説明

窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法

【課題】 高熱伝導性及び樹脂等への充填性に優れ、数μm〜数十μmの粒径を有し、放熱性の樹脂やグリース、接着剤、塗料等の放熱材料用フィラーとして有用な窒化アルミニウム焼結顆粒を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】 アルミナ及び/又はアルミナ水和物粉末を噴霧乾燥して得られた比表面積2〜500m/gである多孔質アルミナ顆粒を窒素流通下、還元剤の存在下に還元窒化し、多孔質窒化アルミニウム顆粒とし、次いで、該多孔質窒化アルミニウム顆粒を焼成して焼結せしめることにより、窒化アルミニウム焼結顆粒を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼結顆粒及びその製造方法に関するものである。詳しくは、高熱伝導性及び樹脂等への充填性に優れ、数μm〜数十μmの粒径を有し、放熱性の樹脂やグリース、接着剤、塗料等の放熱材料用フィラーとして有用な窒化アルミニウム焼結顆粒を簡便に製造する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは高い熱伝導性と優れた電気絶縁性を有し、高熱伝導性基板、放熱部品、絶縁放熱用フィラーなどとして利用されている。近年、ノートパソコンや情報端末などに代表される高性能電子機器に搭載されるICやCPUなどの半導体電子部品はますます小型化や高集積化が進み、これに伴って放熱部材も小型化が必須となってきている。これらに用いられる放熱部材としては、例えば樹脂やゴムなどのマトリックスに高熱伝導フィラーを充填させた放熱シートやフィルム状スペーサー(特許文献1)、シリコーンオイルに高熱伝導フィラーを充填させて流動性を持たせた放熱グリース(特許文献2)、エポキシ樹脂に高熱伝導フィラーを充填させた放熱性接着剤(特許文献3)等が挙げられる。また、高熱伝導フィラーとしては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、グラファイト、各種金属粉末等が用いられる。
【0003】
ところで、放熱材料の熱伝導率を向上させるためには、高熱伝導性を有したフィラーを高充填することが重要であり、そのため球状の数μm〜数十μmの窒化アルミニウム粒子からなる窒化アルミニウム粉末が望まれている。しかし、一般的な方法で製造された窒化アルミニウム粉末はサブミクロンオーダーの粒子が多く、数十μm程度の大粒径の窒化アルミニウム粒子を得るのは困難である。
【0004】
窒化アルミニウム粉末を球状化する方法として、次のような方法が開示されている。
例えば、特許文献4には球状アルミナ粒子の還元窒化によって球状窒化アルミニウム粒子を製造する方法、また、特許文献5には窒化アルミニウム粉末に焼結助剤、結合剤及び溶剤を加えて噴霧乾燥し、得られた球状造粒粉を焼結する方法、さらに、窒化アルミニウム粉末を、アルカリ土類元素、希土類元素の酸化物又は窒化物、加熱中の分解により上記のものを生じる塩、水酸化物、ハロゲン化物、アルコキシド等の前駆体よりなるフラックス中で熱処理或いはフラックス成分を予め加えて合成された窒化アルミニウム系の組成物を直接熱処理することにより球状化させた後、フラックスを溶解して単離する方法も提案されている(非特許文献)。
【0005】
しかし、特許文献4の方法は窒化アルミニウムへの転化率の上昇に伴って、粒子内に空洞が生じ、真球状のものが得られ難い。また、真球状に近いものが得られたとしても、かかる空洞により粒子の圧壊強度が小さく、樹脂に充填した際に泡立ち易いなどの問題がある。一方、特許文献5に記載の方法は、窒化アルミニウムに焼結助剤を添加した球状造粒体を焼結するため、空洞が無く、圧壊強度が高い粒子を得ることができる。しかし、原料として窒化アルミニウム粉末を使用することより、原料が高価となるばかりでなく、焼結により粒子同士が結合しやすいという問題がある。また、特許文献1に記載の方法は、原料が高価であると共に、工程が複雑であり、工業的な実施において不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−146214号公報
【特許文献2】特開平6−209057号公報
【特許文献3】特開平6−17024号公報
【特許文献4】特開平4−74705号公報
