説明

空間光変調器

【課題】駆動方法が簡単で、かつ高速動作が可能であり、さらに微細化が可能な空間光変調器を提供する。
【解決手段】本発明にかかる空間光変調器は、マトリックス状に配設された複数の光変調素子から構成され、前記光変調素子が、反強磁性結合を有する2つの強磁性層を含む積層体によって構成されることで、前記2つの強磁性層の磁化の方向が、電流を印加しない状態では、前記反強磁性結合によって互いに逆方向に配列するため、逆方向の電流を印加するといった初期化操作を不要とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を空間的に変調する空間光変調器に関し、特に、磁気光学効果を使って光を変調する空間光変調器において、反強磁性結合を用いることで初期化操作を不要とする空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光を空間的に変調する空間光変調器は、光情報記録装置や光学的な情報処理装置等の分野において用いられている。
【0003】
近年の情報化社会においては、大規模情報を高速に記録再生および演算処理できる装置が必要不可欠となっている。光ディスクに情報を記録する光情報記録装置においては、使用する光の波長を短波長化することで、CD(コンパクトディスク)から、DVD(デジタル・ヴァーサタイル・ディスク)、そしてブルーレイ・ディスクへと記録密度を向上させてきた。さらに、次世代の高密度光情報記録システムとして、ホログラフィ技術を利用したホログラムメモリも提案されている。ホログラフィは、2つの光ビームにより形成される位相干渉パターンを記録し、その後一方の光ビームを記録パターンに照射して再生する技術であり、光の入射角度や波長、あるいは、記録箇所をわずかに移動させる等により多重記録が可能である。したがって、この技術を光情報記録システムに適用することで光ディスクの記録密度を飛躍的に向上することができる。
【0004】
ホログラムメモリでは、光の強度、位相あるいは偏光等を変化させる光変調素子を2次元的に複数個配置した空間光変調器を使って、情報に応じて2次元デジタルパターンとして変調された情報光を記録媒体に記録する。したがって、光情報記録システムにおいては、大量の情報を高速かつ高密度に記録する必要から、ホログラムメモリに用いられる空間光変調素子としては、微細加工が可能であり、しかも可視光領域の短波長光を高速で変調できることが望まれる。
【0005】
また、光の並列性・高速性を活かすことで情報の飛躍的な演算処理能力が発揮できる光コンピュータ、さらには半導体デバイス間を光配線を使って接続するシリコンフォトニクスといった光情報処理装置に関する研究も行われている。かかる光情報処理装置においても、光を空間的に変調(スイッチング)する必要があり、空間光変調器としては超高速での動作が望まれている。
【0006】
従来の空間光変調器としては、一般に液晶素子やデジタルマイクロミラーデバイスが用いられている。液晶を用いた空間光変調器では、1マイクロメートル以下の微細化は困難であると共に応答時間もマイクロ秒と比較的遅いという問題がある。また、デジタルマイクロミラーデバイスを用いる場合には、製造方法の複雑さからコスト低下が困難であることや、微細化の問題が生じることが懸念されている。
【0007】
一方、素子の構造が比較的簡単で、微細加工が可能であり、しかも高速での光変調が可能な空間光変調素子として、磁気光学効果を利用した空間光変調器が開発された。かかる磁気光学効果を利用した空間光変調器は、独立に磁化の方向を選択可能な複数の磁気光学素子で構成され、各素子の磁化の方向に応じて、光の偏光方向を所定の角度ずつ回転させられる。したがって、各素子の磁化の方向を任意に選択することにより、空間的に変調された光を生成することができる。
【0008】
上記、磁気光学効果を利用した空間光変調器としては、例えば特許文献1および特許文献2に開示されたものが知られている。特許文献1に記載された空間光変調器では、光変調素子に用いる磁気光学材料として磁性ガーネットが用いられており、各素子の磁化の方向は隣接する素子との間に配設されている電極配線を流れる電流から発生する合成磁界の向きによって制御される。
【0009】
また、特許文献2に記載された空間光変調器では、磁化方向が固定の磁化方向固定層と、非磁性材料で構成される分離層と、電流の印加により磁化方向が反転する磁化方向可変層との積層構造を有する磁気光学材料によって光変調素子は構成されている。ここで、磁化方向可変層の磁化の方向はスピン注入効果によって制御され、磁気光学材料としては面内磁化膜であるCo−Fe−Si膜が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−221841
