説明

空気清浄機、及び分析室、並びに空気の浄化方法

【課題】空気を循環させ浄化処理を繰り返すことにより、汚染空気中の水銀濃度が高い場合でも確実に浄化しあるいは室内雰囲気中の水銀濃度を低レベルに維持できる空気清浄機、及びこの空気清浄機を備えた分析室、並びに当該空気清浄機を用いた空気の浄化方法を提供する。
【解決手段】処理対象となる、水銀蒸気を含む空気を装置内に吸い込むためのファンと、前記ファンにより吸い込まれた前記空気に対し波長254nmの光を照射し、前記水銀蒸気より酸化水銀を生成する照射手段と、前記照射手段の照射空間を取り囲む壁面に配置され、前記酸化水銀を吸着し前記空気を浄化する吸着手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄機に係わり、特に、周囲空気に含まれる水銀を除去して浄化処理する空気清浄機、及びこの空気清浄機を備えた分析室、並びに当該空気清浄機を用いた空気の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、米国やEUでは、発電所、各種工場、自動車などから排出される排煙中に含まれるNOxやSOxなどに加えて、Hg、Pb、Fなどの各種微量成分の排出による健康被害を防止する関心が高まり、排出量を極めて低く規制する動きがある。
【0003】
それら各種微量成分の中でも、特に金属水銀は常温でも蒸気圧が高いため、大気に放出されやすい。例えば石炭焚ボイラから煙突を介し排出される水銀は、大半が上記金属水銀の形で大気中に放出された後、降雨と共に湖や海に移動して無機水銀から有機水銀に変化し、魚介類を中心に取り込まれ、人間の健康に影響を与える。このように水銀は人類に重大な影響を与えるため、各方面で排出量の低減に対する試みが行われ、既に種々の低減方法が提案されている。
【0004】
その代表的なものとして、特許文献1には、石炭焚ボイラの集塵機や脱硫装置の前流に設けた光源から波長254nm以下の紫外光線を排ガスに照射することで金属水銀を効率よく活性化して蒸気圧の低い化合物とし、熱交換機や別途新設したトラップに通過させて回収することで高い水銀除去効率を得る技術が開示されている。
【特許文献1】特開2007−181757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示された技術は、処理効率が高く、例えば火力発電設備のボイラ等、大型装置から放出される排気の水銀除去へ適用するのに好適である。しかしながら、例えば、蛍光灯や水銀体温計などの破損時における周囲空気や、石炭燃焼設備の周囲空気など、高い濃度で水銀を含む汚染空気の浄化には適用困難である。また、例えば低濃度水銀分析室等においては、空気中の水銀による汚染を避けるために室内雰囲気中の水銀濃度を低レベルに維持する必要があるが、このような用途に適用することも難しい。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を解消し、空気を循環させ浄化処理を繰り返すことにより、汚染空気中の水銀濃度が高い場合でも確実に浄化しあるいは室内雰囲気中の水銀濃度を低レベルに維持できる空気清浄機、及びこの空気清浄機を備えた分析室、並びに当該空気清浄機を用いた空気の浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、処理対象となる、水銀蒸気を含む空気を装置内に吸い込むためのファンと、前記ファンにより吸い込まれた前記空気に対し波長254nmの光を照射し、前記水銀蒸気より酸化水銀を生成する照射手段と、前記照射手段の照射空間を取り囲む壁面に配置され、前記酸化水銀を吸着し前記空気を浄化する吸着手段とを有する空気清浄機により、解決される。
【0008】
ファンの作動によって、処理対象の水銀蒸気を含む空気が装置内に吸い込まれる。吸い込まれた空気中に含まれる水銀蒸気に対し、照射手段によって、励起された水銀元素から放射される約254nmの波長の光が照射される。すると、被照射水銀元素が活性化され、空気中の酸素と速やかに反応し、蒸気圧が10−16気圧(10−10ppm)と低い酸化水銀(HgO)になる。これにより、照射手段の照射空間を取り囲む壁面に、活性炭あるいはシリカなどの吸着手段を設けることにより酸化水銀を吸着し、回収することができる。この結果、水銀蒸気を含む空気の浄化を行うことができる。