【特許文献5】特開平3−295853号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】セラミックス,39,2004年9月 692−695頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、高熱伝導性及び充填性に優れた数μm〜数十μmの粒径を有し、放熱材料用フィラーとして有用な窒化アルミニウム粉末を比較的安価に、且つ、簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、フィラー用球状窒化アルウム粉末における前記目的を達成すべく、鋭意研究を行った。その結果、多孔質のアルミナ顆粒またはアルミナ水和物顆粒(本願明細書において、これらを「多孔質アルミナ顆粒」と総称する。)を原料とし、これを還元窒化して多孔質窒化アルミニウム顆粒とした後、該多孔質窒化アルミニウム顆粒を焼成して焼結せしめることにより、アルミナ顆粒由来の微細な細孔を無くし、内部に中空部を有さない、緻密な窒化アルミニウム焼結顆粒を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、多孔質アルミナ顆粒を1400℃以上、1700℃以下の温度で還元窒化して多孔質窒化アルミニウム顆粒とする還元窒化工程と、上記還元窒化工程において得られた多孔質窒化アルミニウム顆粒を、1580℃以上、1900℃以下で焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする窒化アルミニウム顆粒の製造方法である。
【0011】
本発明において、前記多孔質アルミナ顆粒は、平均粒径が10〜200μm、BET比表面積が2〜250cm/gであることが好ましい。
また、前記還元窒化工程及び焼結工程を、多孔質アルミナ顆粒及び多孔質窒化アルミニウム顆粒にカーボン粉末を混合した状態で行うことが好ましい。
更に、前記還元窒化工程と焼結工程とを同一炉内にて連続して行うことが、還元窒化後の温度低下、再加熱を必要とせず、経済的である。
本発明の製造方法により、平均粒径10〜200μm、BET比表面積が0.05cm/g以上、0.5cm/g未満の緻密な窒化アルミニウム焼結顆粒を得ることができる。
【0012】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒は、放熱材料用フィラーとして有用である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法よれば、例えば、アルミナ又はアルミナ水和物粉末を成形して得られる凝集体よりなる、多孔質アルミナ顆粒を原料として、還元窒化と焼結を行うため、窒化アルミニウム粉末を原料とする従来の方法に対して、比較的安価に窒化アルミニウム焼結顆粒を得ることができる。
【0014】
また、大粒径のアルミナ顆粒を原料として還元窒化を行う従来の方法によれば、中空体が出来易いのに対して、本発明の製造方法は、一旦、多孔質アルミナ顆粒を原料として使用し、これを一旦多孔質窒化アルミニウム顆粒とした後に焼結することにより、中実で、熱伝導性、樹脂等への充填性の高い窒化アルミニウム焼結体顆粒を得ることが可能である。
【0015】
しかも、後で詳細に説明するように、前記還元窒化及び焼結を、特定量のカーボン粉末を混合した状態で実施した場合には、顆粒同士の結合を防止することが出来、安定して目的とする窒化アルミニウム焼結顆粒を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例2において得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の粒子構造を示す走査電子顕微鏡写真
【図2】実施例2において得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の拡大された粒子構造を示す走査電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の球状窒化アルミニウム粉末の製造方法について詳細に説明する。
【0018】
〔出発原料〕
本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法において、出発原料としては、多孔質アルミナ顆粒が使用される。具体的には、多孔質のアルミナ顆粒またはアルミナ水和物顆粒が挙げられる。更に具体的には、α、γ、θ、δ、η、κ、χ等の結晶構造を持つアルミナやベーマイトやダイアスポア、ギブサイト、バイヤライト、トーダイトなど加熱により脱水転移して最終的にα−アルミナに転移する材質が全て利用可能である。多孔質アルミナ顆粒は、上記材質の単独或いは種類の異なるものが混合された状態で用いてもよいが、特に反応性が高く、制御が容易なα−アルミナ、γ−アルミナ、ベーマイトが好適に用いられる。
【0019】
本発明において、多孔質アルミナ顆粒は、多孔質の構造を有するものであれば、比表面積は特に制限されるものではないが、2〜250m/gの比表面積を有するものが好ましい。上記比表面積が2m/g未満であると、顆粒の形状が崩れやすく、250m/gを超えると得られる窒化アルミニウム焼結顆粒の真球度が低くなる傾向がある。
【0020】
