説明

空洞含有フィルム及びその製造方法

【課題】リサイクル性に優れ、破断し難い高い生産性で、反射率や透明性、厚みを任意に設計することができる空洞含有フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】同じ構造であって固有粘度の異なる、少なくともA、B2種類の結晶性ポリマーのみを、それぞれ押出機22、24で溶融し、ダイ26から少なくともA/Bとなる2層以上のシート状にして冷却固化し、該シート12を延伸し、少なくともポリマーAに空洞を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空洞含有フィルム及びその製造方法に関し、特に、結晶性ポリマーのみから構成される空洞含有フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空洞含有フィルム又はシートは、その断熱性、クッション性、光透過性(又は遮光性)などの特性から、例えば、電子機器の照明用部材、一般家庭照明用部材、内照看板などの部材として使用されている。
【0003】
特に、近年では、液晶テレビやコンピュータの普及とともに、液晶反射板用途において、より高い反射率を示す反射板が求められている。
【0004】
反射板に応用可能な技術としては、ポリエステル系樹脂内部に微細な空洞を多量に含有させる技術が挙げられる。ポリエステル系樹脂に微細な空洞が含有されて空洞層が形成されると、空洞層の存在によりポリエステル系樹脂の反射率が高まるためである。
【0005】
特許文献1に記載の技術は、ポリエステル系樹脂フィルムの中に無機系微粒子などを含有させておき、樹脂の延伸製膜時に無機微粒子などと樹脂界面とが剥離することにより、フィルム内に空洞を形成させる技術であって、無機系微粒子を含まないフィルム層も有している。しかし、特許文献1に記載の技術は、空洞含有フィルムの製造時に無機系微粒子などが脱落し、生産性が悪いという問題がある。
【0006】
特許文献2に記載の技術は、主たる成分であるポリエステル系樹脂に、そのポリエステル系樹脂と相溶しない(非相溶の)別の樹脂を添加して混練することにより2相構造(例えば海島構造)を形成し、樹脂の延伸製膜時に主たる成分であるポリエステル系樹脂と、そこに添加・混練された別の樹脂との界面が剥離することによって、空洞を形成させる技術である。しかし、特許文献2に記載の技術は、ポリエステル系樹脂に異なる成分の樹脂を配合しているため、リサイクルし難いという問題がある。
【0007】
特許文献3に記載の技術は、結晶性ポリマーのみからなる空洞含有フィルムであり、波長280nmの光に対する反射率が80%以上とする製造技術である。結晶性ポリマーのみからなる未延伸シートを延伸することにより、高い光反射性を有する空洞含有フィルムが得られる。このフィルムは、単独素材からなるため、フィルム製造工程において製品巻き取り時に切除された端部を直接回収再使用できるなど、リサイクル性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−98088号公報
【特許文献2】特開2007−261260号公報
【特許文献3】特開2009−126959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、特許文献1及び2に記載の技術はいずれも、主たる成分中に異種の成分を混入させ、それを核としてボイドを発現させる方法であり、樹脂と無機物の系、あるいは種類の異なる樹脂の系になるため、リサイクルが困難になるという問題がある。
【0010】
そして、特許文献3に記載の技術は、空洞を発現するには高速延伸が必要なため、延伸時にフィルムが破断しやすく、適切な範囲の分子量のポリマーを採用するだけでは生産性を高めることができないといった問題がある。また、厚いフィルムを得ることが難しいという問題がある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、リサイクル性に優れ、破断し難い高い生産性で、反射率や透明性、厚みを任意に設計することができる空洞含有フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記目的を達成するために、同じ構造であって固有粘度の異なる、少なくともA、B2種類の結晶性ポリマーのみを、それぞれ押出機で溶融し、ダイから少なくともA/Bとなる2層以上のシート状にして冷却固化し、該シートを延伸し、少なくとも結晶性ポリマーAに空洞を形成することを特徴とする空洞含有フィルムの製造方法を提供する。
【0013】
結晶性ポリマーのみからなる未延伸シートを延伸することにより、高い光反射性を有する空洞含有フィルムが得られる。
【0014】
さらに、空洞を含有する層と、この層と同じ構造であって固有粘度の異なるポリマー層とを具備することによって、延伸時の破断がなくリサイクル性に優れた空洞含有フィルムが得られる。なお、固有粘度の異なるポリマー層には、空洞があってもなくても良い。
