説明

空気入りタイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤ。

【課題】耐酸素透過性及び耐屈曲性に優れる空気入りタイヤ用インナーライナー、該インナーライナーを用いることにより酸素透過によるタイヤ内部骨格ゴムの劣化を抑制して耐久性を向上させ、しかも重量増加を抑えることができる及び空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】エチレン単位25〜50モル%を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)1〜50質量部を反応させてなる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層を少なくとも一層有する層と、エラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)を有する空気入りタイヤ用インナーライナーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ用インナーライナー、それを用いた空気入りタイヤに関する。さらに詳しくは、本発明は耐酸素透過性及び耐屈曲性に優れる空気入りタイヤ用インナーライナー関し、使用中のタイヤ外部からの酸素透過による劣化を抑制して耐久性を向上させ、しかも重量増加を抑えた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ内部骨格ゴム、いわゆるケースゴムの劣化は使用中にタイヤ外部及び内部からの酸素透過による酸化あるいは熱酸化に起因して生じる部分が多いことが知られており、そして、内部からの酸素透過を抑えるために、空気遮断層をインナーライナー層に用いることが試みられている。
空気遮断層としてのインナーライナーの主原料にブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどを使用している。しかしながら、これらを配合したゴム組成物では、その空気遮断性が低いために、インナーライナーの厚さが1〜2mm前後必要であった。これは、耐酸素透過性に優れると共に、耐屈曲性が高く、かつ近年の省エネルギーの社会的な要請に伴い、自動車タイヤの軽量化を目的とした薄ゲージ化可能な部材が見出されていなかったためである。
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある。)はガスバリア性に優れていることが知られている。EVOHは、空気透過量がブチル系ゴムを配合したインナーライナーゴム組成物の100分の1以下であるため、50μm以下の厚さでも、内圧保持性を大幅に向上することができる上、タイヤを重量低減することが可能である。したがって、空気入りタイヤの空気透過性を改良するために、EVOHをタイヤインナーライナーに用いることが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このEVOHは、弾性率が通常タイヤに用いられているゴムに比べ大幅に高いため、屈曲時の変形で破断、あるいはクラックが生じることがあった。このため、例えばEVOHからなるインナーライナーを用いる場合、タイヤ使用前の内圧保持性は大きく向上するものの、タイヤ転動時の屈曲変形を受けた使用後のタイヤでは、内圧保持性が使用前に比べて低下することがあるなどの問題を有していた。
この問題を解決するためには、例えばエチレン含有量20〜70モル%、ケン化度85%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体60〜99重量%及び疎水性可塑剤1〜40重量%からなる樹脂組成物を用いてなるタイヤの内面用インナーライナーが開示されているが(例えば、特許文献2参照)、耐屈曲性については、必ずしも十分に満足し得るものではない。
そこで、本出願人は、ガスバリア性を保持したまま、より高度な耐屈曲性を有する材料について研究を重ね、先に、エチレン単位25〜50モル%を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物1〜50質量部を反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が、インナーライナー用材料として優れていることを見出した(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−40207号公報
【特許文献2】特開2002−52904号公報
【特許文献3】特開2004−176048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、耐酸素透過性及び耐屈曲性に優れる空気入りタイヤ用インナーライナー、該インナーライナーを用いることにより酸素透過によるタイヤ内部骨格ゴムの劣化を抑制して耐久性を向上させ、しかも重量増加を抑えることができる及び空気入りタイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する空気入りタイヤを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、インナーライナー層として、特定のエラストマーと特定の板状鉱物を含む補助層と特に特定の変性エチレン−ビニルアルコール共合体を含む層を少なくとも有する多層構造を用いることにより、効果的にその目的を達成し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1) エチレン単位25〜50モル%を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)1〜50質量部を反応させてなる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層を少なくとも一層有する層と、エラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)を有することを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー、
(2) 前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層を少なくとも一層有する層に隣接して、エラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(3) エポキシ化合物(B)がグリシドール又はエポキシプロパンである上記(1)又は(2)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(4) 変性に用いるエチレン単位25〜50モル%を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度が90モル%以上である上記(1)〜(3)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(5) (C)成分を含む層が、20℃、65RH%における酸素透過量3×10-15cm3・cm/cm2・sec・Pa以下の層である上記(1)〜(4)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(6) (C)成分を含む層が、架橋化されてなる層である上記(1)〜(5)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(7) (C)成分を含む層が、厚さ100μm以下の層である上記(1)〜(6)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
