説明

空調装置

【課題】電動圧縮機が停止時であっても、電動圧縮機のモータ駆動回路の保護を可能とする空調装置を提供する。
【解決手段】冷媒を吸入圧縮する圧縮機構111および圧縮機構111を駆動する電動式のモータ112が一体的に形成されると共に、圧縮機構111が吸入する吸入冷媒によって、モータ駆動回路113が冷却される電動圧縮機110を備える冷凍サイクル100と、モータ駆動回路113および冷凍サイクル100の作動を制御する制御装置200とを有する空調装置において、制御装置200は、圧縮機構111が停止状態にあっても、モータ駆動回路113の温度Tiが所定温度を超えた時に、モータ駆動回路113によってモータ112を作動させ圧縮機構111を作動状態とすると共に、冷凍サイクル100内を流通する冷媒と熱交換する空気の供給条件を可変して、吸入冷媒の温度を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル内の冷媒を圧縮する圧縮機としてモータによって駆動される電動圧縮機が用いられ、冷媒によってモータ駆動用の回路が保護されるようにした空調装置に関するものであり、車両用の空調装置に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
従来の空調装置の冷凍サイクルには、例えば特許文献1に示されるように、冷媒を圧縮する圧縮機として電動圧縮機が用いられたものが知られている。この電動圧縮機は、ハウジング本体内に圧縮部と、圧縮部を駆動するモータと、モータを駆動するモータ駆動回路とが設けられたものであり、モータ駆動回路内の回路部品(発熱性部品)が圧縮部の吸入冷媒と熱交換可能な位置に配置されている。
【0003】
そして、電動圧縮機の作動中において、回路部品の温度が所定温度以上となると、モータの回転数を所定の回転数まで上昇させることで吸入冷媒の流量を増加させ、この冷媒によって回路部品を冷却し、モータを停止させること無く冷房運転を継続できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−139069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧縮部が停止状態にある時、例えばエンジンルームにおけるエンジンからの輻射熱等によって回路部品の温度が上昇する場合がある。
【0006】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであって、電動圧縮機が停止時であっても、電動圧縮機のモータ駆動回路の保護を可能とする空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0008】
請求項1に記載の発明では、冷媒を吸入圧縮する圧縮機構(111)および圧縮機構(111)を駆動する電動式のモータ(112)が一体的に形成されると共に、圧縮機構(111)が吸入する吸入冷媒によって、モータ(112)を駆動するモータ駆動回路(113)が冷却される電動圧縮機(110)を備える冷凍サイクル(100)と、
モータ駆動回路(113)および冷凍サイクル(100)の作動を制御する制御装置(200)とを有する空調装置において、
制御装置(200)は、圧縮機構(111)が停止状態にあっても、モータ駆動回路(113)の温度(Ti)が所定温度を超えた時に、モータ駆動回路(113)によってモータ(112)を作動させ圧縮機構(111)を作動状態とすると共に、冷凍サイクル(100)内を流通する冷媒と熱交換する空気の供給条件を可変して、吸入冷媒の温度を低下させることを特徴としている。
【0009】
これにより、冷凍サイクル(100)が停止している時でも、モータ駆動回路(113)の温度(Ti)が所定温度を超えた時には、冷凍サイクル(100)内の冷媒を流通させて、吸入冷媒の温度を低下させて、モータ駆動回路(113)の効果的な冷却が可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、空気の供給条件の可変は、冷凍サイクル(100)内に設けられる冷媒凝縮用の凝縮器(120)に供給される冷却風の風量を増加させることを特徴としている。
【0011】
これにより、冷凍サイクル(100)内の高圧側冷媒の圧力、温度が低下され、これに伴い低圧側冷媒の圧力、温度を低下させることができるので、吸入冷媒の温度を低下させてモータ駆動回路(113)の冷却に使用することができる。
【0012】
上記請求項2に記載の発明において、具体的には請求項3に記載の発明のように、冷却風の風量増加は、凝縮器(120)に冷却風を供給する冷却ファン(121)の能力を上げることで、その対応が可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、空気の供給条件の可変は、冷凍サイクル(100)内に設けられる冷媒蒸発用の蒸発器(150)に供給される空調用空気の空気量を減少させることを特徴としている。
