説明

空気入りタイヤおよびその製造方法

【課題】製造が容易で確実に空洞共鳴音低減を図ることのできる空気入りタイヤおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】トレッド部1と、一対のサイドウォール部2と、一対のビード部3と、各ビード部3に埋設されたビードコア4間にトロイド状に延在させた一枚のカーカスプライからなるカーカス5と、タイヤの内周面側に配設された、樹脂からなるインナーライナー9とを具え、前記インナーライナー9の内周面側に短繊維を固着してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤおよびその製造方法、特に、空洞共鳴音を低減させた空気入りタイヤおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤが走行時に発生させる騒音の原因の一つに、タイヤ内部の円管長さに起因する空洞共鳴音がある。この空洞共鳴音は、タイヤが転動するときにトレッド部が路面の凹凸によって振動し、そのトレッド部の振動がタイヤ内部の空気を振動させるとき共鳴して生じるものである。
そして空洞共鳴周波数は、いずれの乗用車用タイヤにおいても、その周長から200〜270Hzとなり、車軸に伝達される際にはそれ以外の帯域と異なる鋭いピークで不快な車室内騒音の一因となっている。
【0003】
この空洞共鳴周波数は、発生要因がタイヤ内部の空気の共鳴であることから、タイヤ内部で吸音させる方法が有効であり、例えば、タイヤの内面にウレタン等の吸音材を配置する手法や、特許文献1に記載のようなタイヤ内周面に短繊維を接着する手法等が提案されている。
【0004】
しかしながら、タイヤの内周面にはゴム製インナーライナーを具えることが一般的であり、その場合には加硫成型工程において内周面にシリコン等の離型材を塗布する必要があり、さらに短繊維を固着させるには加硫後に離型剤を除去する必要があった。
また、加硫成型前に短繊維を接着した場合には、接着後に離型材を塗布するため、短繊維等に離型材が付着して吸音効果が減少し、空洞共鳴音を十分に低減できないおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−82387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に、製造が容易で確実に空洞共鳴音低減を図ることのできる空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる空気入りタイヤは、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた一枚のカーカスプライからなるカーカスと、タイヤの内周面側に配設された、樹脂からなるインナーライナーとを具えてなるものであって、前記インナーライナーのタイヤ内周面側に短繊維を固着してなることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、「タイヤの内周面」とは、タイヤ本体をリムの外周に装着した際に空気室と接するタイヤ本体の内側表面をいい、そのタイヤ径方向内側にインナーライナーなどの他の層が設けられているような場合には、これらの層も含めて空気室と接するタイヤ本体のタイヤ径方向内側表面とする。
「短繊維を固着」とは、短繊維の一部をタイヤの内周面にしっかりと固定し、それ以外の部分は自由に動くことができる状態で、立つように取り付けることとする。
【0009】
このような空気入りタイヤにおいてより好ましくは、前記樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とエポキシ化合物を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる。
好ましくは、前記短繊維を接着剤にて固着する。
【0010】
また好ましくは、前記短繊維のタイヤ内周面に固着されている領域の面積は、タイヤの内周面の表面積に対して25%以上である。好ましくは短繊維がタイヤ内周面に固着されている領域において、1平方センチメートル当たりに100本以上設ける。さらに好ましくは平均長さが0.5〜10mmの範囲であり、好ましくは、平均直径が1〜500μmの範囲である。
【0011】
そしてまた好ましくは、前記短繊維の固着されている領域が、短繊維群からなり、複数の短繊維群が互いに独立して固着される。
【0012】
ところで、このような空気入りタイヤの製造方法としては、インナーライナーのタイヤ内周面側に接着剤を塗布する工程と、接着剤を塗布した部位に短繊維を接着させる工程とを有する。
【0013】
また好ましくは、前記短繊維を、静電植毛加工によりタイヤ内周面に設ける。
【発明の効果】
【0014】
本発明の空気入りタイヤでは、インナーライナーのタイヤ内周面側に短繊維を固着させることで、タイヤをリムに装着したときに形成される空気室の内周面に対してこれらの短繊維が設けられることになり、これらの短繊維は、空洞共鳴音を吸音して、その結果空洞共鳴現象に起因する騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一の実施形態を、適用リムへの組付け前のタイヤ姿勢で、タイヤの半部について示す幅方向断面図である。
【図2】(a)〜(c)本発明で用いられる短繊維の接着パターンをそれぞれ模式的に示す図である。
【図3】実施例で用いたタイヤの軸力の測定を模式的に示す図である。
【図4】実施例における測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明の空気入りタイヤを詳細に説明する。
図中1はトレッド部を、2はトレッド部1のそれぞれの側部に連続して半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部を、そして3はサイドウォール部2の半径方向内方に連続するビード部をそれぞれ示す。
【0017】
図示の空気入りタイヤは、一対のビード部3と、各ビード部3に埋設されたビードコア4間にトロイド状に延在し、各ビードコア4の周りにタイヤ幅方向の内側から外側に向けて折り返してなる、一枚のカーカスプライからなるカーカス5を具える。
ここで、カーカスプライは、タイヤ周方向に直交する方向に延在する、例えば有機繊維等のプライコードによって形成することができる。
