説明

空気入りタイヤ

【課題】使用するタイヤ部材の低発熱性を向上させて、転がり抵抗を低減しつつ耐久性を向上させた空気入りタイヤ、特には、スチールコードのコーティングゴムの低発熱性を向上させて、転がり抵抗を低減しつつ、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性を向上させて耐久性を大幅に向上させた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、硫黄1〜10質量部と、置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物0.1〜10質量部とを配合してなるゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とする空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用するタイヤ部材の低発熱性を向上させて、転がり抵抗を低減しつつ耐久性を向上させた空気入りタイヤに関し、特には、スチールコードのコーティングゴムの低発熱性を向上させて、転がり抵抗を低減しつつ、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性を向上させて耐久性を大幅に向上させた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、自動車の低燃費化に対する要求が強くなりつつあり、転がり抵抗の小さなタイヤが求められている。これに対して、現在は、タイヤのトレッドの低ロス化が盛んに行われているが、更なる転がり抵抗の低減を目的として、今後、ケース部材に対する低ロス化の要求が強くなるものと予想される。
【0003】
一方、タイヤの耐久性の更なる改良も望まれており、例えば、スチールコード補強空気入りタイヤにおいては、スチールコードと該コードを被覆するコーティングゴムとの接着性を確保することが重要であり、この接着性が低下するとカーカスやベルトの耐久性が低下し、ひいてはタイヤの耐久性に問題が生じることが知られている。そのため、これまでスチールコードとコーティングゴムとの接着性を改良して、タイヤを長寿命化するために、様々な検討が行われてきた。
【0004】
例えば、コーティングゴムの検討としては、レゾルシン、又はレゾルシンとホルムアルデヒドとを縮合して得られるレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂(以下、「RF樹脂」という)を配合した接着性ゴム組成物をコーティングゴムとして用いる技術(特開2001−234140号公報参照)が知られており、レゾルシン又はRF樹脂を配合することで、スチールコードとコーティングゴムとの耐湿熱接着性が飛躍的に向上することが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−234140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レゾルシンやRF樹脂を配合すると、ゴムの発熱が大きくなり、転がり抵抗が増大する問題がある。また、ゴムの発熱が大きくなるのに伴い、ゴムの熱劣化が促進され、耐久性が悪化する問題もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、使用するタイヤ部材の低発熱性を向上させて、転がり抵抗を低減しつつ耐久性を向上させた空気入りタイヤ、特には、スチールコードのコーティングゴムの低発熱性を向上させて、転がり抵抗を低減しつつ、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性を向上させて耐久性を大幅に向上させた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含むゴム成分に対して特定構造の化合物を配合したゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いることで、該タイヤ部材の低発熱性が向上して、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ該タイヤ部材の熱劣化を抑制して耐久性を向上させることができ、また、該ゴム組成物をスチールコードのコーディングゴムに用いることで、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性を向上して、タイヤの耐久性が大幅に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の空気入りタイヤは、天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、硫黄1〜10質量部と、置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物0.1〜10質量部とを配合してなるゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とする。
【0010】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記置換ベンゼン環を含む化合物としては、下記一般式(I):
【化1】

[式中、Xは、水酸基、カルボキシル基又は−COOCm2m+1(ここで、mは1〜5のいずれかの整数である)であり;Yは、2-位,4-位,5-位又は6-位にあり、水素、水酸基又は下記一般式(II):
【化2】

{式中、Z1及びZ2は、それぞれ独立して水酸基、カルボキシル基又は−COOCq2q+1(ここで、qは1〜5のいずれかの整数である)であり;pは、1〜7のいずれかの整数である}で表される置換基である]で表される化合物が好ましい。
【0011】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記置換ベンゼン環を含む化合物としては、下記一般式(III):
【化3】

[式中、Rは炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表す]で表される化合物も好ましく、下記一般式(IV):
【化4】

[式中、Rは炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表す]で表される化合物が特に好ましい。
【0012】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記置換ベンゼン環を含む化合物としては、上記一般式(IV)で表される化合物が60〜100質量%、下記一般式(V)で表され且つn=2の化合物が0〜20質量%、下記一般式(V)で表され且つn=3の化合物が0〜10質量%及び下記一般式(V)で表され且つn=4〜6の化合物が合計で0〜10質量%からなる組成物も好ましい。
【化5】