【0009】
このようにして、ファンを用いて空気流を生起し、この流れによって、装置外からの水銀蒸気の取り込み、波長254nmの光の照射、酸化水銀の形での吸着回収、浄化処理した空気の装置外への排出、という4つの工程を連続的に円滑に実行することができる。これにより、これら4つの工程を1度ずつ実行するだけでなく、最終工程で装置外に排出した浄化処理後の空気を再度装置内に取り込み、最初の工程から再度浄化処理するというように、空気を循環させて浄化処理を複数回繰り返すことが可能となる。
【0010】
この結果、この空気清浄機を部屋などの空間に設置することで、部屋内部の空気を循環させながら水銀除去を行うことができる。したがって、例えば蛍光灯や水銀体温計の破損時の周囲空気や、石炭燃焼設備の周囲空気等、高濃度で汚染された空気の浄化用に適用することができる。また、この空気清浄機を配置した分析室を設けると、室内雰囲気中の水銀濃度を低レベルに維持することができるので、水銀含有ガスや水銀汚染大気の分析を混入物のない清浄雰囲気内で精度よく行うことができる。
【0011】
処理対象の空気の水銀濃度は、例えば20ng/リットル以上1000ng/リットル以下とするのが望ましい。
【0012】
例えば、金属水銀は、常温で1〜数ppm程度の蒸気圧を持っており、蛍光灯や水銀体温計等が破損で飛び散った場合には、その近傍の空気には高い濃度で水銀蒸気が含まれている。また、石炭燃焼設備からの燃排ガス中には数〜数+ppbの水銀蒸気が含まれており、この影響により、燃焼設備周辺の空気自体が高い濃度で水銀蒸気に汚染されている。
【0013】
上述したように、処理対象の空気を循環させながら浄化処理を繰り返し、水銀除去を行うことで、上記の破損した蛍光灯・水銀体温計の周辺における汚染空気の浄化といった、少量ではあるが高い水銀濃度である民生用の空気浄化の用途に特に有効である。また、同様に高い水銀濃度である石炭燃焼設備の周囲空気の浄化にも有効である。さらに、空気中の水銀による汚染を避けるために雰囲気中の水銀濃度を低レベルに維持する必要がある、低濃度水銀分析室内の空気浄化等の用途にも同様に効果的である。
【0014】
処理可能な空気中の水銀濃度はいかほどでもよいが、あまり濃度が高すぎると浄化に時間を要することとなる。水銀濃度が例えば1000ng/リットル以下であれば、確実に短時間に浄化処理することができる。また、水銀濃度が例えば20ng/リットル未満であれば、既存の空気浄化技術でもある程度は対応可能である。したがって、水銀濃度が例えば20ng/リットル以上1000ng/リットル以下である場合に、上記のような循環させる浄化処理が特に顕著な効果を発揮する。
【0015】
また、装置外郭を構成する筐体と、筐体に設けられ、処理対象の空気を装置内に取り込む取込口と、筐体に設けられ、浄化した後の空気を装置外に排出する排出口とを有し、排出口から排出された空気を、取込口から再取り込み可能に構成するのが望ましい。
【0016】
筐体の排出口から排出した空気を取込口から再び取り込み可能とすることにより、「取り込み、照射、吸着回収、排出」、その後さらに「取り込み、照射、・・・のように、4つの工程を1ループとして何度も循環させて確実に繰り返し、高度の水銀蒸気を浄化することができる。
【0017】
また、取込口による空気の取り込み方向と、排出口による空気の排出方向と、取込口及び排出口の互いの位置関係とを、排出口から排出された空気を取込口から再取り込み可能となるように設定とするのが望ましい。
【0018】
これにより、ファンにより生起される空気流れに沿って、排出口から排出された空気を再び取込口から確実に取り込み、循環させて消化処理することができる。
【0019】
また、取込口は、筐体の側部に配置され、装置外部から処理対象の空気を略水平に取り込むように構成されており、排出口は、筐体の上部に配置され、浄化した後の空気を略上方に排出するように構成されており、筐体は、取込口から水平に取り込んだ空気を転向させて下方へ導く下降流路と、下降流路により下方へ導かれた空気を上方へ反転させる反転流路と、反転流路で反転した空気を上方へ導き、排出口へ供給する上昇流路とを備えていることが望ましい。