【0018】
トレッド部1のカーカス5の半径方向外方には、図では三枚のベルト層からなるベルト6およびトレッドゴム7が配置され、このトレッドゴム7の表面には、図では省略されているが、タイヤ周方向に延びる複数本の周溝等が形成されている。
【0019】
サイドウォール部2およびビード部3では、カーカス5のタイヤ幅方向の外側面が、それらの外側面に沿わせて配置されたサイドゴム8によって覆われている。
【0020】
タイヤの内周面側にはインナーライナー9を配置し、このインナーライナー9により、タイヤ内の内圧を保持して、空気等を漏れないようにすることができる。
【0021】
そして、このようなインナーライナー9の内周面側には、タイヤの内周面に対して略直角に、無数の短繊維10を固着させる。
【0022】
ここで、インナーライナー9は、ガスバリア性を改善する観点から、樹脂を主成分とすることを要する。
ここで、樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン6/66/610、ナイロンMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリールエステル(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル系樹脂;ポリニトリル系樹脂;ポリメタクリレート系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)等のポリビニル系樹脂が挙げられ、これらの中でも、柔軟性とガスバリア性の観点から、エチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお、これら樹脂に用いることができる樹脂は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とエポキシ化合物(B)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)であることがさらに好ましい。
【0024】
前記樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体とエポキシ化合物を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなることで、エチレン−ビニルアルコール共重合体の弾性率を大幅に下げることができ、屈曲時の破断性、クラックの発生度合いを改良して、内圧保持性を大幅に向上させることができる。
また、通常のゴム製インナーライナーを有するタイヤのように加硫成型工程で離型材を塗布することなく、タイヤ内周面に短繊維を確実に接着させることができる。このため、加硫成型後に離型剤を除去する必要がなく、製造が容易となる。
【0025】
ここで、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)としては、好ましくはエチレン含有量は25〜50モル%である。良好な耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点からは、エチレン含有量の下限はより好ましくは30モル%以上であり、さらに好ましくは35モル%以上である。また、ガスバリア性の観点からは、エチレン含有量の上限はより好ましくは48モル%以下であり、さらに好ましくは45モル%以下である。
エチレン含有量が25モル%未満の場合は耐屈曲性及び耐疲労性が悪化したり、溶融成形性が悪化するおそれがある一方、50モル%を超えるとガスバリア性が不足する傾向がある。
【0026】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度は、好ましくは90%以上である。ケン化度は、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、最適には99%以上である。
ケン化度が90%未満では、インナーライナーのガスバリア性および成形時の熱安定性が不十分となるおそれがある。
【0027】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分である。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0028】
また、エポキシ化合物(B)は特に制限はされないが、一価エポキシ化合物であることが好ましい。二価以上のエポキシ化合物である場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)との架橋反応が生じゲル、ブツ等の発生によりインナーライナーの品質が低下するおそれがある。変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)の製造の容易性、ガスバリア性、耐屈曲性および耐疲労性の観点から、好ましい一価エポキシ化合物としてグリシドール及びエポキシプロパンが挙げられる。
【0029】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)は、好ましくはエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100重量部に対して、エポキシ化合物(B)1〜50重量部を反応させて得られる。より好ましくは、(A)および(B)の混合比は、(A)100重量部に対して(B)2〜40重量部であり、さらに好ましくは(A)100重量部に対して(B)5〜35重量部である。
【0030】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とエポキシ化合物(B)とを反応させて変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を製造する方法は特に限定されないが、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とエポキシ化合物(B)とを溶液中で反応させる製造法が好適な方法として挙げられる。
【0031】
