説明

空気入りタイヤ

【課題】空気入りタイヤの走行を開始した後、ラップスプライスされて形成されたインナーライナー層のスプライス部分付近においてクラックを発生することがなく、耐久性に優れた空気入りタイヤの製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートの端部をラップスプライスして環状に形成した後、タイヤの加硫成形工程に供して前記積層体シートからなるインナーライナー層を形成させる空気入りタイヤの製造方法において、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シートの少なくとも一方の端部を押し潰して端部の厚さを薄くしたものを用いて、前記ラップスプライスを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【0002】
更に詳しくは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートを所定長さで切断し、該シートの端部をラップスプライスして円筒状に形成し、さらに加硫成形を経て、該シートからインナーライナー層を形成させる空気入りタイヤの製造方法において、該空気入りタイヤの走行を開始した後、前記シート(インナーライナー層)のスプライス部付近においてクラックが発生することがなく、耐久性に優れた空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート状物を空気入りタイヤのインナーライナーに使用するという提案がされ、検討されている(特許文献1)。
【0004】
この熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート状物を、実際に空気入りタイヤのインナーライナーに使用するにあたっては、通常、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシートと、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシートと加硫接着されるゴム(タイゴム)シートの積層体シートを、タイヤ成形ドラムに巻き付けてラップスプライスして、タイヤの加硫成形工程に供するという製造手法がとられる。
【0005】
しかし、ロール状の巻き体をなして巻かれた、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物とタイゴム層とからなる積層体シートを、該ロール状巻き体から所要の長さ分を引き出して切断し、タイヤ成形ドラムに巻き付けて該ドラム上などにおいてラップスプライスし、更に加硫成形をしてタイヤを製造したとき、タイヤ走行開始後にインナーライナーを構成している熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシートと、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物のシートと加硫接着されたタイゴムシートとが剥離してしまう場合があった。
【0006】
これを図で説明すると、図3(a)に示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2とタイゴム層3とからなる積層体シート1は、刃物などで所要サイズ(長さ)に切断されて、タイヤ成形ドラム上にて、その両端部にラップスプライス部Sを設けて環状を成すようにしてスプライスされる。なお、該積層体シート1は、1枚の使用のときは、その両端部がスプライスされて環状を成すように形成され、あるいは複数枚の使用のときはそれら相互の端部同士がスプライスされて環状を成すように形成される。
【0007】
そして、更にタイヤの製造に必要なパーツ材(図示せず)が巻かれ、ブラダーで加硫成形される。加硫成形後においては、図3(b)にモデル図で示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2とタイゴム層3からなるインナーライナー層10が形成され、スプライス部S付近では、熱可塑性樹脂または上述の熱可塑性樹脂組成物からなるシート2が、露出している部分とタイゴム層の中に埋設している部分が形成されている。すなわち、スプライス部S付近では、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシート2が、タイゴムシートを挟んで2層存在している。
【0008】
そして、上述した熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物のシート2と加硫接着されたタイゴムシート3とが剥離してしまう現象は、特に、図3(b)で示した熱可塑性樹脂組成物のシート2が露出していてかつその先端部付近4などにおいて発生し、まずクラックが発生し、それがさらに進んでシートの剥離現象へと進行していく。
【0009】
この原因は、熱可塑性樹脂または上記熱可塑性樹脂組成物のシート2は、一般にゴムコンパウンドと比べると低伸張域のモジュラスが高く、特にスプライス部S付近で上述したようにタイゴムシートを挟んで2層存在していることにより他の部分に比較してスプライス部の剛性が高くなり、その剛性差が原因でクラックや剥離等が発生すると解されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−241855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートを所定長さで切断し、もしくは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを、それぞれ所定の長さに切断し、それらを積層した積層シートを、該積層体シートの端部をラップスプライスして環状を形成させ、さらに加硫成形を経て、該積層体シートからインナーライナー層を形成させる空気入りタイヤの製造方法において、該空気入りタイヤの走行を開始した後、前記ラップスプライスされた積層体シート(インナーライナー層)のスプライス部分付近においてクラックを発生することがなく、耐久性に優れた空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤの製造方法は、以下の(1)の構成を有する。