【特許文献2】特開2008−83686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のような従来の磁気光学材料を用いた空間光変調器では、光変調素子を構成する磁気光学材料の磁化方向を初期状態に戻すための初期化操作が必要であり、プラスおよびマイナスの両方向に電流を印加する必要があるため、素子の駆動回路が複雑になると共に、応答速度も遅くなるという問題がある。
【0012】
また、特許文献1および特許文献2に記載された空間光変調器で用いられている磁気光学材料は、可視光領域の短波長光に対する磁気光学効果が大きくないため、高密度の情報を記録するホログラムメモリシステムへの利用は困難である。
【0013】
さらに、特許文献2に記載された空間光変調器では、磁気光学材料として面内磁化膜が用いられているため、光変調素子のサイズが小さくなった場合に磁化の方向が不安定となり、微細化が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる空間光変調器は、マトリックス状に配設された複数の光変調素子を備え、前記光変調素子が、反強磁性結合を有する2つの強磁性層を含む積層体により構成され、前記2つの強磁性層うちどちらか一方の強磁性層の磁化の方向を制御することによって光を変調することを特徴としている。
【0015】
かかる構成によれば、磁界を印加しない初期状態では前記2つの強磁性層の磁化の方向は互いに逆方向が安定となり、前記光変調素子の初期化操作が不要となるため高速駆動が可能となると共に、消費電力を抑えることが可能となるという効果を奏する。
【0016】
また本発明にかかる空間光変調器は、前記光変調素子を構成する強磁性層の磁化の方向を、電流を印加する方向によって制御するための電極が配設されており、前記電極に印加する電流が1つの方向のみであることを特徴としている。
【0017】
かかる構成によれば、前記電極に接続されている駆動回路は、前記電極にプラスあるいはマイナスのどちらか一方の電位のみを接続すればよいため、前記駆動回路を簡略化することが可能となるという効果を奏する。
【0018】
また本発明にかかる空間光変調器は、前記光変調素子を構成する前記強磁性層が、可視光領域の短波長光に対して大きな磁気光学効果を有するCo/Pd垂直磁化膜によって構成されていることを特徴としている。
【0019】
かかる構成によれば、光変調素子の微細化が可能となると共に、光情報記録装置に用いた場合には、高密度の情報記録が可能となるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる空間光変調器は、反強磁性結合を有する2つの強磁性層を含む積層体によって光変調素子が構成され、磁界を印加しない状態では、前記2つの強磁性層の磁化の方向は互いに逆方向が安定となる。そのため、光変調素子の初期化操作が不要となり、応答速度が速く、微細加工が可能であり、しかも低消費電力でかつ簡単な駆動方式が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態の空間光変調器を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示した光変調素子を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示した光変調素子の動作原理を示す説明図であり、(a)は印加電流による第2の強磁性層の磁化の変化、(b)は動作方法を説明する図をそれぞれ示している。
【図4】第2の実施形態の空間光変調器を模式的に示す平面図である。
【図5】図4に示した光変調素子の動作原理を示す説明図であり、(a)は光変調素子を模式的に示す断面図、(b)は動作方法を説明する図をそれぞれ示している。
【図6】実施例の光変調素子の要部を示す断面図である。
【図7】図6に示す光変調素子の磁気特性であり、(a)はプラスおよびマイナス両方向に磁界を印加した場合の磁化曲線、(b)はプラス方向のみに磁界を印加した場合の磁化曲線をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の空間光変調器では、磁気光学材料により構成される光変調素子に光が入射する場合、磁気光学材料の磁化の方向によって入射した光の偏光方向が変化する磁気光学効果を利用する。以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0023】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる空間光変調器10を模式的に示す平面図であり、図2は、図1で示した光変調素子11の構成の一例を模式的に示す断面図である。空間光変調器10は、反射型であって、図1に示すように、光変調素子11がマトリックス状に2次元配列されており、光変調素子11の上部には上部透明電極12を備えている。本実施形態では、空間光変調器10は、さらに、電流源13と、下部電極選択部14とを備える構成としたが、これらの構成は、空間光変調器10と別の構成とし、例えば図示しないが、駆動制御部を空間光変調器10の外部に設ける構成としてもよい。