【0020】
このように、水平に取り込み→転向して下方へ→下部で上方へUターン→上方へ導いて排出、という流路構造とすることにより、取り込みから処理後の排出まで一直線に(例えばずっと水平方向へ)導く流路構造とする場合に比べて、装置全体の大きさを小型化することができる。
【0021】
また、ファンは、取込口から取り込まれ下降流路、反転流路、及び上昇流路を経て排出口から排出される空気の流れを生起するように、反転流路に配置されていることが望ましい。
【0022】
水平に取り込み→転向して下方へ→下部で上方へUターン→上方へ導いて排出という流路構造において、最下部の反転流路にファンを配置することにより、上記の順序で流れる空気流を円滑に生起させ、空気を確実に循環させることができる。
【0023】
また、照射手段は、上昇流路に設けられており、上昇流路を上昇する空気に対し波長254nmの光を照射することが望ましい。
【0024】
これにより、水平に取り込み→転向して下方へ→(ファンで駆動力を付与しつつ)下部で上方へUターン→上方へ導いて排出、という流れの中で、ファンの下流側において照射による酸化水銀の生成を確実に行い、また装置の小型化を図ることができる。
【0025】
また、吸着手段は、上昇流路に設けられた第1吸着材層と、排出口に設けられた第2吸着材層とを備えることが望ましい。
【0026】
照射により生成した酸化水銀を含む上昇流れに対し、2段構えで酸化水銀の吸着回収を行うことで、確実に浄化処理を行うことができる。
【0027】
また、照射手段は、低圧水銀灯であることが望ましい。
【0028】
高圧水銀灯のように発光スペクトルの広いものは、大出力の光源を得られる反面、吸収効率が低く、またオゾンの生成など他の反応を起こしやすいため、処理効率の向上が困難である場合がある。本願第9発明においては、照射手段として低圧水銀灯を用いることにより上記の弊害を回避し、確実に高い処理効率を得ることができる。
【0029】
上記課題はまた、処理対象の気体を分析するためのものであって、水銀蒸気を含む空気を装置内に吸い込むためのファンと、前記ファンにより吸い込まれた前記空気に対し波長254nmの光を照射し、前記水銀蒸気より酸化水銀を生成する照射手段と、前記照射手段の照射空間を取り囲む壁面に配置され、前記酸化水銀を吸着して前記空気を浄化する吸着手段とを有する空気清浄機を、前記内部空間に配置した分析室によっても解決される。
【0030】
上記課題はまた、処理対象となる、水銀蒸気を含む空気を装置内に吸い込むためのファンと、前記ファンにより吸い込まれた前記空気に対し波長254nmの光を照射し、前記水銀蒸気より酸化水銀を生成する照射手段と、前記照射手段の照射空間を取り囲む壁面に配置され、前記酸化水銀を吸着して前記空気を浄化する吸着手段とを有する空気清浄機を用い、前記吸着手段で浄化され前記空気清浄機より排出された空気を、再度前記空気清浄機内に取り込むようにして循環させることにより、所定の部屋の内部に存在する空気を浄化する空気浄化方法によっても解決される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、空気を循環させ浄化処理を繰り返して、Hg蒸気で汚染された空気を効率よく浄化することができる。これにより、蛍光灯破損や水銀体温計破損など一般家庭で起りうる水銀濃度が高い汚染に際しても確実に空気浄化を行うことができる。
【0032】
また、気体中の水銀分析などではサンプルへの混入を防ぐために、空気中の水銀濃度を低くした部屋が必要になる。本発明により、室内雰囲気中の水銀濃度を低レベルに維持でき、上記した分析に適した分析室を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図1及び図2を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る空気清浄機の外観を表す斜視図であり、図2は、図1に示した空気清浄機の内部構造を表す側断面図である。
【0034】