【0007】
(8) (C)成分を含む層を、を少なくとも一層以上の接着剤層を介して前記補助層(D)に貼合してなるものを有する上記(1)〜(7)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(9) 補助層(D)の20℃、65RH%における酸素透過量が3×10-12cm3・cm/cm2・sec・Pa以下の層である上記(1)〜(8)の空気入りタイヤ用インナーライナー。
(10) 補助層(D)が、ブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムを含む層である上記(1)〜(9)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(11) 補助層(D)が、ジエン系エラストマーを含む層である上記(1)〜(10)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(12) (C)成分を含む層と補助層(D)との間に、熱可塑性ウレタン系エラストマーを含む層(E)を用いた(1)〜(11)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(13) 補助層(D)の厚さの合計が50〜1500μmである上記(1)〜(12)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
【0008】
(14) 補助層(D)の板状鉱物のアスペクト比が3以上30未満である上記(1)〜(13)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(15) 補助層(D)の板状鉱物が含水シリカとアルミナの複合体である上記(1)〜(14)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(16) 補助層(D)がカーボンブラックを含んでなる上記(1)〜(15)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(17) 補助層(D)がエラストマー100質量部に対して、板状鉱物10〜300質量部とカーボンブラック10〜60質量部を含んでなる上記(16)の空気入りタイヤ用インナーライナー、
(18) 補助層(D)に用いるカーボンブラックのヨウ素吸着量が40mg/g以下であり、かつ、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以下である上記(16)又は(17)の空気入りタイヤ用インナーライナー。
(19) 上記(1)〜(18)の空気入りタイヤ用インナーライナーを用いたことを特徴とする空気入りタイヤ、及び
(20) 板状鉱物の面がインナーライナーの厚さ方向と交差する方向に配向している上記(19)の空気入りタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐酸素透過性及び耐屈曲性に優れるインナーライナーを用いることにより、使用中のタイヤ内部部材の、酸素透過による劣化を抑制して耐久性を向上させ、しかも重量増加を抑えた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーを構成する部材について説明する。
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーはエチレン単位25〜50モル%を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)1〜50質量部を反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層を少なくとも一層有する層と、エラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)を有することを要する。本発明におけるエポキシ化合物(B)を用いた変性により、未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の弾性率を大幅に下げることができ、補助層(D)と組み合わせることによって耐酸素透過性はもとより屈曲時の破断性、低温クラックの発生度合いを改良することができる。
【0011】
この変性処理に用いられるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)においては、エチレン単位含有量は25〜50モル%であることが必要である。良好な耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点からは、エチレン単位含有量は、より好適には30モル%以上であり、さらに好適には35モル%以上である。また、ガスバリア性の観点からは、エチレン単位含有量は、より好適には48モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が25モル%未満の場合は耐屈曲性及び耐疲労性が悪化するおそれがある上、溶融成形性が悪化するおそれがある。また、50モル%を超えるとガスバリア性が不足する場合がある。
さらに、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度は好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは98モル%以上であり、最適には99モル%以上である。ケン化度が90モル%未満では、ガスバリア性および積層体作製時の熱安定性が不充分となるおそれがある。
【0012】
変性処理に用いられるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、21.18N荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分である。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは21.18N荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
変性処理は、前記の未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物(B)を、1〜50質量部を要する、好ましくは2〜40質量部、より好ましくは5〜35質量部を反応させることにより行うことができる。この際、適当な溶媒を用いて、溶液中で反応させるのが有利である。
【0013】