[式中、Rは炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表し、nは2〜6の整数を示す。]
【0013】
上記一般式(IV)中のRは、炭素数2〜10のアルキレン基又はフェニレン基であることが好ましい。また、上記一般式(V)中のRも、炭素数2〜10のアルキレン基又はフェニレン基であることが好ましい。
【0014】
本発明の空気入りタイヤにおいて、上記ゴム組成物は、更に有機酸コバルト塩を前記ゴム成分100質量部に対しコバルト量として0.03〜1質量部含むことが好ましい。
【0015】
本発明の空気入りタイヤの好適例においては、前記変性天然ゴムの極性基が、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、アルコキシシリル基及びスズ含有基からなる群から選ばれる少なくとも一つである。
【0016】
本発明の空気入りタイヤの他の好適例においては、前記変性天然ゴムの極性基含有量が、変性天然ゴムのゴム成分に対して0.001〜0.5 mmol/gである。
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設した一枚以上のベルト層からなるベルトとを備え、該カーカス及びベルトの少なくとも一方がコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含み、前記カーカス及びベルトの少なくとも一方で、スチールコードを被覆するコーティングゴムに、前記ゴム組成物が用いられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含むゴム成分に対して特定構造の化合物を配合したゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いることで、該タイヤ部材の低発熱性が向上して、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ該タイヤ部材の熱劣化を抑制して耐久性を向上させることができる。更に、該ゴム組成物をスチールコードのコーディングゴムに用いることで、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性を向上させ、タイヤの耐久性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の空気入りタイヤは、天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、硫黄1〜10質量部と、置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物0.1〜10質量部とを配合してなるゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とする。上記置換ベンゼン環を含む化合物を配合したゴム組成物をコーティングゴムに用いることにより、スチールコードとコーティングゴムとの耐湿熱接着性を改善することができる。そのため、上記ゴム組成物をスチールコードのコーディングゴムに用いることで、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性を向上させ、タイヤの耐久性を大幅に向上させることができる。しかしながら、上記置換ベンゼン環を含む化合物を配合すると、ゴムの発熱性が悪化して、転がり抵抗が増大する上、ゴムの発熱が大きくなるのに伴い、ゴムの熱劣化が促進され、耐久性が悪化する。一方、上記変性天然ゴムは、未変性の天然ゴムに比べて充填剤に対する親和性が高いため、該変性天然ゴムを用いることで、ゴム成分に対する充填剤の分散性を向上させ、ゴム組成物の低発熱性(低ロス性)を大幅に向上させることができる。そのため、上記変性天然ゴムを含むゴム成分に対して上記置換ベンゼン環を含む化合物を配合したゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いることで、該タイヤ部材の低発熱性が向上して、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ該タイヤ部材の熱劣化を抑制して耐久性を向上させることができる。特に該ゴム組成物をスチールコードのコーディングゴムに用いた場合は、これらの効果に加えて、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性が向上する結果、タイヤの耐久性を大幅に向上させることが可能となる。
【0020】
本発明の空気入りタイヤのタイヤ部材のいずれかに用いるゴム組成物のゴム成分は、天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含む。該変性天然ゴムの製造には、原料として、天然ゴムラテックスを用いてもよいし、天然ゴム、天然ゴムラテックス凝固物及び天然ゴムカップランプからなる群から選択される少なくとも一種の固形天然ゴム原材料を用いてもよい。
【0021】
例えば、天然ゴムラテックスを原料とする場合は、極性基含有変性天然ゴムラテックスを製造し、更に凝固及び乾燥させることで、極性基含有変性天然ゴムを得ることができる。ここで、極性基含有変性天然ゴムラテックスの製造方法としては、特に限定されず、例えば、(1)天然ゴムラテックスに極性基含有単量体を添加し、該極性基含有単量体を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子にグラフト重合させる方法、(2)天然ゴムラテックスに極性基含有メルカプト化合物を添加し、該極性基含有メルカプト化合物を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に付加させる方法、(3)天然ゴムラテックスに極性基含有オレフィン及びメタセシス触媒を加え、該メタセシス触媒によって天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に極性基含有オレフィンを反応させる方法が挙げられる。
【0022】
上記変性天然ゴムの製造に用いる天然ゴムラテックスとしては、特に限定されず、例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱タンパク質ラテックス、及びこれらを組み合せたもの等を用いることができる。
【0023】
上記天然ゴムラテックスに添加される極性基含有単量体は、分子内に少なくとも一つの極性基を有し、天然ゴム分子とグラフト重合できる限り特に制限されるものでない。ここで、該極性基含有単量体は、天然ゴム分子とグラフト重合するために、分子内に炭素−炭素二重結合を有することが好ましく、極性基含有ビニル系単量体であることが好ましい。上記極性基の具体例としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、アルコキシシリル基、及びスズ含有基等を好適に挙げることができる。これら極性基を含有する単量体は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0024】
上記アミノ基を含有する単量体としては、1分子中に第1級、第2級及び第3級アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を含有する重合性単量体が挙げられ、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジオクチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-メチル-N-エチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のN,N-ジ置換アミノアルキル(メタ)アクリレートや、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジ置換アミノアルキル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0025】
上記ニトリル基を含有する単量体としては、(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。
【0026】
上記ヒドロキシル基を含有する単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は、例えば、2〜23である)のモノ(メタ)アクリレート類;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシル基含有不飽和アミド類;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、m-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、p-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、p-ビニルベンジルアルコール等のヒドロキシル基含有ビニル芳香族化合物類等が挙げられる。