図1及び図2において、本実施の形態の空気清浄機1は、全体として略直方体の外観形状となっており、装置外郭を構成する筐体2を有している。
【0035】
筐体2は、処理対象である水銀蒸気を含む空気ARを略水平に吸引し装置内に取り込む空気取込口3を前面に備えるとともに、浄化した後の空気ARを略上方へ導き装置外に排出する空気排出口4を上部に備えている。筐体2のうち空気取込口3の下部には、操作者が操作するための各種スイッチやランプ等を備えた操作部5が設けられており、空気取込口3には塵埃除去用フィルタ6が設けられている。
【0036】
また筐体2の内部には、上記空気取込口3側と上記空気排出口4側とを仕切る仕切壁7が設けられるとともに、最下部には制御機器格納部8が設けられている。これらにより、筐体2の内部には、導入通路9(下降流路)、中間通路10(反転流路)、及び照射チャンバー11(上昇流路)が形成されている。
【0037】
導入通路9は、空気取込口3から水平に取り込んだ空気ARを下向きに転向させた後、下方へ導く(図中矢印参照、以下同様)。
【0038】
中間通路10は、制御機器格納部8の上部に位置し、導入通路9を下降してきた空気ARを横向き、さらに上向きに、Uターンするよう反転させる。この中間通路10にはファン装置12が設けられている。このファン装置12の駆動力によって、空気取込口3から取り込まれ、導入通路9、中間通路10、及び照射チャンバー11を経て、空気排出口4から排出される空気ARの流れが生起される。
【0039】
照射チャンバー11は、上記のようにして上向きに反転した空気ARを上方へ導き空気排出口4へ供給する。そして、この照射チャンバー11の内部に、複数(図示の例では2つ)の光源13(照射手段)が設けられている。
【0040】
光源13は、波長254nmの成分を含む光を発光し、照射チャンバー11内を上昇する空気ARに対し照射するものであり、例えば、いわゆる殺菌目的に使用される、水銀放電管を備えた水銀灯を用いることができる。なお、水銀灯の中には、254nm以下の波長を含む発光スペクトルであるものがあり、それらも使用可能である。しかしながら、他の成分の吸収を少なくする観点や水銀の発光−吸収特性効率の観点からは、254nmの波長を用いることが好ましい。また、光源13として、水銀原子の発光を用いない光源、例えばKrFレーザ(主として波長248nmの光を発する)やArFレーザ(主として波長193nmの光を発する)等を使用することもできる。
【0041】
また照射チャンバー11の壁面、言い換えれば光源13の照射空間を取り囲む壁面には、第1吸着材層14(吸着手段の一部を構成する)が設けられている。第1吸着材層14には、活性炭又はシリカゲルなどの吸着剤が備えられている。
【0042】
空気排出口4には、第2吸着材層15(吸着手段の一部を構成する)が設けられている。この第2吸着材層15は、適宜の吸着剤を含む、網、不織布、ハニカム状構造物等により構成されている。
【0043】
以上のように構成した空気清浄機1においては、ファン装置12の駆動力により、処理対象の蒸気水銀を含む空気ARが、空気取込口3から導入通路9及び中間通路10を経て照射チャンバー11に導かれ、照射チャンバー11内において光源13から254nmの波長成分を含む光が照射される。
【0044】
ここで、一般に、水銀灯は、水銀蒸気内で放電させることによりHg原子を励起し、それが低エネルギの状態に遷移する場合の発光を利用するものである。本実施形態の空気清浄機1では、この水銀灯から発せられるものと同等の波長254nmの光を光源13から空気AR中の水銀分子に照射することにより、上記発光の場合と逆の現象が起こり、Hg原子が光を吸収して励起される。254nmの光の照射により励起されたHg原子は、極めて反応性の高い状態となり、照射チャンバー11内において周囲に多量に存在するOと反応して安定なHgO(酸化水銀)を形成する。HgOは蒸気圧が10−16気圧(10−10ppm)と低いことから、照射チャンバー11に設けた第1吸着材層14やその下流側の空気排出口4に設けた第2吸着材層15に吸着され、回収される。これにより、処理対象の空気ARから、効率よく水銀のみを除去し浄化を行うことができる。
【0045】