溶液反応による変性処理法では、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の溶液に酸触媒あるいはアルカリ触媒存在下でエポキシ化合物を反応させることによって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)が得られる。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の良溶媒である極性非プロトン性溶媒が好ましい。反応触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸および三弗化ホウ素等の酸触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキサイド等のアルカリ触媒が挙げられる。これらの内、酸触媒を用いることが好ましい。触媒量としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対し、0.0001〜10質量部程度が適当である。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびエポキシ化合物を反応溶媒に溶解させ、加熱処理を行うことによっても変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造することができる。
【0014】
変性処理に用いられるエポキシ化合物(B)は特に制限はされないが、一価エポキシ化合物であることが好ましい。二価以上のエポキシ化合物である場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体との架橋反応が生じゲル、ブツ等の発生により積層体の品質が低下するおそれがある。変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)の製造の容易性、ガスバリア性、耐屈曲性および耐疲労性の観点から、好ましい一価エポキシ化合物としてグリシドール及びエポキシプロパンが挙げられる。
本発明に用いられる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)のメルトフローレート(MFR)(190℃、21.18N荷重下)は特に制限はされないが、良好なガスバリア性、耐屈曲性および耐疲労性を得る観点からは、0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがより好ましく、0.5〜20g/10分であることがさらに好ましい。但し、変性EVOHの融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは21.18N荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す
【0015】
当該空気入りタイヤ用インナーライナーを構成する部材に用いられる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を素材とするフイルム層の20℃、65RH%における酸素透過量は、3×10-15cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることが好ましく、7×10-16cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることがより好ましく、3×10-16cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることがさらに好ましい。
当該空気入りタイヤ用インナーライナーを構成する部材に用いるためには、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)は、通常溶融成形により、フイルム、シートなどに成形される。溶融成形法としては、例えばTダイ法やインフレーション法などが挙げられる。この際の溶融温度は、該共重合体の融点などにより異なるが、150〜170℃程度が好ましい。
【0016】
当該空気入りタイヤ用インナーライナーを構成する部材においては、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を素材とする層は、架橋化されていることが好ましい。該共重合体層が架橋化されていない場合、空気入りタイヤを製造する加硫工程において、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層が著しく変形してしまい、均一な層を保持できなくなり、空気遮断層のガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性などが悪化するおそれが生じる。
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)層を架橋化する方法については特に制限はないが、好ましい方法として、該共重合体層にエネルギー線を照射する方法が挙げられる。
エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、α線、γ線等の電離放射線が挙げられ、好ましくは電子線が挙げられる。
電子線の照射方法に関しては、該共重合体を成形してなるフイルム、シートを電子線照射装置に導入し、電子線を照射する方法が挙げられる。電子線の線量に関しては特に限定されないが、好ましくは10〜60Mradの範囲内である。照射する電子線量が10Mradより低いと、架橋が進み難くなる。一方、照射する電子線量が60Mradを超えるとフイルム、シートの劣化が進行しやすくなる。より好適には電子線量の範囲は20〜50Mradである。
【0017】
当該空気入りタイヤ用インナーライナーを構成する部材は、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)層と、エラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)の多層構造であることが必要である。
尚、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)層とエラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)とは隣接することが好ましい。
この補助層(D)を構成するエラストマー成分としては、所望の耐空気透過性と耐屈曲性を得るために、ブチルゴム及び/又はハロゲン化ゴムを含む層であることが好ましい。例えば、前記ブチルゴムのほか、臭素化ブチルゴム、臭素化イソブチレン・パラメチルスチレン共重合体、塩素化ブチルゴム等のハロゲン化ブチルゴム等を挙げることができるが、特に十分な加硫速度を得る観点から、臭素化ブチルゴムを用いることが好ましい。
また、補助層(D)に対するクラックの発生やクラックが発生した後の、前記クラックの伸展を抑制する観点からは、エラストマー成分として、ブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムを含む組成物を用いることが好ましい。
前記ジエン系ゴムとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ポリイソプレン、ポリブタジエン、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのジエン系ゴムの中でも、低温における耐クラック性等の低温特性に優れる点で、天然ゴム及び/又はポリブタジエンゴムが好ましい。
ブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムに対するジエン系ゴムの配合比率については特に制限はないが、本発明のインナーライナーが適用される、タイヤサイズ及びタイヤの使用条件等によって適宜決定すればよい。
例えば、航空機、トラック、バス等、極低温条件下で使用され得る高荷重車両用タイヤに該インナーライナーを適用した場合には、低温クラックの発生を抑制するために、ジエン系ゴムの配合比率を増すことが好ましい。
【0018】
また、補助層(D)を構成する必須成分として板状鉱物を含むことが必要である。前記板状鉱物としては、その形状が板状で扁平のものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、該板状鉱物には、層状鉱物なども含まれる。前記板状鉱物の具体例としては、マイカ、クレー、シリカ、アルミナ、これらの複合体などが挙げられる。これらの中でも、カオリン質クレーから選択される少なくとも1種又は、含水のシリカとアルミナの複合体であるのが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、市販品を好適に使用することができる。
さらに、前記板状鉱物のアスペクト比としては、3以上30未満が好ましく、8〜20がより好ましい。なお、前記アスペクト比は、板状鉱物の厚みに対する長径の比を意味する。前記アスペクト比が前記数値範囲内にあると、補助層(D)が耐空気透過性、耐屈曲性に優れ、薄ゲージ化でき、加工性に優れ、未加硫のシート切れ・穴あきが生ずることがない等の点で有利である。
また、板状鉱物の平均粒子径は、大きすぎると耐屈曲性の低下を招くので10μm以下とすることが好ましく、特に0.2〜5μm程度の範囲がより好ましい。
【0019】
補助層(D)中の板状鉱物の含有量は、前記エラストマー成分100質量部に対し、10〜300質量部が好ましく、20〜80質量部がより好ましい。前記板状鉱物の含有量が前記数値範囲内にあると、該補助層(D)が耐空気透過性、耐屈曲性に優れ、内圧保持性が十分であり、薄ゲージ化でき、加工性に優れ、未加硫のシート切れ・穴あきが生ずることがない等の点で有利である。また、前記板状鉱物の量を前記のより好ましい範囲にすることによって、さらに該補助層(D)の耐屈曲性を改善することができる。
また、前述のようにエラストマー成分としてジエン系ゴムを配合した場合には、ブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムに対するジエン系ゴムの配合量によって適宜決定すればよいが、補助層(D)の耐空気透過性を確保するためには板状鉱物を前記エラストマー成分100質量部に対して、80質量部以上含有させることが好ましい。
【0020】
更に、補助層(D)には、補強性充填剤としてカーボンブラックが配合される。好ましいカーボンブラックとしては、例えばN660、N772、N762、N754等を挙げることができる。また、カーボンブラックは以下のコロイダル特性を有するものが好ましい。すなわち、ヨウ素吸着量(IA)は40mg/g以下が好ましく、35〜20mg/g程度であればより好ましい。また、ジブチルフタレート吸油量(DBP)は、100ml/100g以下が好ましく、70〜30ml/100g程度であればより好ましい。ここで、上記コロイダル特性のIAはASTM D1510−95、DBPはASTM D2414−97に従ってそれぞれ測定される値である。
前記カーボンブラックの配合量は、エラストマー成分100質量部に対して、10〜60質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。カーボンブラックの配合量が上記範囲を満足することによってゴムの未加硫強度が十分に得られシート切れ、ゴム密着などの製造上の問題を生ずることなく、優れた耐屈曲性や低温性を得ることができる。
前記補助層(D)のエラストマー成分には、必要に応じてインナーライナー用ゴム組成物に通常使用される成分、例えば、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、軟化剤、滑剤、加硫助剤、粘着付与剤等を適宜配合することが出来る。
上記成分を、例えばバンバリーミキサーで常法により混練りすることにより製造できる。
混練りされた組成物をシート状の補助層(D)にするには、例えばカレンダーロール等により行うことができる。
【0021】
また本発明においては、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)層と、補助層(D)とを、少なくとも1層以上の接着剤層を介して貼合してなるものを挙げることができる。
エチレン−ビニルアルコール共重合体は−OH基を有するため、比較的ゴムとの接着を確保することが容易である。例えば、塩化ゴム・イソシアネート系の接着剤を接着剤層に用いれば、タイヤに使用されているゴム組成物との接着が確保できる。
前記多層構造体の層構成としては、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層をc、ゴム状弾性体層をD1、D2(D1、D2は、それぞれ異なる層である。)、接着剤層をcdで表すと、例えばc/D1、D1/c/D1、c/cd/D1、D1/cd/c/cd/D1、D1/c/D1/D2、D1/c/D1/cd/D2などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
また、それぞれの層は単層であってもよいし、場合によっては多層であってもよい。さらに、変性エチレン−ビニルアルコール共合体(C)層、補助層(D)及び接着剤層が、それぞれ複数ある場合、複数の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)層は同一であっても異なっていてもよいし、複数の補助層(D)は同一であっても異なっていてもよく、複数の接着剤層は同一であっても異なっていてもよい。
多層構造体を製造する方法については特に制限はなく、例えば変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる成形物(フイルム、シート等)に補助層(D)および接着剤層を溶融押出する方法、逆に補助層(D)の基材に変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)および接着剤層を溶融押出する方法、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)と補助層(D)(および必要に応じて接着剤層)とを共押出成形する方法、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)より得られた成形物と補助層(D)のフイルム、シートとを接着剤層を用いてラミネートする方法、更にはタイヤ成形時にドラム上で、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)より得られた成形物と補助層(D)のフイルム、シート(および必要に応じて接着剤層)を貼り合わせる方法等が挙げられる。