溶液反応による製造法では、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の溶液に酸触媒あるいはアルカリ触媒存在下でエポキシ化合物(B)を反応させることによって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)が得られる。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の良溶媒である極性非プロトン性溶媒が好ましい。反応触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸および3弗化ホウ素等の酸触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキサイド等のアルカリ触媒が挙げられる。これらの内、酸触媒を用いることが好ましい。触媒量としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100重量部に対し、0.0001〜10重量部程度が適当である。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)およびエポキシ化合物(B)を反応溶媒に溶解させ、加熱処理を行うことによっても変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を製造することができる。
【0032】
上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は特に制限はされないが、良好なガスバリア性、耐屈曲性および耐疲労を得る観点からは、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)のメルトフローレート(MFR)が0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがより好ましく、0.5〜20g/10分であることがさらに好ましい。但し、変性EVOHの融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0033】
上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)が架橋されていることが好ましい。変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)が架橋されていない場合、空気入りタイヤを製造する加硫工程において変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層が著しく変形してしまい均一な層を保持できなくなり、インナーライナーのガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性を悪化するおそれが生じる。
【0034】
上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)に架橋構造を形成させる方法に関しては特に限定されないが、好ましい方法としてエネルギー線を照射する方法が挙げられる。エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、α線、γ線等の電離放射線が挙げられ、好ましくは電子線が挙げられる。
【0035】
電子線の照射方法に関しては、押出成形によるフイルム、シート加工の後、電子線照射装置に成形体を導入し、電子線を照射する方法が挙げられる。電子線の線量に関しては特に限定されないが、好ましくは10〜60Mradの範囲内である。照射する電子線量が10Mradより低いと、架橋が進み難くなる。一方、照射する電子線量が60Mradを越えると成形体の劣化が進行しやすくなる。より好適には電子線量の範囲は20〜50Mradである。
【0036】
インナーライナー9は20℃、65RH%における酸素透過量が3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることがより好ましく、5.0×10−13cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることがさらに好ましい。
【0037】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)は、空気入りタイヤ用インナーライナー9として用いるために溶融成形によりフイルム、シート等に成形される。また、フイルム、シート等の溶融成形法としては押出成形等が挙げられる。押出成形の方法は特に限定されず、Tダイ法、インフレーション法が挙げられる。溶融温度は該共重合体の融点等により異なるが150〜270℃程度が好ましい。
【0038】
インナーライナー9は、単層の成形物として空気入りタイヤに供せられる以外に、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層を少なくとも1層含む多層構造体として空気入りタイヤに供せられることができる。また、本発明ではインナーライナーが、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層に隣接して、エラストマーからなる補助層11を具えることができる。
【0039】
また、インナーライナー9は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層が、少なくとも1層以上の接着剤層を介してブチルゴム、ジエン系エラストマー等のエラストマーからなる補助層11に貼り合わせられることができる。
【0040】
また、ガスバリア性を有するインナーライナー9をエチレン−ビニルアルコール共重合体とエポキシ化合物を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層と熱可塑性ポリウレタンを含む樹脂からなる層を二層以上に重ね合わせた積層構造とすることもできる。
この構造により、インナーライナー9によるガスバリア性に加え、熱可塑性ポリウレタンを含む樹脂からなる層による高い延伸性及び熱成形性を併せ持つ多層構造とすることができる。
【0041】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は−OH基を有するため、比較的ゴムとの接着を確保するのが容易である。例えば、塩化ゴム・イソシアネート系の接着剤を接着層に用いれば、タイヤに使用されているゴム組成物との接着が確保できる。