【0024】
上部透明電極12は透明導電性材料であって、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)等から構成される。また、電流源13は、上部透明電極12に一方向の直流電流を供給するものである。
【0025】
図2に示すように、光変調素子11は、下部電極層18と、第1の強磁性層15と、中間層17と、第2の強磁性層16とをこの順番で積層した積層体により構成される。ここで、第1の強磁性層15と第2の強磁性層16とは、中間層17を介して反強磁性結合を有しており、外部磁界を印加しない状態では第1の強磁性層15と第2の強磁性層16の磁化の方向は互いに逆方向となる。また、入射光側に設置されている第2の強磁性層16の保磁力は、下部電極層18側に設置されている第1の強磁性層15の保磁力より小さく設定されている。
【0026】
このように、強磁性層16の保磁力を強磁性層15の保磁力より小さく設定することにより、第1の強磁性層15の磁化の向きが安定した基準として機能する。すなわち光変調素子に電流を印加しない状態と印加した状態において、第2の強磁性層16の磁化の向きだけが確実に変化し、制御できるという効果がある。
【0027】
下部電極層18は金属材料であって、例えば、Cu,Al,Ta等の金属や合金等からなる一般的な電極用金属材料から構成され、また、隣り合った光変調素子11間の隙間には酸化シリコンや酸化アルミニウム等からなる絶縁部材19が配設されている。さらに、下部電極層18は、下部電極選択部14に接続されており、入射光が変調される領域を選択するために、所定の光変調素子11をスイッチ(20a、20b、20c)を介してグランドに接地することで、所定の光変調素子に一方向の電流を印加する。
【0028】
第1の強磁性層15および第2の強磁性層16に用いる材料としては、Co,Fe,Ni等の金属や合金等からなる一般的な導電性の磁性材料が挙げられるが、特に、素子を微細にしたときの磁化の安定性の観点からCo/Pd多層膜,Co/Pt多層膜,CoPt合金膜,FePt合金膜等の垂直磁化膜が好ましい。
【0029】
中間層17は、第1の強磁性層15および第2の強磁性層16に挟まれた中間に位置し、2つの強磁性層間に反強磁性結合を生じさせる材料である必要があり、Ru,NiO等が挙げられる。このうち、大きな反強磁性結合が発生でき、さらに第1の強磁性層15および第2の強磁性層16として垂直磁化膜を用いることができるという観点からRuが特に好ましい。
【0030】
次に、本実施形態の空間光変調器10の動作方法について図2および図3を使って説明する。
【0031】
まず、図2のスイッチ20a、20bに示すように、電流を印加しない初期状態では、第1の強磁性層15の磁化は、プラス方向(上方向)を向いており、第2の強磁性層16の磁化は、反強磁性結合によって第1の強磁性層15とは逆方向のマイナス方向(下方向)を向いている。すなわち、図3の(a)において電流が0の場合には、強磁性層16の磁化方向が下方向を向いていることを示す。
【0032】
下部電極選択部14によって選択された光変調素子11はスイッチ20cを介してグランドに接地されて、選択された光変調素子11にのみ電流が印加される。この場合に、選択された光変調素子11では、周知のスピン注入効果によって、第2の強磁性層16の磁化は、第1の強磁性層15の磁化と同じ方向に反転する。すなわち、図3の(a)において電流がIの場合には、強磁性層16の磁化方向が反転して上方向を向いていることを示す。
【0033】
偏光板21を使って所定の偏光方向を有して空間光変調器10に入射した光は、第2の強磁性層16の磁化の方向に従って磁気光学効果によりその偏光方向が回転する。選択された光変調素子11に入射した光は、選択されていない素子に入射した光とは逆方向に偏光方向が回転するため、この偏光方向の変化を偏光板22を透過する光の強度として制御する。すなわち、図3の(a)において駆動電流を印加しない(0)か、駆動電流Iを印加するかに対応して、透過光のONとOFFとを制御できるのである。
【0034】
ここで、選択した光変調素子11の第2の強磁性層16の磁化の方向を、さらに反転させて初期状態に戻す場合には、第1の強磁性層15との反強磁性結合を使うために、グランドに接地されているスイッチ20cを開放するのみでよく、逆方向の電流を印加するといった初期化の操作は不要である。
【0035】
以上のような空間光変調器では、光の空間変調は、グランドに接地する変調素子を選択することで行うことができ、しかも初期化のために逆方向の電流を流す等の操作も不要であるため、駆動回路が簡略化できると共に、動作速度の高速化が可能となる。