【0014】
これにより、冷凍サイクル(100)の低圧側冷媒の圧力を低下させ、これに伴い低圧側冷媒の温度を低下させることができるので、吸入冷媒の温度を低下させてモータ駆動回路(113)の冷却に使用することができる。
【0015】
上記請求項4に記載の発明において、具体的には請求項5に記載の発明のように、空調用空気の空気量の減少は、蒸発器(150)に空調用空気を供給する送風機(151)の能力を下げることで、その対応が可能となる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、冷凍サイクル(100)内に設けられる冷媒蒸発用の蒸発器(150)に供給される空調用空気として、室内の空気あるいは室外の空気のいずれかから選択する切替え手段(320)を有し、空気の供給条件の可変は、蒸発器(150)に空調用空気を供給すると共に、切替え手段(320)によって、室内の空気と室外の空気のうち、温度の低い方の空気を選択することを特徴としている。
【0017】
これにより、蒸発器(150)における冷媒の吸熱を減少させて冷媒の温度を低下させることができるので、吸入冷媒の温度を低下させてモータ駆動回路(113)の冷却に使用することができる。
【0018】
上記請求項6に記載の発明に対して、請求項7に記載の発明のように、空気の供給条件の可変としては、蒸発器(150)に空調用空気を供給すると共に、切替え手段(320)によって、室内の空気と室外の空気のうち、室内の空気を選択するようにしても良い。
【0019】
これにより、通常は冷凍サイクル(100)の作動によって室内の空気と室外の空気とでは通常、室内の空気の方が温度が低く維持されるので、請求項6に記載の発明のように室内の空気と室外の空気の温度を比較する手段を不要として、簡易的に温度の低い空気を蒸発器(150)に供給させることができる。
【0020】
尚、請求項8に記載の発明のように、モータ駆動回路(113)は、電動圧縮機(110)に一体的に形成されたものに用いて好適であり、コンパクトなモータ駆動回路一体型の電動圧縮機(110)とすることができる。
【0021】
更に、請求項9に記載の発明のように、冷凍サイクル(100)、制御装置(200)は、車両用として使用されるものに適用すれば、例えばエンジンルーム内のように搭載される外部温度環境が厳しい場合にも、モータ駆動回路(113)の効果的な保護が可能となる。
【0022】
尚、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】モータ駆動回路一体型の電動圧縮機が冷凍サイクル内に配設される車両用空調装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】制御装置がモータ駆動回路の温度領域を判定するための特性図である。
【図3】電動圧縮機作動時におけるインバータ回路を保護するために制御装置が行う制御フローチャートである。
【図4】電動圧縮機停止時におけるインバータ回路を保護するために制御装置が行う制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。尚、図1は、モータ駆動回路一体型の電動圧縮機110が冷凍サイクル100内に配設される車両用空調装置10の全体構成を示す模式図である。図2は、制御装置200がモータ駆動回路113の温度領域を判定するための特性図、図3、図4は、電動圧縮機110のモータ駆動回路113を保護するために制御装置200が行う制御フローチャートである。
【0025】
図1に示すように、本発明の車両用空調装置(以下、空調装置)10は、ハイブリッド自動車(その他燃料電池自動車、電気自動車等にも適用可能)に搭載されるものとしており、冷凍サイクル100と、この冷凍サイクル100内の蒸発器150が空調ケース310内に配設される室内ユニット300と、冷凍サイクル100および室内ユニット300内の各種機器(詳細後述)の作動を制御する制御装置200とから成る。
【0026】
冷凍サイクル100は、電動圧縮機110、凝縮器120、レシーバ130、膨張弁140、蒸発器150が順次接続されて閉回路を形成する周知のサイクルである。
【0027】
凝縮器120は、電動圧縮機110(詳細後述)から吐出される冷媒を冷却して凝縮させる熱交換器である。凝縮器120には、内部を流通する冷媒を効果的に冷却するために強制的に冷却風を供給する冷却ファン121が設けられている。冷却ファン121は、後述する制御装置200によって、その作動が制御される。
【0028】