上記多孔質アルミナ顆粒は、アルミナ粉末又はアルミナ水和物粉末(以下、これらを「アルミナ粉末」と総称する。)を造粒により凝集させた凝集体の形態が一般的であり、公知の造粒方法によって得ることができる。具体的には、アルミナ粉末を噴霧乾燥による造粒、転動造粒などが挙げられるが、多孔質体を得るためには、噴霧乾燥による造粒が好適である。また、造粒に際し、必要に応じて、分散剤やバインダ樹脂、滑剤、或いは還元窒化反応の促進剤、焼結助剤としてアルカリ土類金属化合物、希土類元素化合物、アルカリ土類元素の弗化物、アルカリ土類元素を含む複合化合物等をアルミナ粉末と混合して配合することが出来る。これらの添加剤の使用量は、公知の添加範囲で適宜決定すればよい。
【0021】
本発明において、目的とする窒化アルミニウム焼結体顆粒として、後述するように真球度の高い、球状のものを得る目的において、前記噴霧乾燥による造粒は、球状の多孔質アルミナ顆粒を効率よく得ることが可能であり、工業的に特に有利である。
【0022】
本発明においては、上記多孔質アルミナ顆粒を構成するアルミナ粉末の粒子間に存在する空隙により、これを使用した還元窒化において、溶射法によって得られる無孔質のアルミナを原料として使用する場合に比べ、得られる窒化アルミニウム顆粒の内部に空洞を生じることがないという効果を発揮することが出来る。
【0023】
〔還元窒化工程〕
本発明において、還元窒化工程は、多孔質アルミナ顆粒を還元剤の存在下に窒化して、多孔質窒化アルミニウム顆粒を製造する工程である。
【0024】
上記還元剤は公知のもの特に制限なく用いられるが、カーボンや還元性のガスが一般的に用いられる。該カーボンとしては、カーボンブラック、黒鉛および高温、反応ガス雰囲気中においてカーボン源となり得るカーボン前駆体が何ら制限なく使用できる。そのうち、カーボンブラックが重量当たりの炭素量、物性の安定性から好適である。前記カーボンの粒径は任意であるが、0.01〜20μmのものを用いるのが好ましい。また、原料の飛散防止に流動パラフィンなど液状のカーボン源を併用してもよい。
【0025】
また、還元性ガスを用いる場合は、還元性を示すガスであれば制限なく使用できる。具体的には、水素、一酸化炭素、アンモニア、炭化水素系ガスなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、上記カーボンやカーボン前駆体と併用してもよい。
【0026】
本発明において、還元剤としてカーボンを用いる場合、多孔質アルミナ顆粒とカーボンを混合し、多孔質アルミナ顆粒間にカーボンが存在する状態で使用することが、還元窒化おいて顆粒同士の凝集を防止する上で好ましい。
【0027】
また、上記混合方法としては、多孔質アルミナ顆粒とカーボンとを均一に混合可能な方法であればいずれの方法でもよいが、通常混合手段はブレンダー、ミキサー、ボールミルによる混合が好適である。
【0028】
本発明において、多孔質アルミナ顆粒とカーボンとの比率は、当量比以上ならば如何なる配合比で配合させてもよいが、前記顆粒同士の凝集を防止し、また、反応性を高めるために、多孔質アルミナ顆粒に対し、カーボンを炭素換算で、当量の1〜3倍、好ましくは1.2〜2倍配合させるのがよい。
【0029】
また、還元剤として、還元性のガスを使用する場合は、後述の反応において、理論量以上のガスを多孔質アルミナ顆粒と接触させる方法が一般的である。
【0030】
本発明の還元窒化工程における反応は、多孔質アルミナ顆粒を窒素流通下、カーボン及び/または還元性ガスの存在下で焼成することにより行われる。
【0031】
上記焼成は、1400℃以上、1700℃以下の温度で行われる。即ち、上記焼成温度が1400℃未満では窒化反応が十分進行せず、また、1700℃を超える場合は、熱伝導率の低い酸窒化物(AlON)が生成する恐れがある。また、あまり高温で還元窒化すると生成する窒化アルミニウムの結晶成長が進み易くなり、続く焼結工程において、十分に緻密化することが困難となる。
【0032】
本発明の還元窒化工程において、反応時間は、採用する条件により異なり一概に決定することは出来ないが、一般に1〜10時間、好ましくは、3〜8時間が好適である。
【0033】
上記還元窒化反応は、公知の反応装置によって行うことが可能である。具体的には、マッフル炉等の静置式反応装置、流動床等の流動式反応装置、ロータリーキルン等の回転式反応装置が挙げられる。
【0034】
上述した還元窒化工程において、多孔質アルミナ顆粒を使用することにより、多孔質の状態で内部まで十分に窒化された、多孔質窒化アルミニウム顆粒を得ることができる。ここで、上記窒化の程度を示す窒化率は、熱伝導率の観点から、高いほど好ましく、実施例において定義される窒化アルミニウム転化率で、50%以上、特に、60%以上、さらには80%以上が好ましい。本発明の方法においては、上記理由より100%の転化率が可能である。また、上記多孔質窒化アルミニウム顆粒は、前記焼成条件によって多少異なるが、一般に、0.5〜50m/g、特に、0.7〜10m/g、更には、0.9〜5m/gの比表面積を有するものが好ましい。