そして、この空気清浄機1では、上記のようにファン装置12を用いて空気流を生起し、この流れによって、装置外からの水銀蒸気の取り込み、波長254nmの光の照射、酸化水銀の形での吸着回収、浄化処理した空気ARの装置外への排出、という4つの工程を連続的に円滑に実行することができる。この結果、これら4つの工程を1度ずつ実行するだけでなく、図3に示すように、最終工程で空気排出口4から装置外に排出した浄化処理後の空気ARを、再び空気取込口3から装置内に取り込み、最初の工程から再度浄化処理するというように、空気ARを循環させて浄化処理を複数回繰り返す(取り込み→照射→吸着回収→排出→再び取り込み→照射→吸着回収→排出→再び取り込み→・・・)ことができる。したがって、この空気清浄機1を部屋などの空間に設置することで、部屋内部の空気ARを循環させながら、その周囲領域(又は部屋内部全域)EAにおける空気AR中の水銀除去を行うことができる。
【0046】
また、上記空気清浄機1では、図2に示したように、空気取込口3から水平に取り込み→転向して導入通路9を下方へ→下部の中間通路10で上方へUターン→照射チャンバー11を上方へ導いて空気排出口4から排出、という流路構造としている。これにより、取り込みから処理後の排出まで一直線に(例えばずっと水平方向へ)導く流路構造とする場合に比べて、装置全体の大きさを小型化することができる。またこのとき、最下部の中間通路10にファン装置12を配置することにより、上記の順序で流れる空気流を円滑に生起させ、空気ARを確実に循環させることができる。
【0047】
さらに、上記空気清浄機1では、光源13からの光の照射により生成した酸化水銀を含む照射チャンバー11内での空気ARの上昇流れに対し、第1吸着材層14と第2吸着材層15との2段構えで酸化水銀の吸着回収を行う。これにより、確実に浄化処理を行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下具体例を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
〔実施例1〕
図4は、本実施例に係る空気清浄機1の内部構造を表す側断面図であり、上記図2に相当する図である。
【0049】
図4において、本実施例では、幅W=600[mm](図1参照、以下同様)、高さH=700[mm]、奥行きD=250[mm]の筐体2を備えた空気清浄機1を用いた。この空気清浄機1においては、塵埃除去用フィルタ6としてポリエチレン製不織布を用いるとともに、ファン装置12として、空気吸引用横長シロッコファン(送風量7m/min)を設置した。
【0050】
また、光源13としては、定格10[W]の殺菌灯(低圧水銀灯)を4本設置した。また第1吸着材層14に用いる吸着剤として、活性炭粉末とシリカゾルとを乳鉢で混練したペースト状のものを用いた。この吸着剤を、0.7tのSUS430製メタルラスに設けられた多数の貫通孔を塞ぐように塗布し、140℃雰囲気で乾燥させて吸着剤板を形成し、この吸着剤板により第1吸着材層14を構成した。そして、その第1吸着材層14を、照射チャンバー11において上記4本の光源13を挟みつつ対向するように配置した。このときの第1吸着材層14の高さ方向寸法Ha=450[mm]であり、2つの第1吸着材層14,14同士の間隙寸法Xa=53[mm]とした。なお、本実施例では前述の第2吸着材層15は設けなかった。
【0051】
飛散した水銀粒子で汚染された部屋に本実施例の空気清浄機1を持ち込んで運転し、前述のようにして空気ARを循環させつつ浄化処理を行った。このときの、空気取込口3及び空気排出口4における空気ARの水銀濃度を、JIS K−0222に準拠した手法により分析する(硫酸酸性過マンガン酸カリ溶液に空気ARを吸収させた後、日本インスツルメント製原子吸光装置で分析)ことにより、水銀の低減率を求めた。
〔比較例〕
実施例1と同じ装置を用い、光源13としての殺菌灯を点灯しないで同様の試験を行った。
【0052】