【0027】
上記カルボキシル基を含有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラコン酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸類;フタル酸、コハク酸、アジピン酸等の非重合性多価カルボン酸と、(メタ)アリルアルコール、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和化合物とのモノエステルのような遊離カルボキシル基含有エステル類及びその塩等が挙げられ、これらの中でも、不飽和カルボン酸類が特に好ましい。
【0028】
上記エポキシ基を含有する単量体としては、(メタ)アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-オキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
上記含窒素複素環基を含有する単量体において、該含窒素複素環としては、ピロール、ヒスチジン、イミダゾール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミン等が挙げられる。なお、該含窒素複素環は、他のヘテロ原子を環中に含んでいてもよい。ここで、含窒素複素環基としてピリジル基を含有する単量体としては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、5-メチル-2-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン等のピリジル基含有ビニル化合物等が挙げられ、これらの中でも、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等が特に好ましい。
【0030】
上記アルコキシシリル基を含有する単量体としては、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメチルエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリプロポキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジプロポキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメチルプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルフェノキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジベンジロキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルベンジロキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、6-トリメトキシシリル-1,2-ヘキセン、p-トリメトキシシリルスチレン等が挙げられる。
【0031】
上記スズ含有基を有する単量体としては、アリルトリ-n-ブチルスズ、アリルトリメチルスズ、アリルトリフェニルスズ、アリルトリ-n-オクチルスズ、(メタ)アクリルオキシ-n-ブチルスズ、(メタ)アクリルオキシトリメチルスズ、(メタ)アクリルオキシトリフェニルスズ、(メタ)アクリルオキシ-n-オクチルスズ、ビニルトリ-n-ブチルスズ、ビニルトリメチルスズ、ビニルトリフェニルスズ、ビニルトリ-n-オクチルスズ等のスズ含有単量体を挙げることができる。
【0032】
上記極性基含有単量体を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子にグラフト重合させる場合は、上記極性基含有単量体の天然ゴム分子へのグラフト重合を、乳化重合で行う。ここで、該乳化重合においては、一般的に、天然ゴムラテックスに水及び必要に応じて乳化剤を加えた溶液中に、上記極性基含有単量体を加え、更に重合開始剤を加えて、所定の温度で撹拌して極性基含有単量体を重合させることが好ましい。なお、上記極性基含有単量体の天然ゴムラテックスへの添加においては、予め天然ゴムラテックス中に乳化剤を加えてもよいし、極性基含有単量体を乳化剤で乳化した後に天然ゴムラテックス中に加えてもよい。なお、天然ゴムラテックス及び/又は極性基含有単量体の乳化に使用できる乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0033】
上記重合開始剤としては、特に制限はなく、種々の乳化重合用の重合開始剤を用いることができ、その添加方法についても特に制限はない。一般に用いられる重合開始剤の例としては、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ヒドロクロライド、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。なお、重合温度を低下させるためには、レドックス系の重合開始剤を用いることが好ましい。かかるレドックス系重合開始剤において、過酸化物と組み合せる還元剤としては、例えば、テトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。レドックス系重合開始剤における過酸化物と還元剤との好ましい組み合せとしては、tert-ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミンとの組み合せ等が挙げられる。上記変性天然ゴムを用いて、ゴム組成物の加工性を低下させることなく低ロス性及び耐摩耗性を向上させるには、各天然ゴム分子に上記極性基含有単量体が少量且つ均一に導入されることが重要であるため、上記重合開始剤の添加量は、上記極性基含有単量体に対し1〜100 mol%の範囲が好ましく、10〜100 mol%の範囲が更に好ましい。
【0034】
上述した各成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜7時間反応させることで、天然ゴム分子に上記極性基含有単量体がグラフト共重合した変性天然ゴムラテックスが得られる。また、該変性天然ゴムラテックスを凝固させ、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて乾燥することで変性天然ゴムが得られる。ここで、変性天然ゴムラテックスを凝固するのに用いる凝固剤としては、特に限定されるものではないが、ギ酸、硫酸等の酸や、塩化ナトリウム等の塩が挙げられる。
【0035】
上記天然ゴムラテックスに添加されて、該天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に付加反応する極性基含有メルカプト化合物は、分子内に少なくとも一つのメルカプト基と該メルカプト基以外の極性基とを有する限り特に制限されるものでない。上記極性基の具体例としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基、合酸素複素環基、アルコキシシリル基、及びスズ含有基等を好適に挙げることができる。これら極性基を含有するメルカプト化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0036】
上記アミノ基を含有するメルカプト化合物としては、1分子中に第1級、第2級及び第3級アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を有するメルカプト化合物が挙げられる。該アミノ基を有するメルカプト化合物の中でも、第3級アミノ基含有メルカプト化合物が特に好ましい。ここで、第1級アミノ基含有メルカプト化合物としては、4-メルカプトアニリン、2-メルカプトエチルアミン、2-メルカプトプロピルアミン、3-メルカプトプロピルアミン、2-メルカプトブチルアミン、3-メルカプトブチルアミン、4-メルカプトブチルアミン等が挙げられる。また、第2級アミノ基含有メルカプト化合物としては、N-メチルアミノエタンチオール、N-エチルアミノエタンチオール、N-メチルアミノプロパンチオール、N-エチルアミノプロパンチオール、N-メチルアミノブタンチオール、N-エチルアミノブタンチオール等が挙げられる。更に、第3級アミノ基含有メルカプト化合物としては、N,N-ジメチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオール、N,N-ジメチルアミノプロパンチオール、N,N-ジエチルアミノプロパンチオール、N,N-ジメチルアミノブタンチオール、N,N-ジエチルアミノブタンチオール等のN,N-ジ置換アミノアルキルメルカプタン等が挙げられる。これらアミノ基含有メルカプト化合物の中でも、2-メルカプトエチルアミン及びN,N-ジメチルアミノエタンチオール等が好ましい。