【0035】
〔焼結工程〕
本発明において、焼結工程は、前記還元窒化工程において得られた多孔質窒化アルミニウム顆粒を還元雰囲気下或いは中性雰囲気下で焼成することにより、かかる多孔質窒化アルミニウム顆粒を構成する窒化アルミニウム粒子を焼結せしめることにより緻密化し、窒化アルミニウム焼結顆粒を得る工程である。
【0036】
上記焼結のための焼成温度は、1580℃以上、1900℃以下、好ましくは、1600以上、1800℃以下の温度が採用される。即ち、上記焼成温度が1580℃より低い場合は焼結が十分に進行せず、また、1900℃より高い場合は、炭素が窒化アルミニウムに固溶し、熱伝導率が低下するという問題が生じる。
【0037】
また、焼成における雰囲気は、還元雰囲気下、中性雰囲気下のいずれの条件も採用することが出来るが、後述する還元焼成工程と焼結工程とを連続して実施する場合、還元窒化工程の雰囲気と同じ還元雰囲気下で行うことが好ましい。
【0038】
従って、還元雰囲気の形成は、前工程の還元窒化工程で使用した還元剤をそのまま存在させればよいが、新たに供給してもよい。特に、還元剤として使用したカーボン粉末を存在させて焼成を行うことは、焼結時に起こり易い顆粒同士の焼結を効果的に防止することができ好ましい。
【0039】
本発明の焼結工程において、焼成時間は、採用する条件により異なり一概に決定することは出来ないが、一般に、1〜24時間、好ましくは、3〜10時間が好適である。
【0040】
また、前記焼結工程は、前記還元窒化工程において使用した装置と同様な装置を使用して行うことができる。
【0041】
本発明の焼結工程により、緻密な構造を有する窒化アルミニウム焼結顆粒を得ることができる。即ち、本発明の方法によって得られる窒化アルミニウム焼結顆粒は、平均粒径10〜200μmであり、BET比表面積が0.05cm/g以上、0.5cm/g未満という細孔が殆ど存在しないものである。
【0042】
〔還元窒化工程と焼結工程との連続実施〕
本発明において、前記還元窒化工程と焼結工程とは、それぞれを別途実施することも可能であるが、温度を下げることなく、連続して実施することが、再加熱のためのエネルギーを低減できる等の効果を得ることができ、好ましい。
【0043】
具体的には、還元窒化工程で使用する反応装置より、多孔質窒化アルミニウム顆粒を取り出すことなく、該同一反応装置内で、焼結工程における焼成を連続して行う態様が挙げられる。この場合、工程の切り替えは、還元窒化工程で採用される焼成温度を、焼結工程で採用される焼成温度に調整し、必要に応じて、窒素ガスの供給量を調整するのみで行うことができ、操作上も極めて簡便となる。
【0044】
尚、還元窒化工程と焼結工程とは、焼成温度範囲が重複するため、同一の温度で実施することも可能であり、この場合は、供給する窒素ガスの流量を必要に応じて調整するだけで、これらの工程を連続して実施することができる。
【0045】
本発明の上記連続工程において、焼成時間は、前記各工程での焼成時間の合計時間で決定すればよく、一般に、2〜34時間、好ましくは、6〜18時間が好適である。
【0046】
〔酸化処理〕
本発明において、還元窒化工程等において、カーボンを使用する場合、得られる窒化アルミニウム焼結顆粒にカーボンが残存するため、酸化処理を行いかかるカーボンを除去することが好ましい。かかる酸化処理を行う際の酸化性ガスとしては、空気、酸素、など炭素を除去できるガスならば何等制限無く採用できるが、経済性や得られる窒化アルミニウムの酸素含有率を考慮して、空気が好適である。また、処理温度は一般的に500〜900℃がよく、脱炭素の効率と窒化アルミニウム表面の過剰酸化を考慮して、600〜750℃が好適である。また、酸化処理の時間は、残存するカーボン量に応じて適宜決定すればよい。
【0047】
〔用途〕
本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒は、窒化アルミニウムの性質を生かした種々の用途、特に放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤、塗料、熱伝導性樹脂などの放熱材料用フィラーとして広く用いることができる。
【0048】
