説明

空気入りタイヤ

【課題】耐久性および操縦安定性を向上し、同時に転がり抵抗を低減した空気入りタイヤ、特に乗用車用空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】キャップゴムとベースゴムよりなるトレッド部を有する乗用車用タイヤであって、前記ベースゴムは、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、キチン繊維および/またはキトサン繊維を5〜80質量部配合したゴム組成物であり、前記キチン繊維および/またはキトサン繊維の繊維径Dが100nm以下であり、繊維径Dと繊維長さLの比で表されるアスペクト比(L/D)が5以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐久性および操縦安定性を向上するとともに、転がり抵抗を低減した空気入りタイヤ、特に乗用車用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、整備された高速道路における車両の高速条件における乗用車用タイヤの基本的な要求特性として耐久性、操縦安定性の向上とともに、転がり抵抗の低減が重要となっている。
【0003】
従来、乗用車用タイヤの耐久性を維持しながら転がり抵抗を低減する技術として、トレッド部をキャップゴムとベースゴムに構成し、ベースゴムにカーボンブラックの充填量を少なくして、ゴム組成物のエネルギー損失を低減する方法がある。しかし、カーボンブラックの充填量を低減するとゴム組成物の硬度が低くなり、操縦安定性が低下することになる。
【0004】
特許文献1は、キャップゴムとベースゴムの二層構造のトレッド部を有するラジアルタイヤにおいて、キャップゴムのショアA硬度HCが55〜75、ベースゴムのショアA硬度HBが50〜80であって、0.9<HB/HC<1.2であり、前記ベースゴムには、ゴム分100重量部に対して、カーボンブラックを30〜70重量部、フェノール系合成樹脂を0.1〜10重量部配合することによって、トレッド部の偏摩耗および発熱を軽減し、耐久性を向上する技術が開示されている。
【0005】
この技術は、好ましくはキャップゴムよりも高い高度を有するベースゴムによりキャップゴムの変形を制限し、偏摩耗を軽減するものである。更に特許文献1の技術は、耐久性を改善するために、必要なベースゴムの物性として、ショアA硬度が考慮されているが、ゴムの粘弾性的性質には着目していないため、タイヤの操縦安定性は必ずしも十分とはいえない。
【0006】
特許文献2には、ヨウ素吸着量20〜50mg/gのカーボンブラックおよび反応性樹脂を配合したゴム組成物をベースゴムに用いることにより、耐セパレーション性、および走行末期の耐カット性を向上させる方法が提案されている。この方法ではベースゴムの発熱が抑えられるため、トレッド部とコード補強材との接着性を維持できるが、ゴム組成物の剛性およびエネルギー損失が考慮されておらず、タイヤの操縦安定性が充分ではない。
【0007】
特許文献3には、トレッド部とベース部よりなる産業車用ニューマチック型クッションタイヤにおいて、天然ゴムとスチレン含量が20〜50重量%のSBRよりなるゴム成分に対して、5〜15重量%のフェノールレジン、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを含み、JIS−Aスプリング硬さが85以上であるベースゴムを用いることによって、耐リムストリップ性能、縦剛性および横剛性を向上させる技術が開示されている。
【0008】
産業タイヤにおいては、高荷重下での使用に耐え得る物性の確保が重要であり、特許文献3の技術は、ベースゴムに高い剛性を持たせることで、耐リムスリップ性能を向上させるものである。
【0009】
一方、乗用車用タイヤにおいては、長期間の走行に耐え得る耐久性を確保するだけではなく、燃費を抑えるために走行時の転がり抵抗を低減させること、および十分な操縦安定性を有することも重要である。
【特許文献1】特開昭63−61602号公報
【特許文献2】特開平01−122706号公報
【特許文献3】特開平08−282206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は耐久性および操縦安定性を向上し、同時に転がり抵抗を低減した空気入りタイヤ、特に乗用車用空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はキャップゴムとベースゴムよりなるトレッド部を有する乗用車用タイヤであって、前記ベースゴムは、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、キチン繊維および/またはキトサン繊維を5〜80質量部配合したゴム組成物であり、前記キチン繊維および/またはキトサン繊維の繊維径Dが100nm以下であり、繊維径Dと繊維長さLの比で表されるアスペクト比(L/D)が5以上である前記空気入りタイヤである。
【0012】
本発明において、前記キチン繊維および/またはキトサン繊維の繊維径Dが50nm以下であり、繊維径Dと繊維長さLの比で表されるアスペクト比(L/D)が10以上であることが望ましい。またジエン系ゴム成分に対して、カーボンブラックが5〜65質量部配合されていることが望ましい。
【0013】