(1)熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートの端部をラップスプライスして環状に形成した後、タイヤの加硫成形工程に供して前記積層体シートからなるインナーライナー層を形成させる空気入りタイヤの製造方法において、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シートの少なくとも一方の端部を押し潰して該端部の厚さを薄くしたものを用いて、前記ラップスプライスを行うことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【0013】
また、かかる本発明の空気入りタイヤの製造方法において、以下の(2)〜(18)のいずれかの構成からなることがより好ましい。
(2)前記インナーライナー層が、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートから構成され、かつ、該エラストマーが分散相、該熱可塑性樹脂が連続相を成して該熱可塑性樹脂組成物が形成されていることを特徴とする上記(1)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(3)前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シートの少なくとも一方の端部を潰して厚さを薄くするのに際して、潰す前の厚さに対して30%〜70%の厚さに潰すことを特徴とする上記(1)1または(2)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(4)前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シートの少なくとも一方の端部を潰して厚さを薄くするのに際して、該端部を2枚の板状物で挟むことにより該端部を潰して厚さを薄くすることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(5)前記2枚の板状物で挟むに際して、挟み角度θが5〜80°で挟むことを特徴とする上記(4)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(6)挟み角度θが20°〜45°で挟むことを特徴とする上記(5)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(7)挟まれるシートが、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートであるとき、前記挟み角度θのうち、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート側の角度θ1と、前記加硫接着するゴム側の角度θ2とが、θ1>θ2の関係を満足するようにして前記積層体シートを挟むことを特徴とする上記(4)、(5)または(6)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(8)挟まれるシートが、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートであるとき、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート側と接触する側の板状物を、シート長手方向に該シート先端側に向かってスライドしながら挟むようにしたことを特徴とする上記(4)、(5)、(6)または(7)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(9)挟まれるシートが、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートであるとき、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート側と接触する側の板状物を加熱状態にして挟むようにしたことを特徴とする上記(4)、(5)、(6)、(7)または(8)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(10)前記板状物の加熱状態が70℃〜180℃であることを特徴とする上記(9)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(11)熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートの両端部のうち、該シートがラップスプライスされて環状に形成されたときにタイヤ最内面に位置する側の端部だけに、該端部の厚さを薄くする端部潰しを行うことを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(12)前記エラストマーをブレンドした前記熱可塑性樹脂組成物中の該エラストマーの体積率が、55〜85体積%であるものを用いることを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(13)前記エラストマーの50重量%以上が、ハロゲン化ブチルゴムまたは臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合ゴムまたは無水マレイン酸変性エチレンαオレフィン共重合ゴムであることを特徴とする上記(1)〜(12)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(14)前記熱可塑性樹脂組成物中の前記熱可塑性樹脂の50重量%以上が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン6/10共重合体、ナイロン4/6共重合体、ナイロン6/66/12共重合体、芳香族ナイロン、およびエチレン/ビニルアルコール共重合体のいずれかであることを特徴とする上記(1)〜(13)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(15)前記熱可塑性樹脂組成物中の前記エラストマーとして、動的架橋をされてなるものを用いることを特徴とする上記(1)〜(14)のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
(16)前記ゴムが、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよびブチルゴムのいずれか1種または複数種をポリマー中の主成分とするタイゴムシートであることを特徴とする上記(1)〜(15)記載の空気入りタイヤの製造方法。