【0015】
したがって、本発明によれば、リサイクル性に優れ、破断し難い高い生産性で、反射率や透明性、厚みを任意に設計することができる空洞含有フィルムの製造方法を提供することができる。
【0016】
本発明において、結晶性ポリマーAの固有粘度をIV、結晶性ポリマーBの固有粘度をIVと表したとき、(IV−IV)/IVが、0.1より大きく0.5以下の範囲であることが好ましい。
【0017】
(IV−IV)/IV(=ΔIV)が0.5より大きいと、一方の積層部のポリマーの分子量が大きすぎて延伸時に応力が大きくなり破断しやすく、また延伸ムラが発生し易くなる。また、ΔIVが0.1より小さいと、延伸発現させる層とさせない層との延伸応力の差が小さいため、積層効果は十分に得られない。
【0018】
より好ましいΔIVは、0.1<ΔIV≦0.45、さらに好ましくは、0.2<ΔIV≦0.4である。なお、固有粘度は、ポリマーを溶媒に溶解し、その溶液粘度をウベローデ型などの粘度計で測定することで求めることができる。
【0019】
本発明において、前記少なくともA、B2種類以上の結晶性ポリマーは、結晶性ポリエステルであることが好ましい。
【0020】
なお、結晶性ポリマーが結晶性ポリエステルである場合、固有粘度は、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの3:2(重量比)混合溶液に溶解し、25℃にて測定することで求められる。
【0021】
本発明において、前記シートは、A/Bの2種2層、又は、A/B/Aの2種3層であることが好ましい。
【0022】
積層構造は、A/Bの2種2層、A/B/Aの2種3層、B/A/Bの2種3層、及びそれ以上の積層構造であっても良いが、特に、A/Bの2種2層、A/B/Aの2種3層が延伸時に発現する空洞の大きさを安定的に制御できるので好ましい。
【0023】
なお、本発明の空洞含有フィルムの製造方法で製造された空洞含有フィルムは、反射フィルム又は光拡散フィルムとして好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の空洞含有フィルム及びその製造方法によれば、リサイクル性に優れ、破断し難い高い生産性で、反射率や透明性、厚みを任意に設計することができる空洞含有フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る空洞含有フィルムの製造ラインを示す構成図。
【図2】本発明に係る空洞含有フィルムの構造の一例を示す説明図。
【図3】本発明が適用されるダイの一例を示す概略図。
【図4】実施例の結果を示す表図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱することなく、多くの手法により変更を行なうことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0027】
以下、本発明の空洞含有フィルムの製造方法について説明する。図1は、本発明に係る空洞含有フィルムの製造ライン10の一例を示した構成図である。製膜部14のダイ26から吐出されたシート12を冷却固化するキャスティングドラム28と、シート12を剥離する剥離ローラ29と、剥離ローラ29の下流に配置されたシート12を搬送方向に延伸する縦延伸機16と、シート12を幅方向に延伸する横延伸機18と、シート12が延伸され製造された空洞含有フィルム12Aを巻き取る巻取機20と、を備える。なお、製膜部14では、それぞれ押出機22及び24で溶融された結晶性ポリマーA及びBがダイ26からシート状に押し出される。
【0028】
本発明では、同じ構造であって固有粘度の異なる、少なくともA、B2種類の結晶性ポリマーを、それぞれ押出機で溶融し、ダイから少なくともA/Bとなる2層以上のシート状にして冷却固化し、該シートを延伸し、少なくともポリマーAに空洞を形成する。図2に示すように、図2(a)の2層であっても図2(b)の3層であっても良く、又はそれ以上の複層であっても良いが、少なくともA/Bとなる2層以上となるようにする。
【0029】
押出機22、24は、それぞれ結晶性ポリマーA、Bを溶融、混練させて、溶融状態の結晶性ポリマーをダイ26に送る装置である。押出機22、24は、シリンダと、シリンダ内に取り付けられたスクリューを備える。スクリューは単軸であっても、二軸であっても良い。
【0030】
溶融状態の結晶性ポリマーは、図1のダイ26に連続的に供給される。図3のダイ26は、A/B/A2種3層の空洞含有フィルム12Aを製造する場合を示したものである。即ち、図2(b)においては、層46を結晶性ポリマーA、層48を結晶性ポリマーB、層50を結晶性ポリマーAとなる。溶融された2種類の結晶性ポリマーA及びBを3層シート状に合流させるためのフィードブロック25と、合流した結晶性ポリマーA、Bを広幅化するための単層ダイ26aにより構成されている。
【0031】