更に、前記ベースゴムのJIS−A硬度が55〜70であり、周波数10Hz、初期歪10%、動歪み2%で60℃において測定したtanδの値が0.05〜0.20であるり、25℃における、ベースゴムの体積(Vb)とキャップゴムの体積(Vc)の比(Vc/Vb)は60/40〜90/10の範囲であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明はトレッド部を構成するベースゴムにキチン繊維および/キトサン繊維を所定量配合したため、発熱性が軽減されベースゴムの剛性を高めることができ操縦特性を改善することができる。特にキチン繊維および/キトサン繊維は分子構造がアミノ多糖であるためゴム成分との相溶性が高くゴム複合体の補強効果は高い。しかもこれらの繊維はカーボンブラックに比較して比重が低いためタイヤの軽量化、即ち低燃費に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明はキャップゴムとベースゴムよりなるトレッド部を有する空気入りタイヤである。そして前記ベースゴムは、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、キチン繊維および/またはキトサン繊維を5〜80質量部配合したゴム組成物であり、前記キチン繊維および/またはキトサン繊維の繊維径Dが100nm以下であり、繊維径Dと繊維長さLの比で表されるアスペクト比(L/D)が5以上である。
【0016】
<ジエン系ゴム成分>
本発明においてジエン系ゴムは、天然ゴム、ブタジエンゴム、エポキシ化天然ゴム、脱蛋白天然ゴム、合成イソプレンゴム(IR)、低シスーポリブタジエンゴム(L−BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などがあげられ、これらのゴムは単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
特に、ジエン系ゴム成分に天然ゴムを20質量%以上、ブタジエンゴムを15質量%以上含んでいることが好ましい。天然ゴムおよびブタジエンゴムは、キチン繊維およびキトサン繊維との相溶性に優れ、その均一分散にも優れ、キチン繊維および/またはキトサン繊維の配合による補強が効果的に達成できる。特に、天然ゴムはジエン系ゴム成分の50質量%以上を含むことが好ましく、特に60質量%以上が好ましい。またポリブタジエンを20質量%以上が好ましい。またポリブタジエンは80質量%以下、特に50質量%以下含むことがより好ましい。
【0018】
ジエン系ゴムは、ラテックスあるいは固形ゴムの形態でキトサン繊維および/またはキサントン繊維と混合することができる。固形ゴムを用いてキチン繊維および/またはキトサン繊維と混合する場合は、二軸ローラーあるいはバンバリーミキサー等を用いてドライミキシングすることができる。一方、天然ゴムなどのラテックスを用いる場合は、天然ゴムラテックスなどにキチン繊維および/またはキトサン繊維の水分散体を混合することもできる。
【0019】
<キチン繊維および/またはキトサン繊維>
キチンはエビ、かになどの昆虫、貝、キノコなどに含まれる天然素材である。キチンは工業的にはエビ、カニの甲羅から分離される。その分子構造はN−アセチル−D−グルコサミンが鎖状に長くつながったアミノ多糖である。
【0020】
また、キトサンはキチンをアルカリで処理するとアセチル基が除かれ、主としてD−グルコサミン単位の割合は70−95%程度まであがり、酸の水溶液に溶けるようになる。
【0021】
キチンにはD−グルコサミン単位もある程度含まれている。キトサンの主な構成単位はD−グルコサミンであるが、N−アセチル−D−グルコサミンも含まれている場合もある。以下、本明細書においては酸性水溶液に溶けるものをキトサン、溶けないものをキチンとして説明する。
【0022】
なお本発明において、キチン、キトサンは、その誘導体を包含する概念であり、例えばキトサン誘導体として、カルボキシメチルキトサン(CM−CS)、キトサン−ヒドロキシベンゾトリアゾール(CS−HOBt)、キトサン−アセテート(CS−アセテート)、O−{(2−ジメチルアミノ)エールアミンキトサン}(DETNH−CS)、アイオード−キトサン(Iodo-CS)などが挙げられる。
【0023】
またキチン誘導体として、アセチル化キチン、ヒドロキシエチル化キチン(グリコールキチン)、カルボキシメチル化キチン、ジエチルアミノ化(DEAE)キチン、トシル化キチン、ベンゾイル化キチン、リン酸エステル化キチン、キチン−グラフト−ポリ(γ−メチル−グリタメート)が挙げられる。
【0024】
ジエン系ゴム成分100質量部に対して、キチン繊維および/またはキトサン繊維は5〜80質量部配合される。キチン繊維およびキトサン繊維をゴムに配合することで剛性を高めることができる。従来、カーボンブラックを配合することで、ゴムの剛性を高めていたが、カーボンブラックを多量に配合すれば、ゴム組成物のエネルギー損失が大きくなり、タイヤの転がり抵抗が悪くなる。キチ繊維ンまたはキトサン繊維を配合することで、ゴム組成物の剛性を高めることができるとともに、走行時のエネルギーロスが小さいため転がり抵抗は低減でき、摩擦による発熱の程度も小さい。またゴム組成物の剛性が高いため良好な操縦安定性を得ることもできる。
【0025】
キチン繊維および/またはキトサン繊維の配合量は上記観点から、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5〜60質量部、さらに15〜35質量部の範囲が好ましい。