【0037】
上記ニトリル基を有するメルカプト化合物としては、2-メルカプトプロパンニトリル、3-メルカプトプロパンニトリル、2-メルカプトブタンニトリル、3-メルカプトブタンニトリル、4-メルカプトブタンニトリル等が挙げられる。
【0038】
上記ヒドロキシル基を含有するメルカプト化合物としては、1分子中に少なくとも1つの第1級、第2級又は第3級ヒドロキシル基を有するメルカプト化合物が挙げられる。該ヒドロキシル基含有メルカプト化合物の具体例としては、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1-プロパノール、3-メルカプト-2-プロパノール、4-メルカプト-1-ブタノール、4-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプト-1-ブタノール、3-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプト-1-ヘキサノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、2-メルカプトベンジルアルコール、2-メルカプトフェノール、4-メルカプトフェノール等が挙げられる。
【0039】
上記カルボキシル基を含有するメルカプト化合物としては、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、メルカプトマロン酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸等が挙げられ、これらの中でも、メルカプト酢酸等が好ましい。
【0040】
上記含窒素複素環基を含有するメルカプト化合物において、該含窒素複素環としては、ピロール、ヒスチジン、イミダゾール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミン等が挙げられる。なお、該含窒素複素環は、他のヘテロ原子を環中に含んでいてもよい。ここで、含窒素複素環基としてピリジル基を含有するメルカプト化合物としては、2-メルカプトピリジン、3-メルカプトピリジン、4-メルカプトピリジン、5-メチル-2-メルカプトピリジン、5-エチル-2-メルカプトピリジン等が挙げられ、また、他の含窒素複素環基を含有するメルカプト化合物としては、2-メルカプトピリミジン、2-メルカプト-5-メチルベンズイミダゾール、2-メルカプト-1-メチルイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトイミダゾール等が挙げられ、これらの中でも、2-メルカプトピリジン、4-メルカプトピリジン等が好ましい。
【0041】
上記アルコキシシリル基を含有するメルカプト化合物としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらの中でも、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が好ましい。
【0042】
上記スズ含有基を有するメルカプト化合物としては、2-メルカプトエチルトリ-n-ブチルスズ、2-メルカプトエチルトリメチルスズ、2-メルカプトエチルトリフェニルスズ、3-メルカプトプロピルトリ-n-ブチルスズ、3-メルカプトプロピルトリメチルスズ、3-メルカプトプロピルトリフェニルスズ等のスズ含有メルカプト化合物を挙げることができる。
【0043】
上記極性基含有メルカプト化合物を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に付加させる場合は、一般に、天然ゴムラテックスに水及び必要に応じて乳化剤を加えた溶液中に、上記極性基含有メルカプト化合物を加え、所定の温度で撹拌することで、上記極性基含有メルカプト化合物を天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子の主鎖の二重結合に付加反応させる。なお、上記極性基含有メルカプト化合物の天然ゴムラテックスヘの添加においては、予め天然ゴムラテックス中に乳化剤を加えてもよいし、極性基含有メルカプト化合物を乳化剤で乳化した後に天然ゴムラテックスに加えてもよい。また、必要に応じて、更に有機過酸化物を添加することもできる。なお、天然ゴムラテックス及び/又は極性基含有メルカプト化合物の乳化に使用できる乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0044】
ゴム組成物の加工性を低下させることなく低ロス性及び耐摩耗性を向上させるには、各天然ゴム分子に上記極性基含有メルカプト化合物が少量且つ均一に導入されることが重要であるため、上記変性反応は、撹拌しながら行うことが好ましく、例えば、天然ゴムラテックス及び極性基含有メルカプト化合物等の上記成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜24時間反応させることで、天然ゴム分子に上記極性基含有メルカプト化合物が付加した変性天然ゴムラテックスが得られる。
【0045】
上記天然ゴムラテックスに添加される極性基含有オレフィンは、分子内に少なくとも一つの極性基を有し、また、天然ゴム分子とクロスメタセシス反応するために炭素−炭素二重結合を有する。ここで、上記極性基の具体例としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、アルコキシシリル基、及びスズ含有基等を好適に挙げることができる。これら極性基含有オレフィンは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。なお、極性基含有オレフィンとしては、上述した極性基を含有する単量体の中から、炭素−炭素二重結合を有する化合物を適宜選択して使用することができる。
【0046】
メタセシス触媒によって天然ゴムラテックス中の天然ゴム分子に極性基含有オレフィンを反応させる場合は、一般に、天然ゴムラテックスに水及び必要に応じて乳化剤を加えた溶液中に、上記極性基含有オレフィンを加え、更にメタセシス触媒を加えて、所定の温度で撹拌して天然ゴム分子と極性基含有オレフィンをメタセシス反応させる。ここで、上記極性基含有オレフィンの天然ゴムラテックスへの添加においては、予め天然ゴムラテックス中に乳化剤を加えてもよいし、極性基含有オレフィンを乳化剤で乳化した後に天然ゴムラテックス中に加えてもよい。なお、天然ゴムラテックス及び/又は極性基含有オレフィンの乳化に使用できる乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0047】
上記メタセシス触媒としては、天然ゴム分子と上記極性基含有オレフィンとのメタセシス反応に対して触媒作用を有する限り特に制限されず、種々のメタセシス触媒を用いることができる。該メタセシス触媒は、遷移金属を含有するが、天然ゴムラテックス中で使用するため、水に対する安定性が高いことが好ましい。そのため、メタセシス触媒を構成する遷移金属は、ルテニウム、オスミウム及びイリジウムのいずれかであることが好ましい。上記メタセシス触媒として、具体的には、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロライド[RuCl2(=CHPh)(PCy3)2]の他、RuCl2(=CH−CH=CPh2)(PPh3)2、RuCl2(=CHPh)(PCp3)2、RuCl2(=CHPh)(PPh3)2、RuCl2(=CHPh)[Cy2PCH2CH2N(CH3)3+Cl]2等を挙げることができる。なお、化学式中、Cyはシクロヘキシル基を示し、Cpはシクロペンチル基を示す。上記メタセシス触媒の添加量は、上記極性基含有オレフィンに対し1〜500 mol%の範囲が好ましく、10〜100 mol%の範囲が更に好ましい。
【0048】
上述した各成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜24時間反応させることで、天然ゴム分子に上記極性基が導入された変性天然ゴムラテックスが得られる。
【0049】
また、原料として、天然ゴム、天然ゴムラテックス凝固物及び天然ゴムカップランプからなる群から選択される少なくとも一種の天然ゴム原材料を用いる場合は、極性基含有化合物を機械的せん断力を与えて、天然ゴム原材料にグラフト重合又は付加させることにより変性天然ゴムが得られる。
【0050】
上記天然ゴム原材料としては、乾燥後の各種固形天然ゴム、各種天然ゴムラテックス凝固物(アンスモークドシートを包含する)又は天然ゴムカップランプを用いることができ、これら天然ゴム原材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0051】