ここで放熱材料のマトリックスとなる樹脂、グリースは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂、またシリコーンゴム、EPR、SBR等のゴム類、シリコーンオイルが挙げられる。放熱材料として、樹脂又はグリース100重量部あたり150〜1000重量部添加するのがよい。このような放熱材料には、本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒以外に、アルミナ、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭化珪素、グラファイトなどのフィラーを一種、あるいは数種類充填しても良い。これらのフィラーは、例えば、シランカップリング剤などで表面処理したものを用いても良い。放熱材料の特性や用途に応じて、本発明の球状窒化アルミニウム粉末とそれ以外のフィラーの形状、粒径を選択すれば良い。また、放熱材料における球状窒化アルミニウム粉末とそれ以外のフィラーの混合比は、1:99〜99:1の範囲で適宜調整できる。また、放熱材料には、可塑剤、加硫剤、硬化促進剤、離形剤等の添加剤をさらに添加しても良い。
【0049】
本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒の平均粒径は10〜200μmの範囲を取り得るが、上記フィラー用として15〜150μmが好ましく、20〜100μmがさらに好ましい。この範囲にあるものがマトリックスに高充填化し易く、他のフィラーとも併用が容易となる。
【0050】
一方、本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒の真球度は0.80以上が好ましく、特に、0.85、さらには0.90が好ましい。ここで、真球度は粒子の短径/粒子の長径により求められ、1に近くなるほど真球に近くなり、流動性が向上する。また真球に近づくことで最密充填モデルに従って、樹脂やグリースに高充填し易くなる。
【0051】
しかし、通常、本発明の対象とする前記粒径を有する顆粒体を得ようとした場合、窒化アルミニウム転化率の上昇に伴って他の粒子との結合や変形が生じ、真球度は低下する傾向があるが、本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒は、原料の多孔質アルミナ顆粒の形状を球状に成形することにより、窒化アルミニウム転化率100%の場合においても、得られる窒化アルミニウム焼結顆粒は高い真球度を維持しているのが特徴である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における各種物性は、下記の方法により測定した。
【0053】
(1)比表面積
比表面積は、BET一点法にて測定を行った。
【0054】
(2)平均粒径
試料をホモジナイザーにて5%ピロリン酸ソーダ水溶液中に分散させ、レーザー回折粒度分布装置(日機装株式会社製MICROTRAC HRA)にて平均粒径(D50)を測定した。
【0055】
(3)窒化アルミニウム転化率
X線回折(CuKα、10〜70°)にて、窒化アルミニウム(AlN)の主要ピーク((100)面に由来するピーク)と各アルミナ成分(α−アルミナ,θ−アルミナ,γ−アルミナ、δ−アルミナ等)の主要ピークのピーク強度合計の比より検量線法を用いて求めた(式(1))。
【0056】
【数1】

【0057】
各アルミナ成分の主要ピークの例
α−アルミナ:(113)面に由来するピーク
γ−アルミナ:(400)面に由来するピーク
θ−アルミナ:(403)面に由来するピーク
δ−アルミナ:(046)面に由来するピーク。
【0058】
(4)真球度
電子顕微鏡の写真像から、任意の粒子100個を選んで、スケールを用いて粒子像の長径(DL)と短径(DS)を測定し、その比(DS/DL)の平均値を真球度とした。
【0059】
(5)細孔径分布
細孔分布測定装置(マイクッロメリティックス社製、オートポアIV9510
(商社名))による水銀圧入法を用いて、窒化アルミニウム粉末の細孔径分布を求めた。
【0060】
(6)シリコーンゴムシートの熱伝導率
熱伝導性シリコーンゴム組成物を10cm×6cm、厚さ3mmの大きさに成形し150℃の熱風循環式オーブン中で1時間加熱して硬化し、これを熱伝導率測定装置(京都電子(株)製QTM−500)を用いて熱伝導率を測定した。なお検出部からの漏電防止のため、厚さ10μmのポリ塩化ビニリデンフイルムを介して測定した。
【0061】
実施例1
多孔質アルミナ顆粒として、平均粒径63μm、比表面積164m/gの顆粒状ベーマイトを空気流通下1200℃で5時間熱処理してα−アルミナ化したものを使用した。上記球状の多孔質アルミナ顆粒280gとカーボンブラック140gを混合した後、カーボン製容器に充填し、抵抗加熱式雰囲気炉装置内で、窒素流通下、焼成温度を1600℃として5時間焼成した(還元窒化工程)。
【0062】
その後、同一装置内で、焼成温度を昇温して1750℃として5時間焼成した(焼結工程)。次いで、空気流通下680℃で8時間酸化処理を行って窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。
【0063】
得られた窒化アルミニウム焼結顆粒を前述の方法にて、平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