レシーバ(気液分離器)130は、凝縮器120から流出する冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離して液相冷媒を流出すると共に、冷凍サイクル100中の余剰冷媒を蓄える容器である。
【0029】
膨張弁140は、レシーバ130から流出した液相冷媒を減圧する減圧手段であり、蒸発器150は、膨張弁140にて減圧された冷媒を蒸発させて、空調用空気を冷却する熱交換器である。尚、膨張弁140は、ここでは蒸発器150の出口側における冷媒過熱度が所定値となるように弁開度を調節する温度式膨張弁としている。
【0030】
電動圧縮機110は、車両のエンジンルーム内において、冷却ファン121が備えられた凝縮器120と、図示しないエンジンとの間に配設されており、エンジンに固定されており、エンジンのエキゾーストマニホールド等からの排熱(輻射熱)を受ける。
【0031】
そして、電動圧縮機110は、冷媒を吸入圧縮する圧縮機構111(本例ではスクロール式の圧縮機構)と、この圧縮機構111を駆動する電動式のモータ112(本例では3相ブラシレスDCモータ)と、このモータ112を駆動するインバータ回路113とを備えており、一体的に形成されている。
【0032】
圧縮機構111およびモータ112は、アルミニウム合金製の圧縮機構ハウジング111a、モータハウジング112a内にそれぞれ収容されており、圧縮機構111とモータ112とが同軸上に且つ直列に並ぶようにして、両ハウジング111a、121aが接合されることで、圧縮機構111とモータ112とは一体的に形成されている。
【0033】
モータハウジング112aには、蒸発器150の冷媒出口側に接続される吸入口112bが形成されており、また、圧縮機構ハウジング111aには、凝縮器120の冷媒入口側に接続される吐出口111bが形成されている。よって、圧縮機構111の作動により蒸発器150側から吸入される吸入冷媒は、モータハウジング112a内を流通した後に、圧縮機構111へ至り、この圧縮機構111で圧縮されて、凝縮器120側に吐出される。
【0034】
また、インバータ回路(本発明におけるモータ駆動回路に対応)113は、ケーシング113a内に配設されており、このケーシング113aがモータハウジング112aの側壁122c(図1中の上方側)に固定されることで、インバータ回路113はモータ112に一体的に形成されている。
【0035】
インバータ回路113は、後述する制御装置200によって、図示しない制御回路を介してON−OFF制御されるスイッチング素子を有しており、このON−OFF作動によって、電流を流すべきモータコイルを連続的に切替えることで、モータ112を作動させると共に、その回転数を可変させる。
【0036】
尚、インバータ回路113内の制御回路を構成する各種回路部品(例えばフォトカプラ等)には充分な耐熱性を確保できないものも有り、また、スッチング素子は電力ロスによって発熱する発熱源となり得るものであり、インバータ回路113はモータハウジング112aの側壁112cに近接するように配置されて、上記したようにモータハウジング112a内を流通する冷媒によって冷却されるようにしている。
【0037】
インバータ回路113(特に、スイッチング素子)には、このインバータ回路113の温度Tiを検出する温度センサ113bと、インバータ回路113を流れる電流値を検出する電流センサ113cとが設けられ、各センサ113b、113cからの検出信号は、後述する制御装置200に入力されるようにしている。
【0038】
室内ユニット300は、樹脂製の空調ケース310内に上記した蒸発器150に加えて、送風機151、内外気切替えドア320、加熱器330等が配設されたものであり、車室内のインストルメントパネル内に搭載されている。
【0039】
送風機151は、空調ケース310内に空調用空気を取り入れて、蒸発器150、加熱器330に空調用空気を供給するものであり、蒸発器150の上流側に設けられている。送風機151は、後述する制御装置200によって、その作動が制御される。
【0040】
送風機151の更に上流側には、空調用空気として、車室内空気(内気)と車室外空気(外気)のいずれかを選択して取り入れるための内外気切替えドア(本発明における切替え手段に対応)320が設けられている。内外気切替えドア320は、後述する制御装置200によって、その回動位置(内気側あるいは外気側のいずれかを開く位置)が制御される。
【0041】
内外気切替えドア320の内気側に繋がる領域には内気の温度を検出する内気温センサ320aが設けられ、内外気切替えドア320の外気側に繋がる領域には外気の温度を検出する外気温センサ320bが設けられ、各センサ320a、320bによって検出された温度信号は、後述する制御装置200に入力される。
【0042】