【0023】
当該空気入りタイヤ用インナーライナーを構成する部材において、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層の厚さは100μm以下であることが好ましい。100μmを超えると、現在用いられているブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどを使用したインナーライナーに対して重量減のメリットが少ない。ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性の観点から、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層の厚さは2〜80μmがより好ましく、10〜60μmがさらに好ましい。
尚、好ましい厚さについては、適用されるタイヤサイズに応じて適宜決定することができる。
前記の多層構造体における変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層では、厚さが100μm以下での使用により、耐屈曲性、耐疲労性が向上し、タイヤの転動時の屈曲変形で破断及びクラックが生じにくくなる。たとえ破断しても、該変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を素材とする層が、補助層(D)との接着性が良好であるので剥離しにくく、亀裂が伸展しにくいため、大きな破断やクラックが生じない。また、破断やクラックが生じた場合においても、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)層に生じた破断及びクラック部分のガスバリア性をゴム状弾性体層が補うため、酸素透過を抑制することができる。
【0024】
当該空気入りタイヤ用インナーライナーを構成する部材における補助層(D)は、20℃、65RH%における酸素透過量が3×10-12cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることが、ガスバリア性の観点から好ましい。より好ましくは7×10-13cm3・cm/cm2・sec・Pa以下である。
【0025】
さらに、本発明においては、所望に応じて、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層と補助層(D)との間に補助層(D)の薄膜化およびクラックの発生、伸展抑制の観点からは、熱可塑性ウレタン系エラストマー含む層(E)を設けることが好ましい。尚、(E)層の厚さは、5〜100μmが好ましい。
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーにおいては主体となる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層と多層化された補助層(D)と熱可塑性ウレタン系エラストマー含む層(E)を積層することが、より好ましい。
前記熱可塑性ウレタン系エラストマー(以下、TPUと略記することがある。)は、分子中にウレタン基(−NH−COO−)をもつエラストマーであり、(1)ポリオール(長鎖ジオール)、(2)ジイソシアネート、(3)短鎖ジオールの三成分の分子間反応によって生成する。ポリオールと短鎖ジオールは、ジイソシアネートと付加反応をして線状ポリウレタンを生成する。この中でポリオールはエラストマーの柔軟な部分(ソフトセグメント)になり、ジイソシアネートと短鎖ジオールは硬い部分(ハードセグメント)になる。TPUの性質は、原料の性状、重合条件、配合比によって左右され、この中でポリオールのタイプがTPUの性質に大きく影響する。基本的特性の多くは長鎖ジオールの種類で決定されるが、硬さはハードセグメントの割合で調整される。
種類としては、(イ)カプロラクトン型(カプロラクトンを開環して得られるポリラクトンエステルポリオール)、(ロ)アジピン酸型(=アジペート型)<アジピン酸とグリコールとのアジピン酸エステルポリオール>、(ハ)PTMG(ポリテトラメチレングリコール)型(=エーテル型)<テトラヒドロフランの開環重合で得られたポリテトラメチレングリコール>などがある。
【0026】
当該インナーライナーを構成する部材における補助層(D)の厚さの合計は、50〜1500μmの範囲にあることが好ましい。この厚さの合計が50μm未満では、インナーライナーの耐屈曲性、耐疲労性が低下し、タイヤ転動時の屈曲変形により破断や亀裂が生じやすく、また、亀裂が伸展しやすくなる。一方、厚さの合計が1500μmを超えると、現在用いられている空気入りタイヤに対して重量低減のメリットが小さくなる。空気遮断層のガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性及び空気入りタイヤの重量低減の観点から、ゴム状弾性体層の厚さの合計は、100〜1000μmがより好ましく、300〜800μmがさらに好ましい。尚、補助層(D)の好ましい厚さについては、適用されるタイヤサイズに応じて上記範囲内で適宜決定することができる。
【0027】
ここで、図1に従って補助層(D)に含まれている板状鉱物作用について詳細に説明する。
図1は本発明のインナーライナーを適用したタイヤのインナーライナーの部分断面を模式的に例示する図面である。1はインナーライナー、2は補助層(D)、3は板状鉱物、4は変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層を示す。
矢印はタイヤ内部からカーカス層への空気の流れ(エア漏れ)であり、タイヤ内部の空気は、まず、(C)成分を含む層4を透過するが、(C)成分を含む層4は耐空気透過性に優れており、通常のブチルゴムを使用したインナーライナーの100分の1以下の空気透過量であり、まず(C)成分を含む層4によって大幅に耐空気透過性が改善される、次に、空気は補助層(D)2を透過する。補助層(D)2中に分散した板状鉱物粒子3は、その面が補助層(D)2の厚さ方向と交差する向き(即ち、補助層D2の面と平行もしくは平行に近い向き)に配向している。板状鉱物粒子3の存在によって迂回を強いられ補助層(D)2を通過するまでの距離が長くなっている状態を示す。このように、本発明のインナーライナーにおいては、該インナーライナーを構成する補助層(D)2のエラストマー成分中に配合された板状鉱物粒子3が一定方向に配向する結果、更にタイヤ内部からの空気の通過を妨げ、インナーライナー1を(C)成分を含む層4と補助層(D)2の多層構造にすることによって従来にない非常に低い空気透過性が達成されるものと考えられる。しかし、従来インナーライナー用ゴムに使用されてきたクレーのようにアスペクト比が大きい板状鉱物を用いると、ゴム混練り時に均一な分散が困難となり、加硫ゴム中で凝集を生じ、その結果凝集クレーが破壊核となって補助層(D)2の耐屈曲性や低温性の低下を招き、タイヤ全体の耐久性を損なうことになってしまう。