以上のように樹脂からなる層を含むインナーライナー9は様々な構成とすることができるが、内圧保持性を大幅な向上等させるために、インナーライナー9の最内周面側に樹脂からなる層が配置するのが好ましい。
【0042】
インナーライナー9は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層の厚さが50μm以下であるのが好ましい。50μmを越える場合、現在用いられているブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどを使用したインナーライナーに対して重量低減のメリットが小さくなる。さらに、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層の耐屈曲性、耐疲労性が低下し、タイヤ転動時の屈曲変形により破断・亀裂が生じやすく、また、亀裂が伸展しやすくなるため、タイヤ使用後の内圧保持性が使用前と比べて低下することがあった。一方、インナーライナーのガスバリア性の観点から0.1μm以上であることが好ましい。ガスバリア性、耐屈曲性、および耐疲労性の観点から変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層の厚さは1〜40μmがより好ましく、5〜30μmが更に好ましい。
【0043】
ところで、短繊維10は、短繊維のタイヤ内周面に固着されている領域の面積は、タイヤの内周面の表面積に対して25%以上であることが好ましい。
この構成により、空洞共鳴の低減効果を十分に発揮することができる。
一般的な乗用車用のタイヤの場合では、吸音効果を得るための短繊維の重量は数10g程度で十分であり、タイヤ重量への影響は殆ど無視できる。また、使用量が少ないので、短繊維の付着に多少のむらがあっても回転バランスへの影響は無視することができる。
【0044】
また好ましくは、短繊維10は、短繊維10がタイヤ内周面に固着されている領域において、1平方センチメートル当たりに100本以上設けることができ、この構成により、空洞共鳴の低減効果が不足することなく、空洞共鳴音の低減効果を十分に発揮することができる。
【0045】
そしてまた好ましくは、短繊維10は、平均長さが0.5〜10mmの範囲であり、この構成により、空洞共鳴の低減効果が不足することなく、空洞共鳴音の低減効果を十分に発揮することができる。
【0046】
すなわち、短繊維10の平均長さが0.5mm未満では、空洞共鳴音を低減することができなくなるおそれがある一方、短繊維10の平均長さが10mmを超えると、短繊維同士が絡み易くなって作業性が悪化すると共に、タイヤ内周面への均一な分散が困難となり、吸音効果が十分に発現できなくなる傾向がある。
【0047】
好ましくは、短繊維10は、平均直径が1〜500μmの範囲であり、この構成により、空洞共鳴の低減効果が不足することなく、空洞共鳴音の低減効果を十分に発揮することができる。
【0048】
すなわち、短繊維10の平均直径が1μm未満では、短繊維10の製造工程において糸切れが多発し、短繊維10の生産性が低下するおそれがある一方、500μmを超えると、短繊維10の総重量が大きくなり、タイヤの回転バランスに与える影響する傾向がある。
【0049】
また好ましくは、短繊維10の固着されている領域を、短繊維群からなり、複数の短繊維群が互いに独立して固着させることができ、この構成により、短繊維10の固着されている領域を、連続せずに設けることにより、仮に接着層がはがれることがあったとしても、はがれる範囲が極わずかでとどまり、空洞共鳴抑制効果を維持することができる。
【0050】
このような短繊維10は、種々の方法でタイヤの内周面に接着させることができるが、静電植毛加工を用いることが好ましく、具体的には、まず、インナーライナー9に、接着剤を塗布し、ブチルゴム、ジエン系エラストマー等のエラストマーからなる補助層11と貼り合わせることにより、インナーライナー9および補助層11からなるインナーライナーを作製し、このインナーライナーを用い常法によりタイヤを製作する。次いでこのタイヤの内周面側に接着剤を塗布して、この接着剤を塗布した部位に電着処理の行われた無数の短繊維が静電気によりタイヤに付着され、接着剤を塗布した部分にのみ短繊維10が接着固定される。
【0051】
上述の方法により、無数の短繊維10を簡単にインナーライナーの内周面側に固着させることができ、吸音効果を得ることのできる空気入りタイヤを効率的に製造することができる。
【0052】
ここで、静電植毛加工は、短繊維を帯電させ、静電気力により、予め接着剤を塗布した物体に短繊維を垂直に植毛する加工技術であるため、複雑な形状の物体表面にも均一に短繊維を植毛することができ、3次元的に曲率をもったタイヤ内周面に短繊維を植毛するのに適している。
また、静電植毛加工では、短繊維30を周方向へ均一に付着させることができるので、回転バランスを悪化させることが無い。
【0053】
このような短繊維10は、有機合成繊維、無機繊維、再生繊維、天然繊維等を用いることができる。
【0054】
有機合成繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン、ナイロン等の脂肪族ポリアミド、ケブラー等の芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリメチルメタクリレート等のポリエステル、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリスチレン、及びこれらの共重合体等が上げられる。
無機繊維としては、例えば、カーボン繊維、グラスファイバー等が挙げられる。
再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ等が挙げられる。
天然繊維としては、例えば、綿、絹、羊毛等が挙げられる。
【0055】
短繊維10は、図2(a)〜(c)に模式的に示すように、横縞、チェックおよび斜め縞のような接着パターンで配置することができ、好ましくは(a)横縞であり、短繊維を接着する面積を広くとれ、接着剤を塗布する作業が簡単である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。
【0057】
<変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)の合成>