実施例及び比較例で得られた結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、水銀灯から発光される254nmの光の照射によりHgOの形で空気AR中の水銀を回収しさらに空気ARを循環させて処理を繰り返すことにより、本実施例では最終的に空気排出口4からの空気に水銀が検出されなくなっており、部屋内の空気ARを確実に浄化できることが分かる。
【0055】
特に、本実施例では、光源13として低圧水銀灯を用いている。例えば、高圧水銀灯のように発光スペクトルの広いものは、大出力の光源を得られる反面、吸収効率が低く、またオゾンの生成など他の反応を起こしやすいため、処理効率の向上が困難である場合がある。本実施例においては、光源13として低圧水銀灯を用いることにより、上記の弊害を回避し、確実に高い処理効率を得ることができる。
〔実施例2〕
図5(a)は、室内において蛍光灯が破損で飛び散ったときの空気浄化に本発明を適用した場合の実施例を示す図であり、図5(b)は、同様に室内において水銀体温計が破損で飛び散ったときの空気浄化に本発明を適用した場合の実施例を示す図である。
【0056】
一般に、金属水銀は、常温で1〜数ppm程度の蒸気圧を持っている。このため、図5(a)や図5(b)に示すように蛍光灯51や水銀体温計52等が破損で飛び散った場合には、その近傍の空気には高い濃度で水銀蒸気が含まれている。
【0057】
前述したように、空気清浄機1は空気を循環させながら水銀除去を行うことができる。したがって、図5(a)に示す蛍光灯51の破損時の周囲領域EA1における空気AR1の水銀除去や、図5(b)に示す水銀体温計52の破損時の周囲領域EA2における空気AR2のように、少量でも高い水銀濃度である民生用の空気浄化用に特に有効である。
〔実施例3〕
図6は、水銀濃度の分析を行うための低濃度水銀分析室に本発明を適用した場合の実施例を示す図である。この分析室60の内部空間EA3には、水銀分析装置61と、上記空気清浄機1とが設けられている。
【0058】
水銀分析装置61は、この種のものとして公知のものであり、吸入口62からサンプル気体(水銀含有ガスや水銀汚染大気等)を装置内に吸入させることにより、当該サンプル気体中の水銀濃度を検出するものである。したがって、この検出を高精度に行うためには、周囲雰囲気を清浄に保たなければならない。
【0059】
前述したように、空気清浄機1は、照射により空気中のHg原子を励起させてHgOとして吸着させる処理を、空気を循環させながら繰り返し、水銀除去を行うことができる。したがって、図6に示すように、この空気清浄機1を分析室60内に設けて内部空間EA3の空気AR3を循環させて浄化処理することにより、内部空間EA3における水銀濃度を低レベルに維持することができる。この結果、水銀含有ガスや水銀汚染大気等の分析を、混入物のない清浄雰囲気内で精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係る空気清浄機の外観を表す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る空気清浄機の内部構造を表す側断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る空気清浄機による空気循環の挙動を表す説明図である。
【図4】空気清浄機の具体的実施例の内部構造を表す側断面図である。
【図5】室内において蛍光灯や水銀体温計が破損で飛び散ったときの空気浄化に本発明を適用した場合の実施例を示す説明図である。
【図6】水銀濃度の分析を行うための低濃度水銀分析室に本発明を適用した場合の実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 空気清浄機
2 筐体
3 空気取込口(取込口)
4 空気排出口(排出口)
9 導入通路(下降流路)
10 中間通路(反転流路)
11 照射チャンバー(上昇流路)
12 ファン装置(ファン)
13 光源(照射手段)
14 第1吸着材層(吸着手段)
15 第2吸着材層(吸着手段)
60 分析室
AR 空気
AR1〜3 空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象となる、水銀蒸気を含む空気を装置内に吸い込むためのファンと、