フィードブロック25の流路70には、溶融された結晶性ポリマーBが、フィードブロック25の流路72及び74には、溶融された結晶性ポリマーAが、それぞれ押出機22及び24から供給されている。流路70、72、74は合流部76で合流しており、溶融された結晶性ポリマーA及びBは、合流部76で合流して流路78を通り単層ダイ26aに送られる。溶融された結晶性ポリマーA及びBは、単層ダイ26aのマニホールド80で拡幅され、スリット82を介して吐出口84からキャスティングドラム28上に吐出される。
【0032】
ダイ26は溶融された結晶性ポリマーA及びBをシート状にしてキャスティングドラム28に供給する。次に、キャスティングドラム28は、ダイ26から吐出されたシート12を冷却固化する。本実施の形態において、一本のキャスティングドラム28によって、シート12が冷却固化されるが、これに限定されず、キャスティングドラムとその下流に設置された冷却ロールによって、シート12を冷却固化することができる。キャスティングドラム28の表面材質として、ハードクロムメッキが使用でき、鏡面仕上げが好ましい。
【0033】
剥離ローラ29は、キャスティングドラム28に対向配置されたローラである。剥離ローラ29は、冷却固化されたシート12を巻き掛けることにより、シート12をキャスティングドラム28から剥離する。剥離ローラ29の表面材質としては、ハードクロムメッキや鏡面仕上げを採用できる。
【0034】
縦延伸機16は、一対のローラから成る第一のニップローラ30と、同じく一対のローラから成る第二のニップローラ32と、第一のニップローラ30と第二のニップローラ32との間に配置されたヒータ31を備える。縦延伸機16は、周速の異なる第一のニップローラ30と第二のニップローラ32間を、シート12を通過させることにより、シート12を搬送方向(縦方向)に延伸する。第二のニップローラ32の周速度V2は、第一のニップローラ30の周速度V1と比較して、速い周速度で回転するよう構成される。その速度比は3≦V2/V1≦20であることが好ましく、より好ましくは、4≦V2/V1≦15の範囲である。
【0035】
ヒータ31として、例えば赤外線、熱風、ハロゲン、プレート、セラミック、レーザー方式のヒータを採用することができる。ヒータ31により、シート12は所望の縦延伸温度まで加熱される。本実施の形態では、ヒータ31が第一のニップローラ30と第二のニップローラ32に間に配置されているが、ヒータ31を第一のニップローラ30の上流にも配置することができる。
【0036】
横延伸機26は、所定のピッチで取り付けられた複数のクリップ(不図示)を備える。クリップは空洞含有フィルム12Aの幅方向の端部を把持する部材である。対向するクリップ間の間隔は、搬送方向の上流側から下流側にかけて幅広となるよう構成される。これにより、空洞含有フィルム12Aは幅方向に延伸される。横延伸機26は、空洞含有フィルム12Aを所望の横延伸温度まで加熱するヒータ(不図示)を備える。
【0037】
巻取機20は、横延伸された空洞含有フィルム12Aのフィルムロールに巻き取る装置である。
【0038】
次に、製造ライン10を使用した空洞含有フィルムの製造方法について説明する。
【0039】
図示しない2つのホッパから押出機22、24に結晶性ポリマーA、Bがそれぞれ供給される。押出機22、24によって溶融押し出しされた結晶性ポリマーA、Bは、ダイ26に送られる。押出機22、24とダイ26の間にギアポンプ及びフィルタを設けることができる。
【0040】
ダイ26から吐出される結晶性ポリマーA、Bの吐出圧は10%以内の変動範囲に制御されることが好ましい。
【0041】
次に、ダイ26から吐出された結晶性ポリマーA、Bは回転するキャスティングドラム28に供給される。A/B/A2種3層のシート12はキャスティングドラム28上で冷却固化される。
【0042】
キャスティングドラムとその下流に設置された冷却ロールによって多段冷却する場合、温度条件として、フィルム搬送方向の上流側から順に、ローラ表面温度が低くなるように設定することが好ましい。
【0043】
次いで、剥離ローラ29によりキャスティングドラム28から剥離されたシート12が、縦延伸機16に搬送される。縦延伸機16に設けられた周速度の異なる第一のニップローラ30と第二のニップローラ32により、シート12が搬送方向(縦方向)に延伸される。第二のニップローラ32の周速度V2と第一のニップローラ30の周速度V1は、その速度比は3≦V2/V1≦20となるよう設定される。これにより、急激にシート12が延伸倍率3〜20倍で縦方向に延伸され、少なくともポリマーAの層に空洞(ボイド)が発現する。なお、シート12は、ヒータ34により加熱されながら延伸される。また、本発明において、急激な縦延伸が実現できる範囲において、第一のニップローラ30と第二のニップローラ32の間隙を適宜選択することができる。
【0044】
縦延伸機16で縦延伸された空洞含有フィルム12Aは、必要に応じてフィルムの幅方向の端部を横延伸機18のクリップにより把持され、横延伸される。空洞含有フィルム12Aは、横延伸機18のヒータ(不図示)により、加熱される。
【0045】
