説明

空気式紡績機

【課題】空気式精紡装置から巻取装置への糸送りに滑りがあると、空気式精紡装置で製造された紡績糸の品質が損なわれる。
【解決手段】スライバ1のドラフト装置4と、ドラフト装置4で延伸されたスライバ1より紡績糸2を製造する空気式精紡装置5と、紡績糸2をトラバースして巻取る巻取装置7と、空気式精紡装置5から巻取装置7へ紡績糸2をニップして送り出すデリベリローラ22およびニップローラ21を備える糸送り装置6と、を備える紡績機ユニット10であって、ニップローラ22は横断面が真円のゴムで形成されたローラであり、デリベリローラ21は、横断面が真円のローラに筋状の溝21aが、その軸方向に沿って平行に多数形成されてなる金属ローラとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気式紡績機において、紡績された糸を巻き取り部へ送出する糸送り手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スライバのドラフト装置と、前記ドラフト装置で延伸されたスライバより紡糸を行なう空気式精紡装置と、前記空気式精紡装置で製造された紡績糸の送り手段と、前記紡績糸の巻取装置と、を備える空気式紡績機が公知である(特許文献1)。
紡績糸の送り手段は、ラインシャフト(各錘の装置間で共用の駆動軸)に接続されて駆動される金属製のデリベリローラと、このデリベリローラに当接させる硬質ゴム製のニップローラと、から構成される。紡績糸は、デリベリローラおよびニップローラに挟み込まれてデリベリローラに摩擦接触した状態となり、このデリベリローラの駆動回転により、送り出される。
【特許文献1】特開2001−207343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のデリベリローラは、外周面が鏡面状に加工された金属ローラであるので、糸をニップしているとはいえ、摩擦接触による糸の保持が不完全であり、糸の滑りが発生する状態にあった。
ここで、デリベリローラより糸送り方向下流では、巻取装置により、糸がトラバースされてパッケージに巻き取られており、糸のテンションに変動が生じている。
このため、糸送り方向下流でのテンション変動が、糸送りに滑りの発生し得るデリベリローラを越えて上流側に伝搬して、空気式精紡装置の紡績ノズルを出た糸に悪影響が与えられてしまう。
【0004】
つまり、解決しようとする問題点は、空気式精紡装置から巻取装置への糸送りに滑りがあると、空気式精紡装置で製造された紡績糸の品質が損なわれる点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、
スライバのドラフト装置と、
前記ドラフト装置で延伸されたスライバより紡績糸を製造する空気式精紡装置と、
前記紡績糸をトラバースして巻取る巻取装置と、
前記空気式精紡装置から前記巻取装置へと前記紡績糸をニップして送り出す一対のローラを備える糸送り装置と、
を備える空気式紡績機であって、
前記一対のローラは、弾性体で形成される第一のローラと、弾性体もしくは剛体で形成される第二のローラと、からなるものとし、
前記第二のローラには、その外周面に凹凸が形成される、ものである。
【0007】
請求項2においては、
前記第二のローラに形成される凹凸は、
この第二のローラの軸方向に渡って、均一な密度で形成される、ものである。
【0008】
請求項3においては、
前記第二のローラに形成される凹凸は、
横断面が真円のローラに、
このローラの周方向と交わると共に、このローラの両端間に渡る筋状の溝を形成することで構成される、ものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、
前記糸送り装置による紡績糸の送り出しで滑りを生じることがなく、下流側の巻取装置でのテンション変動の影響が、前記糸送り装置を超えて上流側に伝搬しないので、空気式精紡装置で製造された紡績糸の品質が損なわれることが無い。
【0011】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、
紡績糸が、前記一対のローラ間のどの位置でニップされても、糸滑りに対する抵抗力が等しく得られるものとなる。
