい。よって、かかる酸素透過性の観点から、上記例示のフィルムの中でも、ポリカーボネートフィルム、ポリプロピレンフィルム、酢酸セルロースフィルムが特に好ましい。なお、支持体の酸素透過性を向上させるためにフィルムを多孔質体(連続気孔構造の発泡体)にしてもよい。
【0014】
支持体の厚みは、支持体としての十分な強度があれば特に制限はないが、厚みが大き過ぎると、十分な酸素透過度性又は/及び透明性が得られにくくなるので、酸素透過性又は/及び透明性との兼ね合いから、支持体(フィルム)の厚みは5〜200μm程度が好ましく、より好ましく20〜100μm程度である。また、支持体の透明度は、可視光線透過率で表わすとして、30%以上であるのが好ましく、40%以上であるのがより好ましい。
【0015】
本発明で使用する粘着シートは、従来公知の方法で製造することができる。例えば、粘着剤を含有する溶液を、剥離ライナーに塗布し乾燥させた後、得られた粘着層の表面に支持体用のフィルムを貼り合わせるか、又は粘着剤を含有する溶液を、支持体用のフィルムに直接塗付し乾燥させた後、得られた粘着層の表面に必要に応じて剥離ライナーを積層して、支持体及び粘着層を含むシート状原反を得、これを粘着シートの外枠の形状で打抜くことで製造することができる。なお、粘着層の形成は、カレンダー法、キャスティング法や押出し成形法などの方法を用いてもよい。
【0016】
本発明で使用する粘着シートは、微生物を捕集する環境下に置くまで、粘着層表面を剥離ライナーで保護されているのが好ましい。剥離ライナーの材質は、粘着シートの使用時に粘着層から容易に剥離できるものであれば特に限定されない。具体的には、粘着層との接触面を剥離処理した中実或いは多孔性のプラスチックシート(フィルム)、上質紙又はグラシン紙とプラスチックフィルム(例えば、ポリオレフィンフィルム)とのラミネートフィルム等が挙げられる。また、本発明で使用する粘着シートは、使用前は、滅菌した状態で細菌遮断性包材に封入する等により、無菌状態を保持した形態をとるのが好ましい。なお、かかる滅菌処理には、EOG(エチレンオキサイドガス)法、電子線法、γ線法を用いるのが好ましい。即ち、粘着シートを細菌遮断性包材に封入する等により、無菌状態を保持し得る形態とした後、電子線或いはγ線を照射する滅菌処理を施して、本発明の微生物捕集用粘着シートを流通に供するのが好ましい。この場合、電子線或いはγ線などの放射線の照射線量は、着色等の変性を防止しつつ十分な滅菌を達成するために、25〜50kGy程度が適当である。なお、かかる滅菌処理を前記した粘着剤(高分子化合物)の放射線照射による架橋処理と兼用することもできる。
【0017】
次に、本発明による、空中浮遊微生物の検出方法について説明する。
本発明の対象となる微生物には、大腸菌や大腸菌群などの食品検査対象菌や食中毒微生物および食品の腐敗にかかわる細菌や、カビ、酵母などの真菌などが含まれる。
【0018】
本発明の微生物の検出方法は、通常、以下の3つの工程で行われる。
1)空気中の微生物を粘着シート上に捕集する工程、
2)粘着シートの微生物捕集面を培地表面に接触させ、微生物の分裂増殖を行う工程、および
3)粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程。
【0019】
本発明の検出方法の第一の工程である、空気中の微生物を粘着シート上に捕集する工程とは、適切なサイズに切断した粘着シートの剥離ライナーを剥がし、測定したい環境下に粘着面を開放状態にして放置し、一定時間後に粘着シートを回収する工程、あるいはエアサンプラーの空気吹き付け部に粘着シートを設置し、空気を吹き付けることにより微生物を捕集する工程である。
ここで、開放状態とは、測定したい環境下に粘着面をさらす状態を指すが、具体的には粘着面を上(すなわち、重力方向に対して180°反対方向)にして放置することである。
落下菌を捕集する落下法を使用する場合、粘着シートを静置する時間、測定位置、粘着シートの面積などは、検出する微生物の種類や量により、予備試験を行うなどして適宜決定する。
エアサンプラーを用いる場合、使用するエアサンプラーは特に限定されず、目的に応じて市販のスリット方式、ピンボール方式、RCS方式などいずれの方式のものを用いてもよい。
【0020】
次に、第二の工程として、微生物を捕集した粘着シートの粘着面を測定したい微生物に対応した適切な培地に接触させ、適当な温度で分裂増殖させ、コロニーを形成させる。粘着面に接触させる培地としては、例えば、標準寒天培地、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(SCD寒天培地)、SCDLP寒天培地、R2A培地(水質検査用)、マンニット食塩寒天培地(ブドウ球菌用)、デソキシコレーレート寒天培地、ポテトデキストロース寒天培地、サブロー・ブドウ糖寒天培地等が挙げられる。