横延伸機18により横延伸された空洞含有フィルム12Aは巻取機20送られる。なお、縦延伸のみを行った空洞含有フィルム12Aを横延伸機18に供さず、巻取機20によりフィルムロールとして巻き取っても良い。
【0046】
本発明で用いられるポリマーは、延伸による空洞発現のため結晶性ポリマーであることが必須である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンのような結晶性ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。特に、本発明の空洞含有フィルムがフラットパネルディスプレイ用反射フィルム、照明カバー、光拡散フィルム、屋内・屋外電飾看板などに用いる場合には、フィルムの剛性や耐熱性、耐候性、寸法安定性などの観点から、ポリエステルが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0047】
また、結晶性ポリマーに、リサイクル性を損なわない範囲で無機粒子や異種ポリマーなどを添加してもよいが、空洞発現させるための異種物質は添加する必要はない。また、結晶性ポリマーに、空洞発現及びリサイクル性を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料などを添加することができる。また、これらの結晶性ポリマーは、延伸による空洞発現性を損なわない範囲において、異種モノマーの共重合や分子末端の修飾、異種ポリマーの混合を行なっても良い。
【0048】
結晶性ポリマーのみからなる未延伸シートを延伸することにより、高い光反射性を有する空洞含有フィルムが得られる。このフィルムは、単独素材からなるため、フィルム製造工程において製品巻き取り時に切除された端部を直接回収再使用できるなど、リサイクル性に優れている。
【0049】
しかしながら、結晶性ポリマーのみからなるシートに空洞を発現させるには、急激な高速延伸が必要なため、延伸時にフィルムが破断しやすく、適切な範囲の分子量のポリマーを採用するだけでは生産性を高めることができないといった問題があった。
【0050】
そこで、本発明では、空洞を含有する層(ポリマーAの層)と、この層と同じ構造であって固有粘度の異なるポリマー層(ポリマーBの層)とを具備することによって、延伸時の破断がなくリサイクル性に優れた空洞含有フィルムを得ることができるようにした。なお、固有粘度の異なるポリマーBの層には、空洞があってもなくても良い。
【0051】
本発明において、ポリマーAの固有粘度をIV、ポリマーBの固有粘度をIVと表したとき、(IV−IV)/IVが、0.1より大きく0.5以下の範囲であることが好ましい。(IV−IV)/IV(=ΔIV)が0.5より大きいと、一方の積層部のポリマーの分子量が大きすぎて延伸時に応力が大きくなり破断しやすく、また延伸ムラが発生し易くなる。また、ΔIVが0.1より小さいと、延伸発現させる層とさせない層との延伸応力の差が小さいため、積層効果は十分に得られない。
【0052】
なお、より好ましいΔIVは、0.1<ΔIV≦0.45、さらに好ましくは、0.2<ΔIV≦0.4である。
【0053】
なお、固有粘度は、ポリマーを溶媒に溶解し、その溶液粘度をウベローデ型などの粘度計で測定することで求めることができる。例えば、結晶性ポリマーが結晶性ポリエステルである場合、固有粘度は、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの3:2(重量比)混合溶液に溶解し、25℃にて測定することで求められる。
【0054】
また、上記の実施形態において、シート12は、A/Bの2種2層、又は、A/B/Aの2種3層であることが好ましい。積層構造は、A/Bの2種2層、A/B/Aの2種3層、B/A/Bの2種3層、及びそれ以上の積層構造であっても良いが、特に、A/Bの2種2層、A/B/Aの2種3層が延伸時に発現する空洞の大きさを安定的に制御できる。
【0055】
上述したように、本発明によれば、リサイクル性に優れ、破断し難い高い生産性で、反射率や透明性、厚みを任意に設計することができる空洞含有フィルムの製造方法を提供することができる。
【0056】
なお、本発明は、本実施形態のように結晶性ポリマーA、Bを別々の押出機で溶融押し出しし、溶融ポリマーを合流後シート状に成形する共押出し法によるものに限られず、1層以上のシートの上に逐次的に押し出して積層してシート12とする逐次共押出し法など、公知の方法によって作製することができる。
【0057】
また、本発明の空洞含有フィルムは、結晶性ポリマーA、Bの2種類の結晶性ポリマーだけでなく、例えば、図2(b)において、層46を結晶性ポリマーA、層48を結晶性ポリマーB、層50を結晶性ポリマーAと結晶性ポリマーBと同じ構造であって固有粘度の異なる結晶性ポリマーCとなるように積層したA/B/Cの3種3層にしても良い。
【0058】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【0059】