加圧反応槽に、エチレン含量44モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)2重量部およびN−メチル−2−ピロリドン8重量部を仕込み、120℃で、2時間加熱攪拌することにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物(B)としてグリシドール0.4重量部を添加後、160℃で4時間加熱した。加熱終了後、蒸留水100重量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN−メチル−2−ピロリドンおよび未反応のグリシドールを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を得た。さらに、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、2軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。
【0058】
得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)のペレットを用いて、40mmφ押出機(プラスチック工学研究所製PLABOR GT−40−A)とTダイからなる製膜機を用いて、下記押出条件で製膜し、厚み20μmのフイルム状のインナーライナーを得た。
形式: 単軸押出機(ノンベントタイプ)
L/D: 24
口径: 40mmφ
スクリュー: 一条フルフライトタイプ、表面窒化鋼
スクリュー回転数:40rpm
ダイス: 550mm幅コートハンガーダイ
リップ間隙: 0.3mm
シリンダー、ダイ温度設定:C1/C2/C3/アダプター/ダイ
=180/200/210/210/210(℃)
【0059】
図1および2(a)に示すような構造を有し、上記インナーライナーを用いて、タイヤのサイズが195/65R15のタイヤを試作し、太さ15デニール(17dtex)(φ45μ)、長さ2.5mmのナイロン製短繊維約30gを、数万本/cm2、タイヤ内周面の約75%の領域に植毛加工した実施例タイヤおよび、比較例タイヤのそれぞれにつき、空洞共鳴音を評価した。
なお、比較例タイヤは、短繊維を設けない以外のタイヤ構造については改変を要しないため、実施例タイヤに準ずるものとした。
【0060】
実施例タイヤおよび、比較例タイヤのそれぞれにつき6JJ−15のリムに組み付けて、充填内圧を220kPa、負荷質量を4.25kNとし、時速80km/hで、直径1.7mの鉄板表面を持つドラム試験機を用いてタイヤを転動させ、上下方向タイヤ軸力を、図3に模式的に示すような方法で測定して評価した。その結果の周波数スペクトルを図4に示す。
【0061】
図3の結果から、225Hz、240Hz付近に見られるピークが空洞共鳴によるものであるが、5〜7dBと大きな低減効果が得られている。
【0062】
また、実施例タイヤおよび、比較例タイヤのそれぞれにつき6JJ−15のリムに組み付けて、充填内圧を220kPaで、二名乗車相当で、2000ccクラスの乗用車に装着し、時速50km/hで、車速で荒れたアスファルト路を走行させ、ドライバーの耳元で騒音を測定した。
この実施例においても、同等の空洞共鳴効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0063】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 ビードコア
5 カーカス
6 ベルト
7 トレッドゴム
8 サイドゴム
9 インナーライナー
10 短繊維
11 補助層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた一枚のカーカスプライからなるカーカスと、タイヤの内周面側に配設された、樹脂からなる層を含むインナーライナーとを具えてなる空気入りタイヤにおいて、
前記インナーライナーのタイヤ内周面側に短繊維を固着してなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とエポキシ化合物を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記短繊維が接着剤にて固着されてなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記短繊維のタイヤ内周面に固着されている領域の面積は、タイヤの内周面の表面積に対して25%以上である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記短繊維は、短繊維がタイヤ内周面に固着されている領域において、1平方センチメートル当たりに100本以上設けてなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記短繊維は、平均長さが0.5〜10mmの範囲である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記短繊維は、平均直径が1〜500μmの範囲である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記短繊維の固着されている領域が、短繊維群からなり、複数の短繊維群が互いに独立して固着されてなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部と、各ビード部に埋設されたビードコア間にトロイド状に延在させた少なくとも一枚のカーカスプライからなるカーカスと、タイヤの内周面側に配設された、樹脂からなるインナーライナーとを具えてなる空気入りタイヤにおいて、
インナーライナーのタイヤ内周面側に接着剤を塗布する工程と、接着剤を塗布した部位に短繊維を接着させる工程とを有することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記短繊維を、静電植毛加工によりタイヤ内周面に設ける請求項9に記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250635(P2012−250635A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125231(P2011−125231)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】