説明

空気伝播音式距離計測方法及び空気伝播音式距離計

【課題】 正確な推進距離を計測することができる空気伝播音式距離計測方法及び空気伝播音式距離計を提供する。
【解決手段】 配管1の発音端から発した音波が受音端に届くまでの時間を測定し、この測定された時間に音速をかけて距離を計測する空気伝播音式距離計において、前記発音端から受音端までの途中に温度センサ6を配置して、前記音速の補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、小口径管推進工法における推進距離の計測に用いる空気伝播音式距離計測方法及び空気伝播音式距離計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既に、本発明者らによって、水平系掘削における位置測定システムが提案されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
ところで、小口径管推進における推進距離の計測には、埋設管の推進距離を立坑側で計測し加算する方法がある。
【特許文献1】特開2006−162358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、小口径管推進における推進距離の計測には、埋設管の推進距離を立坑側で埋設管の推進距離を計測し加算する方法を採用していたが、土圧によって配管が押戻されることなどの影響で誤差が累積してしまうといった問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みて、正確な推進距離を計測することができる空気伝播音式距離計測方法及び空気伝播音式距離計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕空気伝播音式距離測定方法であって、位置による温度変化のある敷設状況下であっても配管内の温度から平均音速を推定することにより、前記配管の測定原点から配管の先端部までの空気中を伝播する音波到達時間に基づいて、配管の延長距離を測定することを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の空気伝播音式距離測定方法において、前記温度測定を配管内に配置される通信ケーブルに実装した温度センサにより行うことを特徴とする。
【0008】
〔3〕上記〔2〕記載の空気伝播音式距離測定方法において、音速vの計算を次の式で行うことを特徴とする。
【0009】
v=20. 125√t
ただし、tは温度(K)である。
【0010】
〔4〕上記〔1〕記載の空気伝播音式距離測定方法において、前記平均音速を、測温抵抗体の温度変化特性を音速の変化特性を一致させることにより、前記通信ケーブルに実装した測温抵抗体の並列抵抗値として読み取ることを特徴とする。
【0011】
〔5〕配管の推進を行う配管の発音端から発した音波が受音端に届くまでの時間を測定し、この測定された時間に音速をかけて距離を計測する空気伝播音式距離計において、前記発音端から受音端までの途中に温度センサを配置して、前記温度センサからの温度情報に基づいて前記音速の補正を行うことを特徴とする。
【0012】
〔6〕上記〔5〕記載の空気伝播音式距離計において、前記配管のコネクタに測温抵抗体を配置することを特徴とする。
【0013】
〔7〕上記〔5〕記載の空気伝播音式距離計において、測温抵抗体に直列に温度係数の異なる抵抗を並列接続して前記温度センサの抵抗変化率を音速変化率に一致させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、正確な配管の長さを計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の空気伝播音式距離測定方法は、推進工法で敷設する配管内の温度から平均音速を推定することにより、前記配管の測定原点から推進工法で敷設する配管の先端部までの空気中を伝播する音波到達時間に基づいて、推進工法で敷設する配管の延長距離を測定する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例を示す推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムを示す図、図2はその推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの発音から受音までの遅れ時間を示す図、図3はその推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの通信回線(ケーブル)に配置される温度センサの構成図、図4はその推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの通信回線(ケーブル)のコネクタに配置される温度センサを示す図、図5はその推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの温度センサの配置とそれによる合成抵抗を示す図である。
【0018】
図1において、1は推進工法で敷設する配管、2はその配管の測定原点10側に配置される発音体(スピーカ)、3は配管の延長先端に配置される受音体(マイクロフォン)、4は通信回線(ケーブル)、5はその通信回線(ケーブル)のコネクタ、6はそのコネクタ5に配置される温度センサ、7は上記した受音体(マイクロフォン)からの出力される音波の到達時間T情報の受信装置、8は音波の到達時間Tと温度センサ6によって得られる補正された温度情報とが入力されるコンピュータを内蔵する配管の延長距離測定装置、9は変位センサ、10は測定原点である。
【0019】
以下、その配管の延長距離の計測について具体的に説明する。
(A)まず、空気中の音速について説明する。
【0020】
空気中の音速は次の式(1)で与えられる。
【0021】
v=√(γρ/ρ) …(1)
ただし、v:音速,γ:比熱比(1. 403),ρ:密度
気体の状態方程式を用いて変形すると、上記式(1)は次の式(2)のように変形され、温度のみに依存する関数となる。
【0022】
v=√(γRt/M) …(2)
ここで、
R:ガス定数(8.314J/Kmol),M:空気の分子量(28. 8×10-3kg/mol),t:温度(K)
上記式(2)を代入すると、次の式(3)となり、温度の1/2乗に比例する。
【0023】
v=20. 125√t …(3)
よって、音速の変化は非線形であるが、仕様温度範囲を0〜40℃と想定すると、温度による速度変化の変化率は±3. 5%の範囲にとどまるため、線形近似して差し支えないと考えられる。
【0024】
線形近似式として、一般に用いられる次の式(4)を用いることにする。
【0025】
v=331. 5+0. 61tc …(4)
ただし、tc:温度(℃)
(B)次に、距離の計算について説明する。
【0026】
速度補正を線形近似式で行うとき、平均音速は次の式(5)になる。
【0027】

