説明

窒化チタン粉末の調製方法

【課題】ナノサイズの窒化チタン粉末を対費用効果の高い方法で調整する方法を提供する。
【解決手段】窒化チタン粉末は、以下の工程により得られる。(S10)三塩化チタン粉末と窒化リチウムの粉末を混合すること、(S20)混合粉末を複数のボールと一緒に反応容器中に置くこと、(S30)反応容器を不活性ガスで満たし、次いで封止すること、(S40)混合粉末を、高エネルギーボールミル粉砕にかけ、窒化チタンと塩化リチウムの混合粉末を生成すること、(S50)混合粉末を水に分散し、ろ過により不溶物を分離すること、(S60)そして、不溶物を乾燥すること。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の分野
本発明は、ナノサイズの窒化チタン粉末を対費用効果の高い方法で調製するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
窒化チタン(TiN)は、良好な耐摩耗性、良好な耐高温酸化性、高い高温強度及び高弾性率を有し、したがって、切削工具、防弾材料及び耐摩耗並びに耐熱性被覆の製造のために広範に使用される。窒化チタンの結晶サイズが細かくなればなるほど、焼結窒化チタン製品の硬度及び靭性はより良好となる。
【0003】
窒化チタン粉末は、チタンと気体状窒素とを1000℃以上の高温度で長時間反応させることにより、一般的に合成される。
【0004】
しかしながら、この方法は、高温反応のための高価な設備を必要とするという、また、粒径成長を促進する高温反応はナノサイズの窒化チタン粉末の調製には適さないという問題によって、妨害されている。
【0005】
発明の概要
したがって、ナノサイズの窒化チタン粉末の調製のための効率的で単純な方法を提供することが本発明の目的である。
【0006】
本発明の1つの面によれば、三塩化チタンと窒化リチウムの混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、気密反応容器中で複数のボールを使用するボールミル粉砕にかけ、窒化チタンと塩化リチウムの複合粉末を生成し、そこから、窒化チタン粉末を回収することを含む、窒化(TiN)チタン粉末の調製方法が提供される。
【0007】
本発明の上記及び他の目的と特徴は、添付する図面と組み合わせて、以下の本発明の説明から明らかとなるだろう。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明の方法は、(1)三塩化チタン(TiCl)と窒化リチウム(LiN)の混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、気密反応容器中で複数のボールを使用する高エネルギーボールミル粉砕にかけ、複合粉末を生成すること、(2)複合粉末から、所望の窒化チタン(TiN)粉末を回収することを含む。窒化チタン粉末を調製するための本発明のプロセスの模式図は、図1に示される。
【0009】
図1を参照すると、窒化チタン粉末は、以下の工程により得られる:三塩化チタン粉末と窒化リチウムの粉末を混合すること(S10);混合粉末を複数のボールと一緒に反応容器中に置くこと(S20);反応容器を不活性ガスで満たし、次いで封止すること(S30);混合粉末を、高エネルギーボールミル粉砕にかけ、窒化チタンと塩化リチウムの複合粉末を生成すること(S40);複合粉末を水に分散し、ろ過により不溶物を分離すること(S50);そして、不溶物を乾燥すること(S60)。
【0010】
以下、上記工程が、詳細に説明されるだろう。
【0011】
(S10)工程において、三塩化チタン粉末と窒化リチウムの粉末は、好ましくは1:1のモル比で混合されるが、これは、反応式[TiCl+LiN→TiN+3LiCl]に基づく化学量論比に対応している。
【0012】
ついで、(S20)工程において、(S10)工程で生成された混合粉末は、複数のボールと一緒に反応容器中に置かれる。反応容器の内部壁とボールは、工具鋼、ステンレス鋼、超硬合金(WC-Co)、窒化珪素(Si)、アルミナ若しくはジルコニアから作成されてもよい。ボールは、5〜30mmの範囲の直径を有し得るし、ボールは、混合粉末1gに基づき1〜30gの範囲の量で使用され得る。
【0013】
(S30)工程において、反応容器は、不活性ガスで満たされ、次いで封止される。引き続く高エネルギーボールミル粉砕による爆発と酸化を防止するために機能する不活性ガスは、アルゴン、水素、窒素若しくはそれらの混合物であり得る。
【0014】
(S40)工程において、混合粉末は、高エネルギーボールミル粉砕にかけられ、複合粉末を生成するが、ここで、高エネルギーボールミル粉砕は、シェーカーミル、振動ミル、遊星ミル若しくはアトライターミルを使用してなされ得る。高エネルギーボールミル粉砕は、混合粉末間で機械的化学的反応を生じ、それにより、三塩化チタンと窒化リチウムの混合粉末間の相互作用を引き起こし、窒化チタンと塩化リチウム粉末から成る複合粉末を生成する。
【0015】
混合粉末とボールの重量比1:1〜30が、より効率的な高エネルギーボールミル粉砕をもたらす。ボールの重量比が、1より小さいと、ボールミル粉砕の強度が弱く、所望の化学反応を達成することができない。加えて、それが30以上であると、反応容器の内部壁若しくはボールの一部が、高強度ボールミル粉砕に基づく汚染物として混合粉末中に組み込まれ得る。
【0016】
高エネルギーボールミル粉砕は、1〜10時間行われてもよい。ボールミル粉砕時間が、1時間未満であると、三塩化チタンと窒化リチウム粉末との間の反応が不満足である。逆に、それが10時間を超えると、反応容器の内部壁若しくはボールの一部が、混合粉末中に組み込まれ得る。
【0017】
ボールミル粉砕の終了後、封止された反応容器は、反応中に生成した気体状水素を放出するために開放され、複合粉末が引き出される。
【0018】
(S50)工程において、窒化チタンと塩化リチウム粉末とから成る複合粉末は、水に分散されるが、塩化リチウム粉末は完全に水に溶解し、窒化チタン粉末は、水に溶解せず、そこに固形物として存在する。引き続き、得られた分散物はろ過を受け、それにより不溶物である窒化チタン粉末を分離する。