本発明においては、3〜30未満という特定のアスペクト比を有する板状鉱物3を選択し、補強性充填剤としてのカーボンブラックとともに一定の配合量に調整して用いることにより、耐屈曲性や低温性を損なうことなく空気透過性を大幅に低減させることが可能となり、タイヤ内部部材の、酸素透過による劣化を抑制して耐久性を向上させしかも重量増加を抑えた空気入りタイヤを提供することができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、変性に用いるエチレン−ビニルアルコール共重合体の特性値は、以下に示す方法に従って測定した。
(1)エチレン単位含有量及びケン化度
重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H−NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により得られたスペクトルから算出した。
(2)メルトフローレート
試料とするエチレン−ビニルアルコール共重合体を、メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)の内径9.65mm、長さ162mmのシリンダーに充填し、190℃で溶融した後、荷重21.18N、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけた。
シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)を測定し、これをメルトフローレートとした。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは21.18N荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0029】
製造例1 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体Iの製造
加圧反応槽に、エチレン単位含量44モル%、ケン化度99.9モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(MFR:5.5g/10分(190℃、21.18N荷重下)2質量部およびN−メチル−2−ピロリドン8質量部を仕込み、120℃で、2時間加熱攪拌することにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物としてグリシドール0.4質量部を添加後、160℃で4時間加熱した。
加熱終了後、蒸留水100質量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN−メチル−2−ピロリドンおよび未反応のグリシドールを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。さらに、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、2軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。
【0030】
製造例2 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体IIの製造
加圧反応槽に、エチレン単位含量44モル%、ケン化度99.9モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(MFR:5.5g/10分(190℃、21.18N荷重下)2質量部およびN−メチル−2−ピロリドン8質量部を仕込み、120℃で、2時間加熱攪拌することにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物としてグリシドール0.3質量部を添加後、160℃で4時間加熱した。
加熱終了後、蒸留水100質量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN−メチル−2−ピロリドンおよび未反応のグリシドールを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。さらに、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、2軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。
【0031】
製造例3 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体IIIの製造
加圧反応槽に、エチレン単位含量44モル%、ケン化度99.9モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(MFR:5.5g/10分(190℃、21.18N荷重下)2質量部およびN−メチル−2−ピロリドン8質量部を仕込み、120℃で、2時間加熱攪拌することにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物としてエポキシプロパン0.4質量部を添加後、160℃で4時間加熱した。
加熱終了後、蒸留水100質量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN−メチル−2−ピロリドンおよび未反応のエポキシプロパンを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。さらに、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、2軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。
【0032】
製造例4 フイルム1の作製
製造例1で得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体Iのペレットを用いて、40mmφ押出機(プラスチック工学研究所製PLABOR GT−40−A)とTダイからなる製膜機を用いて、下記押出条件で製膜し、厚み20μmの単層フイルム1を得た。
形式:単軸押出機(ノンベントタイプ);L/D:24;口径:40mmφ;スクリュー:一条フルフライトタイプ、表面窒化銅;スクリュー回転数:40rpm;ダイス:550mm幅コートハンガーダイ;リップ間隙:0.3mm;シリンダー、ダイ温度設定:C1/C2/C3/アダプター/ダイ=180/200/210/210/210(℃)
【0033】
製造例5及び6 フイルム2、フイルム3の作製
製造例2及び製造例3で得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体II及びIIIのペレットを用いた以外は、製造例4と同様にして、それぞれ厚み20μmの単層フイルム2及び3を作製した。
製造例7 ガスバリア材用フイルム4の作製
未変性のエチレン含有量44モル%、ケン化度99.9モル%、MFR=5.5g/10分(190℃、21.18N荷重下)のエチレン−ビニルアルコール共重合体を変性エチレン−ビニルアルコール共重合体Iの代わりに用いた以外は、製造例4と同様にして、ガスバリア材用の厚み20μmの単層フイルム4を得た。
【0034】
製造例8 3層フイルム5の作製