蒸発器150の下流側にはエンジンの温水を加熱源として空調用空気を加熱する加熱器330が設けられている。蒸発器150と加熱器330との間には蒸発器150で冷却された空気と、加熱器330で加熱された空気との混合割合を調節するエアミックスドア340が設けられており、このエアミックスドア340は、後述する制御装置200によってその作動が制御される。
【0043】
そして、空調ケース310の加熱器330の下流側には、複数の吹出し口350が設けられ、車室内の所定部位に接続されている。
【0044】
制御装置200は、上記温度センサ113b、電流センサ113c、内気温センサ320a、外気温センサ320bおよびユーザが入力するエアコン要求信号(図示せず)、設定温度信号(図示せず)等からの各検出信号に基づき、インバータ回路113(即ち、モータ112、圧縮機構111)、冷却ファン121、送風機151、内外気切替えドア320、エアミックスドア340の作動を制御する。
【0045】
また、制御装置200には、図2に示すように、インバータ回路113の温度領域を複数に区分け(温度の低い領域から順にA、B、C、D)した特性図が予め記憶されており、検出される温度に対応する温度領域(本発明における所定温度であり、B、C、Dに対応する)に応じて、冷却ファン121、送風機151、内外気切替えドア320の作動を制御するようにしている(詳細後述)。
【0046】
次に、上記構成に基づく空調装置10の作動について説明する。まず、基本の制御として、制御装置200は、エアコン要求信号を受けると、設定温度信号、内気温センサ320aおよび外気温センサ320bからの温度信号等を用いて、予め定められた演算式に基づいて必要吹出し温度を演算する。そして、算出された必要吹出し温度に応じて、インバータ回路113を介してモータ112の回転数を調節して、圧縮機構111を目標回転数で作動させる。合わせて、冷却ファン121、送風機151を目標回転数で作動させ、内外気切替えドア320、エアミックスドア340の回動位置を目標位置に可変する。
【0047】
空調用空気は、送風機151によって、内外気切替えドア320の開かれた側から取り入れられ、蒸発器150に供給され、蒸発器150を流通する冷媒によって冷却される。この冷却された空気と、一部、加熱器330によって加熱される空気との混合割合がエアミックスドア340によって調節され、設定温度に沿うように温調された空調用空気は、吹出し口350から吹出される。
【0048】
ここで、インバータ回路113は、モータハウジング112a内を流通する吸入冷媒によって冷却されることになるが、インバータ回路113の作動状態やエンジンからの輻射熱の状態等によっては、吸入冷媒だけではインバータ回路113の冷却が充分にまかなえない場合がある。本発明においては、このような冷却不足を解決する制御を持たせており、以下、図3、図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0049】
まず、図3に示すように、制御装置200は、各イニシャライズおよび初期設定を行い(ステップS100)、上記のように各種入力信号を読み込む(ステップS110)。ステップS120で圧縮機構111の運転要求がある(エアコン要求信号有り、あるいは必要吹出し温度に基づく圧縮機構111の作動要)と判定すると、ステップS130で温度センサ113bから得られるインバータ回路113の温度Tiが特性図中のA領域に属するか否かを判定する。インバータ回路113の温度Tiが最も低いA領域に属すると判定すると、ステップS140で圧縮機構111を目標回転数で作動させる。これは、上記通常の制御の場合に対応する。
【0050】
ステップS130で否と判定した場合は、ステップS150でインバータ回路113の温度TiがA領域よりも1ランク高いB領域に属するか否かを判定し、B領域に属すると判定すると、ステップS160で回転数下降保護が必要か否かを判定する。ここで、回転数下降保護とは、インバータ回路113におけるモータ供給電流値が許容電流値を越えるようであれば、インバータ回路113を保護するために、強制的に圧縮機構111を停止させるものであり(ステップS180)、その必要が無いと判定すれば、ステップS170でモータ112の回転数を可変(上昇、低下)すると共に、吸入冷媒の温度を積極的に低下させて、インバータ回路113に対する冷却効果を高めるようにする。
【0051】
ここで、本発明者らの知見によれば、モータ112の回転数に対するインバータ回路113の温度特性は、吸入冷媒量の増加による冷却効果とインバータ回路113自身の発熱量とのバランスにより、所定の回転数で極小値を取るものと成る。即ち、モータ112の回転数が比較的低い場合(所定の回転数より低い場合)には、モータ112の回転数を上昇させる程、吸入冷媒量は増加され冷却効果が大きくなり、インバータ回路113の温度Tiが低下する。一方、モータ112の回転数が比較的高い場合(所定の回転数より高い場合)には、モータ112の回転数を上昇させる程、モータ駆動回路113自身の発熱量が増大して吸入冷媒による冷却効果を上回るため、インバータ回路113の温度Tiが上昇する。