【0036】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態にかかる空間光変調器30を模式的に示す平面図であり、図5は、図4で示した光変調素子31の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【0037】
本実施形態の空間光変調器30は、反射型であって、図4に示すように、光変調素子31はマトリックス状に2次元配列しており、各光変調素子の磁化方向を個別に制御するための磁界を発生するX側電極ライン46およびY側電極ライン45を備えている。尚、本実施形態では、空間光変調器は、さらに、電流源34と、X側電極ライン選択部32とY側電極ライン選択部33とを備える構成としたが、これらの構成は、空間光変調器30と別の構成とし、例えば図示しないが、駆動制御部を空間光変調器10の外部に設ける構成としてもよい。
【0038】
光変調素子31は、第1の強磁性層40と、中間層42と、第2の強磁性層41とをこの順番で積層した積層体により構成される。隣り合った光変調素子31の間には、X側およびY側の電極ラインが配設されており、図5(a)では、片方の電極ラインのみを図示している。また、隣り合った光変調素子31およびそれぞれの電極ラインは、絶縁部材43を介して電気的に絶縁されている。
【0039】
ここで、第1の実施形態と同様に、第1の強磁性層40と第2の強磁性層41とは、中間層42を介して反強磁性結合を有しており、外部磁界を印加しない状態では第1の強磁性層40と第2の強磁性層41の磁化の方向は互いに逆方向となる。また、入射光側に設置されている第2の強磁性層41の保磁力は、第1の強磁性層40の保磁力より小さく設定されている。
【0040】
光変調素子31の駆動は、X側電極ライン46およびY側電極ライン45に電流を印加することで行う。ここで、X側電極ライン46およびY側電極ライン45による通電が合致した選択素子47のみが合成磁界によって当該光変調素子の第2の強磁性層41の磁化の方向が反転する。さらに、選択した光変調素子の第2の強磁性層41の磁化の方向を、初期状態に戻す場合には、第1の実施形態と同様に、第1の強磁性層40との反強磁性結合を使うために、X側電極ライン46およびY側電極ライン45の少なくとも一方の通電を切断するのみでよい。
【0041】
入射光の変調は、第1の実施形態と同様に、第2の強磁性層41の磁化の方向を変化させることで磁気光学効果による偏光状態の変化を用いる。
【0042】
本実施形態の空間光変調器においては、光の空間変調は、通電するX側電極ライン46およびY側電極ライン45を選択することで行うことができ、しかも第1の実施形態と同様に、初期化のために逆方向の電流を流す等の操作も不要であるため、駆動回路が簡略化できると共に、動作速度の高速化が可能となる。
【0043】
本実施形態では、透明電極を使用する第1の実施形態に比較すると、X側電極ラインおよびY側電極ラインの電極材料としては、例えば、Cu,Al,Ta等の金属や合金等からなる一般的な電極用金属材料が使用可能であることから、低コスト化に有利である。また、光変調素子の上側および下側に電極が無いことから、透過型の空間光変調器を構成する場合に特に好適に用いることができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、ライン状での光変調制御に適していることから、逐次的にライン状に情報の演算処理を行う光情報処理装置などの用途に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0045】
図6は、本実施例にかかる空間光変調器を構成する光変調素子50の要部を示す断面図である。
【0046】
本実施例の光変調素子50は、反射型であってその平面配置としては前記第2の実施形態と同様にX側電極ラインおよびY側電極ラインとにより合成磁界を発生させるようにした光変調器として使用した。
【0047】
光変調素子50は、中間層53を介して反強磁性結合を有する第1の強磁性層51と第2の強磁性層52とを含む積層体から構成される。熱酸化シリコン基板55上に、Pd層とRu層とPd層とをこの順番で積層した積層体からなる下地層54を形成し、その上に第1の強磁性層51であるCo/Pd多層膜、中間層53であるRu膜、さらに第2の強磁性層52であるCo/Pd多層膜がこの順番に積層されている。
【0048】
本実施例では、第1の強磁性層51および第2の強磁性層52として、垂直磁化膜であるCo/Pd多層膜を使用することにより、面内磁化膜を使用した場合に比較して、微細加工を行った場合に磁化がより安定になることから、素子の微細化が可能という効果がある。また、本実施例における、熱酸化シリコン基板上に形成した、Pd層とRu層とPd層とからなる積層体からなる下地層は、Co/Pd多層膜の垂直磁気特性を向上させるという役割を果たすものである。