【0012】
請求項3においては、請求項1または請求項2の効果に加えて、
溝に紡績糸が落ち込むような不具合がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の空気式紡績機の四つの実施の形態を、図面を用いて説明する。
各実施の形態の相違は、デリベリローラの形状の相違のみであり、他の構成に関しては同一である。このデリベリローラは、ニップローラと協同することで、紡績糸をニップして送り出す手段を構成するものである。したがって、第一の実施の形態の説明においては、空気式紡績機全体の説明を行なうが、第二の実施の形態以降の説明においては、各実施の形態で互いに相違する部分であるデリベリローラについてのみ、説明するものとする。
また、各実施の形態は、一錘の紡績糸を製造する紡績機ユニットを多数並設してなる装置としているが、空気式精紡を利用して一錘の紡績糸を製造する装置自体を、空気式紡績機と称するものとしても、もちろん良い。
【0014】
図1を用いて、第一の実施の形態である空気式紡績機を説明する。
この空気式紡績機は、機台延出方向に沿って並設される紡績機ユニット10を多数備えている。この紡績機ユニット10は、一錘の紡績糸を製造する装置である。各紡績機ユニット10は、この並設方向に沿って延出するラインシャフト等を利用して、同一の駆動源により同時に駆動される。
各紡績機ユニット10には、スライバ1より紡績糸2が製造される経路(以下、製造経路)に沿って、製造経路の最上流位置のケンス3、ドラフト装置4、空気式精紡装置5、糸送り装置6、巻取装置7が順に配置されている。
【0015】
ケンス3は、スライバ1の供給源である。ドラフト装置4は、スライバ1をドラフト(延伸)して繊維束を引き揃える装置である。空気式精紡装置5は、ドラフト装置4で延伸されたスライバ1より紡績糸2を製造する装置である。糸送り装置6は、空気式精紡装置5で製造された紡績糸2を巻取装置7へ送り出す装置である。巻取装置7は、空気式精紡装置5で製造された紡績糸2を、ボビン15の軸方向にトラバースして巻き取ってパッケージ16を形成する装置である。
【0016】
前記ドラフト装置4は、本実施の形態では、スライバ1の搬送方向に沿う次の四組のローラ対、バックローラ対11、サードローラ対12、セカンドローラ対13、フロントローラ対14、を備える構成である。セカンドローラ対13の各ローラには、スライバ1のニップ領域を拡大するためのエプロンベルトが巻回されている。
【0017】
前記巻取装置7は、ボビン15外周上のパッケージ16を支持するクレードル(図示せず)と、パッケージ16を接触回転させるフリクションローラ17と、紡績糸2を案内する糸ガイド18をボビン15の軸方向で往復運動させる(トラバースさせる)トラバース装置(図示せず)と、を備えている。
【0018】
前記糸送り装置6は、紡績糸をニップして送り出す一対のローラ、デリベリローラ21およびニップローラ22を備えている。
デリベリローラ21は、多数の紡績機ユニット10間で共用の駆動軸とされるラインシャフト8に固設されており、駆動回転されるローラである。一方、ニップローラ22は、支持装置19に備えるアーム20により、デリベリローラ21に対して接触・離脱可能に支持されると共に、アーム20に回転自在に支持されている。
【0019】
デリベリローラ21は金属製のローラであり剛体である。一方、ニップローラ22は硬質ゴム製のローラであり、弾性体である。
このため、デリベリローラ21にニップローラ22を当接させることで、ニップローラ22は、デリベリローラ21との接触面が凹んだ状態で、面接触することになる。これに対して、両方のローラが共に剛体である場合は、どちらのローラの接触面も凹むことはないので、線接触となる。また、両方のローラが共に弾性体である場合は、どちらのローラの接触面も凹みうるので、面接触となる。
このように、糸送り手段となる一対のローラの少なくとも一方を、弾性体で形成することで、両ローラが面接触するようにして接触面積を(線接触の場合よりも)増大させ、送り出し対象の紡績糸2のニップによる保持をより確実としている。
なお、デリベリローラ21にニップローラ22を当接させる手段は、本実施の形態の場合、前記支持装置19である。