【0028】
図2に示すように、発音から受音までの遅れ時間(音響伝播時間)をTとすると、距離は
【0029】

【0030】
(C)次に、平均音速の測定について説明する。
【0031】
図3に示すように、温度センサ6は、カーボン抵抗Rc と金属抵抗RM との直列接続体に直列に白金測温抵抗体Pt を接続している。
【0032】
白金測温抵抗体Rptの抵抗値は0〜125℃の範囲において次の式(7)で表される。
【0033】
R=R0 (1+c1 t+c2 2 ) …(7)
ここで、R0 :0℃の抵抗値,c1 :3. 9083×10-3,c2 :5. 575×10-7 ,t:温度(℃)
測定温度範囲を0〜40℃と仮定すると、温度変化係数に占めるc2 の効果は5%程度であるので、この範囲における平均温度変化係数を用いて1次式として近似する。
【0034】

【0035】
抵抗変化を音速変化と読み替えるため、白金測温抵抗体Rptと直列に抵抗を付加し、抵抗変化率で音速変化率に一致させる。ここで、白金測温抵抗体Rptの基準抵抗R0 に対する倍数をxとすると、上記式(4)と比較し、以下の抵抗付加で音速変化と抵抗変化が比例する。
【0036】

【0037】
ここで、付加する直列抵抗は温度変化しないことが望ましい。このため、正の温度係数を持つ金属抵抗RM と、負の温度係数を持つカーボン抵抗Rc を直列接続して補償する。
【0038】
金属抵抗RM のR0 に対する0℃における抵抗値の倍数および温度係数をRm、Cm、カーボン抵抗のそれをRc、Ccとすると、次の式(9)でそれぞれの値を求めることができる。
【0039】
Rm+Rc=x
RmCm+RcCc=0 …(10)
上記式(5)はn個のセンサを並列接続したときの抵抗値のn倍を示している。ケーブル接続本数nは既知であるから、並列接続時の抵抗を測定してケーブル本数を掛けると平均音速と比例した抵抗値が得られる。
【0040】
平均音速と測定した抵抗値の換算は次の式(11)となる。
【0041】