[実施例]
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0060】
(実験1)
2台の押出機を2種3層型フィードブロックとダイヘッドに連結した、通常の共押出装置を用い、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.62のポリエチレンテレフタレート樹脂Bを厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0061】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0062】
(実験2)
実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、固有粘度0.60のポリエチレンテレフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.45のポリエチレンテレフタレート樹脂Bを厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0063】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0064】
(実験3)
実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.45のポリエチレンテレフタレート樹脂Bを厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0065】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0066】
(実験4)
実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、固有粘度0.85のポリエチレンテレフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.45のポリエチレンテレフタレート樹脂Bを厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0067】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0068】
(実験5)
実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、固有粘度1.20のポリブチレンフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.70のポリブチレンテレフタレート樹脂Bを厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0069】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0070】
(実験6)
実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.50のポリエチレンテレフタレート樹脂Bを厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0071】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0072】
(実験7)
実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、固有粘度1.00のポリブチレンフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.45のポリブチレンテレフタレート樹脂Bを厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0073】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0074】
(実験8)
実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、スキン層、コア層とも固有粘度0.66の同一のポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、A/A/A1種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0075】
これを95℃で予熱後10m/分の速度で長手方向に6倍に1軸延伸(縦延伸)して、厚さ200μmの空洞含有フィルムを作製した。
【0076】
(実験9)
実験3で得られた厚さ200μmの空洞含有フィルムを、各辺約5mm〜10mmのフレーク状に裁断した。このフレーク状フィルムの固有粘度は0.49であった。
【0077】