【0020】
図2に示すように、ニップローラ22は、その横断面形状が真円のローラである。
【0021】
図3を用いて、デリベリローラ21の形状を詳しく説明する。
デリベリローラ21の外周面には、デリベリローラ21の軸方向に沿って等間隔に筋状の溝21aが多数形成されている。各溝21aは、デリベリローラ21の一端面から他端面に渡って形成されている。デリベリローラ21の横断面形状は、真円の周上に等間隔に凹部(溝21aの横断面)が形成されてなる歯車状である。
つまり、デリベリローラ21の外周面は、溝21aに対して相対的に凸部となる真円部21b(外周面上で前記真円に対応する部位)と、前記凹部に対応する溝21aと、から構成される。
なお、各溝21aの形成方向は、デリベリローラ21の軸方向と平行である。
【0022】
図4に示すように、デリベリローラ21にニップローラ22を当接させることで、デリベリローラ21とニップローラ22との接触部Aにおいて、ニップローラ22の外周面は、前記真円部21bに面接触すると共に、前記溝部21a内に突出する形状に、弾性変形される。
【0023】
このため、デリベリローラ21とニップローラ22との接触部Aでは、デリベリローラ21とニップローラ22とが互いに噛み合う状態となり、この接触部Aでニップされる(挟まれる)紡績糸2は、波打つように折曲された状態で、デリベリローラ21とニップローラ22とに保持される。これに対して、横断面が共に真円となるデリベリローラ(金属ローラ)とニップローラ(ゴムローラ)とに紡績糸2が保持される場合は、その接触部でデリベリローラの外周面に沿ってニップローラが凹まされるだけであり、その接触部Aにニップされる紡績糸2の形状は、直線状もしくは円弧状である。
【0024】
このように、デリベリローラ21とニップローラ22とが互いに噛み合う領域(接触部A)で紡績糸2がニップされるため、糸送り方向における滑りに対する抵抗が高められることになる。
したがって、凹凸のあるデリベリローラ21と、弾性体のニップローラ22と、を紡績糸2の糸送り手段とすることで、滑りを生じることなく、紡績糸2を確実に保持した状態で送り出すことが可能となる。
【0025】
図5を用いて、デリベリローラ121(第二の実施の形態)を説明する。
前述したように、第二の実施の形態である空気式紡績機は、第一の実施の形態の空気式紡績機に対して、デリベリローラ21の形状が異なる点でのみ、相違する。
【0026】
図5に示すように、デリベリローラ121の外周面には、デリベリローラ121の軸方向に沿って等間隔に筋状の溝121aが多数形成されている。各溝121aは、デリベリローラ121の一端面から他端面に渡って形成されている。デリベリローラ121の横断面形状は、真円の周上に等間隔に凹部(溝121aの横断面)が形成されてなる歯車状である。
デリベリローラ121の外周面は、溝121aに対して相対的に凸部となる真円部121b(外周面上で前記真円に対応する部位)と、前記凹部に対応する溝121aと、から構成される。
なお、各溝121aの形成方向は、デリベリローラ121の軸方向に対して平行ではなく、若干傾いており、斜歯歯車状(ヘリカルギヤ状)である。また図示しないが螺旋状であってもよい。
【0027】
デリベリローラ121とニップローラ22とを紡績糸2の糸送り手段とする場合も、ニップ領域で、デリベリローラ121とニップローラ22とが互いに噛み合う状態となり、糸送り方向における糸の滑りに対する抵抗が高められることになる。
【0028】
また、デリベリローラ21やデリベリローラ121のように、ローラの外周面に筋状の溝を入れる構成において、側面視(ローラの径方向からの視点)で、溝の形状をV字状としてもよい。つまり、ローラの軸方向の左右において、左半分の部位に形成される斜め方向の平行溝と、右半分の部位に形成される斜め方向の平行溝とが、対称となる状態である。
このようなV字溝をローラに平行に形成することで、デリベリローラとニップローラとの接触圧が、ローラの軸方向の左右で均等となり、ゴム製のニップローラの耐久性向上に繋がる。
【0029】
図6を用いて、デリベリローラ221(第三の実施の形態)を説明する。