上記極性基含有化合物を天然ゴム原材料中の天然ゴム分子にグラフト重合させる場合、該極性基含有化合物は、分子内に炭素−炭素二重結合を有することが好ましく、極性基含有ビニル系単量体であることが好ましい。一方、極性基含有化合物を天然ゴム原材料中の天然ゴム分子に付加反応させる場合、該極性基含有化合物は、分子内にメルカプト基を有することが好ましく、極性基含有メルカプト化合物であることが好ましい。
【0052】
上記天然ゴム原材料と極性基含有化合物との混合物に機械的せん断力を与える手段としては、二軸押出混練装置及びドライプリブレーカーが好ましい。ここで、極性基含有化合物を天然ゴム原材料中の天然ゴム分子にグラフト重合させる場合は、上記機械的せん断力を与えられる装置内に天然ゴム原材料及び極性基含有化合物(好ましくは、極性基含有ビニル系単量体)と共に重合開始剤を投入し、機械的せん断力を与えることで、天然ゴム原材料中の天然ゴム分子に極性基含有化合物をグラフト重合により導入することができる。また、極性基含有化合物を天然ゴム原材料中の天然ゴム分子に付加反応させる場合は、上記機械的せん断力を与えられる装置内に天然ゴム原材料及び極性基含有化合物(好ましくは、極性基含有メルカプト化合物)を投入し、必要に応じて有機過酸化物等を更に投入して、機械的せん断力を与えることで、天然ゴム原材料中の天然ゴム分子の主鎖の二重結合に極性基含有化合物を付加反応させることができる。ここで使用する極性基含有化合物としては、上述した極性基含有単量体、極性基含有メルカプト化合物、極性基含有オレフィン等が挙げられる。
【0053】
上述した各成分を機械的せん断力を与えられる装置内に仕込み、機械的せん断力を与えることで、天然ゴム分子に上記極性基含有化合物がグラフト重合又は付加した変性天然ゴムが得られる。なお、この際、天然ゴム分子の変性反応を加温して行ってもよく、好ましくは30〜160℃、より好ましくは50〜130℃の温度で行うことで、十分な反応効率で変性天然ゴムを得ることができる。
【0054】
上記変性天然ゴムの極性基含有量は、変性天然ゴム中のゴム成分に対して0.001〜0.5 mmol/gの範囲が好ましく、0.002〜0.3 mmol/gの範囲が更に好ましく、0.003〜0.2 mmol/gの範囲がより一層好ましい。変性天然ゴムの極性基含有量が0.001 mmol/g未満では、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を十分に改良できないことがある。また、変性天然ゴムの極性基含有量が0.5 mmol/gを超えると、粘弾性、S−S特性(引張試験機における応力−歪曲線)等の天然ゴム本来の物理特性を大きく変えてしまい、天然ゴム本来の優れた物理特性が損なわれると共に、ゴム組成物の加工性が大幅に悪化するおそれがある。
【0055】
上記ゴム組成物のゴム成分は、上記変性天然ゴムの他に、天然ゴム(NR);ビニル芳香族炭化水素/共役ジエン共重合体、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム等の合成ゴム等を含んでもよい。なお、上記ゴム組成物のゴム成分は、低ロス化の観点から、上記変性天然ゴムを10質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことが更に好ましい。
【0056】
上記ゴム組成物には、加硫剤としての硫黄が上記ゴム成分100質量部に対し1〜10質量部、好ましくは3〜8質量部配合される。硫黄の配合量が1質量部未満では、例えば、スチールコードのコーティングゴムに用いた場合、スチールコードとの接着性が不十分であり、一方、10質量部を超えると、過剰な接着層が形成され接着性が低下する。
【0057】
上記ゴム組成物は、上記ゴム成分100質量部に対して、置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物を0.1〜10質量部含み、0.3〜6質量部含むことが好ましい。該置換ベンゼン環を含む化合物の配合量が0.1質量部未満では、耐湿熱接着性を向上させる効果が低く、一方、10質量部を超えると、該化合物がブルームし、接着性が低下する。
【0058】
上記ゴム組成物に配合される、置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物としては、(1)上記一般式(I)で表される化合物、(2)上記一般式(III)で表される化合物、並びに、(3)上記一般式(IV)で表される化合物が60〜100質量%、下記一般式(V)で表され且つn=2の化合物が0〜20質量%、下記一般式(V)で表され且つn=3の化合物が0〜10質量%及び下記一般式(V)で表され且つn=4〜6の化合物が合計で0〜10質量%からなる組成物が好ましい。上記置換ベンゼン環を含む化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
上記一般式(I)において、Xは、水酸基、カルボキシル基又は−COOCm2m+1であり、ここで、mは1〜5のいずれかの整数である。また、Yは、ベンゼン環の2-位,4-位,5-位及び6-位のいずれに結合していてもよく、水素、水酸基又は上記一般式(II)で表される置換基である。なお、式(II)において、Z1及びZ2は、それぞれ独立して水酸基、カルボキシル基又は−COOCq2q+1であり、ここで、qは1〜5のいずれかの整数であり、また、pは1〜7のいずれかの整数である。また、式(I)の化合物として、具体的には、レゾルシン、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0060】
上記一般式(III)において、Rは、炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表す。一般式(III)で表される化合物としては、例えば、上記一般式(IV)で表される化合物が挙げられる。一般式(IV)中のRは、一般式(III)中のRと同義である。
【0061】
ここで、炭素数1〜12の2価の脂肪族基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、ブチレン基、イソブチレン基、オクチレン基、2−エチルヘキシレン基等の直鎖または分岐鎖のアルキレン基、ビニレン基(エテニレン基)、ブテニレン基、オクテニレン基等の直鎖または分岐鎖のアルケニレン基、これらのアルキレン基又はアルケニレン基の水素原子がヒドロキシル基又はアミノ基等で置換されたアルキレン基またはアルケニレン基、シクロヘキシレン基等の脂環式基が挙げられる。また、2価の芳香族基としては、置換されていてもよいフェニレン基、置換されていてもよいナフチレン基等が挙げられる。これらの中でも入手の容易さ等を考慮すれば、炭素数2〜10のアルキレン基及びフェニレン基が好ましく、特にエチレン基、ブチレン基、オクチレン基及びフェニレン基が好ましい。
【0062】
上記一般式(III)の化合物の具体例としては、マロン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、コハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、フマル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、マレイン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、リンゴ酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、イタコン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、シトラコン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、酒石酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アゼライン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、セバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、シクロヘキサンジカルボン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、イソフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステルが好ましく、特にコハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、セバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、イソフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステルが好ましい。
【0063】
上記一般式(III)で表される化合物の製造法は特に限定されないが、例えば、下記一般式(VI):
【化6】