【0026】
本発明においてキチン繊維および/またはキトサン繊維は、針状結晶であるキチンウイスカーあるいはキトサンウイスカーとして得られる。これらの繊維径Dは100nm以下、好ましくは50nm以下である。また繊維径Dと繊維長さLの比で表されるアスペクト比(L/D)は5以上、更に8以上であることが好ましい。繊維径Dを、100nm以下とすることで、ゴム中に微分散し、ゴムの補強を高める効果が得られる。またアスペクト比(L/D)を、5以上とすることで、繊維の配向方向に弾性を高めるとともに、非配向方向にはゴム組成物の柔軟性を維持する。
【0027】
アスペクト比(L/D)は、特に上限はないが、加工性及び分散性を改善する観点から、1000以下、さらに500以下、特に100以下が好ましい。
【0028】
本発明において補強剤としてカーボンブラックを配合することが好ましい。カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量が5質量部未満では、ゴム組成物の剛性が十分でない。また、カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、65質量部以下であり、60質量部以下であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量が65質量部以下とすることで、タイヤ走行時の摩擦による発熱でトレッドゴム組成物が劣化することを防止でき、エネルギー損失を小さくすることができ、転がり抵抗を低減することが可能となる。
【0029】
カーボンブラックのヨウ素吸着量は60〜220mg/gであることが好ましい。ヨウ素吸着量が60mg/g以上の場合、ゴム組成物の強度などの特性を向上でき、220mg/g以下の場合、摩擦によって生じる発熱を軽減することができる。
【0030】
窒素吸着比表面積(N2SA)は、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。窒素吸着比表面積(N2SA)が80m2/g未満では、グリップ性能および耐摩耗性が低下する傾向がある。また、窒素吸着比表面積(N2SA)は280m2/g以下であることが好ましく、200m2/g以下であることがより好ましい。窒素吸着比表面積(N2SA)が280m2/gを超えると、良好な分散が得られにくく、耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、窒素吸着比表面積(N2SA)は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される。
【0031】
<シリカ>
本発明において、シリカを配合することができ、その配合量はジエン系ゴム成分の100質量部に対して5質量部以上で150質量部以下で配合される。シリカの配合量が5質量部未満の場合、補強効果は十分でない。150質量部を超える場合、加工性および転がり抵抗が悪化する傾向にある。シリカは好ましくは、ゴム成分の100質量部に対して10質量部以上で120質量部以下で配合される。
【0032】
シリカは汎用ゴム一般に用いられるものを使用でき、たとえば補強材として使用される乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ等が挙げられる。中でも含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、たとえば100〜300m2/g、さらに120〜280m2/gの範囲内であることが好ましい。シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)が100m2/g未満の場合には補強効果が十分でない。一方、該窒素吸着比表面積が300m2/gを超えると、シリカの分散性が低下し、ゴム組成物の発熱が増大する傾向にある。
【0033】
ゴム組成物にシリカを配合する場合には、シラン系カップリング剤、好ましくは含硫黄シランカップリング剤を、通常ばシリカ質量に対して1質量%以上20質量%以下で配合する。シランカップリング剤を1質量%以上配合することでタイヤの耐摩耗性が向上し転がり抵抗の低減が達成できる。一方シランカップリング剤の配合量が20質量%以下の場合、ゴムの混練、押出工程での焼け(スコーチ)が生じる危険性が少ない。
【0034】
含硫黄シランカップリング剤としては、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が例示される。その他のシラン系カップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等を使用することができる。
【0035】
本発明では、用途に応じてその他のカップリング剤、例えばアルミネート系カップリング剤、チタン系カップリング剤を単独またはシラン系カップリング剤と併用して使用することも可能である。
【0036】
本発明においてベースゴム用ゴム組成物には、その他の補強用充填剤を含有することができる。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、アルミナ、タルクなど、従来タイヤ用ゴム組成物において慣用されるものであればとくに制限はない。これらの補強用充填剤は単独で用いても、2種類以上組合せて用いてもよい。