前述したように、第三の実施の形態である空気式紡績機は、第一の実施の形態の空気式紡績機に対して、デリベリローラ21の形状が異なる点でのみ、相違する。
【0030】
図6に示すように、デリベリローラ221の外周面には、粒状(水玉模様状)の凹部221aが多数形成されている。これらの凹部221a・221a・・・は、ローラの軸方向および周方向で、前記外周面のどの領域においても一定の密度となるように配置されている。デリベリローラ221の横断面形状は、真円の外周上に、等間隔に、凹部221aが形成されてなる歯車状である。
デリベリローラ221の外周面は、凹部221aに対して相対的に凸部となる真円部221b(外周面上で前記真円に対応する部位)と、前記凹部221aと、から構成される。
【0031】
デリベリローラ221とニップローラ22とを紡績糸2の糸送り手段とする場合も、ニップ領域で、デリベリローラ221とニップローラ22とが互いに噛み合う状態となり、糸送り方向における糸の滑りに対する抵抗が高められることになる。
【0032】
図7を用いて、デリベリローラ321(第四の実施の形態)を説明する。
前述したように、第四の実施の形態である空気式紡績機は、第一の実施の形態の空気式紡績機に対して、デリベリローラ21の形状が異なる点でのみ、相違する。
【0033】
図7に示すように、デリベリローラ321は、横断面が真円の本体ローラ323と、この本体ローラ323の外周上に貼り付けられるゴムベルト324と、からなる。
ゴムベルト324は筋状であって、本体ローラ323の外周上に、デリベリローラ121の軸方向に沿って等間隔に、貼り付けられている。各ゴムベルト324は、デリベリローラ321の一端面から他端面に渡る長さを有している。そして、デリベリローラ321の横断面形状は、真円の周上に等間隔に凸部(ゴムベルト324の横断面)が形成されてなる歯車状になっている。
デリベリローラ321の外周面は、ゴムベルト324に対して相対的に凹部となる真円部(本体ローラ323の露出部位)と、前記凸部に対応するゴムベルト324と、から構成される。
【0034】
ゴムベルト323をデリベリローラ321上に貼り付ける手段としては、例えば、両面に粘着剤の塗布されたテープ(両面テープ)などを用いるものとする。
また、本実施の形態(第四の実施の形態)では、横断面形状が真円である本体ローラ323の外周面上に、ゴムベルト324を貼り付ける構成としてるが、デリベリローラ21(第一の実施の形態)やデリベリローラ121(第二の実施の形態)に形成されている筋状の溝内に、ゴムベルト324を嵌め込むように構成しても良い。
【0035】
デリベリローラ321とニップローラ22とを紡績糸2の糸送り手段とする場合も、ニップ領域で、デリベリローラ321とニップローラ22とが互いに噛み合う状態となり、糸送り方向における糸の滑りに対する抵抗が高められることになる。
【0036】
次に、図8を用いて、デリベリローラの構成のみが異なる空気式紡績機で製造された紡績糸(綿100%)を、糸物性で比較した結果を説明する。
図8には、横方向最上列にデリベリローラの構成の別が列挙され、縦方向左端の列に、実験条件や糸物性の指標となる各項目が列挙されている。
デリベリローラの構成において、STDローラは、従来構成のデリベリローラ、つまり横断面が真円となる金属ローラを示している。筋(平行)ローラは、第一の実施の形態に備えるデリベリローラ21に対応するものであり、筋(斜)ローラは、第二の実施の形態に備えるデリベリローラ121に対応するものである。
【0037】
前記三種類のデリベリローラはいずれも直径が40mmである。より詳しくは、筋(平行)ローラおよび筋(斜)ローラにおいては、真円部の直径が40mmであり、溝部は、その内側に窪んだ部位となる。
筋(平行)ローラおよび筋(斜)ローラにおける歯数(溝部の個数)は、90となっている。前記デリベリローラ21・121は、図示の便宜上、本実験に用いたローラよりは、歯数を大幅に減らしているが、構成は同じである。
また、筋(平行)ローラの溝の形成方向は、ローラの軸方向と平行(傾斜0度)であるが、筋(斜)ローラにおける溝の形成方向(より正確には螺旋状となる溝の接線方向)は、ローラの軸方向に対して5度傾斜した方向となっている。
【0038】