(17)前記タイゴムシートが接着性ゴムからなり、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと前記タイゴムシートとが接着層を介さず直接積層されてなることを特徴とする上記(16)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(18)前記タイゴムシートが接着性ゴムからなり、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと前記タイゴムシートとが接着層を介さず直接積層されてなり、かつ、前記タイゴムシートとカーカスとが接着層を介さず直接積層されてなることを特徴とする上記(16)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
請求項1にかかる本発明によれば、スプライス部を構成することになる熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートの切断された端部を、該切断後に、押し潰して該部分の厚みを低下させることによって、スプライス部の剛性を著しく低減させることができ、スプライス部付近におけるクラックや剥離の発生を防止できるので、空気入りタイヤの耐久性を向上させることができる。
【0015】
請求項2〜請求項18のいずれかにかかる本発明の空気入りタイヤの製造方法によれば、より高い効果でかつ確実に請求項1にかかる本発明の効果を有する空気入りタイヤの製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は、所定長さで切断がされた、かつ、先端が押し潰されて厚みが薄くされた熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴム3を積層した積層体シート1を、タイヤ成形ドラムに巻き付けて、該積層体シート1の両端部をラップスプライスした状態を示すモデル図であり、(b)は、(a)に示した状態で加硫成形した後の状態を示したモデル図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は、いずれも本発明の方法にかかるシート端部の押し潰し方の態様例をモデル的に示したものである。
【図3】(a)は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、該熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴム3が積層された積層体シート1を所定長さで切断し、タイヤ成形ドラムに巻き付けて、該積層体シート1の両端部をラップスプライス方式により繋ぎ合わせた状態を示すモデル図であり、(b)は、(a)に示した状態で加硫成形した後の状態を示したモデル図である。
【図4】本発明の空気入りタイヤの製造方法により得られる空気入りタイヤの形態の1例を示した一部破砕斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面などを引用しながら、更に詳しく本発明の空気入りタイヤの製造方法について、説明する。
【0018】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムシート3を積層した積層体シート1の端部をラップスプライスして環状に形成した後、タイヤの加硫成形工程に供して前記積層体シートからなるインナーライナー層を形成させる空気入りタイヤの製造方法において、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シート2の少なくとも一方の端部を押し潰して該端部の厚さを薄くしたものを用いて、前記ラップスプライスを行うことを特徴とする。
【0019】
このラップスプライスをした状態を図1(a)に示した。図1では、ラップスプライスされる両方の端部5を押し潰して本発明方法を実施している例をモデル的に示している。押し潰された端部5は、図1で斜線で示した領域である。図1(b)は(a)に示した状態で加硫成形した後の状態を示したモデル図であり、図3(b)に対応する。
【0020】
本発明の方法によれば、前記シート2の少なくとも一方の端部を押し潰して該端部の厚さを薄くしているので、スプライス部S付近での剛性を著しく低減することができ、このため剛性差に基づくクラック、剥離の発生が防止され、走行開始後のタイヤ耐久性を著しく向上させることができる。
【0021】
タイヤサイズにもよるが、一般的に、押し潰す部分の周方向長さは、ラップスプライスの重なり合う長さにほぼ等しいか、その0.5倍〜1.5程度の長さにするとよく、具体的には、5〜15mm程度とするのがよい。また、幅方向では、全幅にわたり押し潰して厚さを薄くするのがよく、部分的であれ、薄くされていない部分が存在することは好ましくない。特に、少なくとも図4に示したような繰り返し大きな負荷が加えられるショルダー部付近での該シート2の端部は押し潰して、本発明の効果を発揮させることがよい。
【0022】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2は、熱可塑性樹脂100%からなるものよりも、熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。特にエラストマーが分散相、熱可塑性樹脂が連続相を成してなる熱可塑性樹脂組成物から構成されてなるものを使用することが、疲労耐久性が高く、かつインナーライナー層として高い空気透過防止性が実現できる点で好ましい。疲労耐久性が低いと薄くしてもインナーライナー層自身が破壊し、機能を発揮できなくなることがあり、好ましくないからである。
【0023】
該シート2の少なくとも一方の端部を押し潰して厚さを薄くするのに際して、押し潰す前の厚さに対して30%〜70%の厚さに潰すことが好ましい。もし、片一方の端部だけを押し潰すというときは、極力、該一方の端部を、好ましくは50%以内、より好ましくは25%〜35%程度の厚さになるほどに押し潰すことが本発明の効果を得る上でよい。
【0024】