【0037】
ゴム組成物には、上記の他に加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化防止剤およびオゾン劣化防止剤等を添加することが好ましい。
【0038】
加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピールベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシロキサン、n−ブチル−4,4−ジ−t−ブチルパーオキシバレレートなどを使用することができる。
【0039】
これらの中で、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼンおよびジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば、硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0040】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つを含有するものを使用することが可能である。
【0041】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。
【0042】
軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、等が挙げられる。
【0043】
可塑剤としては、DMP(フタル酸ジメチル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DBP(フタル酸ジブチル)、DHP(フタル酸ジヘプチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DLP(フタル酸ジラウリル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、無水ヒドロフタル酸エステル、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、DBM(マレイン酸ジブチル)、DOM(マレイン酸−2−エチルヘキシル)、DBF(フマル酸ジブチル)等が挙げられる。
【0044】
<ベースゴム>
本発明は前述の配合剤で構成されたゴム組成物を乗用車用タイヤのベースゴムに用いるものである。ベースゴムのJIS−A硬度は、55〜70の範囲に調整されることが好ましい。JIS−A硬度を55以上とすることで、トレッドゴムの耐久性が向上し、70以下に設定することで、トレッドゴムの操縦安定性を高めるための適度の硬度となる。
【0045】
またベースゴムの損失正接(tanδ)の値を、0.05〜0.20、好ましくは0.10〜0.18に調整することが好ましい。ここでtanδは、粘弾性スペクトロメータにより、60℃の温度で周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み2%の条件で測定した値である。tanδの値を0.05以上とすることで、適度の粘性を有しキャップゴムとの接着性を保持することができる。
【0046】
一方、tanδの値を0.20以下とすることで、走行時でのエネルギー損失を小さくし転がり抵抗を低減できる。なお、tanδと同じ条件で測定されたベースゴムの複素弾性率(E*)は、3.0〜6.0MPaの範囲に調整されることが好ましい。
【0047】
<タイヤ>
本発明は前記ベースゴムをトレッド部に用いた空気入りタイヤある。前記各種配合薬品を配合したゴム組成物を未加硫の段階でタイヤの所定のベースゴムの形状に合わせて押し出し加工し、キャップゴムに貼り合わせる。これをせタイヤ成型機上にて通常の方法にて成形して未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを得る。
【0048】
図1は、本発明の空気入りタイヤの断面の右半分を示す。タイヤ1は、トレッド部7と、その両端からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部8と、各サイドウォール部の内方端に位置するビード部3およびリム上部に位置するチェーファー2とを備える。また両側のビード部3の間にはカーカス10が架け渡されるとともに、このカーカス10のタイヤ半径方向外側にブレーカー部9が配置されている。
【0049】
前記カーカス10は、カーカスコードを配列する1枚以上のカーカスプライから形成され、このカーカスプライは、トレッド部からサイドウォール部を経て、ビードコア4と、該ビードコア4の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス5との廻りをタイヤ軸方向の内側から外側に折返されて係止される。ブレーカー部9は、ブレーカーコードを配列した2枚以上のブレーカープライからなり、各ブレーカーコードがブレーカープライ間で交差するよう向きを違えて配置している。前記ブレーカー部の上側にはタイヤ走行時のブレーカー両端のリフチィングを軽減するため、バンド6が配置されている。本発明においてタイヤ用ゴム組成物は、トレッド部7に使用される。なお図1は乗用車用タイヤについて例示したが、トラックバスタイヤ、ライトトラック用タイヤ等にも適用できる。
【0050】