実験条件であるフィード率(Feed.ratio)は、ドラフト装置4からのスライバ1の送り速度と、糸送り装置6での紡績糸2の送り速度との比、つまり前記フロントローラ対14での周速度と、デリベリローラの周速度の比を示している。
ここで、STDローラのフィード率は1.00であるが、送り対象の紡績糸の滑りが発生することが明らかであるので、この滑りの影響を考慮して、実質的なフィード率は、0.98を仮定している。一方、筋(平行)ローラおよび筋(斜)ローラにおいては、本空気式紡績機の使用条件下では滑りがないと見なされる。したがって、フィード率1.00の条件下におけるSTDローラと、フィード率0.98の条件下における筋(平行)ローラおよび筋(斜)ローラとで、比較を行なうものとしている。
なお、他の実験条件(ドラフト装置での送り速度や空気式精紡装置のノズル噴射速度等)については同一であるので、省略している。
【0039】
図8に示すように、筋(平行)ローラや筋(斜)ローラの場合、STDローラと比べて、糸強力(Strength)が若干増加、伸度(Elongation)が大幅に増加、均斉度(Evenness)が大幅に低下、毛玉発生(Nep)が低下、毛羽立ち(Hairiness)が低下、している。つまり、筋(平行)ローラや筋(斜)ローラの場合、従来のSTDローラと比べて、糸物性がどの項目においても、向上する結果となっている。
なお、糸物性の項目におけるCV(Coefficient of Variation)は、上段の項目の標準偏差の割合を示す量である。
【0040】
本発明の空気式紡績機をまとめる。
第一の発明たる空気式紡績機は、スライバのドラフト装置と、前記ドラフト装置で延伸されたスライバより紡績糸を製造する空気式精紡装置と、前記紡績糸をトラバースして巻取る巻取装置と、前記空気式精紡装置から前記巻取装置へと前記紡績糸をニップして送り出す一対のローラを備える糸送り装置と、を備えるものである。
加えて、前記一対のローラは、弾性体で形成される第一のローラと、弾性体もしくは剛体で形成される第二のローラと、からなるものとし、前記第二のローラには、その外周面に凹凸が形成されるものである。
【0041】
前記の各実施の形態では、前記第一のローラは硬質ゴム製のニップローラ22とし、前記第二のローラを次のように構成している。第一および第二の実施の形態に備えるデリベリローラ21・121は、横断面が真円の金属製のローラに、筋状の溝を形成したものである。第三の実施の形態に備えるデリベリローラ221は、横断面が真円の金属製のローラに、筋粒状の凹部を形成したものである。第四の実施の形態に備えるデリベリローラ321は、横断面が真円の金属製のローラ(本体ローラ323)に、別体の弾性体(ゴムベルト324)を貼り付けたものである。
【0042】
前記第二のローラは、その外周面に凹凸が形成されるものであれば、前記各実施の形態に限定されるものではない。
また、第二のローラの外周面に凹凸を形成するだけでなく、さらに、前記第一のローラの外周面に凹凸を形成するようにしても良い。
【0043】
以上構成により、紡績糸は、第一のローラと第二のローラとが噛み合う領域でニップされて、第一のローラと第二のローラとに保持され、糸送り方向における滑りに対する抵抗が高められることになる。
このため、前記糸送り装置による紡績糸の送り出しで滑りを生じることがなく、下流側の巻取装置でのテンション変動の影響が、前記糸送り装置を超えて上流側に伝搬しないので、空気式精紡装置で製造された紡績糸の品質が損なわれることが無い。
【0044】
第二の発明たる空気式紡績機は、第一の発明において、次の構成としたものである。
前記第二のローラに形成される凹凸は、この第二のローラの軸方向に渡って、均一な密度で形成される、ものである。
【0045】
第一および第二の実施の形態に備えるデリベリローラ21・121には、前記凹部となる筋状の溝が、ローラの一端面から他端面に渡って形成され、ローラの軸方向で凹部の密度が均一である。また、これらの溝は周方向で平行に形成されているので、ローラの周方向でも凹部の密度が均一である。
第三の実施の形態に備えるデリベリローラ221には、前記凹部となる粒状の凹部221aが、ローラの軸方向及び周方向で均一の密度となるように形成されている。