次いで、実験1と同様に、通常の共押出装置を用い、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレート樹脂Aを厚さ200μmの層(スキン層)、固有粘度0.49のポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフレーク(樹脂B)を厚さ1000μmの層(コア層)になるようにA/B/A2種3層のシート状に溶融押し出しし、水冷の回転ドラム上にて冷却固化し、総厚1400μmのシートを1500mの長さで作製しロール状に巻き取った。
【0078】
<厚みムラ>
上記実験1〜9の1軸延伸したフィルムにおいて、幅方向の中央部の厚みを長手方向10mに渡って5mm間隔で測定した。
【0079】
厚みムラは、|最大値−最小値|/(全測定値の平均値)×100(%)で算出し、2%以下を◎、5%以下のものを○、5%を超えるものを×として図4の表に記した。
【0080】
<延伸安定性>
上記実験1〜9の1500mの未延伸ロール上シートを連続的に1軸延伸を行い、破断することなく1300m以上連続的に空洞含有フィルムが得られたものを○、1度でも破断したものを×として図4の表に記した。なお、実験8では、1軸延伸ではボイド発現が不均一で光沢部と透明部が不均一に発生し、かつ連続的に延伸できず破断が頻発した。
【0081】
<反射率>
上記実験1〜9の1軸延伸したフィルムにおいて、JIS−Z8741の方法に準拠し、波長を550nmで測定し、図4の表に記した。なお、実験8では、ボイド発現が不均一で光沢部と透明部が不均一に発生したので、測定値を示していない。
【0082】
(総合評価)
上記の厚みムラと延伸安定性との評価の両方が○以上のものを○と記した。
【0083】
図4の表から分かるように、同じ構造であって固有粘度の異なる、A、B2種類の結晶性ポリマーを、それぞれ押出機で溶融し、ダイから少なくともA/Bとなる2層以上のシート状にして冷却固化し、該シートを延伸し、少なくともポリマーAに空洞を形成することで、総合評価が良い傾向となった。また、さらに詳しく考察すると、特に、ポリマーAの固有粘度をIV、ポリマーBの固有粘度をIVと表したとき、(IV−IV)/IV(=ΔIV)が0.1より大きく0.5以下の範囲である場合に、総合評価が○となった。さらに、実験9から分かるように、本発明の空洞含有フィルムは、単独素材からなるため、フィルム製造工程において製品巻き取り時に切除された端部を直接回収再使用できるなど、リサイクル性に優れる。
【符号の説明】
【0084】
10…製造ライン、12…シート、12A…空洞含有フィルム、14…製膜部、16…縦延伸機、18…横延伸機、20…巻取機、22…押出機、24…押出機、25…フィードブロック、26…ダイ、26a…単層ダイ、28…キャスティングドラム、29…剥離ローラ、30…第一のニップローラ、31…ヒータ、32…第二のニップローラ、42,44,46,48,50…層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ構造であって固有粘度の異なる、少なくともA、B2種類の結晶性ポリマーのみを、それぞれ押出機で溶融し、ダイから少なくともA/Bとなる2層以上のシート状にして冷却固化し、該シートを延伸し、少なくともポリマーAに空洞を形成することを特徴とする空洞含有フィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリマーAの固有粘度をIV、ポリマーBの固有粘度をIVと表したとき、(IV−IV)/IVが、0.1より大きく0.5以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の空洞含有フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記少なくともA、B2種類以上の結晶性ポリマーは、結晶性ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の空洞含有フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記シートは、A/Bの2種2層、又は、A/B/Aの2種3層であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の空洞含有フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1に記載された製造方法で製造されたことを特徴とする空洞含有フィルム。
【請求項6】
前記空洞含有フィルムは、反射フィルム又は光拡散フィルムとして用いられることを特徴とする請求項5に記載の空洞含有フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−180525(P2011−180525A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46895(P2010−46895)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】