シートの端部を押し潰すための具体的手法としては、板状の装置でくさび状に挟んでプレスをすること、棒状のロール、コロ状のロール等を2本で一対のピンチロールとして、あるいは平板の上で一本を用いて、先端側に向けて移動させながらプレスをすることなどで行うことができる。なお、ここで、押し潰した後の厚さとは、シート端部厚みを、インナーライナー全体の平均厚みで除し、元厚みに対する厚さ比率として求められる値である。テーパー状のように徐々に薄くなっているときは、テーパー部と同じ長さの通常厚み部の断面積に対する低減率として求めた値とした。
【0025】
前記2枚の板状物で挟んで押し潰すに際しては、図2に示した挟み角度θが5〜80°で挟むことがよく、最も好ましくは挟み角度θが20°〜45°の範囲内で挟むことである。
【0026】
本発明において、該シート2の端部を押し潰してその部分の厚さを薄くするのは、該シートの単独の状態で行ってもよく、あるいは、タイゴムシート3と積層された積層体の状態で行ってもよい。
【0027】
挟まれるシートが、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、タイゴムシート3を積層した積層体シート1であるときは、前記挟み角度θのうち、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2側の角度θ1と、前記加硫接着するゴム側の角度θ2とが、θ1>θ2の関係を満足するように板状物6A、6Bの角度を設定して前記積層体シートを挟むと、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2をより効果的に押し潰すことができるので好ましいものであり、この状態を図2(a)にモデル的に示した。
【0028】
また、挟まれるシートが、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、タイゴムシート3を積層した積層体シート1であるとき、該熱可塑性樹脂組成物からなるシート2側と接触する側の板状物6Aを、シート長手方向に該シート先端側に向かってスライドしながら挟むようにすると先端に向かいスムーズに押し潰して該部分での厚みを薄くすることができるので好ましい。また、挟まれるシートが、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2と、タイゴムート3を積層した積層体シート1であるとき、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2側と接触する側の板状物6Aを加熱ヒーター7を内蔵するものにして該シート2側を加熱状態にして挟むようにして押し潰すことが、押し潰しを効果的に行うことができるので好ましい。この状態を図2(b)にモデル的に示した。板状物の加熱状態は、70℃〜180℃であるようにするのがよい。
【0029】
また、図2(c)は、板状物6A、6Bをその厚さ方向が積層体シート1の面方向と平行になるように配置し、かつ挟み角度θのうち、熱可塑性樹脂組成物からなるシート2側の角度θ1と、加硫接着するゴム側の角度θ2とが、θ1>θ2の関係を満たすようにして、さらに板状物6A、6Bを加熱ヒーター7を内蔵するものにして、該シート2側を特に大きな傾斜をもって押し潰す例を示したものである。
【0030】
また、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の両端部のうち、一方の端部にのみ押し潰しを行いたいときは、タイヤドラムに該シートを巻き付ける前に、該シート先端端部厚みを薄くする端部潰しを行い、その後、タイヤドラム上で環状に巻き付けることが好ましい。潰し加工を施した該シート端部は、タイヤドラム最内面に配置されることになるが、タイヤの内周面の表面に存在するシート2に対して押し潰し処理を行うことがより効果的だからである。
【0031】
図4は、本発明にかかる空気入りタイヤの形態の1例を示した一部破砕斜視図である。空気入りタイヤTは、トレッド部11の左右にサイドウォール部12とビード部13を連接するように設けている。そのタイヤ内側には、タイヤの骨格たるカーカス層14が、タイヤ幅方向には左右のビード13、13間に跨るように設けられている。トレッド部11に対応するカーカス層4の外周側にはスチールコードからなる2層のベルト層15が設けられている。矢印Xはタイヤ周方向を示している。カーカス層14の内側には、インナーライナー層10が配され、そのラップスプライス部Sがタイヤ幅方向に延びて存在している。
【0032】
本発明にかかる空気入りタイヤでは、タイヤ内周面上でこのラップスプライス部S付近で従来は生じやすかったクラックの発生、インナーライナー層10を形成している熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2とタイゴムシート3の間のクラックの発生、剥離の発生が抑制されて耐久性が著しく向上するものである。
【0033】
シート2は、前述したように、熱可塑性樹脂100%からなるものよりも熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物であることが好ましく、中でもエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物中の該エラストマーの体積率が、55〜85体積%であることが好ましい。55〜85体積%とすることにより、シート2の弾性率が下がってクラックの発生、剥離の発生の駆動力となる変形応力が小さくなることになり、より高度に本発明の効果を得ることができるからである。
【0034】
以下に、本発明で用いることのできる熱可塑性樹脂、エラストマーについて説明する。
【0035】
本発明で用いることのできる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(ETFE)〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0036】
また、本発明で使用できる熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂とエラストマーは、熱可塑性樹脂については上述のものを使用できる。エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0037】
特に、エラストマーの50重量%以上が、ハロゲン化ブチルゴムまたは臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合ゴムまたは無水マレイン酸変性エチレンαオレフィン共重合ゴムであることが、タイヤ走行時の動的耐久性の点で好ましい。