【0052】
よって、ステップS170ではまず、モータ112の回転数が所定の回転数より低い場合は、インバータ回路113を介して回転数を上昇させ、逆に高い場合は、回転数を低下させる。そして、凝縮器120の冷却ファン121の回転数を上昇させて(冷却ファン121の能力を上げて)冷却風量を増加させる。更に、内気温センサ320a、外気温センサ320bによって得られる空気温度から温度の低い方の空気を取り入れできるように、内外気切替えドア320の回動位置を可変し、温度の低い方の空気を蒸発器150に供給する。
【0053】
すると、モータ112の回転数の可変(上昇、低下)により、インバータ回路113の温度Tiは極小値側に近づき低下される。加えて、冷却ファン121による冷却風量の増加によって冷凍サイクル100の高圧側冷媒の圧力、温度が低下され、これに伴い低圧側冷媒の圧力、温度が低下する。更に、蒸発器150に供給される温度の低い空気によって冷媒の吸熱が抑えられ、冷媒の温度が低下する。このように、モータハウジング112a内への吸入冷媒量の温度低下により、インバータ回路113は、効果的に冷却される。
【0054】
ステップS150で否と判定した場合は、更にステップS190でインバータ回路113の温度TiがB領域よりも1ランク高いC領域に属するか否かを判定し、C領域に属すると判定すると、ステップS200でステップS160と同様に回転数下降保護が必要か否かを判定する。回転数下降保護の必要が無いと判定すれば、ステップS210で、ステップS170に対して更に吸入冷媒の温度を低下させて、インバータ回路113に対する冷却効果を高めるようにする。
【0055】
即ち、ステップS210ではステップS170におけるモータ112の回転数可変、凝縮器120の冷却ファン121の回転数上昇、内外気切替えドア320の回動位置の可変に加えて、送風機151の回転数を低下させて(送風機151の能力を下げて)送風量(空調用空気の空気量)を低下させる。
【0056】
すると、送風機151の送風量の低下によって冷凍サイクル100の低圧側冷媒の圧力が低下され、これに伴い低圧側冷媒の温度が低下されるので、モータハウジング112a内への吸入冷媒の温度はステップS170に対して更に低下され、インバータ回路113は、効果的に冷却される。
【0057】
尚、ステップS190で否と判定した場合は、インバータ回路113の温度Tiは特性図中最も高いD領域に属し、また、ステップS200で否と判定すれば回転数下降保護が必要であることから、ステップS220で圧縮機構111を強制的に停止させる。
【0058】
一方、ステップS120で圧縮機構111の運転要求が無いと判定した場合は、図4に示すステップS230以下に進む。ステップS230以下では、圧縮機構111が停止状態(冷凍サイクル100が停止状態)にあっても、例えばエンジンルームにおけるエンジンからの輻射熱等によって、インバータ回路113の温度Tiが上昇して、損傷に至る可能性があることから、その不具合を防止するためのフローとしている。
【0059】
即ち、ステップS230でインバータ回路113の温度TiがA領域に属するか否かを判定し、A領域に属すると判定すると、特にインバータ113の冷却は不要であり、圧縮機構111を停止状態とする(ステップS240)。
【0060】
ステップS230で否と判定した場合には、ステップS250でインバータ回路113の温度TiがB領域に属するか否かを判定し、B領域に属すると判定すると、ステップS260でインバータ回路113の冷却を行う。即ち、ステップS260ではインバータ回路113を介してモータ112を作動させ、圧縮機構111を作動状態とし、冷却ファン121を作動状態とし、内外気切替えドア320の回動位置を可変し、内気と外気のうち温度の低い方の空気を取り入れるようにする。
【0061】
すると、圧縮機構111の作動により冷凍サイクル100内を冷媒が循環し、吸入冷媒によりインバータ回路113が冷却される。加えて、冷却ファン121を作動させることで高圧側冷媒の圧力、温度が低下され、これに伴い低圧側冷媒の圧力、温度が低下される。更に、温度の低い空気が蒸発器150に供給されることで低圧側冷媒の温度は低下され、温度低下される吸入冷媒によって、インバータ113は効果的に冷却される。
【0062】
ステップS250で否と判定した場合は、ステップS270でインバータ回路113の温度TiがC領域に属するか否かを判定し、C領域に属すると判定すると、ステップS280で回転数下降保護が必要か否かを判定する。回転数下降保護が必要なければ、ステップS290でステップS260に対して更に吸入冷媒の温度を下げるようにする。
【0063】