トレッド部7は、路面に接地する側に配置されるキャップゴム7cとブレーカー部9に隣接する側に配置されるベースゴム7bで構成されている。ここで、25℃における、ベースゴムの体積(Vb)とキャップゴムの体積(Vc)の比(Vc/Vb)は60/40〜90/10の範囲であることが望ましい。体積比を上記範囲に設定することで、キャップゴム7cの摩耗によるベースゴム7bの露出を少なくできるとともにベースゴムと特性をトレッド部に効果的に反映できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(1)実施例1
3gのキチン(アルドリッチ社製)を3Nの塩酸50gを加え、アスピレーターによる減圧下、室温で3時間放置して塩酸を浸透させる。そして105℃で6時間反応させる。この溶液を透析用のセルロースチューブに移し、脱イオン水で2日間透析する。ほとんどの水を減圧下で除去し、凍結乾燥することにより、白色針状結晶のキチンウイスカーを得た。キチンウイスカーの繊維径Dは40nmであり、アスペクト比(L/D)は5である。
【0053】
表1に示す配合剤のうちから硫黄および加硫促進剤を除いた成分を、上記キチンウイスカーとともに神戸製鋼(株)製1.7Lのバンバリーミキサーを用いて混練した。その後、硫黄、加硫促進剤を加え、二軸ローラにて更に練り込んだ。得られた混合物を175℃で10分間加硫し、ベースゴムを得た。なお、表1の配合において変量成分は、表2に示すとおりである。
【0054】
上記ゴム組成物の調整方法は、以下に説明する実施例2〜7、比較例1、2においても同じ方法を採用した。
【0055】
(2)実施例2
3gのキチンウイスカーに濃度40wt%の水酸化ナトリウム水溶液75gを加え、アスピレーターによる減圧下、室温で3時間放置して、アルカリを浸透させる。氷25gを加えて0℃で攪拌し、アルカリキチン水溶液を調整する。この溶液を透析用のセルロースチューブに移し、脱イオン水で2日間透析する。ほとんどの水を減圧下で除去し、凍結乾燥することにより、白色状結晶キトサンウイスカーを得た。キトサンウイスカーの繊維径Dは85nmであり、アスペクト比(L/D)は6である。
【0056】
(3)実施例3
CM−CS(カルボキシメチル−キトサン)ウイスカーは、文献;Chen,et al.,Carbohydrate Polymers 2003,53,355-359.の記載に基づき作製した。キトサンウイスカー1gを1NのNaOH水溶液10gに添加し、50℃で1時間放置する。その中にモノクロロ酢酸とイソプロパノールを5gずつ添加する。これを50℃で4時間放置し、70%エタノールにより反応を停止させる。真空乾燥後、CM−キトサンナトリウム塩ウイスカーを得た。CM−キトサンナトリウム塩ウイスカー0.5gにエタノール20gと2NのHClを1g添加した後、エタノールを除去してCM−CSウイスカー0.5gを得た。繊維径Dは80nmであり、アスペクト比(L/D)は6.5である。
【0057】
(4)実施例4
CM−HOBt(キトサン−ヒドロキシベンゾトリアゾール)ウイスカーは、文献;Fangkangwanwong,J.et al.,Biopolymers,2003 82(6),580-586.の記載に基づき作製した。
【0058】
つまり、CM−CSウイスカー1gと1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)2g、水10gを混合し、50℃で、24時間反応させることでCM−HOBtを得た。繊維径Dは75nmであり、アスペクト比(L/D)は6.0である。
【0059】
(5)実施例5
CS−アセテートウイスカーは、0.5gのキトサンウイスカーを10mlの10%希酢酸に溶解し、40〜50mlのメタノールで希釈した。これに2〜3倍モル量の無水酢酸を加え、室温で一晩置いてゲル状にした。生成物を300mlのメタノールに懸濁し、室温で一晩攪拌した。さらに蒸留水に懸濁して凍結乾燥した後、エーテルで洗うことにより単離された。五酸化二リンを用いて乾燥し、CS−アセテートウイスカーが92%の収率で得られた。元素分析、H−NMRで求めた置換度は1.0であった。繊維径Dは80nmであり、アスペクト比(L/D)は6.5である。
【0060】
(6)実施例6
DETNH−CS(O−(2−ジメチルアミノ)エチルアミン−キトサン)ウイスカーは、文献;Yoksan,R. et al.,Biomacromolecules 2001,2(3) 1038-1044 の記載に基づき作製した。繊維径Dは70nmであり、アスペクト比(L/D)は5.5である。
【0061】
(7)実施例7
Iodo−キトサン(Iodo-chitosan)ウイスカーは文献;Domard,A.,et al.,Int.J.Biol.Macromol.,1986,8,105-107.の記載に基づき作製した。繊維径Dは80nmであり、アスペクト比(L/D)は6.5である。
【0062】
(8)比較例1、2
表1に示す配合に基づき、上述の実施例の方法に準じてゴム組成物を調整した。
【0063】
(9)空気入りタイヤの作製
前記各未加硫ゴム組成物を所定形状のベースゴムを押し出し、予め成形したキャップゴムと貼り合わせてトレッドゴムを成形した。これを他のタイヤ部材とともに成形し、170℃で10分間プレス加硫し、図1に示す構造でタイヤ(サイズ185/70R14)を製造した。試作タイヤの基本構造は次のとおりである。
【0064】
カーカスプライ
コード角度 タイヤ周方向に90度