【0038】
また、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の50重量%以上が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン6/10共重合体、ナイロン4/6共重合体、ナイロン6/66/12共重合体、芳香族ナイロン、およびエチレン/ビニルアルコール共重合体のいずれかであることが、気体バリア性の点で好ましい。
【0039】
また、前記した特定の熱可塑性樹脂と前記した特定のエラストマーとの組合せでブレンドをするに際して、相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散層を形成しているエラストマーの粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方又は片方の構造を有する共重合体、あるいは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらはブレンドされる熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定されないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0040】
熱可塑性樹脂とエラストマーがブレンドされた熱可塑性樹脂組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよく、好ましい範囲は重量比で90/10〜15/85、さらに好ましくは45/55〜15/85である。
【0041】
本発明において、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物には、インナーライナーとしての必要特性を損なわない範囲で一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等を任意に配合することもできる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナーに十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果により十分なバリア性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができるものである。
【0042】
また、エラストマーは熱可塑性樹脂との混合の際、動的に加硫することもできる。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、添加するエラストマーの組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0043】
このように熱可塑性樹脂組成物中のエラストマーが動的加硫をされていることは、エラストマー配合量を最大化する効果があるとともに、成形または加硫等の熱によるモルフォロジー変化がなく、インナーライナー層として十分な耐久性、バリア性を実現できる点で好ましい。
【0044】
加硫剤としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。具体的には、イオン系加硫剤としては粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等を例示でき、例えば、0.5〜4phr〔本明細書において、「phr」は、エラストマー成分100重量部あたりの重量部をいう。以下、同じ。〕程度用いることができる。
【0045】
また、有機過酸化物系の加硫剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が例示され、例えば、1〜20phr程度用いることができる。
【0046】
更に、フェノール樹脂系の加硫剤としては、アルキルフェノール樹脂の臭素化物や、塩化スズ、クロロプレン等のハロゲンドナーとアルキルフェノール樹脂とを含有する混合架橋系等が例示でき、例えば、1〜20phr程度用いることができる。
【0047】
その他として、亜鉛華(5phr程度)、酸化マグネシウム(4phr程度) 、リサージ(10〜20phr程度)、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロソベンゼン(2〜10phr程度)、メチレンジアニリン(0.2〜10phr程度)が例示できる。
【0048】
また、必要に応じて、加硫促進剤を添加してもよい。加硫促進剤としては、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオ酸塩系、チオウレア系等の一般的な加硫促進剤を、例えば、0.5〜2phr程度用いることができる。
【0049】
具体的には、アルデヒド・アンモニア系加硫促進剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等、グアジニン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアジニン等、チアゾール系加硫促進剤としては、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)、2−メルカプトベンゾチアゾール及びそのZn塩、シクロヘキシルアミン塩等、スルフェンアミド系加硫促進剤としては、シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアマイド(CBS)、N−オキシジエチレンベンゾチアジル−2−スルフェンアマイド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアマイド、2−(チモルポリニルジチオ)ベンゾチアゾール等、チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジサルファイド(TMTD)、テトラエチルチウラムジサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラサルファイド等、ジチオ酸塩系加硫促進剤としては、Zn−ジメチルジチオカーバメート、Zn−ジエチルジチオカーバメート、Zn−ジ−n−ブチルジチオカーバメート、Zn−エチルフェニルジチオカーバメート、Te−ジエチルジチオカーバメート、Cu−ジメチルジチオカーバメート、Fe−ジメチルジチオカーバメート、ピペコリンピペコリルジチオカーバメート等、チオウレア系加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア等を挙げることができる。