前記ファンにより吸い込まれた前記空気に対し波長254nmの光を照射し、前記水銀蒸気より酸化水銀を生成する照射手段と、
前記照射手段の照射空間を取り囲む壁面に配置され、前記酸化水銀を吸着し前記空気を浄化する吸着手段と
を有することを特徴とする空気清浄機。
【請求項2】
請求項1に記載の空気清浄機において、
装置外郭を構成する筐体と、
前記筐体に設けられ、処理対象の前記空気を装置内に取り込む取込口と、
前記筐体に設けられ、浄化した後の前記空気を装置外に排出する排出口とを有し、
前記排出口から排出された空気を、前記取込口から再取り込み可能に構成したことを特徴とする空気清浄機。
【請求項3】
請求項2に記載の空気清浄機において、
前記取込口による前記空気の取り込み方向と、前記排出口による前記空気の排出方向と、前記取込口及び前記排出口の互いの位置関係とを、前記排出口から排出された空気を前記取込口から再取り込み可能となるように設定したことを特徴とする空気清浄機。
【請求項4】
請求項3に記載の空気清浄機において、
前記取込口は、
前記筐体の側部に配置され、装置外部から処理対象の前記空気を略水平に取り込むように構成されており、
前記排出口は、
前記筐体の上部に配置され、浄化した後の前記空気を略上方に排出するように構成されており、
前記筐体は、
前記取込口から水平に取り込んだ前記空気を転向させて下方へ導く下降流路と、
前記下降流路により下方へ導かれた前記空気を上方へ反転させる反転流路と、
前記反転流路で反転した前記空気を上方へ導き、前記排出口へ供給する上昇流路と
を備えていることを特徴とする空気清浄機。
【請求項5】
請求項4に記載の空気清浄機において、
前記ファンは、
前記取込口から取り込まれ前記下降流路、前記反転流路、及び前記上昇流路を経て前記排出口から排出される空気の流れを生起するように、前記反転流路に配置されている
ことを特徴とする空気清浄機。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の空気清浄機において、
前記照射手段は、
前記上昇流路に設けられており、当該上昇流路を上昇する空気に対し前記波長254nmの光を照射する
ことを特徴とする空気清浄機。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載の空気清浄機において、
前記吸着手段は、
前記上昇流路に設けられた第1吸着材層と、
前記排出口に設けられた第2吸着材層とを備える
ことを特徴とする空気清浄機。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の空気清浄機において、
前記照射手段は、低圧水銀灯であることを特徴とする空気清浄機。
【請求項9】
処理対象の気体を分析するための分析室であって、
水銀蒸気を含む空気を装置内に吸い込むためのファンと、前記ファンにより吸い込まれた前記空気に対し波長254nmの光を照射し、前記水銀蒸気より酸化水銀を生成する照射手段と、前記照射手段の照射空間を取り囲む壁面に配置され、前記酸化水銀を吸着して前記空気を浄化する吸着手段とを有する空気清浄機を、前記内部空間に配置した
ことを特徴とする分析室。
【請求項10】
処理対象となる、水銀蒸気を含む空気を装置内に吸い込むためのファンと、 前記ファンにより吸い込まれた前記空気に対し波長254nmの光を照射し、前記水銀蒸気より酸化水銀を生成する照射手段と、前記照射手段の照射空間を取り囲む壁面に配置され、前記酸化水銀を吸着して前記空気を浄化する吸着手段とを有する空気清浄機を用い、
前記吸着手段で浄化され前記空気清浄機より排出された空気を、再度前記空気清浄機内に取り込むようにして循環させることにより、
所定の部屋の内部に存在する空気を浄化することを特徴とする空気浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−137194(P2010−137194A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318181(P2008−318181)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】