【0021】
第三の工程は、上記第二の工程によって分裂増殖させた微生物(マイクロコロニー)を粘着シート越しに観察し、その数を計数する工程である。
この工程では、肉眼で微生物のマイクロコロニーを観察し、計数してもよいが、位相差顕微鏡などの顕微鏡もしくは顕微鏡以外の他の適当な光学機器を用いて、微生物のマイクロコロニーの観察、計数を行うこともできる。分裂増殖した微生物のコロニーまたはマイクロコロニーの光学的画像を形成し、該光学的画像を画像解析して、微生物のコロニーまたはマイクロコロニーの数を計数するのが特に好ましい。こうすることで、より精度の高い計数検査を行うことができる。なお、顕微鏡以外の他の光学機器としては、例えば、微生物をレーザー光で高速スキャンニングし、個々の微生物から得られたシグナルをグラフィカル表示するレーザースキャンニングサイトメーター等が挙げられる。
【0022】
菌種や培地などによって異なるが、通常、コロニー形式には1〜7日程度かかる。しかしながら、コロニー成長過程であるマイクロコロニーを検出すれば、空中浮遊微生物の中で増殖能を有する微生物をより早期(例えば、6時間〜3日程度)に検出できる。
本発明は、無菌医薬品製造環境、食品製造クリーンルームなどの清浄度の高い部屋の空気中微生物の検出に利用できる。また、医療環境、特別養護老人ホーム、半導体製造クリーンルームなどの空中浮遊微生物量検査にも適用できる。
【0023】
なお、本明細書中の物性、特性等の測定方法は次の通りである。
1.粘着剤表面の平滑度(表面粗さ)
電子顕微鏡で粘着シートの断面を観察して、粘着剤表面における最大高さ部(凸部の頂点)から最低高さ部(凹部の最底点)までの距離を測定する。この測定を粘着シートの縦横方向の断面において、数箇所ずつ計測し、これらの平均値を求めた。
2.支持体の可視光線透過率
波長560nmにおける光透過率を分光光度計によって測定した。
3.支持体の酸素透過度
透過セル及び酸素検出器を備えた酸素透湿度測定装置を用いて、透過酸素量を測定し、JIS K 7126に従って求めた。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するため実施例及び実験例を挙げるが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において部および%は、それぞれ重量部及び重量%を意味する。
1)粘着シートの作製
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(65/30/5仕込み重量比)にアゾイソブチロニトリルを重合開始剤として得られた共重合物トルエン溶液を得た。この溶液を、乾燥時の厚みが20μmとなるように25μm厚のポリカーボネートフィルム(支持体)の片面に塗布し130℃で5分乾燥し、粘着層を形成した。次いでポリエチレンテレフタレートフィルムの積層フィルム(75μm厚)を剥離ライナーとして粘着層表面に貼り合せて、粘着シートを得た。
【0025】
2)微生物噴霧装置による落下菌モデルの作製
表皮ブドウ球菌をLB培地にて37℃、16時間振とう培養した。培養液を生理食塩水にて100倍に希釈して落下菌作製溶液とした。アクリル樹脂製の微生物落下試験装置の上部にある微生物噴霧部、ネブライザのタンクに希釈菌液2mLを注入した。本落下試験装置の下部にはHEPAフィルター排気ファンがあり、そのファンを回転させることにより上部で噴霧された細菌溶液が試験装置塔内を適切な流速で落下するような空気の流れを発生させることができる。試験塔内の中央部にはサンプリングのために、1)で作製した粘着シートあるいはスタンプアガー(一般生菌数測定用SCD寒天培地培地面:10cm/個 ニッスイ)5枚をそれぞれ並べた。細菌溶液をネブライザから噴霧し、排気ファンをまわし、細菌溶液を試験塔内で霧状に落下させた。5分間のサンプリングを行い、サンプリングした粘着シート、あるいはスタンプアガーを試験塔内から取り出した。
粘着シートは菌付着面をSCD寒天平板培地に貼り付けて、37℃、48時間培養した。同様にスタンプアガーも培養した。
次いで、それぞれ出現したコロニーを目視観察によって計数した。
(結果)
結果を図1に示す。粘着シートによる落下菌の捕集効率は、従来法である寒天培地法と同等であった。よって粘着シート法の方が寒天培地法に比し、繰り返しの誤差が少なく捕集性能が優れていることが分かった。
【0026】
3)実環境での長時間サンプリングによる評価
1)で作製した粘着シートの剥離ライナーを剥がし、室内環境の机上、床面、エアコンの風が直接あたる場所に設置した。設置後、1、24時間後にそれぞれの粘着シートを回収した。回収前後において粘着シート重量を測定した。粘着シートの回収前後で粘着シートは菌付着面をSCD寒天平板培地に貼り付けて、37℃、48時間培養し、出現したコロニーを2)と同様に目視観察によって計数した。比較例として、粘着シートと同様にSCD寒天培地を用いて、24時間サンプリングを行った。