[式中、Rは炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表し、X'はハロゲン原子を表す]で表されるジカルボン酸ハライドと、下記一般式(VII):
【化7】

で表される化合物とを、塩基の存在下または非存在下で反応させて製造される。
【0064】
一般式(VI)中のRは、前記一般式(III)中のRと同義であり、X'はハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0065】
一般式(VI)で表される化合物としては、マロン酸ジクロライド、コハク酸ジクロライド、アジピン酸ジクロライド、アゼライン酸ジクロライド、セバシン酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、マロン酸ジブロマイド、コハク酸ジブロマイド、アジピン酸ジブロマイド、アゼライン酸ジブロマイド、セバシン酸ジブロマイド、テレフタル酸ジブロマイド、イソフタル酸ジブロマイド等が好ましい。一方、一般式(VII)で表される化合物としては、カテコール、レゾルシンおよびハイドロキノンが挙げられる。
【0066】
一般式(VI)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる際に使用する塩基としては、通常、ピリジン、β−ピコリン、N−メチルモルホリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の有機塩基が用いられる。また、一般式(VI)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる際は、通常、一般式(VI)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とが1:4〜1:30のモル比となるように反応させる。なお、一般式(VI)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる際、原料を溶解させること等を目的として溶媒を用いる事ができる。溶媒としては、上述の有機塩基をそのまま溶媒として使用しても良いし、反応を阻害しない他の有機溶媒を用いても構わない。このような溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。また、一般式(VI)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる際の反応温度は、通常、-20℃〜120℃で行なわれる。
【0067】
前記の反応により得られる一般式(III)で表される化合物は、公知の方法により反応混合物から単離することができる。即ち、減圧蒸留等の操作により、反応に用いた有機塩基および一般式(VII)で表される化合物、反応に有機溶媒を使用した場合にはこの有機溶媒を留去し乾固させる方法、反応混合物に一般式(III)で表される化合物の貧溶媒を添加して再沈殿させる方法、反応混合液に水および水と混和しない有機溶媒を添加して有機層に抽出する方法等が挙げられる。また、場合によっては再結晶により精製しても良い。なお、前記一般式(III)で表される化合物の貧溶媒としては、通常、水が用いられる。また、上記水と混和しない有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類が用いられる。
【0068】
一般式(III)で表される化合物としてレゾルシンを用いた場合には、一般式(IV)で表される化合物を主成分とする、一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物とからなる組成物が得られる。なお、一般式(V)中のRは、一般式(III)中のRと同義であり、nは2〜6の整数を示す。
【0069】
例えば、前記の反応にレゾルシンを用いた場合に得られる一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物とからなる組成物中には、通常、一般式(IV)で表される化合物が60〜100質量%、一般式(V)におけるn=2の化合物が0〜20質量%、一般式(V)におけるn=3の化合物が0〜10質量%、一般式(V)におけるn=4〜6の化合物が合計で0〜10質量%程度含まれる。これらの比率は、一般式(VI)で表される化合物とレゾルシンのモル比を変化させる事でコントロール可能である。
【0070】
前記一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物とからなる組成物も前記一般式(III)で表される化合物の単離方法と同様の方法により、これらを含む反応混合物から単離することができる。
【0071】
一般式(IV)で表される化合物が60質量%以上である場合、ゴムと配合して接着した際の湿熱接着性が向上する。湿熱接着性向上の観点から判断すれば、より好ましくは一般式(IV)で表される化合物の含有量が70〜100質量%であり、更に好ましくは80〜100質量%である。
【0072】
上記ゴム組成物は、更に接着促進剤として有機酸コバルト塩を前記ゴム成分100質量部に対しコバルト量として0.03〜1質量部配合してなることが好ましい。有機酸コバルト塩の配合量がコバルト量として0.03質量部未満では、コーティングゴムとスチールコードとの接着性が充分でなく、1質量部を超えると、コーティングゴムの老化特性が悪化し過ぎる。該有機酸コバルト塩としては、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等が挙げられる。該有機酸コバルト塩は、有機酸の一部をホウ酸等で置き換えた複合塩でもよい。具体的には、マノボンド(商標:OMG製)が挙げられる。
【0073】
上記ゴム組成物は、更にカーボンブラック、シリカ等の充填剤を含むことが好ましい。なお、該充填剤の配合量は、特に限定されるものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部の範囲が好ましく、10〜70質量部の範囲が更に好ましい。充填剤の配合量が5質量部未満では、充分な補強性が得られない場合があり、100質量部を超えると、加工性が悪化する場合がある。
【0074】
上記ゴム組成物には、上記ゴム成分、硫黄、置換ベンゼン環を含む化合物、有機酸コバルト塩、充填剤の他、シリカ用のシランカップリング剤、加硫促進剤、アロマオイル等の軟化剤、ヘキサメチレンテトラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサメチレンメチルメラミン等のメトキシメチル化メラミン等のメチレン供与体、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤等のゴム業界で通常使用される配合剤を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0075】
上記ゴム組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、バンバリーミキサーやロール等を用いて、ゴム成分に、硫黄、上記置換ベンゼン環を有する化合物及び各種配合剤を練り込んで調製することができる。
【0076】
以下に図面を参照しながら、本発明の空気入りタイヤを更に詳しく説明する。図1は、本発明の空気入りタイヤの一例の断面図である。図中、1はトレッド部を、2はトレッド部1の側部から半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部を、そして3はサイドウォール部2の半径方向内端に連なるビード部をそれぞれ示す。
【0077】
ここでは、タイヤの骨格構造をなし、タイヤの上記各部1,2,3を補強するカーカス4を、一枚以上のカーカスプライにて構成するとともに、それぞれのビード部3に配設したそれぞれのビードコア5間にトロイダルに延びる本体部と、各ビードコア5の周りで、タイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部を有するものとする。図中のカーカス4は、一枚のカーカスプライよりなるが、本発明のタイヤにおいては、カーカスプライの枚数は複数であってもよい。
【0078】
また、図中6はベルトを示し、ベルト6は、カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配設した一枚以上のベルト層からなる。図中のベルト6は、二枚のベルト層よりなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルト層の枚数はこれに限られるものではない。
【0079】
この空気入りタイヤは、カーカス4及びベルト6の少なくとも一方がコーティングゴムで被覆したスチールコードの層を含む。即ち、カーカス4のカーカスプライの少なくとも一枚及び/又はベルト6のベルト層の少なくとも一層が、スチールコードの層であればよく、一枚以上のカーカスプライ及び一層以上のベルト層がスチールコードの層であってもよい。
【0080】
そしてここでは、カーカス4及びベルト6の少なくとも一方で、スチールコードを被覆するコーティングゴムに、上述した天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、硫黄1〜10質量部と、置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物0.1〜10質量部とを配合してなるゴム組成物を用いる。これにより、コーティングゴムの発熱性を悪化させること無く、スチールコードとコーティングゴムとの耐湿熱接着性を改善することができる。そのため、上記ゴム組成物をスチールコードのコーディングゴムに用いることで、スチールコードとコーティングゴムとの湿熱接着性を向上させ、タイヤの耐久性を大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
<変性天然ゴムの製造例1>
(天然ゴムラテックスの変性反応工程)
フィールドラテックスをラテックスセパレーター[斎藤遠心工業製]を用いて回転数7500 rpmで遠心分離して、乾燥ゴム濃度60%の濃縮ラテックスを得た。この濃縮ラテックス 1000 gを、撹拌機及び温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、予め10 mLの水と90 mgの乳化剤[エマルゲン1108,花王株式会社製]をN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート 3.0 gに加えて乳化したものを990 mLの水と共に添加し、これらを窒素置換しながら常温で30分間撹拌した。次に、重合開始剤としてtert-ブチルハイドロパーオキサイド 1.2 gとテトラエチレンペンタミン 1.2 gとを加え、40℃で30分間反応させることにより、変性天然ゴムラテックスを得た。
【0083】
(凝固及び乾燥工程)
上記変性天然ゴムラテックスにギ酸を加えpHを4.7に調整し、変性天然ゴムラテックスを凝固させた。このようにして得られた固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーに通してクラム化した後、熱風式乾燥機により110℃で210分間乾燥して変性天然ゴムAを得た。このようにして得られた変性天然ゴムAの質量から、単量体として加えたN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートの転化率が100%であることが確認された。また、該変性天然ゴムAを石油エーテルで抽出し、更にアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することによりホモポリマーの分離を試みたが、抽出物を分析したところホモポリマーは検出されず、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることが確認された。従って、得られた変性天然ゴムAの極性基含有量は、天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.027 mmol/gである。
【0084】
<変性天然ゴムの製造例2>
単量体としてN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート 3.0 gの代わりに、2-ヒドロキシエチルメタクリレート 2.1 gを加える以外は、上記製造例1と同様にして変性天然ゴムBを得た。また、変性天然ゴムAと同様にして、変性天然ゴムBを分析したところ、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることが確認された。従って、変性天然ゴムBの極性基含有量は、天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.027 mmol/gである。