製造例3で得た変性エチレン−ビニルアルコール共重合体III(変性EVOHIII)と、エラストマーとして熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製クラミロン3190)とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フイルム5(熱可塑性ポリウレタン層/変性EVOHIII層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各層の厚みは、変性EVOHIII層、熱可塑性ポリウレタン層ともに20μmである。
<共押出成形条件>
層構成:熱可塑性ポリウレタン/変性EVOHIII/熱可塑性ポリウレタン(厚み20/20/20:単位はμm);各樹脂の押出温度:C1/C2/C3/ダイ=170/170/220/220℃;各樹脂の押出機仕様:熱可塑性ポリウレタン用25mmφ押出機 P25−18AC(大阪精機工作株式会社製)、変性EVOHIII用20mmφ押出機 ラボ機ME型CO−EXT(株式会社東洋精機製);Tダイ仕様:500mm幅2種3層用(株式会社プラスチック工学研究所製);冷却ロールの温度:50℃;引き取り速度:4m/分
【0035】
試験例1
製造例4〜製造例8で作製したフイルム1〜フイルム5について、下記の方法に従って、酸素透過量及び耐屈曲性の評価を行った。
(1)酸素透過量の測定
作製した各フイルムを、20℃−65%RHにて5日間調湿した。
上記の調湿済みの各フイルム2枚のサンプルを使用して、モダンコントロール社製 MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃−65%RH条件下でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて、酸素透過量を測定し、その平均値を求めた。
(2)耐屈曲性の評価
各フイルムについて、21cm×30cmにカットされたフイルムを50枚作製し、それぞれのフイルムを20℃−65%RHで5日間調湿した後、ASTM F 392−74に準じて、理学工業(株)製ゲルボフレックステスターを使用し、屈曲回数50回、75回、100回、125回、150回、175回、200回、225回、250回、300回、400回、500回、600回、700回、800回、1000回、1500回屈曲させた後、ピンホールの数を測定した。
それぞれの屈曲回数において、測定を5回行い、その平均値をピンホール個数とした。屈曲回数(P)を横軸に、ピンホール数(N)を縦軸に取り、上記測定結果をプロットし、ピンホール数が1個の時の屈曲回数(Np1)を外挿により求め、有効数字2桁とした。ただし1500回屈曲でピンホールが観察されないフイルムについては以降500回おきに屈曲回数を増やし、ピンホールが見られた屈曲回数をNp1とした。
【0036】
フイルム1の酸素透過量は2.6×10-16cm3・cm/cm2・sec・Paであり、優れたガスバリア性を示した。
また、フイルム1の耐屈曲性について、上記方法に従って評価を行ったところ、Np1は500回であり、極めて優れた耐屈曲性を示した。
フイルム2の酸素透過量は0.75×10-16cm3・cm/cm2・sec・Paであり、優れたガスバリア性を示した。
また、フイルム2の耐屈曲性について、上記方法に従って評価を行ったところ、Np1は100回であり、極めて優れた耐屈曲性を示した。
フイルム3の酸素透過量は3.0×10-16cm3・cm/cm2・sec・Paであり、優れたガスバリア性を示した。
また、フイルム3の耐屈曲性について、上記方法に従って評価を行ったところ、Np1は500回であり、極めて優れた耐屈曲性を示した。
フイルム4の酸素透過量は3.5×10-17cm3・cm/cm2・sec・Paであり、優れたガスバリア性を示した。
また、フイルム4の耐屈曲性について、上記方法に従って評価を行ったところ、Np1は47回であった。
フイルム5の酸素透過量は2.6×10-16cm3・cm/cm2・sec・Paであり、優れたガスバリア性を示した。
また、フイルム5の耐屈曲性について、上記方法に従って評価を行ったところ、Np1は5000回であり、極めて優れた耐屈曲性を示した。
【0037】
製造例9、補助層(D)の作製
第1表に示す配合組成で、常法によってバンバリーミキサーで混練し、その未加硫ゴムをロールでシート状にすることによってエラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)を作製した。その未加硫のシートを酸素透過量を測定するために150℃で30分間加硫した。酸素透過量の値を第1表に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[注]
*1.臭素化ブチル:JSR社製 商品名 Bromobutyl 2244
*2.カーボンブラック:GPF 旭カーボン社製 商品名 #55
*3.板状鉱物:クレー J.M.Huber社製 商品名 POLYFIL DL(アスペクト比 10)
*4.プロセスオイル:日本サン石油社製 商品名 SUNPAR2280
*5.亜鉛華:白水化学工業社製
*6.加硫促進剤:大内新興化学工業社製 商品名 NOCCELER DM
*7.ステアリン酸:旭電化工業社製
*8.硫黄:軽井沢精錬所製
【0040】
実施例1〜6
第2表に示す種類のフイルムを用い、各フイルムに日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200・100」を使用して、加速電圧200kV、照射エネルギー30Mradの条件にて電子照射し架橋処理を施した。得られた架橋フイルムの片面に、接着剤層として東洋化学研究所製「メタロックR30M」を塗布し、作製したシート状の未加硫の補助層を第2表に示す形態で張り合わせ、その後、150℃で30分間加硫して複合体サンプルを作製し、酸素透過量および耐屈曲性について測定をした。
酸素透過量は前述の測定法に基づいて測定し、第2表に比較例1を100として指数で表した。指数の値が小さいほど耐酸素透過性が優れている(酸素が透過しにくい)ことを示す。結果について第2表に示す。
耐屈曲性については、JIS K6301−1995の屈曲試験法に準拠してゴム試験片を作製し、屈曲試験を実施した。試験片に10mmのクラックが発生するまでの時間を測定し、比較例1を100として各試験片のクラックが10mm発生するまでの時間を指数で表した。指数が大きいほど耐屈曲性に優れていることを示す。結果について第2表に示す。
【0041】
比較例1〜3
実施例1〜6においてフイルムを張り合わせなかった以外は、実施例1〜6
と同様に実施した。その結果を第2表に示す。
【0042】
比較例4
実施例1〜6においてフイルム4を使用した以外は、実施例1〜6と同様に実施した。その結果を第2表に示す。
【0043】
試験例2
実施例1〜6、及び比較例1〜4のインナーライナーを用いて常法により乗用車用空気入りタイヤ(195/65R15)を作製した。作製したタイヤの断面概略図を図2に示す。図中、4は変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層を、2はエラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)をそれぞれ示す。