コード材料 ポリエステル:1670tex/2
ブレーカー
コード角度 タイヤ周方向に24度×24度
コード材料 スチールコード
また、キャップゴムに用いたゴム組成物の配合表は表3に示すとおりである。
【0065】
更に、ベースゴムの体積(Vb)とキャップゴムの体積(Vc)の比(Vc/Vb)の値は、70/30である。
【0066】
【表1】

【0067】
(注1)表1においてカーボンブラック(N330)のヨウ素吸着量は80mg/gであり、窒素吸着比表面積は280m2/gである。
【0068】
【表2】

【0069】
(注1)CM−CS:カルボキシメチル−キトサンウイスカー。
(注2)CM−HOBt:キトサン−ヒドロキシベンゾトリアゾールウイスカー。
(注3)CS−Acetate:CS−アセテートウイスカー。
(注4)DETNH−CS:O−(2−ジメチルアミノ)エチルアミン−キトサンウイスカー。
(注5)Iodo−CS:Iodo-キトサンウイスカー。
【0070】
【表3】

【0071】
加硫ゴムおよび試作タイヤの特性評価は以下の方法で行なった。
<硬度(JIS−A)>
上記ゴム組成物の加硫後のベースゴムをJIS−K6301に準じて25℃においてJIS−A硬度を測定した。
【0072】
<粘弾性特性>
上記ゴム組成物の加硫後のベースゴムをナイフでカットし、50mm×4mm×2.5mmの試験片に成形した。作製した試験片を岩本製作所(株)製の粘弾性スペクトロメーター「VES−F−3」を用いて、周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み2%で、60℃における複素弾性率(E*)と損失正接(tanδ)を測定した。
【0073】
<引張強度>
上記ゴム組成物の加硫後のベースゴムをJIS−K6251に準じて3号ダンベルを用いて引張試験を行ない、破断強度(TB)、破断伸び(EB)を測定した。
【0074】
<操縦安定性>
前述の試作タイヤ(185/70R14)について、乗用車に装着し気温25℃で実車走行し、ドライバーのフィーリングでハンドル応答性を評価した。比較例1の評価を6として相対評価をした。数値が大きい程、操縦安定性が優れていることを示す。
【0075】
<特性評価>
本発明の実施例1〜7は、ベースゴムにキチン繊維またはキトサン繊維を配合しているので、ベースゴムの強度および硬度が高くなり、またタイヤの操縦安定性が向上していることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明はトレッド部を構成するベースゴムにキチン繊維および/キトサン繊維を所定量配合したため、発熱性が軽減されベースゴムの剛性を高めることができ操縦特性を改善することができる。そして本発明は乗用車用タイヤのみならずトラックバスタイヤ、ライトトラック用タイヤ等の各種のカテゴリーのタイヤに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の空気入りタイヤの断面図の右半分を示す。
【符号の説明】
【0078】
1 タイヤ、2 チェーファー、3 ビード部、4 ビードコア、5 ビードエーペックス、6 バンド、7 トレッド部、8 サイドウオール部、9 ブレーカー部、10 カーカス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップゴムとベースゴムよりなるトレッド部を有する空気入りタイヤであって、前記ベースゴムは、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、キチン繊維および/またはキトサン繊維を5〜80質量部配合したゴム組成物であり、前記キチン繊維および/またはキトサン繊維の繊維径Dが100nm以下であり、繊維径Dと繊維長さLの比で表されるアスペクト比(L/D)が5以上である前記空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記キチン繊維および/またはキトサン繊維の繊維径Dが50nm以下であり、繊維径Dと繊維長さLの比で表されるアスペクト比(L/D)が10以上である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
ジエン系ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックが5〜65質量部配合されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
ベースゴムのJIS−A硬度が55〜70であり、周波数10Hz、初期歪10%、動歪み2%で60℃において測定したtanδの値が0.05〜0.20である請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
25℃における、ベースゴムの体積(Vb)とキャップゴムの体積(Vc)の比(Vc/Vb)は60/40〜90/10の範囲である請求項1に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−1672(P2009−1672A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163902(P2007−163902)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】