さらに、得られた窒化アルミニウム焼結顆粒450重量部、ミゼラブル型シリコーン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製TSE201)100重量部、離型剤0.5重量部を加圧ニーダーにて混練した。次いで、混練物を冷却した後にロールを用いて架橋剤0.5重量部と混合後、180℃で15分間加圧プレスして縦10cm、横6cm、厚さ3mmのシートを得た。得られたシートは前述の方法にて、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
また、還元窒化工程後の多孔質窒化アルミニウム顆粒の粒子状態を確認するため、上記実施例と同様の条件で、還元窒化工程を実施した時点で焼成を止め、得られる多孔質窒化アルミニウム顆粒について、比表面積、窒化アルミニウム転化率を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
尚、上記測定は、共存するカーボン粉末を除去するための酸化処理後に行った。
【0067】
実施例2
実施例1において、還元窒化工程における焼成温度を1450℃、焼結工程における焼成温度を1750℃とした以外は同様にして窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布の測定結果を表1に示す。
【0068】
得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様にシートを作成、熱伝導率、硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
実施例2の条件で得られた窒化アルミニウム焼結顆粒を走査電子顕微鏡で観察した写真を図1、図2に示す。図1から理解されるように、球状の窒化アルミニウム焼結顆粒が得られている。また、図2から理解できるように、顆粒を構成する窒化アルミニウム結晶粒子の緻密化が進行し、細孔のない緻密な窒化アルミニウム粒子が得られている。
【0070】
また、還元窒化工程後の多孔質窒化アルミニウム顆粒の粒子状態を確認するため、上記実施例と同様の条件で、還元窒化工程を実施した時点で焼成を止め、得られる多孔質窒化アルミニウム顆粒について、比表面積、窒化アルミニウム転化率を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
尚、上記測定は、共存するカーボン粉末を除去するための酸化処理後に行った。
【0072】
実施例3
多孔質アルミナ顆粒として、平均粒径40μm、比表面積135m/gの顆粒状ベーマイトを使用し、該多孔質アルミナ顆粒280gとカーボンブラック140gを混合した。次いで、上記混合粉末をカーボン製容器に充填し、抵抗加熱式雰囲気炉装置内で、窒素流通下焼成温度を1450℃として5時間焼成して還元窒化工程を実施した後、昇温して焼成温度を1750℃として5時間焼成することにより焼結工程を実施した。その後、空気流通下680℃で8時間酸化処理を行って窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒を前述の方法にて、平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
さらに得られた窒化アルミニウム焼結顆粒は、実施例1と同様にしてシートを作成、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
また、還元窒化工程後の多孔質窒化アルミニウム顆粒の粒子状態を確認するため、上記実施例と同様の条件で、還元窒化工程を実施した時点で焼成を止め、得られる多孔質窒化アルミニウム顆粒について、比表面積、窒化アルミニウム転化率を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
尚、上記測定は、共存するカーボン粉末を除去するための酸化処理後に行った。
【0076】
【表1】

【0077】
比較例1
実施例1において、還元窒化工程、焼成工程を通して、焼成温度を1450℃として5時間焼成した以外は同様にして窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布の測定結果を表2に示す。
【0078】
得られた窒化アルミニウム焼結顆粒は、実施例1と同様にシートを作成、熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
比較例2
実施例1において、還元窒化工程の焼成温度を1450℃、焼結温度を1550℃とした以外は同様にして窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布の測定結果を表2に示す。
【0080】