【0019】
(S60)工程において、窒化チタン粉末は、不溶物を乾燥することにより回収される。乾燥プロセスは、不溶物を約100℃で2〜3時間加熱することにより、または、それを真空室に保管することによりなされ得る。
【0020】
このようにして得られた本発明の窒化チタン粉末は、通常のミクロサイズの窒化チタン粉末と比べると、100nm以下の一層小さい粒子サイズを有し得る。このようなナノサイズの本発明の窒化チタン粉末粒子は、窒化チタンの成長を妨げる塩化リチウムの機能とボールミル粉砕による摩砕作用により生じる。本発明の窒化チタン粉末の微細な粒子サイズは、焼結窒化チタン製品の硬度と靭性と共に窒化チタンが触媒として使用される反応の触媒性能をも向上させる。
【0021】
上記のとおり、本発明の方法は、ナノサイズ窒化チタン粉末の単純で経済的な調製のために有利に使用することができる。
【0022】
次の例は、説明の目的だけのものであり、本発明の範囲を制限するつもりはない。
【0023】
例1
三塩化チタン(TiCl)と窒化リチウム(LiN)粉末が、1:1のモル比で混合され、3gの混合粉末を生成した。混合粉末は、125mlの工具鋼製の反応器中に置かれ、19個の直径9.5mmの超硬合金(WC-Co)ボールがそこに加えられた。使用されたボールの合計重量は90gであった。次いで、反応容器はアルゴンで満たされ、封止され、混合粉末は、4時間遊星ミルを使用して、高エネルギーボールミル粉砕を受け、複合粉末を生成した。ボールミル粉砕終了後、封止された反応器は、反応中に生成した気体状水素を放出するために開放され、次いで複合粉末が水に分散された。得られた分散物は、不溶物を分離するためにろ紙を使用してろ過され、不溶物は100℃で2時間、オーブンで乾燥され、窒化チタン(TiN)粉末を得た。
【0024】
ろ過前に得られた複合粉末と、ろ過により回収された窒化チタン粉末のX線の回折(XRD)パターンが、図2(a)及び図2(b)に夫々示される。図2(a)においては、窒化チタンと塩化リチウムのピークが観察され、他方、図2(b)においては、窒化チタンのピークのみが検出され、所望の純粋形態の窒化チタンが、ろ過により複合粉末から分離したことを示している。
【0025】
このようにして得られた単離窒化チタン粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)写真が、図3に示され、粒子形状は不規則であるが、粉末の粒子サイズは、非常に細かく、100nm以下であることを示す。
【0026】
上記のように、本発明の方法に関して、ナノサイズの窒化チタン粉末が簡単に合成され得る。
【0027】
本発明は、上記特定の具体例に関して記載されてきたが、特許請求の範囲により規定される本発明の範囲に入る種々の変形と変化が当業者によりなされてもよいことが認識されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の方法の1つの具体例に関する窒化チタン粉末の調製のための模式的加工図。
【図2】例1で調製された複合粉末(ろ過前)と窒化チタン粉末(ろ過により回収)のX線回折(XRD)パターン。夫々、(a)及び(b)
【図3】例1で調製された窒化チタン粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三塩化チタンと窒化リチウムの混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、気密反応容器中で複数のボールを使用するボールミル粉砕にかけ、窒化チタンと塩化リチウムの複合粉末を生成すること、そこから、窒化チタン粉末を回収することを含む、窒化チタン粉末の調製方法。
【請求項2】
三塩化チタン粉末と窒化リチウムの粉末が、1:1のモル比で混合される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ボールミル粉砕が、シェーカーミル、振動ミル、遊星ミル若しくはアトライターミルを使用して、1〜10時間行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
反応容器の内部壁とボールが、工具鋼、ステンレス鋼、超硬合金、窒化珪素、アルミナ若しくはジルコニアから作製される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ボールが、5〜30mmの範囲の直径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ボールが、混合粉末1gに基づき1〜30gの範囲の量で使用される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
不活性ガスが、アルゴン、水素、窒素若しくはそれらの混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
窒化チタン粉末の回収が、複合粉末を水に分散し、ろ過により不溶物を分離し、不溶物を乾燥することにより行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法により調製された窒化チタン粉末。
【請求項10】
粒径が100nm以下を有する、請求項9記載の窒化チタン粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−215150(P2009−215150A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266657(P2008−266657)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(595001181)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (25)
【Fターム(参考)】