即ち、ステップS290では、上記したステップS170、ステップS210と同様にモータ112の回転数を可変する。そして、冷却ファン121の回転数を上昇させて冷却風量を増加させ、内外気切替えドア320の回動位置は内気と外気とで温度の低い方の空気を取り入れる側を開く。更に、送風機151の回転数を下げて、蒸発器150に供給される送風量を低下させる。
【0064】
すると、モータ112の回転数の可変により、インバータ回路113の温度Tiは極小値側に近づき低下される。そして、冷却ファン121の冷却風量増加により低圧側冷媒の温度が低下され、温度の低い空気が蒸発器150に供給されることで低圧側冷媒の温度は低下される。更に、送風機151の送風量低下により低圧側冷媒の温度が低下されるので、モータハウジング112a内への吸入冷媒の温度はステップS260に対して更に低下され、インバータ回路113は、効果的に冷却される。
【0065】
ステップS270で否(インバータ回路113の温度TiがD領域)と判定し、ステップS280で否(回転数下降保護要)と判定すれば、ステップS300で圧縮機構111を停止させる。
【0066】
尚、ステップS220、ステップS300では、制御フロー上は圧縮機構111を停止させるようにしているが、実際には、インバータ回路113の上昇し得る上限温度に合わせてステップS190、ステップS270の判定に用いるC領域を設定することで、圧縮機構111の停止を避け、圧縮機構111の停止は万一の場合の安全制御とするようにしている。
【0067】
これにより、モータ112の回転数に応じて、モータ112の回転数を可変する(上昇させる、あるいは低下させる)ことでインバータ回路113の温度Tiを低下させることができる。加えて、冷凍サイクル100内を流通する冷媒と熱交換する空気の供給条件を可変すること(冷却ファン121の冷却風量増加、送風機151の送風量低下、蒸発器150への低温側の空気の取り入れ)によって、低圧側冷媒の温度を効果的に下げることができ、温度低下された吸入冷媒によってインバータ回路113の効果的な冷却が可能となるので、モータ112を停止させること無く、モータ駆動回路113の保護が可能となる。
【0068】
また、圧縮機構111の停止時(冷凍サイクル100の停止時)においても、インバータ回路113の温度Tiに応じてモータ112を作動させて、冷凍サイクル100内の冷媒を流通させ、低温側冷媒の温度を低下させるようにしているので、インバータ回路113を効果的に保護できる。
【0069】
(第2実施形態)
上記第1実施形態においては、内外気切替えドア320の回動位置の決定に当たっては、内気と外気との温度を比較して温度の低い方の空調用空気を取り入れるようにしたが、これに限らず、簡易的な方法として、内気温センサ320a、外気温センサ320bを廃止して、単純に内気を取り入れるように内外気切替えドア320の回動位置を制御するようにしても良い。
【0070】
これは、外気温度が高く、空調装置10の必要冷房能力が大きい時に、特にインバータ回路113の冷却が必要とされるものであるので、このような場合は、冷凍サイクル100の作動によって内気と外気とでは通常、内気の方が温度が低く維持されるためである。
【0071】
(その他の実施形態)
上記実施形態においては、冷凍サイクル100の低圧側冷媒の温度を低下させる手法として、冷却ファン121の冷却風量増加、送風機151の送風量の低下、蒸発器150への低温側の空気の取り入れ、の3つを組み合わせて(併用して)使用したが(ステップS170、S210、S260、S290)、これに限らず、インバータ回路113の温度上昇の状況に応じて、それぞれ単独で対応するようにしても良い。
【0072】
例えば、ステップS170で冷却ファン121の冷却風量増加のみを織り込み、ステップS210で送風機151の送風量の低下のみを織り込むといった具合である。
【0073】
また、凝縮器120への冷却風量、蒸発器150への送風量の可変は、それぞれの冷却ファン121、送風機151の能力可変(回転数可変)によって対応せずとも、凝縮器120、蒸発器150の空気流通部に設けたドア(回動ドア、スライドドア等)やシャッタ(回動シャッタ、カーテン式シャッタ等)等によって対応するようにしても良い。
【0074】
また、インバータ回路113はモータ112に一体的に形成されるものとして説明したが、圧縮機構111あるいはモータ112に対して別置きされるものとしても良い。
【0075】
また、本空調装置10は、車両用に限らず、家庭用の空調装置や冷蔵庫等の冷凍機等に適用しても良い。
【0076】
また、圧縮機構111は、スクロール式の圧縮機構として説明したが、他のロータリ式やベーン式等のその他の形式の圧縮機構としても良く、モータ112は、3相ブラシレスDCモータに対して、他の交流モータ等でも良い。
【0077】