【0050】
また、加硫促進助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、亜鉛華(5phr程度)、ステアリン酸やオレイン酸及びこれらのZn塩(2〜4phr程度)等が使用できる。
【0051】
熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、予め熱可塑性樹脂とエラストマー(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相(マトリックス)を形成する熱可塑性樹脂中に分散相(ドメイン)としてエラストマーを分散させることによる。エラストマーを加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマーを動的加硫させてもよい。また、熱可塑性樹脂またはエラストマーへの各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加してもよいし、混練の前に予め混合しておいてもよい。
【0052】
熱可塑性樹脂とエラストマーの混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が使用できる。中でも熱可塑性樹脂とエラストマーの混練およびエラストマーの動的加硫には、2軸混練押出機を使用するのが好ましい。更に、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であればよい。また、混練時の剪断速度は1000〜7500sec-1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で製作されたポリマー組成物は、射出成形、押出し成形等、通常の熱可塑性樹脂の成形方法によって所望の形状にすればよい。
【0053】
このようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナーに十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果により十分なバリア性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができる。
【0054】
熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマー組成物のヤング率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜500MPa、より好ましくは25〜250MPaにするとよい。
【0055】
また、タイゴムシートは、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよびブチルゴムのいずれか1種または複数種をポリマー中の主成分とするものを使用することが好ましい。さらに、タイゴムシートは接着性ゴムからなることがタイヤ製造工程上好ましく、その場合、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該タイゴムシートとが接着層を介さず直接積層されてなることが好ましい。そのように構成すると、熱可塑性樹脂組成物からなるシートとタイゴムシートを予め積層させておき、その後積層体スプライス部を重ね合わせて加硫するだけで接合することができるからである。さらにあるいは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該タイゴムシートとが接着層を介さず直接積層されていて、かつ、タイゴムシートとカーカスとが接着層を介さず直接積層されてなることが好ましい。そのように構成すると、タイゴムシートとカーカスを予め積層させた部材をスプライス接合することができるからである。
【実施例】
【0056】
以下、実施例などにより、本発明の空気入りタイヤの製造方法について具体的に説明する。なお、各試験タイヤの評価は、以下に記載の方法によった。
【0057】
〔評価方法〕
試験タイヤとして、195/65/R15サイズのタイヤを、表1に示したそれぞれのインナーライナー層の形成の仕方をして作成し、空気圧120kPa、−20℃雰囲気下で、4.8kNの荷重をかけて、金属ドラム上を30000kmまで走行させた。該走行後、インナーライナーを観察し、クラックが発生したものを不合格とした。
【0058】
〔従来例1、比較例1、同2、同3、実施例1、同2、同3、同4〕
従来例1
空気透過防止層としてブチルゴム層を用い、スプライスはその端部をカッターで切断したものを重ね合わせ、さらにタイゴムシートを積層し、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製し、さらに、加硫成形し、空気入りタイヤを作製した。
【0059】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したが異常はなかった。
【0060】
比較例1
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート(厚さ0.13mm)をカッターでタイヤの所定長さに切断し、それを成形ドラムに巻付け、スプライス(バットスプライス方式)のタイヤ内面側(成形ドラム側)を粘着性「テフロン」(登録商標)テープで固定し、その上に接着性タイゴムシートを巻付け、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製した。さらに、加硫成形し、空気入りタイヤを作製した。その際、加硫の熱と圧力で熱可塑性エラストマー組成物のスプライス部を融着させた。
【0061】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したところ、熱可塑性熱可塑性エラストマー組成物の融着部が150mm剥がれ、さらに50mm程度ゴムとも剥離した部分があって、三日月状にスプライスが大きく開いていた。評価は不合格だった。
【0062】
比較例2