【0049】
この光変調素子50の物理特性を図7に示す。図7は、光変調素子50の要部である積層体に膜面垂直方向に磁界を印加した時の磁化の変化を示す図であり、(a)はプラス方向(上向き)およびマイナス方向(下向き)に磁界を印加した場合であり、(b)はプラス方向(上向き)にのみ磁界を印加した場合をそれぞれ示している。
【0050】
本実施例では、第2の強磁性層52の保磁力は、第1の強磁性層51の保磁力より小さくなるように、各強磁性層を構成するCo/Pd多層膜のPd層厚を設定している。図7(a)に示すグラフには、印加磁界が小さい場合に磁化が小さくなっており、これは、磁界がゼロ近傍では、第2の強磁性層52の磁化の方向が、第1の強磁性層51とは逆方向となるように反転しているためである。
【0051】
したがって、図7(b)に示すように、プラス方向にのみ磁界を印加した場合には、第1の強磁性層51の磁化の方向は変化せず、第2の強磁性層52の磁化の方向のみが印加した磁界の大きさに応じて変化し、しかも磁界がゼロの場合には、第2の強磁性層52の磁化の方向は、第1の強磁性層51の磁化の方向とは逆方向に配列する。
【0052】
これにより、初期化操作を行うことなく、磁気光学効果によって入射光の偏光状態を変化させることが可能となり、本発明の光変調素子が設計可能であることが分かる。また、本実施例では、可視光領域の短波長光に対して大きな磁気光学効果を有することが周知の材料であるCo/Pd多層膜によって磁気光学素子が構成されていることから、短波長光を使用する高密度光情報記録装置などの用途に特に好適に用いることができる。
【0053】
以上、第1、第2の実施形態および実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、印加電流により磁化の方向が反転する保磁力の小さい強磁性層は、入射光側に配設しているが、これに限定されるものではない。ガラスなどの透明基板を用いた透過型の空間光変調器においては、前記保磁力の小さい強磁性層は、入射光側とは反対の透明基板側に配設するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明にかかる空間光変調器は、大規模情報を高速に記録再生あるいは演算処理する光情報記録装置あるいは光学的な情報処理装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10、30 空間光変調器
11、31、50 光変調素子
12 上部透明電極
13、34 電流源
14 下部電極選択部
15、40、51 第1の強磁性層
16、41、52 第2の強磁性層
17、42、53 中間層
18 下部電極層
19、43 絶縁部材
20a,20b、20c スイッチ
21、22 偏光板
32 X側電極ライン選択部
33 Y側電極ライン選択部
45 Y側電極ライン
46 X側電極ライン
47 選択素子
54 下地層
55 熱酸化Si基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス状に配設された複数の光変調素子を備えた空間光変調器において、
前記光変調素子が、反強磁性結合を有することで磁界がゼロの状態で磁化の方向が互いに反対の方向となる2つの強磁性層を備え、
前記2つの強磁性層のどちらか一方の磁化の方向を制御することによって光の偏光状態を変化させることを特徴とする、空間光変調器。
【請求項2】
上記光変調素子を構成する上記2つの強磁性層のどちらか一方の磁化の方向を電流の流れる方向によって制御する電極が配設されており、
前記電極を流れる電流の方向が1つの方向のみであることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
上記光変調素子を構成する上記2つの強磁性層が垂直磁化膜であることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項4】
上記光変調素子を構成する上記2つの強磁性層がコバルトとパラジウムとの積層膜であることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項5】
上記光変調素子が、中間層を介して反強磁性結合を有する上記2つの強磁性層を積層した積層体で構成され、
前記中間層がルテニウムであることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−262190(P2010−262190A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114082(P2009−114082)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】