また、上記実施形態では、一般的な電動圧縮機110に適用したが、これに限らず、ベルト等の動力伝達装置を介してモータ112以外の駆動源にて圧縮機構111が駆動される場合とモータ112により圧縮機構111が駆動される場合とを切替えることができるようなハイブリッドタイプ圧縮機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 車両用空調装置(空調装置)
100 冷凍サイクル
110 電動圧縮機
111 圧縮機構
112 モータ
113 インバータ回路(モータ駆動回路)
120 凝縮器
121 冷却ファン
150 蒸発器
151 送風機
200 制御装置
320 内外気切替えドア(切替え手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入圧縮する圧縮機構(111)および前記圧縮機構(111)を駆動する電動式のモータ(112)が一体的に形成されると共に、前記圧縮機構(111)が吸入する吸入冷媒によって、前記モータ(112)を駆動するモータ駆動回路(113)が冷却される電動圧縮機(110)を備える冷凍サイクル(100)と、
前記モータ駆動回路(113)および前記冷凍サイクル(100)の作動を制御する制御装置(200)とを有する空調装置において、
前記制御装置(200)は、前記圧縮機構(111)が停止状態にあっても、前記モータ駆動回路(113)の温度(Ti)が所定温度を超えた時に、前記モータ駆動回路(113)によって前記モータ(112)を作動させ前記圧縮機構(111)を作動状態とすると共に、前記冷凍サイクル(100)内を流通する冷媒と熱交換する空気の供給条件を可変して、前記吸入冷媒の温度を低下させることを特徴とする空調装置。
【請求項2】
前記空気の供給条件の可変は、前記冷凍サイクル(100)内に設けられる冷媒凝縮用の凝縮器(120)に供給される冷却風の風量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の空調装置。
【請求項3】
前記凝縮器(120)には、前記冷却風を供給する冷却ファン(121)が設けられており、
前記冷却風の風量増加は、前記冷却ファン(121)の能力を上げることによって実行されることを特徴とする請求項2に記載の空調装置。
【請求項4】
前記空気の供給条件の可変は、前記冷凍サイクル(100)内に設けられる冷媒蒸発用の蒸発器(150)に供給される空調用空気の空気量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の空調装置。
【請求項5】
前記蒸発器(150)に前記空調用空気を供給する送風機(151)を有し、
前記空調用空気の空気量の減少は、前記送風機(151)の能力を下げることによって実行されることを特徴とする請求項4に記載の空調装置。
【請求項6】
前記冷凍サイクル(100)内に設けられる冷媒蒸発用の蒸発器(150)に供給される空調用空気として、室内の空気あるいは室外の空気のいずれかから選択する切替え手段(320)を有し、
前記空気の供給条件の可変は、前記蒸発器(150)に空調用空気を供給すると共に、前記切替え手段(320)によって、前記室内の空気と前記室外の空気のうち、温度の低い方の空気を選択することを特徴とする請求項1に記載の空調装置。
【請求項7】
前記冷凍サイクル(100)内に設けられる冷媒蒸発用の蒸発器(150)に供給される空調用空気として、室内の空気あるいは室外の空気のいずれかから選択する切替え手段(320)を有し、
前記空気の供給条件の可変は、前記蒸発器(150)に空調用空気を供給すると共に、前記切替え手段(320)によって、前記室内の空気と前記室外の空気のうち、前記室内の空気を選択することを特徴とする請求項1に記載の空調装置。
【請求項8】
前記モータ駆動回路(113)は、前記電動圧縮機(110)に一体的に形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の空調装置。
【請求項9】
前記冷凍サイクル(100)、前記制御装置(200)は、車両用として使用されることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−274725(P2009−274725A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194532(P2009−194532)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【分割の表示】特願2004−50257(P2004−50257)の分割
【原出願日】平成16年2月25日(2004.2.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】