【0042】
温度センサ6として白金測温抵抗体Rptと正の温度係数を持つ金属抵抗RM と、負の温度係数を持つカーボン抵抗Rc を直列に接続した小基板6Aを用いる。
(D)次に、音響伝播時間Tの測定について説明する。
【0043】
推進機の配管(ヒューム管)1の推進プレート1Aに発音体(スピーカ)2、Sジャイロ1B側に受音体(マイクロフォン)3を設ける。
【0044】
以下の手順により、発音から受音までの時間(音響伝播時間)Tを計測する。
【0045】
(1)発音体(スピーカ)2側からSジャイロ1B側の受音体(マイクロフォン)3に待ちうけコマンドを、通信回線(ケーブル)4を介して送出する。
【0046】
(2)コマンドを受信したSジャイロ1B側の受信装置7は、コンピュータを内蔵する配管の延長距離測定装置8の距離計測中フラグ(ハードウェア)をセットする。
【0047】
(3)計測中フラグセット後、最初の通信回線4の立下りタイミングでトリガをかけて時間カウントを開始する。
【0048】
(4)受音体(マイクロフォン)3による音響検知でカウントを止め、距離計測中フラグをクリアする。
【0049】
(5)時間カウント値を発音体側に送信する。
(E)次に、配管の延長距離の計算について説明する。
【0050】
(1)推進機設置時に推進プレート1Aを基準位置に設定したときの竪坑壁面から推進プレート1Aまでの長さを測定しておく。
【0051】
(2)発音体2側のコンピュータを内蔵する配管の延長距離測定装置8で受信した時間パルス数から、上記式(6)により距離を求める。
【0052】
(3)推進機シリンダ変位計(変位センサ)9で基準位置からストロークを読み取り、(壁面からの距離−基準位置からのストローク)を引いて、Sジャイロ1B側の受音体(マイクロフォン)3から竪坑壁面までの距離とする。
【0053】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の空気伝播音式距離計測方法及び空気伝播音式距離計は、小口径管推進における推進距離の計測に用いる空気伝播音式距離計測方法及び空気伝播音式距離計として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例を示す推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムを示す図である。
【図2】本発明の実施例を示す推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの発音から受音までの遅れ時間を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの通信回線(ケーブル)に配置される温度センサの構成図である。
【図4】本発明の実施例を示す推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの通信回線(ケーブル)のコネクタに配置される温度センサを示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す推進工法で敷設する配管の延長距離の計測システムの温度センサの配置とそれによる合成抵抗を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 推進工法で敷設する配管
1A 推進プレート
1B Sジャイロ
2 発音体(スピーカ)
3 受音体(マイクロフォン)
4 通信回線(ケーブル)
5 通信回線(ケーブル)のコネクタ
6 コネクタに配置される温度センサ
6A 小基板
7 受信装置
8 コンピュータを内蔵する配管の延長距離測定装置
9 変位センサ
10 測定原点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内の温度から平均音速を推定することにより、位置による温度変化のある敷設状況下であっても前記配管の測定原点から配管の先端部までの空気中を伝播する音波到達時間に基づいて、配管の延長距離を測定することを特徴とする空気伝播音式距離測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の空気伝播音式距離測定方法において、前記温度測定を配管内に配置される通信ケーブルに実装した温度センサにより行うことを特徴とする空気伝播音式距離測定方法。
【請求項3】
請求項2記載の空気伝播音式距離測定方法において、音速vの計算を次の式で行うことを特徴とする空気伝播音式距離測定方法。
v=20. 125√t
ただし、tは温度(K)である。
【請求項4】
請求項1記載の空気伝播音式距離測定方法において、前記平均音速を、測温抵抗体の温度変化特性を音速の変化特性と一致させることにより、前記通信ケーブルに実装した測温抵抗体の並列抵抗値として読み取ることを特徴とする空気伝播音式距離測定方法。
【請求項5】
推進を行う配管の発音端から発した音波が受音端に届くまでの時間を測定し、該測定された時間に音速をかけて距離を計測する空気伝播音式距離計において、
前記発音端から受音端までの通信ケーブルの途中に温度センサを配置して、前記温度センサからの温度情報に基づいて前記音速の補正を行うことを特徴とする空気伝播音式距離計。
【請求項6】
請求項5記載の空気伝播音式距離計において、前記通信ケーブルのコネクタに測温抵抗体を配置することを特徴とする空気伝播音式距離計。
【請求項7】
請求項5記載の空気伝播音式距離計において、測温抵抗体に直列に温度係数の異なる抵抗を並列接続して前記温度センサの抵抗変化率を音速変化率に一致させることを特徴とする空気伝播音式距離計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−216668(P2009−216668A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63242(P2008−63242)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(500519987)株式会社ジェイアール総研情報システム (14)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】