【0085】
<変性天然ゴムの製造例3>
単量体としてN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート 3.0 gの代わりに、4-ビニルピリジン 1.7 gを加える以外は、上記製造例1と同様にして変性天然ゴムCを得た。また、変性天然ゴムAと同様にして、変性天然ゴムCを分析したところ、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることが確認された。従って、変性天然ゴムCの極性基含有量は、天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.027 mmol/gである。
【0086】
<変性天然ゴムの製造例4>
フィールドラテックスに水を添加して、乾燥ゴム濃度30%のラテックスを得た。このラテックス 2000 gを、撹拌機及び温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、予め10 mLの水と90 mgの乳化剤[エマルゲン1108,花王株式会社製]を2-メルカプトエチルアミン 1.2 gに加えて乳化したものを添加し、撹拌しながら60℃で8時間反応させることにより、変性天然ゴムラテックスDを得た。その後、製造例1と同様に凝固及び乾燥することにより変性天然ゴムDを得た。また、得られた変性天然ゴムDの極性基含有量を熱分解ガスクロマトグラフ−質量分析計を用いて分析したところ、天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.021 mmol/gであった。
【0087】
<変性天然ゴムの製造例5>
極性基含有メルカプト化合物として2-メルカプトエチルアミン 1.2 gの代わりに、2-メルカプトピリジン 1.8 gを加える以外は、上記製造例4と同様にして変性天然ゴムEを得た。また、得られた変性天然ゴムEの極性基含有量を熱分解ガスクロマトグラフ−質量分析計を用いて分析したところ、天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.022 mmol/gであった。
【0088】
<変性天然ゴムの製造例6>
上記濃縮ラテックス 1000 gを、撹拌機及び温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、予め10 mLの水と90 mgの乳化剤[エマルゲン1108,花王株式会社製]をN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート 3.0 gに加えて乳化したものを990 mLの水と共に添加し、これらを窒素置換しながら30分間撹拌した。次に、メタセシス触媒としてビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロライド 3.0 gを加え、40℃で7時間反応させることにより、変性天然ゴムラテックスFを得た。その後、製造例1と同様に凝固及び乾燥することにより変性天然ゴムFを得た。このようにして得られた変性天然ゴムFの質量から、添加したN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートの転化率が84%であることが確認された。また、該変性天然ゴムFを石油エーテルで抽出し、更にアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することにより天然ゴム分子に導入されていないオレフィン同士の反応物の分離を試みたところ、天然ゴム分子に導入されていないオレフィン同士の反応物が仕込みオレフィン量の6%検出された。従って、上記変性天然ゴムFの極性基含有量は、天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.021 mmol/gである。
【0089】
<変性天然ゴムの製造例7>
フィールドラテックスにギ酸を加えpHを4.7に調整し、該ラテックスを凝固させ、更に、得られた固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーに通してクラム化した。次に、得られた凝固物の乾燥ゴム含有量を求め、乾燥ゴム量換算で600 gの凝固物と、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート 3.0 gと、tert-ブチルハイドロパーオキサイド(t-BHPO)1.2 gとを混練機内で室温にて30 rpmで2分間練り込み、均一に分散させた。次に、得られた混合物にテトラエチレンペンタミン(TEPA)1.2 gを均一に加えながら、神戸製鋼製二軸混練押出機[同方向回転スクリュー径=30 mm, L/D=35, ベントホール3ヶ所]を用い、バレル温度120℃、回転数100 rpmで機械的せん断力を加えながら押し出すことにより、乾燥した変性天然ゴムGを得た。また、得られた変性天然ゴムGの質量から、単量体として加えたN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートの転化率は、83%であった。更に、該変性天然ゴムGを石油エーテルで抽出し、更にアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することによりホモポリマーの分離を試みたところ、ホモポリマーが仕込みモノマー量の7%検出された。従って、上記変性天然ゴムGの極性基含有量は、天然ゴム原材料中の固形ゴム成分に対して0.021 mmol/gである。
【0090】
<天然ゴムの製造例>
上記天然ゴムラテックスを変性反応工程を経ずに、直接、凝固及び乾燥させて天然ゴムHを調製した。
【0091】
<アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの製造例>
レゾルシン 330.6 g(3.0 mol)をピリジン 600.0 gに溶解した溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、これに塩化アジポイル54.9 g(0.30 mol)を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置して反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下に留去し、残留物に水 1200 gを加えて氷冷すると沈殿が析出した。析出した沈殿をろ過、水洗し、得られた湿体を減圧乾燥して、白色〜淡黄色の粉体 84 gを得た。この粉体を分取用装置を備えた液体クロマトグラフィーで下記の条件で処理し、主たる成分を含む溶離液を分取した。この溶離液を濃縮し、析出した結晶をろ過して回収し、減圧乾燥して融点140〜143℃の結晶を得た。分析の結果、この結晶はアジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルであった。
【0092】
分取用のHPLC条件は下記の通りである。
カラム :Shim-pack PREP−ODS(島津製作所製)
カラム温度 :25℃
溶離液 :メタノール/水混合溶剤(85/15(w/w%))
溶離液の流速:流量 3 ml/分
検出器 :UV検出器(254 nm)
【0093】
尚、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの同定データは下記の通りである。
MSスペクトルデータ
EI(Pos.) m/z=330
IRスペクトルデータ
3436 cm-1 : 水酸基
2936 cm-1 : アルキル
1739 cm-1 : エステル
NMRスペクトルデータを表1−1および表1−2に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
(実施例1〜9及び比較例1〜5)
上記変性天然ゴム又は天然ゴムをゴム成分とし、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、レゾルシン又はRF樹脂を供試化合物として2200mLのバンバリーミキサーを使用して、表2及び3に示すゴム配合処方で混練り混合して、未加硫のゴム組成物を調製し、以下の方法でムーニー粘度、引張強さ、tanδ、配合直後の接着性及び配合ゴム放置後の接着性を測定、評価した。結果を表2及び3に示す。
【0096】
(1)ムーニー粘度
JIS K6300−1:2001に準拠して、ムーニー粘度ML1+4(130℃)を測定した。数値が小さい程、未加硫ゴム組成物の加工性が良好であることを示す。
【0097】
(2)引張強さ
上記ゴム組成物を160℃で15分間加硫して得た加硫ゴムに対し、JIS K6301-1995に準拠して引張試験を行い、引張強さ(TB)を測定した。引張強さが大きい程、耐破壊性が良好であることを示す。
【0098】
(3)tanδ
上記ゴム組成物を160℃で15分間加硫して得た加硫ゴムに対し、粘弾性測定装置[レオメトリックス社製]を用い、温度50℃、歪み5%、周波数15 Hzで損失正接(tanδ)を測定した。tanδが小さい程、低ロス性に優れることを示す。
【0099】
(4)接着試験
黄銅(Cu;63質量%、Zn;37質量%)メッキしたスチールコード(1×5構造、素線径0.25 mm)を12.5 mm間隔で平行に並べ、該スチールコードを上下両側から上記未加硫ゴム組成物でコーティングして、これを直ちに160℃で15分間加硫して、幅12.5 mmのサンプルを作製した。次に、ASTM−D−2229に準拠して、該サンプルのスチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、被覆率を0〜100%で表示して各接着性の指標とした。数値が大きい程、接着性が高く良好であることを示す。なお、初期接着性は、加硫直後に測定した結果であり、湿熱接着性は、加硫後、70℃、100%RH、4日間の湿熱条件下で老化させた後に測定した結果である。
【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
*1 N,N'-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド, 大内新興化学工業(株)製, 商品名:ノクセラーDZ.
*2 N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン, 大内新興化学工業(株)製, 商品名:ノクラック6C.
*3 OMG製, 商品名:マノボンドC22.5, コバルト含有率=22.5質量%.
*4 Indspec製, 商品名:B19S.
【0103】
実施例1〜9から明らかなように、天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムと置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物とを含むゴム組成物は、tanδが低く、低ロス性が改善されており、また、湿熱接着性も向上していた。
【0104】
一方、変性天然ゴムを含むものの、置換ベンゼン環を含む化合物を含まない比較例1のゴム組成物は、実施例に比べて湿熱接着性が著しく低く、更に、変性天然ゴムも、置換ベンゼン環を含む化合物も含まない比較例2のゴム組成物は、比較例1よりも湿熱接着性が低い上、tanδが高く、低ロス性が悪かった。また、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルを含むものの変性天然ゴムを含まない比較例3のゴム組成物は、実施例1及び4〜9に比べてtanδが高く低ロス性が悪く、レゾルシンを含むものの変性天然ゴムを含まない比較例4のゴム組成物は、実施例2に比べてtanδが高く低ロス性が悪く、RF樹脂を含むものの変性天然ゴムを含まない比較例5のゴム組成物は、実施例3に比べてtanδが高く低ロス性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一例の断面図である。
【符号の説明】
【0106】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス
5 ビードコア
6 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム分子中に極性基を含有する変性天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、硫黄1〜10質量部と、置換基として少なくとも1つの水酸基を有する2置換又は3置換ベンゼン環を含む化合物0.1〜10質量部とを配合してなるゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記置換ベンゼン環を含む化合物が下記一般式(I)で表されることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【化1】