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート(厚さ0.13mm)をカッターでタイヤの所定長さに切断し、それをラップスプライス方式で環状にし、スプライス部をヒートシーラー(出力2.7kW)で約3秒過熱して接合したものを成形ドラムに挿入し、その上に接着性タイゴムを巻き付け、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製した。さらに、加硫成形し、空気入りタイヤを作製した。
【0063】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したところ、熱可塑性樹脂組成物の融着部が二重(二層)になったスプライス部の脇に大きなクラック(最大80mm)が発生した。評価は不合格だった。
【0064】
比較例3
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート(厚さ0.13mm)と接着性タイゴムシートを積層した積層体をカッターでタイヤの所定長さに必要な分を切断し、それをラップスプライス方式で環状にし、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製し、さらに加硫成形し空気入りタイヤを作製した。
【0065】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したところ、インナーライナー層が二重(二層)になったスプライス部の脇に30mmのクラックが発生した。評価は不合格だった。
【0066】
実施例1
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート(厚さ0.13mm)と接着性タイゴムシートを積層した積層体をカッターでタイヤの所定長さに必要な分を切断し、さらにその両端部を二枚の板状物の面で挟み、押し潰して厚さを薄くした。挟み角度はθ=30°とし、押し潰し板は片側だけを150℃に加熱した。押し潰し加工後の厚みは、0.05mmであった。
【0067】
それをラップスプライス方式で環状にし、接着性タイゴムシートを積層し、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製し、さらに加硫成形し、空気入りタイヤを作製した。
【0068】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したところ、異常はなかった。評価は合格だった。
【0069】
実施例2
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート(厚さ0.13mm)と接着性タイゴムシートを積層した積層体をカッターでタイヤの所定長さに必要な分を切断し、さらにその両端部を2本で一対のロールをピンチローラ状にして使って押し潰して厚さを薄くした。ロールは180℃に加熱した。押し潰し加工後の厚みは、0.10mmであった。
【0070】
それをラップスプライス方式で環状にし、接着性タイゴムシートを積層し、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製し、さらに加硫成形し、空気入りタイヤを作製した。
【0071】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したところ、スプライス部の脇に10mm以下の非常に微小なクラックがわずかに見られたが合格レベルと認められ、評価は合格だった。
【0072】
実施例3
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート(厚さ0.13mm)と接着性タイゴムシートを積層した積層体をカッターでタイヤの所定長さに必要な分を切断し、さらにその両端部を2枚の板状物の辺で挟んで押し潰して厚さを薄くした。辺の部分はテーパー形状に斜めに加工を施し、熱可塑性樹脂組成物側が20°、タイゴムシート側が10°であった。板状物は150℃に加熱した。押し潰し加工後の厚みは、0.07mmであった。
【0073】
それをラップスプライス方式で環状にし、接着性タイゴムシートを積層し、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製し、さらに加硫成形し、空気入りタイヤを作製した。
【0074】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したところ異常はなく、評価は合格だった。
【0075】
実施例4
熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート(厚さ0.13mm)と接着性タイゴムシートを積層した積層体をカッターでタイヤの所定長さに必要な分を切断し、さらにその両端部をスプライスと平行方向に、接触部の厚みが約5mmである1枚の小型円盤状回転物を自由回転移動させて押し潰して厚さを薄くした。回転物は150℃に加熱した。押し潰し加工後の厚みは、0.11mmであった。
【0076】
それをラップスプライス方式で環状にし、接着性タイゴムシートを積層し、その後、カーカス等の必要部材を貼り合わせてグリーンタイヤを作製し、さらに加硫成形し、空気入りタイヤを作製した。
【0077】
所定の試験走行後、スプライス部を観察したところ、スプライス部の脇に10mm以下の非常に微小なクラックがわずかに見られたが合格レベルと認められ、評価は合格だった。
【符号の説明】
【0078】
1:積層体シート
2:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート
3:タイゴムシート
4:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなるシート2の先端部付近
5:押し潰されたシート2の先端部
6A、6B:押し潰し板
7:加熱ヒーター
10:インナーライナー層
11:トレッド部
12:サイドウォール部
13:ビード
14:カーカス層
15:ベルト層