サンプリング前後において、SCD寒天培地重量を測定した。
(結果)
粘着シート法による落下菌はサンプリング24時間にわたって問題なく測定できた。時間とともに捕集された菌数が増加した。一方、SCD寒天培地法は24時間サンプリングにより落下菌が計測できない場合があった。
粘着シートの重量減少率は0%、すなわち、サンプリング前後での重量変化は認められなかった。一方、SCD寒天培地の重量減少率は約82%であった。特にエアコンの風があたる場所での重量減少が著しく、ほぼ乾燥した状態であった。このことが、エアコン風下で24時間サンプリングの落下菌が検出できなかった原因と考えられる。
したがって、粘着シートによる落下菌測定は、重量変化もなく長時間サンプリングが行え、落下菌の捕集が可能であった。
【0027】
【表1】

【0028】
4)エアサンプラーによる空中浮遊菌の測定
エアサンプラー(Biotest社製)の空気が吹き付けられる位置に、1)で作製した粘着シートの粘着面が面するように装着し、流量40L/min、8分間、40分間空中微生物のサンプリングを行った。粘着シートの回収前後で粘着シートは菌付着面をSCD寒天平板培地に貼り付けて、37℃、48時間培養し、出現したコロニーを2)と同様に目視観察によって計数した。比較例として、サンプリングを行わない粘着シートを用いた。
(結果)
エアサンプラーに装着した粘着シートではコロニーを検出することができ、空気中の微生物が捕集できることが示された。
【0029】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1はサンプリング方法による落下菌数の差を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)空気中に存在する微生物を粘着シート上に捕集する工程、
2)粘着シートの微生物捕集面を培地表面に接触させ、微生物の分裂増殖を行う工程、および
3)粘着シート越しに分裂増殖した微生物を観察して計数する工程を含む、
空気中に存在する微生物の検出方法。
【請求項2】
空気中に存在する微生物を粘着シート上に捕集する工程が、微生物捕集用粘着シートの粘着面を開放状態にして静置することで落下菌を捕集する工程、あるいはエアサンプラーの空気吹き付け部に粘着シートを設置し、空気を吹き付けることにより微生物を捕集する工程である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
微生物が細菌又は真菌である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
粘着シートの支持体が1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
粘着シートの粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
粘着シートの支持体の可視光線透過率が30%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
粘着シートの粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1000mL/m/d/Mpa以上の酸素透過度を有する支持体の片面に粘着層を設けた粘着シートであって、粘着層表面を空中に存在する微生物の捕集面として使用し、該粘着層表面に捕集した微生物を当該面上で分裂増殖をさせるものであることを特徴とする、空中浮遊微生物検出用粘着シート。
【請求項9】
粘着シートの支持体が、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリプロピレン、又はポリウレタンからなるフィルムである、請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
粘着層がアクリル系粘着剤又はシリコーン系粘着剤を用いて形成されたものである、請求項8または9に記載の粘着シート。
【請求項11】
粘着層表面の平滑度(表面粗さ)が20μm以下である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2007−135476(P2007−135476A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333690(P2005−333690)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】