[式中、Xは、水酸基、カルボキシル基又は−COOCm2m+1(ここで、mは1〜5のいずれかの整数である)であり;Yは、2-位,4-位,5-位又は6-位にあり、水素、水酸基又は下記一般式(II)で表される置換基である。]
【化2】

[式中、Z1及びZ2は、それぞれ独立して水酸基、カルボキシル基又は−COOCq2q+1(ここで、qは1〜5のいずれかの整数である)であり;pは、1〜7のいずれかの整数である。]
【請求項3】
前記置換ベンゼン環を含む化合物が下記一般式(III)で表されることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。


【化3】

[式中、Rは炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表す。]
【請求項4】
上記一般式(III)で表される化合物が下記一般式(IV)で表される化合物であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【化4】

[式中、Rは炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表す。]
【請求項5】
前記置換ベンゼン環を含む化合物は、上記一般式(IV)で表される化合物が60〜100質量%、下記一般式(V)で表され且つn=2の化合物が0〜20質量%、下記一般式(V)で表され且つn=3の化合物が0〜10質量%及び下記一般式(V)で表され且つn=4〜6の化合物が合計で0〜10質量%からなる組成物であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【化5】

[式中、Rは炭素数1〜12の2価の脂肪族基又は2価の芳香族基を表し、nは2〜6の整数を示す。]
【請求項6】
上記一般式(IV)中のRが炭素数2〜10のアルキレン基又はフェニレン基であることを特徴とする請求項4又は5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
上記一般式(IV)及び上記一般式(V)中のRが炭素数2〜10のアルキレン基又はフェニレン基であることを特徴とする請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ゴム組成物が、更に有機酸コバルト塩を前記ゴム成分100質量部に対しコバルト量として0.03〜1質量部含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記変性天然ゴムの極性基が、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、アルコキシシリル基及びスズ含有基からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記変性天然ゴムの極性基含有量が、変性天然ゴムのゴム成分に対して0.001〜0.5 mmol/gであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設した一枚以上のベルト層からなるベルトとを備え、該カーカス及びベルトの少なくとも一方がコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス及びベルトの少なくとも一方で、スチールコードを被覆するコーティングゴムに、前記ゴム組成物を用いたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−13266(P2009−13266A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175515(P2007−175515)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】