得られた窒化アルミニウム焼結顆粒は、実施例1と同様にシートを作成、熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0081】
比較例3
実施例1において、還元窒化工程、焼成工程を通して、焼成温度を1800℃として10時間焼成した以外は同様にして窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布の測定結果を表2に示す。
【0082】
得られた窒化アルミニウム焼結顆粒は、実施例1と同様にシートを作成、熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例4
ベーマイト粉末100重量部に対し、酸化イットリウム5重量部、トルエン溶媒100重量部、メタクリル酸ブチル5重量部、ヘキサグリセリンモノオレート2重量部を加えてボールミルで5時間混合し、得られたスラリーをスプレードライにより噴霧乾燥して平均粒径50μmの顆粒を得た。得られた顆粒を空気流通下1200℃で5時間熱処理してα−アルミナ化して多孔質アルミナ顆粒を得た。
【0085】
得られた多孔質アルミナ顆粒280gとカーボンブラック140gとを混合した後、窒素流通下、還元窒化工程、焼成工程を通して、焼成温度を1600℃として、10時間焼成し、次いで、空気流通下680℃で8時間酸化処理を行って窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒を前述の方法にて、平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布を測定した。結果を表3に示す。
【0086】
さらに得られた窒化アルミニウム焼結顆粒は、実施例1と同様にしてシートを作成、熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。
【0087】
実施例5
酸化イットリウムに代わり炭酸カルシウムを5重量部添加した以外には実施例4と同様にして窒化アルミニウム焼結顆粒を得た。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の平均粒径及び比表面積、窒化アルミニウム転化率、真球度、細孔径分布の測定結果を表3に示す。得られた窒化アルミニウム焼結顆粒は、実施例1と同様にシートを作成、熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明で得られる球状窒化アルミニウム焼結顆粒は、フィラーに適した形状、粒径を有していることから、樹脂やグリースに高充填することができ、熱伝導率の高い放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤等を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質アルミナ顆粒を1400℃以上、1700℃以下の温度で還元窒化して多孔質窒化アルミニウム顆粒とする還元窒化工程と、上記還元窒化工程において得られた多孔質窒化アルミニウム顆粒を、1580℃以上、1900℃以下で焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする窒化アルミニウム顆粒の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質アルミナ顆粒の平均粒径が10〜200μm、BET比表面積が2〜250cm/gである、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法。
【請求項3】
前記還元窒化工程及び焼結工程を、多孔質アルミナ顆粒及び多孔質窒化アルミニウム顆粒にカーボン粉末を混合した状態で行う、請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法。
【請求項4】
前記還元窒化工程と焼結工程とを連続して行う、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法。
【請求項5】
得られる窒化アルミニウム焼結顆粒が、の平均粒径10〜200μm、BET比表面積が0.05〜0.5cm/gである、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により得られる窒化アルミニウム焼結顆粒よりなることを特徴とする放熱材料用フィラー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87042(P2013−87042A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231932(P2011−231932)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】