S:スプライス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートの端部をラップスプライスして環状に形成した後、タイヤの加硫成形工程に供して前記積層体シートからなるインナーライナー層を形成させる空気入りタイヤの製造方法において、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シートの少なくとも一方の端部を押し潰して該端部の厚さを薄くしたものを用いて、前記ラップスプライスを行うことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記インナーライナー層が、前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートから構成され、かつ、該エラストマーが分散相、該熱可塑性樹脂が連続相を成して該熱可塑性樹脂組成物が形成されていることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シートの少なくとも一方の端部を潰して厚さを薄くするのに際して、潰す前の厚さに対して30%〜70%の厚さに潰すことを特徴とする請求項1または2記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなる前記シートの少なくとも一方の端部を潰して厚さを薄くするのに際して、該端部を2枚の板状物で挟むことにより該端部を潰して厚さを薄くすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記2枚の板状物で挟むに際して、挟み角度θが5〜80°で挟むことを特徴とする請求項4記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
挟み角度θが20°〜45°で挟むことを特徴とする請求項5記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
挟まれるシートが、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートであるとき、前記挟み角度θのうち、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート側の角度θ1と、前記加硫接着するゴム側の角度θ2とが、θ1>θ2の関係を満足するようにして前記積層体シートを挟むことを特徴とする請求項4、5または6記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
挟まれるシートが、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートであるとき、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート側と接触する側の板状物を、シート長手方向に該シート先端側に向かってスライドしながら挟むようにしたことを特徴とする請求項4、5、6または7記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
挟まれるシートが、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートであるとき、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート側と接触する側の板状物を加熱状態にして挟むようにしたことを特徴とする請求項4、5、6、7または8記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記板状物の加熱状態が70℃〜180℃であることを特徴とする請求項9記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートの両端部のうち、該シートがラップスプライスされて環状に形成されたときにタイヤ最内面に位置する側の端部だけに、該端部の厚さを薄くする端部潰しを行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記エラストマーをブレンドした前記熱可塑性樹脂組成物中の該エラストマーの体積率が、55〜85体積%であるものを用いることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
前記エラストマーの50重量%以上が、ハロゲン化ブチルゴムまたは臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合ゴムまたは無水マレイン酸変性エチレンαオレフィン共重合ゴムであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂組成物中の前記熱可塑性樹脂の50重量%以上が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン6/10共重合体、ナイロン4/6共重合体、ナイロン6/66/12共重合体、芳香族ナイロン、およびエチレン/ビニルアルコール共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂組成物中の前記エラストマーとして、動的架橋をされてなるものを用いることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項16】
前記ゴムが、天然ゴム、イソブレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよびブチルゴムのいずれか1種または複数種をポリマー中の主成分とするタイゴムシートであることを特徴とする請求項1〜15記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項17】
前記タイゴムシートが接着性ゴムからなり、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと前記タイゴムシートとが接着層を介さず直接積層されてなることを特徴とする請求項16に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項18】
前記タイゴムシートが接着性ゴムからなり、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと前記タイゴムシートとが接着層を介さず直接積層されてなり、かつ、前記タイゴムシートとカーカスとが接着層を介さず直接積層されてなることを特徴とする請求項16に記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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