第四の実施の形態に備えるデリベリローラ321には、前記凸部となるゴムベルト324が、ローラの一端面から他端面に渡って形成され、ローラの軸方向で凹部の密度が均一である。また、これらのゴムベルト324は周方向で平行に配置されているので、ローラの周方向でも凸部の密度が均一である。
【0046】
以上構成により、前記一対のローラ同士の噛み合いは、ローラの軸方向のどの位置でも均一となる。
したがって、紡績糸が、前記一対のローラ間のどの位置でニップされても、糸滑りに対する抵抗力が等しく得られるものとなる。
【0047】
第三の発明たる空気式紡績機は、第一の発明において、次の構成としたものである。
前記第二のローラに形成される凹凸は、横断面が真円のローラに、このローラの周方向と交わると共に、このローラの両端間に渡る筋状の溝を形成することで構成されるものである。
【0048】
第一および第二の実施の形態に備えるデリベリローラ21・121には、前記凹部となる筋状の溝が、ローラの一端面から他端面に渡って形成され、これらの溝が、ローラの周方向に対して交わるものとなっている。
【0049】
以上構成により、紡績糸の糸送り方向と、溝の形成方向とが交わるものとなる。
このため、溝に紡績糸が落ち込むような不具合がない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第一の実施の形態の空気式紡績機を示す斜視図。
【図2】ニップローラを示すニ面図であり、(a)図は横断面図、(b)図は側面図である。
【図3】第一の実施の形態のデリベリローラを示すニ面図であり、(a)図は横断面図、(b)図は側面図である。
【図4】ニップローラとデリベリローラとの接触部を示す横断面図である。
【図5】第二の実施の形態のデリベリローラを示すニ面図であり、(a)図は横断面図、(b)図は側面図である。
【図6】第三の実施の形態のデリベリローラを示すニ面図であり、(a)図は横断面図、(b)図は側面図である。
【図7】第四の実施の形態のデリベリローラを示すニ面図であり、(a)図は横断面図、(b)図は側面図である。
【図8】従来および本発明のデリベリローラを用いた空気式紡績機により製造された糸物性の比較実験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0051】
1 スライバ
2 紡績糸
4 ドラフト装置
6 糸送り装置
7 巻取装置
21・121・221・321 デリベリローラ(第二のローラ)
22 ニップローラ(第一のローラ)
323 本体ローラ(剛体ローラ)
324 ゴムベルト(弾性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライバのドラフト装置と、
前記ドラフト装置で延伸されたスライバより紡績糸を製造する空気式精紡装置と、
前記紡績糸をトラバースして巻取る巻取装置と、
前記空気式精紡装置から前記巻取装置へと前記紡績糸をニップして送り出す一対のローラを備える糸送り装置と、
を備える空気式紡績機であって、
前記一対のローラは、弾性体で形成される第一のローラと、弾性体もしくは剛体で形成される第二のローラと、からなるものとし、
前記第二のローラには、その外周面に凹凸が形成される、
ことを特徴とする空気式紡績機。
【請求項2】
前記第二のローラに形成される凹凸は、
この第二のローラの軸方向に渡って、均一な密度で形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気式紡績機。
【請求項3】
前記第二のローラに形成される凹凸は、
横断面が真円のローラに、
このローラの周方向と交わると共に、このローラの両端間に渡る筋状の溝を形成することで構成される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気式紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−207083(P2006−207083A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23253(P2005−23253)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】