上記作製のタイヤについて、空気圧140kPaで80km/hの速度に相当する回転数のドラム上に荷重6kNで押し付けて、10,000km走行を実施した。未走行タイヤと、上記条件で走行したタイヤを用い、内圧保持性を下記条件で評価した。内圧保持性は、試験タイヤを6JJ×15のリムに装着した後、内圧を240kPa充填、3ヶ月後の内圧を測定することで評価し、下式にて指数化した。
内圧保持性=((240−b)/(240−a))×100
なお、式中、aおよびbは、a:試験タイヤの3ヶ月後内圧b:下記比較例1記載の未走行タイヤ(通常のゴムインナーライナーを用いた空気入りタイヤ)の3ヶ月後内圧を表す。
また、上記したドラム走行後のタイヤのインナーライナー外観を目視観察して、亀裂の有無を評価した。評価結果を第2表に示す。
【0044】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、耐酸素透過性及び耐屈曲性に優れるインナーライナーを用いることにより、使用中のタイヤ内部部材の、酸素透過による劣化を抑制して耐久性を向上させ、しかも重量増加を抑えた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】は本発明のインナーライナーを適用したタイヤの、インナーライナーの部分断面を模式的に例示する図面である。
【図2】は本発明の実施態様の一例を示すタイヤの断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1.インナーライナー
2.補助層(D)
3.板状鉱物
4.変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位25〜50モル%を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)1〜50質量部を反応させてなる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層を少なくとも一層有する層と、エラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)を有することを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項2】
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含む層を少なくとも一層有する層に隣接して、エラストマーと板状鉱物を含む補助層(D)を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項3】
エポキシ化合物(B)がグリシドール又はエポキシプロパンである請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項4】
変性に用いるエチレン単位25〜50モル%を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度が90モル%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項5】
(C)成分を含む層が、20℃、65RH%における酸素透過量3×10-15cm3・cm/cm2・sec・Pa以下の層である請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項6】
(C)成分を含む層が、架橋化されてなる層である請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項7】
(C)成分を含む層が、厚さ100μm以下の層である請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項8】
(C)成分を含む層を、を少なくとも一層以上の接着剤層を介して前記補助層(D)に貼合してなるものを有する請求項1〜7に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項9】
補助層(D)の20℃、65RH%における酸素透過量が3×10-12cm3・cm/cm2・sec・Pa以下の層である請求項1〜8のいずれかにに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項10】
補助層(D)が、ブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムを含む層である請求項1〜9のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項11】
補助層(D)が、ジエン系エラストマーを含む層である請求項1〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項12】
(C)成分を含む層と補助層(D)との間に、熱可塑性ウレタン系エラストマーを含む層(E)を用いた請求項1〜11のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項13】
補助層(D)の厚さの合計が50〜1500μmである請求項1〜12のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項14】
補助層(D)の板状鉱物のアスペクト比が3以上30未満である請求項1〜13のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項15】
補助層(D)の板状鉱物が含水シリカとアルミナの複合体である請求項1〜14のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項16】
補助層(D)がカーボンブラックを含んでなる請求項1〜15のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項17】
補助層(D)がエラストマー100質量部に対して、板状鉱物10〜300質量部とカーボンブラック10〜60質量部を含んでなる請求項16に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項18】
補助層(D)に用いるカーボンブラックのヨウ素吸着量が40mg/g以下であり、かつ、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以下である請求項16又は17に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナーを用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項20】
板状鉱物の面がインナーライナーの厚さ方向と交差する方向に配向している請求項19に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−8186(P2007−8186A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187655(P2005−187655)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】